温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

蔵王温泉 松金屋アネックス(源泉眺望風呂)

2017年08月30日 | 山形県
 
前回記事に引き続き、今年(2017年)冬に訪れた蔵王温泉のお風呂を巡ります。今回取り上げるのは、温泉街の中心部から県道14号線に入って緩やかな坂をちょっと下ったところにあるホテル「松金屋アネックス」です。日帰り入浴で伺いました。蔵王温泉の多くの旅館やホテルでは日帰り入浴を受け入れていますが、その受付時間は宿によって異なり、宿泊客を優先するため、えてして日中の数時間のみ開放されるケースが一般的です。しかし、こちらのお宿は朝から夜まで長い時間にわたって日帰り入浴を受け入れてくれるので、ホテルの綺麗で大きなお風呂でひとっ風呂浴びたい場合には重宝する大変ありがたい存在です。



アネックスという名前からも想像つくように、このお宿は新館という位置付けのようですが、本館と別館の二本立てということではなく、旧館から新しく生まれ変わった現在の姿をアネックスと称しているようです。1階の勝手口には「松金屋藤左衛門」と書かれた札が下がっているのですが、おそらくアネックスを名乗る以前の屋号なのでしょう。



フロントで日帰り入浴をお願いしますと、スタッフの方は笑顔で快く受け入れてくださいました。
宿によっては日帰り入浴客を邪険に扱うところもあるので、客としては飛び込み営業マンの心情で恐る恐る伺うこともあるのですが、こちらのように快く対応してくださると、次回は泊まってみたいな、あるいは知人に薦めてみようかな、なんて好意的に評価したくなります。口コミ全盛期の昨今、小さな対応こそ大切なんだと再認識させられました。
さて、館内図によれば1階には二つの浴場があり、ひとつは露天風呂付きの「大浴場」、もうひとつは「源泉展望風呂」なんだそうです。


 
フロントを擁する東館から渡り廊下を進んで西館へ進むと、その1階に「湯上りお休み処」と称するホールが広がっており、その先に人工温泉を用いた「大浴場」と露天風呂があります。この人工温泉は蔵王の温泉とは無関係のアルカリ鉱泉の沸かし湯らしく、しかももうひとつの浴室である「源泉眺望風呂」との間を移動する際には着替えないといけないため、今回大浴場および露天風呂の利用はパスすることにしました。もっとも、蔵王のお湯は酸性でかつ硫黄も濃いため、肌が弱い方など体に合わない方もいらっしゃいますから、体への刺激が強い蔵王の天然温泉が苦手な方にとってこの人工温泉はありがたいですね。


 
いま来た通路をちょっと戻って、上画像に写っている行灯を右折すると「源泉眺望風呂」。その名の通り、蔵王の天然温泉が引かれています。私の目当てはこちらのお風呂です。


 
厳冬期の日暮れどきに訪問したため浴室内は薄暗く、しかも湯気で曇っていました。そのため見辛い画像となってしまい申し訳ございません。総木造の浴室は温もりに満ち、またライティングの照度を抑えているため程よい暗さが落ち着きをもたらしていました。寛いでゆっくりと湯浴みするに相応しい空間ですね。床はすのこ状に施工されており、滑り止めと水はけという二つの効果をもたらしていました。
この源泉風呂ですが、今回利用しなかった大浴場の画像と比較しますと、比較的こぢんまりしているこちらのお風呂は二番手、サブ的な位置付けのようです。眺望と名乗っているように、たしかに小高い場所に設けられているのですが、決してパノラマが広がっているわけではないので、正直なところ名前負けしているような気がします。とはいえ、冬期こそ窓は締め切られますが、夏季は窓が開け広げられるそうですから、山の爽やかな風を受けながら開放的な湯浴みを楽しむことができることでしょう。


