温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

尻焼温泉 関晴館

2013年05月31日 | 群馬県
※「関晴館」としての営業はすでに終了しています。2017年4月より経営者が変わり「星ヶ岡山荘」としてリニューアルしています。

 
尻焼温泉の「関晴館」で日帰り入浴してきました。こちらは以前「関晴館別館」という屋号でしたが、近所の花敷温泉にあった本館が休業してしまったため、2010年4月に別館という語句が取り払われ、界隈で「関晴館」と名がつくお宿はこちら1軒のみとなりました。



玄関を入ると、帳場前のロビーにはお馴染みの大きな提灯がぶら下がっていました。秘湯を守る会の会員宿なんですね。日帰り入浴の場合は、この帳場にて料金を支払った後、一旦玄関を出て、後方の勝手口へと向かうことになります。


 
こちらがその勝手口でして、その右手には湯気抜きが目立つ浴場棟が続いています。宿泊客は館内移動できますが、日帰り客は浴場に近いこちらの入口を利用するわけです。なるほど、こうして分けたほうが玄関がゴチャゴチャしなくて良いかもしれません。


 
お風呂へ向かう途中、休憩室の前を通過。


 
紅と紺の暖簾がさがる浴室入口前には貴重品用ロッカーが設置されています。さすがにちゃんとした旅館だけあって、建物こそ古いものの、脱衣室内やその周辺(洗面台など)は綺麗に手入れされており、気持ちよく使うことができました。



浴室に入ったその瞬間、清らかに澄んだお湯が目に入り、燻されたようなタマゴ臭と石膏臭が香ってきました。そして滝のように勢い良く湯船へ落ちるお湯の轟が室内に響いており、浴槽からは惜しげも無くお湯が溢れ出ていました。それらの光景をひと目見ただけで、このお風呂にギュっとハートを掴まれました。


 
お湯の轟が室内の空気を支配する浴室は、ほんのり暗くて落ち着いた佇まい。清潔感があって居心地佳し。浴槽や床には石材が敷き詰められており、その上を流れる温泉のお湯が石の美しさをより際立たせているとともに、天然石の色調によって無色澄明なお湯も一層その清らかさを増しているようでした。湯船は8人同時に入れそうな大きなものですが、お湯の投入量が多いためか湯船の中では常に流れが生まれており、鮮度が非常に良好です。また薄い膜状の小さな湯の花(白色系)がそんな湯船のお湯の流れに身を任せてゆらゆらと浮遊していました。
洗い場にはシャワー付き混合水栓が3基設置されており、そこに用意されているボディーソープやシャンプーは、秘湯を守る会オリジナルのくまざさシリーズです。


 
湯船の中央壁際で屹立する岩やそこから突き出た竹筒よりお湯が落とされており、その岩には硫酸塩の白い析出がモコモコと付着しています。傍に置かれていた柄杓でお湯を口にしてみますと、薄い塩味とほろ苦いタマゴ味、そして石膏味と粉っぽい味が感じられ、この室内を満たしていた上述の香り(燻されたようなタマゴ臭と石膏臭)が鼻孔へ抜けて行きました。キシキシとした硫酸塩泉らしい浴感ですが、湯上りは全身がサラサラスベスベの爽快感に包まれます。


 
日本庭園風の露天風呂は川に向かってオープンなつくりになっており、目下を長笹沢川が流れ、対岸には森林が広がっています。露天から眺める景色には宿以外に目立った人工物が見当たらず、いかにも山奥の秘境にいる空気を味わえるのが嬉しいところ。内湯よりひと回りも二回りも大きな石風呂は、内湯同様絶え間なく新鮮な源泉が注がれており、この時は私以外に誰もお客さんがいないというのに、惜しげも無くザブザブとお湯がオーバーフローしていました。広い湯船と鮮度の良いお湯、そして開放的なロケーションゆえ、ゆったりのびのびと寛げてとっても爽快です。



石が積まれた湯口からは、直手で触るのが躊躇われるほど熱いお湯が落とされているのですが、その右側から冷たい水が同時に注がれており、これによって湯船では丁度良い湯加減が保たれていました。湯口右側の水が合流する箇所の石は苔で覆われその上方では蕨も生えていました。



浴槽の脇にはこのような東屋もあるので、もし天気が今一つだったり、あるいは強い日差しが降り注いでいる時には、ここに腰掛けて山を眺めながら一休みするのもいいでしょう。


