温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

梅田温泉 うめたふれあいセンター

2014年11月30日 | 青森県
 
五所川原市の「うめたふれあいセンター」は、市内に余多ある温泉公衆浴場のひとつ。老人デイサービス施設に隣接しており、そのデイサービス施設と保育園に挟まれた路地先の、ちょっとわかりにくい奥まった場所にあるため、利用者は地元の方がほとんどかと思われます。


 
天井が低いからか、あるいは質素な内装の影響か、どことなく仮設っぽい雰囲気が漂う館内。玄関入って右手に受付があり、そこで直接料金を支払います。


 
受付と反対側(入口から見て左側)には休憩室やお座敷があり、休憩室のテーブルには古民家の模型が置かれていました。また休憩室前にはユニットタイプの流し台が3台ほど並んでいました。



お風呂は内湯のみで、当然ながら男女別に分かれていますが、2つの浴室は大きさに差異があり、男女の平等を図るためか、「浴室は1週間ごとに男女が変わります」とのこと。私が訪れた日は小さな方の浴室に男湯の暖簾が掛かっていました。


 
細長い脱衣室を経て浴室へ。小規模旅館並みのコンパクトな浴室は、床などがタイル張りで、壁や天井には化成品の防滴壁材が用いられています。ただでさえ狭いのに天井が低いため、余計に閉塞感を覚えるのですが、その分、脱衣室側にも外側にも、とにかく室内を囲むように窓が設けられており、これによって閉塞感をできるだけ払拭しようとしています。
洗い場には6基のシャワー付き混合水栓がL字形に並んでおり、カランから吐出されるお湯は真湯(ボイラーの沸かし湯)です。ただ、ボイラーのご機嫌が斜めだったのか、あるいは配管に問題があるのか、どのカランも、吐出圧力・湯温調整ともに上手くいかず、利用者のみなさんは思うようにシャンプー等ができずに困っていらっしゃいました(あくまで私の訪問時の話)。


 
上述のように閉塞感を払拭すべく窓が多用されているのですが、とりわけ浴槽上は大きな一枚窓になっており、ガラスの向こう側には水車や古民家の模型が飾られていました。休憩室にも同じようなものが置かれていましたが、この施設はこの手の模型が好きなんでしょうね。ところで、この模型のおうちは古民家なのに3階建であり、もし実在しているならば建築物としてかなり貴重な存在となるはずです。尤も、あくまで模型にすぎませんから、そんなツッコミは野暮なのかもしれません。


 
浴槽は4~5人サイズの長方形で、全面タイル貼りです。お湯は常に浴槽縁の上を流れて捨てられており、人が湯船に入るとザバーっと音を室内に響かせながら豪快に溢れ出ていました。なおこの施設では塩素消毒が実施されているらしく、脱衣室にはその旨が掲示されていましたが、多少その臭いを察知できる程度でほとんど気になりませんでした。抵抗力の弱い老人が主な利用客ですから、消毒を行うことは不可欠なのでしょう。


 
飾り石に囲まれた木組みの湯口よりお湯が注がれています。甘塩味とほのかなモール泉的風味を併せ持つこのお湯は、薄めた麦茶に黄色みをやや濃くさせたような色合いをしており、ほぼ透明で、槽内には茶色い沈殿がたくさん溜まっています。実際に浴槽のお湯を桶で汲むと、上画像のように細かい沈殿を容易に確認できました。また、湯船に浸かると食塩泉らしいツルスベ感が得られました。

次回再訪時は、予め確認の上、大きな方の浴室を利用するつもりです。


梅田温泉(再分析)
ナトリウム-塩化物温泉 45.3℃ pH7.55 湧出量測定不可(動力揚湯) 溶存物質4.060g/kg 成分総計4.070g/kg
Na+:1395mg(94.90mval%), Ca++:25.4mg(1.98mval%),
Cl-:2012mval%(89.84mval%), Br-:6.6mg, I-:0.4mg, HCO3-:372.0mg(9.66mval%),
H2SiO3:143.7mg, HBO2:27.6mg, CO2:10.0mg,


五所川原駅より弘南バスの青森行・板柳行・高野環状線のいずれかで「梅田北口」下車、徒歩7分(600m)
青森県五所川原市大字梅田字福浦405  地図
0173-28-3289

7:00~21:00
300円
ドライヤーあり、他備品類なし

私の好み:★★
コメント (2)
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五所川原市 金太郎温泉