 
次席的な役割であることは洗い場にも現れており、浴室内で洗い場として使えるのは、片隅に設けられた2基のシャワー付きカランのみで、しかもシャンプー類などのアメニティもありません。つまり、体や髪をしっかり洗う場合には大浴場の利用が向いているわけですね。


 
浴槽に温泉を注いでいる木組みの湯口には、硫黄が分厚くこびりつくことにより、ほんのり黄色を帯びたクリーム色に濃く染まっていました。温泉地内に湧くいろんな源泉を集めてブレンドしたお湯を放流式の湯使いで供給しており、湯口から出てくるお湯はかなり熱いのですが、湯加減調整のためか投入量は絞られていました。


 
浴槽は目測で2m×5m弱のサイズ。室内と同じく浴槽も総木造なので、入った時のぬくもりや肌触りが優しく、あまりの心地よさゆえ、槽内で腰を下ろした時には思わず「ふぅ」と息が漏れてしまいました。湯口の直下には湯の花が沈殿しており、お湯を動かすと沈殿が舞い上がって瞬間的に濁りますが、すぐに再沈殿するので、早々に元の透明度が戻ってきます。
複数の源泉をミックスしているため、蔵王温泉の代表的な特徴がそれぞれバランスよく現れており、まさに当地の王道を往くお湯です。温泉の教科書があれば掲載してほしいほど、各源泉の個性がよく出ています。具体的には、フルーティーな収斂酸味と塩味が得られ、少々の硫化水素が漂い、湯中では強酸性ならではのヌメリを伴うツルスベ浴感が肌に伝わってきます。湯量を絞っているものの、私が入った時には少々熱めの湯加減になっており、長湯することはできませんでした。スキーから帰ってくるお客さんで賑わう時間帯のはずですが、風呂の大きさや使い勝手の良し悪し、露天の有無、といった要因のほか、湯加減の高低も影響しているのか、みなさん天然温泉ではなく、人工温泉の大浴場を利用なさっており、そのおかげでしばらくの間、私はこの源泉風呂を独占することができました。
スタッフの方の対応もよく、雰囲気も設備面も優れているこちらのお宿。次回は是非宿泊で利用させていただきたいと思いながら、お風呂から上がりました。


混合泉(高見屋1号源泉・近江屋1号源泉・海老屋山形屋源泉・川原屋源泉・松金屋源泉)
酸性・含硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物温泉 50.4℃ pH1.7 溶存物質3396mg/kg 蒸発残留物2998mg,
H+:21.0mg, Na+:48.1mg, Mg++:52.8mg, Ca++:79.6mg, Al+++:152.9mg, Mn++:2.6mg, Fe++:18.4mg,
F-:10.1mg, Cl-:455.6mg, I-:2.0mg, HSO4-:933.3mg, SO4--:1326mg,
H2SiO3:210.8mg, HBO2:5.2mg, H2SO4:49.3mg, CO2:251.1mg, H2S:9.5mg,
(2006年6月5日)

山形県山形市蔵王温泉1267-16
023-694-9706
ホームページ

日帰り入浴時間9:00〜21:00
600円

私の好み:★★+0.5
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蔵王温泉 KKR蔵王白銀荘

2017年08月28日 | 山形県
 
今回から数回連続で、今年(2017年)冬に訪れた山形県蔵王温泉のお風呂を取り上げます。まずは蔵王中央ロープウェイの駅前に位置している「KKR蔵王白銀荘」から。KKRとは、池袋界隈を地盤にしている路線バスの会社ではなく(国際興業、略称KKK)、RKK熊本放送でもなく、国家公務員共済組合連合会のローマ字表記を略したものであり、正しくは国家公務員共済組合連合会蔵王保養所というんだとか。いわゆる共済施設であり、その無骨な外観や昭和なネーミングは、いかにもお役所関係の保養施設といった感を受けます。私は国家公務員とは無縁である零細企業の一介の社員にすぎませんが、そんな公務員ではない私でも利用できます(国家公務員ならば各料金が安くなります)。建物こそ年季が入っていますが、リーズナブルに利用できる上、ロープウェイの駅、そしてコンビニや各種商店・飲食店などが並ぶ蔵王で最も賑やかなエリアに位置していますから、利用価値がかなり高い宿と言えそうです。
今回私は立ち寄り入浴でお邪魔しました。一般客の日帰り入浴料金は650円ですが、国家公務員の場合は割引料金が適用されるようです。



