温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

中宮温泉 くろゆり荘

2012年10月31日 | 石川県・福井県
 
白山スーパー林道の石川県側の起点である中宮温泉には3軒の旅館が営業していますが、その中でも一軒だけ離れた高台に位置しているお宿「くろゆり荘」にて日帰り入浴してきました。こちらは旧吉野谷村(現白山市)が建てた建物を中宮温泉旅館協同組合が管理運営している公共施設なんだそうです。温泉ファンのブログなどを拝見しておりますと、多くの方は秘湯を守る会会員である「にしやま旅館」を訪れているようですが、物心ついたときから重度の天邪鬼である私は、今回敢えてネット上におけるレポートが少なく、また公共施設ということでやや色眼鏡を通して見られがちなこの「くろゆり荘」を選ばせていただきました。

冒頭からいきなり余談ですが、「昭和のいる・こいる」ののいるさんって、中宮温泉がかつて属していた吉野谷村の出身だったんですね。今回記事を書くにあたっていろいろと調べていたら、初めてその事実を知りました。演芸や落語が好きな私にとっては、当温泉の歴史よりもそちらの事実の方が断然関心度が高いのです。


 
「くろゆり荘」から中宮温泉中央の駐車場方面を眺めると、駐車場の向こうに1軒の土産物屋と他2軒の旅館が建っているのがわかります。幼い頃から判官贔屓で孤独を求める私は、人気の2軒から離れてポツンと佇む孤高の「くろゆり荘」に親近感を抱かずにはいられません。
駐車場隅の斜面下には温泉が汲める水栓があり、その傍らには寸志箱が括り付けられていました。建物前の駐車場はちょっと狭く、先に2~3台止まっているとかなり窮屈ですので(転回も難しい)、ハンドル裁きに自信の無い人は、坂の下の駐車場に止めちゃったほうがいいかもしれません。


 
自動ドアの玄関を入ると、いかにも公共施設らしい窓口で作務衣姿の女将が明るく出迎えてくれました。玄関正面のラウンジには縦に長い長火鉢が置かれています。公共施設というので、てっきり無味乾燥とした雰囲気を想像していたのですが、実際に中へお邪魔してみると、全体的な造りこそ昭和の公的物件らしい設計ですが、それを打ち消すように館内にはいろいろなものが展示され、あるいは飾られていて、あたかも民宿のようなアットホームな雰囲気が横溢しており、スタッフの方々の心のぬくもりが伝わってくるようでした。



浴室へ向かう廊下の右手にはお座敷がありますが、こちらは有料の休憩スペースとなっているようです。


 
昭和56年竣工の建物とあって、どうしても経年による古臭さは否めませんが、さすがに宿泊施設ですから脱衣室は綺麗に維持されています。天井にはかなり古い扇風機が設置されていて、スイッチを入れるとちゃんとグルグル回ってくれます。棚の数は比較的多く用意されていますが、鍵付きは上段の一部しかないのが玉に瑕。


 
お風呂は男女別の内湯が一室ずつ(露天は無し)。大きなガラス窓に面した浴室には外の光が燦々と降り注いで、照明要らずの明るい室内です。建物自体は高台に位置しており、窓の外を眺めると下方にスーパー林道の路面や、その向こう側に聳える山々を目にすることができますが、すぐ前に大きな木々が茂っているため梢や葉に視界を遮られ、気持ちよい眺望が得られるわけではありません。
洗い場は浴室に左右に分かれており、混合水栓が計8基、うち5基はシャワー付きです。浴槽は小文字のbを横に倒したような形状で、幅の狭い右側は浅く、広い左側は一般的な深さとなっていました。


 
男女両浴室を仕切る石積みの壁から小さな石板に囲まれた竹筒の湯口が突き出ており、弧を描きながらドボドボと源泉が湯船へ落とされています。湯口周りには細かな鱗状の温泉析出がコンモリと付着しています。湯口の真下には洗い場の床に向かって斜めに下ろされている樋がくくりつけられているのですが、私の利用時にはこの樋へお湯が流れるようなことはありませんでした。


 
しかしながら、この樋の内側にも湯口周りと同様に千枚田状の析出がしっかりと現れていましたから、浴槽の清掃時などには湯口のお湯をこの樋へ逃がしているのかもしれませんね。浴槽のお湯は右端の切り欠けから排湯されているのですが、人が湯舟に入ればしっかりとオーバーフローするためか、浴槽の縁は石灰のコーティングにより象牙色に染まり、湯船側は小さな庇のように析出がせり出ていました。また画像に写っているように湯船に接している床は千枚田状態に石灰華がびっしりと現れていました。

