温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

和倉温泉 総湯

2016年09月14日 | 石川県・福井県

前回記事では和倉温泉の「奥田屋」での宿泊を取り上げましたが、せっかく和倉温泉を訪れたのですから、当地のランドマークである公衆浴場「総湯」にも立ち寄ってみることにしました。以前の総湯は洋風でどことなくメルヘンチックな雰囲気すら漂う建物でしたが、2011年にリニューアルオープンし、和の趣きたっぷりで重厚感のある建物に生まれ変わりました。北陸、殊に旧加賀藩領では温泉地における庶民向けの代表的公衆浴場を「総湯」と称しますが、このドッシリとした構えは「総湯」の名前に相応しい圧倒的な存在感を放っており、見るだけでも訪れる価値がありそうです。


 
湯屋の前は広場になっており、その一角には足湯や飲泉場が設けられていました。いずれも無料で利用できます。試しに飲泉場のお湯を口にしてみたのですが、まず非常に熱いことに驚き、そしてとっても塩辛く、且つ苦汁の味も強いことに仰天しそうになりました。伝説によれば、和倉温泉は今から1200年前に白鷺がお湯で傷を癒しているところを漁師夫婦が見つけたことが開湯の端緒となっているそうですが、こんな熱くてしょっぱいお湯を傷口に触れさせたら、沁みて痛くて飛び上がっちゃうんじゃないでしょうか。


 
足湯や飲泉場の他、アツアツのお湯を活かして温泉たまごをつくる槽もありました。備え付けのカゴにタマゴを入れ、15分でできあがるんだとか。


 
前回記事でも触れましたが、この時の私は夜に当地へ到着し、日の出頃に出発してしまったので、残念ながら明るい時間帯の当地を見ておりません。上2枚の画像は「総湯」正面を、夜間および日の出頃に撮ったものです。時間帯は違えども、それぞれ違った趣きがあって良いものですね。特に屋内の照明の灯りが漏れる夜間の格子戸はとっても綺麗です。


 
立派な暖簾と大きな提灯が掲げられた、威風堂々とした構えの玄関。
ここを通る時には、ちょっとした殿様気分が味わえました。


 
玄関ホールは観光情報を発信したり、当温泉の歴史を説明するコーナーがあるほか、温泉街の施設のジオラマが展示されていました。いかにも現代和風といった開放感と和の落ち着きを両立させたつくりです。


 
受付前の券売機で料金を支払い、受付カウンターに券を差し出します。通路の先で男女が分かれており、男湯は右側でした。


 
今回記事では公式サイトより画像を拝借させていただきました。いずれも女湯の画像ですが、男湯もほぼ同様の構造で、女湯とシンメトリになっているようです。
浴室内は、とても440円で利用できる公衆浴場とは思えないほど広くて開放感があり、そして多彩な浴槽が設けられています。天井が高くて換気状態も良いために湯気篭りがなく、綺麗で快適な入浴環境が維持されています。室内側壁の下半分は石材のようなタイルが貼られ、上半分は白木の羽目板を採用。そして柱はコンクリ打ちっ放し。総じて素材感を活かしており、伝統的な和の趣きと現代的なデザインおよび機能性を両立させたつくりです。洗い場にはシャワー付きカランが計20基設置されており、公衆浴場にもかかわらずボディーソープやリンスインシャンプーが備え付けられています。

浴槽類は、主浴槽・副浴槽・泡風呂・サウナ・水風呂・そして上がり湯というラインナップで、主浴槽・副浴槽・泡風呂の3つに関しては温泉が使われています。主浴槽は(目測で)6m×4.5mという大変大きなもので、万人受けする41〜2℃にセッティングされています。それに隣接している副浴槽は3m×4.5mで、やや熱い43℃という湯加減となっていました。両浴槽とも浴槽内はタイル張りで枠組み(縁)は御影石。両者を隔てる仕切りに湯口が設けられていて、双方へ温泉を落としているのですが、そればかりでなく、この湯口は飲泉場を兼ねていて、湯口のお湯を飲むことができました。主副両浴槽とも循環装置が使用されているようですが、循環だけでなく、新鮮源泉も投入しているのですね。
もうひとつの温泉槽である泡風呂槽は洗い場に近い位置に設けられており、扇のような形状で、やや深い作りになっていおり、41℃前後の湯加減に調整されていました。41℃前後と聞くと、ぬるめで長湯できそうに思えますが、ところがどっこい、こちらで長湯するのは容易いことではありません。その理由は後ほど。