 
露天風呂から建物側を見てみますと、湯屋の屋根に屋号の頭文字である「関」の字が配された鬼瓦が葺かれているのを発見。風格あるお宿なんですね。
内湯・露天ともに源泉投入量が多くて鮮度感が素晴らしく、上品で落ち着きのある浴室も、渓流を眺める開放感のある露天風呂も、いずれも綺麗で雰囲気が良いので、わずか1時間程度の日帰り利用でしたが非常に印象に残りました。


営林署源泉
カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉 54.6℃ pH7.9 358.3L/min(自然湧出・150m引湯) 溶存物質1.45g/kg 成分総計1.46g/kg
Na+:189mg(39.28mval%), Ca++:249mg(59.26mval%),
Cl-:223mg(30.28mval%), SO4--:673mg(67.50mval%),
H2SiO3:60.6mg,
源泉温度が高いため加水

JR吾妻線・長野原草津口駅より中之条町営バス(六合地区路線バス・ローズクィーン交通)で花敷温泉下車、徒歩10分(1km弱)
群馬県吾妻郡中之条町大字入山1539  地図
0279-95-5121
ホームページ

10:00~16:00(受付15:30まで)
500円
ロッカー(貴重品用・無料)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

尻焼温泉露天風呂(川の湯) 2013年5月上旬

2013年05月30日 | 群馬県

群馬県吾妻地方の尻焼温泉は、川がまるごと温泉になっているワイルドな露天風呂が、各種ガイドブックにも紹介されているほど非常に有名ですね。春夏秋冬で異なった景色が楽しめますのが、私としては新緑の5月(か紅葉の時期)がおすすめです。なぜその時期が良いのかという講釈は後回しにして、まずは露天へ向かいましょう。今回は実際に今年5月上旬に訪れた時の画像を掲載しながらレポートをすすめてまいります。
この看板のところから川岸へと下り、流れに沿ったトレイルを歩いて上流へ遡ります。車はここから200メートル手前にある無料駐車場にとめましょう(この看板の目の前のスペースは旅館の利用客専用です)。


 
看板から数十メートル、この掘っ立て小屋が見えれば到着。小屋の内部はとてもプリミティブな、湯船があるだけの共同浴場。半露天状態であるこのお風呂は後述する露天風呂(川の湯)を利用する人から丸見えですし、川の湯は水着着用可能ですがこちらは水着不可能ですから、女性の方にはちょっとハードルが高いかもしれませんね。この日のように天気に恵まれている時には、わざわざ屋根掛けされているこのお風呂に入ろうとする方はおらず、実質的な更衣室兼荷物置き場と化すことが多いようです。



長笹沢川を軽く堰き止めた川の流れがまるごと露天風呂になっている「川の湯」。みなさまご存知の通り、画面に見えている川の全てが入浴可能で湯加減もちょうど良いという、なんとも豪快な野湯であります。さっそく川岸でサクッと着替えて川へドボン! 陽気や川のコンディションによって湯加減は異なりますが、この日はぬるいところで約38℃、熱いところは約43℃と、ゆっくり長湯できるぬる湯派の方も、汗を書きながらキッと身を引き締めたい熱湯派の方も、万人が満足できる状態でした。私はぬる湯も熱湯も好きなので、落ち着きなくあっちこっちをウロウロしてしまいました。

なお上述の小屋以外に目隠しとなるようなものはありませんので、着替え用のポンチョや大きめのバスタオルなどを持参することをおすすめします。殿方の多くは川岸の岩の上で、目隠しなんて気にせずにスッポンポンになっていますが、私は念のため水着を着用の上で入浴しました。「川の湯」では全裸だろうが水着だろうが不問ですし、「全裸で入浴するのが日本の文化だから水着なんてけしからん」という保守的なご意見も当然あろうかと存じますが、あくまで私独自のbehaviorとして、不特定多数の異性がいて(あるいは来ることが想定される)、且つ水着着用が可能な入浴場所であれば、できるだけ水着を穿くようにしています。そのほうがお互いに余計な気遣いをしないで済みますし、混浴が苦手な方に対するexcuseにもなりますからね。本音を言えば、私は男のくせに混浴が苦手なのです…。


