温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

鶴岡北京田温泉 SUIDEN TERRASSE その3(お風呂など)

2022年10月24日 | 山形県
前回記事の続編です。


さて拙ブログの主題である温泉浴場について紹介してまいります。館内表示(デザイン性を優先しているため少々見難い感あり)に従って通路や階段を歩いてゆき、浴場棟へと向かいましょう。
敷地の隅の方にある浴場棟はドーム状の建物で、宿泊棟とは連絡通路でつながっているのですが、この通路は暖房されているとはいえ厳寒期は寒く、とくに「月白の湯」へ向かう際には一旦屋外へ出るため、その出入口から雪が吹き込んできます。冬にお風呂を利用する際には、上から羽織るものを着た方がよいでしょう。


お風呂は「天色の湯」「朱鷺色の湯」「月白の湯」の3つがあり、時間によって男女の暖簾を入れ替えています。
「天色の湯」は内湯・露天・サウナの3種を全て擁している一方、「朱鷺色の湯」は内湯のみ、「月白の湯」は内湯が無いかわり露天とサウナを有する構成となっているため、たとえば上画像のように「天色の湯」が女湯の時間帯は、「朱鷺色の湯」と「月白の湯」の両方を男湯にすることで、設備面の公平性を確保しているようです。

浴場内は撮影禁止なので、以下の画像は全て公式サイトの画像をお借りしております。

●「天色の湯」

ドーム状の建物の半分を占める「天色の湯」。更衣室・内湯・露天ともに他2つの浴場より大きく、その全てが全体的に円弧状です。内湯の壁側に洗い場が配置されており、そのうちのいくつかは立って使うシャワーとなっています。内湯の浴槽も大きなものですから、多少の混雑はものともせず、余裕をもって湯あみできます。


こちらは露天風呂。内湯とほぼ同じ大きさの湯船で、露天とはいえ建物の屋根の下に湯船が設けられていますから、多少の雨や雪ならば凌ぐことができます。周囲には水田の溜め池が広がり、遠方には山々が聳え、遠近の景色を楽しみながらのんびりと湯あみを堪能できる造りです。私の利用時には雪が降り続いていましたが、外気の寒さとお風呂の温かさという温度差が気持ちよく、池に浮かぶカモたちを見下ろしながら、爽快なバスタイムを堪能させていただきました。


なお露天風呂の奥にはサウナと水風呂もありますので、サウナ愛好家の方にも楽しんでいただけるかと思います。


●「朱鷺色の湯」

「天色の湯」の逆サイドに位置する「朱鷺色の湯」は、サブ的な位置づけのお風呂で、占有床面積としてはドーム状の建物の約3分の1ほど。更衣室は「天色の湯」より明らかに狭く、多客時には窮屈さが否めません。一方、ドーム状建物の中央部分が浴室スペースになっていてまずまずの広さがあり、ドーム屋根を支える六角形の木製梁と、浴室名の由来にもなった朱鷺色のタイルが印象的です。


総タイル張りで全体的に優しい曲線を描く浴槽は、実際に入ってみますと体の曲線に上手い具合にフィットし、体への負担が少ない状態で湯あみすることができました。


●「月白の湯」
内湯のみの「朱鷺色の湯」とセットで男女いずれかの暖簾が掛かることになる「月白の湯」も、お風呂自体はドーム状の建物に含まれているのですが、脱衣室までのアプローチが他2室と異なっています。「天色の湯」と「朱鷺色の湯」は建物に入ってから左右に分かれるのですが、「月白の湯」だけはその手前の連絡通路右手に出入口があり、アプローチ用のサンダルに履き替えて一旦屋外へ出るのです。屋外と言ってもきちんと通路が設けられて塀も立っているのですが、ほぼ吹きさらしのような状態なので、私の訪問時のように外が吹雪いていると、その風雪がモロに通路を吹き抜けてゆくのです。それゆえ、内湯の「朱鷺色の湯」は利用しても「月白の湯」は出入口の段階で諦めてしまうお客さんが散見されました。冬以外はそんな問題など無用でしょうけど、厳冬期に利用される方はちょっとご注意を。


