温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

ワタシ的2016年の温泉十傑

2016年12月30日 | 旅行記
早いもので2016年も明日でおしまい。本年最後の当記事では、毎年末の恒例となっている今年巡った温泉のベスト10を決めて、一年を締め括らさせていただきます。何を以て十傑としているか、その判断基準は極めて曖昧なのですが、強いて言うなら、備忘録で確認しなくても今年入ったことをはっきりと回顧できるほど強く印象に残っている温泉ということになるでしょうか。なお、訪れた温泉に序列をつけることなんて、とてもじゃないけどおこがましく畏れ多いことですので、昨年同様、ランキングという形式はとらず、北から南へ緯度順に並べてまいります。

今年は東北・九州・海外という3エリアに分かれる傾向にあり、しかも東北は再訪問が多い一年でした。一方、このブログに関しては、相変わらず記事の渋滞が解消されておらず、訪問のペースに記事の更新が追いついていないため、今回取り上げた10湯のうち半分はまだ掲載できておりません。十傑を選ぶつもりが、来年の予告編になっている有り様です。また訪問時期から半年以上遅れて記事をアップしているため、掲載済みの温泉も、その殆どが下半期に掲載したものとなっています。しばらくはこの傾向が続くため、来年もブログに求められる記事の情報鮮度は劣ったままですが、あしからずお許しください。


●青森県板柳 あすなろ温泉の家族風呂(宿泊)
(来年掲載予定)
 
拙ブログでも何度か取り上げているアブラ臭マニアの聖地「あすなろ温泉」。今年は家族風呂の部屋に泊まってみました。大浴場はもちろん、家族風呂も再訪問なのですが、宿泊は今回が初めてです。宿の婆ちゃんは、温泉風呂付きの部屋を指定する客はマニアだと心得ているらしく、私が予約の電話を入れたところ「王林で良いよね」とこちらの意図を汲んで話を進めてくれました。そうです、私は「王林」という部屋に泊まりたかったんです。アブラ臭に包まれながら極楽気分の一夜を過ごしました。


●岩手県 須川高原温泉
(来年掲載予定)
 
栗駒山の山腹にある超有名な温泉。拙ブログではまだ取り上げておりませんが、私個人としては立ち寄りでこれまで何度か訪れており、今年は初めて宿泊利用することにしました。有名無名を問わず、良いものは良いですね。夜の大日湯で、星空を仰ぎ見ながらの湯浴みは最高だったなぁ。



自炊棟の浴室「霊泉の湯」は熱くて透明度が高く、外気との接触や温度低下などによって白濁している露天風呂「大日湯」や大浴場のお湯とは違って、シャキッとした浴感がたまらなく気持ち良く感じられました。


●静岡県 石部温泉 いでゆ荘
(10月31日掲載)
 
なぜここを今年の十傑に選んだのか、その具体的な根拠を挙げよと言われても、何と申し上げたら良いのか困るのですが、とにかく私のフィーリングにピタッと合ったんです。強いて言うなら、伊豆の片隅で澄んだ良心と出逢えた喜びと申しましょうか。東京圏で暮らす温泉ファンはどうしても箱根や伊豆を敬遠してしまいがちですが、探せばまだまだ良い温泉があるということを改めて実感させられた一湯でした。こちらは一時期休業していたものの、復活して営業を再開させた経緯もありますので、応援の意味も込めて十傑に選出させていただきました。


●新潟長野県境 姫川温泉 ホテル國富翠泉閣
(9月17日掲載)

施設の規模とお湯の良さは反比例するという法則は、温泉巡りをしている者にとっての常識ですが、こちらはその常識を見事に覆してくれる素晴らしい温泉でした。広くて立派な館内にお邪魔すると、立ち寄り入浴にもかかわらず丁寧に接客してくださいました。


 
チャペルを思わせる浴場では、温泉がふんだんにかけ流されていました。一方、北アルプスを臨む露天岩風呂も実に爽快。山懐に抱かれながらの湯浴みは最高でした。親類や友人知人に勧めたくなるお宿です。


●某所の超有名野湯
(11月28日掲載)
 
九州にある超有名野湯。このブログをご覧になっているマニアな方ならおそらく皆さんご存知かと思います。
天候に恵まれ、最高の野湯日和でした。


●鹿児島県霧島市 旅行人山荘
12月4日5日7日8日掲載)
 
自分のちょっとした記念日に宿泊した霧島エリアの有名旅館。山裾を見下ろす露天風呂からは、錦江湾越しの桜島を一望することができ、その壮大な景色には心を奪われました。


 
貸切露天風呂も秀逸。この時は一番人気の「赤松の湯」とCM撮影で使われたことのある「もみじの湯」に入ることができました。


●台湾・桃園市 嘎拉賀(新興)温泉
3月25日27日掲載)
 
台湾の山間部にある秘湯。滝がまるごと温泉という実にワイルドでダイナミックな野湯です。滝に打たれるもよし、滝壺で湯浴みするもよし、そして…



滝のみならず付近の岩盤からも温泉が自噴しており、あちこちに湯だまりができていますので、そこに入ってもよし。台湾の自然の素晴らしさを改めて実感しました。


●インドネシア(ジャワ島) ティルタサニタ温泉群
(来年1月末か2月上旬に掲載予定)