胃腸に良い飲めるお湯として有名な中宮温泉ですが、見た目は橙色がかったベージュ色を薄く帯びた笹濁りで、湯口に置かれたコップで実際に飲んでみますと、泉質としては含重曹・食塩泉ながらも、石灰の析出がびっしりこびりついていることからもわかるように重炭酸土類泉的な匂いや味、そして薄い塩味と微苦味、更には微酸味(炭酸由来?)が感じられました。また浴感も典型的な重炭酸土類泉のそれ、つまりキシキシと引っかかる感触でした。
これだけしっかり析出が現れているにもかかわらず、カルシウムイオンが83.1mgしか含まれていないのが意外です。浴室内で見られる千枚田の析出は、当施設がオープンした当初から長年にわたってじっくりと少しずつ積み重ねて出来上がったものなのかもしれませんね。

お風呂は内湯しかありませんが、飲泉可能な良質な源泉を掛け流しで利用できる、とっても気持ちの良いお風呂でした。また公共施設だけあって、宿泊料金は平日が7,250円から、土日は7,800円からと、他のお宿に比べてかなりリーズナブルな設定であるところも高く評価できますね。


ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉 61.0℃ pH6.8 130L/min(自噴) 溶存物質3.337g/kg 成分総計3.566g/kg 
Na+:855.0mg(82.38mval%), Ca++:83.1mg(9.19mval%),
Cl-:1086mg(65.58mval%), HCO3-:846.4mg(29.70mval%),
H2SiO3:209.9mg, CO2:228.3mg,

石川県白山市中宮ク5-32  地図
076-256-7955

日帰り入浴時間10:00~15:00?(ご利用の際に確認願います)
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★

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新岩間温泉 山崎旅館

2012年10月30日 | 石川県・福井県
 
岩間噴泉塔群の見学(その1その2)や岩間温泉元湯の露天風呂を他の楽しんだ後は、今年の初夏に7年ぶりの復活を果たした「山崎旅館」で1泊お世話になりました。



玄関では秘湯を守る会の提灯と並んでコグマちゃんがお出迎え。


 
客室へ上がる階段の踊り場には、マジックミラーというのでしょうか、表面がS字形に波打っていて写る対象が変形して見える鏡が括り付けられています。宿のオーナーの遊び心なんでしょうね。



2階へ上がりきってすぐ右手には「娯楽室」と名付けられた広間があり、そのど真ん中には卓球台が置かれていました。温泉旅館と言えば卓球ですよね。


 
また、部屋の片隅にあるバーカウンター跡とおぼしきところには、骨董品的な内線呼び出しの電話機が置かれていました。かつてはこちらで使われていたのでしょうか。



今回通されたお部屋はこちらです。残暑がいつまでも長引いた今年の秋ですが、さすがに山奥だけあって朝晩は気温が一桁まで冷え込むため、お部屋にはこたつがセッティングされています。空調の類いが全くない館内ですから、底冷えする晩にこたつはありがたい存在でした。
山崎旅館では、従来からの和室(トイレ・洗面台共用)と、今年改装されたばかりの綺麗な別館(トイレ付)の2種類の部屋を選べるのですが、前者は1泊2食で10,000円であるのに対し後者は17,000円なので、爪に火を点すような赤貧生活を送っている私にとって7,000円の差は大きく、今回は前者を選択することにしました。6畳の和室には上述のこたつとちゃぶ台があるだけで、テレビなどは無く、窓には網戸も無く(別館には網戸あり)、ちょっと風が吹けば窓ガラスがガタピシと音を立てる、いかにも秘湯の宿らしい古く鄙びた佇まいなのですが、コンセントが4口(うち1口はコタツ用)使えたのは、デジカメや携帯を充電する上でとても助かりました。


 
毎度のことながら、花より団子、腹が減っては戦はできぬ、ということで、お風呂の紹介に先立ってまずはお食事から。
夕食。朝食とも1階の別室でいただきます。画像左は夕食全景でして、真ん中にニジマスの甘露煮、そしてゼンマイのクルミ和えや水煮の蕗などが並べられています。画像右は土鍋でいただくイノシシ肉の味噌焼きです。


