温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

祝2000湯記念 台湾・紅香温泉 後編(水浴び・内湯・露天の3浴だ!)

2014年09月06日 | 台湾
前回記事「祝2000湯記念 台湾・紅香温泉 前編(悪路をバイクでGO!)」の続編です。



北港渓の上流に架かる吊り橋の上から見えた、「紅香温泉」の湯小屋へと向かいます。


 
トタンで建てられた湯小屋の壁には、子供の落書き帳レベルの、ほのぼのとしたクマのイラストがペンキで描かれていました。いや、クマがパチンコで別のクマを狙っている攻撃的な構図ですから、ほのぼのという表現は間違っているのかも。台湾の中央山脈には固有種のタイワンツキノワグマが棲息しているそうですから、山奥の秘境であるこの紅香集落付近にもクマが出没するのかもしれません。イラストのそばにはアルファベットで何やら言葉が書かれていますが、英語ではなくピンイン(中国語の発音をアルファベットで表したもの)でもないので、おそらく当地に暮らす原住民「タイヤル族」の言語を、ローマ字のように表記したものなのでしょう。

「紅香温泉」は今でこそ男女別の浴室を備えているちゃんとした湯小屋が建てられていますが、数年前までは本当の粗末な掘っ立て小屋だったそうでして、私が台湾の温泉を巡る上でバイブルのように崇めている鈴木浩大さんの著書『湯けむり台湾紀行―名湯・秘湯ガイド 』には、完全にバラック状態のボロボロな旧湯屋の写真が載っています。


 

湯小屋の前には日除けネットが頭上に張られた露天風呂も設けられており、コンクリ打ちっぱなしで温泉風情に欠けた簡素なものですが、キャパが大きくて、渓谷に向かって視界が開けていますので、居心地は悪く無さそうです。以前こちらへ訪れたことがあるWさんによれば、この露天風呂は最近設けられたようです。

念願の現地に到着できましたから、一刻も早く秘湯のお湯に浸かりたいところですが、いざ入ろうと男湯の中を覗いたところ、浴室内では工事に携わっている原住民の方と思しきオッサン2人がボディーソープの泡まみれになりながら汗を流している真っ最中でした。せっかくですから我々だけで湯浴みを楽しみたいですし、長い道中では灼熱の陽の光を浴びて汗をかき、しかも悪路で散々砂埃にまみれましたので、先客の退出を待ちつつ、汗と砂埃を落としてクールダウンすべく・・・


 
傍を流れる北港渓(川)に入って、湯浴みの前に水浴びを楽しむことにしました。おそらくここから奥には人家も無いのでしょう、川の水は一切の汚れがなく、とても冷たく清らかです。


 
(右(下)画像はゲストハウスプリより借用したものです)
川原で水着に着替え、綺麗な水へドボンと飛び込みます。川原には湧き水の池が出来ており、ここが南国台湾であることが信じられないほど、池の水はキンキンに冷えていました。川の水も冷たくて気持ち良いのですが、山から一気に落ちてくるためか流れが強く、お尻や腰をしっかり川底に固定して踏ん張らないと、たちまち下流へ流されてしまいそうでした。左(上)画像は湧水の冷たい池に入るあひる家オーナーSさんとD君、右(下)画像で川浴びする3人は、上からWさん、私、D君です。


 
川原には工事用発電機が置かれていたのですが、そこに貼られていたシールがユニーク。「低燥音」「有電勿近」「防音形」は読んで字の如しですが、その上にひらがなで「よりかかゐこら」とチンプンカンプンな日本語が記されているではありませんか。海外ではよくデタラメな日本語を見かけますが、この場合は「よりかからぬよう」と書きたかったのでしょうか。そもそも外国語を付記する必要性がない工事用機器に、どうしてヘンテコな日本語を付したのでしょう…。



川遊びをしているうちに、浴場にいた先客は湯浴みを終えてどこかへ立ち去り、私達も冷たい川水で体がすっかり冷えましたので、浴室へ向かうことにしました。いよいよ2000湯目の湯浴みです。
コンクリで基礎や浴槽を造り、上屋はトタンで仕切っただけの、至って簡素な造りですが、浴室はちゃんと男女別に分かれており、シンメトリなレイアウトとなっています。脱衣室は無いので、浴室内のベンチに衣類や荷物を置き、その場で着替えます。先客のオッサン達が大胆に掛け湯したのか、あちこちがビショビショ。しかも、コンクリ床には滑り止めと装飾性を兼ねて小さな石がたくさん埋め込まれているのですが、お手入れが今ひとつで全体的にヌメっており、かなり滑りやすい状態でした。