環太平洋火山帯に含まれるインドネシアは火山が多く、それゆえ温泉の宝庫でもあります。
首都ジャカルタの南部にはボゴールという都市がありますが、その郊外のティルタサニタには面白い温泉が点在しています。上画像のような眺めの良い温泉露天風呂(有料施設)があったり…


 
その露天風呂からちょっと歩いた田んぼの中に、俄然として現れるテーブル上の石灰華ドームがあったり…。しかもその石灰華丘の上には温泉が自噴しており、ちょうど人が入れるサイズの穴が開いていて、そこで入浴することができるんですよ。素晴らしい野湯でした。


●インドネシア(ジャワ島) レンガニス温泉
(来年掲載予定)
 
1955年にアジアアフリカ会議が開催されたことで知られるバンドゥンの南部には火山が連なっており、そんな火山の麓に位置する地熱地帯のひとつがレンガニスです。日本では地熱が露出しているところを地獄と呼びますので、日本風に命名するならレンガニス地獄となるでしょうか。ここは温泉が豊富で、あちこちから湯けむりと共に大量の温泉が湧出しています。そんな温泉を集めて打たせ湯にしたり、あるいはお湯を溜めて露天風呂にしたりと、温泉を存分に楽しめるようになっていました。ここは日本人の温泉ファンでも存分に楽しめるかと思います。


●インドネシア(バリ島) バニュウエダン温泉 ミンピリゾート・ムンジャガン
(来年掲載予定)
 
観光客の喧騒とは縁遠いバリ島西部にある自然豊かなリゾートホテル「ミンピリゾート・ムンジャガン」。こちらは自家源泉を有しており、利用客は温泉に入浴できます。宿泊客向けのパブリック温泉槽はマングローブが生い茂る入江のほとりに設けられており、静かな環境の中で麗しい景色を眺めながら、のんびりと湯浴みすることができました。また温泉槽の隣には普通のプールもありますから、温泉で体が火照ったら、プールで泳ぐのもよし。無色透明で綺麗に澄んだお湯からはほんのりとタマゴ臭が香り、アルカリ性泉らしい滑らかな浴感が得られます。ちょっと熱めの湯加減なので、日本人でも満足できるかと思います。



ちょっと高い料金設定になっているコテージタイプの部屋に泊まると、部屋に露天風呂が付帯していますので、滞在中はいつでも好きな時に自由なスタイルで湯浴みができるんですね。この時ばかりは奮発して、この露天風呂付きのお部屋に泊まりました。新婚旅行で泊まるような天蓋ベッドつきの部屋を一人旅で泊まるんですから、つくづく自分が奇特な性格であることを痛感します。でも自分だけの温泉なんですよ。しかもお湯は完全掛け流し。バリ島にはリゾート施設がたくさんありますが、掛け流しの温泉露天風呂が付いている部屋はごく一部に限られるのではないでしょうか。パブリック用温泉槽よりもはるかに硫黄感が強く、お湯の持ち味を存分に味わうことができました。


 
 
「ミンピリゾート・ムンジャガン」はダイビングやシュノーケリングでも有名。リゾートの船着場からボートで30分ほど沖合に進んだムンジャガン島のまわりには珊瑚礁は広がっており、私はシュノーケリングで魚達と戯れたのですが、まさに竜宮城にいるかのような夢のようなひと時を楽しませていただきました。もちろん泳いだ後は温泉でその疲れを癒します。これぞ極楽。
あぁ、また南の海に潜りたいなぁ…。年末の寒さを忘れるべく、常夏の海を思い出して現実逃避を試みたのですが、温泉ブログなのにシュノーケリングのネタで一年の最後を締めくくるという、実にまとまりのない内容となってしまいました。


改めて言うまでもありませんが、ここ数年の温泉界では休廃業が相次いでおり、今年も各地で名湯が過去帳入りしてしまいました。拙ブログで取り上げた、あるいは私が訪問した直後に幕を下ろした温泉も幾つかあり、そうした報と接する度、永遠の別れとわかっていてもそう簡単に割り切れない未練を重ねてきました。しばらくはこの傾向が止まらないどころか、むしろ増加に拍車がかかる気配すらありますが、新年はそうした悲しい報が少しでも減ることを祈っております。

おかげさまで拙ブログは今年も多くの方にご覧いただきました。いままで私は閲覧数というものを意識してこなかったのですが、ここ数年、湯巡りをしている時に「あ、ブログの方ですよね」と私のことを言い当ててくださる方が増えるようになり、少しづつながら皆さんにご覧いただいていることを実感しております。
このブログは、ただ単にオツムの弱い私が自分の湯巡りの備忘録として書き始めたのがそもそもの端緒であり、開設から数年経過した今でも、その姿勢は変わっておりません。やがて記事の数が蓄積されてゆくにつれ、何らかの機能や役割を持たせられたら良いなと色気を覚えたこともありますが、才覚の無い私にはそれを実行に移すことができないまま今日に至っており、「鶏鳴狗盗」という中国の故事が意味するところを信じて、道楽者の記録の数々が、いつか思いがけない形で何らかの役に立つかもしれないという見込みのない希望を抱きながら、日々の現実逃避を兼ねて、来年もブログの執筆に取り組んでまいります。