 
焼きたての香ばしいイワナの塩焼き(画像左)やジューシーなニジマスのさしみ(画像右)は、私が食事をはじめるタイミングで厨房から持ってきてくださいました。川魚らしくない肉厚な身と臭みの無い旨味には思わず舌鼓を乱打したくなります。肉・魚・菜、いずれ徹底しても山の幸をふんだんに使っており、白山の食材を思う存分堪能することができました。



ちなみに朝食はこんな感じ。塩鮭(かなり塩辛いタイプ)・温泉卵・がんもどきなど、いかにも和の朝食といった消化器系に優しいラインナップに、虚弱な私の胃腸は安堵の表情を浮かべておりました。


 
次にお風呂について見てゆきましょう。
7年ぶりの営業再開にあたって、上述のように一部客室をトイレ付きに改造したほか、浴室を徹底的に改築したんだそうです。実際に浴室の入口からして、旅館外観の鄙びたとは全く趣を異にするモダン和風と言うべき佇まいであり、リニューアルを通り越して全面改築したんじゃないかと勘違いしたくなるほどでした。
なお浴室入口手前の階段を上がると、未改装の大広間が無料の休憩室として開放されていました。



浴室手前には、湯上がりに清冽な石清水で喉を潤せる水飲み場も用意されています。白山が噴火した際に流れ出た溶岩が六角形に裂けた岩を六方石と称し、この六方石から湧き出る石清水はミネラルたっぷりの硬水なんだそうです。実際に飲んでみますと、たしかにエビアン的な硬水の重い味が舌や胃に残りましたが、それ以上に冷たい喉越しが何ともいえず爽快で、湯上がりの火照った状態で飲むと実にうまく、つい何杯も飲んでしまいました。


 
濃紺あるいは紅殻色の大きな暖簾を潜ると脱衣室です。山奥の秘湯らしくない、白木の質感を活かしたとても綺麗で清潔な室内には驚きを隠せませんでした。お風呂って、いくらお湯が良くても脱衣室は汚かったり暗かったりすると、それだけで施設としては評価が下がってしまいますが、これだけ綺麗で使い勝手が良いと、文句のつけようがありません。相当苦労して改装なさったものとお察しします。なおロッカーは暖簾の手前に設置されています。


 
洗面台は2台あってドライヤーも完備。綿棒や櫛・化粧水などのアメニティーも揃っています。また洗面台の向かいの台には腰巻きが積まれており、混浴の露天風呂を利用する際にはこの腰巻きで見苦しい部分を隠すことがこちらのルールとなっています。



室内にはこんなオブジェも。


 
内湯は男女別に分かれており、浴槽などに旧浴室の雰囲気を残しつつも大幅に手が加えられているようでした。画像には写っていませんが、天井の梁はむき出しで、随所に補強のための金具が用いられていました。壁面はモルタルですが、床や浴槽・水栓まわりは鉄平石が用いられており、浴槽は3~4人サイズでしょうか。湯使いとしては完全放流式ですが、お湯は洗い場側へはオーバーフローせず、浴槽奥の隅っこにある排水口へと流れてゆきます。

シャワー付き混合水栓は浴室左右に2つずつ計4基設置されていますが、設計に不都合があったのかお湯・水とも吐出圧力がかなり弱いので(この点は予めチェックイン時に説明ありました)、かけ湯するときは湯船から桶で直接汲んじゃった方が早いでしょう。



湯口から注がれる源泉投入量はちょっと絞り気味ですが、これは高温の源泉を加水することなく流量制御によって温度調整しようとするお宿側の配慮ではないかと思われます。お湯の見た目は無色透明で、湯口傍に置かれている柄杓で飲泉してみると、ほぼ無味無臭ながらも硬水的な味わいがあり、また砂消しゴム的な硫黄感も微かに帯びているようでした。さらさらサッパリ系の癖が無い優しい浴感です。なおこちらのお湯は前回取り上げた元湯の源泉から引湯したものを使っているのですが、湯口からお湯が出てくる段階でも、数キロの隔たりを感じさせない激熱の状態が維持されていました。