 
長方形の浴槽にはタイルが貼られており、10人以上は余裕で入れそうな容量を擁しています。そして太いパイプから源泉のお湯が落とされているのですが、お湯のままでは熱すぎるので、並行して山水も加えられており、この塩梅が絶妙で、湯船では40~1℃くらいの入りやすい湯加減となっていました。


 
湯口における温度および水素イオン濃度は、それぞれ55.2℃およびpH7.2でした。湯口の周りには、白や褐色の析出がこびりついています。湯船のお湯はほんのり黄色み掛かっていて僅かに懸濁しており、湯中には白く細かい湯華が浮遊していますが、清掃不行き届きのためか不純物らしきものも同時に見られました。湯口にて微かに硫黄感があり、石膏的な甘みも感じられます。分析表なんてものはありませんが、大雑把に表現すれば、廬山温泉に似たような、土類を含む重炭酸泉ではないかと思われます。ほとんど自給自足状態で生活しているような原住民集落の公衆浴場ですから、お風呂に余計な設備は一切なく、加温循環なんて一切ない完全掛け流しです。



オーナーさん親子と、記念すべき節目を迎えてニヤニヤが止まらない私。
川遊びをして、そのままお風呂へ入ったので水着を着ています。危険と背中合わせの悪路を走ってきただけあり、お湯に浸かった時の感慨はひとしおでした。


 
続いて湯小屋前の露天風呂にも入ってみました。まるで養魚場のような、素っ気のないコンクリ打ちっぱなしの造りでして、内湯同様に手入れが宜しくなく、底はコケらしきものでヌルヌルしており、湯面の一部にはゴミのようなものが浮いていました。しかも槽の大きさに対してお湯の投入量が少ないため、温度もかなりぬるめだったのですが、そんな状況にもかかわらず、意外にもお湯はかなりクリアであり、しかも灼熱の陽光を遮るべく、上述のように頭上に日除けネットが張られているので、目を瞑って入ってしまえば、結構気持ち良く湯浴みできました。露天に入っているのは、D君と私の二人です。


 
ちなみに女湯はこんな感じ。男湯をシンメトリにした構造をしており、浴槽の大きさやお湯などは全く同じなのですが、残念なことに浴室の隅には大量のゴミが散乱していました。その多くは使い終わったシャンプーやボディーソープの容器や飲食品の容器等でした。ゴミをこまめに片付けずに放置してしまうのは中華圏や東南アジアではよく見られることであり、文化の違い、衛生観念の違いと言ってしまえばそれまでですが、水回りの清潔な維持を心がける日本人として、お風呂がゴミだらけになっている光景は、ちょっとしたカルチャーショックでした。尤も、ここは集落の方が使う共同浴場であって観光客は来ませんし、タダで入浴させてもらっているので、私に余計なことを言う筋合いはありませんけど…。


 
無事に2000湯目を達成し、秘湯のお湯を堪能した後は、事前に買っておいたコンビニおにぎりと一緒に、前編で紹介した鶏の丸焼きをいただきました。ビニール手袋をはめて、手で肉をほぐしてゆきます。とっても柔らかいので簡単に解体でき、体内からは調理の際に詰めこまれたシーズニングの葉やスパイスがたくさん出てきました。ジューシーなお肉にスパイシーな味や香りがしっかり滲み込んでおり、実に美味です。また、お店では調理の際に鶏から滴り落ちる脂をカップに詰めてくれるのですが、この脂にお肉を付けて食べると風味がより一層強まりました。日本ではなかなか味わえない、台湾ならではのワイルドなグルメでした。なお1羽だけでもかなりボリュームがあり、大人3人と小学6年生1人の男4人で1羽を食べたのですが、4人でも若干残ってしまいました。

川浴びや温泉で汗を流したにもかかわらず、往路と同じ悪路を帰らねばならないために、走っているいちに再び砂埃まみれとなってしまいました。また、日本人どころか台湾人でさえ訪れる機会の少ない秘境の共同浴場は、原住民の生活の場をそのまま映しているかのような、B級感漂う佇まいでしたが、鄙びた温泉やマニアックな温泉を好んで巡る私にとっては、むしろ記念すべき日を迎えるに相応しい湯屋でもありました。
私の温泉めぐりのために、まる一日を費やして下さったWさん、そしてバイクに不慣れな私を気遣って下さったSさん、いつも笑顔でいてくれたWさんのご子息のDくんに、この場を借りて感謝申し上げます。


泉質名不明

台湾南投県仁愛郷発祥村紅香  地図

入浴可能時間不明(おそらく常時可能と思われます)
無料
備品類なし

私の好み:★★★


コメント (4)
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