今年も不束な拙ブログにお付き合いくださり誠にありがとうございました。
皆様もよい年をお迎えください。
新年は1月2日より更新を再開します。

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今なお立ち売り 奥羽本線・峠駅の「峠の力餅」

2016年12月29日 | 山形県
※今回記事に温泉は登場しません。あしからず。

冬の青春18きっぷシーズン真っ只中ですね。今日も18きっぷを片手に普通列車の旅を楽しんでいる方もいらっしゃることでしょう。先日拙ブログでは、今となっては貴重な存在となった鹿児島県吉松駅の駅弁立ち売りを取り上げましたが、今回記事はぜひ普通列車の車内で味わいたい、駅のホームで立ち売りされているみちのくの甘味を取り上げます。


●立ち売りの「峠の力餅」
そのみちのくの甘味とは「峠の力餅」。鉄道ファンのみならず国内旅行を頻繁になさる方には有名ですが、山形県米沢市の奥羽本線・峠駅では、今でも昔ながらの立ち売りスタイルで大福のような折詰のお餅が売られています。「峠の力餅」は奥羽本線の福島米沢間が開通した2年後の明治34年に販売が開始されたという、奥羽本線の歴史とともに歩んできた由緒ある甘味なのであります。

かつて、奥羽本線の福島米沢間は険しい板谷峠を越えなければならなかったため、途中の駅でスイッチバックを何度も繰り返すことにより急勾配を乗り越えていました。地形がそのまま駅名になっていることからもわかるように、峠駅もそんなスイッチバックが設けられた駅のひとつ。駅でスイッチバックをするということは進行方向が変わるわけですから、通常の駅よりも停車時間が長くなり、その時間を狙ってお餅の販売が開始されたものと思われます。かつて信越本線の横川駅では、機関車(補機のEF63)の連結や切り離しの作業時間に売られていた「峠の釜飯」が大人気を博していましたが、それと似たようなものだったのでしょう。しかしながら、鉄道車両の性能が上がるとスイッチバックの必要性はなくなり、山形新幹線の開業後は板谷峠区間のスイッチバックがごっそり廃止されてしまいました。現在、峠駅を停まる列車は、1日6往復の普通列車のみ。この区間の奥羽本線を行き来する旅行者はほとんどが新幹線「つばさ」に乗るため、峠駅を知ることなくあっという間に板谷峠を通過することでしょう。ということは列車の乗客が「峠の力餅」と接する機会も激減しちゃったわけです。にもかかわらず、いまでも販売を続けているのですから、歴史ある力餅を伝承し続けようとするその心意気には敬服せずにいられません。

ちょうど1年前ですが、年の瀬を迎えた2015年12月下旬に、奥羽本線で山形県から福島県方面へ南下する機会がありましたので、あえて新幹線ではなく普通列車に乗って板谷峠を越え、そのついでに、久しぶりに「峠の力餅」を買うことにしました。


 
まずは米沢駅で奥羽本線の福島行普通列車に乗車します。私が乗ったのは18:42発。山形福島県境の板谷峠を行き来する奥羽本線の列車は、山形新幹線「つばさ」が大多数であり、普通列車は本数がとても少ないので(1日6往復)、あらかじめ時刻を調べておかないと難儀します。



(了承を得て撮影しましたが、念のため画像の一部を加工しました)
定刻18:59に峠駅へ到着すると、肩から木箱を吊るした昔ながらのスタイルでお店の方が待っていてくれました。年間を通じて、昼間に運転される列車(上下とも3本)に対しては常に立ち売りが行われているのですが、私が乗った米沢18:42発など、昼以外(朝や夜)の列車に乗って購入を希望する場合は、あらかじめお店に連絡する必要があります。このため私は乗車の数時間前に予約を入れておきました。雪が降る中、わざわざ私一人のために持ってきてくださり有難うございました。

ちなみに駅での停車時間は1分しかないので、購入に至るまでの過程が非常に慌ただしいんです。列車の窓は上半分しか開かないので、窓越しでやり取りすることはできず、ドアからホームに出て買うことになります。しかもドアは半自動であるため、自分で「開」ボタンを押さないとドアが開きません。普通列車は2両編成とはいえ全長が40mもあります。列車の端っこにいたのでは時間をロスしてしまいますので、車両中央のドアで待機しておきます。もちろんお釣りがないよう、乗車前にあらかじめ小銭を用意することも欠かせません。

駅での購入方法に関しては、峠の力餅のホームページにて詳しく説明されていますので、購入の際にはあらかじめ目を通しておくことをおすすめします。
 峠の力餅の「峠の茶屋」ホームページ
 10個入り1,000円


