温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

かのせ温泉 赤湯

2020年06月06日 | 新潟県
※今回取り上げる「かのせ温泉 赤湯」は2020年5月末で第三セクターによる営業を終了し、現在は休業中です。今後は阿賀町直営施設として営業再開を見込んでいますが、その時期は未定です。


新潟県阿賀町の「かのせ温泉 赤湯」は、ほぼ完全な公営と言っても良い第三セクター(※1)が運営している温泉にもかかわらず、湯船の温度がびっくりするほど熱いお風呂として一部の温泉マニアには有名な施設です。公営施設は公共性の建前がありますから、保健所の指導に従って湯使いや施設運営を決めてゆく傾向にありますが、そんな常識を覆してくれる不思議な施設なのです。
(※1)株式会社上川温泉。阿賀町が資本金の98.5%を出資

津川の街から国道459号線を北上して鹿瀬駅を通り過ぎ、昭和電工鹿瀬工場跡(新潟水俣病の発生源)の外をぐるっと回って阿賀野川のダム湖近くへ向かい、途中で左に曲がって登り坂を上がってゆくと、坂の途中の右手に上画像のようなログハウス調の建物が目に入ってきます。


道の反対側(つまり登り坂の左側)には上画像のような設備が設けられていました。おそらくここが源泉なのでしょう。


こちらの施設はシックで且つぬくもりが感じられるログハウス調の木造2階建。緑豊かな周囲環境に調和しています。玄関には「赤湯」とかかれた大きな行燈が置かれ、優しい光を灯していました。館内の券売機で料金を支払い、受付に券を差し出します。


受付前のホールでは地場産品などが物販されています。その受付前ホールから通路をまっすぐ進んだ突き当たりの左手には休憩用お座敷が広がり、訪問時にはお風呂から上がったお客さんたちが思い思いの姿勢でゆったり寛いでいらっしゃいました。これとは反対側の右手に浴室の暖簾がさがっています。
男湯の脱衣室にはL字型に棚が、そして正面向かいに流し台がそれぞれ設置されています。なお流し台にはドライヤーの備え付けもあるのですが、古いビジネスホテルにあるようなパワーの弱い機種なので、しっかり乾かしたい方には物足りないかもしれません。

さて肝心のお風呂についてですが、ちょうど私は夕方の最混雑時に訪問してしまったため、内部を記録することはできませんでした。お風呂の様子をご覧になりたい方は公式サイトをご覧ください。

外観と同じく浴室もウッディな造りです。男湯の場合、窓下にタイル貼りの浴槽が2つ並んで据えられ、内湯左側の壁に沿ってL字型にシャワー付きカランが計6基並んでいます。
左右に並んだ2つの浴槽はそれぞれ4~5人サイズですが、どのお客さんも右側を避け、左側にしか入ろうとしません。というにも、湯口がある右側は箆棒に熱いので、入りようがないのです。冒頭で申し上げた熱い湯船というのは、この湯口側の浴槽の事でした。私もトライしてみましたが、あまりの熱さに脛を入れただけで諦めてしまいました。もっとも、お客さんが入っている左側の浴槽ですらも一般的なお風呂よりは熱く、長湯なんてできません。繰り返しになりますが、管理面で色々とうるさい準公営と言うべき第三セクターの施設でこんなに熱いお湯は珍しいかと思います。

そんな熱いお湯を浴槽に注いでいる湯口は、タイルを煉瓦積みのようにしてドームを4分の1にしたような形状をしているのですが、析出の石灰華が吐出口のまわりに大量付着しており、カイゼル髭を分厚くしたような八の字型に広がっています。その姿はまるでRPGゲームの「ドラゴンクエスト」に登場するドロルみたいです。また周囲には赤色の鱗状析出も現れていました。見るからに濃そうなお湯です。


