温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

奥熊野温泉 アイリスパーク 女神の湯

2014年06月30日 | 和歌山県

熊野の山間部には西日本屈指のヌルヌル湯が湧いていると聞き、中辺路町近露のオートキャンプ場「アイリスパーク」へとやってまいりました。


 
敷地内はどことなくB級感を漂わせており、表現のしがたい独特な雰囲気ゆえ、訪問には及び腰になりかけたのですが、受付兼食堂であるログハウスに入ろうとすると、玄関前の犬舎でシェパード2頭がけたたましく吠えて私を威嚇し、余計に心が折れかかってしまいました。でもせっかくここまで来たんだから引き返すのは勿体無いと無理やり己を奮い立てて、ログハウスの戸を開けて食堂にて入浴をお願いしますと、奥からおばさんが現れて笑顔で対応してくださいました。

受付を済ませてログハウスを出、表をグルっと回って湯屋へ向かおうとすると、その奥の方に大きな禽舎があり、フェンスに囲まれた狭い空間の中でイヌワシが大きな翼を持て余していました。せっかくの勇姿も檻の中では所在なさ気です。


 
施設の怪しげな雰囲気とのミスマッチ感が否めない「女神の湯」とネーミングされた湯屋は離れになっており、受付を済ませてから数十メートルほど屋外を歩いて湯屋へと向かいます。ぱっと見はごく普通の平屋の建物ですが、実物を目にすると安普請であることは一目瞭然。


 
脱衣室には扇風機やドライヤーが備え付けられていますが、ロッカーは見当たりません。壁には鉱泉水および鉱泉水で作った石鹸の宣伝ポスターや、その製品や美肌効果を取り上げたフリーペーパーの切り抜きが貼り出されていました。「女神の湯」と称するからには女性へのアピールが欠かせないわけですが、たとえ鉱泉に美肌効果があったとしても、施設の趣きとしてはあまり女性受けしないような気もします…。



実用本位で天井の低い浴室は温泉風情がまるで無く、タイル貼りの室内にはポリバスが据えられ、まるで仮設のお風呂のようです。床もタイル貼りですが、後述するようにヌルヌルな鉱泉のために非常に滑りやすいので、歩くときには要注意。マヌケな私は2度ほどコケそうになりました。


 
洗い場は2手に分かれており、シャワーが計3基取り付けられています。カランからはボイラーの沸かし湯が出てきます。シャワーは3基しかないのに、桶や腰掛けはその倍以上用意されていました。



ポリバスは3人サイズで、ハンドメイドのステップが沈められています。槽内に張られたお湯は無色透明でほぼ無臭、冷鉱泉を加温循環させており、湯船では42℃くらいにキープされていました。ネットでこちらのお風呂を検索しますと、ここを訪れた方が悉くお湯の強いヌルヌル感を称賛しており、実際に入ってみますと皆さんの評価が十分納得できるほど、ウナギ湯と称したくなるほど全身がものすごいヌルヌル感に包まれ、湯中でお湯を掻いてもトロットロ、お湯から上がった後もしばらくは石鹸水を塗りたくったようなヌルヌルが持続しました。なるほど、こりゃ確かにすごいわ。多くの温泉ファンが評価しているように、西日本屈指(近畿圏では随一)のヌルヌル湯だと思います。

施設内は怪しい雰囲気だし、湯屋も安普請、浴槽はポリバスで温泉風情なんて無く、お湯は冷鉱泉の加温循環で、こうした諸々のファクターを見ると大して面白くないのですが、あのヌルヌルを体感するためにわざわざここへ来る価値はあるかもしれません。ちなみにこの鉱泉はオーナーさんが1994年に掘り当てたんだとか。分析表がどこにも見当たらず、食堂にいたキャンプ場のおじさんに訊いても「無い」と言われてしまったので、詳しいことはわかりませんが、分析表の数値を見たらさぞかし面白いデータが並んでいることでしょうね。