2014年11月29日 | 青森県
 
今回からは私の第二の故郷である青森県津軽地方の温泉を連続して取り上げてまいります。
五所川原市の南端、国道339号線旧道沿いの、鶴田町との境界付近に位置する温泉公衆浴場「金太郎温泉」は、源泉温度低下に伴って一時的に休業していましたが、その後に新源泉を掘削して昨年(2013年)12月にリニューアルオープンしています。休業前には何度か利用したことがあり、営業再開の報も昨年の時点で既に知っていたのですが、リニューアル後はなかなか訪れることができず、先日ようやく生まれ変わった金太郎温泉を再訪する機会を得ました。



国道旧道には五能線が並行しており、私が駐車場に車を停めると、偶然にも、1日10往復しかない普通列車が川部方面へ向かって走り去ってゆきました。すぐそばに線路が敷設されているので、列車での便も良さそうに思われますが、ここは駅と駅のちょうど中間点であるため、残念ながら最も近い陸奥鶴田駅から3km以上離れており、鉄道でアクセスするのはあまり現実的ではありません。



番台前に設置されている券売機で料金を支払い、券を番台に差し出して館内へと進みます。さすがに改修されてまだ1年も経っていないからか、浴室前の広いホールは明るくて綺麗。ベンチもたくさん置かれています。また窓側には小上がりも用意されています。湯上がりにここでゆっくり横になるにもいいですね。


 
天井の高くて開放的な浴室は、中央に大きな浴槽が据えられ、その周りを多くの洗い場が取り囲むという、青森県の銭湯の標準的なレイアウトです。室内がタイル貼りであることは従前通りですが、リニューアルによって全体的に小奇麗になっており、特にカラン周りや浴槽には木材が用いられるようになって、優しくぬくもりのある優しい内装へと進化していました。
洗い場のカランは計26基並んでおり、改修されたとはいえ、カランだけは青森県の銭湯に共通して見られる古典的な押しバネ式水栓と壁直付の固定式シャワーという組み合わせが残されていました。



金太郎温泉のシンボルとでも言うべき、壁に描かれた金太郎及びクマさんのイラスト。以前はもう少し渋い画風だったように記憶しているのですが、リニューアルに伴い、この金太郎とくまさんのイラストもすっかり別物に塗り替えられたようで、金太郎は現代的なアニメっぽい顔つきに生まれ変わり、クマは以前より写実的になったようです。


 
カランから吐出されるお湯は源泉であり、桶に溜めるだけでここの温泉が薄い黄色を帯びていることがわかります。


 
アニメチックに生まれ変わった金太郎の壁絵と並ぶ大きな変化が、総木板張りになった浴槽でしょう。浴室の中には中央の主浴槽と副浴槽、そして隅っこに設けられた打たせ湯と水風呂の計4浴槽があるのですが、打たせ湯槽を除く3浴槽は、縁も槽内も全て木板張りとなって一新されました。
主浴槽は目測で3m×4.5m(おおよそ15~6人サイズ)で、丁度良い深さとなっており、湯加減は43℃くらいに設定されています。一方、後述する湯口を挟んだ奥側の副浴槽は約2m四方で、湯加減は主浴槽とほぼ同じなのですが、かなり浅く、寝湯向きの造りになっていました。いずれの浴槽においても、槽内に肌が触れると、木ならではの滑らかな感触が心地よく、お湯の良さも相俟って、十分にくつろげます。


 
主浴槽と副浴槽とを仕切るタイル張りの湯口。主副それぞれに対してお湯をドバドバ大量に落としています。その投入量はとても多く、浴槽縁より惜しげも無く溢れ出ています。この金太郎温泉は、弘前市の百沢温泉あたご温泉などと同じく株式会社百沢温泉によって運営されていますが、同社の温泉浴場で共通して見られる金属製の平たい湯口は採用されていません。



新たに掘削された桜木2号源泉は、以前の源泉より湧出温度が高くなったばかりか、湯中に溶けている成分量もかなり増え、相当パワーアップされました。特徴を具体的に列挙してみますと、見た目は結構薄い黄色を帯びつつほぼ透明。口にふくむと明瞭な塩味と出汁味、そして弱重曹味が得られ、ほんのりと香る臭素臭と微かな金気臭、そしてアブラ臭に似て非なる独特の匂いが僅かに嗅ぎ取れました。特筆すべきは泡付きの多さであり、これは以前の源泉でも同様でしたが、新源泉でも湯船に浸かると、あっという間に全身が気泡に包まれました。この泡付きは源泉投入口に近づくほど顕著です。
いかにも食塩泉らしいツルスベ浴感はもちろんのこと、泡付きのおかげで滑らかさがより際立っており、もしかしたら界隈の他温泉よりツルスベ感が強いかもしれません。