 
「川の湯」を上から眺めてみましょう。野趣あふれるワイルドな露天風呂ですね。何度来ても楽しくてたまりません。なぜ私は5月(か紅葉の時期)を勧めるのかと言えば、夏季は涼や水遊びを求める多くの客で混雑しますし、川の水が増えるためにお湯が全体的にぬるくなっちゃいます。また山の中の渓流ですから虻の猛襲にも注意しなければなりません。一方で冬季は路面が積雪&凍結するためにアクセスが難しくなりますし、根本的な問題として寒すぎます(雪見風呂は楽しめますけどね)。こうした理由により、陽気やお湯の温度がちょうど良く、しかも不快な虫もいない春や秋がおすすめなのであります。尤も、これらの事由は、ここのみならず他の露天風呂でも同じ事が言えますけどね。


 
入浴ができるエリアの河床は、手前側(左岸)がコンクリで固められており、奥側(右岸)は天然河床のままです。岩と岩の隙間、砂利の下、岩の割れ目など、河床のあちこちから温泉が湧出しており、何も知らないで川の中を歩いているとたまに足裏に熱さを感じて「あっ、ここで湧いてるな」なんてことを体感できるわけですが、手前側のコンクリ部分には数ヶ所の穴があけられていて、そうしたところからの湧出量が結構多いようでした。天然の湧出孔が埋もれないようにコンクリで保護してるのかしら。また対岸(奥側・右岸)の大きな岩の周辺もコンクリで護岸されており、案の定、その岩の下には大量のお湯を川の湯へ注いでいる塩ビのパイプが隠されていました。こうした人為的に保護されている湧出孔やそこらで勝手に湧いているお湯などのおかげで、全体的な温度の均衡が取れていました。上手くできています。

深さに関して、手前側はけっこう浅いのですが、天然河床の一部は身長165cmの私の胸まで浸かるほどの深さがありますので、お子さんは溺れないように注意して下さいね。また全体的に非常に滑りやすく、今回も(いままでも)私は何度もバランスを崩してコケそうになり、いや、滑って岩に弁慶を打って半ベソをかきそうになりましたので、川の湯の中を歩くときは慎重に歩みをすすめましょう。

お湯は無色澄明、岩下のパイプからお湯を掬ってみると、ほんのりとしたタマゴ臭と石膏臭が感じられました。なおお湯の湧出量が多いためか、川水らしい生臭さや不快感はほとんど感じられません。湯上りはとっても爽快です。この露天風呂に入っていると、まるで自分が周囲の自然と同化したかのような錯覚に陥ります。山や清流を眺めながら時間を忘れてのんびり過ごせる素晴らしいお風呂ですね。


カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉

JR吾妻線・長野原草津口駅より中之条町営バス(六合地区路線バス・ローズクィーン交通)で花敷温泉下車、徒歩12分(約1km)
群馬県吾妻郡中之条町大字入山  地図
(中之条町観光協会)0279-75-8814
中之条町観光協会ホームページ

いつでも入浴可能
無料

私の好み:★★★
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

平山温泉(御殿乳母の湯) 龍泉荘

2013年05月28日 | 静岡県
 
たまには拙ブログで鉱泉宿を取り上げるのも良いかと考え、4月下旬の某日、ネット上での評価が高い静岡市の平山温泉(御殿乳母の湯)「龍泉荘」へ立ち寄ってまいりました。施設へアプローチする路地入口に置かれている岩には施設名とともに「昭和33年開館」と記されていますが、御殿乳母の湯という名前からも察せられるように鉱泉自体は非常に古く、今川義元の乳母が当地のお湯に入ったことがその名称の由来なんだそうです。


 
駐車場に車を止めて、生垣の路地を歩いてゆくと、やがて川の方へ下りてゆく階段に。
階段の左側に写っている赤い一筋の金属物体は、手摺りではなく・・・


 
荷物運搬用のモノレールなのでした。急な傾斜地でお茶や柑橘類を栽培する農家が多いこの界隈では、あちこちでこの手のモノレールが活躍しています。階段を下りきると民家らしき古ぼけた建物の軒先へ辿り着きました。かなり雑然とした場所なのですが、ここが本当に平山温泉なんでしょうか? 農家に迷い込んでしまったか? 