玄関でスリッパに履き替え、フロントで料金を支払い、ロビーを抜けた先にある階段で1フロア下ると、お風呂の暖簾が掛かっていました。2室ある浴場はいずれも内湯のみですが、23時に暖簾が入れ替わるので、宿泊すれば両方に入ることができます。私が訪れた時には左側の浴室に男湯の暖簾がさがっていました。


 
冬に訪れたため、浴室は湯気で真っ白に煙っており、このような見辛い画像となってしまいました。申し訳ございません。お風呂の様子をよくご覧になりたい方はお手数ですが公式サイトでご確認ください。
脱衣所から浴場へ入ると、まず左手の壁に沿って洗い場が配置されており、計6基のシャワー付きカランがL字形に並んでいます。一方、右側の壁沿いには2〜3人サイズの小さな浴槽が据えられ、ぬるいお湯が張られていました。



窓側に設けられている主浴槽は(目測で)2m×5mという大きさで、浴槽内こそタイル張りですが、縁には石材が用いられています。この石の縁ですが、長年にわたって使われ続けているのか、温泉に含まれるイオウのこびりつきによって元々の色がわからないほど白く染まっていました。


 
小さな浴槽と大きな主浴槽を仕切る形で上画像の湯口が設置されており、仕切りの上から太い塩ビ管の中へアツアツの温泉を落とし、温度を落ち着かせてから浴槽へ注ぐ仕組みになっていました。館内表示によれば温度調整のため加水が実施されているそうですが、加温循環消毒は無い放流式で、実際に湯船のお湯は洗い場側に設けられた湯尻から溢れ出ているほか、人が湯船に入るとお湯は縁の上を乗り越えてオーバーフローしていました。
こちらのお宿に引かれているお湯は上の川源泉。蔵王のお湯ですから酸性の硫黄泉である点は他の源泉と同じですが、泉質由来なのかはたまた湯使いが良いのか、他宿のお風呂で見られるような濁りや沈殿が少なく、うすくボンヤリと白く霞む程度です。いくら湯船のお湯を動かしても濁り方は変化せず、沈殿が舞い上がるようなこともなく、底面は常にはっきりと目視できるほど透明度が安定していました。味に関しては、梅干の汁のような塩分の効いた収斂酸味がはっきりと感じられる一方で、柑橘系のようなフルーティーさは少ないように思われます。絶妙の湯加減に調整されているため、肩までお湯に浸かると誰しもが「ふぅ」と息を漏らしてしまうこと必至。また湯中では強酸性のお湯らしいヌメリを伴うツルスベ浴感が肌を覆いますので、その気持ち良さがより一層湯浴み客を寛がせてくれることでしょう。


上の川源泉
酸性・含硫黄-硫酸塩・塩化物温泉 60.6℃ pH1.6 自然湧出 溶存物質2521mg/kg 成分総計3045mg/kg
H+:23.1mg(60.54mval%), Na+:38.2mg, Mg++:82.1mg(17.86mval%), Ca++:58.3mg, Al+++:27.7mg, Fe++:4.8mg,
F-:9.0mg, Cl-:312.0mg(23.80mval%), HSO4-:742.9mg(20.69mval%), SO4--:962.7mg(54.21mval%),
H2SiO3:199.1mg, H2SO4:43.0mg, CO2:515.7mg, H2S:8.3mg,
(平成28年1月15日)
加水あり(源泉温度が高いため)
加温循環消毒なし