ナトリウム-炭酸水素塩泉 他の各種データは不明

和歌山県田辺市中辺路町近露128-1  地図
0739-65-0410
ホームページ

8:30~21:30 原則無休
650円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
コメント (4)
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川湯温泉公衆浴場

2014年06月29日 | 和歌山県
 
前回取り上げた川湯温泉「仙人風呂」から上がった後、川沿いに佇む「川湯温泉公衆浴場」にも立ち寄ってみることにしました。私個人としては6年ぶりの再訪問です。



源泉は浴場の目の前を流れる大塔川の中にあり、川縁の道路から川を見下ろすと、川底からお湯を上げる配管が立ち上がっているのがわかります。


 
赤いパトランプが回っている入口を上がり、左手に建つ受付小屋で料金を支払います。通路の先ではおばちゃん向けの地味な衣類が販売されていたのですが、こんなところで服を買い求めるような需要ってあるんでしょうか。帳場で婆様向けの服を売っているだなんて、東北の湯治宿みたいですね。
通路にある掃除用の流し台には、熱いお湯が落とされていました。これも温泉なのでしょう。


 
暖簾を潜って公衆浴場の館内へ。下足棚の上に置かれた水槽で熱帯魚がのんびり泳ぐ姿を横目にしながら、男女別の浴室へと向かいます。


  
建物は古いものの館内はそれなりに手入れされており、脱衣室もそこそこ綺麗です。室内にはロッカーと籠の両方が用意されており、好きな方を利用できます。なお扇風機は備え付けられているものの、コンセントのアンペア数が少ないらしく、ドライヤーを使いたい場合は受付に申し出て貸出用のものを借りることになります。


 
川に面した浴室は窓から燦々と陽光が降り注いで明るく、湯船にお湯を勢い良く落とす音が室内中に響いています。洗い場には混合水栓が5基ならんでおり、うち2基はシャワー付きです。公衆浴場ですから石鹸などの備え付けはありません(各自で用意しましょう)。



水色のタイルが貼られた浴槽は10人以上同時に入れそうな容量を有し、訪問時はひたすら独占できたので、大きな湯船で思いっきり手足を伸ばして存分に寛がせてもらいました。デカい風呂は気持ち良いですね。


 
配管から源泉がドバドバ投入されていますが、源泉のままでは熱すぎるので水道の配管が接続されており、加水された上で浴槽へ落とされています。お湯の配管は温泉成分に包まれて白く粉を吹いたようになっていました。そして浴槽を満たしたお湯は、左端の切り欠けより惜しげも無く大量に溢れ出ていました。

お湯は無色澄明でほぼ無臭ですが弱い重曹感があり、イオウの痕跡らしき微かな匂いも感じられたような無かったような…。サラスベのさっぱりする癖のない浴感でして、良好な鮮度感とやや熱めの湯加減が相俟って、肩まで湯船に深ると心身がシャキッと蘇り、湯上がりはさっぱりとした爽快感が得られました。優しさで入浴者を包みながらも心身を引き締めてくれるこの温泉は、慈愛深き母性の湯と表現したくなります。


 
なお、この公衆浴場の対岸には小さな露天風呂があり、すぐそばに架かってる吊り橋を渡って行くことができるのですが…


 
訪問時の露天風呂は空っぽでした。



  
ちなみに2007年11月に訪れた時の様子が上の2画像。見比べていただくと一目瞭然ですが、この6年の間、ほとんど変化していませんね。ここ数年で全国の温泉浴場や旅館が次々に廃業に追い込まれており、6年も経過すると大抵の温泉地では寂しい方向に変貌しているものですが、温泉地の要と言うべき公衆浴場が頑として以前のままの姿でいてくれると、温泉めぐりを続けている者としては安堵感を覚え、とても嬉しい限りであります。




