温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

然別峡かんの温泉 2014年8月復活!!

2014年09月07日 | 北海道
前々回・前回と私の2000湯記念で訪れた台湾の紅香温泉を取り上げ、本来でしたら今回も引き続き台湾の温泉をテーマにしてゆくつもりでしたが、8月末の週末に北海道の然別峡へ出かけてまいりましたので、今回は急遽、話の流れをぶった切り、つい先日の今年(2014年)8月19日に6年ぶりの復活を遂げた然別峡の名湯「かんの温泉」に関してレポートさせていただきます。


●外観および受付
 
 
このたび新たな事業者の手によって、当世風の新たな姿で復活した「かんの温泉」。2008年の閉鎖以来、復活の噂が何度となく流れては消えてきましたので、今回もどうせ延期されるだろうと半信半疑でしたが、何度目の正直になるのか、先月19日にようやく開業にこぎ着けました。と言っても、まだ本格的な営業には至っておらず、当分の間は日帰り入浴のみの営業となっており、宿泊に関しては9月中or下旬以降を予定しているんだそうです。施設内で用いる電気は太陽光や沢の水力など、自然エネルギーによる自家発電で賄っているらしく、駐車場には大きなソーラーパネルが設置されていました。


 
駐車場から玄関へ向かって緩やかに上がる階段の途中には、浴用には使われない幾つかの源泉が垂れ流されていました。このうち、コンクリで枠が組まれている箇所には足湯が設けられるようです。


 
私は土曜日の開業時間10分前(午前9:50)に現地へ到着したのですが、既に10名ほどの先客が玄関前で扉が開くのを待っていました。ちなみにオープン当初は無料開放されたらしく、初日の利用者は600人を超えたそうです。
かつてのかんの温泉は複数の浴室が混浴状態でしたが、リニューアルされた現在では男女で使い分けるべく2つの浴室にセパレートされており、玄関手前の右手に見える浴室は「ウヌカル浴室」とそのトンネル状通路です。


 

玄関を入って靴を下足棚に収め、フローリングのロビーに用意されている券売機で料金を支払い、入浴券を受付に差し出して浴室へと向かいます。まだオープンしたばかりですから、どこもかしこもピッカピカ。ロビーには良い雰囲気を醸し出してくれる薪ストーブが設置されており、その奥の壁には麓の瓜幕一帯を描いた絵地図が掲示されてました。新しいものなので、てっきり現状を表したものかと思いきや、煙を上げながら線路の上をSLが走っているではありませんか。この地を走っていた鉄道といえば昭和40年代に廃止された北海道拓殖鉄道以外に考えられませんから、この絵地図は昭和40年代以前の様子を描いているのでしょう。1970年代のかんの温泉は大変流行ったそうですから、その当時の栄光を再び、という願いが込められているのかもしれません。


 
絵地図の傍にかかっている「霊泉多効」の扁額は湯治宿として名を馳せた旧施設時代のものなのでしょう。その下には旧施設の写真が16葉ほど展示されているのですが、そのいずれも6年前の閉鎖後に写されたものと思われ、荒廃したかつてのボロボロ建物が、土砂崩れに呑み込まれている様子が記録されていました。


 
新しくなった浴室は、旧施設における大浴場を中心として構成された「ウヌカル浴室」と、同じく旧中浴場を元に構成された「イナンクル浴室」に分かれており、男女日替わり制となっています。私が訪れた日の男湯は「イナンクル浴室」でした。なお2014年9月は、奇数日に「イナンクル浴室」が男湯となります。


●イナンクル浴室
 

後述するように、リニューアル後のかんの温泉は、浴槽など旧施設の一部を転用しているのですが、脱衣室は完全な新築となっており、ウッディーな室内はどこもかしこも眩いほどピカピカです。室内中央に籠が据えられ、壁際に洗面台が設置されています。厳冬期に備えてストーブが取り付けられている他、扇風機も用意されていました。なお室内にロッカーはありません(受付の券売機隣にロッカーがありますので、貴重品はそちらへ預けましょう)。