 
浴室の奥に設置されている打たせ湯と水風呂。なぜか打たせ湯だけは従前のまま流用されているようです。一方、水風呂は主浴槽等と同様の改修を受けており、小さいながらも木板張りです。この水風呂には水道ではなく、井戸から汲み上げられた鉱泉が用いられおり、その浴感の良さに惹かれている隠れファンが結構いらっしゃるようです。私もこの水風呂に入ってみたところ、金気を含んで薄っすら黄色を帯びているこの鉱泉は20℃前後で、一般的な水風呂より遥かに入りやすいんです。こちらのお湯は塩気を含んでいるため、浴感は滑らかですが火照りやすく、迂闊に長湯すると体が参ってしまいますから、主浴槽でしっかり温まった後にこの水風呂へドボンと入ると、適度にクールダウンされ、汗も止まって、全身に爽快感が走りました。夏など暑い時期には、湯上がり直前の締めくくりに入ると最高でしょうね。



浴室奥には屋外に出る戸があり、その向こうには露天風呂らしきものがあるようですが、現時点では閉鎖されていました。


 
最後に小ネタをひとつ。
上画像は浴室内にある、従業員しか開けられない扉なのですが、そこに貼られたプレートには"STAFF ONRY"と記されていました。んん? R? 惜しいですね。


桜木2号泉
ナトリウム-塩化物温泉 64.7℃ pH7.9 222L/min(掘削動力揚湯) 溶存物質7.618g/kg 成分総計7.633g/kg
Na+:2672mg(95.32mval%), Fe++&Fe+++:0.8mg,
Cl-:3872mg(91.06mval%), Br-:18.6mg, I-:1.3mg, HCO3-:613.8mg(8.39mval%),
H2SiO3:177.7mg, HBO2:49.2mg, CO2:14.6mg,

五所川原駅より弘南バスの弘前行で「三ツ屋」バス停下車、徒歩4分(350m)
青森県五所川原市大字姥萢字桜木299-1  地図
0173-34-7715

8:00~22:00
320円
ロッカー(100円リターン式)・ドライヤーあり、石鹸・シャンプーなど販売あり

私の好み:★★+0.5
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秋田焼山 湯の沢の野湯(硫黄取りの湯)

2014年11月27日 | 秋田県
※この場所へ至るまでの流れは、前回記事「紅葉と野湯の秋田焼山 2014年10月 後編」の前半を参照。


秋田焼山の頂上から下りて、名残峠で昼食を摂った後、火口の外縁東側を歩いて硫黄鉱山跡を通り過ぎ、ガレの谷底に向かってひたすら下ってゆきます。下りきったところが上画像の地点でして、登山道はここで沢を渡ります。この一帯ではあちこちで温泉が湧いており、そのお湯が集まって湯の沢を形成しています。そして湯の沢では野湯が楽しめちゃいます。かつてこの付近では硫黄が採集されていたことから、野湯ファンからは「硫黄取りの湯」と称されており、かなり有名な野湯スポットでもあります。


●まずは最上流部へ
 
渡渉したところで大小2つの沢が合流します。大きな流れの方を遡ってゆくと、焼山火口のカルデラに白濁の温泉が湧き出る湯沼方向へとつながります。一方、もうひとつの小さな沢には、流れに沿って石垣が築かれていました。硫黄鉱山が操業していた当時のものかと想像されます。まずは、この小さな沢をちょっと遡ってみました。沢の河床は白く染まっており、一部では湯気も上がっていますので、温泉が流れていることは明らかです。


 
登山道から数十メートル遡ると、フツフツと温泉が湧出している箇所へ行き当たりました。早速携行していた計器を取り出して、そのお湯を計測してみますと、温度は65.0℃、pH=2.2というデータが得られました。アツアツの酸性泉ですね。さすがにこの温度では入浴できませんし、湯量も入浴できるほど多くありませんので、ここでは見学のみにとどめました。なおこの湧出点より上流は、ただの冷たい沢水です。


●熱めの湯溜まり
 
小さな沢から登山道へ戻り、合流後の沢に沿って20メートルほど下ると、道沿いに上画像のような湯溜まりが出来上がっています。その様子から想像するに、おそらく野湯愛好家が拵えたものでしょうが、上手い具合に岩が組まれてお湯が張られており、その傍らにはバスマットやホースまで用意されていました。


