温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

筌の口温泉 新清館 露天風呂「こぶしの湯」

2014年09月24日 | 大分県
 
圧倒的な美しさで多くの入浴客を魅了し続けている筌の口温泉の一軒宿「新清館」。
この日宿泊する予定だった筋湯温泉へ向かう途中に立ち寄ってみました。書籍やネットなどいろんな媒体で、こちらのお宿の露天風呂が紹介されており、一度その景色と同化してみたかったのです。


 
玄関から館内に上がって帳場でブザーを鳴らし、お宿の方を呼び出して直接湯銭を支払います。立ち寄りを快く受け入れてくださいました。ロビーには両替機と並んで、外来入浴客用の有料貸しタオル(100円)が用意されていました。両替機はコインロッカー用でしょうね。それだけ外来入浴が多いのでしょう。


 
露天風呂へは帳場から左へ進んで囲炉裏の部屋を抜け、濡れ縁から屋外に出ます。民芸調の内装で統一された囲炉裏の部屋は休憩室となっており、室内には昔懐かしい瓶のコーラ自販機と並んで、骨董品と思しき立派な箪笥が置かれていました。


 

濡れ縁でツッカケに履き替えて(ここにロッカーがあります)、木漏れ日が斑をなして照らしている雑木林の歩道を進んでゆくと、まもなく分岐にさしかかり、道標によれば、左へ向かうと女性専用の「かえでの湯」、右に折れれば混浴の「こぶしの湯」となるんだそうですが、男である私は右以外に選択肢はありませんから、ここを右へと進みました。余談ですが、この道標で書かれている字体って、九州の温泉地ではよく見かけます。とりわけ黒川温泉の成功以来、目立って増えているように思われるのですが、九州にはこの手の看板を得意とする職人さんでもいらっしゃるのでしょうか。


 
クヌギ林の中でひっそりと佇む瓦屋根の木造建築は「こぶしの湯」の脱衣小屋。全体的にこげ茶色に塗られており、先程の囲炉裏部屋にも共通するシックな和のテイストなのですが、造りは至ってシンプルで、裸電球ひとつだけが天井からぶら下がっている室内には、棚と籠が用意されているばかりです。ここって混浴なはずですが、この脱衣小屋は男女別に分かれていないため、男だったらともかく、女性ですとちょっと度胸が要るかもしれません。でもこまめに清掃されているのか、小屋内はとっても綺麗です。


 
おおっ! これがグラビアで何度も見て憧れた露天風呂か! まるで庭園の池を思わせる大きな露天風呂には、金気を含む山吹色のお湯が張られ、周囲を山の緑がやさしく包み込んでいます。そして木々の間から青い空が覗くと同時に、木漏れ日がスポットライトのように湯面を穏やかに照らしていました。息を呑む美しさです。とりわけ、木々の緑と湯船の黄色が補色の関係となっているため、色彩美が非常に際立っていました。



露天の最奥にある湯口からはお湯がドバドバ大量に投入されており、吐出されるお湯を手で受けようとすると、あまりの勢いの強さに、手のひらでお湯が全て弾かれてしまい、ちっとも掬うことができませんでした。注がれるお湯の量と勢いが想像いただけるかと思います。


 
脱衣小屋の傍には源泉が注がれている蹲居があり、ボディーソープ類が備え付けられているので、ここで体を洗うことができます。蹲居の表面には温泉成分の析出が分厚くコンモリおびりついており、お湯の濃さがビジュアル的に伝わってきました。



反対側には水の蹲居もあり、冷たく清らかな水が筧よりチョロチョロと落とされていました。


 
浴槽は岩風呂なのですが、槽内はコンクリでコーティングされており、これによって槽内形状を整えているようでした。また部分的に浅くなっている箇所もあり、そこでは岩肌がむき出しになっていました。浴槽縁の岩の表面にはサンゴのようにトゲトゲとした細かな突起状の析出がビッシリと付着しており、湯面のライン上では析出が庇状になっていました。