 
次に腰巻きで下半身を覆いながら露天風呂へと向かってみました。脱衣室にある扉を開けると浴室棟をグルっとひとまわりするような感じで露天への通路が伸びており、中庭の池越しに本館の各部屋から丸見えでした。どうして男なのに腰巻きで隠さなきゃいけないんだ、と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、もしかしたら男性客にとっての腰巻きは、露天における女性客対策もさることながら、客室のお客さんにとって見たくも無い男の裸体が目に入らないようにすることも、二次的な目的としてあるのかもしれませんね。入浴客の裸は、お風呂で目にするなばら何らの違和感を感じませんが、それ以外の環境ですと、いくら全裸入浴文化を有する日本人でも、ちょっと目を背けたくなるものです。


 
石の通路を歩いて行くと、森に囲まれた混浴露天風呂に到着です。湯船には半島状に突き出た岩があるために、これを仕切り代わりにして男女の入浴エリアを分けることも可能ですが、お風呂に入る前にはそんな仕切りはありませんから、やっぱり人目を気にする方は腰巻きが必須かもしれません。宿側に背を向けて入れば、白山の森以外は目に入ってきません。山奥の大自然に抱かれた開放感溢れる露天風呂です。


 
内湯同様に湯口のお湯は熱いのですが、露天風呂は外気で冷やされる上に加水も行われているので、体感で40℃かそれ以下の湯加減となっており、いつまでもじっくりと入っていられました。一応露天風呂にも照明が設置されているので、深夜になっても入浴は可能なのですが、おそらく意図的に照明の数を少なくしているため、目が慣れないうちは暗くて何も見えないかもしれません。しかしながら、真っ暗な中で長湯仕様のお風呂に浸かりつつ、見上げてごらん夜の星を。照明を最低限にしてくれているおかげで、満天の星空が楽しめましたよ。私が夜中に入浴しているときには流れ星をいくつも見ることができ、星空にすっかり心を奪われ、なんだかんだで2時間近くは入り続けてしまいました。

復活後の「山崎旅館」は、麓の白山一里野温泉にある「一里野高原ホテルろあん」の姉妹館として営業してゆくそうでして、客室に用意された浴衣やタオル、館内の各種備品も「ろあん」のものが転用されていました。爽快な露天風呂とおいしい山の幸を堪能でき、至極幸せな一晩を過ごすことができました。復活の灯火を是非絶やすこと無く、今後とも多くの秘湯ファンを魅了し続ける宿であってほしいと願っております。


温泉分析表見あたらず

石川県白山市尾添ム4-1
076-256-7950
(冬期連絡先:一里野高原ホテルろあん 076-256-7141)
ホームページ

日帰り入浴時間調査忘れ
700円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★

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岩間温泉元湯 露天風呂

2012年10月29日 | 石川県・福井県
前回記事「岩間噴泉塔群(その2 純白な石灰華と野湯)」の続編です。



噴泉塔から登山道を登って岩間温泉元湯の登山道口へと戻ってまいりました。下りの往路は40分弱を要したのに、なぜか登りの復路は30分で踏破してしまいました。私の脚力ってどうなっているんでしょうか、自分でもよくわかりません。


 
登山道口の前には、新岩間温泉「山崎旅館」や白山一里野温泉の各施設へ温泉を供給している源泉があるので、ちょっとそちらへ寄り道してみましょう。引湯管はブルーシートでガッチリと覆われており、坂の上の方へと伸びていました。


 
ここが源泉なんですね。堅牢なコンクリートの躯体からは濛々と白い湯気が立ち上っており、近づくだけでもムンムンとした熱気が感じられます。何軒もの宿や入浴施設が、この源泉から湧出する温泉をアテにしてお客さんを集めているんですね。ガッチリとした施設であって当然です。


 
さて源泉から登山道口へ戻り、さらに下って、避難小屋の手前にある元湯の露天風呂で登山の汗を流しましょう。この露天風呂は脱衣所はおろか、仕切りも何もなくただ混浴の湯舟が一つあるだけで、橋を渡る登山者からは丸見えですが、私の訪問時は、噴泉塔へ向かう際に1組、戻ってきてからも別の1組、それぞれカップルが入浴中でしたので、山奥の開放的な環境が羞恥心を吹き飛ばしてくれるのかもしれませんね。尤も足湯だけで済ませる方も多いようです。



かなり大きな露天風呂ですね。谷の方へ視界も開けており、眺望もまずまずです。
画像には写っていませんが、お風呂の脇にはデッキブラシが置かれており、定期的な清掃が実施されているそうでして、山の中の露天とは思えないほど綺麗な状態が保たれていました。また有難いことに桶なども用意されています。