 
湯船は広いように見えますが、深さが足らないため、肩まで浸かろうとするとかなり寝そべらなくてはならず、体を伸ばして寝そべりながら入ると、せいぜい1~2人が精一杯かも。はじめのうち、湯溜まりのお湯は無色透明だったのですが、お湯をちょっとでも動かすと、沈殿していた湯の華や湯泥が舞い上がって、たちまち灰白色に強く濁りました。ちょっと上流側の湧出箇所より湧きたての温泉が加水されることなく注がれてくるため、湯加減は少々熱めの44.6℃でした。



前回記事にも掲載しましたが、この湯船に浸かるとこんな感じです。熱い湯加減ですが、焼山頂上へ至るまで冷たい風雨に晒されてきた私の体にとっては、むしろ冷えきった我が身を体の芯から温めてくれる、有り難い救いのお湯にように思われました。


 
なお、湯溜まりにお湯を注ぎ込んでいる源泉では、湯温51.4℃、pH=2.2でした。その数値が示すように、はっきりとした収斂酸味を有し、イオウ臭が強く漂っています。酸性硫黄泉であることは、分析表を見なくとも明らかです。


●湯の沢

続いて、「硫黄取りの湯」のメインである湯の沢へと向かいましょう。上述の湯溜まりから岩の上を伝って沢へ下りてゆくと、上画像のようなミニ滝壺のような箇所があり、ここが入浴に最適です。


 
道端の湯だまりには白い沈殿や湯泥が溜まっており、お湯をちょっとでも動かすと白濁して、実際に入浴してみると湯泥に紛れ込んでいる小石や枝なども舞い上がってくるのですが、この滝壺は常に大量のお湯が勢い良く流れており、沈殿なんて逗まる暇もなくどんどん流れ去っていきますから、お湯も底もクリアそのもの。一般的に、野湯での入浴は不純物との戦いを強いられますが、ここには不純物が一切なく、信じられないほどクリーンな環境で湯浴みできました。不自然な姿勢をとることなく、ただ底にお尻をつけるだけでちゃんと肩まで浸かる深さがありますし、しかも温度も40.0℃という、長湯にもってこいな絶妙の湯加減。これぞ大自然の恵みですね。



うひゃーーー!! めちゃくちゃ気持ち良いぜ!! この上なく爽快です。
滝のお湯を肩に当てて、打たせ湯にしてみるのも一興。
あまりの気持ち良さゆえ、出られなくなってしまい、かれこれ1時間近くこの滝壺で長湯し続けました。
再訪必至の極上野湯でした。


野湯につき温泉分析表なし

秋田県鹿角市八幡平
(この野湯を愛好している先達に敬意を表し、地図による場所の特定は控えさせていただきます)

野湯につき備品類なし
道中はクマに注意

私の好み:★★★
コメント (4)
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紅葉と野湯の秋田焼山 2014年10月 後編

2014年11月26日 | 秋田県
前回記事「紅葉と野湯の秋田焼山 2014年10月 前編」のつづきです。


【10:13 名残峠 標高1324m】
焼山頂上からサクサクっと下って名残峠へ戻る。頂上では天候回復の兆しが見られたが、空模様は私の期待を上回るスピードで一足飛びに急変し、わずか数分の間で、雲散霧消とはいかないものの、濃霧はすっかり晴れて、遠方まで見通せるようになった。



相変わらず峠には冷たい強風が吹いていたが、この風が霧を吹き飛ばしてくれたのかもしれない。約十分前までは、わずか数メートル先の視界も効かなかったこの名残峠であるが、頂上から戻ってくると、上画像のような大パノラマが展開されていた。目下に水蒸気爆発跡の荒々しい景色が裾を広げ、その奥に玉川温泉や新玉川大橋が見える。そして遠方に森吉山がそびえている。



反対方向には、火口底面の湯沼もくっきり。神秘的なミルキーホワイトのお湯を湛えていた。ディープな野湯ファンはガスマスクを装着してこの湯沼に入浴するのだが、今回ガスマスクを携行しなかった私は上部から見下ろすだけにとどめた。


 
ちょっと早いが、この絶景をシーズニングにしながら、ベンチに腰を下ろしてランチを摂ることにした。担いできたバーナーを点火、コッヘルにペットボトルに水を注いでお湯を沸かし、フリーズドライのビーフシチューで体を温めつつ、コンビニのおにぎりで栄養補給。おにぎりは秋らしくシャケ尽くし。


