温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

雲仙温泉 有明ホテル

2015年11月30日 | 長崎県
 
雲仙温泉での湯めぐりにおいて、共同浴場だけでは物足りないので、前回記事で取り上げた新湯共同浴場と同じ新湯地区に位置する「有明ホテル」にも立ち寄ってみることにしました。なお屋号の漢字は「ありあけ」ではなく「ユウメイ」と音読みするんだそうです。看板に記されているローマ字で初めて知りました。



私は駐車場に車を止めると、スタッフがわざわざこちらまで出迎えてくださり、日帰り入浴をお願いしますと、丁寧な応対で快く受け入れてくれました。古い洋館を思わせるような広くて立派なロビーで料金を支払い、館内奥へと進みます。



途中で卓球台が置かれたホールを通過。昭和の温泉に卓球は欠かせませんよね。スタッフの方の案内に導かれながら、長い廊下を進んだ突き当たりにあるエレベータで階下へ。


 
浴場へつながる廊下には数々の骨董品が展示されていました。奥に見える竜みたいなものは「おくんち」の龍踊りで使われるものかな。庭園を眺める座敷もあったりして、実に優雅な館内です。


 
庭園の木々の向こうにはプールが見え隠れしていました。かなり老朽化している様子でしたので、いまでは使われていないのかも。そんなプールがある庭を左に見ながら浴場入口の暖簾をくぐります。スタッフの方はわざわざここまで案内してくださいました。ありがとうございました。


 
 
さすが老舗旅館だけあって、脱衣室は隅々まで手入れが行き届いており、清潔感に満ち溢れていて使い勝手も良好です。籐の籠が収められている棚の一部は松竹錠でロックできる扉付きになっていますので、盗難が心配な方でも大丈夫。またフェイスタオルの無料貸し出しも行っており、洗面台には各種アメニティーも揃っていますので、手ぶらでの利用も可能。至れり尽くせりです。


 
室内空間の全体的な構造をはじめとして、窓や浴槽など各部位についても、とにかく曲線(円弧)を多用して柔らかなイメージを与えている浴室は、大きな窓ガラスが採用されて明るく開放的です。このお風呂で印象的なのは、浴槽上に側壁に大きく描かれた陶板の南蛮絵図。船に乗ってアラブ風の服装を纏っているのはポルトガル人なのでしょう。雲仙は島原半島の中央部に位置していますが、半島の南端にある口之津港はかつて南蛮貿易で栄えたところです。また江戸時代の雲仙といえばキリシタン殉教の地でもあり、現在は観光地となっている地熱地帯の「地獄」では、キリシタンに対して、地獄以上の苛烈な処刑が行われたことが知られていますから、島原半島や雲仙は南蛮渡来の人々と縁の深いところなのですね。


 
 
洗い場は室内の数箇所に分かれて配置されており、シャワー付きカランが計9基が取り付けられていました。各ブースとも腰掛けと桶が綺麗にセッティングされており、これから湯あみをしにやってくる宿泊客を出迎える準備がしっかりと整えられていました。


 
浴室内には烏帽子のような形状をした大きな浴槽が曲線の窓に沿って設けられており、幅が一番広くなってる左端付近に石臼のような形をした湯口が立ち上がっていて、中央の孔から滔々と噴き上がるお湯は側面を滴りながら浴槽へと落とされていました。私が入室した時には一番風呂だったらしく、湯船のお湯は上澄みの無色透明で濁りは殆ど見られなかったのですが、私が湯船に入りますと、底に沈殿していた湯の花が舞い上がって、まるで積乱雲が急激にモクモクと立ち込めるように一気に濁りはじめ・・・


