温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

吉松温泉郷 愛宕温泉

2012年05月31日 | 鹿児島県
 
吉松温泉郷の各温泉はそのほとんどが加久藤盆地の中で点在していますが、今回取り上げる「愛宕温泉」は例外的に盆地の中ではなく、湧水町の中心から東へ外れた、霧島山地と盆地が接する境界地帯に位置しており、周辺の他温泉とは立地条件がやや異なる施設です。
私は愛宕温泉に関して何の予備知識もなく、国道268号線の沿道にたまたまこの温泉の看板を見つけたので、てっきり国道から近い場所にあるのかと勘違いして看板が指し示す路地へと進んでいったのですが、路地を奥へ進めどもなかなかそれらしき建物は見えてこず、やがて集落の中へ突っ込んで路地はますます狭隘になり、ここで本当に合っているのかと不安になっていた頃、集落を抜けた先の、杉木立に囲まれた休耕地かあるいは集落跡と思しき棚田状の空き地が続く谷あいに、一軒だけポツンと赤い瓦の載せた木造建築が目に入ってきました。てっきり古い温泉浴場なのかと思っていましたが、実は2005年にオープンしたんだそうでして、まだ開業して10年も経っていないとは思えない渋い佇まいです。



敷地内の駐車場の片隅には「温泉明神」なる碑が立っていました。その周囲の設備は源泉井関係のものでしょう。



玄関を上がると正面にまっすぐ廊下が伸びており、右側手前に受付用の小窓が設けられているので、こちらで料金を支払います。館内にはロッカーが無いとのことなので、貴重品はこちらで預かってもらうことにしました。浴室は廊下の左側です。


 
ウッディーでぬくもりのある脱衣室内はとっても綺麗で手入れが行き届いており、界隈の公衆浴場の中では飛びぬけているかと思います。



浴室は公衆浴場にしてはこじんまりとした造りながらも、やはりよくメンテナンスされていてとても綺麗、快適に利用することができました。また、室内には芳しいモールの香が漂っており、戸を開けた途端に鼻孔をくすぐる芳香に、思わず鼻をクンクンと鳴らしてしまいました。



洗い場にはシャワー付き混合栓が3基設置され、水栓から出てくるお湯は源泉です。


 
浴槽は縁が木で、槽内は化粧石板貼り。約5人サイズといったところでしょうか、岩組みの湯口から源泉が注がれ、縁から洗い場へ惜しげもなく大量にオーバーフローしています。湯口にはグランドレーキのような掻き混ぜ棒が立てかけられていましたが、訪問時の湯加減はそれほど熱くなかったため、使用せずに済みました。
お湯は濃い琥珀色透明で、マルーン色の湯の華が沢山浮遊しており、上述のようにモール泉らしい芳香がしっかりと感じられ、お湯に鼻を近づけると木を燻したような(やや焦げた炭のような)匂いも嗅ぎ取ることができました。口に含むと重曹味とともに口腔にちょっと残る苦みも確認できます。なお泡付きは見られませんでしたが、ツルツルスベスベ浴感が明瞭に肌に伝わり、ついつい後を引いてしまう非常に心地よいお湯です。この浴感に関しては、モール系のお湯であることがその感触をもたらしているのでしょうが、メタケイ酸が497.1mgも含まれていることも注目に値するかと思います。
なお浴槽のお湯は縁からのオーバーフローの他、浴室窓下にあけられた穴からも排湯されており、この排湯管が露天風呂へ接続されているように見えてしまうのですが、よく観察したところ、露天風呂にはつながっておらず、ちゃんと外部へ排水されているようです(あくまで推測ですけど)。



200円の公衆浴場なのに露天風呂が利用できちゃうのが非常にうれしいところですね。訪問時は外気に冷やされてぬるめでしたが、番台のおばちゃんに一声かけたところ、すぐに湯量を増やして湯加減をいい塩梅へと調整してくれました。