 
露天風呂の画像も公式サイトより転載させていただきます。夜間の画像は女湯、画像内の文字が青文字の画像は男湯です。画像で比較する限り、浴槽のつくり自体には大差ないようですが、女湯には屋根がかかっている一方、男湯は屋根がなく、開放感では男湯の方が勝っているかもしれませんね。庭園風の設えになっている露天風呂の足元は洗い出し仕上げになっているのですが、入浴客の動線になる部分だけ石材が敷かれています。浴槽は3m四方の正方形で、縁には御影石が用いられ、浴槽内は緑色凝灰岩が敷かれています。とても500円未満で利用できる公衆浴場とは思えない、一流旅館並みにお金がかかっている立派なお風呂です。石組みの湯口からお湯が投入されていますが、しっかりと循環されており、人が湯船に入った時だけ幾許かのお湯が浴槽外へ溢れ出ていました。

さて温泉に関してですが、各浴槽に引かれているお湯は集中管理されている混合泉で、内湯に設けられている飲泉場のお湯を実際に飲んでみますと、苦汁味を伴う塩辛さが大変印象的。特に飲泉場では臭素臭やアブラ臭がふんわりと嗅ぎ取れました。また温泉を用いている浴槽で入浴すると普通のお風呂では体感できないような強い浮力が得られ、塩分の濃さを実感することができました。濃度の濃い食塩のお湯ですから、湯中でこそツルスベ浴感が得られるものの、湯上がりには引っかかりやベタツキが残り、強力に火照ります。上述のように長湯できそうな浴槽もあるのですが、凶暴に火照るお湯ですからボディーブローのように体力を消耗するので長湯は禁物。体力を奪われてヘロヘロになってしまいます。実際に、各浴槽では縁に腰掛けてぐったりと休んでいる方がかなりいらっしゃいました。ですから、お風呂から上がる時には真湯で体についた温泉を洗い流した方が良いかもしれませんね。湯上がり後はしばらくホコホコと温まりが持続し、冬ですら汗が引きませんでした。前回記事で取り上げた「奥田屋」のような掛け流しのお湯と比べると幾分パワーダウンしている点は否めませんが、でも循環のお湯だからといって侮るなかれ、なかなか本格的なパワーが得られるお湯です。お風呂としても規模が大きく、立派なデザインであるにもかかわらず、低めの料金設定となっており、それでいて使い勝手も良好。能登の観光拠点として燦然たる存在感を有する素晴らしいお風呂です。


混合泉(第5号・第8号・第10号・第13号の混合。弁天崎源泉貯湯槽流出口にて採水)
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 82.4℃ pH7.8 湧出量測定不能(動力揚湯) 溶存物質19.32g/kg 成分総計19.34g/kg
Na+:4116mg(52.28mval%), NH4+:0.5mg, Mg++:7.8mg, Ca++:3138mg(45.74mval%), Sr++:46.4mg,
Cl-:11480mg(98.56mval%), Br-:40.8mg, I-:0.2mg, SO4--:182.1mg,
H2SiO3:92.0mg, HBO2:42.1mg, CO2:21.3mg, 
(2014年9月10日)
循環ろ過装置を使用・消毒あり(衛生管理のため)

七尾駅や和倉温泉駅より路線バスで和倉温泉バスターミナルへ。バスターミナルより徒歩1分
石川県七尾市和倉町ワ5-1  地図
0767-62-2221
ホームページ

7:00~22:00 毎月25日定休
440円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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和倉温泉 奥田屋

2016年09月12日 | 石川県・福井県
 
石川県の和倉温泉といえば「加賀屋」が象徴するように巨大且つ豪華絢爛な旅館をイメージしますが、それとは対極にある小さい家庭的なお宿も多く存在しています。半年前の今年(2016年)冬の某日に能登方面へ出かけた際、そんな小さなお宿の一つである「奥田屋」で一泊しました。なおこの時は旅程の関係で日没後に和倉温泉へ到着し、日の出の頃に出発してしまったので、残念ながら明るい時間の画像がありません。ごめんなさい。
和倉温泉のバスターミナル南側には、かつて三業地だったような裏路地風情の強い木造家屋密集地があり、こちらのお宿もそんな一角に立地しています。渋く鄙びた外観は、庶民的な街並みに溶け込んでおり、袖看板が無ければ民家と見紛うかもしれません。