 
食後のコーヒーとデザートも欠かせない。デザートと言ってもコンビニの安物バームクーヘンだが、淹れたてのドリップコーヒーと大自然の澄んだ空気があれば、人気パティシエも顔面蒼白な美味しさに変貌する。


 
【11:27 焼山避難小屋】
名残峠でランチを摂った後は、往路と同じコースを歩いて焼山避難小屋まで戻る。この時間になると、ポツポツ他の登山者の姿も見られるようになった。皆さん、天候の回復を待って行動を開始したのか、あるいは単に私の行動開始が早かっただけなのか。


 
ここからは来た道を戻らず、小屋の前から伸びる小径へと入ってゆく。現在この径は、国土地理院の最新版の25000分の1地形図から消えている。地理院地図で当地を見ると、避難小屋を左右に横切る道は記されているものの、そこから北へ伸びる道は表示されていない(実際の地形図はこちらを参照)。また登山者にはお馴染みである昭文社の『山と高原地図 岩手山・八幡平 秋田駒(2014年版)』 では破線コース、即ち難路として表示されており、ご丁寧に「要案内人」と但し書きまで付されている。果たしてそんなに険しい道なのか。もし危なけりゃその場で戻って、往路の道に引き返せば良いので、とりあえず進んでみることにした。まずは火口外縁まで登って、小さな湯沼の縁を歩く。この小さな沼は、平成9年に水蒸気爆発を起こした火口。


 
火口外輪の東側の上を前進。リッジ状の外縁部では、滑落に注意して慎重に歩みを進める。とはいえ、北アルプスや南アルプスなど、他の険しい山域を登山なさったことのある方なら、この程度はヘッチャラだろう。しかもルートの両端には、有り難いことにロープが張られており、そこからはみ出さなければ問題ない。


 
やがてフラットなガレの広場に出た。正面の山には木造建築が崩壊した跡が見られる。当地にはかつて硫黄鉱山が操業していたので、その当時の建物と思われる。またルート上には碍子を戴く電信柱の残骸もあった。ひざ上程度の高さしか無いのだが、柱が倒れて今のような低さになったのか、あるいは十数年前の噴火の際に火山灰によって埋もれてしまったのか…。


 
ガレ場の先の登山道にもロープが張られているので、迷うことはない。また下手に入り込んで高山植物を踏み荒らす心配も無い。関係者の皆さんのご尽力に感謝しながら歩く。


  
真っ赤に燃えているかのような灌木の紅葉が、モノトーンの世界に映えていた。辺りはシラタマノキが群生をなしていた。


 
ガレの谷に向かって徐々に下ってゆく。この谷にも鉱山操業時の小屋跡と思しき木材の残骸があった。



ルートがはっきりしており、上述のようにロープも張られているので、結構歩きやすい。標準的な登山道だ。この辺りの坂を下っていると、反対方向から30人近い団体が登ってきた。名札をさげている方に伺ったところ、大沼にある八幡平ビジターセンター主催のトレッキングイベントとのこと。後日ビジターセンターのブログを拝見したところ記事になっていたので、これに間違いない。そのようなイベントが催行されるほど、この道はちゃんとしているのだ。現状では、決して破線ルートで示すような難路ではない。



【11:55~13:10 湯の沢(硫黄取りの湯)】
坂を下りきって谷底にたどり着く。部分的に白いガレが広がるこの谷では、至るところから温泉が湧き出ており、その温泉が集まり、沢をなして流れている。そしてその沢の湯に入浴することができる。野湯ファンには「硫黄取りの湯」として称されている有名スポットである。今回の焼山登山で、敢えて復路にこの道を選んだ訳は、無論この野湯に入りたいから。そこで私も…



こんなことしたり…



こんなことしたりして野湯を堪能。湯加減も大きさも極上の、素晴らしい自然の恵みに酔いしれる。
あまりに気持ち良かったため、なんだかんだで1時間以上はここで湯浴みを続けたが、再び雲行きが怪しくなりはじめたので、そのタイミングで入浴を切り上げ、着衣して再び登山道を下ることにした。
※湯の沢の野湯(硫黄取りの湯)に関しては、次回記事にて細かく取り上げます。



野湯からしばらくは、沢に沿って下る。川原の岩に赤いマークが付けられているので、それを辿っていけば大丈夫。ある程度下ったところで湯の沢を振り返った。あんなに素敵な野湯は、なかなかお目にかかれない。もう少し入浴し続けていたかったが、いつまでも浸かっているわけにもいかない。湯から上がるのが実に名残惜しい。名残峠に倣って名残湯の沢とでも命名しようか。また機会があれば再訪したい。