 
そんなに広くないので、お湯から上がってゆったりできるようなスペースがないのはちょっと残念ですが、200円なのですから贅沢を言ってはいけませんね。露天に入れるだけで十分有難いと思わなきゃ。周囲は板塀で囲まれているため、お湯に浸かっちゃうと周りの景色を眺めることはできませんが、立てば矢岳方面の山稜を望むことができました。また周囲は木立で覆われているため、緑豊かで非常に静かです。

モール系のお湯らしく湯上りはすっきり爽快。満足しながら退館時に番台へ挨拶すると、奥でテレビを見ていたおばちゃんはニコニコしながら「いい湯だったでしょ。うちのお湯はモール泉だからね」と自慢げに語っていました。盆地内の古い公衆浴場には抵抗感がある方でもこちらのお風呂なら気持ち良く利用できるでしょうね。おすすめです。


単純温泉 52.7℃ pH7.5 溶存物質717.4mg/kg 成分総計785.3mg/kg 
Na+:121.2mg(85.83mval%),
HCO3-:334.4mg(94.00mval%),
H2SiO3:497.1mg, 遊離CO2:67.9mg,

鹿児島県姶良郡湧水町中津川1292
0995-75-4757

14:00~18:00
200円
備品類なし

私の好み:★★★
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吉松温泉郷 雪松温泉

2012年05月30日 | 鹿児島県
 
吉松温泉郷に点在する公衆浴場のひとつ「雪松温泉」は、またの名を「まむし湯」と称し、昔まむしに噛まれた人がこのお湯に患部をつけたところ傷が治ったという伝説があるんだそうです。果たしてどんなお湯に巡り会えるんでしょうか。この温泉は川内川に架かる鶴丸橋の南側に位置しており、道路に面して看板も立っているので、迷うことなく容易に辿りつけました。



料金は湯小屋ではなく、その隣に建つ民家の専用窓口で支払います。


 
昔ながらの湯小屋風情を強く漂わせる外観の浴場。裏手には貯湯タンクや源泉ポンプがあり、辺りにはポンプの乾いた駆動音が響き渡っていました。



脱衣室内の様子。外観こそやや鄙びていますが、内部はそれほど古さを感じず、どちらかと言えば界隈の他の浴場に比べて明るくて綺麗な印象を受けました。またこの地域の公衆浴場で珍しく、脱衣室内にコインリターン式のロッカーが設置されているのは外来者としてとても嬉しいところです。


 
タイル貼りの浴室には長方形の浴槽がひとつあるだけ。また洗い場にはお湯と水の蛇口が1組あるだけで、余計な物が無くガランとしていました。浴槽の縁からは絶え間なくお湯がオーバーフローしており、湯船に体を沈めるとお湯が勢いよくザバーっと溢れ出てゆきました。間違いなく加水加温循環消毒なしの完全掛け流しでしょうね。湯船のお湯はかなり熱く、あまり長湯できませんが、重曹型の単純泉ですから、お湯で茹で上がっても体力はさほど奪われることなく、寧ろ浴感の良さゆえに、何度も入りたくなってしまいました。ガランとした洗い場でトドになったら気持ち良かったのかもしれません(さすがに実行しませんでしたが)。



赤いバルブ付の湯口から源泉がドボドボと落とされています。分析表に記されている源泉温度から推測するに、このお湯は源泉そのまんまの状態で浴室へ供給されているものと思われます。お湯はこの地域でよく見られるモール系であり、琥珀色透明の湯中では焦げ茶色の湯の華がたくさん浮遊しています。浴室に満ちている芳醇なモールの匂いが心地よく、一般的なモール泉に比べてややほろ苦みが強いように感じられました。モール泉らしいツルツルスベスベ浴感がはっきりと肌に伝わり、熱めの湯加減ながら湯上りはさっぱり爽快です。先に入っていた常連客のおじさん曰く、飲むと胃腸に良いらしく、かつては大きなポットボトルに汲んでゆく客もいたそうです。


単純温泉 50.5℃ pH8.0 溶存物質922.0mg/kg 成分総計928.4mg/kg
Na+:169.2mg(77.56mval%),
HCO3-:455.5mg(76.30mval%),
H2SiO3:171.8mg