 
あっと言う間に浴槽のお湯は、底が全く見えないほどのグレー色に濁ってしまいました。そのビフォーアフターを比較してみますと、左(上)画像は濁る前の状態で、透明なお湯を通じて黒い槽内側面や底面タイルがはっきりと目視できますが、湯の花が撹拌されて強く濁った後の右(下)画像では黒い槽内側面が辛うじて見える程度で、お湯はグレーに強く濁っています。浴槽の大きさに対してお湯の投入量が少ないためか、縁からしっかりオーバーフローしているものの、湯船は(体感で)40~41℃というちょっとぬるめの湯加減で、じっくりと長湯するにはもってこいのコンディションでした。


 
浴室からドアを開けて屋外に出た先は、「普賢の湯」とネーミングされた露天風呂。緑の木立の中、小川のせせらぎに沿う形で岩風呂が据えられており、小ぢんまりとしているものの、なかなかの風情です。


 
塩ビ管からお湯がドバドバ投入されており、露天の出入口そばにある排水口より小川へ直接排出されています。露天風呂は外気の影響を受けるはずなのに、お湯の投入量が多いためか、内湯よりも熱めで入り応えのある湯加減でした。こちらも私が入ると上澄みの湯が靄がかかったように濁り始め・・・


 
内湯のように露天でもライトグレーに強く濁りました。こちらでもビフォーアフターを比較してみましょう。左(上)画像は濁る前で、上澄みを通じて底面の石板の目地がはっきり目視できていますが、濁った後の右(下)画像は明らかにお湯の色合いが異なっていますね。
さて濁り以外のお湯に関するインプレッションですが、館内に掲示されている説明によれば、ここで使用しているお湯は清七地獄から直接引湯しているとのこと。いかにも雲仙のお湯らしくレモン汁のような収斂酸味があり、湯面からは酸っぱそうな匂いとともに軟式テニスボールのようなゴムっぽい匂いが放たれています。強い酸性泉らしいヌメリを伴うツルスベ浴感がしっかりと肌に伝わるほか、優しいサラサラ感もあり、pH1.9のお湯とは思えない滑らかで優しいフィーリングが得られました。
建物からは年季が感じられるものの、浴室をはじめ館内は手入れが行き届いてとても清潔。しかもお風呂は使い勝手が良くて湯使いも良好。実に素晴らしい一湯でした。


清七地獄
酸性・含鉄-硫酸塩温泉 55.4℃ pH1.9 溶存物質1.38g/kg 成分総計1.46g/kg
H+:12.7mg(63.73mval%), Na+:11.7mg(2.58mval%), Mg++:10.3mg, Ca++:36.3mg(9.16mval%), Al+++:26.2mg(14.72mval%), Fe++:21.1mg(3.84mval%), Fe+++:3.1mg,
Cl-:4.2mg, HSO4-:283.6mg(17.18mval%), SO4--:668.8mg(81.88mval%),
H2SiO3:290.3mg, H2SO4:9.0mg, CO2:82.4mg, H2S:0.1mg,
加水あり(源泉が高温のため)

諫早駅から島鉄バスの雲仙行きで「西入口」バス停下車すぐ
長崎県雲仙市小浜町雲仙380  地図
0957-73-3206
ホームページ

日帰り入浴15:00~16:30
700円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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雲仙温泉 新湯共同浴場

2015年11月29日 | 長崎県

雲仙温泉は古湯・新湯・小地獄などいくつかのエリアに分かれていますが、今回訪れたのは新湯地区の「新湯共同浴場」です。九州で湯めぐりを楽しむ温泉ファンなら誰でも訪れる極めて基本的な施設であり、ネット上では既にたくさんのレポートが上がっていますので、拙ブログでは簡単な内容にとどめさせていただきます。


 
新湯エリアの突き当たりにある第二駐車場の周りには山の木立が茂っていますが、駐車場右側の木立へ伸びる階段を数段上った先にある、古びた民家のような地味な佇まいの建物が共同浴場。看板に書かれた「源泉かけ流しの湯」という文字が誇らしげです。


 
玄関には券売機が設置されていますので、ここで入浴料金を納めます。その料金はわずか100円。ワンコインでかけ流しの温泉に入れるんですから、実にありがたい施設ですね。