アプローチには難癖をつけてしまいましたが、中へ入ってみるととても快適。脱衣室はまずまずのスペースが確保され、その奥にある洗い場も十分な数が設けられています。内湯こそありませんが、露天風呂がありますから、個人的には使い勝手に問題はないかと思います。
上画像の左端に写っているドアは洗い場から露天へ出るためのもので、2つ写っている浴槽のうち、奥の真ん丸くて青いものは水風呂、手前側の長い浴槽は温泉槽です。水風呂があるということはサウナもあるわけで、私がこのお風呂に入っていると、外気温は0℃近いにもかかわらず、サウナーの方々は水風呂へドボンと入ってみたり、あるいは吹雪の冷たい風で体を冷やしたりして、熱いサウナと寒い屋外とを行き来していらっしゃいました。


「天色の湯」の露天風呂は建物に庇護されている感が強かったのですが、こちらの露天風呂は屋根が半分ほどしかかかっておらず、塀などに囲まれるような構造でもないため、「ザ・露天」と言うべき開放的な環境で湯あみを楽しめます。
湯船の湯面とコンクリの壁ひとつ隔てた向こう側は真水のため池。「天色の湯」の露天風呂は高い位置にありましたが、こちらは湯船と溜め池がほぼ同じ高さであり、隔てるものは壁一枚しかないため、あたかも池に入っているかのような感覚です。目の前のため池ではカモたちがグワッグワッと啼きながら餌を啄んでいました。
同じような感じのお風呂をどこかで入ったことあるぞ、と記憶をたどっていったら、北海道の「ヒルトンニセコビレッジ」
の露天風呂に似ていることに気づいたのでした。ニセコヒルトンのお風呂が気に入った私はその数年後に宿泊して存分に堪能したのですが、その時の楽しい想い出がよみがえるばかりか、また新たな想い出を増やすこともできました。しかもこの「月白の湯」の利用当日は吹雪いていたため寒さを敬遠するお客さんが多く、あまり混むことが無かったので、静かにのんびりと寛ぐことができました。個人的にはこの「月白の湯」が最も気に入りました。

さてお湯に関するインプレッションですが、見た目は無色透明で、湯口ではアブラ臭がほんのりと香り、お湯を口に含んでみますと芒硝味と淡い塩味が感じられます。館内表示によれば塩素消毒をしているとのことで、たしかにカルキ臭を確認しましたが、でも然程気になるような強さではないかと思います。各浴槽ともかけ流しの湯使いである点は嬉しいですね。硫酸塩泉らしくトロミがあり、そしてお風呂上りもしばらく全身のホコホコが続くほどに力強く温まります。なかなか良い湯です。

鶴岡にこのようなハイセンスな宿泊施設ができ、そして人気が持続することは大変喜ばしいですね。
館内スタッフも若い方が多く活気があります。単なる町おこしではなく、いろんな方面へプラスの方向へ波及するこうした動きは、他の地域にとって大いに参考となるのではないでしょうか。
今回の宿泊では大変満足できましたので、また季節を変えて再訪してみたいと思っています。


鶴岡北京田温泉
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 62.0℃ pH8.1 溶存物質3520mg/kg
Na+:777.6mg, Ca++:397.7mg,
Cl-:871.2mg, Br-:3.2mg, I-:0.4mg, HS-:1.4mg, SO4--:1362mg,
H2SiO3:48.1mg,
(平成28年10月6日)
加温循環ろ過なし
一時的に加水することあり(温度調節のため)
塩素系薬剤使用(衛生管理のため)

山形県鶴岡市北京田字下鳥ノ巣23-1
0235-25-7424
ホームページ

日帰り入浴不可

私の好み:★★★

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鶴岡北京田温泉 SUIDEN TERRASSE その2(食事など)

2022年10月22日 | 山形県
前回記事の続編です。


話の順番は前後しますが、まずは朝食からご紹介しましょう。
フロントがある共用棟の2階にレストランもあり、朝食付きプランの場合はこちらで景色を眺めながらいただきます。ガラスを多用し、天井も高く、明るくて開放的な空間です。なお座席は2階のみならず1階にもあり、スタッフの方が適宜空いている席へと案内してくださいます。なおテラス席もあるようですから、冬以外はテラスで田んぼを吹き抜けるそよ風を感じながら食事することもできるのでしょう。