内湯の奥にあるドアを開けると「露天風呂」なのですが、露天とは名ばかりで、実質的は別室内湯といった造りになっていました。おそらく夏は窓を開け払って半露天状態にするのでしょうけど、私が訪れた日は肌寒かったため、網戸の部分を除けば窓は閉められており、第二の内湯となっていたのでした。こうした造りは冬季に露天なんてやってられない雪国だからこその工夫なのでしょうから、致し方ありません。でもこの第二内湯(露天)の湯船は熱いお風呂が苦手な人向けに加水が許されているのです。しかも私の訪問時は一般的な湯加減より若干ぬるめにセッティングされていたため、心置きなくのんびり湯浴みできました。ただ水で薄められている分だけ、熱い内湯よりもお湯の濁り方や色合いは薄かったように記憶しています。なおこの第二内湯ではお湯を木の筧から投入しており、その量も若干絞り気味でしたから、加水しなくてもあまり熱くならないのかもしれません。なお、こちらの浴槽は横に並んで5~6人は入れそうな大きさがあり、内湯の洗い場は床がタイル敷きでしたが、こちらの床は足裏への感触が優しい緑色凝灰岩(グリーンタフ)が敷き詰められていました(でも真っ赤に染まっていて元の素材がわからないほど)。ちょっとだけグレードが高いような感じがします。

内湯のお湯はまさに「赤湯」という名前が相応しい赤茶色の強い濁りを呈しており、お湯を口に含んでみますと塩味とともに鉄錆系の金気味がしっかりと感じられます。また並行してほろ苦味や芒硝味も伝わってきます。上述したような湯口周りの分厚い析出、そして浴槽周りや手すりなどに付着している鱗状や庇状の析出は、おそらく硫酸塩ではなく炭酸カルシウムであるかと思われます(その証拠に、分析表によれば炭酸水素イオンや遊離炭酸ガスがそこそこ多く含まれています)。
第二内湯(露天)では加水が行われている一方、内湯は非加水・非加温・循環なしという湯使いです。湧出温度が60℃近い温泉を加水しないでそのまま浴槽へ落としているのですから、湯船が熱くなるのは当然ですね。熱くて塩気があるお湯ですから、湯船に入るとスピーディー且つパワフルに温まります。それゆえ湯船の回転が速く、長湯している方はいらっしゃいません。また逆上せやすいお湯ですから、お風呂上がりに皆さんが座敷でグッタリしているのも頷けます。でも熱いお湯をそのまま提供しているのは、それだけ源泉の状態を損なうことなく触れてほしいという施設側の配慮なのでしょう。私個人としてはその思いをありがたく受け取りたいと思います。

地域の人気施設であり、私の訪問時(2019年秋)も次々とお客さんが建物へ入っていました。そんな光景を目にしているのでてっきり経営は盤石なのかと思いきや、新型コロナの影響でこの施設を運営している第三セクター(株式会社上川温泉)の経営が行き詰まり、「かのせ温泉 赤湯」など複数の施設(※2)が相次いで休業へと追い込まれてしまいました。
(※2)温泉施設に限定すると、「かのせ温泉 赤湯」の他には、「御神楽温泉 あすなろ荘」「七福温泉 七福荘」「かのせ温泉 赤崎荘」など。

休業となってしまった施設のうち、当記事の「かのせ温泉 赤湯」は阿賀町が直営で営業を再開することになっているそうです。再開の日を心待ちにしています(再開時期未定)。


鹿瀬温泉1号
Na・Ca-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉 59.4℃ pH6.4 pH234L/min(動力揚湯) 溶存物質3623mg/kg 成分総計4076mg/kg
Na+:790.5mg(65.98mval%), Mg++:36.2mg, Ca++:269.5mg(25.82mval%), Fe++:2.8mg,
Cl-:354.9mg(20.02mval%), Br-:1.7mg, I-:0.4mg, SO4--:1379mg(57.40mval%), HCO3-:678.5mg(22.24mval%),
H2SiO3:57.3mg, CO2:453.1mg,
(平成27年2月13日)
加水加温循環なし
消毒あり(衛生管理のため塩素系薬剤を使用)

新潟県東蒲原郡阿賀町鹿瀬11540-1
0254-92-4186
ホームページ

※2020年5月末を以て休業。町営施設として再開予定だが、時期は未定。
10:00~20:00(最終受付19:30) 火曜定休
500円
ロッカー(100円リターン式貴重品用)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント (2)
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新三川温泉 寿の湯

2020年06月01日 | 新潟県

今回は新潟県阿賀町の新三川温泉を取り上げます。新と名乗るからには、新ではない普通の三川温泉もあり、拙ブログでは11年前に三川温泉「湯元館」のお風呂を取り上げたことがあります。非常に良いお湯で女将さんのおもてなしも温かく、その時のことはいまだに忘れることができません。そんな「湯元館」は今でも営業を続けていますが、当地で営業していた他のお宿の多くは廃業に追い込まれており、温泉地としては見る影もありません。
一方、その手前にある新三川温泉には「ホテルみかわ」(※)のほか、温浴施設「YOU&湯」などがあり、特に「YOU&湯」はそこそこ多くのお客さんでにぎわっています。上画像の左側に写っている青緑色の建物は「ホテルみかわ」。それに隣接している白い建物が「YOU&湯」です。どうやら当地は純粋な地元の民間経営よりも、第三セクターが建てて中国資本が買収した施設の方にお客さんが偏っているようです。