館内は撮影禁止なので、ここから先は文章のみでレポートさせていただきます。
出入口は男女別に分かれており、券売機で印字された券を手に男湯へ入ると、男女両浴室の間に番台がありますので、そこに置かれたボックスに券を投入します。私が入館した時の番台は無人だったのですが、退館時にはおばちゃんがいらっしゃいましたので、番台の店番は時間帯によっていたりいなかったりするのかも。

脱衣室は典型的な銭湯スタイルとでもいうべき構造で、カレンダーや各種お知らせの張り紙が壁を覆い尽くす光景は、地元の方が愛用する共同浴場そのもの。フローリングの広間の右側にはアルミの松竹錠が付いた木扉のロッカーが設置され、反対側(左側)には貴重品が保管できるしっかりとした造りの小さなロッカーも用意されています。また室内には「つぶやき(想い出の詩)」と題されたノートがぶら下がっており、津々浦々からやってきた利用者による湯あみの感想が、思い思いに綴られていました。

浴室も典型的な銭湯であり、側壁はモルタル塗りで下半分はタイル張り、床や浴槽は石板張りで、中央の浴槽を挟んで左右に洗い場が配置されるシンメトリーなレイアウトになっています。左右に分かれている洗い場にはお湯と水のカランのペアが4組ずつ(計8箇所)取り付けられており、カランから出てくるお湯は、源泉の熱いお湯を貯湯槽にストックして冷ましたものです。このためお湯を出し過ぎは禁物。

浴槽は目測で3m×2mの長方形。かなり深めの造りになっており、槽内のステップに腰をかけると肩が出ちゃうし、底にお尻をつけようとすると頭まで潜っちゃいます。このため中腰の状態で湯船に入ると、いい具合に肩まで浸かれるのですが、いくら浮力が働く水中とはいえ、いつまでも中腰でいられるはずもなく、ちょっと面倒臭いこの深さには少々難儀しました。
浴槽へお湯を注ぐバルブ付きの投入口は2つあり、ひとつには「中温」、もうひとつには「高温」と書かれています。「高温」は熱すぎ流ためか、私の訪問時は「中温」からの投入がメインとなっていました。湯面には温度計が浮かべられており、この時は43℃を指していました。このお風呂をよく利用するという島原市民の常連さん曰く「いつもは45℃近くあるんだけど、今日はぬるい」とのことでしたが、それでもピリッとくる熱さが私の肌を刺激し、それと同時に強めの酸性泉らしいヌメリを伴うツルスベ浴感がはっきりと感じられました。

湯船に張られているお湯は淡いレモンイエローを帯びたライトグレーに薄く濁り、湯中では無数の湯の花が舞っています。透明度は30~40cmほどで、槽内のステップは見えますが、上述のように深い浴槽ですので、底面までは目視できません。とはいえ、雲仙温泉の他の源泉よりは濁り方が薄いような気がします。
湯口にコップが置かれていたので、湯口のお湯を汲んでテイスティングしてみますと、明礬由来と思しき酸味や匂いが口腔の粘膜が収斂し、渋みやアンモニア臭も少々感じられました。また水で薄めて再度口に含んでみますと、硫黄由来のタマゴ味も得られました。でも変な雑味は少なく、酸味がストレートに伝わり、まるで新鮮なレモンを齧ったかのような爽やかさすら覚えました。

比較的熱めの湯船でしたが、地元の常連さんから次々に声をかけられ、みなさんとお喋りしながら湯あみを続けていたら、すっかり茹だり上がってしまい、前後不覚になるほどフラフラになってしまいました。でも地元の方との交流ができるのは、こうした地域密着型の湯屋だからこそ。おかげさまで旅の良い想い出をつくることができました。かけ流しのお湯をワンコインで楽しめる素敵な共同浴場でした。