古色蒼然とした建物。色褪せたトタン壁が哀愁たっぷりの雰囲気を漂わせています。ここだけ時計の針が数十年も止まったままのようです。


 
まわりを見回したら、右手の建物に「龍泉荘」と書かれた扁額が玄関にかかっていました。やっぱりここで間違いないのか。でもちっとも商売っ気がありませんね。営業しているのかな? 玄関前には親柱に「然界橋」と彫られた銘が埋まっている飾りの橋があるのですが、もしかしたらこの小さな橋を渡った向こう側は現世界から隔てられた異次元空間なのかもしれません…。


 
玄関の中では木の大きな瘤を使って作られた犬か狸の置物が「営業中」の札を首にかけながらお出迎え。ここに至ってようやく営業中の施設であることがわかります。「ごめんください」と声をかけると二人の年配の女性が、物憂げな面持ちをこちらに向けながら、「お風呂ですか、はいどうぞ」とか細い声で私が差し出す500円玉を受け取りました。建物のみならず、館内の造作やそこにいる人々など、ありとあらゆるものに重たい影が差しているかのようであり、平成の世になって25年が経っているにもかかわらず、いまだにつげ義春の世界を彷彿とさせるお宿が現実社会に存在していることに、軽い興奮をおぼえました。



帳場の上には食事メニューが書かれた札がたくさん並んでいます。てことはお食事の注文も可能なんですね。上の階からはカラオケを歌う爺様の大絶叫が聞こえてきます。


 
帳場の左斜め前に浴室がありました。脱衣室は棚があるだけの至ってシンプルなもので、東北の鄙びた湯治宿を連想させてくれる風情です。ここで着替えていると便所の臭いがどこからともなく漂ってくるのですが、それもそのはず、すぐ隣がトイレなのでした。その臭いから推測するに汲み取り式ではないかしら。なお浴室へと戸は2つありますが、どちらを開けても同じ浴室です。


 
浴室に入った途端、ふんわりとタマゴ的な硫黄臭が香ってきました。その香りだけで早くもお湯に期待しちゃいます。2方向がガラス窓の浴室は、館内の薄暗い雰囲気とは対照的な明るさが保たれており、そんな空間の中央に真っ青なタイル貼りの浴槽がひとつ据えられています。お風呂が建てられてからかなりの年月が経っているらしく、天井に張られているアクリル波板には長年にわたって少しずつ付着してきた黒ずみがこびりついており、また壁の化成材やタイル目地などにも同様の劣化が見て取れます。鄙びた浴場が好きな(私のような)一部の温泉ファンにはたまらない佇まいです。


 
お風呂へ入る前に、ちょっと窓の外を眺めていましょう。この温泉は川の谷底に建てられており、目の前を川が流れているのですが、その川岸ではちょうど藤の花が満開を迎えていました。また対岸の傾斜地には八十八夜の茶摘みを目前に控えた茶畑が広がり、その上空を新東名の高架橋が左右に横切っています。新しい高速道路と古く鄙びた鉱泉宿という対比がひとつの窓枠の中に納まっている面白い構図です。


 
そんな景色が眺められる窓枠は老朽化のためにガッタガタ。補修用建材ではなく、なんと養生テープで固定されていました。



青々としたタイル貼りの浴槽は角が大きく面取りされたように丸みを帯びており、その内部は3区画に仕切られています。均等に分割されているのではなく、湯口のお湯が注がれている脱衣室側が最も大きくて2~3人サイズ、他の2つは1~2人サイズとなっていました。また、お湯は大きな浴槽から左右の小さな槽へお湯が流れてゆく仕組みになっており、大きな槽はやや熱く、2つの小さな槽はそれよりいくらかぬるい湯加減となっていました。


 
浴槽の真ん中に置かれた溶岩の湯口からは加温されたお湯が絶え間なく注がれており、その流路は硫黄の湯の花が付着して真っ白くなっています。溶岩の上にはコップが置かれ、入浴客はそれがここの流儀であるかのように、みなさん例外なくコップでお湯を飲んでいらっしゃいました。また持ち込んだPETボトルでお湯を持ち帰る方もいらっしゃいました。湯船のお湯はうっすらと白く霞んでおり、湯中では白や黒の糸くずのような湯の花が浮遊しています。画像をご覧いただいても薄く濁っていることがおわかりいただけるかと思いますが、常連のおじさん曰くこの日はお湯がきれいに保たれているんだそうでして、週末などの混雑時にはもっと濁ってしまうとのことです。常連さんに倣って私もコップで飲泉してみるとはっきりとした(強い)硫黄的タマゴ味の他、石灰的な味や重曹味が感じられました。また湯面からはゆで卵の卵黄臭(茹ですぎた卵黄に焦げたような臭いがミックス)が香っていました。このような硫黄的な知覚の強さは、決して全国の名だたる硫黄泉にも引けを取らないほどです。お湯を動かすとトロミが伝わり、湯中で肌をさするとツルスベとひっかかりが拮抗しつつもツルスベがやや勝っているような浴感が感じられました。源泉温度が低いためしっかり加温されていますが、加水循環消毒は行われておらず、放流式の湯使いが実践されています。加温しているのに放流式とは恐れ入ります。