 
赤い絨毯が敷かれた玄関の奥には、ソファーが置かれたロビーが用意されており、全体的に昭和から時が止まっているかのような、どこか懐かしい雰囲気が感じられます。


 
今回通された客室は6畳の和室。テレビやエアコンの他、金庫やポットなどひと通りの備品類が用意されており、古いながらも清掃が行き届いていたので、問題なく一晩を過ごすことができました。なお洗面台やトイレは共用のものを使います。今回は素泊まりでの利用でしたので、お食事の紹介はできません。あしからず。


 
さてお風呂へと参りましょう。浴室は1階にあり、女湯は玄関の左側、男湯はロビーの右奥といったように、男女の浴室はロビーを挟む形で離れて配置されていました。
脱衣室の張り紙によれば、こちらのお宿は明治時代に湯治宿として創業した老舗宿なんだそうです。脱衣室は、右手に洗面台が2つ、左手に棚が設置されており、湯気で天井がふやけてしまうのか、青い板で応急的に補修されていました。


 
総タイル貼りの浴室は実用本位なつくりで、左手に浴槽、右手に洗い場が配置され、洗い場にはシャワー付きカランが4基並んでいます。地味で温泉風情に欠けるのですが、室内には鼻腔をツーンと刺激する臭素臭やアブラ臭、磯の香のような匂いが充満しており、戸を開けた瞬間に香ってきたそれらの匂いに、思わず心が躍ってしまいました。経験則から申し上げると、地味ながらもお湯の主張が強いお風呂って、いわゆるアタリである場合が多いんですよね。お湯への期待に胸が膨らみます。


 
タイル張りの浴槽は五角形を逆さにしたような形状をしており、最大寸法で幅1.5m、奥行3m強ほど。底面に泡風呂装置が埋め込まれており、脱衣室にあるスイッチを押すと、ブクブクと騒々しく稼働し、余計にお湯の匂いが室内へ充満しました。湯面近くの壁タイルに手書きで「湯の花」と書かれていたのですが、これって何を意味するのかな?(元々は「お湯の中に浮いているのは湯の花です」という旨の注意書きだったのかな?)


 
多孔質の岩をくり抜いた穴に塩ビ管が突っ込まれ、それをカバーする竹筒の穴から、直に触れないほど熱いお湯がチョロチョロと注がれていました。この湯口は部分的にベージュ色に染まっており、また竹筒の周りは温泉成分(主に塩分か)の白い結晶で覆われていて、お湯の濃さをビジュアル的に感じることができます。
和倉温泉では各施設とも集中管理しているお湯を引いているため、基本的にはどこで入っても同じお湯なのですが、当然ながら湯使いによって客に伝わる質感が異なり、こちらのお風呂のお湯は、正直申し上げて次回記事で取り上げる予定の公衆浴場「総湯」よりもはるかに濃く新鮮で主張の強いお湯となっていました。具体的には、見た目は無色透明。上述のようにツンと鼻の粘膜を刺激するような匂いがはっきりと漂い、口に含むと非常に塩辛く、また苦汁の味も強く感じられました。あまりに濃い味であるため、水で口を濯がないと塩辛さや苦汁の味がしばらく口の中に残ってしまいます。湯中では濃い土類泉のようなギシギシとした引っかかりがあり、湯上がりにはパワフルに火照ります。私が入浴した日は冬でしたが、風呂上がりは暖房要らずで、むしろ全身が火照って汗が止まらず、冷蔵庫に入れておいた缶ビールをついつい一気飲みしちゃいました。かなり火照ってベタつく熱の湯ですので、暑い夏季は風呂から上がる前に軽く真湯か水などで温泉のお湯を濯ぎ流した方が良いかもしれません。

脱衣室の張り紙に「湯ぶねに温泉をためる時から一切加水せずに湯量による温度調整を行っております」と書かれているように、こちらでは加水なしでの湯加減を調整しており、投入量がチョロチョロと少なめであるのは、おそらくそのためかと思われます。それゆえ濃いお湯を堪能することができるわけです。不特定多数の人が利用する公衆浴場と違い、宿のお風呂は利用者が限られていますから、投入量を絞っても湯鈍りが発生しにくいのですね。浴槽のお湯は縁よりしっかり溢れ出ており、槽内での投入や吸引も見られなかったので、完全掛け流しの湯使いかと思われます。
かなり凶暴なお湯ですので、迂闊に長湯すると湯あたりしそうになりますが、でもお湯が良いため、不思議とやみつきになって、宿泊中は何度も入ってしまいました。やっぱり名湯の掛け流しは凄いですね。小さなお宿の小さなお風呂だからこそ掛け流しにできるのでしょう。このお風呂に入れて良かったとつくづく思いました。