JR吉都線・鶴丸駅より徒歩12~5分(約900m)
鹿児島県姶良郡湧水町鶴丸14-1  地図
0995-75-3616

7:00~21:00
250円
ロッカー(100円リターン式)あり、他の備品類なし

私の好み:★★
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吉松温泉郷 中原温泉

2012年05月29日 | 鹿児島県
 
吉松温泉郷の中でも宮崎県境に近い場所に位置している「中原温泉」は、前回取り上げた「前田温泉」に続いて印象的だった温泉施設のひとつです。般若寺地区生活改善センターの道路を挟んだ隣に建っており、路肩に立てられているとても小さな温泉マークが目印。注意していないと見逃すこと必至なこのミニミニ看板を迷うことなく一発で発見できた時は、歓喜のあまり思わず一人でガッツポーズしてしまいました。


 
矢印が描かれた板には小さく温泉名と電話番号も書かれていますが、間近で見ないと読めないほど小さな文字である上に、ペンキが剥げ掛かっているので、実質的には読み取れません。



県道を挟んだ向かいの空き地(休耕地?)には源泉井のポンプや貯湯タンクがありました。ここから引湯しているんでしょうね。タンクからの引湯距離は数十メートルと推測されますから、お湯の鮮度はまずまずでしょう。期待に胸が膨らみます。


 
温泉マークが無ければごくごく普通な平屋の民家にしか見えませんよね。私も訪問時には「本当にここは温泉浴場なんだろうか」と不安に駆られてしまったのですが、敷地内(駐車場)に車を停めてエンジンを切ると、そばで庭仕事をしていたお婆ちゃんがこちらの方へやってきて、唐突な来訪者たる私の用件も聞かずに「今日は朝から天気がいいねぇ」と、さも私を知人であるかのようにニコヤカに話しかけてくれたので、私の不安はたちまち霧消し、お婆ちゃんに釣られてしばらく世間話に華を咲かせてしまいました。


 
さてお婆ちゃんに入浴したい旨を申し上げると、お婆ちゃんはどうしたらよいかわからないと言った様子で首を傾げるばかり。あれれ、この家の方ではなかったのか。このままでは埒があかないので民家の中へ声をかけてみると、今度はお爺さんが登場し、この方が話を全て理解して料金を受け取ってくれました。後で知ったのですが、おうちの勝手口を兼ねた窓の下には赤い矢印がプリントされた看板が立てかけられており、矢印が指す方向には自立型の灰皿があって、その台の上に載っている箱へセルフで料金を投入するのがこちらの流儀のようです。


 
こちらが湯小屋で、いわゆる大浴場は無く、貸切風呂が4室あるばかりです。4は忌み番号であるためか、個室の番号は4が飛ばされて1・2・3・5号室となっていました。各室とも同じような間取りになっており、1と2、3と5がシンメトリな構造になっていました。利用の際は空いている任意の個室が使えるので、今回はトップナンバーである1号室を利用することにしました。簡素な造りの脱衣室には長椅子や籠が用意されており、お風呂場入口にはミッキーマウスの足ふきマットが敷かれていました。温泉施設ではなく個人宅のお風呂をお借りしているような気分です。


 
お風呂は多くの方が温泉に対してイメージするような浴室とは程遠い、ごく普通の民家のようなこじんまりとした造りですが、でもこんなお風呂こそ鄙び温泉ファンは、普通ではないものを感じ取ってしまうのではないでしょうか。
浴槽は1~2人サイズでワインレッドのタイル貼り、浴室床もモルタルながら同じ色で塗られていますが、長年に及んでその表面は温泉に触れているためか、全体的に白っぽくコーティングされています。壁から突き出たバルブ付きの鉄管よりかなり熱い源泉が注がれており、投入量は利用客の好みに任せて開閉することが可能なのですが、バルブを全開にすると瞬く間に湯船が熱くなってしまうので、私は若干絞り気味の投入量にしました。それでも浴槽が大きくないので、湯船に体を沈めてみるとザバーっと洪水のようにお湯が溢れ出てゆき、洗い場の排水が追い付かずに、床に置いていた桶がオーバーフローのお湯にプカプカ浮かんでいました。