単純温泉 49℃ pH7.3 溶存物質933.7mg/kg 成分総計1094.5mg/kg
Na+:186.4mg(61.15mval%), Ca++:47.72mg(34.37mval%),
SO4--:7.88mg(12.07mval%), HCO3-:408.8mg(82.03mval%),
H2SiO3:86.0mg, CO2:160.8mg,
(昭和30年5月4日)
加水あり、加温循環消毒なし

熊野交通(川丈線(川湯・湯の峰温泉経由))・龍神バス(熊野本宮線)・奈良交通(八木新宮線)、「川湯温泉」バス停下車
和歌山県田辺市本宮町川湯1423  地図
0735-42-1633
紹介ページ(熊野本宮観光協会公式サイト内)

8:00~21:00(受付20:30まで) 火曜定休
250円
ロッカーあり、ドライヤー貸出あり、

私の好み:★★+0.5
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川湯温泉 仙人風呂

2014年06月28日 | 和歌山県
※平成25年度(2013年12月~2014年2月末期)の仙人風呂は終了しております。
今年度(2014年11月下旬か12月頃から・冬季のみ)の開催をお楽しみに。



 
和歌山県川湯温泉の冬の風物詩といえば、大塔川を堰き止めてつくられる期間限定の露天風呂「仙人風呂」が有名ですね。毎年11月下旬に開設されますが、昨年度(平成25年度)は川の水量がなかなか減らず、例年より一週間ほど遅れた12月初旬にようやくオープンとなりました。私は運良くオープン間もない時期に当地を訪れたことができたので、前回取り上げた湯の峰温泉「民宿くらや」を朝9時頃に出発して現地へ赴くと、穏やかな天気に恵まれた大塔川の川原の中程では、温泉の湯気が天高く立ち上っていました。



皆様既に御存知のことと思いますが、川湯温泉「仙人風呂」は川をシンプルに堰き止めて葦簀を立てただけの野趣あふれる混浴の露天風呂で、備品は何もありませんが、旅館「冨士屋」やペンションの並びに「仙人風呂」開設期間中に専用の更衣室が用意されますので、ここで入浴できるスタイルに着替えることができます。なお入浴に際して、下着のままの入浴はNGですが、すっぽんぽんは勿論のこと、タオル巻きや水着着用もOKですので、週末など混雑時には水着の持参をおすすめします。またこの更衣室で脱衣したとしても、そこからお風呂まで冬の川原を結構歩くことになりますから、サンダルや上から羽織るものを用意しておくと便利かと思います。


 
専用更衣室の前には階段がありますので、そこから砂利の川原へ下り、立看板の注意書きに目を通して寸志箱に気持ちを納めてから、露天風呂専用の仮設橋で対岸へ渡ります。



目隠しの葭簀には「仙人風呂」の看板が掛けられ、その存在を温泉地側にアピールしています。葦簀の裏側(お風呂側)にはおふろマットがたくさん用意されていました。川原は小石だらけでゴツゴツしていますから、腰を下ろしたい場合はこれをお尻に敷くのでしょう。私が訪問した時には、管理のお爺さんがマット一枚一枚に水をかけて汚れを落としていました。


 
これがかの有名な「仙人風呂」であります。夏になれば増水して川底に沈んでしまうこの露天風呂は、水嵩が減る冬季になると川原が出てきて露天風呂も現れ、温泉も溜まってくれるわけですね。川原にコンクリの枠があり、その内側で温泉が砂利の下から自然湧出しています。お風呂にせり出た木の株にはネームプレートが下がっていました。
運が良いことに、週末には大勢のお客さんで賑わうこの仙人風呂も、私が訪れた時には誰もおらず、20~30分近くこの豪快な露天風呂を独占することができました。



  
 参考までに、上画像2枚は2007年11月下旬、勤労感謝の日の連休に当地を訪れた際に撮った「仙人風呂」の様子です。結構な人出ですね。ほとんどの方は水着を着用しており、Tシャツを着ている方もいらっしゃいました。