混合泉(第5号・第8号・第10号・第13号の混合。弁天崎源泉貯湯槽流出口にて採水)
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 82.4℃ pH7.8 湧出量測定不能(動力揚湯) 溶存物質19.32g/kg 成分総計19.34g/kg
Na+:4116mg(52.28mval%), NH4+:0.5mg, Mg++:7.8mg, Ca++:3138mg(45.74mval%), Sr++:46.4mg,
Cl-:11480mg(98.56mval%), Br-:40.8mg, I-:0.2mg, SO4--:182.1mg,
H2SiO3:92.0mg, HBO2:42.1mg, CO2:21.3mg, 
(2014年9月10日)
(館内掲示の分析書は平成22年(2010年)分析のものでしたが、他施設で同じ混合泉の2014年版がありましたので、ここでは2014年版のデータを抄出しました)

七尾駅や和倉温泉駅よりバスで和倉温泉バスターミナルへ。バスターミナルより徒歩1〜2分
石川県七尾市和倉町ヨ部5-1  地図
0767-62-2062

日帰り入浴に関しては不明
シャンプー類あり、他備品類見当たらず

私の好み:★★★
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金沢市 兼六温泉

2014年09月01日 | 石川県・福井県

金沢市街の銭湯にはモール系の温泉に入れる施設があり、その具体例として以前拙ブログでは「石引温泉 亀乃湯」を取り上げたことがありましたが、今回は金沢大学付属病院の裏手に広がる住宅密集地で、憩いの場として地域住民に愛されている「兼六温泉」を訪ねます。まずは金沢の中心部である香林坊から路線バスに乗って「暁町」バス停で下車します。兼六と名乗っていますが、兼六園からは1kmほど隔たっていますので、市街中心部からは無理して歩こうとせずバスを利用した方が無難です。


 
住宅街の路地を数分歩いた先の、西光寺という寺院の手前に位置しています。周囲の住宅に溶け込む控えめな佇まいでして、青と赤の濃淡で施設名が記された看板が無ければ、ここが銭湯だとは気づかないかもしれません。入口はふた手に分かれていますが、どちらから入っても同じ下足場につながっています。その代わり下足場で男湯と女湯の入口が分かれており、各浴室へ入ってすぐのところにある番台で湯銭を支払います。



館内には昭和60年に源泉を掘り当てた時の写真が展示されていました。ボーリングされた鑿井から温泉が自噴しており、そのお湯を手にした子どもたちが笑顔を浮かべています。こんな街なかで温泉が湧き出たんですから、お湯が噴き上がった瞬間は皆さん大興奮だったでしょうね。


 
浴室は白色基調のタイル張りで、浴槽の手前にたくさんのカランが配置されるレイアウトは、まさに街中の銭湯そのものです。浴室入口の傍にはサウナらしき小部屋があるのですが、私の訪問時には使われていないようでした。洗い場のカランは計18ヶ所あり、うち14ヶ所には壁直付のシャワーも付帯しています。カランが並ぶ真ん中の島には、ケロリン桶や腰掛けが綺麗に並べられていました。



カランから吐出されるお湯は源泉であり、押しバネ式のコックを押下すると、ご覧のように琥珀色のお湯がドバドバ出てきます。


 
洗い場の奥に据えられている内湯浴槽は2分割されており、段違いになっています。上段の浴槽は4~5人サイズでやや深い造りになっており、ちょっぴり熱めに加温された循環湯が槽内供給されているほか、「源泉」と篆刻された扇形の銘板下には湯溜まりの枡が置かれていて、下部の配管から上がってくる非加温の生源泉が枡から浴槽へと落とされています。
一方の下段浴槽は、サイズこそ上段とほぼ同じですが、深さは一般的な浴槽と同等になっており、上段から流下してくるお湯を受けていて、41~2℃という万人受けする湯加減がキープされていました。また上段槽から落ちてくるときの勢いによるのか、湯面には白く細かな気泡が浮かんでいました。なお。この下段槽のお湯は切り欠けより床へ溢れ出ていましたので、お湯を加温循環させつつも並行して源泉を投入する循環放流併用の湯使いかと思われます。



銭湯なのに露天風呂に入れるのはありがたいですね。四方を建物で囲まれた中庭のような空間ですので、景色は全く望めませんが、区画いっぱいに岩風呂が広がっており、余ったスペースに植栽や石灯籠を配して日本庭園のような趣をつくりだしています。浴槽縁に並べられた岩の塩梅が良く、この岩に頭の載せながら仰向きに入浴すると、いい感じに頭がフィットしてくれました。