 
今回は8個入りを購入しました。通常、駅の立ち売りで買える力餅は10個入りですが、私のように事前に注文しておけば8個入りも購入可能です。上画像がその8個入り「峠の力餅」の包み。かつて峠を越す時に利用されたと思しき駕籠が青いラインで描かれています。また力餅は力持ちということで、相撲の軍配も大きく描かれています。更には年末という時節柄、「峠の」という言葉の下に赤いインクで「合格」の2文字がスタンプされていました。
なお10個入りの包み紙はこれと異なる意匠であり、上画像でお店の方が手に持っているものがその10個入りですが、手元に大きな画像がないため、もしご覧になりたい方はGoogleの画像検索でご確認ください。


 
甘さを抑えたこしあんを白くて柔らかい餅で包んだ大福タイプのお餅は、素朴で昔懐かしい味わいです。時間が経つとお餅が硬くなるので、購入したらなるべく早めに食べちゃいましょう。

ちなみに「峠の力餅」は米沢駅の近くにも支店があり、店頭のみならず新幹線の車内でも販売されていますが、支店は峠の本店の暖簾分けであり、お餅のスタイルや味も峠駅のものとは若干異なっています。



峠の急勾配を下る普通列車の車内であっという間に餅を胃袋に収め、19:28に福島駅へ到着しました。雪景色の米沢とは違い、福島市内は雪が皆無。峠一つ越えるだけで天候が全く異なるのですから、冬の東北は実に面白いものです。

駅売りのお餅といえば、かつては中央線・笹子駅の「笹子餅」が有名でしたが、駅や列車での販売は2014年に取りやめてしまったそうです(店舗での販売は現在も継続中)。また東北本線・小牛田駅のお饅頭も鉄道旅行者にとっては知る人ぞ知る存在ですが、こちらは駅から一旦出ないと買えません。
駅弁はまだまだ全国の各駅で販売されていますが、駅売りの甘味関係はいまや絶滅危惧種ですから、「峠の力餅」は非常に貴重な存在です。旅情をより一層盛り立ててくれる懐かしの味でした。


●峠の茶屋で雑煮餅を食べる(2009年夏)
峠駅には7年前の夏にも立ち寄ったことがあります。その時には駅を出てその先にある峠の茶屋へお邪魔しました。


 
 
かつてスイッチバックが行われていた駅構内は大きなスノーシェッドで覆われています。スイッチバックをするということはポイントを頻りに切り替えなきゃいけません。でも雪がポイントの隙間に挟まっちゃうと、ポイントが不転換になっちゃうので、大きな屋根で囲っているわけですね。


 
峠駅に列車が入線してきました。


 
この時は法被姿の男性が立ち売りをしていましたが、列車のドアが開くことはありませんでした。残念…。


 
こちらが駅の先にある峠の茶屋。店内で山菜入りの雑煮餅をいただきました。これもまた田舎らしい素朴な味。
なお駅の立ち売りは通年営業ですが、この峠の茶屋は冬季休業です。
界隈には米沢八湯に含まれる名湯(五色温泉・滑川温泉・姥湯温泉)がありますから、八湯をめぐる際に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。


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指宿温泉 民宿たかよし

2016年12月27日 | 鹿児島県

前回記事では指宿温泉「いぶすき元湯温泉」でひとっ風呂浴びたことを述べましたが、その晩は同じ指宿の湯の浜温泉街の入口付近にある「民宿たかよし」でお世話になりました。某大手宿泊予約サイトで温泉宿を探していたら、駅から近くて安いという好条件に惹かれてこちらのお宿を予約したのですが、実際に泊まってみたら、そうした好条件以上に魅力的だったのです。


 
玄関を訪うとお婆ちゃんが笑顔で温かく迎え入れてくださいました。玄関ホールには海外から訪れたお客さんの寄せ書きがたくさん並べられていたのですが、皆さんもきっとお婆ちゃんの笑顔に心をギュッと掴まれたのでしょう。


●客室や食事など
 
今回の客室は2階の和室6畳。朝食付きで税込5000円以下でしたので、ある程度のことは覚悟していたのですが、そんな心配を抱いていたことが失礼に思えるほど室内は綺麗。テレビ・エアコンなどは備わっており、Wifiも使えます。


 
廊下には共用の冷蔵庫や電子レンジが置かれていました。流し台やトイレなど水回りも共用のものを使います。



上述したように朝食付きのプランでしたので、朝食はお宿でいただきました。民宿ですからてっきり家庭的な献立を想像していましたが、目の前に出されたのは高級旅館顔負けの立派な和定食。メインのお魚は、枕崎の名産であるカツオです。とっても美味しかったですよ。
後述する温泉に入れ、しかもこの朝食をいただけて税込5000円以下なんですから、コストパフォーマンス抜群です。恐れ入りました。


●浴場(大)

宿のお風呂は1階の廊下に2室並んでおり、いずれも貸切で使用します。奥は大きな浴室、手前は小さな浴室です。予約制ではないので、利用したい時に亜いている方、もしくはお好みに合う方を使うことになります。なお入浴可能時間は15:00〜22:00、そして6:00〜9:00です。
まずは奥の大きな浴室から入ってみましょう。利用の際は、浴室出入口の脇にぶら下がっている札を裏返して、入浴中である旨を他客に知らせます。


 