温泉の質はこの地域でよく見られるモール系でして、ごく薄い烏龍茶のような色を帯びた透明、口に含むと微かな渋みを伴ったほろ苦味が感じられ、室内にはモール臭が充満しており、当然ながらお湯に鼻を近づけて直接嗅いでも芳香がしっかり鼻孔をくすぐります。モール系のツルツルスベスベ浴感がとっても気持ち良く、湯上りもさっぱり爽快です。なお室内にはシャワー付き混合栓が一つ設置されており、水栓から出てくるお湯も源泉です。

いわゆる温泉風情は感じられない草臥れた個室風呂ですが、都会じゃ決して味わえないB級感溢れる鄙びっぷりと、そこに漂う長閑な空気や時間が何ともいえない情緒を醸し出しており、一人で思う存分楽しめる良質のお湯と相俟って、想い出に残る一湯となりました。


温泉分析表見当たらず

JR吉都線・鶴丸駅より徒歩15分強(約1.3km)
鹿児島県姶良郡湧水町般若寺295-4  地図
0995-75-3259

営業時間不明
300円
備品類なし

私の好み:★★★
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吉松温泉郷 前田温泉

2012年05月28日 | 鹿児島県
 
加久藤盆地に湧く温泉地のひとつ鹿児島県湧水町の吉松温泉郷は、地続きになっているお隣宮崎県の京町温泉郷と似たような雰囲気を漂わせる鄙びた共同温泉の宝庫ですが、今回はこの中でも私のハートをギュッと掴んで離さなかった前田温泉を取り上げてみます。国道沿いという好立地にも関わらず、看板など自己主張するものが見当たらないため、初めて訪れた時には存在に気付かずに一旦通過してしまいました。もっとも、この温泉は吉都線と国道がクロスする地点にあるので、その事実さえ知っていれば見失うことはないかと思います。現地に辿り着いて辺りをよく見まわしたら路地の街灯に小さな看板がくくりつけられていましたが、そこに書かれた文字は半分消えかかっており、ほとんど役に立っていません。



波板に立てかけられた表札。こちらも全く目立たず。



敷地内には古風な造りの立派な母屋の他、平屋の建物や湯屋がコの字状に並んでいます。文字が消えかかったミニミニ看板や表札などでここが温泉であることを確認しているものの、敷地内の様子は完全に一般民家そのものなので、ここで本当に入浴できるか不安になってしまいましたが、冷静になって平屋の建物をよく見たら、玄関引き戸の網戸越しに料金表が貼られているのを発見したので、この建物へ声をかけ、中にいらっしゃった女性の方に料金を支払いました。



湯屋の脇、法面下には、架台に載せられた貯湯タンクが据え付けられていました。


 
こちらが湯小屋。渋い佇まいに思わず胸がキュンとしちゃいます。平屋の建物に対してちょっとオフセット気味に建てられており、看板どころか湯屋の建て方すら自己主張を控えているかのようです。庇の下には古い分析表が貼り付けられていましたが、長年風雨に当たってきたためか文字が消えかかっています。


 
総木造の湯屋。板張りの脱衣所には四角い棚があるだけで、至って簡素な造りなのですが、ガラス窓で囲まれているのでとっても明るくて通気性も良く、古いからと言って決して居心地は悪くありません。また浴室とはガラス戸で仕切られているので、お互いに丸見えです。


 
この光景を目にした途端、思わず目尻が下がってニンマリしてしまいました。何年前から時計の針が止まっているのだろうか。そんなことを考えたくなるとってもノスタルジックな浴室。矢岳を越えた北側の人吉盆地に点在する公衆浴場(新温泉鶴亀温泉など)と共通するレトロな風情を漂わせています。



上2つの画像とは逆向きに、浴室から脱衣所を見た様子。




古いお風呂ゆえに、シャワーなどの設備は無く、浴槽の脇にバルブで開閉する水道口がひとつ取り付けられているだけです。


 
モルタルの浴槽は長い年月を経ているうちに角が取れて丸みを帯び、槽内は温泉の色が幾重にもこびりついて恰も漆塗りのように黒く染まっています。男女仕切りの壁からちょこんと突き出た、まるで出臍のような穴から源泉が出ており、浴槽の脱衣所側の縁からお湯がオーバーフローしています。当然ながら加温加水循環消毒一切無し。