 
日本庭園の池をイメージしていると思しき竹筒より、打たせ湯のような感じで非加温の生源泉が注がれているほか、その脇からは加温されたお湯も投入され、これによって入浴に適した温度への調整が図られていましたが、それでも私の体感で40℃に達しておらず、寧ろこのおかげでじっくり長湯を楽しむことができました。若干ぬるいお湯の方が長く浸かれるので、却って体の芯からよく温まるんですよね。内湯ではお湯が循環されていましたが、露天では放流式を採用しているようでして、ステップと建物壁の隙間から、投入量に見合った分のお湯が惜しげもなく排湯されていました。

お湯は濃い紅茶のような琥珀色を帯びており、湯中では紅茶の茶葉を粉々にしたようなダークブラウンの細かな湯の花が浮遊しています。お湯を手に掬ってみますと、ほんのりとしたモール臭や臭素臭が香り、薄い塩味と清涼感を伴う重曹的なほろ苦みが感じられました。湯中における気泡の付着は見られませんが、ヌルっとした感触が混じるツルスベ浴感がハッキリと肌に伝わり、特に内湯で顕著でした。重曹泉は加熱するとヌルヌル感が増す傾向にありますから、加温によってこの浴感が強まったのかもしれません。なお館内表示によれば塩素消毒を実施しているとのことですが、それらしき臭いはほとんど気になりませんでした。
銭湯料金にもかかわらず、モール系のお湯が張られた露天風呂に入れる、素敵な温泉銭湯でした。


1号源泉
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 38.4℃ pH8.1 102L/min(動力揚湯) 溶存物質2.685g/kg 成分総計2.695g/kg
Na+:781.4mg(94.90mval%),
Cl-:726.7mg(55.83mval%), Br-:4.3mg, I-:0.4mg, HCO3-:966.8mg(43.16mval%), CO3--:8.6mg,
H2SiO3:120.9mg,
加温あり(入浴に適した温度に保つため。露天風呂は気温の低い期間に加温水を投入)
内湯は循環濾過あり(衛生管理のため)
内湯・露天風呂とも塩素系薬剤使用(衛生管理のため)

金沢駅や香林坊などより北鉄バスで「暁町」停留所下車徒歩2~3分(約200m)
石川県金沢市暁町18-36  地図
076-221-2587

平日14:00~23:00、日曜祝日13:00~23:00 金曜定休
420円
ロッカー・ドライヤーあり、石鹸など番台で販売

私の好み:★★
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小松市 今江温泉元湯

2014年08月31日 | 石川県・福井県
 
石川県小松市周辺には温泉浴場がいくつか点在していますが、今回はそれらの中でも年季の入った渋い佇まいが温泉ファンの心を惹きつけて止まない温泉銭湯「今江温泉元湯」へ行ってまいりました。木場潟の水が日本海へと注ぐ前川の畔に位置しており、入口は多くの車が往来する県道11号線に面しています。前川はかつて水運が盛んで頻繁に舟が行き来していたそうですから、今江温泉は過去と現在の主要交通がクロスする場所に立地しているんですね。
なおこの浴場の目の前には「今江」バス停が立っていますので、時間さえ合えば小松駅(あるいは粟津駅)から路線バスを使ったアクセスも容易なのですが、今回私はレンタサイクル(※)を利用して、界隈の街並みを眺めながら現地へと向かいました。なお駅前から「今江温泉元湯」まで、寄り道せずに走ったところ約10分で辿りつけました。
(※)小松市のレンタサイクルについては「カブッキータウンこまつ」内の専用ページをご参照ください。小松駅前の「こまつ芸術劇場うらら」が貸出・返却場所です。なお利用の際には申請書に必要事項を記入の上、身分証明書の提示が求められます。



 

北陸本線開通後は水運が廃れてしまったものの、昭和30年頃までは農家が舟で川を行き来していたらしく、近年では水郷の風致を活かすべく、和船の体験乗船などの活動も行われているんだそうです。浴場の前にはとても古い石垣護岸と船着場が残されているのですが、ここには藩政期に「前川船番所」が設けられ、領内侵入や逃亡、そして武器や食糧の流出を厳しく取り締まっていたんだそうです。



浴場入口の右側並びには休憩所の入口が別箇に設けられていました。銭湯入口と同じような造りで、両方共ノッペラボウで地味ですから、注意しないと間違ってしまいそうです。なお室内にはカラオケも用意されているんだとか。宴会等で使われるのかな?