 
旧施設をご存じの方でしたら、ここが「かんの温泉」だとは信じられないほど、浴室は綺麗に出来上がっていました。奥に細長い感じの「イナンクル浴室」内には、入ってすぐ右手に上がり湯枡が据え付けられており、洗い場や浴槽が左右交互に2つずつ配置されています。洗い場は室内手前左側と正面奥に分かれており、シャワー付き混合栓が計9基設置されています。各浴槽とも完全掛け流しの湯使いとなっています。


 

浴室手前右側の岩風呂は「イナンクルアンナーの湯」と称し、アイヌ語で「幸せになろうね」という意味なんだそうです。大きさはおおよそ4m×3mで、源泉4号と11号をミックスしたお湯が張られているのですが、せっかく設けられた投入口は使われておらず、その直下に開けられた穴より源泉が注がれていました。「イナンクル浴室」にある4つの浴槽の中では最もぬるくて、私の体感では40℃に達していなかったように感じられました。僅かに黄色を帯びながら弱く濁り(ほぼ透明)、薄い褐色の浮遊物が湯中でチラホラ舞っています。薄塩味と弱炭酸味の他、土気味や芒硝味が得られ、石膏臭と土気臭が嗅ぎ取れました。塩味は他の3浴槽と比べて弱かったかもしれません。なお湯中ではスルスルとした滑らかな浴感の中に、キシキシとした感覚が弱く混在しながら肌に伝わってきました。


 

浴室左側の窓に面した明るい湯船は「イナンクルアンノーの湯」で、「幸せになろうぜ」という意味なんだそうです。初めは「イナンクルアンナー」と「イナンクルアンノ」でどう違うのかわかりませんでしたが、大和言葉訳をよく見比べたら、前者は「~になろうよ」と女言葉であるのに対し、後者は「~になろうぜ」と男言葉だったんですね。
こちらは「イナンクルアンナーの湯」より一回り大きく(5m×3m)、湯加減は万人受けしそうな41℃程でした。湯口から落とされている源泉はトップナンバーの1号源泉でして、投入時点ではかなり熱いものの、投入量が少ない(あるいは絞られている)ために湯船では適温まで下がっていました。浴槽のお湯はオロナミンCを薄めたような山吹色を帯びており、同色の湯の花がたくさん浮遊しています。スルスル浴感の中に土類泉的なギシギシとした引っかかりが拮抗しており、塩味・土類味・金気の3要素がはっきりと感じられる、個性や主張の強いお湯です。



浴室奥の扉から屋外へ出ると露天風呂ゾーンとなり、そこには屋根掛けされた2つの浴槽が据えられていました…。あれ? この湯船には見覚えがあるぞ! そうです、この2浴槽はかつては中浴場をそのまま転用しており、リニューアルに際して老朽化した上屋を取っ払って露天にしたんですね。周囲の岩などは新しいものですが、槽内のタイルは以前のままです。


 
右側の「春鹿呼の湯」は、かつて「大黒の湯」と呼ばれていたお風呂です。2人サイズの小さな浴槽で、42℃前後の入りやすい湯加減となっており、槽内の水色タイルの影響もあるのか、お湯は薄くボンヤリとグリーン系に色づいて見えました(おそらく元々は薄い黄色を帯びているものの、水色タイルのために緑色に見えちゃうのでしょう)。使用されているのは8号源泉で、甘塩味と土類味の他、他浴槽よりハッキリと炭酸味が感じられました。


 
左側の「秋鹿鳴の湯」は、旧「不動の湯」でして、お隣より一回り大きな3人サイズです。底にはオレンジ色の沈殿がたくさん溜まっており、はじめのうちは上澄みで透明度を保っていましたが、お客さんが湯船に入ると沈殿が舞い上がって全体的に橙色に濁りました。使用源泉は「イナンクルアンノーの湯」と同じ1号源泉であり、明瞭な塩味と金気味、金気臭と土類臭の他、炭酸味もしっかりと感じられます。4つの浴槽の中では最も熱くて、体感で44℃ほどと思われ、こちらに入るお客さんは皆さん長湯できず、そそくさと他の浴槽へ移っていきました。