含硫黄-単純酸性温泉 51.2℃ pH2.4 自然湧出(湧出量未記載) 溶存物質0.45g/kg 成分総計0.63g/kg
H+:4.0mg(74.48mval%), Na+:6.1mg, NH4+:1.9mg, Mg++:2.1mg, Ca++:6.5mg(6.00mval%), Al+++:3.4mg(7.13mval%), Fe++:1.3mg,
Cl-:4mg(1.80mval%), HSO4-:37mg(6.21mval%), SO4--:270mg(91.83mval%),  
H2SiO3:110mg, CO2:160mg, H2S:18mg,

諫早駅から島鉄バスの雲仙行で「雲仙お山の情報館」バス停下車
長崎県雲仙市小浜町雲仙320  地図
0957-73-3233
雲仙温泉観光協会公式サイト

9:00~23:00 水曜定休
100円
ロッカーあり

私の好み:★★
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雲仙温泉 別所共同浴場

2015年11月28日 | 長崎県
 
前回記事まで取り上げていた小浜温泉から山道を登り、濃霧に包まれた雲仙の温泉街へとやってまいりました。まず私が赴いたのは、観光客が訪れなさそうな別所地区にある共同浴場です。周囲の民家に隠れるようにひっそりと佇む、いかにもマニア受けしそうなこの地味な湯屋には、特に存在を示す看板や標識が無いため、事前に知らないとたどり着けないのですが、天井からちょこんと突き出る湯気抜きが、この小屋が湯屋であることを密かに物語っていますし、雲仙温泉観光協会の公式サイトでも「日帰り入浴施設」の一つとして紹介されていますので、地元の方のみならず私のような一見の外来客も利用可能です。
こちらの共同浴場は無人であり、出入口は男女別。男湯の入口左側に立つ銀色の細長いポストに、湯銭100円を投入して内部へお邪魔します。


 
ドアを開けるといきなり脱衣ゾーンとなり、その奥の低い位置に浴槽のお湯が覗いています。九州の共同浴場でよく見られる脱衣室と浴室が一体になっているタイプの造りなんですね。脱衣ゾーンには小さな棚にプラ籠が4つ置かれているだけで至って簡素。脱衣ゾーンと入浴ゾーンは一応は簡易な塀で仕切られていますが、そのパーテーションとして用いられているアクリルの波板といい、塗装されていないモルタル壁といい、飾り気が一切ない手作り感の溢れる質素な佇まいは、いかにも地元民向けの共同浴場らしい、なんとも言えない風情です。


 
脱衣室からステップを数段下ると、浴槽が据えられている入浴ゾーンです。年季の入った浴室いっぱいに浴槽が設けられており、赤茶色の床タイルが申し訳なさそうに僅かな幅で浴槽の周りを縁取っていました。


 
浴槽の周りには水道の蛇口が計4つ取り付けられていますが、いずれも硫化して真っ黒です。4つの蛇口のうち、奥のコーナー部分にあるものはシャワーと直結されており、また湯船の上のものは浴槽への加水用となっていました。シャワーと言ってもお湯は出ませんのではないので、掛け湯するなら桶で湯船のお湯を汲むことになります。

四角い浴槽は3~4人サイズのコンクリ造。ちょっとベージュ色を帯びた弱い白濁のお湯が張られており、その濁りによって、底面に敷かれている石材、そして沈殿している赤い湯の花がボンヤリと見えます。また浴槽縁の湯面ライン上には結晶が線状にこびりついていました。