前回記事で客室のベッドなどに紙管が使われていることをご紹介しましたが、このレストランのイスにも紙管が使われています。上画像をご覧になるとお分かりいただけますが、背もたれから座面にかけてたくさんの紙管が用いられていますよね。座っているだけではその材質に全く気付かず、周囲を見回して「あれ?」とようやく気付くのです。このホテルを設計なさった建築家の方の哲学がこうしたところからも伝わってきます。


庄内平野の田んぼ、そして庄内の風土を大切にしているこちらのお宿は、食材も庄内産を積極的に取り入れており、ご当地ならではの食材や料理を楽しめるのもうれしいところ。


朝ごはんの内容は決まっており、各自でキッチンカウンターへ受け取りにいきます。我々は2泊しましたが、ちゃんと違った内容の料理が提供されました。器に盛られているベビーリーフは自家菜園で採れたものなんだとか。なおご飯やお味噌汁はセルフでよそいます。個人的には酒田市でよく食べられている塩納豆(上画像のトレイ下部に写っている透明容器に入れられた納豆)がとてもおいしく、ふっくら炊かれたつや姫の白いご飯がとてもよく進みました。

さて、私たちは夕食も館内のレストランでいただくつもりでいました。真冬の夜にわざわざ外出したくないですし、徒歩圏内にレストランはおそらく無いかと思われ、お酒を飲みたければタクシーを利用して市街地へ繰り出す必要があったからです。しかし詰めが甘い私は、何の根拠もなく楽観的な発想を抱いてしまい、チェックイン当日に現地で予約すれば良いだろうと甘い見通しを立てていたのですが、繁忙期は早めに(宿泊日より前に)予約しておく必要があるらしく、チェックインした時点で既に当日も翌日も予約が埋まっていたのです。

実は列車で鶴岡駅へ到着した際、念のために食事処を調べておこうと考えて、観光案内所でおすすめのお店を聞いておいたので、館内の夕食が不可と分かって部屋に入った後、まずは教えてもらったお店に片っ端から電話したのですが、ちょうど忘年会シーズンと重なっているため、どのお店も満席で断られ続けてしまい、「已んぬる哉」と天を仰いで困り果ててしまいました。
そこで改めて館内のレストランに確認したところ、席は無いが、お弁当なら用意できるとのこと。このお弁当はディナーコースと同じような金額なので、数字を目にしたときは一瞬躊躇してしまいましたが、食い逸れることは避けたいですし、注文可能な数にも制限がありそうだったので、宿泊初日の夕食分を注文することにしました。


レストランに席は無いわけですから、客室でいただくことになります。お弁当はスタッフの方が指定の時間に持ってきてくださいます。上画像はお品書き。山形県産食材、特に庄内地方の食材をリコメンドした献立であることがお分かりいただけるかと思います。


紙製の白いお重に前菜・サラダ・メイン・デザートが盛られており、重ねられたお重を一段一段開けてゆくごとに「おぉ」なんて声を上げて喜んでしまいましたが、味もなかなか美味しく、お部屋でしたら他の人に気兼ねすることなくいただけますので、結果的にこうしたお弁当も良かったかな、と思っています。


なお館内には物販コーナーもあり、お土産物の他、飲み物やおつまみ類、アイスクリームなどのデザート類を売っているので、自分で好きな飲み物(私はホテルオリジナルのビール)を買ってきて夕食のお供にしました。瓶ビールに関しては、物販コーナーで栓抜きを借りることもできますよ。


2日目の夜はタクシーで鶴岡市街に出て、観光案内所のおじさんに薦めていただいたお店「和定食 滝太郎」で夕食をいただきました。なお前夜と同じ轍を踏まないために、前の日に席を予約しております。


海鮮のお料理がメインのようですが、魚介以外にもお肉系やお鍋など選択肢が広く、いずれもリーズナブルで美味しいのです。我々は庄内の味覚に舌鼓を打って大満足。山形県って本当に食材に恵まれた素晴らしい土地ですね。