露天風呂の一部には屋根がかけられており、薄暗く落ち着いた環境でじっくりと湯浴みすることもできます。あいにくの天候の時も、この下でしたら湯浴みできますね。屋根下は浅くなっており、縁の岩を枕にして寝湯にすると、良い感じに体がフィットしてくれました。



ラッキーなことに、今回の訪問時には誰もおらず、私一人で終始独占できましたので、気兼ねなくのんびりじっくい湯浴みさせていただきました。景色としての美しさや、自然の色彩美はもちろん、露天の傍を沢が流れており、そのせせらぎと小鳥の囀りが心地よいBGMとなっていたため、文句のつけようがない素晴らしいひと時が過ごせました。

ちなみにお湯に関してですが、やや橙色や翠色を伴う山吹色に濁っており、浅いところでも底が見えないほど強い濁りを呈しています。九州で例えるならば鹿児島県の妙見・安楽・塩浸といった新川渓谷温泉郷でよく見られる重炭酸土類泉と同系のお湯でして、具体的にはギッシギシの引っかかる浴感に、甘塩味+炭酸味+金気+土気+石膏甘味、そして金気臭が感じられました。分析表によれば遊離炭酸ガスは750.0mgも含まれているんだそうですが、炭酸味は明瞭に感じ取れたものの、お湯の温度が高いためか、湯中における泡付きなどは確認できませんでした。
とはいえ惜しげも無く贅沢に源泉を大量投入&掛け流しているため、お湯の鮮度は素晴らしく、このお湯に入れただけでも十分に満足できました。
こちらのお宿には露天の他に、男女別の内湯もあるんだそうですが、今回は内湯に入っておりませんので、そちらは次回宿泊した時のお楽しみにしておくことにします。


ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩・硫酸塩温泉 48.8℃ pH6.6 湧出量測定せず(掘削自噴・55m) 溶存物質2.809g/kg 成分総計3.559g/kg
Na+:290.0mg(37.14mval%), Mg++:120.0g(29.07mval%), Ca++:192.9mg(28.22mval%),
Cl-:242.0mg(18.94mval%), SO4--:420.0g(24.24mval%), HCO3-:1249.0mg(56.77mval%),
H2SiO3:211.1mg, CO2:750.0mg,

久大本線・豊後森駅もしくは豊後中村駅より日田バスの牧の戸峠行もしくは九重登山口行で「筌の口(大吊橋前)」バス停下車、徒歩4分(400m)
大分県玖珠郡九重町大字田野1427-1  地図
09737-9-2131
ホームページ

日帰り入浴7:30~23:00
500円
ロッカー(100円)・シャンプー類あり、

私の好み:★★★
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玖珠温泉 北乃園温泉

2014年09月23日 | 大分県
 
鄙び系の共同浴場が好きな温泉ファンから絶賛されている玖珠町の「北乃園温泉」へ行ってまいりました。玖珠消防署付近から国道210号より1本南側の裏へ入った路地沿いにあるのですが、ネット上で皆さんが仰られているように、確かに予め場所がわかっている方以外には見つけにくい立地でして、路地には上画像のような看板が立っているのですが、初めのうちはそれに気づかず通りすぎてしまい、何度かその界隈をウロウロしている内にようやく看板の存在に気付きました。看板の矢印に従ってアパートの駐車場を入ってゆくのですが、いつも湯めぐりしていてもアパートの敷地内に入り込んでいく機会なんて滅多にありませんから、本当に入って良いのかちょっと躊躇してしまいました。


 
今回の訪問に際して参考にしたサイトの一つに「九州八十八湯めぐり」があり(私は参加していませんが…)、そこには湯屋に関して「仮設風」と紹介されているのですが、駐車場の奥に佇む実物を目にして、「なるほど、言い得て妙だ」と納得してしまいました。木目調のトタン板で囲われた木造の渋い佇まいは、湯屋というより納屋に近いものがあり、一般の方ですと利用を躊躇ってしまうかもしれませんが、寧ろそれだからこそマニアの心はくすぐられてしまいます。湯屋の周りには車3台分の駐車スペースがあり、訪問時は全て空いていましたので、レンタカーの軽自動車を停めやすいところに駐車させていただきました。なお他の駐車スペースはアパート居住者用ですから、空いているからと言って勝手に使わないよう要注意です。
ちなみに、辻向いの邸宅には大きな貯湯タンクがあるのですが、おそらくそこがオーナー宅であり源泉地でもあるかと思われます。