 
お風呂の名前の仙人は千人という意味を込めたダブルミーニングなのでしょうか。さすがに1000人は無理でしょうけど、数百は余裕で入れそうな大きさがあり、年によって大きさは異なるんだそうです。管理のお爺さん曰く、いつもならもっと高い位置(水平位置)に湯船があり、湯船の大きさももっと広いのだが、今年は熱いお湯を確保するため深く掘らなければならなかった、でも深く掘りすぎると川面より低くなって川水が流れこんできてしまうので、その加減が非常に難しく、結果的にオープンが遅れてしまった、とのことでした。

川原を掘り下げられて出来た露天風呂のあちこちから温泉が自然湧出しており、所々で足元から泡が上がっていて、迂闊にそうした場所を裸足で歩くとあまりの熱さに飛び上がりそうになりました。広いお風呂は全体的には42℃かその上下2℃くらいの湯加減となっていますが、場所によって熱かったり冷たかったりしますので、自分で好みの湯加減の場所を見つけるのも、この露天風呂の楽しみでしょうね。時期によって温度の分布は異なるかと思いますが、私が入浴した時には木の株のネームプレートの真下や、下流側に沈んでいる大きな岩の付近の2箇所が特に熱く、熱いエリアでは44~45℃くらいの温度になっていました。


 
穏やかな陽気を青空に恵まれ、広大かつ豪快な露天風呂を独り占めできた喜びのあまり、ついつい自分撮りしてしまいました。なお私が浸かっている場所は42.1℃という絶妙の湯加減でした。お湯は無色透明でほぼ無味無臭、癖のない優しいフィーリングです。これだけ広い自然湧出の温泉にもかかわらず、温度ムラが少ないのは素晴らしいですね。毎年開設してくださる関係者の方々に心から感謝申し上げます。


熊野交通(川丈線(川湯・湯の峰温泉経由))・龍神バス(熊野本宮線)・奈良交通(八木新宮線)、いずれかの路線バスで「ふじや前」停留所下車
和歌山県田辺市本宮町川湯  地図
熊野本宮観光協会公式サイト内紹介ページ

例年の開設期間 11月下旬か12月上旬~2月末日
(詳しい日程は熊野本宮観光協会の公式サイトでご確認を)
6:30~22:00(22:00に)
寸志
開設中は仙人風呂より下流200メートルの川原に無料駐車場あり
石鹸・シャンプー類の使用不可

私の好み:★★★
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湯の峰温泉 民宿くらや

2014年06月26日 | 和歌山県

湯の峰温泉で一晩お世話になったお宿は、公衆浴場から程近い川沿いに位置する「民宿くらや」さん。当地に数あるお宿の中からこちらを選んだ理由にはいろいろあって、まず一人客を受け入れてくれること、そして2食付きながらとってもリーズナブルなこと等、現実的な面も大きいのですが、何よりもこの古風で純和風の情緒あふれる佇まいに心が惹かれたのでした。日中でも十分絵になる外観なのですが…


 
日が暮れて辺りが完全に闇に包まれる直前の、薄暮の時間帯に川沿いの道から見上げると、熊野詣の長い歴史とマッチした、より一層ノスタルジー溢れる光景を目にすることができました。



古風な旅館建築を見上げつつ玄関の戸を開けますと、民宿だけあって館内はアットホームな雰囲気です。「ごめんください、今晩お願いしている者です」と声をかけて自分の名前を告げますと、丁寧な接客の女将さんが昔の建物らしい急な階段を上がって2階の客室へと案内してくださいました。なおこちらのお宿には客室が5室しか無いんだとか。


 
今回通された客室は川を見下ろす客室は6畳の和室で、古い造りですが綺麗に手入れされており、冷蔵庫は無いもののエアコンやテレビは備え付けられています。なおこの部屋の隣にある角部屋は、眺めの良さゆえに某梅酒のCMに使われて有名になったらしく、そこを指定するお客さんも多いそうです。