脱衣室にはシャンプー類のセットが用意されており、棚には客用のタオルが積まれていました。客室からタオルを持参する必要がないので助かります。


 
総タイル貼りの浴室には、2人サイズの浴槽と2基のシャワーが取り付けられている洗い場が配置されていました。民家のお風呂をひと回り大きくしたような実用的な浴室です。なおシャワーから出てくるお湯は真湯です。


 
温泉は蛇口から落とされているのですが、湯元から供給されてくるお湯の温度が高いため、浴槽へ落とされるお湯の量はチョロチョロ程度に抑えられており、さらに窓を開けることによって自然冷却が促されていました。その甲斐あってか、湯船のお湯は適温がキープされており、私が湯船に入るとお湯が豪快にザバーッと溢れ出ていきました(でも湯嵩の回復には時間を要しました)。放流式の湯使いです。
使用源泉は四郷湯泉源。その名のように、元々は4つの集落が共同管理して使っていた源泉だったらしく、その歴史は昭和12年まで遡れるんだとか。吐出口の周りには白い温泉成分がこびりついており、浴槽まわりはうっすらと茶色に染まっています。湯船のお湯はボンヤリとした貝汁濁りを呈しており、湯口のお湯をテイスティングしてみると、とてもしょっぱくて苦汁味を伴っていました。また朝一番のお風呂では、湯面から芒硝のような匂いがわずかに漂っていました。なお、館内表示によれば加水しているとのことですが、湯量を絞ることによって加水を抑えており、そのおかげで比較的濃い状態が保たれているかと思います。


●浴室(小)
 
続いて手前側の小さな浴室へ。こちらの脱衣室は着替えるのが精一杯な程度のスペースしかないのですが、室内は綺麗にお手入れされており、棚にはタオルがきちんと積まれていますので、使い勝手に支障はありません。


 
三角形の浴槽が据えられた浴室はとてもコンパクト。一般家庭のお風呂をお借りしたような雰囲気ですが、私のような一人客にとっては、こちらの方がフィットして落ち着きます。



浴槽も一人サイズ。大きな浴室と同じく、浴槽まわりは茶色に薄く染まり、温泉専用の蛇口には白い温泉成分が付着しており、その蛇口から熱いお湯がチョロチョロと注がれていました。浴槽のキャパが小さな分、こちらのお風呂の方が湯嵩の回復が若干早いように思われます。お湯に浸かるとツルツルスベスベの浴感がはっきりと肌に伝わり、その滑らかさが気持ち良くなって、湯中では何度も自分の肌をさすってしまいました。濃い食塩泉ですから、湯上がりはとてもよく火照り、浴衣がビッショリになるほど発汗し、長時間に及んで温浴効果が続きました。

できれば明るい時間帯に当地へ着いてゆっくり湯巡りしたかったのですが、この時はタイトなスケジュールだったため、前回記事の公衆浴場と今回記事の民宿の計2湯のみとなってしまいました。でもそんな無念さをすっかり取り返してくれるような、ハートウォーミング且つコストパフォーマンス良好なお宿でした。


四郷湯泉源
ナトリウム-塩化物温泉 78.8℃ pH7.3 溶存物質13990mg/kg 成分総計14000mg/kg
Na+:4250mg(77.33mval%), Mg++:175.3mg(6.03mval%), Ca++:641.5mg(13.39mval%),
Cl-:7695mg(95.13mval%), SO4--:432.0mg, HCO3-:101.0mg,
H2SiO3:366.0mg, HBO2:26.6mg,
(平成14年2月15日)
加水あり(入浴に適した温度にするため)

JR指宿枕崎線・指宿駅より徒歩12分(約1km)
鹿児島県指宿市湯の浜5-1-1  地図
0993-22-5982

宿泊のみ(日帰り入浴はおそらく不可)

私の好み:★★★
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指宿温泉 いぶすき元湯温泉

2016年12月25日 | 鹿児島県

2016年6月某日に鹿児島県屈指の温泉地である指宿で一晩を過ごしたのですが、その際に泊まったお宿は次回取り上げるとして、その前にちょこっと湯浴みした公衆浴場「いぶすき元湯温泉」について今回記事で取り上げさせていただきます。閉館時間直前に訪れたため、暗い画像ばかりで申し訳ないのですが、あしからずご了承ください。なお、拙ブログでは以前に指宿温泉の自炊宿「温泉宿元湯」を取り上げており、今回の公衆浴場と同じく元湯を名乗っていますが、お宿と公衆浴場は隣接していながら別個の施設ですので、誤解なきよう。
温泉地の中央に位置するこちらの浴場は、建物自体は比較的新しいのですが、歴史ある温泉地としての矜持を示すためか、伝統的な湯屋の様式に則って建てられているようです。番台で湯銭を支払ってカーテンを開けると、いきなり脱衣室へ突っ込むような造りになっていました。


 
ウッディーな浴室はそこはかとない重厚感と大人数を収容できる広さを有しており、歴史ある温泉地の元湯を名乗るに相応しい貫禄が伝わってきます。男湯の場合は、右手に2つの浴槽が並び、左手に洗い場が配置されていました。