 
 
前回取り上げた「ひまわりの湯」と同様、こちらも九州の温泉共同浴場に多く見られる無人の施設でして、庇の下にはカウンターが設けられており、湯銭はこの一角に設置されている賽銭箱へ納めます。またカウンターにはチラシ類のほか「九州八十八湯めぐり」のスタンプも用意されていました。温泉を愛する多士済々がスタンプを集めるべくここへやってきているのでしょう。更には、常連さんがお風呂道具を置いておくためのネーム札(木札)も用意されていました。生活臭が漂う温泉って魅力的ですね。


 
入口は男女別に分かれており、男湯は庇の奥の方にあるのですが、扉を開けた瞬間、思わず「狭ぇーッ」と口にしてしまいました。別府の共同浴場みたいに脱衣室と浴室が一体化しているわけではなく、ちゃんとセパレートされているのですが、その床面積たるや1.5~2畳程度しかなく、1人でも先客がいればもういっぱい、外で空くのを待つほかありません。そんな狭さのためか、括り付けの棚に用意されているカゴは5つしか無いのですが、それ以上用意しても施設として受け入れるキャパが無いので、5つでちょうど良いんですね。でも狭い空間ながら、壁には扇風機が取り付けられており、湯上がりにしっかりクールダウンできるのが有り難いところです。


 
浴室の戸を開けると、温泉から放たれるミシン油のような芳しい匂いが香ってきました。室内は床も浴槽もコンクリ打ちっぱなしで、外観の渋さに見合ったシンプルな造りなのですが、それでは温泉風情に欠けると判断されたのか、壁には竹垣のような装飾が施されている他、床には化粧と滑り止めを兼ねた小石が埋め込まれていました。洗い場にはシャワー付き混合水栓が1基、そして水とお湯の単水栓のセットが1組、計2箇所が横に並んでいます。


 
窓からの陽光を受けて真鍮色に輝く湯船は3~4人サイズで、洗い場の床と同様にこちらもコンクリ打ちっぱなしながら小石が埋め込まれており、長年にわたって温泉成分がこびりつくことによって槽全体が黄土色に薄っすらと着色されているようでした。また浴槽の上は模造の竹垣で男女が仕切られていますが、槽自体は女湯と一体になっており、男女双方から仕切りの下へ手を伸ばせば簡単に握手出来ちゃいます。

トゲトゲ状の析出がこびりついている湯口のパイプから、トポトポと音を立てながらお湯が注がれており、湯船を満たしたお湯は縁から絶え間なく溢れ出ていました。加水加温循環消毒など一切ない、純然たる掛け流しです。お湯は薄い黄土色を帯びており、湯口のそばに置かれていたホーローのコップでテイスティングしてみますと、微かな塩味ととも薄い金気味や重曹的なほろ苦みが感じられました。また上述のように、お湯から漂うミシン油のような香りが室内に充満していました。
重曹の他にメタケイ酸が多く含まれているためか、湯船に入った時に肌へ伝わるツルツルスベスベの浴感が実に気持ち良く、ツルスベの強さは美人の湯と称したくなるほどです。湯上がりの粗熱の抜けも良好でして、あまりの浴感の良さに後ろ髪が引かれ、この時の私は一旦お風呂から出たにもかかわらず、気づけば再び湯船へ戻っていました。

鄙びた渋い佇まいもさることながら、芳香漂う完全掛け流しのお湯に浸かった際の、極上の浴感が実に素晴らしく、こんな温泉に頻繁に入れたらさぞ幸せな日々が送れるだろうなと、ご近所の方に羨望の念を抱かずにはいられませんでした。九州の温泉愛好会が絶賛するのも頷けます。温泉ファンが理想とするあらゆるファクターを兼ね備えている、ブリリアントな共同浴場でした。