 
先程の源泉から引かれてきたアッツアツの温泉が、岩組みの下から突き出た塩ビ管から注がれているのですが、山奥にある常時無人の露天風呂ですから、湯加減の調整なんて行われているわけもなく、大抵の場合は入浴前に湯加減の調整を行う必要があります。私の利用時には、ちょっと前まで他の客が入浴していたので、極端に熱い状態ではなかったのですが、それでも47℃はあってかなり熱い湯加減でしたので…


 
バルブ付きのホースから沢水を投入してジャンジャン加水したところ、あっという間に42度まで下がりました。これで心おきなく湯浴みできますね。



ということで入浴です。極楽この上ありません、最高です。お湯は無色透明でほぼ無味無臭ですが、微かに砂消しゴム的な硫黄的味覚や臭覚を帯びていたように感じられました。浴感としてはアッサリ&サッパリとしたもので、癖の無い爽快なお湯でした。
山の紅葉に抱かれながら、気持ち良さのために時間を忘れてのんびり入浴していたら、いつの間にか1時間以上も入り続けてしまい、気づけば時計の針は夕方4時を過ぎていました。秋の日は釣瓶落としといいますから、早めにここを出発しないと真っ暗になっちゃいますから、本当はもう少し入っていたかったのですが、後ろ髪をひかれる思いでこの露天風呂を後にしました。


 
前々回の記事でも取り上げましたが、元湯の避難小屋&トイレはかなり立派な造りです。その小屋の基礎部分に立てかけてある自転車を取り戻して、出発地点へと戻ることにしましょう。



自転車で砂利の林道を疾走。下り一辺倒なので楽チンです。


 
途中で山の紅葉を眺めながら…



出発地点であるゲート(駐車場)に到着です。さすが自転車は早い。徒歩なら40分から1時間弱は要するところを、わずか15分で走破してしまいました。

さて日暮れ前に無事戻れましたので、明るいうちにもう一軒露天風呂へ行きましょう。
次回はこのゲート(駐車場)目の前にある新岩間温泉「山崎旅館」で宿泊したときのレポートです。


温泉分析表なし

石川県白山市尾添  地図

利用に関する時間制限は特にありませんが、なにも無い山奥ですから日中の利用が良いでしょう。
無料

私の好み:★★★


(余談)
実はこの露天風呂に入る前、ちょっとした事件に遭遇してしたため、帰る時間が遅くなってしまいました。その事件とは登山者の転落事故です。私が噴泉塔から元湯へと戻ってきたとき、下の方から血相を変えて高齢の登山者の一団が上がってくるではありませんか。一団は私を見るや否や「遭難者がいるから助けてほしい」と声をかけてきました。さっき私が通り過ぎてきた登山道で高齢の登山者が転落してしまったんだそうです。私も急遽来た道を引き返して捜索に加わったところ、登山道口から数百メートル進んだ、道が小さな沢を越す地点で、沢の下方20メートル付近に横たわるお爺さんを発見。偶然にも元湯付近で工事関係者がいたため、その関係者にまず連絡し、更には新岩間温泉の山崎旅館のスタッフが現場へ駆けつけ、石川県の消防にレスキューを要請。たまたまこの日は晴天で無風状態だったためか、要請から30分程度で救助隊のヘリがやってきて、レスキュー隊の手によってそのお爺さんは無事にヘリコプターへ収容され、病院へと搬送されて行きました。画像はヘリにお爺さんが収容されている様子、そしてその事故を報じる翌日の「北國新聞」の記事です。この事故で76歳のお爺さんは両脚を骨折してしまったものの、命には別条がなく、最悪の事態は回避することができたのですが、その要因としては、たまたま紅葉の季節だったので他に登山者がいて発見がしやすかったこと、付近で工事していたため連絡が取りやすかったこと、快晴で無風状態だったためにヘリが山肌ギリギリまで接近しながらホバリングできたこと、そして何よりも重要なのが、尖った石がゴロゴロしている沢へ20メートルも転落したにもかかわらずヘルメットを被っていたので頭へのダメージが大幅に軽減できたことが挙げられます。大したことの無い登山道における転落事故ですが、ヘルメットの有無がお爺さんの運命を大きく左右したわけです。ヘルメットってとっても大切なんですね。
今回の露天風呂は、お爺さんの無事を確認した後での入浴だったため、「無事に意識のある状態でレスキューに助けてもらった」という安心安堵の心情が、余計に湯あみの爽快さを高めてくれたのでした。
 