 
窓枠には角材の枕が並べられていました。湯船の縁に置いて寝湯のような感じで使うのでしょうか。
洗い場の端には上がり湯も設けられていました。


 

洗い場にはお湯と水の水栓ペアが5組並んで取り付けられています。お湯・水ともにシャワーは無くスパウトのみなのですが、お湯に関しては要注意。といいますのも、お湯のコックを開けると70℃以上ある源泉そのままのお湯が吐出されるのです。浴場内には「熱湯注意」と書かれた張り紙が掲示されていますが、そんな注意に気づかずいきなりお湯を出して火傷しそうになったマヌケな客がいたことは、ここだけの秘密です(つまり私のことですが…)。


 
2つの浴槽を跨ぐような形で石積みの温泉投入口が設置されています。その石積みの上にはお湯と水の配管が下りていて、いずれにもバルブが取り付けられており、客が任意で開閉できるようになっていました。洗い場に激アツのお湯を供給していた配管はこちらにも伸びていますので、お湯のバルブを全開にしちゃうと、湯船が熱湯地獄になってしまいます。そこで、通常お湯のコックは締められており、客が「もうちょっと熱い方が良いな」と感じた時だけ開けるようにしてありました。つまり溜め湯式に近い湯使いと言って良いでしょう。お湯や水を投入すれば、その分だけ浴槽縁の切り欠けより湯船のお湯が溢れ出てゆきます。



2つの浴槽はいずれも(目測で)1.8m×3m弱の長方形ですが、湯加減の設定が異なっています。脱衣室側の浴槽はぬる湯で、通常は40〜42℃設定のようですが、先客が水で思いっきり薄めた後だったのか、私が訪れた時はそれよりもかなり下回る湯加減でした。また加水の影響なのか、お湯自体も若干の濁りが発生していました。



一方、窓側の浴槽はあつ湯で42〜43℃設定。ぬる湯よりも透明度が高く、入り応えのある湯加減でしたので、私は始終こちらばかりに浸かっておりました。お湯自体はほぼ無色透明ですが、綺麗に澄み切っているわけではなく、僅かに霞が掛かっているように見えます。また、浴槽の縁や湯口まわりはやや茶色を帯びたベージュ色に染まっており、そうしたところからもお湯の濃さがビジュアル的に伝わってきます。

お湯を口に含むととてもしょっぱく、苦汁のような味も少々混じっています。湯船のお湯はトロトロしており、肌にはツルスベと引っかかりが混在して伝わってきました。泉質名こそナトリウム-塩化物温泉、つまり食塩泉ですが、これはミリバル%の数値で決められる温泉法の規定に従ったものに過ぎず、この温泉では他の物質も多く含まれており、相対的に文言として表に現れてこないだけで、特にマグネシウムイオンやカルシウムイオンなどは絶対量としてはかなり多く、苦汁の味やベージュ色の析出はその証左と言えるでしょう。
しょっぱいお湯ですから非常に火照り、湯上がり後はしばらく汗が止まらず、まるで体内に熱源が埋め込まれたかのように長時間にわたってホコホコが持続しました。


摺ヶ浜50号・51号・76号及び111号(混合利用)
ナトリウム-塩化物温泉 73.0℃ pH8.1 溶存物質13.27g/kg 成分総計13.28g/kg
Na+:4279mg(79.67mval%), Mg++:139.4mg(4.91mval%), Ca++:542.4mg(11.59mval%),
Cl-:7171mg(94.56mval%), Br-:26.2mg, HCO3-:139.2mg, SO4--:427.1mg(4.16mval%), S2O3--:0.4mg,
H2SiO3:193.4mg, HBO2:26.5mg, CO2:10.4mg,
(平成24年7月5日)

JR指宿枕崎線・指宿駅から徒歩15分強(約1.5km)
鹿児島県指宿市湯の浜5-19-25  地図
0993-24-2701

12:00~22:00(受付21:30まで) 月曜定休
300円
備品類なし

私の好み:★★
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吉松駅の立ち売り駅弁と吉都線乗り潰し

2016年12月23日 | 鹿児島県
※今回記事に温泉は登場しません。あしからず。

前々回および前回記事で取り上げた高原町の「湯之元温泉」をチェックアウトした後は、東京へ帰るために鹿児島空港に向かいたかったのですが、単純に空港へ行くだけでは芸がないので、昔ながらの旅情を楽しむべく、ちょっと寄り道することにしました。

●吉都線を乗りつぶす
 
まずはレンタカーで都城まで向かい、市内で車を返却してから、路線バスで都城駅へ。


 
この時乗った列車は都城10:18発の吉都線、吉松経由隼人行きです。都城を出てから吉都線の終点吉松を経由し、そこから肥薩線に乗り入れて、日豊本線と合流する隼人駅まで走る各駅停車のローカル列車です。隼人駅やその隣の国分駅からは鹿児島空港行きの路線バスが発着していますので、この列車の終点でバスへ乗り換えようという算段です。都城から隼人(もしくは国分)へ列車で行くなら、日豊本線を利用した方がはるかに早いのですが、なぜ今回は思いっきり遠回りとなる吉都線ルートを選んだのかは、当記事の本題に関わることですので、詳しくはまた後ほど。