硫黄を含む湯気が室内に漂っているためか、蛇口は硫化して黒く変色していました。なおこの水栓を開けて出てくるのは単なる水道水です。お湯は湯船から直接桶で汲みましょう。



壁にはこのお湯の入浴上注意が箇条書きされているのですが、その内容が興味深く、たとえば「慢性神経痛や古い打身あとは数日入ると非常に痛みが出ますがそれが治るしるしです」「皮膚類は数日入ると一度吹き出てそれから治ります」など、症状別の回復過程が具体的に説明されているのです。各適応症とも一旦症状が重くなるもののその後は一転して回復へ向かうわけですね。真実の程はよくわかりませんが、こうした文章によって、平山温泉のお湯が昔から湯治目的で利用されてきたことがわかります。私は1時間ほどこのお湯に浸かったのですが、その後は2時間以上経過しても火照りが取れず、しかも体が重だるくて発熱したみたいな体調になってしまいました。この時の私は特に何かの病気に罹っていたわけではありませんが、それでも一旦症状が重たくなるという説明を何となく体感できたようでした。とても渋く鄙びた鉱泉宿ですが、そこで入れるお湯は実に個性的でかつ摩訶不思議なものでした。


単純硫黄泉 湧出温度・pHなど不明

しずてつジャストライン(路線バス)の・竜爪山線で「御殿乳母温泉」バス停より徒歩2分
(日帰り入浴が可能な日中にはデマンドバス「りゅうそう号」しか運行されません。デマンドバスの利用に際しては所定の時間までに電話連絡が必要です。詳しくはしずてつジャストラインの公式サイトでご確認ください)
静岡県静岡市葵区平山136-6
054-266-2461

9:00~16:30 毎月29・30日定休
500円/1時間
備品類なし

私の好み:★★★
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

梅ヶ島温泉 湯元屋

2013年05月27日 | 静岡県
 

梅ヶ島温泉では十数軒の旅館が営業しており、その多くで日帰り入浴を受け入れていますが、日帰り入浴を専業とする施設は温泉街の最上流部に位置する「湯元屋」の一軒だけです。こちらでは入浴のほか、食堂営業や土産物販売も行なっていますが、他に食堂営業している施設は存在しませんので、当地で外食や買い物をしたければ、必然的にこの「湯元屋」でお世話になるわけです。


 
明るく応対してくれるご主人に料金を支払い、土産物売り場の一角にある扉から奥へ進んで、階段を上がって浴室へ向かいます。浴室は「虹乃湯」と名付けられているんですね。


 
お風呂へ向かう途中には、いかにも古そうな振り子時計や背負子が飾られていました。



「湯元屋」さんは崖と川に挟まれた狭隘な土地に建てられているため、全体的にコンパクトな造りです。湯屋部分は比較的新しいのか、温かみのある内装が施されており、綺麗でよく手入れされていました。また限られたスペースを工夫して各設備がレイアウトされており、ちょうど下足場の裏側に当たるわずかな空間に洗面台が配置されていました。


 
浴室には浴槽がひとつ、そしてシャワー付き混合水栓が3基設置されており、奇を衒わない至ってシンプルで実用本位な構造です。室内は天井を除いてタイル貼りで、川や露天風呂に面している方向はガラス窓です。窓からは春の陽光がふりそそいでいました。なおシャワーから出てくるお湯は真湯(ボイラーの沸かし湯)です。
浴槽は4人サイズで正方形に近い形状をしており、縁には黒っぽい御影石が用いられ、槽内は水色のタイルが、そして女湯側の側面には天然石の板が貼られています。


 
湯口からは加温されたやや熱めの源泉が注がれており、露天風呂側のガラス窓直下に開けられた穴より排湯されています(人が入って急に嵩が増えた時には切り欠けよりオーバーフロー)。つまり湯使いは加温した上での放流式です。お湯は無色澄明で綺麗に澄み切っており、前回取り上げた「梅薫楼」よりタマゴ感(味や匂い)はやや弱いのですが、湯船に肩まで浸かると「梅薫楼」では感じられなかった燻されたようなタマゴの香りが湯面からふんわりと漂っていることに気づかされます。またタマゴ味と同時にアルカリ性単純泉によくある収斂がはっきりと感じられました。梅ヶ島らしいヌルスベ感もしっかり有しており、このお湯に入れば誰しも美人になること間違いなし。お湯から伝わってくる鮮度感も、屋号に冠されている「湯元」の名に恥じることのない良好なものでした。梅ヶ島温泉は混合源泉を各施設で分配して利用しているそうですが、同じお湯でも分配する経路や湯使いによって、末端(つまり客が利用できるお風呂)におけるフィーリングはかなり違ってくるんですね。