さて今回取り上げるのは、「ホテルみかわ」でも「YOU&湯」でもなく、それらに隣接している入浴施設「寿の湯」です。隣接というか、両者は廊下でつながっており、容易に行き来することができます。私は当初どこから入館してよいかわからず、とりあえず外観が目立ってわかりやすかった「YOU&湯」の玄関から入ってみたところ、フロントの前には入浴券の券売機が設置されていたので、ここで料金を支払えばよいのだな、と早合点してしまいました。いや、たしかにここで支払ってもよいのですが、券売機で買える入浴券には500円と350円の2種類あることに気づかず、うっかり500円の券を買ってしまったのです。「YOU&湯」の入浴料は500円なのですが、私が入りたかった「寿の湯」は350円。その区別に私は気づかなかったんですね。フロントの方に間違って買ったことを伝えると、面倒な面持ちで渋々払い戻しに応じてくれました。同じ施設ですし簡単に行き来できるわけですから、お金の調整も簡単にできるのかと思いきや、どうやら会計は別になっているようです。
私のように苦い経験をしたくなければ、正面ではなく、上画像に写っている勝手口みたいな出入口から入ると「寿の湯」に最短で行けます。しかもこの勝手口のような入口の先には「寿の湯」専用の有人受付もありますので、「寿の湯」に入るなら、断然こちらの方が良いでしょう。


「寿の湯」専用の小さな受付の右側にお風呂へつながる通路があり、その入口には浴場名が記された扁額が掛けられています。通路の左手には飲料の自販機が設置された小上がりが設けられており、突き当たりに2枚の暖簾が下がっています。
脱衣室はそこそこ広いのでさほどストレスなく着替えることができます。またエアコンや扇風機が設置されていますので、夏や冬の利用も快適です。もっとも、利用者が多いためか、随所に使い込まれている感があるのですが、お手入れはしっかりされているので、不快に思うことはないかと思います。


脱衣室の壁には湯使いに関して、写真付きで説明されていました。毎日お湯を入れ替え、純然たるかけ流しでお湯を提供しているそうですよ。これは非常に楽しみですね。


お風呂は内湯のみですが、350円で入れるお風呂にしては大きく、誰しもが十分に寛げるかと思います。男湯の場合、入って正面の窓側に浴槽が据えられ、右側に洗い場が配置されています。洗い場にはシャワー付き混合水栓が6つ取り付けられていますが、混雑時にはカラン待ちが発生するかもしれません。
浴槽は大きなひとつの槽を板で二つに仕切っており、湯口側は熱く、湯尻側が適温になっていました。その仕切り板は底が刳りぬかれており、湯面側にも細長い穴が刳りぬかれていて、仕切り板の上下でお湯が貫通できるようになっています。小さく熱い湯口側は目測で2.5m四方、大きくて適温の湯尻側は5m×2.5mくらいの大きさです。私の利用時、熱い方へ入るお客さんはせいぜい一人か二人で、大抵は大きな適温槽だけで満足なさっていました。


温泉に含まれる金気の影響で湯口は赤く染まっているのが印象的。そんな湯口から投入されるお湯の量はかなり多く、上に噴き出す感じで浴槽へ供給されています。
湯舟のお湯はうしお汁のような感じで少々の青白い笹濁りを呈しており、またタイルの材質によるものなのか、はたまた金気の影響なのか、浴槽内は赤黒く光っていました。そんな湯舟に肩まで浸かってみますと、食塩泉的なツルスベ浴感と硫酸塩泉的な引っかかる浴感が拮抗して肌に伝わってきます。そして食塩の影響か、しばらくは汗が止まらなくなるほど非常によくあたたまります。鮮度感も良好です。