 
JR九州による「KAGOSHIMA by ROLA」キャンペーンの中吊りが掲示されている車内ですが、車両自体はローラが生まれるずっと前の国鉄時代に製造されたキハ47(改造されて現在はキハ147に改番)とキハ40の2両編成。天井の扇風機にはいまだにJNRのロゴが残っていました。でもね、古くたってちゃんと走れるんだよ、へぇエンジン変えてるんだ、よくわかんなーい、うん、いい感じー。



午前10時すぎという時間帯だからか、乗客は1両につき数名程度というガラガラ状態のまま都城を出発。数少ないお客さんの中には、スーツ姿で書類を広げる3人グループがいたのですが、地元で仕事する人は車で行動するでしょうから、おそらく遠く離れた地方から出張でやってきたのでしょう。たしかに、地元で生活する人にとって吉都線のような不便なローカル線は学生か老人しか使わない前近代的なインフラに過ぎず、鉄道会社にとっても赤字を膨らませる負の遺産なのかもしれませんが、私のような旅行者をはじめ、他地域から仕事などで訪れる人にとっては、国鉄だろうがJRであろうが、どれだけ時代が変わっても貴重な交通手段であることに違いありません。
ロートル車両のローカル列車は、霧島の山稜を遠くに眺めながら長閑な田園風景の中を走っていきます。線路はえびの高原へ向かって緩やかな上り勾配が続きます。


 
前回記事の「湯之元温泉」最寄駅である高原駅で反対方向の列車と交換(行き違い)。ここまで来ると霧島連山がかなり近くまで迫ってきますね。進行方向の正面に山が聳える高原駅のホームはとてもフォトジェニックです。


 
車窓に広がる高原の畑を眺めていると、徐々に市街地が近づき…


 
小林市の玄関口となる小林駅に到着しました。ここでスーツの3人を含む乗客のほとんどが降車してしまい、2両編成の列車には私など片手に収まる程度の客が残るばかりとなりました。なるほど、吉都線の廃止が常に取り沙汰されるのも宜なるかな。ついさっき「貴重な交通手段であることに違いありません」と偉そうに見得を切ってみたものの、この状況を目の当たりにして自信を喪失し、前言撤回したくなっちゃいました。ズブの素人が下手に意見するものではありませんね。ちなみにJR九州の路線の中では、輸送密度(1日1km当たりの平均輸送量)が最低なんだとか。


 
小林を出るとウネウネと小さなカーブが続き、身をよじるようにして坂道を登ると、更に標高が上がって車窓に山林が迫ってくるようになりました。


 
樹林の連続を抜けると再び視界が広がり、えびの高原の田園地帯を快走。窓から入ってくる風が気持ち良いので、麗らかな空気を体に吸収すべく深呼吸をしたら、タイミング悪く家畜小屋から漂う臭いを思いっきり吸い込んでしまい、ゲホゲホと噎せ返してしまいました。きっと私の日頃の行いが悪いから、こういう目に遭ったのでしょう。
以前拙ブログで取り上げた「鶴丸温泉」が目の前にある鶴丸駅を出た後は・・・


 
やはり以前取り上げた「前田温泉」を見下ろし、その直後に川内川を渡って・・・


●いまや珍しい立ち売り 吉松駅の駅弁
 
定刻通りの11:46に吉松駅へ到着しました。吉都線はここまで。吉松から先は肥薩線に乗り入れます。発車は11:59ですので、13分間この駅で停車します。
私が日豊本線ではなく、大幅に遠回りとなる吉都線経由にした理由は、この駅にありました。


 
本題からちょっと逸れますが、私が訪れたのは今年(2016年)5月の中旬。同年4月に発生した熊本の震災により肥薩線はしばらく運休していましたが、私が旅をしたちょっと前に復旧し、これに伴い肥薩線の観光列車も運転を再開したのでした。吉松駅ではその観光列車「しんぺい」の出発式が挙行されている真っ最中。地元テレビ局も取材に駆けつけ、普段は静かな駅構内もこの時ばかりは賑やかに盛り上がり、地元の観光ボランティアの皆さんが熊本の復興を応援していました。


 
ところが、観光列車「しんぺい」が発車した後は、潮が引くかのようにみなさんサーっと一斉に立ち去り、駅構内はあっという間にいつもの静寂さを取り戻したのでした。ひと気のない閑散としたホームには、ディーゼル車のエンジン音が響くばかり。左(上)画像には2つの列車が写っていますが、右側は私が乗ってきた隼人行、一方の左側は逆方向の都城行です。

この吉松駅から出発する吉都線都城方面は1日10〜11本、肥薩線は隼人方面が15本、人吉方面に至っては5本しか運転されませんが、運行上の要衝であることに違いなく、その証として、ホームの上には行先表示板(通称「サボ」)を入れる棚が設置されていました。鉄道車両の側面に表示される行先は、いまではLEDが主流であり、ひと昔はロールタイプの幕が多かったわけですが、さらに時代を遡ると、車体に横長の行先表示板をぶら下げたり枠に差し込んだりしていました。さすがに関東地方では一部の中小私鉄を除いて見られなくなりましたが、九州でもとりわけ鹿児島や宮崎界隈ではいまでも現役であり、列車が終着駅に到着すると、係員が素早い手付きで行先表示板を差し替えて、折り返し運転に備えます。ホームにこの棚があるということは、この駅を起点(もしくは終点)として運転される列車が多いという意味なんですね。