主浴槽の隣には浅くて小さな源泉溜りがあり、ここのお湯は触れないほど激熱でした。主浴槽へは上述の小さな穴の他、この源泉溜りからもお湯が供給されており、結果として主浴槽の湯加減はやや熱めでした。お湯の見た目は琥珀色をした透明で、色が濃いために浴槽の底は霞んで見えます。木の香りを熟成させたような芳醇なモール臭が非常に芳しく、ほろ苦さや重曹味がしっかりと感じられ、泡付きこそないものの、モール泉らしい極上のツルスベ浴感が存分に楽しめました。熱めのお湯ですが、一旦湯船に体を沈めると、鼻へ抜ける香りや心地よい浴感に嵌ってしまってなかなか湯船から出ることができず、熱さで体がフラフラになった後でも更にお湯に浸かっていたくなるほど、病み付きになる魅惑的なパワーを有していました。また湯上りは重曹泉的な効果が発揮されてさっぱり爽快。


 
浴室内の桟に立てかけられた古い「入浴者心得」。九州にはこうした骨董品的なものが現役で使われている湯屋がたくさんあって、関東人の私としては桃源郷のように思えてなりません。


吉松川東5号
単純温泉 62.2℃ pH8.0 溶存物質484mg/kg 成分総計484mg/kg 
Na+:54.6mg(58.5mval%),
HCO3-:200.1mg(85.6mval%),
H2SiO3:173.9mg

JR吉都線・鶴丸駅より徒歩15分(1.1km)
吉都線の築堤下に2台分の駐車場あり
鹿児島県姶良郡湧水町鶴丸1281-2
0995-75-2139

5月~10月→6:30~21:00
11月~4月→7:00~20:00
200円
備品類なし

私の好み:★★★
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神原温泉 老人福祉センター瑞風園

2012年05月27日 | 青森県
 
弘前と鰺ヶ沢を結ぶ青森県道31号線の高杉集落からちょっと入ったところにある老人福祉施設です。私はいままで県道31号線を数え切れないほど何度も車で走っていますが、普段は福祉施設と全くご縁が無い生活を送っているためなのか、こんなところに老人福祉施設が存在し、しかも外来者も利用できる温泉浴場が併設されているなんて、つい最近まで全然知りませんでした。しかも温泉ファンの間ではなかなかお湯の評判が良いのです。県道沿いに立っている施設の看板にも建物外観にも、温泉の存在を知らしめるようなマークや文字は表示されていませんから、予め情報を得ていないとここに温泉があるだなんて全く気付かないでしょうね。温泉ファンのみなさんって、どうやって温泉の情報を仕入れているんでしょうか。



玄関を入るといかにも福祉施設らしいジャージ姿(だったと憶えているのですが…)のスタッフのみなさんが事務室の窓口で対応してくれました。市外から来た旨を申し出ると、窓口の台帳に住所・名前などを記入してほしいと言われます。「神奈川県川崎市・・・」と嘘偽りなく素直に記入しおわると、スタッフの一人が事務室から出てきて、親切にも浴室まで案内して下さいました。
受付からロビーホールで左折し、通路を進んだ突き当たりの左側に男女別の内湯があります。いかにも公営の福祉施設らしい無機質な館内で、お風呂というより病院みたい。なお画像に写っている館内は薄暗いのですが、これは節電しているためです。薄暗いゆえに無機質さが余計に強調されますね。



こちらはあくまで老人福祉施設であり、浴室はあくまでその施設の中のひとつにすぎない、という姿勢なのか、脱衣室はとってもこじんまりしていて、室内には棚しか設置されていないような実に簡素な造りです。室内の奥には一段高くなっている何も無い3畳ほどのスペースがあるのですが、これは湯上がりにちょっと休憩するための空間なのかな。また天井にはシーリングファンが設置されていますが、スイッチはスタッフが操作するので客はON/OFFしちゃいけないみたいです。