 
小さい湯船でありながら、温泉の投入口はふたつあり、ひとつは洗い場の壁をぐるっと回って這ってくる塩ビ管、もうひとつは壁から湯面の真上に突き出ている配管です。後者の先には洗濯機の排水で使われるような蛇腹のホースが接続されており、槽内にてお湯を吐出していました。
一方、排湯に関しては、浴槽縁の切り欠けからの溢れ出しの他、壁際に立ち上がっている塩ビ管がオーバーフロー管になっており、この双方からお湯が排出されていました。
湯船のキャパに対して投入量が多く、且つ湯口にいける投入温度が50℃以上あるためか、私が入室した際の湯船は体感で47~8℃という熱い湯加減であったため、加水して45~6℃まで下げさせていただいてから入浴しました。お湯からは火山の噴気孔のような硫化水素臭と金気臭が漂い、口に含むとビタミンCのタブレット錠みたいな酸味、そして弱い金気味が得られました。浴槽周りを赤く染めているのはこの金気の仕業なのでしょう。サラスベの中に少々の引っかかりが混在する浴感は、造成泉を連想させるのですが、実のところ、ここの源泉はどのようになっているのでしょうか。館内には分析書の掲示が無いため、源泉や泉質に関してはよくわかりません。しかしながら、雲仙温泉といえば白濁した硫黄泉のイメージがありますが、当地のメジャーな温泉施設のお湯とは一線を画す独特なフィーリングですし、観光客の利用を想定していない飾り気のない湯屋は、鄙び系の湯めぐりがお好みの方には外せませんので、マニア的には立ち寄って正解の一湯でした。


温泉分析書掲示なし

長崎県雲仙市小浜町雲仙(場所の特定は控えさせていただきます)
雲仙温泉観光協会公式サイト内の紹介ページ

9:00~22:00
100円
備品類なし

私の好み:★★


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小浜温泉 雲仙荘

2015年11月26日 | 長崎県
 
前回記事の脇浜共同浴場を出て、温泉街の中心部へと戻る途中、海食崖の真下に建つ小綺麗で新しい建物「雲仙荘」にも立ち寄って、日帰り入浴を楽しみました。こちらのお宿は正式名称を「一般社団法人 全国育児介護福祉協議会 保養施設 雲仙荘」というんだそうでして、その名の通り福祉や保養を目的とした施設らしいのですが、一般客でも気軽に利用でき、日帰り入浴も積極的に受け入れています。
通りに沿った植え込みには、「長崎県唯一 湯雨竹」と手書きされた看板が立てられており・・・


 
その看板が示すように、玄関の斜前には真っ白な湯気を朦々と上げている湯雨竹が設置されていました。湯雨竹とは読んで字の如く、無数の竹の枝を竹箒みたいな感じで末広がりに吊るし、その上から熱い温泉を雨のように降らせ、竹の細かな枝を滴り落ちる間に温泉の温度を冷却させて入浴に適した温度に調節する装置です。温泉ファンにとっては別府・鉄輪温泉の「ひょうたん温泉」でおなじみですが、実際に「ひょうたん温泉」の運営会社がこの湯雨竹の特許を有しております。拙ブログは東日本の読者の方が多いようですが、この湯雨竹は九州だけのものではなく、たとえば東北でも、福島県奥会津の昭和村にある「しらかば荘」でも採用されています。
こちらで使っている源泉は100℃近い熱湯であるため、この大規模な湯雨竹を使うことにより、加水せずに湯温を下げて、入浴に適した温度にしているのですね。


 
湯雨竹の前には足湯があり、専用のタオルも用意されていました。こうした小さな配慮は嬉しいですね。



天井が高くて窓が大きなロビーはとても開放的。フロントで料金を支払い、2階へ上がります。


 
浴室のある2階の廊下は綺麗なのですが、保養施設だからか妙に白すぎて、無機質で殺風景。まるでビジネスホテルの客室か病院の廊下を歩いているみたいです。男女別の浴室のほか、家族風呂も廊下に並んでいるのですが、今回は廊下の一番奥に位置する男湯のみ利用します。


 

真っ白な壁に簾状のビニル床材が敷かれた脱衣室は清潔感があり、ゆとりのある空間スペースが確保され、エアコンも完備されていて居心地も使い勝手も良好です。またお水のサービスのほか、ソファーセットやマッサージチェアなども置かれており、湯上り後の休憩スペースとしての機能も兼ねてました。