窓の下には川が流れ、正面には当地屈指の有名旅館「あづまや」が建ち、川の上流側では湯筒から湯気が朦々と白い湯煙を上がっていました。浴衣姿の美人さんが客室の窓にもたれて外の景色を眺めていたら、落ち着いた風情の中に婉然さが佇む、まるで昭和の絵葉書のように落ち着いた秀麗な景色になるのでしょうね。でもこの日この窓から首を出していたのは、残念ながら艶やかな美人ではなく脂たっぷりのオッサンなのでした。


 
夕食は18:00か18:30のいずれかを選択し、1階の広間でいただきます。この晩の献立は、ジビエのシカ肉、豚の陶板焼き、ニジマスの甘露煮、大根と肉の煮物、めはりずし、ごま豆腐、ゴボウのマヨネーズ和え、といったいかにも山間の宿らしいラインナップ。



こちらは朝食。冷奴・タマゴ・シラス・コンニャクの煮物・海苔・お漬物といった献立で、それぞれが小鉢に品よく盛られており、パッと見ではボリュームが少ないように思えるのですが、きちんと植物性および動物性両方のタンパク質が摂取できますし、山の宿らしい素朴なおかずだからこそご飯が進み、気づけばお櫃を空にしてしまいました。


 
お風呂は内湯ではなく離れになっています。画像のような木造で瓦葺きの共同浴場みたいな趣きの湯屋が川岸に取り付いており、母屋の玄関から表に出て、段を下りてこの湯屋へと向かいます。この趣きある離れの湯屋も、今回こちらのお宿を選んだ大きな理由です。



お風呂は夜通し入浴できますが、明かりは少なく、表には小さな傘が付いた裸電球が一つあるだけで、浴室内も必要最低限の照明が設けられてるばかりです。夜中に入浴する際には足元に注意しましょう。でもその薄暗さが何とも言えない風情を醸しだしてくれるんですよね。


 
湯屋の表にはお湯汲み場があり、手桶代わりの雪平鍋が縁に置かれたコンクリ枡には、激熱のお湯が張られていました。そして湯汲み枡の上には蓋が被せられた湯溜まりがあり、その周りは温泉成分の付着によってデコボコになっており、部分的に緑色に変色していました。


 
外観のみならず湯屋内部も共同浴場みたいな渋い雰囲気で、廊下は昼でも薄暗く、男女別浴室入口の前には共用の流し台が1台、ポツンと設置されています。


 
この湯屋の川に面している壁はよくある木造モルタル塗りなのですが、山側は斜面の擁壁をそのまんま壁にしているらしく、言い方を変えれば湯屋が山側に若干食い込んでいるような感じで、戸を開けて脱衣室に入ると、石を埋め込んで化粧しているコンクリの擁壁が目の前に迫ってきました。その脱衣室は2段の小さな棚にプラ籠が3つあるばかりの極めてシンプルな造りです。

浴室も実にコンパクトで、山側の壁は脱衣室同様に石積みのコンクリ擁壁、他は無塗装のモルタル壁となっており、そうした地味な佇まいは正に地元住民専用浴場の雰囲気そのものです。室内の限られたスペースにお風呂お構成する要素がギュッと詰め込まれており、山側には2人サイズの浴槽がひとつ据えられ、残された空間に真湯が出てくるシャワーが1基のみ取り付けられています。この洗い場スペースはかなり狭く、一人でも洗い場を使うと他の入浴客は湯船に逃げざるを得ません。


 
一見すれば無機的で飾り気が無さそうに思われる浴室ですが、お風呂の主役である湯船は檜造りであり、縁には白木が用いられていたり、山側の縁には竹竿が横にわたされていたりと、品の良さや温もりがさりげなく施されています。