脱衣室内で衝撃的な貼り紙を発見。「脱衣場・浴室・浴槽に汚物が発見された場合は、直ちに入浴を中止し2時間程消毒清掃を行いますので、ご了承ください」とのこと。うわっ、マジか! ということは湯舟にウ●コがプカプカしちゃうことがあるってことか! こんなことをわざわざ告知しているのですから、いままで実際にそんな「事件」があったんでしょうね。この施設の利用者は殆どがお年寄りですから、意に反して自分の体をきちんとコントロールできない爺様がいらっしゃるんでしょう。



さて浴室に入ります。こちらもシンプルな構造で、浴槽ひとつと洗い場があるだけ。洗い場にはシャワー付き混合栓が6基設けられており、水栓のお湯は源泉が出てきます。65歳以上の市民は無料で利用できるとあってか、訪問時は6つある水栓が全て埋まっているほど盛況しており、私は湯舟の傍で掛け湯しながら水栓が空くのをしばらく待っていたのですが、お年寄りは動作が遅いためになかなか空かず、そのうち別の客(もちろん爺様)がやってきて、狭い浴室はやや混乱気味の様相を呈していました。


 
浴槽は4~5人サイズの長方形。湯舟まわりに湯口らしきものはありませんが、浴槽の底に2つ穴があいており、この穴から加温された源泉が投入されています。源泉温度が40度未満のため熱交換器を使って加温しているそうでして、温泉分析表にはこの熱交換器にお湯を通すため循環させている、と書かれていますが、いわゆる大規模施設にあるようなお湯を使いまわすための循環ではなく、あくまで加温するために熱交換器のコイルに通しているだけで、加温の上で放流式に近い湯使いが実施されているのだろうと思われます。その証拠に浴槽の縁からは、見ているだけで惚れ惚れしてしまう程ふんだんにお湯がオーバーフローしていました。

見た目はごく薄い黄褐色透明で、湯中では薄い褐色の湯の華が浮遊しており、カランのお湯を口に含むとごく薄い塩味と重曹味が舌に残り、ほんのりとしたアブラ臭や芳しい臭素臭が湯面から漂い香っています。
特筆すべきは気泡の多さでして、給湯装置の勢いによるものか、あるいは源泉湧出時から有しているのか、湯中では非常に気泡が多く、入浴すると全身たちまち泡だらけになり、また浴槽からオーバーフローして洗い場のタイル上を流れてゆくお湯の中でも最後まで泡は消えようとしません。湯中に含まれる重曹のおかげでツルツルスベスベの非常に滑らかな浴感なのですが、この泡付きによってその爽快さが更にパワーアップし、入浴中は何度も肌をさすってしまいました。途中で浴槽の温度を計測しに来たスタッフ曰く、この時の湯加減は42.5℃とやや熱めだったのですが、湯上がりはそんな温度を忘れさせてしまうくらいスッキリサッパリ、さわやかな状態が持続しました。大量放流と大量泡付きが楽しめるのですから、温泉ファンの評価が高くなるのも頷けます。こんなお湯に無料で入れる爺様たちが羨ましいなぁ。

さてお湯に大満足して退館しようとすると、事務室のスタッフの方から住所と名前を再確認されました。台帳に記入した際にちょっと殴り書きに近い筆体だったために一部が読み取れなかったようなのですが、スタッフは私から確認し終えると、その内容を別の帳面に転記していました。そんなに外来者の来館データって大切なのかしら?


神原温泉(再)
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉 39.8℃ 溶存物質1.0407g/kg 成分総計1.0495g/kg
Na+:269.1mg(89.52mval%),
Cl-:352.9mg(73.65mval%), 194.4mg(23.61mval%),
H2SiO3:105.9mg, 遊離CO2:8.8mg,
加温(入浴に適した温度に保つため熱交換器を使用)および循環(熱交換器使用のため)あり


青森県弘前市大字高杉字神原93-2  地図
0172-95-3535
ホームページ

月曜定休
浴室利用:午前10時~閉館時間
月により閉館時間が異なる(4月~10月→19時、11月→18時、12月~2月→17時、3月→18時、日曜日は通年で午後5時閉館)
市外250円
備品類なし

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