私が訪れた時点で、4つの浴槽を大きさや温度で比較してみますと…
・大きさ:イナンクルアンノーの湯>イナンクルアンサーの湯>秋鹿鳴の湯>春鹿呼の湯
・湯口の熱さ:秋鹿鳴の湯=イナンクルアンノーの湯>春鹿呼の湯>イナンクルアンサーの湯
・湯船の熱さ:秋鹿鳴の湯>春鹿呼の湯>イナンクルアンノーの湯>イナンクルアンサーの湯
といった感じになりました。とは言え、温度に関しては源泉のコンディションによって日々変化するものであり、湯上がり後に受付の方から伺った話によれば、最近「イナンクル」に引かれている各源泉は温度が低く、女性にはぬるめのお湯が好評なのだが、熱いお湯を好む男性にはあまり受けが良くないとのことでした。上述のように2つの浴室は日替わりですので、スケジュールを合わせてご自身の好みに応じた浴室を利用なさると宜しいかと思います。

なお、今回取り上げたのは「イナンクル」のみであり、予定の関係で翌日訪れることができなかったため、残念ながら「ウヌカル」は利用しておりません。旧施設における主浴槽であった「毘沙門の湯(現「波切の湯」)」や「恵比寿の湯(現「コンカニペの湯」)」など、かつての大浴場にあった浴槽達は、今回入れなかった(女湯だった)「ウヌカル浴室」に含まれていますので、次回訪問時は是非「ウヌカル」にも入ってみたいものです。


●宿泊棟や貸切露天

宿泊棟「こもれび荘」は旧施設時代の本館を改築しており、塗装し直されてすっかり綺麗になったものの、建物の外観はかつての姿を留めていますので、その外観を見て以前のかんの温泉を懐かしむ方もいらっしゃるかと思います。
一部浴槽以外新築された温泉棟と、この「こもれび荘」は別棟となっており、いずれ開始される宿泊営業時、宿泊客が入浴する際には両棟を屋外移動することになります。


 
温泉棟と宿泊棟を結ぶコンクリ舗装の坂道にはクマの足あとが残っているではありませんか!! もちろん、実際にここをクマが歩いたわけではなく、コンクリが乾く前に、人為的にペタペタ付けたようです。


 
「こもれび荘」はまだ工事中であるため内部には入れませんでしたが、施設の方の許可を得て、離れの露天風呂「幾稲鳴滝の湯」を見学させていただきました。こちらはまだ利用できず、見学のみですのであしからず。宿泊棟の奥に架かる小さな桟橋を渡って、専用の脱衣小屋へと向かいます。小屋内部は至って簡素で、棚に籠が用意されているばかりです。


 

この丸い木の露天風呂に見覚えのある方がいらっしゃるかと思いますが、この「幾稲鳴滝の湯」は旧「福禄の湯」をそのまま転用しているんですね。露天風呂の傍には源泉が2本あり、お湯がチョロチョロと注がれていましたが、栓をして間もないタイミングだったのか、あまりお湯が溜まっていませんでした。
この露天風呂は宿泊営業開始と同じタイミングで使用をはじめる予定だそうでして、今のところは貸切風呂として考えているとのこと。なお、宿泊者専用にするか、あるいは日帰りでも別料金で利用可能にするか等、利用方法については現在検討中なんだそうです。
この他「こもれび荘」内には、旧「寿老の湯(クロレラの湯)」を露天風呂化した足元湧出の岩風呂「イコロポッカの湯」もあり、こちらもまだ利用できませんが、宿泊営業開始時に利用可能となるんだそうです。

今回の記事では「~だそうです」という伝聞形の文が目立ってしまいましたが、先月19日に日帰り入浴のみの営業を開始させたものの、まだ試行錯誤や検討中の部分が多いため、このような表現が続いてしまいました。宿泊営業の開始時期に関しても、一応9月中旬か下旬予定とアナウンスされていますが、実際のところは白紙状態の部分が多く、料金設定も決まっておらず、9月中に本格営業に踏み切れるか不透明なんだそうです。また、食堂の営業も始まっておらず、自販機もありませんので(一応クーラーボックスによる飲料販売はあります)、利用の際は予め飲食を用意するなど、そうした点を踏まえておいた方が宜しいかと思います。