北園温泉
ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 51.9℃ pH7.5 59L/min(動力揚湯・600m) 溶存物質2.490g/kg 成分総計2.580g/kg
Na+532.0mg(84.59mval%), NH4+:20.0mg, Ca++:17.6mg, Fe++:2.8mg,
Cl-:474.0mg(41.88mval%), Br-:1.1mg, HCO3-:1130.0mg(58.01mval%),
H2SiO3:241.0mg, CO2:90.2mg,
加水加温循環消毒なし

JR久大本線・豊後森駅より宝泉寺方面へ行くバス(玖珠観光バス)で「上長野」バス停下車、徒歩4分(300m)
(時刻表などは大分交通のHPを参照)
大分県玖珠郡玖珠町大字大隈字小坪231-1  地図
0973-72-0284

10:00~22:00
200円
備品類なし

私の好み:★★★
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アサダ温泉 ひまわりの湯

2014年09月22日 | 大分県
今回から連続して大分県の中西部にある玖珠町や九重町の温泉を湯めぐってまいります。


 
玖珠町の中央部にある玖珠記念病院の裏手、長野交差点から国道210号線の脇道に入ってすぐのところに、コインランドリー「ひまわり」があり、同じ敷地内の駐車場を挟んだ向かいにはコイン精米機がたくさん並んでいます。まずはこの両施設の間を入ってゆきます。


 
コインランドリーの端っこには足湯が設けられていました。無料開放されていますので、洗濯が終わるまでこの足湯で時間を潰すのも良いかもしれませんね。



敷地は奥へ長く伸びていますので、看板に従って私道の路地を先の方へ進んでゆくと・・・


 
道の突きあたりにアパートがあり、その駐車場の一角にこぢんまりとした湯屋が1軒建っていました。ここが今回の目的地である民営の公衆浴場「アサダ温泉ひまわりの湯」です。湯屋内にトイレはありませんので、用を足したい場合には、アパートの隣にある離れのトイレを使うことになります。なお温泉名のアサダとはオーナーさんのお名前(及び運営している法人名)に由来しているようです。


 
九州の温泉公衆浴場は無人の施設が多く見られますが、こちらもやはり無人でして、男女別に分かれた入口の間に立っている券売機で料金を支払い、発券された入浴券を券売機に括り付けられている入浴券回収箱に投入します。


 
脱衣室はウッディーな内装で、床はフローリングです。室内には洗面台が1台取り付けられている他、扇風機やエアコンまで用意されており、また緊急連絡用のインターホンも設置されていました。また、無人にもかかわらず清掃が行き届いており、整っている備品類のおかげもあって、気持ち良く使えました。


 
浴室は決して広くないものの、室内に用いられている木材や石によって、落ち着いた雰囲気や重厚感が醸し出されており、静かでしっとりとした大人の空間となっていました。街中の小さな無人公衆浴場でありながら、清閑な趣きを放っているとは驚きです。
黒い石板タイルが敷かれている洗い場にはシャワー付き混合水栓が1基取り付けられており、公衆浴場にもかかわらずシャンプー類が完備されています。脱衣室といいこの洗い場といい、設備や備品など、無人の公衆浴場であるとは信じられないほど充実していますね。


 
湯口から注がれるお湯は無色透明で、湯中では薄茶色の微細な浮遊物がたくさん舞っているほか、茶色い消しゴム屑のような浮遊物もチラホラ見受けられます。お湯を口にするとほぼ無臭で、わずかにゴムっぽい風味、そして清涼感を伴うほろ苦みが感じられました。数値的には溶存物質300mg/kg程度のかなり薄いお湯であるはずですが、重曹的な知覚がしっかりと現れていたのが面白い点です。
面白いといえば、湯口の上には「お湯のレバーを当った方へ」と題された札が立てかけられており、その内容は、湯口のバルブを操作した場合は元の位置に戻しておいて、といったものなのですが、レバーを当たるという表現は私が生まれ育った関東圏では使いませんから、おそらく当地の方言なのかと思われます。現地の文化に触れられるのも、公衆浴場ならではの魅力ですね。