 
赤いマークに従って沢を離れ、右岸の道へ取り付いて坂を登る。所々ぬかるんでおり、滑りやすい。


 
登り切ったところで、改めて湯の沢を振り返る。ここには火山活動に伴う有毒ガスの危険性を喚起する札が立てられていた。


 
 
道は紅葉真っ盛りの樹林帯へと入る。


 
ところどころにミニ湿原があり、視界がひらける。この山域はリンドウ(エゾオヤマリンドウ)の宝庫。あちこちで花をつけていた。


 
先ほどまで降っていた雨の影響か、道はかなりぬかるんでおり、何度かくるぶしまでズボっと潜ってしまった。また上画像のように、道が沢と化している区間も多かった。難路ではないが、イライラする道ではある。


 
ところどころに赤いマークがあるので安心できる。これを確かめて更に先へ。ちなみに、この時はクマの気配も感じられなかった。糞も足跡も熊棚も見当たらなかった。先程すれ違った団体さんに恐れをなしたのか。
道の先からゴーやガシャンという音が聞こえてくる。工事中の地熱発電所から発せられる音だろう。


 
【14:02 澄川地熱発電所の脇を通過】
足元のぬかるみにイライラしながら、黄色く色づいたブナ林をどんどん進んでゆくと、ゴーやガシャンといった音が徐々に大きくなり、左手の視界が開けて澄川地熱発電所の脇を通過する。



地熱発電所の敷地の隅っこで、澄川地熱発電所PR館へ向かう道が左へ分岐している。なお2014年10月現在、PR館は閉鎖中。
(参考:東北電力「PR館のご案内」


 
【14:05~20 ベコ谷地】
PR館への分岐から3分ほどブナ林の中を歩くと、俄然視界が開けて、ベコ谷地と呼ばれる広大な湿原の中に放り出される。なぜこんな人里離れた八幡平の山の中でベコ、即ち牛が湿原名に冠されているのか不明だが、その名前から連想する牧歌的なイメージとはかけなれた、幻想的且つ秀麗な絶景が展開されており、気づけば感嘆の声を漏らしていたほど、ベコ谷地の絶景に胸を打った。あまりの美しさに、その場で15分ほど立ち尽くす。
この湿原でもリンドウはたくさん見られたが、ここまで下りてくると花はほとんど枯れかかっていた。



青空とのコントラストに息を呑む。



湿原の植物は草紅葉となって、燎原の如く真っ赤に燃えていた。マイナーなルートであるこのベコ谷地の道には木道が設けられていないので、湿原の上を直に歩く。といっても、ここまでのぬかるみだらけの登山道より遥かに歩きやすく、単にフサフサとした草の上を歩いているような感覚であった。



ベコ谷地を抜け、ブナ林の緩やかな坂道を一気に下る。


 
【14:30 丸太橋】
澄川に架かる丸太橋を渡って対岸へ。


 
【14:32 登山道入口】
川を越えると、アスピーテラインの法面下にある広場に出た。道の入口には、ここからベコ谷地へ行けることを示す札が立てられている。幻想的な絶景のベコ谷地、極上の野湯である湯の沢…。進んだ者を夢の世界へ導く、桃源郷の入口だ。


 
【14:35 後生掛公共駐車場】
途中の休憩や入浴を含め、7時間30分でスタート地点の後生掛公共駐車場に無事帰還。誰もいなかった早朝とは違い、さすがにこの時間帯ともなると、駐車場を含めこの辺りには多くの観光客が訪れていた。沿道から眺める紅葉も素晴らしいが、そこから奥へ入り込んだ先には、歩いた者しか目にすることのできない絶景と快楽が待っている。
高低差は少なく、険しい箇所もあまりないが、懐の深い東北の山らしい美しさと魅力に溢れる、素晴らしい山域であった。

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紅葉と野湯の秋田焼山 2014年10月 前編

2014年11月25日 | 秋田県
2014年はほとんど登山らしい登山をしていない私。1年に一度は大自然の中に溶け込まないと五感が鈍ってしまいそうだったので、青森県に所用があった2014年10月初旬、その帰路に秋田県八幡平エリアの秋田焼山へ登って、八幡平の紅葉を満喫しつつ、その道中に湧く野湯も楽しんでみることにした。