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岩間噴泉塔群(その2 純白な石灰華と野湯)

2012年10月28日 | 石川県・福井県
前回記事「岩間噴泉塔群(その1 噴泉塔を見に行く)」の続編です。



噴泉塔群から引き返して登山道へと戻る。実は往路で登山道を河原へ向かって下っている時、河原に出るちょっと手前の右側に、なにやら怪しい踏み跡を発見していたので、そこを探検してみることにした。



踏み跡を入ってゆくと、やがて左手に小さな沢が現れた。沢からは湯気が上がっており、触ってみると入浴したくなるような温度だった。


 
さらに沢に沿って斜面を上がってゆくと、いかにも入浴してくださいと言わんばかりの湯溜まりを発見したのだ!
明らかに人為的に石を組んで温泉の沢を堰き止めて造った湯溜まりなのだが、こんなものがあるとはつゆ知らず、感激のあまりその場で思わず歓喜の雄叫びを上げてしまった。


 
すぐに湯溜まりで入浴したい衝動に駆られたが、私の第六感が「さらに上流を目指せ」と指令するので、湯浴みは後回しにし、3点支持しながら岩や滝をよじ登って、温泉の沢を遡っていった。



なんと沢の最上流部には、幅10メートルにわたって熱湯を噴出しているトラバーチンが形成されていた。



中でも目を惹いたのがこの純白な石灰華である。混じりけの無い白さはまさに神秘的だ。トルコのパムッカレはもちろん、ハンガリーのエゲルサロークにも遠く及ばないほど小規模なものだが、純白の度合いだけは十分に肩を並べることができるだろう。こんな美しい自然の造形が人知れず存在しているのだから、日本の自然もまだまだ捨てたもんじゃない。当地に関する各種案内にはもちろん、ネット上でもほとんど紹介されていないこの純白石灰華を偶然にも発見することができたことは、幸運以外の何物でも無いだろう。人生の運の数ヶ月分の運はここで一気に費やしてしまったかもしれない。
(後日ググってみたら、なんとAll Aboutで最近取り上げられていたことが判明した。こちらがその記事)



純白の石灰華塔から湧き出る温泉の温度を計ってみると、70.8℃であった。


 
沢を下りて再び先ほどの湯溜まりへと戻ってきた。
両白山地の紅葉を一望する絶景の露天風呂だ。こんな素晴らしいロケーションの野湯は、他ではなかなかお目にかかれない。


 
温泉の沢を堰き止めているこの湯溜まり。湧出部では70℃以上あった温泉も、ここまで流れ落ちてくる間に十分に冷め、42.3℃と絶妙な湯加減になっていた。これを天の恵みと言わずして何と申そうか。



というわけで、我慢できなくなって入浴することにした。
お湯は無色透明でほぼ無味無臭だが、やや石膏系の甘みが感じられ、また微かな収斂も帯びているようだった。一方、意外にも硫黄感はほとんど感じられなかった。底には砂や泥が堆積しているため湯船としてはちょっと浅めであり、また入浴時にはそれらの沈殿物が舞い上がるために、入りしなはお湯が濁ってしまうが、しばらくすれば再び沈殿して元通りの透明なお湯に戻ってくれる。最高の湯加減と素晴らしい眺望にしばし恍惚となった。
この湯溜まりは造られてまだ間もないのか、石組みがまだしっかりと安定しておらず、ちょっとでも沢が増水すればたちまち崩れてしまいそうな脆さが見て取れたが、手頃なサイズの石ならそこらにたくさん転がっているので、もし流されちゃったとしても、この場で再び石を組んで堰き止めれば、再度野湯を楽しむことができるかもしれない。

天然記念物の噴泉塔はもちろんだが、神秘的な美しさで私を魅了した純白の石灰華、そして山の紅葉を一望できる絶景野湯、いずれも非常に素晴らしく、わざわざ遠路はるばる当地までやってきた苦労は十二分に報われた。

ちなみに帰路は谷底の河原から元湯まで僅か30分で到達できてしまった。標準タイムは60分だから、何と半分である。しかも下りの往路(38分)より8分も早かったのだ。下りより登りの方が早いとはどういうことなのか。素晴らしい自然美と野湯のおかげで、九十九折れの勾配も軽々と登ることができたのかもしれない。