待ちに待った、この度の「かんの温泉」復活。
旧施設は湯治宿風情を色濃く残す鄙び宿でしたが、復活後の「かんの温泉」は、以前同様に掛け流しの良いお湯に浸かれる上、鄙びた温泉の雰囲気に慣れていない多くの観光客をも受容できる、綺麗で素敵な施設に生まれ変わりました。しかも以前の設備を部分的に残してくれた点は、かつての姿を知る者として嬉しい限りです。混浴が消えて男女別になったことは、時代の趨勢として致し方ないことですし、一部のお風呂が宿泊者専用になる予定である点もちょっと気がかりですが、今まで「かんの温泉」に近寄り難かった客層を呼び寄せるには寧ろ得策であり、宿泊して家族みんなで貸切風呂で団欒の時を過ごすという、これまでの「かんの温泉」になかった利用方法が生まれるわけですから、今回やっと復活出来たこの温泉を末永く持続させてゆくには欠かせない転換なのかもしれません。
私個人としては、今回入れなかった「ウヌカル」を是非体感したいので、宿泊営業が開始されたら、再訪して全てのお風呂を利用させていただいたいと願っております。


・イナンクルアンナーの湯
源泉4号・11号
ナトリウム-塩化物・炭酸水素温泉 48.5℃ pH6.8 5L/min(混合) 溶存物質3.448g/kg 成分総計3.815g/kg
Na+:978.0mg(88.18mval%), Mg++:15.6mg, Ca++:36.0mg(3.73mval%), Fe++:0.3mg, NH4+:19.5mg,
Cl-:1297mg(75.88mval%), HS-:0.8mg, HCO3-:705.0mg(23.95mval%),
H2SiO3:192.0mg, HBO2:142.2mg, CO2:366.1mg, H2S:0.5mg,

・イナンクルアンノーの湯
源泉1号
ナトリウム-塩化物・炭酸水素温泉 52.3℃ pH7.2 13L/min(自噴) 溶存物質4.646g/kg 成分総計4.759g/kg
Na+:1224mg(87.58mval%), Mg++:25.0mg, Ca++:56.0mg(4.59mval%), Fe++:0.4mg, NH4+:19.4mg,
Cl-:1101mg(51.04mval%), HS-:0.5mg, HCO3-:1812mg(48.80mval%),
H2SiO3:203.5mg, HBO2:138.5mg, CO2:112.1mg, H2S:0.6mg,

・春鹿呼の湯
源泉8号
ナトリウム-塩化物・炭酸水素温泉 44.9℃ pH7.2 4L/min(自噴) 溶存物質3.410g/kg 成分総計3.391g/kg
Na+:924.1mg(85.62mval%), Mg++:22.7mg, Ca++:52.7mg(5.60mval%), Fe++:0.4mg, NH4+:12.3mg,
Cl-:1220mg(73.21mval%), HS-:0.8mg, S2O3--:0.2mg, HCO3-:759.6mg(26.49mval%),
H2SiO3:198.7mg, HBO2:154.6mg, CO2:80.8mg, H2S:0.2mg,

・秋鹿鳴の湯
源泉1号
ナトリウム-塩化物・炭酸水素温泉 52.3℃ pH7.2 13L/min(自噴) 溶存物質4.646g/kg 成分総計4.759g/kg
Na+:1224mg(87.58mval%), Mg++:25.0mg, Ca++:56.0mg(4.59mval%), Fe++:0.4mg, NH4+:19.4mg,
Cl-:1101mg(51.04mval%), HS-:0.5mg, HCO3-:1812mg(48.80mval%),
H2SiO3:203.5mg, HBO2:138.5mg, CO2:112.1mg, H2S:0.6mg,
(いずれも平成25年10月7日分析)

北海道河東郡鹿追町字然別国有林145林班
050-3136-8039
Facebookで最新情報が提供されています。

2014年9月上旬現在、日帰り入浴のみ営業
10:00~18:00 火曜定休
650円
貴重品用ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (4)
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