ということで、繁忙期にこちらのホテルを利用する場合、館内レストランでの夕食をご希望でしたら早めに予約しておきましょう。特に年末は忘年会で市街のお店も予約しにくいため、事前の準備が肝要です。

ついでに、館内の他の場所についても簡単に触れておきましょう。


客室棟の廊下はこんな感じ。ホワイトと木目を基調にした明るいデザインは、館内の多くの場所で共通しています。


温泉浴場へ向かう途中に「SAKE LOUNGE」と称するラウンジがあり、こちらではご当地庄内地方の地酒や山形県産のワインをセルフでいただけるサーバーが設けられているんだそうです。酒豪の方には天国のような場所かと思われますが、私は残念ながら下戸なうえ、日本酒が苦手なので、こちらのラウンジは利用しておりません。


お酒のラウンジ近くにはもう一つの宿泊客専用ライブラリがあり、2~3つほどのお部屋に分かれて約1000冊の蔵書を擁しているんだとか。


共用棟とは若干異なる7つのテーマに沿った本が並べられており、全て開架式ですから自由に手に取って読むことができます。私がぱっと見たところ、芸術、文芸、美術、観光などといったジャンルが多かったようです。


温泉に関する書籍もありましたよ。

さて次回記事では、お待ちかねのお風呂について紹介します。

次回記事に続く。
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鶴岡北京田温泉 SUIDEN TERRASSE その1(客室等)

2022年10月19日 | 山形県

(2021年12月訪問)
相変わらず1年前の訪問記をブログの記事にするタイムリー性の無さに、我ながら呆れかえっておりますが、もしよろしければ引き続きお付き合いください。
2021年の年末に、山形県庄内地方で最近人気を集める「SUIDEN TERRASSE」で2泊利用してまいりました。


東京から庄内地方へ向かう場合は、飛行機のほか、山形新幹線で新庄へ出てそこから陸羽西線に乗り換えるルートか、あるいは上越新幹線で新潟へ出てそこから羽越本線で北上するといったルートが考えられますが、今回は後者のルートを選択し、新潟から鶴岡まで「特急いなほ」に乗車しました。かつて常磐線を疾走していたE653系は、いまや羽越本線へ活躍の場を移して日々日本海の潮風を受けているわけですね。

なおホテルは鶴岡駅から北西へ約2kmほどの場所にあるのですが、公共交通機関での移動は難しく、またホテルの送迎車も無いため、駅からはタクシーを利用するのが一般的のようです。私たちは旅程の関係で、鶴岡駅前でレンタカーを借りてから現地へ向かいました。


ホテル名からも推測できるように、事前に得た情報では水田に浮かぶような姿が印象的なんだそうですが、当然ながらそれは夏の話であり、冬は銀世界に覆われるばかりです。でも全体的なデザイン性が高いためにモノトーンな景色の中でも存在感が強く、アプローチからしてスタイリッシュ。それでいて周囲の景色に違和感なく溶け込む感じが素晴らしいところです。


1階エントランスからエスカレーターで2階ロビーへとあがります。年末に利用したため、エスカレーターの両脇には松飾が施されていました。画像の右上には行列が見切れていますが、これはフロントの前でチェックインを待つ人の列です。年末の繁忙期に利用したので、多くのお客さんが利用していたようです。


木材や暖色系の間接照明を多用した、いかにも現代的なデザインの館内からは、優しさとぬくもりが伝わってきます。このホテルは著名な建築家の方が設計したんだそうですが、私は建築方面に疎いので、知ったかぶりを避けるためにも余計な情報は掲載せず、今回の記事では見たまま感じたままを書いてまいります。


受付棟の2階奥にはレストランがあり、夕食や朝食の他、日中はカフェとしても利用可能。
ということは館内で夜と朝の食事が完結できてしまうわけだ…。私たちはそう考えていたのですが、繁忙期のレストラン利用はそんなに甘くなかったのです。詳しくは次回記事にて。