※今回の記事の内容に関して、湯溜まりや石灰華の場所の特定は控えさせていただきます。なお国土地理院の地図にもこの沢や温泉に関しては載っていません。

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岩間噴泉塔群(その1 噴泉塔を見に行く)

2012年10月27日 | 石川県・福井県
残暑の厳しかった今年もようやく本格的な紅葉シーズンとなり、各地の山々は錦秋の装いを纏って観光客の目を楽しませてくれていますね。先日はそんな紅葉を愛でつつ、一度は自分の目で実物を見てみたかった石川県白山市の山奥にある国の天然記念物「岩間噴泉塔群」までハイキングしてまいりました。

訪れた時期は2012年10月下旬某日、いつものように単独行です。ルートとしては、今年の初夏に7年ぶりの復活を果たした「新岩間温泉・山崎旅館」の前で車を止め、その場で折りたたみ自転車を組み立てて、ゲートを越えて林道を岩間温泉元湯まで進み、元湯前のトイレ兼避難小屋で自転車をデポ、そこから先へ伸びる登山道を歩き、高低差200mの下りを一気に下りて河原へと向かいました。
今回は画像が多くなってしまうので、記事を2回に分けて投稿します。まず初回はスタートから噴泉塔までの道のりについてです。


 
【11:00 新岩間温泉・山崎旅館 (地図)
絶好の行楽日和。スタート地点となる山崎旅館前にはトイレ(チップとして100円を寄付)や無料の駐車場が整備されている。噴泉塔から戻ってきた後はこの旅館に宿泊するので、私は宿前の駐車場を使わせてもらった。ここで車から折りたたみ自転車を取り出し、その場で組み立てる。


 
【11:05 ゲート通過】
駐車場前には一般車の通行を阻止するためにゲートがあるので、その脇の歩行者用通路を通って先へ。


 
工事用車両が通行する道なので車1台が通れる幅員があり、景色も良いため、ハイキングには最適。でも緩いながらもひたすら上り勾配が続くため、運動不足の私は数分で息が上がって自転車を漕ぐことができなくなり、元湯までの行程の7割近くは自転車を手で押しながら歩くことになった。はるか下の谷底には手取川の上流にあたる中の川が流れている。


 
途中何カ所かで落石注意の看板に遭遇。切り立った崖を切り拓いて造った道なので、実際に落石は多いのだろう。また比較的新しい塔のような施設も2~3ヶ所ほど立っていたが、これは国交省が河川監視をするためのものだろう。下流の手取川はしばしば災害をもたらす暴れ川である。


 
元湯の手前では崖にコンクリを吹き付けて落石や土砂崩れを防ぐ工事が行われていた。この工事箇所だけ、やけに道路が立派だった。



【11:37 岩間温泉元湯 (地図)
工事現場付近から徐々に中の川の谷と離れてゆき、霞滝の上流部の沢と並行してしばらく進んでいたら元湯に着いた。新岩間温泉のゲートからこの元湯までは標準タイムで50分だが、僅かながら自転車を活用できたためか、30分で到達することができた。屋根にソーラーパネルを装備しているこの避難小屋は比較的新しくて立派な造りをしており、トイレも兼ね備えている。また目の前はちょっとした広場となっており、ベンチも設けられていた。小屋の前に自転車をデポする。


 
元湯といえばこの無料の露天風呂だが、ひとまずここは後回しにして先へ進む。路傍には温泉卵をつくる枡が用意されており、直に触ったら確実に火傷しそうなほど熱い温泉が注がれていた。


 
【11:38 登山道スタート】
ベコベコになった標識が地面に立てかけられていた。ここからは急に本格的な登山道となる。ここから噴泉塔までは約2km。


 
すぐに白山室堂方面への登山道「岩間道」が分岐する。今年になって再整備が行われるようになったらしく、手書きの道標もステップの土留めもまだ真新しい。室堂まで12kmとのこと。


 
噴泉塔への道もつい最近までは手入れされずに荒れ放題だったらしいが、今年になって山崎旅館が復活し、それとともにこの道も再整備されるようになったそうだ。一部に滑りやすい箇所があるものの、トレッキングシューズを履いていれば問題なく歩けるコンディションであった。


  
紅葉が始まった山々を眺めながら軽快に歩く。多少の上り下りはあるものの、大概的には等高線をトラバースしていると表現しても差し支えないようなルートである。元湯から山をグルっと巻いて再び中の川へと近づいてゆく。