このお風呂で驚くべきは、浴室内に立派な飲泉所が設けられていることです。もちろん保健所の許可を得ている本格派。温泉に自信がある証なのでしょう。実に素晴らしいですね。
この飲泉所では熱々のお湯がトポトポと落とされているのですが、空気に触れやすい状態だからか、周りには析出がたくさんこびりついており、壁やお湯受けは赤黒い色に濃く染まっていました。そんなビジュアル面だけでも温泉に含まれる金気の多さがわかります。実際に温泉をコップに汲んでみますと、コップの中には弱い金気臭、クスリのような芒硝臭、少々のゆで卵の卵黄臭が充満しており、口につけて飲んでみますと、はっきりとした塩味、弱い出汁味、芒硝味、そして金気味が感じられました。

完全掛け流しのフレッシュなお湯はとても気持ちよく、しかも個性的なお湯であり、そんなお湯を飲泉することもできるのですから、源泉のお湯の状態を重視する御仁には堪らない一湯ではないでしょうか。私個人としても地味で控えめな建物からは想像できなかった素晴らしいお湯に感動してしまいました。隠れた名湯と言っても過言ではありません。

さて、こんな素晴らしいお湯に入れる新三川温泉ですが、新潟日報ネット版によれば「ホテルみかわ」は2020年3月に休業してしまったようです。
「阿賀・ホテルみかわ 3月20日で休業 中国人客のキャンセル響く」(2020年2月27日付)
この記事には「従業員は13人いるが、営業を継続する日帰り温泉の従事者以外は全員解雇する方針」と書かれています。残念ながらホテルの従業員は解雇されてしまうようですが、日帰り温泉については営業を継続するようです。素晴らしいお湯にはまだ入れますが、三川温泉といい、新三川温泉といい、当地の温泉はどうも元気がありません。両方ともお湯は良いので、是非とも奮起して頑張っていただきたいものです。


新三川温泉2号泉
Na-塩化物・硫酸塩温泉 57.3℃  pH7.5 130L/min(動力揚湯) 溶存物質3480mg/kg 成分総計3487mg/kg
Na+:986.5mg(81.15mval%), Ca++:155.3mg(14.66mval%), Fe++:0.4mg,
Cl-:918.0mg(48.86mval%), Br-:2.6mg, I-:0.8mg, SO4--:1187mg(46.63mval%), HCO3-:131.5mg,
H2SiO3:40.1mg,
(平成22年2月24日)
加水あり(温泉の温度が高温のため)
加温循環消毒なし

新潟県東蒲原郡阿賀町五十沢2598
0254-99-3677
ホームページ

13:00~21:00
350円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (2)
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湯沢温泉 荒川いこいの家

2020年05月24日 | 新潟県

今回は新潟県湯沢温泉を取り上げます。湯沢といっても、全国的な知名度を有する中越地方の越後湯沢ではなく、下越の関川村に湧く湯沢温泉です。越後湯沢には新幹線が停まり、多くの旅館やスキー場、商業施設の他、バブル期に建てられた高層リゾートマンションが随所に屹立していますが、知る人ぞ知る下越地方関川村の湯沢温泉は、行き止まりの路地の左側に小さな旅館が3軒ほど、右手にお寺と公共駐車場、そして公営施設「荒川いこいの家」が並ぶばかり。新潟県内にあって同じ名前を名乗る両温泉地はあまりに対照的であり、関川村の湯沢温泉は、バブル期に誰かさんがスキーへ連れて行ってくれた松任谷由実の世界観から何億光年も離れている、鄙びきった無名の温泉地です。


この湯沢温泉では以前に拙ブログで紹介したことのある共同浴場で入浴することができますが、もう一つ公衆浴場として利用可能な施設が今回ご紹介する村上市営「荒川いこいの家」です。あれ? この湯沢温泉って関川村にあるのに、どうしてお隣の村上市が運営しているんだろう。いちいち考えていたら前に進めなくなりそうなので、ここではその辺りの事情をスルーさせていただきます。


この施設は地域の林業促進を目的として設けられており、越後杉を使って建てられたんだとか。
さて玄関を入って靴を脱ぐと真正面にお座敷があり、私が訪ねた時にはお年寄りの皆さんで賑わっていました。その座敷の手前右側に小さな受付カウンターがあり、ここで入浴利用を申し出て料金を支払うのですが、利用に際しては台帳への記名を求められ、60歳以上か未満か、障害者手帳があるか、一人で入浴できるか、どこから来たのか(村内か県外かなど)、などといった事項を記入することになります。一応公的施設であり村上市民の税金を使って運営しているので、いろんなことを透明にしようということなのでしょうか。ま、利用の際には面倒くさがらずに協力してあげましょう。
お風呂は男女別に分かれており、座敷に向かって左が女湯、右が男湯です。でも案内が目立っていないのでわかりにくいかと思います。かく言う私も迷った一人。どちらに男湯があるのかしら、と狭い館内を右往左往してしまいました。