 
浴槽は総木造でおおよそ4人サイズ。湯船に張られたお湯は切り欠けから排湯されているのですが、これ以外に湯口付近の縁からも溢れ出ていました。加水用の蛇口が設けられていますが、訪問時は加水されておらず、100%完全掛け流しでして、それにもかかわらず実に入りやすい湯加減となっていました。

湯船に体を沈ませると、木ならではの優しい肌触りが心地よく、またお湯自体には弱いサラスベ浴感があって、湯中ではフワっと軽い感覚に優しく包まれます。木の柔らかな肌触りとお湯の良さと相俟って、腰を底へ付けて肩までお湯に浸かった瞬間、ついフゥーっとため息が漏れてしまいました。室内には湯口から湯船へ注がれるお湯の音が響くばかり。わずか300円なのに、ここで得られた寛ぎは実に上質で、高級旅館も顔負けでした。もちろんお湯の質もよろしく、且つ上品でして、湯上がりはしっかり温まりますし、それでいて嫌な熱の篭りもありません。

温泉天国の大分県ならではの、無人ながらも素敵で品の良い公衆浴場でした。


単純温泉 湧出温度およびpH記載なし
Na+:56.5mg(69.66mval%), Ca++:10.2mg(14.43mval%),
Cl-:21.7mg(15.96mval%), HCO3-:195.0mg(83.35mval%),
加温加水循環消毒なし

久大本線・豊後森駅より徒歩20分(約1.7km)
大分県玖珠郡玖珠町大字塚脇440-2  地図

10:00~22:00
300円
シャンプー類あり、ロッカー・ドライヤーなし

私の好み:★★★
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行義路温泉 山之林spa温泉餐庁

2014年09月20日 | 台湾
 
前回取り上げた龍鳳谷のすぐ南に位置している行義路温泉には多くの入浴施設があり、拙ブログでも何度か紹介しておりますが、そこで使われるお湯の多くは龍鳳谷の温泉露頭(源泉地帯)から引いていますので、源泉でお湯が湧く姿を見た私としては、何としてでもその「白磺泉」に入りたい。そこで今回選んだのは・・・


 
温泉街の北側(つまり龍鳳谷に近い位置)にある「山之林spa温泉餐庁」です。たくさんのお店がある行義路温泉の中でなぜここを選んだかと言えば、特にこれといった理由はなく、単純に龍鳳谷から歩いて近いところにあり、且つ営業中であることをわかりやすくアピールしていたからに過ぎません。この時は炎天下の中を歩き続けて草臥れてしまい、一刻も早くどこか建物の中に入って休憩したかったのです。

駐車場を通り抜けて入口ゲートを潜り、階段を下った先にある受付にて料金を支払います。入浴料金は250元なのですが、併設されているレストランで400元以上オーダーすれば、入浴券1枚をサービスで進呈してくれます。この「レストランで400元以上使えば入浴サービス」というシステムは、行義路温泉の多くの施設で共通しており、当地独特の商慣習と言えるでしょう。レストランと一体化した日帰り温泉というのが、行義路温泉の大きな特徴です。でも私のように一人で行動する者にとって、食事で400元を費やすのは結構大変ですから、今回は食事をせず入浴のみの利用としました。


 
受付で料金と引き換えに渡してくれる券を手にしながら食堂の脇を抜け、その先にある浴場専用のカウンターで券を提出し、カウンターのすぐ奥にある入口より浴室へと入ります。更衣ゾーンは綺麗でメンテナンスが行き届いており、片側にコインロッカーがズラリと並び、反対側に冷水機・化粧台・洗面台などが配置されています。土足ゾーンと裸足ゾーンが画然と分けられていますし、ロッカーの数も多く、室内空間にも余裕があるので、快適に着替えることができました。なお男女別のお風呂ですので裸で入浴します。行義路温泉の各施設は、裸で入れるお風呂が多いという点でも共通していますね。



更衣スペースの前方右側に洗い場が配置されています。シャワー付き混合水栓が5基並んでおり、お湯のハンドルを開けると温泉が出てきました。


 
お風呂は露天風呂のみですが、目の前に川が流れて周囲に山の緑が広がる自然豊かなロケーションはとても清々しく、また台湾の温泉にありがちなBGMなどは流れておらず、聞こえてくるのは川のせせらぎと鳥の囀りですので、余計なものに邪魔されずゆっくりと寛げました。また温泉街の端っこに位置しているため、他の施設などの人工物が視界に入ってこず、まるで山奥に滞在しているかのような感覚が味わえました。