山形県山形市蔵王温泉904-8  地図
023-694-9187
ホームページ

日帰り入浴時間は直接施設へお問い合わせください
650円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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熱塩温泉 下の湯共同浴場

2017年08月26日 | 福島県
 
前回に引き続き福島県会津の温泉を巡ります。会津北部の熱塩温泉は数軒の旅館と1軒の共同浴場「下の湯」があるだけの小さな温泉地ですが、開湯縁起を600年も遡れるほど長い歴史を有する会津屈指の名泉です。さて私はこれまで当地の共同浴場に2度ほど入ったことがあったので、是非とも旅館のお風呂に入ってみたく、日中に日帰り入浴目的で訪れたのですが、日頃の行いが悪いのか、今年の冬に訪問した時には、目星を付けていた旅館は全て日帰り入浴がお休みで、入ることができませんでした。そこで、まだ拙ブログの記事にしていない共同浴場を、久しぶりに再訪することにしました。



共同浴場は無人施設であるため、湯銭は左隣に並んでいる「叶屋」という萬屋さんで支払います。熱塩温泉には同じ名前のお宿もありますが(現在休業中)、聞いた話によれば、どうやら熱塩で温泉宿を営む家はどこも叶屋さんの分家らしく、源泉があるお寺から温泉営業の許可を得ているのが叶屋さんだけなんだとか(真偽の程は定かではありませんのであしからず)。


 
数年前まで会津の温泉共同浴場には混浴など昔ながらのスタイルを残したままの施設が見られましたが、ここ数年でリニューアルが一気に進み、昔日の面影が消えつつあります。そんな中で、熱塩温泉の「下の湯」は或る意味で昔ながらのスタイルを現代に継承している珍しい浴場です。と言いますのも、浴室自体は男女別なのですが、その手前にある更衣室が男女で同じ空間を使うのです。一般的に混浴のお風呂であっても更衣室は男女別である場合が多いのですが、この共同浴場はその逆なんですね。とはいえ、さすがに今のご時世でそれは宜しくないと判断されたのか、現在では保健所の指導によりカーテンが設置され、女性客が利用する場合はカーテンで仕切られるようになっています。とはいえ、浴場を入るといきなり更衣室となり、しかも男性は仕切りがない状態で着替えますので、男性は見られることを、女性は見てしまうことを覚悟しなければなりません。



上述のように浴室は男女別に分かれていますが、双方を仕切る塀の高さが低いため、脱衣室から浴場へ入る際に気をつけないと、お隣のお風呂の様子が目に入ってしまうかもしれません。私の訪問時、女湯には誰もいませんでしたが、念のためにお隣が見えない位置から記録させていただきました。うなぎの寝床のように細長いお風呂はタイル張り。洗い場は狭く、カランなどはありません。このため湯船から桶でお湯を汲んで掛け湯をすることになるのですが、後述するようにお湯の塩分濃度が高いため、石鹸はちっとも泡立ちませんので、その点はご留意を。


 
このお風呂では60℃近い温泉がそのまま供給されているので、湯口のお湯を全部注いでしまうと、熱すぎて湯船に入れなくなってしまいます。そこで、湯口には木の栓が差し込まれており、この差し込み具合によって投入量を調整しています。また、上述のように浴室内にはカランがないため、湯船のお湯でかけ湯せざるを得ず、これによって湯船の湯嵩が減った場合は、栓を抜いて全量投入しつつ水道で加水も並行して行うことにより、嵩を回復させます。
なお湯使いは完全放流式です。

長方形の浴槽は、3〜4人は入れそうな大きさがあり、湯船のお湯はやや黄土色と緑色を帯びた淡い濁りを呈しています。熱塩という名前の通り、温泉は熱くてしょっぱいんですね。また少々の金気味と若干の苦汁味が確認できます。湯口周りが赤いのは金気の影響なのでしょう。また、湯中ではギシギシと引っかかる浴感が強く感じられます。私が入った時には適温が維持されていましたが、しょっぱいお湯は獰猛ですから、気づけば心臓が激しく心拍し、ボディーブローを食らったかのような感覚に見舞われました。このため長湯ができず、湯船に出たり入ったりを繰り返しましたが、風呂上がりはパワフルに火照り、雪が降っているというのにコートが不要になるほど、体の中からポカポカと温まりました。