 
休憩所棟の更に右手には駐車場があるのですが、その一角には水色の大きなポリ盥が据えられており、その傍に佇む観音様の下から温泉が注がれていました。ポリ盥の周りには腰掛けが置かれていますので、簡易的な足湯として設けられたのでしょうね。



月並みな表現で恥ずかしいのですが、使い古された表現を使えば、数十年来、時計の針が止まっているかのような館内はまさに昭和の銭湯であり、最新鋭の映画CGでも決して再現できないこの渋い風情には非常にシビれます。年号が平成に変わって26年も経った今日まで、よくぞこの姿を保ち続けながら現役でいてくれました。


 
このような回転式の傘立ては、かつて私も子供の頃に目にしましたが、今では殆ど目にすることがなく、下足場に置かれていたこれを見て、懐かしさのあまり、つい写真を撮ってしまいました。また番台近くの壁には、表面に錆が浮いている石鹸の自動販売機と思しき金属製の小さな箱がくくりつけられていました。おそらく所定の硬貨を投入すると、ピタゴラスイッチ的な動作によって石鹸が取出口へポトリと落ちる極めてアナログな装置だったのでしょう。さすがに今では使えないようでして、単なるタオル置きに成り下がっていました。


 
昔懐かしい木板扉のロッカーにはひとつひとつに番号がふられており、その上下には常連さんの風呂道具がズラリと並んでいて、モノトーンな棚をカラフルに彩っていました。多くの常連さんによってこの銭湯は支えられているんですね。
ロッカーの左隣には、これまた懐かしい子供向けメダルゲームが2台並んでいるではありませんか。2台うちスロットマシーンの料金は100円ですが、「スペースライナー」と称する右側の古い機械は何と10円! 今でも動くのかわかりませんが、確かに私が子供の頃は、この手のものは大抵10円で楽しめました。幼き頃に商店街で母に10円をねだった記憶が蘇ります。


 
天井に吊り下げられている「不老長寿湯」の扁額。
脱衣棚の上には年月を経て茶色く変色した「ききめ」が掲示されています。


 
浴室も昭和の銭湯らしい佇まいであり、番台や脱衣場で抱くレトロな期待を裏切りません。経年劣化によってタイルの至るところに補修された跡があり、色や模様がバラバラだったりデコボコになっていたりするのですが、天井や壁上部に塗られたコバルトブルーの塗装が目に鮮やかな室内は、天井に突き出た湯気抜きが明かり取りを兼ねているためとても明るく、男女両浴室の仕切りには部分的にガラスブロックが用いられているので、塀が立ちはだかることによって生まれがちな閉塞感も軽減されていました。


 
浴室に入ってすぐ右側にはサウナがあり、左側にはステンレス製浴槽の水風呂が据え付けられているのですが、サウナは午後1時から使用可能となるらしく、私が訪問したお昼前には利用できませんでした。水風呂と並んで浴室左側には洗い場のカラン8基が一列に並んでおり、そこに貼り付けられた横長の鏡には、地元商店の広告が入っていました。なお水栓から吐出されるお湯には源泉が引かれているようです。
そして浴室の一番奥には、ポトスの蔓が這っている岩の飾りや石灯籠と並んで、2人サイズの電気風呂が据えられています。この部分だけサンルーフになっており、岩や石灯籠で飾られているということは、もしかしたら露天風呂的な空間をイメージしているのかもしれませんね。


 
浴室中央の主浴槽は二等分されており、それぞれ4人サイズで、脱衣室側(上画像の右側)では泡風呂装置が騒々しく稼働しており、その勢いによって浴槽縁よりサウナの方へ向かってお湯が少しずつ溢れ出ていました。一方、奥側(上画像の左側)は純粋な温泉のみの浴槽であり、泡風呂より若干深い造りになっていて、男女仕切りの下の部分は反対側(即ち女湯)と一体になっていました。


 
床の一部には、浴槽に向かって泳ぐ2匹の鯉が埋め込まれていました。昔の職人さんのさり気ない遊び心なんでしょうね。風流です。


 

ちょっと深めの奥側浴槽には「源泉」と記された湯口が突き出ており、そこからお湯がドボドボと絶え間なく落とされていました。湯口の上に掲示されている説明によれば、観音様の恵みによって与えられたこの温泉は、地下630メートルより50℃のお湯が毎分400リットル噴出しており、ゆっくり入浴すれば万病に効き、慢性の胃腸病や便秘には飲泉が良い、とのことです。胃腸が虚弱な私としては是非観音様のお恵みにあやかりたく、備え付けのコップで口にしてみますと、甘塩味と弱ニガリ味、そして弱芒硝味が感じられ、匂いに関してはほぼ無臭でした。お湯の色合いは無色透明であり、湯中では食塩泉的なツルスベ浴感が得られましたが、それと同時に弱いながらキシキシ浴感も存在しており、両者せめぎ合いつつもツルスベの方が遥かに優勢でした。