湯の峰温泉では何本かの源泉があり、宿によって引かれている源泉は異なりますが、こちらのお宿で使われているのは「龍ノ湯源泉」です。浴室内には少々の刺激を伴う硫黄臭が充満しており、表にある湯溜まりから供給されていると思しき耐熱塩ビのバルブ付き配管からお湯がチョロチョロと湯船へ落とされています。湯口の上には「源泉掛け流し 温泉を止めないで下さい」と記されたテプラの他、「高温注意」の札が2枚も貼られており、その注意喚起の通り、配管の先から吐出されるお湯は激熱ですので、直に触れると火傷必至なのですが、極力加水を避けるためか、投入量を絞ることによって湯加減の調整を図っていました。とはいえ、先客がしばらくいないと入浴できないほど熱くなってしまうので、適宜加水用の蛇口や湯もみ棒でお湯を冷ますことになります。

お湯の見た目は基本的に無色透明で、消しゴムのカスみたいな形状の白や黒の湯の華が沈殿もしくは浮遊しているのですが、状況に応じてお湯の色は変化するらしく、私は宿泊中に3度入浴したところ、ある時は底まで霞無くクッキリ見えるほど透明であったり、別の時には灰白色に弱く濁っていたりと、コンディションによって見え方が異なっていました。
湯口のお湯をテイスティングしてみますと、匂い・味ともに卵黄と卵白を混ぜたような硫黄的な知覚が明瞭であり、ほろ苦さや微かな塩味も伴っています。入浴中の肌をさするとサラスベとキシキシが混在して得られますが、どちらかと言えばキシキシの方が優っていたようでした。ノスタルジー溢れる質素な浴室で、歴史ある熱いお湯に浸かっている時間は、なんとも言えない極上のひと時でした。

同じ晩に泊まったお客さんの中には、熊野古道のハイキングに向かうべく早朝に出発していった一人の男性客もいましたので、こちらのお宿ではそのようなイレギュラーなチェックアウトをするお客さんも受け入れているようです。風情は良いし、リーズナブルだし、それでいてお湯も素晴らしいという、非の打ち所がない素敵なお宿でした。


龍ノ湯
含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 pH7.3 溶存物質1.763g/kg 成分総計1.781g/kg
Na+:448.4mg(91.63mval%), Ca++:20.3mg(4.75mval%),
F-:11.0mg, Cl-:251.0mg(31.62mval%), HS-:2.8mg, S2O3--:2.0mg, HCO3-:774.9mg(56.72mval%), CO3--:54.0mg(8.04mval%),  
H2SiO3:162.8mg, H2S:0.5mg,

熊野交通(川丈線(川湯・湯の峰温泉経由))・龍神バス(熊野本宮線)・奈良交通(八木新宮線)、いずれかのバスで「湯の峰温泉」停留所下車
和歌山県田辺市本宮町湯の峰温泉99  地図
0735-42-0148
ホームページ

日帰り入浴の可不可は不明
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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湯の峰温泉 くすり湯

2014年06月25日 | 和歌山県
 
前回取り上げた湯の峰温泉「つぼ湯」では、熱めの湯にすっかり茹で上がり、フラフラになりながら宿に戻ったのですが、客室で横になりながら休んでいたら体調が元に戻ったので、その晩のうちに再び外出して、公衆浴場の奥にある「くすり湯」へ向かいました。公衆浴場と同じ建物内にあり、番台を挟んで手前が公衆浴場、奥が「くすり湯」であります。


 
古風な名前から伝統的な湯屋様式の建物を想像しますが、予想に反して館内は現代的であり、フローリングの明るくウッディな玄関ホールには、休憩用のベンチや扇風機が用意されていて、壁には昔日の湯の峰温泉を写した古い写真が展示されていました。