福島県会津地方や山形県内陸部には、海から遠く離れた山間部であるにもかかわらず、海水のようにしょっぱい温泉が点在していますが、いずれも当地が太古の時代に海底であったことを示すものです。海底の火山活動に伴い緑色凝灰岩(グリーンタフ)が生まれ、やがて海底が陸地化してゆくと、地中に閉じ込められた塩分が、熱せられた地下水に溶けて温泉となって湧出します。グリーンタフに伴う温泉は、熱塩のようにしょっぱいものばかりでなく、群馬県北毛や秋田県大館周辺のような無色透明の硫酸塩泉だったり、日本海側一帯に点在するアブラ臭の温泉だったりと、場所によってその現れ方が異なりますが、いずれも個性的でかつ名湯の誉れが高い温泉ばかりですから、グリーンタフは東日本の温泉巡りに多様性をもたらしてくれる立役者なのであります。


ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 64.3℃ pH6.4 138L/min(動力揚湯) 溶存物質11406mg/kg 成分総計11419mg/kg 
Na+:2917mg(66.24mval%), Mg++:14.7mg, Ca++:1104mg(28.76mval%), Sr++:28.0mg, Fe++:2.5mg,
Cl-:6422mg(94.51mval%), Br-:23.0mg, I-:1.4mg, SO4--:375.3mg, HCO3-:137.3mg,
H2SiO3:80.8mg, HBO2:53.1mg, CO2:12.9mg,
(平成20年1月9日)

福島県喜多方市熱塩加納町熱塩熱塩甲811  地図

外来者入浴時間9:00〜16:00(16:00以降は組合員限定)
200円(叶屋商店で支払う)
備品類無し

私の好み:★★
コメント (2)
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東山温泉 東山ハイマートホテル

2017年08月24日 | 福島県
 
会津若松の奥座敷である東山温泉には老舗旅館からリーズナブルなお宿まで様々なタイプのお宿が建ち並んでいますが、その中でも自家源泉を有する宿として温泉ファンから評価が高いのが「東山ハイマートホテル」です。今年(2017年)の冬、私は日帰り入浴で利用させていただきました。川沿いの細い道に面して建っているこちらのお宿は、カタカナの名称から受ける印象とはかけ離れた古い鉄筋の建物で、いかにも昭和の鄙びた温泉ホテルといった風情です。
お昼前に訪問したところ、館内の照明が消えていたので利用できるか不安でしたが、フロントの呼び出しボタンを押したら、お宿の方が出てきてくださり、日帰り入浴を快く受け入れてくれました。なお駐車場が狭いため、車の鍵はフロントに預けておきます。


 
館内には手書きの案内がたくさん貼り付けられており、鄙びた風情とあいまって、B級感を醸し出していました。フロントは2階にあるのですが、浴場は階下の1階ですので、その階段の踊り場に置かれた「無事帰る(カエル」の置物を横目に1階へと降ります。


 
階段で下った先の廊下に浴場の暖簾が掛かっていました。手前側は男湯「河鹿風呂」で、奥は女湯「子宝の湯」です。女湯の「子宝の湯」は他の宿にも引かれている組合源泉なのですが・・・



男湯「河鹿風呂」だけ、こちらのお宿の自家源泉が使われているんですね。この自家源泉に入るのがこちらのお宿を訪れた目的です。なお東山温泉で自家源泉を所有している宿は3軒しかないんだとか。
天井の低さが建物の古さを物語っている脱衣室を抜けて浴室へ。