 
浴室は鉄平石敷きの床と黒い石材貼りの壁により、落ち着いた色合いです。また浴槽上の窓から差し込む陽光が柔らかな明るさをもたらしています。男湯の場合は入って右手に洗い場が配置されており、シャワー付きのカランが計8基、そして立って使うシャワーが1基設けられています。


 

内湯の浴槽は石材造りで、手前側は緩やかな曲線を描いており、直線部分の最大寸法は目測で2m×4m。窓側の縁と円弧の端緒が接する箇所に湯口が突き出ており、湯雨竹で冷却されたお湯が滔々と注がれ、壁際の溝へ惜しげも無くオーバーフローしていました。小浜温泉の各源泉はどこも湧出温度が高いため、各施設や旅館では投入量を絞ったり、あるいは加水をするなどして湯温調整に苦心していますが、こちらでは湯雨竹のおかげで、源泉と同じ濃さのお湯を全量ふんだんに掛け流せるんですね。ただ、浴室に入った瞬間にカルキのような臭いが感じられたのですが、これって塩素消毒のためなのか、はたまた温泉由来のものなのか、そのあたりは判然としませんでした。


 

内湯からドアを開けて屋外に出ると、ベランダのような空間に露天風呂が設けられていました。格子状の覆いの下に、おかめのお面みたいな曲線を描く石板貼りの浴槽がひとつ据えられており、内湯同様、こちらでも湯口からたっぷりとお湯が注がれ、湯船を満たしたお湯は、手すりの左側にある溝へ流れ落とされていました。内湯でも露天でも、お湯が溢れ出る流路にあたる石板は、元の色がわからなくなるほど黒く染まっており、お湯の濃さを物語っていました。

内湯も露天も同じお湯で、自家源泉を100%かけ流しています。湯船では潮汁のような僅かな白濁を呈しているのですが、光の当たり方によっては若干山吹色を帯びているようにも見えます。さすが加水していないだけあって、口に含むとしょっぱさとともに僅かながら苦汁の味が感じられ、トロミのあるお湯に浸かるとツルツルスベスベの浴感がはっきりと肌に伝わりました。濃厚な食塩泉らしい質感が維持されているのは、湯雨竹のおかげですね。でも上述のように、カルキと思しき臭いがあるほか、タンスの防虫剤のような匂いも湯口から漂っていました。前者は消毒剤でしょうけど、後者は温泉由来の匂いなのかな。


 
上画像は露天風呂からの眺めです。目下では湯雨竹から朦々と湯気が上がり、コメリや国道の向こうには、波が全く立っていない穏やかな橘湾が広がっています。この橘湾は湾全体がカルデラであり、海底の地下深いところにはマグマ溜りがあって、小浜温泉や雲仙の火山活動へ熱を供給していることが知られています。つまり目の前に広がる静かな海原の下に、沸騰状態の温泉や激しい噴火をもたらす強烈な熱の源が潜んでいるんですね。外面似菩薩、内面如夜叉の内海と言っても過言ではないでしょう。いま自分を温めてくれているお湯の熱が、眼前の湾の地下深くから来ているんだと思うと、景色から得られる感慨もひとしおです。

濃厚な食塩泉ですから、温まり方が実にパワフルで、迂闊に長湯しているとボディブローを食らったかのようにフラフラになっちゃいますから、このお風呂での全身浴は適度にとどめ、ベランダで海を眺めながら潮風に当たって、体をクールダウンさせることをおすすめします。綺麗なお風呂で濃い状態のままのお湯に入れる、貴重でありがたい施設でした。