さて、本題へ戻りましょう。私が吉松駅に立ち寄りたかったのは、ホームにある売店で扱っているものを買いたかったからです。1日平均乗降客数が250人にも満たない小さな駅にもかかわらず、ホーム上に売店があるだなんて奇跡的なのですが、この駅ではもっと珍しいことがいまだに残っているのです。


 
その今時珍しいこととは、駅弁の立ち売りです。かつて特急列車が停まるような主要駅では、当たり前のようにホームなど駅構内で駅弁の立ち売りが見られましたが、在来線から特急が消えるに従って売り子の姿も全国から消えて行き、いまだに残っているのは、東武の下今市、特急「ひだ」が停まる美濃太田、かしわめしで有名な鹿児島本線の折尾、SLなど観光列車が発着する肥薩線の人吉、そしてこの吉松駅ぐらいでしょうか。このほか、数年前に私は新潟県の直江津駅で立ち売りのおじさんから駅弁を買いましたが、在来線が第三セクター化された今でも残っているのでしょうか。

上に挙げた5〜6駅のうち、吉松を除く各駅はそこそこの乗降(もしくは乗換)の客がいたり、あるいは地域の拠点駅だったりするのですが、この吉松駅に至っては、たしかに列車運行上の拠点であり且つ鹿児島県湧水町の中心地であるものの、上述のように1日あたりの運行本数は非常に少なく、乗降客は250人以下であり、付近にこれといった観光名所があるわけでもないので、駅弁の需要なんてたかが知れています。いや、昔は賑わっていたかもしれませんが、いまこの駅に接続する両路線は、JR九州の輸送密度ワースト1(吉都線)とブービー賞(肥薩線)という惨憺たる有り様です。にもかかわらず、昔からいまに至るまで頑固に駅弁の立ち売りを守り抜いているのです(一時期は休止したこともあったようですが)。その素晴らしい心意気に私は心を打たれ、ぜひ立ち売りから駅弁を買いたかったのでした。
とはいえ、いつも駅弁を販売しているとは限りませんので、私は都城駅で列車に乗る前にあらかじめ電話で予約を入れて、確実に入手できるよう手配しておきました。私が列車を降りると、肩から木箱を担ぐ昔ながらのスタイルでお爺さんがやってきて、笑顔で温かい駅弁を手渡してくださいました。なんて勇ましい姿なんでしょう!


 
吉松駅の駅弁は一種類のみ。その名も「御弁当」。実に潔いですね。金650円也。紐を解いて包みを開くと、650円の駅弁とは思えないほど具沢山にビックリ! 所謂幕の内であり、卵焼き・里芋・つくね・煮物(糸こんにゃく・蓮根・にんじん・大根など)・揚げ物・豚バラ焼などが、どれも一口サイズながらギッシリと詰め込まれているのです。まさに小さな宝石箱。温かいお弁当は作りたての証。650円ひとつのために調製してくれたお弁当屋さんに感謝です。定刻の11:59に列車は吉松を発車。窓を開けて風を受けながら、お爺さんがオマケでくれた缶コーヒーを片手に、このお弁当を美味しくいただきました。



お弁当の包み紙は持ち帰りました。上画像がその包み紙です。吉松温泉や京町温泉、そして肥薩線のスイッチバックや霧島連山といった周辺の山々など、周囲の観光名所を地図上にあしらったとてもレトロなデザインですが、昔からこの包み紙を使っているのではなく、少なくとも10年ほど前は違う意匠だったようです。昔から連綿と続いているように思われますが、実はその時々に応じて姿形を変えているのかもしれませんね。
参考までにお弁当の注文(予約)先を載せさせていただきます。
 駅弁たまり 電話0995-75-2046
 注文時には乗車する列車(何時にどの駅を出て何時に吉松駅へ到着するか)、お弁当の個数、名前などを伝えると良いかと思います。そして、釣り銭なきよう必ず小銭を用意しておきましょう!


 
吉松から肥薩線に乗り入れた列車は、いまや観光名所になった嘉例川駅など各駅を丁寧に一つ一つ停まりながら南下し・・・


 
定刻12:51に終着の隼人駅へ到着しました。水戸岡チックなデザインに改修された駅舎の上には、島津の丸十が大きく掲げられています。江戸時代には島津家の支配を受けていたとはいえ、隼人や国分といった現在の霧島市一帯は、かつて大隈に属していました。よく考えれば、肥薩線とはいうものの、起点の八代(肥後)から終点の隼人(大隈)まで薩摩を全く擦りもしない不思議な路線なのであります。でも地理通りに肥大線にしちゃうと、男性乗客の前立腺に変調をきたしそうなので、いまのままで良いのかもしれませんね。



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コメント (9)
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