この露天風呂には温度や機能が異なる浴槽がいくつかあるので、好みに応じた湯浴みが楽しめます。頭上を覆う日除けの黄色いテントがちょっとダサいのですが、それに目を瞑れば私的には十分合格です。中央に据えられている上画像の浴槽は大小の2つに分割されており、小さな方は4.5メートル四方で、44~5℃近い高温設定となっています。槽の中央には島のような吐出口が突き出ており、てっきり温泉が供給されているものと思いきや、そこから流れているのは単なる冷水でして、温泉は浴槽縁の「高温注意」と書かれた札がある辺りから槽内投入されていました。一方、その隣の大きな槽は大体4.5m×7mで、小さな高温槽からのお湯を受けている他、この槽でも源泉の槽内投入が行われており、私の体感で42℃前後というとても入りやすい湯加減となっていました。加水は行われているものの、放流式の湯使いかと思われます。


 
上述の主浴槽を取り囲むように、水風呂・足つぼ刺激ゾーン(床に足つぼを刺激する小石がたくさん敷き詰められている)・打たせ湯などが設けられており、主浴槽で火照った後に水風呂へ入ると、非常に気持ちよく、私は何度も主浴槽と水風呂を往復してしまいました。

主浴槽の崖側には2種類の打たせ湯(台湾では沖撃湯といいます)があり、ひとつは頭上から垂直にお湯が落とされるタイプのもので、巨大なシャワーヘッドのような吐出口が4つほど取り付けられています。もうひとつはアヒル口のような吐出口から斜めに噴射されるタイプで、台湾の打たせ湯らしく、その勢いは大変強力です。いずれもスイッチボタンを押すことによって作動します。上画像は後者を稼動されている様子です。打たせ湯でも温泉を使っているのが嬉しいところです。

上述のようにお湯は龍鳳谷の源泉から引いている「白磺泉」でして、湯船では綺麗な乳白色を呈して濁っており、酸味とともに粉っぽい味も感じられます。硫黄感、とりわけ匂いがとても強く、私はこの後に松山空港から帰国したのですが、機内はもちろん、帰国後もしばらくの間、私の体からはイオウ臭が放たれ続けました。湯中ではキシキシとした引っかかる浴感があり、湯上がりは全身にパウダーを塗りこんだような感覚とともに、硫黄の濃さゆえか、ベタつきも残りました。
入浴中は湯守りのおじさんがこまめに湯加減をチェックし、お客さんに温度の好みを聞きながら、その都度裏へ回って引湯管のコックを開閉して、投入量を調整していました。ちゃんとしている施設なのであります。

こちらでは露天風呂のほか貸切風呂もあり、こちらも250元で利用できるのですが、安全面を考慮して2人1室での利用となっているそうですので、一人客の場合は利用できるかどうか…。
青い空・山の緑・白濁の露天風呂というトリコロールがとても美しかったこの露天風呂。何も考えずにこちらを選んだのですが、結果的に正解でした。日本のように裸で入浴できるのも嬉しいですね。


MRT石牌駅より508番・535番・536番・小8番バスで「行義路四」バス停下車、徒歩3分
台北市北投区行義路402巷15号  地図
02-2872-4598
ホームページ

11:00~翌2:00
入浴のみ250元(レストランで400元以上注文すれば入浴券1枚サービス)
ロッカー(有料20元)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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媽祖窟温泉や龍鳳谷温泉露頭を散策

2014年09月19日 | 台湾
前回記事までヘビー級の温泉が続きましたので、ここで小休止をすべく、入浴という行為からちょっと離れて、龍鳳谷周辺を散歩してみました。