 
途中で古くて滑りやすい木道があったり、文字板が剥がれて杭だけになってしまった標識に遭遇する。


 
【12:00 一気に川へ向かって下りはじめる (地図)
この段の地点から、標高差約200mを九十九折の道で一気に急降下し、中の川の河原へと向かう。


 
下る区間は意外と長い。帰路にはここを登るわけで、そのことを考えるとちょっと憂鬱になる。



河原へ近づくと、山の斜面には苔に覆われながら温泉を湧出させている小さい石灰華があった。



【12:16 河原に到達 (地図)
断崖絶壁の直下に広がる河原まで下りきった。なお一部の地図には当地点に「白山一里野県立自然公園」が存在するような表記がなされているが、実際にはそんなものなんて無い。ただ険しい谷があるだけだ。


 
【同時刻 旧噴泉塔】
登山道が河原に到達する地点には、かつて勢いよく熱湯を噴出していた噴泉塔の跡(石灰華塔)があり、現在は噴出こそしていないが、絶えず大量の熱湯を湧出させている。温泉ファンなら誰しもが歓喜するであろうこの光景を目にして、早くも私は興奮状態になった。


 
湧出孔に温度計を突っ込んでみたら85.6℃であった。


 
その熱湯は川の左岸の崖下を流れて、温泉の川を形成している。画像に写っているカスタードクリームのような色をしている部分がその熱湯の川だ。ここでも温度を計測したが62.7℃とかなりの高温であるため、とてもじゃないが入浴はできない。



熱湯の川は触れない程熱いまんま中の川の本流へと合流してゆく。合流地点でうまい具合に熱湯と川水をブレンドさせれば野湯を楽しめるかもしれない。


 
【12:25 徒渉】
現役の噴泉塔は、ここから更に下流へ200m進んだところにある。しかしそこへ行くためには一旦川の対岸(右岸)へ渡らねばならない。熱湯の川が合流する手前でちょうど川が浅くなっている箇所を見つけたので(身長165cmの私でちょうど膝丈ぐらいの深さ)、靴を脱いでトレッキングパンツを膝上までたくしあげ、切れるような川水の冷たさに堪えつつ、足下を確認しながら慎重に対岸へと徒渉した。今回は秋の晴れた日ゆえに水量は少なかったが、春の雪解け時や夏の増水時はそう簡単に徒渉できないだろう。それにしても谷の両側、特に右岸上部の断崖絶壁はほぼ垂直に切り立っており、その高低差は数百メートルにも及ぶだろう。ただただ圧倒されるばかりだ。



右岸を歩くこと5~6分。川の流れが左へ右へと大きくS字を描きながらカーブするところまで行くと・・・


 
【12:32 岩間噴泉塔 (地図)
川の左岸の絶壁直下で、噴泉塔が勢いよく熱湯の飛沫を吹き上げており、その飛沫は対岸のこちらまで届くほどであった。なお国土地理院の「ウォッちず」で当地の地図を見ると、噴泉塔群を示す景勝地の地図記号の両側に温泉マークがひとつずつ並んでいるが、実際の噴泉塔は左側の温泉マークの位置にあたる。この温泉マークの位置はかなり正確なのだが、しかし地図上に見られる破線の登山道はここまで伸びていない。冷たい川を徒渉してこないとこの光景は見られないのだ。


 
噴出している部分を拡大してみた。噴泉塔は常に同じ勢いというわけではなく、私が見学していた10数分のうちでも、足下まで飛沫が達するときもあれば、川の途中までしか届かないときもあり、強弱の波が短いスパンで繰り返されるようだ。



動画も撮影した。噴出の様子がおわかりいただけるだろう。


 
 
噴泉塔をはじめ、対岸(左岸)の崖一帯では温泉が連続して湧出しており、石灰華の上に苔がびっしりと生えて覆っている。この光景をどこかで見たことあるなと脳味噌の引き出しを引っかき回してみたら、北海道の岩間温泉が思い浮かんだ。偶然にも同じ名前であるが、いや、北海道の方はこちらの岩間温泉に倣って名付けられたのかもしれない。苔と石灰が織りなす色彩美は自然が生み出す芸術である。


 
富士山のような形状をしたミニ噴泉塔もあり、山の噴火口に当たる部分では煮えたぎった熱い温泉を頻りに辺りへ飛び散らしていた。


噴泉塔付近の見所はこれだけではなかったのであります。
次回に続く。
コメント (5)
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