日程:2014年10月初旬、週末の某日。日帰り
人数:単独行
天候:晴れ→雨→曇時々晴れ
持ち物:日帰り登山の一般的な持ち物・ランチ用の湯沸かしキット(バーナーやコッヘル等)・入浴グッズ・熊よけグッズ
ルート:後生掛温泉→国見台→毛氈峠→焼山避難小屋→焼山頂上→焼山避難小屋→湯の沢→ベコ谷地→後生掛温泉
(焼山避難小屋~焼山頂上間は単純往復)
距離:10.7km


 
【7:05 後生掛公共駐車場】
早朝の後生掛。明けて間もない朝の陽は、まだ山の上まで昇りきれておらず、山全体を照らすことができずに、夜露の影を引き摺っている。アスピーテライン沿いの無料公共駐車場に車を止め、深呼吸して山霞を呑み込んでから、その場で登山の支度を整える。既に八幡平の山は色づいている。気持ち良い青空が広がる、絶好の登山日和だというのに、駐車場には誰もいない。私の車一台だけ。なぜなんだろう? 多数の登山者が犠牲になってしまった御嶽山噴火の影響があるのだろうか。


 
【7:12 後生掛温泉】
まずは後生掛温泉の敷地に入り、湯治村の方へ下る。


 

標識に従って湯治棟の建物内に入り、注連縄が掛けられている勝手口のような引き戸を開けて、棟の裏側へ出る。ネット上では、焼山の登山ルートでここが最も迷いやすいと表現さなっている方を見かけるが、なるほどその通りかもしれない。ここからようやく登山道がスタート。


 
建物裏手すぐのところには小さなお社があるので、柏手を打ってこの日の安全を祈念する。サクサクっと登って、道標に従って前進。


 
後生掛温泉の紺屋地獄を左斜め前に眺めつつ、木道を歩く。しばらくは木道が敷かれていたり無かったりを繰り返す。


 
紅葉しているブナ林。勾配は緩く、陽気も良いので、足取りも快調。



【7:24 ブナのゲート】
このルートの名所であるブナのゲートを通過。ゲートと言っても、幹が水平方向へS字にグニャっと曲がっているだけだが、それがちょうど登山道上にあるので、ゲートに見えるだけ。


 
【7:32 勾配が少しずつ急になる】
ブナのゲートを通過してしばらく進むと、ようやく坂の勾配が本格的になり、登り応えのある道となってゆく。


 
朝の澄み切った青空に、今が盛りと燃えんばかりの紅葉。こんな美しい景色の中にいられるだなんて、俺って本当に幸せだ。傍の大木では、キツツキが小気味よいテンポでトントンと幹を突いていた。



足元にはキノコが大量発生していた。ナラタケっぽいけど、素人がキノコを判断したところでロクなことがないので、ここでは一切ノータッチ。


 
【7:47 後生掛~毛氈峠 中間地点】
スタート地点の後生掛からも、この先にある毛氈峠からも、1.7kmにあたる地点。不思議なくらいに他登山者の姿が見当たらない。ただ、クマの気配も無いのは幸い。
先ほどまで突き抜けるような青空が広がっていたのに、俄然空がかき曇り、怪しい冷たい風が吹き始めてきた。


 
今回歩いたコースでは、あちこちでリンドウが花をつけていた。陽が差せば花弁を開いてくれるのかもしれないが、残念ながらこの時は天候が徐々に悪化しており、どの株も花弁を固く閉ざしていた。リンドウの言葉は「悲しんでいるあなたを愛する」。秒単位で悪くなる一方の天候に、気が滅入ってゆく私を、この花たちが気にかけてくれたら良いな、なんて柄にもなく気障な想いに耽けたりして。
中間地点を過ぎてしばらく行った辺りで長い階段に差し掛かる。


 
【8:18 国見台】
後生掛から2.2km、毛氈峠まで1.2kmの地点、国見台。



ここからの見晴らしは素晴らしい。山襞が重畳的に連なり、その全てが紅葉で染まっているブリリアントな光景。画像中央で真っ白な煙をたなびかせているのは地熱発電所であり、つまり煙ではなく水蒸気。これで晴れてりゃ文句無いんだろうけど、空には重たい鉛色の雲がたちこめ、しかも雲の流れも速い。この様子ではあっという間にガスってくるだろう。


 
案の定、たちまち濃霧が立ち込め、やがて雨も降り始めた。路傍のリンドウに泥が跳ねる。


 
このルートは実に良くメンテナンスされており、悪天候時でも支障なく歩くことができた。関係者の皆さんの尽力に感謝。雨粒に打たれながらステップを上がり、登り切ると道はフラットになった。どうやら稜線上に出たらしい。その一方で、視界は益々悪くなる。