●媽祖窟温泉公共浴室
 
前回記事で訪れた「羅漢窟温泉公共浴室」の近くには、兄弟的な存在である「媽祖窟温泉公共浴室」がありますので、どんなところか見学しに行ってみました。「龍鳳谷」バス停から泉源路を惇叙工商方向へちょっと戻ると、電柱やコンクリブロックにゼブラ模様が塗装された箇所があり、その先に階段が設けられていますので、まずはここを下ります。看板も何もないので、多くの方はここを気付かずに通りすぎてしまうでしょう。


 
長くて急な階段を下って谷底へ。私の先をお爺さんが下っていましたが、行って帰る際には登らなければならないわけで、足腰が衰えている老人にとってこの急な階段の昇り降りは相当なご苦労ではないかと思われます。


 
谷底を流れているのは、羅漢窟温泉の横を流れていた川でして、水はやはり白く濁っており、川岸には無数黒いホースがウネウネと這わされています。橋で川を渡って対岸の歩道へと進みます。画像ではわかりにくいのですが、茂みの中に隠れるようにして、民家がポツンポツンと建っており、谷底の歩道でも近隣住民と思しき何人かと行き違いました。これらの家で生活する方々は必然的に谷の上と底を往復しなきゃいけないわけですが、いくら住めば都とは言え、私だったらその苦労に音を上げて、どこかへ引っ越してしまいそうです。


 
歩道を進んでゆくと、やがて上画像の施設の前を通過します。おそらくここは以前に温泉の個室風呂を営んでいたものと思われますが、個室の扉や窓が部分的に破けており、とても現役で営業しているような気配は感じられません。尤も知本温泉のお寺のように、台湾ではボロボロな建物でも入浴を受け付ける施設がありますから、見た目では判断できず、実際に訪ってみようと敷地内へ踏み入れようとしたのですが、その瞬間に入口でじっと伏せながら哨戒していた数匹の番犬がいきなり吠えて威嚇しはじめたので、それ以上入ることはできずに、仕方なくその場を去ることにしました。


 
その先には、歩道に面して上画像のような食堂兼売店が店を開いていたのですが、とても営業中とは思えないほど雑然としており、立ち寄り難い雰囲気があったので、足早にその場を過ぎ去りました。なお店頭には「温泉がないので入浴できません」という旨の札が下げられていたのですが、これって即ち、ここで入浴できるか尋ねてくる人がいる、ということなのでしょう。店の先で道は二手に分かれていたのですが、ここは右側へ進んで、天上聖母と記された黄色いゲートを目指します。


  
黄色いゲートを潜って橋を渡ります。対岸の右側には廃墟のような薄気味悪い建物が建っているのですが、よく見たらテラスのようなところに洗濯物が干してあり、しかも室内では蛍光灯が点いている・・・ということは、この大きなボロ屋で生活している人がいるんですね。ボロなんて表現して失礼しました。でも実際に、この周りには完全に廃墟と化している民家や何かしらの店舗の跡が残っているため、どうしても廃墟と同化して見えてしまうのです。


 
バラックで築かれた迷路みたいな通路を進んでその建物の裏手に回ると、落石注意の標識近くに「往男賓方向←」という道標が掲示されており、その奥の擁壁には同様に「←往女賓方向」と書かれていました。男女別に進路が分かれているということは、この先に温泉浴場があるのでしょう。汚れたビニールシートで出来た目隠しを躱しながら中に入ると・・・


 
予想通りここが「媽祖窟温泉公共浴室」でした。(地図
石積みの古い建物からは、おじさん達のしゃべり声やバシャーンバシャーンと掛け湯する音が響き、また湯上がりにリラックスしたいのか、爺さんたちが全裸のまんまで表をウロウロしていました。もしここが1湯目だったらどんな心情よりも好奇心が優るために、間違いなく湯浴みしていたはずですが、事前の調査によれば、人によっては入浴を断られたり、あるいは本来無料であるはずなのに料金を徴収しようとする人がいる、など良からぬ情報が散見されたので、羅漢窟温泉で精神力を使い果たしていた私は、おじさん達の威勢のよい喋り声を耳にしたらついつい怯んでしまい、しかも前浴での火照りがなかなか取れずに体力的にヘトヘトだったため、ここでは入浴せずに、上の画像を撮ったところで踵を返してしまいました。ちょっと後悔しています…。