まだ比較的新しい施設だけあって脱衣室は綺麗。流し台が2つにドライヤーが1つ備え付けられ、使い勝手もまずまずです。脱衣室のスライドドアを開けた向こう側は浴室。この浴室もなかなか綺麗で清潔なのですが、そんな見た目以上に私を驚かせてくれたのが、浴室内に漂う硫黄臭でした。湯気とともに茹で卵の卵黄のような匂いが、弱いながらもはっきりと感じられたのです。川の対岸で湧く雲母温泉のお湯からは確かに淡いタマゴ臭が漂ってきますので、そのご近所である当地の温泉からも同様の匂いが感じられても不思議ではないのですが、それにしてもこの湯沢温泉は金気が強いイメージばかりがあったので、まさか浴室内に漂うほどのタマゴ臭が感じられるとは意外でした。



男湯の場合は入って右手に洗い場があり、5個のシャワーが並んでいます。ひとつひとつの間隔が広いので、隣のお客さんとの干渉を気にせず使用することができるでしょう。アメニティーの備え付けもあるので、タオル一枚持参すれば入浴できちゃいます。なお、この洗い場と反対側(入ってすぐ左側)には立って使うシャワーも2個設置されています。


浴槽は一つのみですが、目測で4m×3mほどの大きさがあり、おそらく10人程度なら同時に入れる大きさがあるのではないかと思われます。タイル張りの浴槽は黒い御影石で縁取られており、オーバーフローのお湯は浴槽奥にある御影石の溝へ溢れ出る構造になっています。素晴らしいことに、こちらのお風呂では加水加温循環消毒無しの完全かけ流しでお湯を提供してくださっています。


浴槽内部は温泉成分の金気によって赤い色が付着しており、なかんずく湯口の直下は真っ赤に染まっていました。いかに金気の強いお湯であるかがわかりますね。なお、お湯を吐出する塩ビパイプの下には黒い布が敷かれており、これでお湯と一緒に流れてくる固形物を濾し取っています。そのおかげなのか、湯舟のお湯では特に目立った浮遊物は見られませんでした。

お湯の見た目はほぼ無色透明ながら若干白く霞んでいるように見えます。この湯沢温泉は泉質名こそ単純泉なのですが、実際にお湯をテイスティングしてみますと淡い塩味、芒硝の味と匂い、そして上述したように茹で卵の卵黄の味と匂いがマイルドながらもしっかり感じられます。決して単純なお湯ではありません。分析表を見ますと硫化水素が少ないながらもしっかり含まれており、また金気の要素、そして硫酸塩もそこそこ多いことがわかります。溶存物質が969.2mgですからギリギリのところで単純泉に分類されてしまっただけの話であり、実質的にはナトリウム-硫酸塩・塩化物泉と名乗ってもよさそうなお湯なのです。日本全国には単純泉に分類されてしまったばかりについ軽視されがちな温泉が余多存在していますが、この湯沢温泉もその一つであり、単純泉だからといっても決して侮れない非常に個性的で良いお湯なのです。しかもそんな良質なお湯が完全かけながしなのですから、ありがたいことこの上ありません。

設備が整っている上にスペースも確保され、しかもお湯が良いとくれば、地元の方から愛されないはずがありません。私が訪ねた日も次々にお客さんがやってきて、お座敷でおつまみを食べながら、あるいは湯船に浸かりながら、みなさん楽しそうに談笑していらっしゃいました。どうやら当地では狭い共同浴場よりも、綺麗で設備が整っているこの「荒川いこいの家」へお客さんが偏る傾向にあるらしく、共同浴場はいつも空いているそうですよ。