全国養護福祉会雲仙荘源泉
ナトリウム-塩化物温泉 98.2℃ pH8.4 552L/min(自噴・深度100m) 溶存物質9.364g/kg 成分総計9.364g/kg
Na+:2855mg(80.13mval%), Mg++:162.9mg(8.65mval%), Ca++:176.3mg(5.68mval%), Mn++:0.7mg, Fe++:0.7mg,
Cl-:4995mg(91.54mval%), Br-:7.9mg, I-:0.4mg, SO4--:398.5mg(5.39mval%), HCO3-:173.2mg(1.85mval%), CO3--:52.4mg,
H2SiO3:163.0mg, HBO2:76.5mg,

長崎県雲仙市小浜町南本町145-2  地図
0957-76-0550
ホームページ

日帰り入浴12:30~22:30
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5

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小浜温泉 脇浜共同浴場「おたっしゃん湯」

2015年11月25日 | 長崎県
 
前回に引き続き長崎県島原半島の小浜温泉をめぐります。今回訪れますのは鄙び系の共同浴場が好きな温泉ファンから熱く支持されている脇浜共同浴場「おたっしゃん湯」です。こちらの浴場は既に多くの温泉ファンによって語り尽くされていますので、詳しくはググって他のサイトをご覧いただくとして、今回の記事では、私が実際に訪問してちょっと気になった部分を中心に、数枚の画像とそれに対する簡単なキャプションとプラスα程度の簡単な内容に留めさせていただきます。橘湾に沿って南北に細長く伸びる温泉街の南端に位置しており、宿より民家が多いエリアの通りを歩いていると、路地の角に浴場の場所を示す看板が立っていました。


 
路地からアプローチの坂道を上がった小高い丘の上に、長年の歴史がたっぷり染み込んだいかにも古そうな木造の湯屋がどっしりと構えており、単に古いだけでなく、その前で茂る藤棚と松が一幅の絵のような美しい情景を作り出していました。昭和12年の建物なんだとか。



三和土の玄関を入るとすぐに番台があり、戦前にタイムスリップしたかのような佇まいに思わずウットリ。番台には座椅子付きのコタツがセッティングされており、普段はここに店番のお年寄りが座っていらっしゃるのですが、訪問時はご不在だったので、コタツのテーブルの上に湯銭を置いておきました(お風呂から上がると、おじいさんが店番に戻っていらっしゃいました)。


 
昔ながらの板の間の脱衣室には茣蓙が敷かれてます。古いマッサージチェアが昭和の良い味わいを醸し出していますね。漢数字でナンバリングされている木戸のロッカーは、まるで戦前の銭湯を舞台にした映画のセットみたいですが、これはセットではなく、正真正銘、本物の銭湯の什器であります。


 
かつて実使用されていた札類もいまだに掲示されつづけられており、いにしえの面影を今に伝えていました。例えば、「大人金三銭」と書かれた「入浴券発売所」や「懐中物ご用心下さい」という注意喚起、そして「本鉱泉医治効用」などなど。個人的に心が惹かれたのは、昭和十二年の日付が書かれた「浴客心得」であり、箇条書きの表現が面白いので、ここに書き写してみますと…
一、泥酔者、保護者ナキ白痴瘋癩者幼者及老衰者ヲ入浴セシメサル事
一、放歌、若クハ喧嘩シ又ハ浴槽内ニアリテ身体ヲ洗ヒ若クハ石鹸糠洗粉其ノ他浴場ヲ不潔ナラシムルモノヲ使用スル事ヲ得ス
一、手拭、櫛、及刷毛ノ類ヲ貸与セサル事
一、唾壷以外ノ喀痰及男女混浴禁止
一、前各号ノ外、浴客ノ注意スヘキ事項
などといったように、現代でも通用する事項もあれば、いま使うといろんな方面から後ろ指をさされそうな表現も随所にみられます。また表現方法のみならず、刷毛の類を貸し借りするような文化があったことにも驚きますし、ましてや唾壺(痰壷)なんて現代日本では見ることができませんよね。現在の日本から失われた庶民生活のワンシーンが垣間見れるこの手のものを、敢えて残してくださっている関係者の方々に感謝です。