 
湯気と芒硝臭が漂う浴室は、川を見下ろす位置に設けられており、そこそこ広い上、川に面した側は一面が窓ガラスになっているため、明るく開放的なロケーションで湯浴みを楽しむことができるかと思います。もっとも、内装に用いられている豆タイルからは昭和の匂いが香ばしく漂ってきますが、そんな古色蒼然とした雰囲気を払拭するほど明るいので、多少の古さは気になりません(あくまで私の個人的見解ですが)。


 
洗い場は窓側など壁に沿って配置されています。取り付けられている計8基のカランのうち、シャワー付きは3基だけでした。


 
浴槽は大小1つずつ、計2つ並んでいます。
大きな主浴槽は約2.5m四方で、縁には黒い御影石、内部は水色のタイルが採用されています。一般的な浴槽よりも造りが若干深く、私が底にお尻をつくと顎まで潜ってしまいましたが、その代わり入り応えがあるので、肩までしっかり湯に浸かれます。深い作りになっているにもかかわらず、浴槽内には固定されたステップがないのですが、その代わりコンクリブロックが沈められていました。ブロックという点がお宿のB級感をより強めているのですが、そんなところもご愛嬌。
浴槽の隅っこにはカエルの置物が鎮座する湯口の跡らしきものが残されているのですが、今ここからは何も出ていません。かつてはこの石の間からお湯が出ていたのかもしれません。


 
現在大きな浴槽にお湯を注いでいる壁に沿って積まれている上画像の石積み湯口です。壁には自家源泉であることをアピールするプレートが貼られていましたが、他の館内案内同様、これも手書きでした。この自家源泉の名前は「丸井荘源泉」と称するんだそうですが、丸井荘とはこちらのホテルの旧社名なんだとか。建物が相当草臥れてしまった今となっては、カタカナの名前よりも旧社名の方がマッチしているような気がします。


 
その湯口まわりに接近してみました。石の湯口のまわりにびっしりと分厚くこびりつく白い析出が、硫酸塩泉であることを主張していますね。お湯は無色透明で大変澄みきっており、眺めるだけでも心が清浄されそうです。上述したように室内には温泉由来の芒硝臭が漂っており、お湯を口に含むと芒硝感のほか、少々の石膏感も得られます。トロミのある湯中では、キシキシと引っかかる浴感がはっきりと肌に伝わり、しかも肌のシワ一本一本に温泉が染みこんでくるようなしっとり感も得られます。無色透明の硫酸塩泉が好きな方にはたまらない、実に素晴らしいお湯です。


 
主浴槽の右隣に並んでいる小浴槽は2人サイズ。大きな浴槽の湯口からお湯を分けており、投入量を減らすことによってぬるめの湯加減にしているらしいのですが、私の訪問時は大きな浴槽と大差ないように感じられました。



主浴槽や小浴槽でも使われなかった余ったお湯は、パイプから床へ捨てられており、その流路の床は大変熱くなっていました。東山温泉に湧く源泉の中でも12を争う熱さなんだとか。入室当初、私は熱いお湯が床に捨てられていることに気づかず、あまりの熱さにその場で飛び跳ねてしまいました。捨てるだけのお湯があるのなら、女湯にも供給できれば良いのですが、温泉というものはコンディションが一定しませんから、そう簡単にはいかないのかもしれませんね。

本文中でも申し上げましたが、建物がかなり草臥れているため、大手宿泊予約サイトで宿泊した方々の口コミを拝読しますと様々な評価がなされているようですが、少なくとも自家源泉のお湯に関しては大変素晴らしいので、立ち寄り入浴するだけでも利用価値は十分にあるかと思います。


丸井荘源泉
ナトリウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物温泉 57.4℃ pH7.5 14.8L/min(自然湧出) 溶存物質1.856g/kg 成分総計1.856g/kg 
Na+:350.1mg(55.36mval%), Ca++:236.3mg(42.86mval%),
Cl-:375.4mg(38.41mval%), Br-:0.7mg, SO4--:778.2mg(58.76mval%), HCO3-:34.2mg,
H2SiO3:50.3mg,
(平成21年10月29日)