さて冒頭でも申し上げましたように、同じ県内で湯沢を名乗る越後湯沢と当地を比べますと、当地は知名度、施設の数、客の数、お金の流れ方、あらゆる面であまりにもかけ離れており、おそらく新潟県民ですら知らない方が多いのではないかと思われますが、そんな当地が歴史の教科書に載るような大事件と多少なりともかかわっていることを皆様ご存じでしょうか。
「荒川いこいの家」の手前にある松岳寺の境内には、上画像のような石碑が立っており、そこには「桜田門外の変烈士 関鉄之介 就縛の地」と刻まれています。桜田門外の変と言えば老中井伊直弼が暗殺された事件として誰しもが日本史の教科書で学習しますが、この事件において実行部隊の指揮した水戸藩士の関鉄之介は、井伊直弼を暗殺したのち、一旦関西や四国へ逃げ、そして水戸藩へ戻り、そこでも身の危険を感じて今度はなんと越後へ逃げたんだとか。鉄道もない時代に日本国内をそれだけ逃げ回るのですから、その苦労は想像を絶します。しかしいつまでも逃げられるものではなく、この湯沢温泉で潜伏していたところ、ついに捕まってしまったんだそうです。どうしてこんな僻地に逃げてきたのか、どのようにしてこの地を知ったのか、不勉強な私には知る由もありません。捕らえられた関鉄之介は水戸へ送られ、その後江戸の小伝馬町で打ち首に処されたそうですが、囚われの身となって自由を失ってしまった関鉄之介は、最後に浸かった湯沢温泉のお湯をどのように感じたのでしょうか。

なお関鉄之介がお縄を頂戴するまで籠っていた宿は田屋といい、温泉街のドン詰まりを流れる川の対岸にあったようですが、現在その場所は民家になっています。一見すると何もないように思えるこの鄙びた無名温泉地ですが、実は歴史的な有名事件に所縁がある土地だったんですね。


湯沢温泉(3源泉の混合泉)
単純温泉 47.5℃ pH7.5 湧出量測定不能 溶存物質969.2mg/kg 成分総計984.7mg/kg
Na+:262.3mg(82.50mval%), Ca++:33.0mg(11.93mval%),
Cl-:204.2mg(42.60mval%), Br-:0.9mg, SO4--:286.2mg(44.08mbal%), HCO3-:92.8mg(11.24mval%), HS-:0.2mg,
H2SiO3:56.7mg, CO2:15.4mg, H2S-:0.1mg,
(平成22年2月8日)
加水加温循環消毒なし

新潟県岩船郡関川村大字湯沢697
0254-64-2277
紹介ページ(村上市公式サイト内)

日帰り入浴9:30~16:30 毎週火曜・年末年始定休
村上市外500円
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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勝木・ゆり花温泉 交流の館 八幡

2020年05月19日 | 新潟県
今回記事から新潟県の温泉を取り上げます。


新潟県北部の名勝地「笹川流れ」は私が大好きな場所。奇岩や断崖と日本海の白波が織りなすこの上ない絶景を見るため、私は今までわざわざ東京から何度も足を運んでいるのですが、今回はそんな笹川流れの北の端っこ、旧山北町(現村上市)勝木にある公共施設「交流の館 八幡」をご紹介します。公共施設といっても、このブログでご紹介するのですから、施設内には当然温泉浴場があるのです。


羽越本線勝木駅のちょうど真裏(駅舎の裏側)に徳洲会病院がデンと屹立しているのですが、その並びにかつて山北村立南中学校がありました。しかしながら御多分に漏れず、過疎化少子化に伴って平成8年に廃校となったため、せっかくの立派な校舎を放置しておくのは勿体ないということで、宿泊や温泉入浴ができる地域の交流施設として、平成13年に現在の形へ転用されることになりました。
建物の外観はまさに学校そのもの。大人が入っても大丈夫なのかな、制服を着用しなきゃダメなのかな、宿題やったっけな、好きな子は今日も来ているかな、なんて思いながら、立派な扁額がかけられた玄関の扉を開けると・・・


扉の向こう側には広いホールが続いていました。その奥には事務室がありますので、係員の方に声をかけて入浴料金を支払います。この広さから想像するに、このホールは中学校時代に昇降口として使われていたのではないでしょうか。


浴場へ続く廊下は学校の雰囲気がそのまま残っており、誰しもの胸に残るノスタルジーを喚起してくれること間違いありません。教室だった各部屋からは先生と生徒の声がいまにも聞こえてきそうです。


廊下の突き当たりで上画像のようなステップがあり、ちょっとしたサロンのような空間になっています。このあたりは現在の施設へ改修する際に大きく改築されたのでしょうけど、元々はどんなお部屋があったのでしょうか。このステップを上がった先に・・・


淡い色合いの暖簾がさげられていました。
脱衣室は決して広くはなく飾り気も無いものの、必要十分なスペースは確保されており、綺麗に維持されていますので、使い勝手は問題ありません。