●龍鳳谷温泉露頭
 
谷底から階段を上がって泉源路に戻り、惇叙工商の方向へ戻る感じで歩きます。やがて視界が開け、谷の向こうに台北の街並みが広がる、とても眺望の良いところへ出ました。眼下の谷は全体的に白っぽく荒涼としており、小さな白い池のようなものが点在しています。


 
惇叙工商前の十字路を通過して、この谷へ下りてみることに。 (地図
駐車場の先には説明プレートが設けられており、「龍鳳谷温泉露頭」と題されたこの文章によれば、この谷あいは龍鳳谷と称する噴気帯で、pH2~3且つ90℃近い酸性硫酸塩泉が湧出しており、このお湯は俗に「白磺泉」または「星湯」と呼ばれている。かつての火山爆裂口の跡であり、酸性の熱水が火山岩を溶かすことにより独特な景観が作られている。噴気孔付近には硫黄の結晶がたくさん存在しており、また付近の行義路温泉の各施設へ温泉を供給する主要な源泉でもあるが、近年になって人工的な温泉掘削が進められたことにより、当地の特殊な景観が徐々に失われつつある。そのため台北市では温泉法の規定に基づき、「温泉露頭劃定範囲」を設定して保護に乗り出している・・・とのことです。


 
この龍鳳谷温泉露頭には、温泉水を湛えていると思しき大きな池があり、入ってみたい衝動に駆られたのですが、池の畔には立入禁止の看板が立てられており、すぐ真上には交通量の多い道路もありますから、ここは我慢して眺めるだけに留めました。この池の畔をはじめとして、噴気帯のあちこちにコンクリの源泉枡が据えられ、そこから無数の黒い配管が、まるでウニのトゲのように方々へ伸びています。源泉枡の内部からは湯気が立ち上り、内部は硫黄で黄色く染まっています。


 
先程の説明によれば、市は景観保護のため「温泉露頭劃定範囲」を設定してそうですが、そんな網掛けなんて何処吹く風。噴気帯には無秩序に源泉枡が設けられて、そこからウジャウジャと無数のホース類が地面を這っていました。しかもホース・配管類の一部は使われずに放置されている(使い捨てられている)ようです。硫黄の付着によって全体的に白く染まっていますが、それにしても殺風景でして、なんとか上手く整理してもらいたいものです。
 

 
源泉地帯は谷に沿って広範囲に及んでおり、至る所に白い湯溜まりもあったので、できれば入ってみたかったのですが、意外とこの谷の遊歩道を散策する人が多く、衆人環視の環境ですので、ここで入浴するのはマナー違反だろうと判断し、先程の池に続いてここでも自粛しました。


 
川を遡る形で谷の遊歩道を進んでゆきます。なおこの川の上流には「媽祖窟温泉」や「羅漢窟温泉」があるわけです。


 
遊歩道はやがて谷の奥へ伸びる道と、坂を上がって泉源路方面へ向かう道に分かれるのですが、谷の奥へ向かって進んでゆくと、健福橋という橋を渡って、赤い柱が印象的な廟の前に出ます。道は更に奥へ続いているのですが・・・


 
廟の手前にある小さな階段を下ると、男女別に分かれた怪しげな2枚のドアに突き当たりました。これは「象頭温泉」と呼ばれる共同浴場で、おそらく目の前の噴気帯で湧出する龍鳳谷の「白磺泉」を引いているものと思われますが、「私人施設 外客止歩」と書かれた札が示すように、残念ながら会員以外の利用は不可でして、この時もドアには鍵がかかっており、内部の様子を窺うことはできませんでした。 (地図
目の前に温泉のお風呂がありながら入れないとなると、目の前に人参をぶら下げられた馬の如く、急に鼻息が荒くなり、何が何でも湯浴みしたくなってきました。この龍鳳谷で湧く「白磺泉」のお湯は、すぐ近所の行義路温泉へ引かれているので、散策に満足した私は見学したお湯に浸かるべく、その足で行義路温泉へと向かったのでした。


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コメント (4)
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