お風呂は男女別の内湯が一室ずつあるのですが、その他に家族湯もあるんですね。この時は施錠されていたので内部は見学できず。


 
脱衣室の張り紙では、お風呂で石鹸・シャンプーが使えない旨が告知されていました。体や髪を洗うのなら隣の公衆浴場を使って頂戴、ここはじっくり湯浴みして温泉の効能を味わうところですよ、ってことなんですね。


 
浴室の戸を開けた瞬間、室内に立ち込める芳醇なタマゴ臭と微かな刺激臭が私の鼻孔をくすぐりました。そんな匂いこそ充満していますが、冬なのに湯気篭りが無く、快適な室内環境が保たれており、しかも終始独占できたので、絶好なコンディションに恵まれて湯浴みすることができました。
室内側面は水滴の飛び散る下半分が石板貼りで、上半分は剥き出し羽目板張り、床には石板タイルが敷かれています。そして左側に洗い場が設けられ、右側に浴槽が据えられています。洗い場といっても上述のようにここでは石鹸等が使えないために、あくまで掛け湯するための設備になるわけでして、一応お湯と水の水栓のペアが3セット取り付けられており、お湯の水栓からは源泉が出てくるのですが、この時はお湯をいくら出しても只管冷たいままで、なかなか熱くなってくれませんでした。長い時間にわたってこの洗い場は使われてなかったかもしれず、それゆえに水栓用にストックしていたお湯は冬の外気ですっかり冷めてしまったのでしょう。この冷たい水を体に掛けるのはイヤですので、私は桶で湯船のお湯を直接汲んでかけ湯しました。


 
浴槽はどういう訳か、槽内の右半分は木造、左半分はコンクリ造りとなっていて、縁や槽内のステップには木材が用いられています。どうしてこんな使い分けをしているのかな。左端の木箱から熱い源泉が落とされており、木箱内部のお湯が流れる箇所には繊維上の白い湯の華が付着して、その部分を真っ白に染めていました。加水加温循環消毒の一切ない完全掛け流しの湯使いであり、湯船を満たしたお湯は浴槽右隅の切り欠けより溢れ出ていました。


 
お湯はほぼ無色透明ではっきりとしたタマゴ臭を漂わせており、口に含むとしっかり味蕾に主張してくる茹で卵の卵黄味と卵白のような蛋白系の味、そして清涼感を伴う弱い苦味と微かな塩味が感じられました。また湯船の底では消しゴムのカスのような大小とりどりの湯の華がたくさん沈殿しており、お湯を動かすと一気にブワッと舞い上がりました。桶でお湯を汲むと上画像のように容易く湯の華が掬えます。
さすがに100%の生源泉ですので、湯船に浸かった際に肌に染み入ってくるお湯の濃さと鮮度感の良さは素晴らしく、気持ち良い浴感もさることながら、身も心もシャキッと蘇りました。さすが「くすり」を名乗るだけありますね。


含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 89.6℃ pH7.8 87L/min(掘削自噴) 溶存物質1.763g/kg 成分総計1.781g/kg
Na+:448.4mg(91.63mval%), Ca++:20.3mg(4.75mva%),
F-:11.0mg, Cl-:251.0mg(31.62mval%), HS-:2.8mg, S2O3--:2.0mg, HCO3-:774.9mg(56.72mval%), CO3--:54.0mg(8.04mval%),
H2SiO3:162.8mg, H2S:0.5mg,

熊野交通(川丈線(川湯・湯の峰温泉経由))・龍神バス(熊野本宮線)・奈良交通(八木新宮線)、いずれかのバスで「湯の峰温泉」停留所下車
和歌山県田辺市本宮町湯峯110  地図
0735-42-0074(湯の峰温泉公衆浴場)
湯の峰温泉公衆浴場紹介ページ(熊野本宮観光協会公式サイト内)

6:00~22:00
390円(2014年4月以降)
ロッカーあり(無料)、石鹸類使用不可、ドライヤーなし

私の好み:★★+0.5
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