晴耕雨読というコンセプトなのか、館内にはライブラリが2箇所あり、うち1箇所はフロントの奥に設けられています。こちらの本棚には自然、山形、食、暮らし、子供などといった10のテーマに沿った約1000冊が並んでおり、蔵書は自由に閲覧できます。もう1箇所のライブラリについては次回記事にて。


建物は複数の棟から成り立っており、それぞれが連絡通路で結ばれています。
こちらが我々の客室です。木材のぬくもりと柔らかい照明が心地よく、シンプルながらも広くて快適です。テレビ・エアコン・空気清浄機・Wifiを完備。またお部屋にはタブレットが1台用意されており、館内説明の他、周辺の観光案内やフロントとの連絡に用います。


「スイデンテラス」という名前の通り、窓からは庄内平野の水田を一望。真っ白な田んぼの上を白鳥が飛翔する光景も目にできました。


もちろん室内にはバストイレ(お風呂は非温泉)がついていますよ。


私がこのホテルでユニークだと思ったのが、館内で採用されている素材です。上述のように随所で木材を多用することにより周辺環境との調和を図っているのですが、ベッドやイスなどの一部には紙管が使われているのです。紙管の採用は、このホテルを設計した建築家坂茂さんが手がけた作品の特徴なんだそうで、なぜ紙管を用いるのかについての説明は氏のwikipediaなどでご確認いただきたいのですが、このホテルで私が接した感想としては、決して簡素なわけではなく、寧ろきちっと役割を果たし、かつ見た目にも優しく、おそらく廃棄後の環境問題にも配慮しているかと思われます。安藤忠雄氏といえばコンクリ打ちっぱなしであるならば、坂茂さんは紙管なのかもしれませんが、今後は氏が関係する建築物のみならず、いろんなシーンで紙管が多用されたら、それこそ持続可能性という現代の課題に対する光明の一筋が見いだせるのかもしれません。

さて、次回記事では館内の食事などを取り上げます。

次回に続く。
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湯の瀬温泉 湯の瀬旅館 その3(大露天風呂)

2020年05月12日 | 山形県
前回記事「湯の瀬温泉 湯の瀬旅館 その2(内風呂)」の続編です。

その1ではお部屋や食事、その2では24時間入れる内湯の様子を取り上げました。そして最後となる今回(その3)では、「湯の瀬温泉 湯の瀬旅館」の目玉である巨大な露天風呂をご紹介します。大変長らくお待たせいたしました。ようやく当地の象徴的存在の登場です。湯の瀬温泉で巨大露天風呂を紹介しないだなんて、ニューヨークで自由の女神を、ロンドンでビックベンを、北京で紫禁城を無視するようなもの。でも美味しいお食事や湯量豊富な内風呂を邪険に扱うわけにはいかなかったので、結果的に最後になってしまいました。勿体ぶってごめんなさい。とはいえ、真打ちは殿(しんがり)で高座へ上がるものですから、私個人としてはこうした順序をとることで巨大露天風呂に敬意を払っているつもりなのです。


巨大露天風呂は階段で2階に上がり、長い廊下をどんどん進んだドン詰まりにあります。山間に建てられたこちらのお宿は、奥に長い建物自体が地形の傾斜に沿っており、2階の廊下は途中でステップを挟みながら奥へ行くに従い勾配を登るような構造になっていますので、その先にある露天風呂も旅館の敷地内でも比較的高い位置に設けられていることが推測されます。

前回記事(その2)で取り上げた1階内風呂は24時間入浴可能ですが、この大露天風呂は入浴時間が限られており、夜は通常20時にクローズされます。闇夜に広いお風呂を開けるのは安全上宜しくないという考えによるものだそうです。しかしながら、連休などの繁忙期になると利用時間が延び、私が訪ねた秋の連休では22時まで延長されていました。こちらの脱衣室は1階内風呂の3倍近い広さが確保されているので、ノビノビ着替えることができます。また1階同様にアメニティー類がたくさん用意されているほか、ドライヤーや扇風機などの備え付けもあり、使い勝手良好です。