 
一方、露天風呂は猫に額ほどの空間を竹垣のようなエクステリアで囲んだ、申し訳程度につくった岩風呂でして、囲いが高いために景色はあまり眺められません。見上げれば山の緑がちょこっと目に入ってくる程度です。館内表示によれば露天風呂のお湯は加温循環濾過されているとのことで、ご主人は受付で「内湯のお湯は最高ですけど、露天は・・・」と自ら弁明していましたが、私が訪問した日は露天にほとんどお湯が張られておらず、循環云々という問題以前の状態でした。この日はシーズンオフでしたので、客が少ないのにわざわざ循環装置を運転させるのはもったいなかったんでしょうね。ま、私としてはクオリティの高い内湯のお風呂に入れただけで十分満足です。


 
入浴中にお話したお客さんが「ここの蕎麦とおでんは美味いよ」とすすめてくださったので、湯上りに食堂で猪そばと静岡おでんをいただくことに。このそばが本当に美味い! 特に出汁がよく効いたおつゆは絶品でして、最後の一滴まで残すことなく飲み干してしまいました。そしてドス黒い色をしたご当地ならではのおでんも一度食べたら病み付きになってしまい、上の画像では大根とガツ(胃)の2本を写しておりますが、これを食い終わった後も味の虜になってしまって、コンニャクなど次々に追加でいただいてしまいました。どのネタも1本100円です。特にコンニャクはイワシの粉との相性が最高でした。

お風呂に関してはご主人曰く、一度料金を支払えば当日なら何度入浴してもOKとのこと。ですから、まずここへ来たらひとっ風呂浴び、湯上りに辺りを散策し、汗をかいたらここへ戻って再度入浴して汗を流す、そしてお腹も満たす・・・という利用方法もできるわけですね。


 
「湯元屋」の目の前には朱塗りの橋がかかっており、川の対岸には「おゆのふるさと」と名付けられた回遊式の公園が整備されています。敷地の一角には各旅館へお湯を分配するための貯湯槽が設置されていました。



公園の階段を上ってゆくと細い湯滝の沢に沿って梅ヶ島温泉の源泉があり、いくつもの配管が傾斜に這わされていました。


 
「ゆ」と掘られた石の下にはガラスの戸で閉ざされている穴があるのですが、ここは以前「岩風呂」として入浴利用されていたんだそうです。今では梅ヶ島温泉の源泉として引き続き使われていますが、入浴はできません。


単純硫黄温泉 38.2℃ pH9.4 成分総計0.243g/kg
Na+:61.5mg,
HCO3-:48.4mg, CO3-:51.9mg, HS-:12.1mg, S2O3--:3.0mg, SO4--:3.0mg,
H2SiO3:51.1mg,
(昭和63年1月12日)
内湯:加温あり、加水循環なし
露天:加温・循環濾過あり

静岡駅北口あるいは静鉄新静岡駅よりしずてつジャストラインの安倍線(梅ヶ島温泉行)に乗車して終点下車、徒歩1~2分。
静岡県静岡市葵区梅ヶ島5258-13
054-269-2318
ホームページ

10:00~17:00(受付16:00まで) 不定休
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

梅ヶ島温泉 梅薫楼

2013年05月26日 | 静岡県
静岡市って広くなりましたね。平成の大合併によって駿府城も三保の松原も、草薙ダムも間ノ岳や農鳥岳も、太平洋岸から南アルプスに至るとんでもない領域が静岡市に含まれることになったわけですが、静岡市街を流れる安倍川も流域がスッポリ市内におさまってしまい、市街地が広がる下流域はともかく、深山幽谷の上流域である安倍奥エリアを車で走っていても、そこが政令指定都市だとはとても信じられません。そんな安倍川をひたすら遡っていった源流地帯に湧き出でる温泉が今回取り上げる梅ヶ島温泉でして、武田信玄の隠し湯として使われたという言い伝えもあるんだとか。山梨をはじめ長野・神奈川・静岡に点在する信玄の隠し湯は40℃以下のぬるい温泉か冷たい鉱泉であることが多く、梅ヶ島温泉も源泉温度は約38℃なのですが、加温せずに入れる温度であるとはいえ、ある程度暖かい季節にならないと非加温状態のお湯に浸かるのはちょっとツラいため、本格的に春の暖かな陽気が日本列島を包みこんだ4月下旬に足を運んでみることにしました。