 
【8:40~50 毛氈峠(もうせんとうげ)】
晴れていれば見晴らしが良いはずの稜線上を歩いていると、秋の冷たい雨や風から我が身を防護してくれるものがないので、どんどん体が冷えてゆく。毛氈峠に達するとその傾向が強くなってきたので、防寒具を1枚余計に身に纏った。ここに至って一つの事実を悟る。週末の紅葉シーズンなのに、この地点まで誰一人にもすれ違っていないのだが、他の登山者は、この日の天候をわかって、敢えて登山を回避したのだろう。直前の天気予報を仕入れることを怠った私は、無残にも風雨に曝されることになってしまった。


 
【9:05 後生掛温泉~玉川温泉 中間地点 標高1317m】
後生掛温泉および玉川温泉、いずれからも3.9kmの地点。この辺りはシラタマノキが群生をなしていた。相変わらず濃霧が行く手の視界を遮る。



【9:15~35 焼山避難小屋 標高1275m】
ちょうど避難小屋へ到達したタイミングで雨脚が強くなってきた。


 
 
避難小屋は倒壊の恐れがあるため使用禁止なのだが、その文言を厳守して雨風に体を晒し、体を冷やして低体温症に陥っては意味が無い。そこで小屋内にお邪魔し、20分ほど雨宿りさせてもらう。
小屋内には最近使われたような形跡があり、室内に残されている記念ノートにも、小屋をあてにして一夜を明かしたという旨が記載されていた。10月初旬だというのに、柱に括り付けられている温度計は10℃ぴったりを示していた。雨脚が弱くなってきた頃合いで、小屋を出る。


 
雨に濡れた登山道を進んで、焼山の火口外周へ。濃霧で前がちっとも見えねーよ。景色もへったくれもあったもんじゃない。


 

中央火山丘の溶岩ドーム「鬼ヶ城」。なるほど、昔話で鬼が潜んでいそうな、荒々しい形状の奇岩がそびえており、立ち込める迷霧が余計におどろおどろしい雰囲気を醸成している。恐ろしい巨大生物が岩陰から出会い頭に現れても不思議ではない。奇岩は角度によって動物や日常品などいろんな物に見えるのが面白い。ちなみにこの鬼ヶ城には坂上田村麻呂にまつわる伝説があるとか無いとか。蝦夷との戦いで必死な田村麻呂がわざわざ、こんな辺鄙なところまで来るものだろうか。


 
頂上火口の湯沼が見えてきた。神秘的なミルキーホワイトの景色と表現したいところだが、濃霧と風雨のために、前進するのが精一杯で、景色を楽しむどころではない。しかも硫化水素ガスの濃度が強いのか、臭いが濃く、頭もちょっと痛い。足早に高いところへ去る。


 
【9:54~9:58 名残峠】
火口外輪山の西の端っこに位置する名残峠。ここからの眺望はけだし素晴らしいものと想像され、その名の通り立ち去るのが名残惜しいほどなんだろうけど、この時は風が強いし、雨は当たるし、寒いし、ちっとも名残惜しくなかった。


 
名残峠の先に伸びていた従来の登山道は、十数年前に発生した水蒸気爆発に伴い通行止め。


 
その代わり、現在の登山道は、峠で鋭角にターンする感じで尾根を登って迂回し、玉川温泉方向へ伸びている。なんて言ったところで、悪天候のため、なにを撮ってもどこを撮っても、全然変わんない。


 
名残峠から3分ほど上がったところで小さな分岐点がある。ここを道なりにまっすぐ(上画像では右の方)へ進めば、3km弱で玉川温泉まで下れるが、今回は後生掛まで戻りたいのでそちらには行かない。そのかわり、分岐点を左に進んで焼山頂上への到達を目指す。


 
 
【10:05~10 焼山 頂上】
分岐から笹薮の中を歩いて1分程度で、行き止まりになる。迷路でいうところのハズレに出くわしたような感じだが、こここそ焼山の頂上。登山前に予めネットでこの様子を調べておいたが、登山者の方が皆さん述べているように、ここには三角点が埋め込まれているだけで、他には本当に何にもない。達成感がない。ただのどん詰まり。5分いるのが精一杯。三角点をしっかりタッチしてから、来た道を引き返し、焼山避難小屋まで同じ道を戻ることにした。
だた、ここで立ち止まった僅か5分の間で、雨が上がって空が若干明るくなり、勢い良く流れる雲の高さもやや高くなってきた。この調子だと、早々に天気が回復するかもしれないぞ…。


後編へ続く。
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