脱衣室を抜けた先には、いきなり露天風呂が広がっているわけではなく、まずは体を綺麗にする内湯がお客さんを出迎えます。1階のお風呂とは色調こそ違うものの、タイル貼りの実用的な設えであり、広さもこちらの方が若干広い程度で双方とも似たような感じのお風呂と言って差し支えないでしょう。つまりこちらのお宿には男女別の内湯が2種類あるのです。浴室内にはシャワー付き混合水栓が3つ並んでいるほか、1階内風呂と同様に黒い石材で縁取られたタイル貼りの浴槽が設けられ、滾々と注がれる温泉のお湯がその縁から惜しげもなく溢れ出ていました。浴槽の大きさは1階内風呂より一回り大きかったような気がします。


浴室で体を洗ってから奥の引き戸を開けると、そこには大きなドーム状のテントに覆われた巨大露天風呂がお湯を湛えていました。その大きさは、幅約13メートル、奥行約23メートル、深さ1.2メートルとのこと。学校のプールに匹敵する大きさです。人間ですらその大きさに驚いてしまうこと必至ですが、もし小動物がこの露天風呂に対峙したらどんな気持ちになるのでしょうか。「井の中の蛙大海を知らず」と言いますが、夏にカエルくんが迷ってこの露天風呂に入り込んでしまったら、それこそ日本海に飛び込んでしまったかのような錯覚に陥るのでしょうか。いや、その前にゆでガエルになってしまうのかもしれませんが…。


逆の方からこの巨大露天風呂を捉えてみました。奥に行くへ従い徐々に狭まってゆく形状をしており、海のごとく大量のお湯を湛えるお風呂全体が、まるで海洋を進む船体のようなスタイルをしているのであります。
なお脱衣室や内湯は男女別ですが、この露天風呂は混浴です。しかしながら女湯側の一部には囲いがされており、女性でも露天風呂に入れるよう配慮されています。また湯浴み着を着用しての入浴も可能です。


宿の説明の寄れば深さ1.2メートルとのことですが、私が実際に入った感覚によれば、奥に向かって左側が深く、右に向かって徐々に浅くなり、右側の槽内側面にはステップが設けられていました。1.2メートルという深さは、泳げる人にとっては大したことありませんが、泳げない人にとっては多少の恐怖を覚えるかもしれません。従いまして泳げない金槌さんがこのお風呂に入る場合は、できるだけ右側を目指すようにしましょう。あるいは上画像のように浮き輪も用意されていますので、これにつかまって入浴するのもよいかもしれません。私は水泳が大好きなので全く怖くありませんでしたが、それでもこの浮き輪を使い、プカプカ浮いて浮力を感じながらのんびりと気持ち良く湯浴みさせていただきました。


浴槽自体は岩風呂であり、ゴツゴツとした大きな岩が屹立しながら並べられています。岩とお湯が接する湯面より上の表面には、温泉成分の白い析出がビッシリと付着していました。溶存物質389.7mg/kgと比較的薄いタイプのお湯でありながら、これだけしっかり析出が付着するんですね。なかなか興味深い現象です。


繰り返しますがこの露天風呂は小中学校のプールと比肩するほどの広さを有しており、そこへお湯を張っていますので、いくら湯量が豊富でも湯加減にムラができてしまいます。そこでこのお風呂では複数箇所に湯口が設けられていました。それでも手前側が比較的熱く(適温に近く)奥がぬるめでしたので、好みの湯加減にお風呂の中を移動すると良いでしょう。

お湯は無色透明でほぼ無味無臭です。前回記事でも申し上げましたが、アルカリ性でありながら硫酸塩が比較的多く、それゆえに岩の表面を白い析出が覆っているものと思われます。またアルカリ性単純泉にもかかわらずツルツルスベスベといったような浴感ではなく、少々の引っかかりを感じるアッサリした浴感であることも特徴のひとつであり、これも温泉に含まれる硫酸塩の影響であろうかと推測されます。無色透明の硫酸塩泉は、その没個性な見た目とは裏腹にパワフルな温浴効果を発揮しますが、アル単なのに硫酸塩泉っぽいこのお湯でも同様に力強い温まりが得られ、露天の奥のぬるいゾーンで長湯していても、湯上がり後には不思議なほど体の芯から強力にあたたまりました。
あ、そうそう申し忘れましたが、内風呂・露天共に100%源泉完全掛け流しの湯使いです。素晴らしいですね。