 
浴室も「THE 昭和」といった趣きたっぷり。湯気抜きのある高い天井からヨレヨレの電線が一本垂れさがり、その先に裸電球が一つぶら下がっていました。もしかして夜間はこの裸電球だけで広い浴場内を照らすのかな?
床に敷かれているのは切り出された石材で、排水と滑り止めを兼ねた浅い溝が彫られていますが、長年使い込まれたことにより表面や角が丸くなっており、また長年にわたって温泉の成分がこびり続けてきたため、表面は赤茶色に染まっていました。

こうした裸電球や床の石材をはじめとして、木造の室内は古くて鄙びて昭和の情緒に満ち溢れていると表現して完結したいところですが、現役でいまでも人々から愛され続けているお風呂だからか、たしかに造りは古いものの、決して鄙びてわびしいような斜陽感はなく、想像していたよりタイムスリップ感が少ないことにむしろ驚きを覚えました。お年寄りでも日々活動的で忙しく動き回っている人は、実年齢よりもはるかに若く見えることがありますが、ここのような公共性の高い建物も同じように、客が頻繁に出入りして日々愛用され続けていると、建物としての若さを保ち続けることができるのかもしれません。

浴室奥にある洗い場には、水とお湯の蛇口の組み合わせが4組並んでいる他、昭らかに後から追加としたという感じで、カランの間にシャワーが2基取り付けられていました。またこの洗い場の右手に冷水が貯められている小さな槽が据え付けられていました。夏の暑い日に水浴びをするのにもってこいです。



浴室の中央に据えられた浴槽は目測で3m×3.5m、真ん中で二つに仕切られており、それぞれ4~5人サイズで、槽内には淡いエメラルドグリーンのタイルが張られています。前後を分ける仕切りの上には浴槽にお湯を供給するために樋が置かれており、ここに熱い温泉が落とされると同時に適度な加水も行われているのですが、この樋の先っちょが微妙に奥側の槽へ向いているために、奥側の槽はべらぼうに熱く、手前側の槽は入りやすい湯加減になっていました。奥の槽の熱さは半端じゃなく、私は手を突っ込むだけで尻込みしてしまいましたが、さすが地元の方は慣れていらっしゃるのか、常連のお爺さんは平気な顔をして肩までしっかり浸かっていらっしゃいました。

お湯は無色透明ですが、カルシウムの影響か若干白く靄が掛かったような微濁を呈しています。明瞭な塩味の他、茹ですぎた茹で玉子の卵黄のような匂いがほのかに感じられました。味・匂いともに薄かったのですが、これは加水の影響なのか、はたまたそもそも味などが薄い源泉なのか…。でも食塩泉らしいツルスベ浴感はしっかりしており、湯上りはなかなか汗が引きませんでした。

平日の昼間だというのに、常に7~8人のお客さんが出たり入ったりを繰り返しており、いかに地元の方々から愛されているか、そして憩いの場として重要な役割を果たしているかを実感することができました。お客さんのほとんどはご高齢の方なのですが、お客さんよりこの湯屋の方がはるかに年配であり、もしかしたらこの温泉のお湯を産湯にした方もいらっしゃるかもしれませんね。時代を超えて人々から愛されつづけている素敵な浴場でした。


ナトリウム-塩化物温泉 51℃ 溶存物質11367mg/kg 成分総計11370mg/kg
Na+:3289mg(73.65mval%), Ca++:252.6mg(6.49mval%), Mg++:405.8mg(17.17mval%),
Cl-:6194mg(90.56mval%), Br-:20.07mg, I-:0.357mg, SO4--:807.9mg(8.72mval%), HCO3-:68.65mg,
H2SiO3:123.0mg,
(昭和33年10月27日)

長崎県雲仙市小浜町南本町7  地図
0957-74-3402

8:00~21:00
150円
備品類なし

私の好み:★★+0.5
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