会津若松駅から会津バスの「まちなか周遊バス」で東山温泉駅(バスターミナル)下車、徒歩1分
福島県会津若松市東山町湯本滝ノ湯109  地図
0242-27-6155

日帰り入浴時間10:00〜17:00
600円
シャンプー類あり、他備品類見当たらず

私の好み:★★+0.5
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湯野上温泉 民宿いなりや

2017年08月22日 | 福島県
 
今年(2017年)冬の某日に私は湯野上温泉で一晩過ごしたのですが、その時お世話になったのは「民宿いなりや」です。宿泊に際しては数日前に電話で予約をしたところ、「寒いから暖かくして来てくださいね」「ご飯は食べきれないほど出ますからお腹を空かして来てください」等々、優しく親切に説明してくださいました。宿の予約もネット利用が当たり前になっている昨今ですが、そんな時代だからこそ電話応対が好印象なお宿だと安心できます。ネットの口コミに頼る前に、まずは自分で直接問い合わせ、自分の勘に従った方が余程確実ではないでしょうか。こちらのお宿はそんな考えを持つ電話越しの私を安心させてくれました。



お宿の駐車場の傍には湯野上温泉で使われている源泉のひとつがポツンと立っていました。このように温泉街には源泉が点在しており、各源泉で湧いたお湯を集中管理して、各旅館へ配湯しています。このため宿の目の前で湧出しているからといって、そのお湯がすぐに宿のお風呂へ供給されるわけではありません。一旦、他の源泉とミックスされ、貯湯槽を経てから各旅館へと送られるわけです。



「民宿いなりや」は「ぬくもりのいろり宿」と名乗っているように、玄関のそばには上画像のような囲炉裏が設けられていました。私は今回利用しませんでしたが、ここで語らいのひと時を過ごすこともできるみたいです。


●部屋・食事
 
会津訛りでフランクに応対してくれる女将さんはまるでお母さんのようです。そんな女将さんが案内してくれた客室は約6畳の和室。テレビや空調などひと通りの設備は備わっているので、快適に過ごせました。そして窓からは大川が眺められ、対岸には会津鉄道の列車が左右に走っていました。


 
廊下はフローリング。お部屋に洗面台やトイレがないので、水回り関係は共用の設備を利用します。


 
こちらのお宿に泊まった方の口コミを見ますと、多くのが食事のボリュームについてコメントなさっており、どなたもその多さに驚いているのです。そして電話予約した際も宿のお母さんは「食べきれないほど出ます」とおっしゃっていました。果たしてどれだけの量なのか、期待を抱きつつも覚悟も決めながら、18:30に1階の大広間へ向かうと、私の卓には、上の画像に写っている数々、そして豚の陶板焼きが並べられていました。無芸大食の私は、この程度でしたらへっちゃら。すぐにでも完食できるのですが・・・



あらかじめ調えられたもの以外にも、できたてのアツアツな料理が説明とともに次々と提供されるので、徐々にお腹が満たされ・・・


 
終盤には山盛りの天ぷらと手打ちそばがドドンと出されたのです。画像では伝わりにくいのですが、その圧倒的なボリュームに面食い、実物と相対峙すると「これ、完食できるのか」と思わず苦笑いしてしまいました。天ぷらもお蕎麦も美味しいのですが、あまりの多さに悶絶してしまい、申し訳無いのですが天ぷらを半分近く残してしまいました。しかもこの天ぷらとそばが最後ではなく、さらにデザートとしてアイスのシュークリームまで出てくるのです。聞きしに勝る圧巻のボリュームに私は完敗。恐れ入りました。コストパフォーマンスなんていう表現がバカバカしくなるほど、ものすごい量でした。民宿ですからまさに家庭の味、おふくろの味といったラインナップです。大食漢の方は是非ともこちらのお宿の食事を完食していただきたいものです。