源泉の湯口から奥側浴槽へ落とされたお湯は、2つの浴槽を隔てる仕切りにあけられた穴を通って泡風呂浴槽へと向かい、その縁からオーバーフローしているのですが、湯使いに関しては純然たる掛け流しなのか、はたまた循環装置が使用されているのか、そのあたりの状況ははっきりと把握できませんでした。ただ源泉100%のお湯が直接投入されていることに間違いありません。湯上がり後は汗がなかなか引かず、少々のベタつきもありましたが、とてもよく温まり、いつまでもその温浴効果が持続しました。寒さの厳しい北陸の冬の心強い味方です。

この時はなかなか汗が止まらなかったのですが、せっかくレンタサイクルを利用しているのだから、風光明媚なところでクールダウンしようと考え、お風呂から出た後に木場潟へ向かい(所要約10分)、静かな湖水越しに白山連峰を眺めながら、湖畔のベンチでゆっくり体の火照りをとりました。自転車はこのようにフレキシブルな行動ができるので良いですね。


今江温泉1号源泉
ナトリウム-塩化物温泉 44.5℃ pH7.7 392L/min(動力揚湯) 溶存物質4.950g/kg 成分総計5.005g/kg
Na+:1517mg(81.58mval%), Ca++:257.4mg(15.87mval%),
Cl-:2464mg(87.00mval%), Br-:9.4mg, SO4--:443.2mg(11.55mval%), HCO3-:59.2mg(1.21mval%),
H2SiO3:68.8mg, HBO2:89.5mg, CO2:55.2mg,

JR北陸本線・小松駅から小松バスの粟津A線・佐美線・矢田線で「今江」バス停下車すぐ
石川県小松市今江町7丁目205  地図
0761-21-4126

6:00~22:00 毎月16日定休(日曜の場合は翌日)
420円
ロッカー・ドライヤーあり、石鹸やタオルなど販売あり

私の好み:★★
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芦原温泉 芦泉荘

2014年08月30日 | 石川県・福井県
 
芦原温泉での宿泊は、某大手予約サイトでリーズナブルな料金を提示していた「芦泉荘」でお世話になることにしました。こちらの正式名称は「公立学校共済組合芦原保養所」と言うんだそうでして、その名の通り公立学校に勤める先生のための保養施設なのですが、学生時代に先生方から白眼視されていた私のようなチャランポランな外来者の利用も積極的に受け入れており、日帰り入浴も可能です。あわら湯のまち駅から線路沿いに4分ほど歩いて踏切を渡ったすぐのところに立地しており、駅のホームからも建物が見えますので、方向音痴な方でも問題なくたどり着けるかと思います。また広い駐車場も完備されていますので、車でのアクセスも便利です。


 
今回案内されたお部屋はツインの洋室で、一昔前のごく一般的なビジネスホテルといった感じですが、清掃は行き届いていますし、ひと通りの備品の他、ユニットバスも設置されていますので、快適に一晩を過ごすことが出来ました。



お宿は線路に面しており、私が泊まった部屋のすぐ下では、えちぜん鉄道の電車が時刻表通りに右へ左へと走行していました。線路ばかりか踏切も目の前にあるため、それらの音が気になる方もいらっしゃるかと思いますが、鉄ちゃんにとっては寧ろ電車のジョイント音がやすらぎの眠りに導く子守唄となるでしょう。画像に写っているのは、元々JR飯田線で走っていた119系を改造したMC7000形ですね。


 
電車云々はともかく、1階フロント前から伸びる通路を進んで浴室へ参りましょう。浴室は施設名の2文字をとって、それぞれ「芦の湯」「泉の湯」と名付けられており、男湯は「芦の湯」となっていました。札には「源泉掛け流し温泉」と記されていますが、実際にはどんなお湯なんでしょうか。


 
脱衣室はとても広々としており、天井が高くて明るく、綺麗に維持されていますので、とても清々しく使えました。室内には貴重品ロッカーやドライヤーなど標準的な備品類の他、床置型エアコンや扇風機も設けられており、お風呂で火照った体を快適に涼めることもできます。脱衣室はお風呂への導入部であるとともに、入浴を締めくくってトリを飾る空間でもありますから、室内の快適性や利便性は、そのお風呂の印象を大きく左右するものですね。