お風呂は男女別の内湯ひとつずつあるのみ。窓から陽の光が降り注いで明るいものの、残念ながら曇りガラスであるため、外の景色を眺めることはできません。ここでは湯に浸かることに専念しましょう。
室内には後述する浴槽がひとつの他、洗い場が設けられ、シャワー付き混合水栓5基が横1列に並んでいました。なお浴室入口には某給湯機メーカーの操作パネルが取り付けられていましたので、シャワーから出てくるお湯は沸かし湯かと思われます。


浴槽の大きさは(目測で)4×2.5メートル程度の長方形で、10~11人は同時に入れそうなサイズを有しています。岩を並べて縁取っているため岩風呂のように思われますが、浴槽内部には石板タイルが貼られていますので、完全な岩風呂ではありません。装飾性と実用性を両立させた浴槽です。


お湯は浴槽右奥の筧から投入されていました。筧には白い析出が付着しており、温泉成分の濃さがビジュアルとして伝わってきます。私が利用した時にはちょっと熱めの湯加減でしたが、脱衣室に掲出されていた張り紙には、(湯口のお湯は)温度調整ができないと書かれており、熱かったりぬるかったりする場合は各自水道で調整してほしいとのこと。実際に訪問時の先客は水道の蛇口を全開にしてジャバジャバと加水していました。

お湯の見た目は無色透明で、薄い塩味と芒硝の風味が感じられます。そして湯中ではサラスベの軽やかな浴感と硫酸塩泉的な少々引っかかる感覚が混在して肌に伝わってきました。なお温泉分析表の知覚的試験欄では「苦味 微硫化水素臭」と記載されていたのですが、特に苦味のようなものは得られず、硫化水素臭に至ってはまったく感じられませんでした。そもそも温泉分析表では総イオウ量が0なので、どうして「微硫化水素臭」という記載がなされたのか、よくわかりません。こちらの源泉はここから約1km上流へ遡ったところにあるらしいので、もしかしたら、そこから引湯する過程で湧出時にはあったお湯の特徴が飛んでしまったのかもしれませんね。でも総じて良いお湯であり、かけ流しでもあるので、個人的には満足のゆく湯浴みを楽しむことができました。

訪問時、私は開業時間の朝10時ちょうどに入館したのですが、すでに浴室では2〜3名のお爺様方がシャワーや湯浴みをなさっていました。おそらく地元民向けに少々フライングで開けているのでしょう。でも、そのお爺様たちが上がってしまった後は、ひたすら独占状態が続き、結果的には」とても静かな環境での入浴となりました。そもそも過疎地なので人は少ないですし、当地を訪れる観光客は同じ源泉を使っていて、露天風呂や休憩所がある上に料金が100円も安い「ゆり花会館」へ行ってしまいますから、誰にも邪魔されずゆっくりのんびりお風呂に入りたい方はこの「交流の館 八幡」が良いかもしれませんね。また、こちらは掛け流しで消毒もなく加温加水も行われていませんから、お湯の質にこだわる方も同様にこちらを選ぶことになるでしょう。


Na・Ca-硫酸塩温泉 54.5℃ pH7.9 250L/min(動力揚湯) 溶存物質2669mg/kg 成分総計2670mg/kg
Na+:565.0mg(64.14mval%), Ca++:265.7mg(34.60mval%),
Cl-:156.1mg(11.66mval%), Br-:0.5mg, I-:0.3mg, SO4--:1559mg(86.06mval%), HCO3-:36.0mg,
H2SiO3:61.8mg,
(平成27年6月16日)
加温循環なし
限定的な加水あり(浴槽にお湯を張るときのみ温泉供給量の不足を補うため水道水で加水)

新潟県村上市勝木1099番地
0254-60-5050
ホームページ

入浴利用10:00~21:30(最終受付21:00) 第4月曜・年末年始休業
350円
ロッカー・シャンプー類・ボディーソープあり

私の好み:★★+0.5
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赤倉温泉 赤倉ホテル 後編「楽々の湯」

2020年03月17日 | 新潟県
前編記事からの続編です。
お宿ご自慢の「有縁の湯」は明るくて開放的で、ゆったりのんびり寛げるお風呂として大変素晴らしかったのですが、へそ曲がりで偏屈な私はお湯から得られるフィーリングにマニア的な消化不良感を覚えたため、館内にある別のお風呂を目指すことにしました。