●お風呂

さて、話題を拙ブログの主旨である温泉のお風呂へ移しましょう。1階の廊下に沿って紺と紅の暖簾が掛かっていますので、私は紺の暖簾をくぐります。なお時間による暖簾替えはなく、男女は固定されているようです。また宿泊中の入浴時間に制限はなく、夜間通して入浴できます。


 
シンプルな脱衣室を抜けて浴室へ。内湯はいかにも民宿らしい実用的かつコンパクトな造りで、洗い場にはシャワー付きカランが2基並び、正面奥に2〜3人サイズの浴槽が据えられています。


 

内湯の浴槽は、縁が御影石で浴槽内はタイル張りですが、限られた空間を有効活用するためか、手前側の縁が斜めにカットすることによって、浴槽の容量を少しでも大きくしようと努めているようでした(あくまで私の主観ですが)。また湯口は石積みになっており、これによって非日常の温泉風情が醸し出されていました。お湯はこの石積みから直接吐出されているわけではなく、その裏手にある水栓から注がれているのですが、4つ並んでいる水栓の中でも温泉が出る水栓は白い析出で覆われているので、その水栓から熱いお湯が出てくるのか一目瞭然でした。なおお湯の投入量は適温になるようあらかじめ調整されているので、客が勝手に加減することはできません。


 
内湯からドアを開けると、すぐ露天風呂に出られます。木のぬくもりと石の落ち着きを兼ね備えた露天風呂は、全体を屋根で覆っているため、降雪期であっても冷たい思いをせずに雪見風呂を楽しめました。そして私が利用した客室同様、大川に面しているため、木立越しに川の流れや周囲の景色を眺められ、なかなか開放的です。


 
露天の浴槽は石風呂でおおよそ4人サイズ。湯口から注がれるお湯は直に触れられないほど熱々でしたから、おそらく配湯された温泉をそのままの状態で注いでいるのでしょう。そして湯量の増減によって湯加減を調整しているのでしょう。実際に私が入った時には、実に素晴らしい湯加減でした。内湯・露天ともに放流式の湯使いです。
こちらのお宿に引かれているお湯は湯野上温泉の混合泉(湯野上温泉舘本混合槽)。無色透明でほぼ無味無臭ながら、少々の石膏感が得られ、湯中ではスルスベとキシキシが拮抗して肌に伝わるのですが、湯加減の妙もあるため総じて優しくマイルドなフィーリングに包まれ、湯上がりもよく温まるのに肌はサラサラで、温浴効果と爽快感が同居する実に理想的な湯浴みを楽しむことができました。


 
翌朝も露天に入って雪見風呂を楽しみ、そのあとに朝食をいただきました。朝食は夕食のような脅威的ボリュームではなく、日本旅館らしい胃に優しい献立です。しっかり食べてその日の英気を養いました。



部屋に戻って窓から外を眺めていると、対岸に会津鉄道の列車が会津若松方面へ向かって走り去っていきました。ここはトレインビューも楽しめちゃうんですね。圧倒的なボリュームのお食事、そして掛け流しのお風呂、露天風呂まで堪能でき、しかもお値段は民宿らしいとってもリーズナブルな設定。お母さんの温かな対応も嬉しい、素敵なお宿でした。


湯野上温泉舘本混合槽(1・2・3・5・6・7・8号源泉混合)
単純温泉 51.9℃ pH8.2 267L/min(動力揚湯) 溶存物質408.8mg/kg 成分総計408.8mg/kg
Na+:96.5mg(84.09mval%), Ca++:14.3mg(14.33mval%),
Cl-:70.1mg(40.31mval%), SO4--:97.2mg(41.23mval%), HCO3-:51.4mg(17.16mval%),
H2SiO3:63.1mg,
(平成20年7月7日)

福島県南会津郡下郷町湯野上字沼袋乙853
0241-68-2328
ホームページ

日帰り入浴の時間不明
500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (6)
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