 
お風呂は内湯のみで露天風呂はありません。床面積が広いだけでなく天井も高いためにかなり開放的であり、湯気の篭りもなくて快適なのですが、タイル張りに長方形の大きな浴槽という無機的かつ実用的な造りゆえ、温泉というより室内プールのような雰囲気もそこはかとなく感じられます。もしこの浴槽縁に競泳用水着姿の人を立たせて写真を撮り、その画像を誰かに見せて「ここはプールですよ」と嘘をついても、何人かはその偽説明を信じてしまいそうな気がします。
なお室内の壁に沿ってシャワー付き混合水栓が13基並んでいます。また浴槽の他にサウナや水風呂も設けられているのですが、私の訪問時は節電を理由にサウナは使用が停止されており、これに伴って水風呂も空っぽでした。


 
浴槽はとても大きく、20~30人は優に同時入浴できそうな容量を擁しています。槽内は淡い水色系のタイル張りで、縁には赤御影石が用いられており、その浴槽縁からは静々とお湯が溢れ出ていました。ということは、通路の札に書かれていた「掛け流し」の文言に偽りはなさそうですが、ところがどっこい、槽内ではしっかりお湯が吸い込まれており、底面の穴からは加温されたお湯が供給されていました。こちらで使われているお湯の源泉温度は40℃未満なので加温は仕方ないのですが、館内表示によれば加温のみならず循環濾過消毒も実施されているんだそうです。


 
では「掛け流し」という表記は何を意味しているのかと言えば、この湯口から出てくるお湯を指しているのだろうと思われます。大きな浴槽の隅っこに取り付けられたこの半円形の受け皿のような湯口からは、30℃後半のぬるいお湯がチョロチョロと注がれており、お皿から溢れたお湯は浴槽へと落とされています。つまり循環しながら、このように新鮮な源泉も並行して投入していますよ、ということなのでしょう。「掛け流し」という言葉の定義は曖昧であり、表現に対する法的な規制も緩いため、温泉を提供する側の胸先三寸でその意味合いがかなり変わってきますが、こちらのお宿や前回取り上げた「芦原荘」など、当地ではその適用範囲が相当曖昧なようです。

そんな言葉の問題はさておき、この新鮮源泉がなかなかの良泉でして、見た目は無色透明ですが、口にすると甘塩味と弱ニガリ味の他、タマゴ味とタマゴ臭が感じられ、お皿の内部やボルト周りなどではイオウ由来と思しき細かく白い湯の花がユラユラと揺れていました。特にボルトではそのユラユラがはっきりと目視できました。本音を申し上げれば、このぬるい源泉だけの放流式浴槽を、たとえ一人用の小さなものでも良いから設けていただきたいものですが、湯量などいろんな事情があって、浴用ではお湯を循環しながら大切に使わざるを得ないのかもしれません。この湯口で得られたイオウ感は、湯船では完全に消えていますが、甘塩味やニガリ味は残っており、消毒臭もあまり気にならず、湯中で肌を擦ると、食塩泉らしいツルスベ感と塩化土類泉らしい引っ掛かりがお湯の中で拮抗していました。また湯上がり後は強く火照り、食塩泉らしいパワーを実感することができました。
湯使いには残念な点があるものの、湯口の新鮮源泉から感じるイオウ感を楽しみながら、大きな浴槽で思いっきり四肢を伸ばして、存分に寛がせていただきました。


第74号
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 37.3℃ pH7.7 40L/min(動力揚湯) 溶存物質3.147g/kg 成分総計3.149g/kg
Na+:858.0mg(72.03mval%), Ca++:272.0mg(26.19mval%),
Cl-:1602mg(87.83mval%), SO4--:228.0mg(9.23mval%), HCO3-:73.7mg(2.35mval%), Br-:4.9mg, I-:0.3mg, HS-:0.5mg,
H2SiO3:53.6mg, HBO2:17.3mg, H2S:0.1mg,
(平成17年6月21日)
加水あり(浴槽清掃後、お湯を張り込むとき、いち早くお風呂のサービスを提供するため)
加温あり(入浴に適した温度に保つため)
循環濾過あり(温泉資源の保護と衛生管理のため)
消毒あり(衛生管理のため塩素系薬剤を使用)
並行して新鮮源泉の投入もあり

えちぜん鉄道三国芦原線・あわら湯のまち駅より徒歩4分(350m)
福井県あわら市堀江十楽1-10  地図
0776-77-3200
ホームページ

日帰り入浴可能(時間・料金等は直接お問い合わせください)
(湯めぐり手形使用不可)
貴重品ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

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