一旦着替えて、フロントまで戻り、その手前を曲がってアネックス(別館)へと進みます。アネックスと称していますが、建物の造りから推測するにおそらく旧館なのでしょう。内装に木材を多用した構造でm天井がやけに低く、全体的に造りが思いっきり昭和です。このアネックスには「楽々の湯」と「石割の湯」という2つの浴室があるのですが、後者は清掃中で利用できなかったため、「楽々の湯」を利用することにしました。


本館フロント付近から伸びるアネックス1階廊下を進んだ先に、上画像のような螺旋階段があります。「楽々の湯」は男女で階層が分かれているらしく、男湯はこの螺旋階段を上がった2階です。
階段を上がって右に折れた場所にある男湯の脱衣室は縦に細長い造りをしており、廊下と同じく天井が狭くくて、昭和の面影を色濃く残す造りなのですが、お手入れ自体はしっかりされており、古いながらも綺麗です。


浴場は大きな六角堂のような形状をしており、北側の駐車場へ突き出るように建てられています。古いけれどもそこそこ広く、場内には大小1つずつ浴槽が設けられています。いずれもアメーバのような形容しがたい形状をしているのですが、それぞれ人研ぎ石でつくられており、肌に触れた時に表面から得られる感触がとても滑らかです。前回記事の「有縁の湯」ができる前は、こちらがメインの大浴場だったのでしょう。


洗い場にはシャワー付きカランが5つ並んでおり、アメニティーも揃っています。



2つある浴槽のうち、小さい方のお湯は入りやすい温度に調整されていました。ぬるめと言わず「いやし」と表現するところが素敵ですね。



一方、大きな方は勾玉のような形をしており、その中で大小の円を刳りぬく感じで入浴部分が造られています。それぞれに対して湯口があり、ひとつは適温に調節されたお湯が出てくる口で、他方は熱いままのお湯が出てくる口なのですが、大小の円はひとつにつながっているので、大小で湯温の差はあまりなく、全体的にちょっと熱めの湯加減でした。


湯使いは純然たる掛け流し。湯尻から惜しげもなくオーバーフローしています。



それぞれの湯口には析出こびりついており、特に熱いお湯を吐出する球体の湯口には、あたかもサンゴ礁のごときトゲトゲにびっしりと覆われていました。マニア的にはこうした光景を目にすると興奮せずにはいられません。


お湯は温泉地内の各宿泊施設などが共同で管理・引湯している共同源泉ですから、前々回記事の「滝の湯」や前回記事の「有縁の湯」と同じですが、にもかかわらずお風呂によってお湯の感じ方が異なるのは、それぞれで湯使いが違うからに他なりません。「楽々の湯」の脱衣室に掲示されている湯使いの説明によれば、「源泉掛け流し風呂です」と表記されています。「有縁の湯」の「源泉循環式掛け流し」という謎めいた方式ではない、純然たる掛け流しであると思われます。

お湯は無色透明ながら微かに青白い色を帯びているように見え、湯中では白い湯の花が少々舞っています。お湯からは軟式ゴムボールのような硫黄風味の他、甘い味とほろ苦み、そして粉っぽい味が感じられました。肩まで湯船に浸かると、さらっとした軽やかな感触と同時にキシキシと引っかかる浴感が拮抗しながら肌に伝わってきます。お湯のコンディションは断然この「楽々の湯」が良く、おかげですっかり「赤倉ホテル」のお風呂に対する印象が好転しました。

私はついついマニア受けするようなお風呂を選ぶ傾向にあるため、世間一般との志向に乖離が生じ、しばしばブログの読者の方から苦情を頂戴するのですが、こちらのホテルでしたら多くの人に好印象を与えるであろう大きくて明るい大浴場と、お湯に拘る人を納得させるトラディショナルな浴場を両立させていますので、余計な心配をせず安心してご紹介することができます。さすが歴史ある赤倉温泉のお宿であると感心しました。


カルシウム・マグネシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩温泉 50.2℃ pH6.6 湧出量測定不能(自然湧出) 溶存物質1262mg/kg 成分総計1321mg/kg
Na+:79.0mg(24.02mval%), Mg++:43.0mg(24.72mval%), Ca++:129.4mg(45.11mval%),
SO4--:327.3mg(48.64mval%), HCO3-:354.7mg(41.50mval%),
H2SiO3:243.1mg, CO2:59.4mg,
(平成27年8月4日)

新潟県妙高市大字赤倉486
0255-87-2001
ホームページ

日帰り入浴9:00~21:00
1000円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★(有縁の湯)、★★★(楽々の湯)
コメント (2)
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