プールのような巨大露天風呂に浸かって、他ではなかなか体験できない湯浴みを楽しむのはもちろん、日本海の海の幸に舌鼓を打つこともでき、非常に充実した時間を過ごせました。
人里離れた山奥の温泉で、非日常の世界を存分に楽しむことができるこちらのお宿。温泉ファンなら一度はこの巨大露天に入ってみたいと思うはずですが、宿泊しないと入浴することができませんので、庄内地方をご旅行の際は是非宿泊なさってみてはいかがでしょうか。


佐藤2号源泉
アルカリ性単純温泉 48.1℃ pH9.3 掘削動力揚湯 溶存物質389.7mg/kg 成分総計389.7mg/kg
Na+:55.1mg(45.98mval%), Ca++:55.9mg(53.45mval%),
Cl-:10.7mg, SO4--:222.5mg(89.04mval%), HCO3-:6.8mg, CO3--:4.2mg,
(平成27年1月23日)

山形県鶴岡市戸沢字神子谷103-2
0235-45-2737
ホームページ

日帰り入浴不可
宿泊プランについては公式サイトか電話でご確認ください。

私の好み:★★★
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湯の瀬温泉 湯の瀬旅館 その2(内風呂)

2020年05月09日 | 山形県
前回記事「湯の瀬温泉 湯の瀬旅館 その1(客室・食事)」の続編です。

前回記事では客室(1~2人用)やお食事について述べてまいりましたが、今回記事ではようやく温泉のお風呂に触れてまいります。でも、まだ焦ることなかれ。湯の瀬温泉名物のプールのような巨大露天風呂は次回(その3)に回し、今回は24時間利用できる内風呂に焦点を絞ります。私は食事の際、好物を最後に残しておく性格なので、このブログでも目玉となる内容は後廻しにさせていただきます。


館内には2種類のお風呂があるんですね。ひとつは名物の大露天風呂。もうひとつは1階の内風呂です。どちらも源泉をかけ流しているのですが、前者は利用時間に制限がある一方、後者は宿泊利用中なら24時間いつでも入浴することができる実用的なお風呂です。今回記事で取り上げるのは後者です。
1階を貫く長い廊下の中ほどに、上画像に写っているような紺と紅の暖簾がさがっています。暖簾をくぐった先にある脱衣室はコンパクトな造りで、きちんとお手入れされているものの、3~4人が同時に利用すると窮屈な感覚を覚えるかもしれません。なお室内の洗面台にはアメニティー類が所狭しと並べられているほか、大きなドライヤーが1台備え付けてありますが、ロッカーはありません。


寒色系のタイルが張られた浴室は、脱衣室同様に比較的コンパクトな空間です。旅先の温泉で非日常の癒しを楽しむというより、旅の汗や垢を洗い流して身を清めることを目的とした、極めて実用的なお風呂です。


洗い場にはシャワー付き混合水栓が3基取り付けられています。


黒い石材で縁取られた浴槽は約2メートル四方。浴槽内は青いタイル張りとなっており、お湯の清らかさがより際立っていました。また黒い縁からはお湯が惜しみなくオーバーフローしており、特に人が湯船に入ると大量のお湯が勢いよく溢れ出し、排水口からの排水が間に合わずに床が洪水状態になっていました。湯量が豊富なのです。


お湯は獅子の口からドバドバ吐出されています。その口の周りは析出で真っ白く覆われており、あたかも白いヒゲをフサフサと蓄えているかのようです。お湯に関する詳しいインプレッションは次回記事で述べますが、こちらのお湯は無色透明でほぼ無味無臭のアッサリとしたタイプであり、アルカリ性でありながら硫酸塩が比較的多く、それゆえ獅子の口の周りには白い析出が付着するのでしょう。また湯船に浸かった際に、ツルスベではなくアッサリ且つ少々の引っかかりを感じるのも、温泉に含まれる硫酸塩の仕業ではないかと思われます。

次回は湯の瀬温泉名物の大露天風呂を取り上げます。

次回記事に続く。
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