 
梅ヶ島温泉は川に沿って中小規模の旅館が並ぶエリアと、そこから安倍峠側へ100メートルほど入った高台に大小数軒が集まっているエリアの2つに分かれているのですが、今回まず訪れたのは、後者の方に位置している当地で最も古い老舗旅館「梅薫楼」です。いまでこそ複数の旅館が営業していますが、昭和30年代までさかのぼると当地には「梅薫楼」ただ一軒しかなかったそうです。梅ヶ島温泉の路線バスの始発地点となる停留所はこの旅館の玄関目の前に立てられているのですが、これはかつて当地にこの旅館以外存在しなかったことを物語っているのかもしれません。



玄関脇に立っている「日帰り入浴できます」の幟に安心しながら玄関の中に入ると、フロントには剥製のイノシシがこちらを睨みつけていました。夜に見たら怖くて泣いちゃうかも。



道路を挟んだフロントや本館の反対側に入浴ゾーンがあり、宿泊客は地下通路で道路をくぐって向かうのですが、日帰り入浴の場合はその通路を使わず、道を横断して暖簾がかかっている裏口みたいなところから入っていきます。


 
大浴場へ向かう通路は「健康廊下」と名付けられているように、青竹踏みのような凸凹な加工が施されていました。大浴場は「長寿の湯」と「常盤の湯」に分かれており、男女入れ替え制となっています。訪問時は「常盤の湯」に男湯の暖簾がかかっていました。


●常盤の湯
 
本館浴室共に建物はかなり草臥れている印象が拭えませんが、脱衣室の内装は最近改修されたらしく、壁の木材からは新しさが感じられ、棚も塗装し直されていました。


 
 
お風呂は内湯のみで露天はありません。浴室の中央にL字形の主浴槽が据えられ、浴室入口側と主浴槽の間には板状の天然岩が屏風のように置かれており、室内レイアウトにアクセントを加えていました。主浴槽の縁には石材が用いられ、槽内のステップは水色、側面はピンク色のタイルが貼られ、底面には鉄平石と思しき石材が敷かれています。
L字の浴槽の角に置かれた岩から冷めた源泉がチョロチョロと注がれているのですが、大きな浴槽をそのチョロチョロで満たすことはできるはずもなく、岩の直下にある槽内ステップ部分から加温された循環湯が勢い良く噴き上げられていました。加温のおかげで丁度良い湯加減(41~2℃)に維持されており、気持ち良いツルスベ浴感も楽しめましたが、梅ヶ島らしい芳醇なタマゴ臭やタマゴ味は喪失しかかっており、湯の花などもほとんど確認できず、またオーバーフローも無く、槽内にてしっかり吸引されていました。源泉を投入しながら加温循環も行なう半循環という湯使いなんでしょうけど、いかんせん源泉投入量が少ないのはお風呂の管理運営上、致し方ないことなのかもしれません。主浴槽は足を伸ばして温浴効果を得るための実用的な浴槽と言えそうです。一方、この浴室で特筆すべきは主浴槽の脇に設置されている樽風呂「金乃湯」であります。


 
一人サイズの樽風呂「金乃湯」には竹筒から手が加えられていない生の源泉が注がれており、完全掛け流しのお湯に浸かることができるのです。非加温なので樽の中は35℃前後とかなりぬるめ。お湯はほぼ無色透明ですが、ぼんやりと白く霞んでいるようにも見え、湯中では藤色(淡い紫色)を帯びたゼリーみたいにプニョプニョした物が大量に浮遊・沈殿していました。これってきっと源泉由来の湯花みたいなものなのでしょうね。竹筒を流れるお湯を掬って口にしてみると、濃厚なタマゴ味が口腔に広がるとともにはっきりとしたタマゴ臭がほんのりと鼻に抜けてゆきました。硫黄が相当強く自己主張しています。この他苦味や渋味が伴っているほか、甘みも感じられました。アルカリ性に明確に傾いている上に炭酸イオンが多いためかヌルヌル浴感が強く、お湯に入るとまるで濃いローションにとっぷりと浸かっているかのような感覚になり、あまりの気持ちよさに夢心地になって何度も何度も肌をさすってしまいました。この「金乃湯」に浸からなければ「梅薫楼」を利用する意味が無いといっても過言ではないでしょう。なお樽の木は透明の樹脂でガッチリとコーティングされているのですが、これはアルカリによる腐食を防ぐためかと推測されます。また、源泉投入量が少ないため、一度樽に入浴してザバーっとお湯を溢れ出させちゃうと、元の嵩まで回復するにはちょっと時間を要するので、混雑時にはその点を理解しておいたほうが良いかと思います。


 
洗い場には源泉が出てくる蛇口が2つ、室内の隅っこに水道の蛇口が1つ、そして真湯が出てくるシャワー付き混合栓が1つ設置されています。蛇口から出てくる源泉は35℃にも満たないようなぬるいもので、その温度から推測するに完全な生源泉かと思われ、「金乃湯」にも劣らないほどはっきりとしたタマゴ味やヌルツベが感じられました。それらの蛇口はいずれも硫化して真っ黒く変色しており、硫黄の多さを目でも実感できます。


●穴風呂

大浴場のほか、敷地内には二つの貸切個室風呂が並んでいます。



大浴場から上がって廊下でのんびりしてると、宿のご主人から「穴風呂は面白いから是非入っていってよ」とすすめてくれたので、言われるがままに利用してみることにしました。


 
外観こそ質素ですが室内は綺麗に整っており、大浴場同様にこちらの脱衣室も最近内装工事が行われたんだろうと推測されます。棚に置かれたミニ扇風機が可愛らしいですね。スイッチを入れたらAC100Vでちゃんと回り、湯上りのクールダウンに活躍してくれました。室内にはきちんと分析表が掲示されており、お宿のお湯に対する誠実さが伝わってきます。



浴室の戸を開けてビックリ。小さな室内に岩の洞窟が拵えられいるではありませんか。なるほど、まさに「穴風呂」だ。この洞穴は当然ながら人工的なもので、お客さんを喜ばせようというお宿のサービス精神が具現化されたものなのでしょうね。穴の中は肩を寄せ合えば2人は入れそうな岩風呂になっており、加温循環されたお湯が張られています。お湯の特徴としては大浴場の主浴槽と同様でして、残念ながら梅ヶ島らしい硫黄感は飛んでしまっていますから、このお風呂はあくまでアトラクションとして楽しんだほうがよさそうです。


 
狭い浴室ですがカランもありますよ。黒く硫化した水栓を開けると、非加温の生源泉が出てきました。


●石風呂

もう一つの貸切風呂は「石風呂」。こちらには入らないかわりに見学させていただきました。


 
インパクトの強い穴風呂とは対照的に、こちらは民宿を思わせる実用的なお風呂ですね。でも浴槽はPの字のような形状をしていたり、室内の至る所に石がたくさん埋め込まれていたりと、一見普通のお風呂のようでいて、実はこちらも個性的だったりするんです。なお、お湯に関しては「穴風呂」と同様です。

これから梅雨を挟んで暑い陽気が続きますが、そんなときに梅ヶ島の非加温源泉に入れば、この上ない清涼感が味わえること間違いないでしょうね。梅ヶ島温泉のありのままの姿を楽しめる「金乃湯」は秀逸でした。


混合泉(第2貯湯槽)
単純硫黄温泉 38.2℃ pH9.6 150L/min(合計量、自然湧出・掘削自噴) 溶存物質0.248g/kg 成分総計0.248g/kg
Na+:65.8mg(96.52mval%),
HCO3-:29.1mg(15.43mval%), CO3-:44.0mg(47.27mval%), HS-:12.5mg(12.22mval%), S2O3--:11.4mg(6.43mval%), SO4--:15.2mg(10.29mval%)
H2SiO3:58.1mg,
(平成21年10月22日分析)
金乃湯:完全掛け流し
それ以外の各浴槽:加温・循環あり、加水なし

静岡駅北口あるいは静鉄新静岡駅よりしずてつジャストラインの安倍線(梅ヶ島温泉行)に乗車して終点下車。
静岡県静岡市葵区梅ヶ島5258-4
054-269-2331
ホームページ

日帰り入浴11:00~16:00(受付15:30まで)
500円
シャンプー類・ドライヤーあり、ロッカー見当たらず

私の好み:★★
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする