温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

田代新湯

2009年11月30日 | 青森県
※ネット上の情報によると2012年現在、小屋は(雪で?)潰れてしまったらしく、入浴不可能な状態とのことです。


青森市・八甲田山中にある田代元湯は青森県でもかなり有名な野湯(旧旅館跡)で、この温泉に関してはインターネット上に多くの情報が提供されていますが、その近くにある田代新湯になると俄然情報量が減り、しかも数年前の情報はあってもここ最近の状況を知らせてくれるサイトにはなかなかお目にかかれないので、今月上旬に訪問したときの様子をここで報告したいと思います。場所についても、秘湯だからといってもったいぶらず、直裁的に述べていきます。

青森市街から県道40号線を登り、銅像茶屋を通り過ぎ、田代元湯へ向かう林道入口もパスすると、やがて「みちのく深沢温泉」と書かれた看板が立っているので、そこで鋭角に左折してダートを進むと左手前方に先ほどの看板が示していた「みちのく深沢温泉」が現れます。この温泉についてはいずれご紹介するとして、今はここへ立ち寄らず、ダートをそのまま道なりに進みます。林の中の凸凹道をしばらく走ると、左手に「かもしかリゾート」と書かれた、立てられて間もない新しめのゲートがありますので、そのゲートを通過。そしてこの道を道なりに進めばよいのですが、途中で轍が深くなって自動車の走行が困難になる(というか乗り上げてしまう)ので、どこか適当なところに車をとめ、そこから先は徒歩で進んでください。なお「かもしかリゾート」とは最近売り出された別荘地の名前で、先述の道の左手にはいかにもそれらしき建物が数軒建っています(従って駐車に当たっては別荘の住民に迷惑にならない場所を選んでください)。八甲田雪中行軍の遭難場所も、時が経てば避暑地になってしまうのですから、この世の中の移ろいというものは計り知れません。

閑話休題、道の轍は廃道を思わせるような深さになり、両側からは藪が生い茂り、本当にこの道でよいのかと不安になるのですが、そのまま歩くとやがて視界が開けて広場が現れます。広場を見渡すと、錆びた小さな外灯の笠がついているコンクリの電柱が立っており、その下の方を見やると笹薮が切れて獣道が伸びているのがわかるはずですので、その道を進んでください。道は駒込川へ向かって下り傾斜になり、下りきると今度は葦が生い茂る湿地帯が待っています。一部には板が渡してあるのですが、所詮は湿地帯の杣道なので全般にわたってぬかるんでおり、多少靴が汚れるのは覚悟しなければなりません。といっても湿地帯の長さは100mあるかないかで、ここを抜ければ前方に木造の小屋が見えるはず。これぞ目的の田代新湯です。「かもしかリゾート」のゲートから歩くと約15分ほどでしょうか。夏は藪が更に生い茂って歩きにくくなるので、プラス5分余裕を見たほうがよいでしょう。


「かもしかリゾート」のゲート。みちのく深沢温泉の道を奥へ進むとここに行き当たります。このゲートを入って道なりに歩きます。


やがてこの広場に辿りつきます。錆びた笠のついた電柱の右下に、駒込川方面へ下りる杣道が続いているので、そこを進みます。


川に向かってどんどん下っていきます


下りきったら、今度は湿地を歩きます。ここまで来たらゴールはすぐそこ。


まるで藪で全身を覆い隠すかのようにして、杣道が果てたところに建つ古びた湯小屋。農機具の納屋のような小ささ。まさに秘湯です。扉を開けると、コンクリートと石でつくられた浴槽がポツンとあるだけ、実にシンプルです。内部は有志の手によって管理されており、ストレスを感じることなく入浴できます。扉の左脇には寸志を入れる筒が掛けられ、その下にはメモが置かれ、入浴した人たちの思い出の言葉がそのメモに寄せられていました。

薄い黄土色のお湯はわずかに濁っており、弱いながら土類的な匂いと味を帯び、お湯の中で動くと黄土色の沈殿物がブワっと舞います。芒硝泉らしいキシキシとした浴感です。さて、この温泉の問題は湯温でして、事前の情報では「行ってみたら冷たくて入れなかった」という体験談を目にしたのですが、私の訪問時は決して冷たいということはありませんでした。でも温度計で測ってみると37.6℃で、外気温は12℃位でしたから、かなりぬるめです。物好きな私はこれでも入浴して満足したのですが、普通この温度ですと、一度お湯に入ったら寒くて上がれなくなってしまうかもしれません。ある程度暖かくないと入浴には厳しいといえそうです。それでも秘湯マニアなら行っておくべき温泉です。

ところでこの田代新湯ですが、現在建設中の駒込ダムが完成すると、おそらくダム湖の底に沈んでしまう運命にあるものと思われます。青森県のダム計画地図を見る限りでは、この温泉はギリギリのところで沈んでしまうようです。民主党のダム事業見直しがこのダムにも及ぶのかわかりませんが、予定通りに工事が進捗すれば2018年度には完成することになっていますので、わずか余命9年という儚い命なのです。また小屋も老朽化しているので、もしかしたら田代元湯の旅館跡のように豪雪で崩壊する可能性だってあります。行くのならば今のうちに!


扉を開けると、左側に寸志入れ、そしてメモや灰皿などが備え付けられていました


内部の様子。ポツンと湯船がひとつあるだけ。きちんと手入れされています。


37.6℃とちょっとぬるめ。
画像でもわかるでしょうか、沢山の黄土色した湯の華(沈殿物)が舞っています



泉質不明(おそらく芒硝泉)

青森県青森市駒込字深沢 地図

湿地帯を歩くので、長靴を履くとよいでしょう。

24時間可能(積雪時は到達不可)
寸志
マナーを守って入浴してください

私の好み:★★
コメント (4)
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奥美利河温泉 山の家

2009年11月29日 | 北海道
※施設老朽化等のため2015年度は休業。詳細や今後については「北海道桧山振興局」公式サイトの温泉に関するページでご確認ください。



湧水地は場所によっては観光名所にもなる程で、地中から水が勢いよく湧いているところを見かけると、どういうわけか感動するものです。この水が温かければ温泉になるわけですが、大抵の源泉は人の手によって管理されているので、温泉が湧いている様を直接見る機会は意外と少ないかと思われます。各地に見られる地獄谷のように、火山活動が活発なところにいけばふつふつとお湯が沸く様が見られますが、そのお湯は高温なのでそこで入浴することはできません。今回紹介する北海道の「奥美利河(ピリカ)温泉」は、地獄谷のような場所ではなく火山活動とも無縁なところですが、静かな山の中で清冽なお湯が自然の姿のままで湧いている様を見ながらその場でお湯に浸かることができる、貴重な存在の温泉です。

北海道渡島半島の今金町を東西に貫く国道230号線を走っていると美利河ダムの前を通りますが、この近くにあるT字路に立つ「奥ピリカ温泉」の看板を確認し、それに従い道道999号線へ入り(縁起のよさそうな番号ですね)、標識通りに山の奥へ8キロ程進んだ道の終点が今回の目的地です。道は全区間舗装されているものの幅員が狭隘なところもあって、途中で対向車が来たらどうしようとドキドキしながらの運転でした。

 駐車場から近いところに浴場があるのですが、入浴するにはまず、その奥にあるログハウス調の建物「山の家」で料金を支払ってからとなります。同じくログハウス調の湯屋に入ると、中はこじんまりとしており、幾分薄暗く、地面を掘ってつくられた湯船がポツンと据えられています。玉砂利が敷かれた浴槽には綺麗に澄んだぬるめのお湯が張られており、薄暗い室内に差す外からの日の光が筋になって浴槽の底まで届き、湯面や玉砂利がそれを反射してキラキラと輝いていました。内湯から外へ出ると露天風呂ですが、このお風呂がまるで庭園に配された池のように広々としており、そのレイアイトの様子はお風呂というより池そのもので、お湯に浸かるとニシキゴイの気持ちがわかったような気がしました。お風呂が広いだけあって開放感も抜群、のびのびと気持ちよく湯浴みができます。なお露天風呂は入口付近こそ男女別に仕切られていますが、それ以外は仕切りが無く混浴です。その代わりここは水着の着用が許されているので、水着持参であれば女性の方も気兼ねなく露天風呂を楽しめます。

 この「池」の左手の岩肌には窪みがあって、そこがこの温泉の源泉なのですが、普通の温泉のようにいわゆる湯口のようなものはなく、上述の通り自然のありのままの姿で湧いているのです。しかもチョロチョロなんてもんじゃなく、滾滾と地中から盛り上がて溢れ出ているのです。その様はまるで羊蹄山のくみだし公園や静岡県の柿田川湧水群を髣髴とさせます。自然の豊かな恵みという形容がぴったり。私は温泉と湧き水が好きな人間なので、この様子を目の前にして興奮しっぱなしでした。
お湯は無色澄明無味無臭、実に清冽で、さらさらとした爽快な浴感。少々の泡付きがあり、ぬるめで長湯仕様、夏の暑い日にはとても気持ちよく入浴できるでしょう(湧いたお湯をそのまま露天や内湯へ流しています。湧出温度は38.5℃なので、夏以外は湯上りにちょっと肌寒さを感じるかもしれません)。

携帯電話の電波なんて全く届かない深く静かな山の中、野趣溢れる広々とした露天風呂で得られる開放感のみならず、こんなマイナーなところでお湯が勢いよく湧く様子が観察でき、しかもそれを目の前にして直接入浴できるという意外性が、この温泉のおすすめポイントです。


内湯


池のような露天風呂


窪みからお湯が湧き出でる様子。滾滾と溢れ出ています


単純泉
38.5℃ pH7.9 自然湧出(量不明) 成分総計0.300g/kg

北海道瀬棚郡今金町美利河353 地図
0137-83-7111(クアプラザピリカ)
クアプラザピリカのホームページ(「山の家」の情報あり)

8:00~19:00
11月~4月末まで休業(詳細はお問い合わせください)
300円

私の好み:★★★
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川北温泉 露天風呂

2009年11月23日 | 北海道
野趣溢れる温泉の多い北海道の中でも川北温泉は道東を代表する野湯として知られており、最近ではガイドブックでも紹介されるようになったので、どんなところかと実際に行ってみたら、この道中が、酷いというほどではありませんがなかなかの悪路で、行き違い困難なダートを走らねばならないような山の中でした。ガイドブックに載っているからといって安易に来られるような印象を持っていると見事にその想像を裏切られます。狭隘なダートの走行に慣れていない方にはちょっと不向きかもしれません(普通乗用車でも大丈夫ですけどね)。でも敢えてそんな道を走ってまでも訪れる価値がこの温泉にはありました。

標津から斜里方面へ向かい、広大な牧場の中を貫く国道244号線を走っていると、金山橋手前で川北温泉の方向を指し示す標識に出くわしますので、それに従い左折します(根北峠を越えて斜里・網走方面から来るなら右折ですね)。標識が出ている程なので、標津町としてはこの温泉に外来客が来ることについてはウェルカムな姿勢をとっているのでしょう。ここからダートの林道が始まります。先述の通り、ダートで走りにくく狭隘ですが、ほぼ一本道なので迷うことはありません。イケショマナイ川に沿ってクネクネ走ること約5km、看板に従い分岐を右折し、道が尽きるところで目的地に到着です。広い駐車スペースの奥に、ポツンと小さな脱衣小屋や青いトタン仕立ての休憩小屋がありますので、それが終点の目印です。

 
国道沿いや林道分岐点には、このように川北温泉の方向を指し示す標識や看板が立てられています

 
左:林道の様子。画像の地点は比較的は走りやすい路面でしたが、路肩が弱いところもあるので注意を要します
右:正面が脱衣小屋、左手が休憩小屋です


ここは元々温泉保養所が建てられていたそうなのですが、天災により崩壊。建物は撤去されたものの、タイルの浴槽だけが取り残されたので、地元の有志の手により源泉より引湯され、誰しもが自由に入浴できるように開放されています。野湯といってもこのお風呂が造られた経緯上、浴槽(および脱衣小屋)は男女に分かれており、ちゃんと仕切りも設けられています(ただし屋根はありません。露天です)。タイル壁の跡も残っていて、ここがかつて保養所の内湯だったことを物語ってくれます。浴槽の脇にはご丁寧にベンチまで設けられており、火照った体を冷ますのにもってこい。野湯というより、れっきとした露天風呂です。

お湯はここから沢の川上へちょっと離れたところにある源泉地帯から黒いホースで引かれています。男湯からは源泉地帯らしき場所が望めます。そのホースは2本あって片方は男湯へ、もう片方は女湯へと導かれていますので、どうやら男湯と女湯はそれぞれ別の源泉のお湯が張られているようです。
そのお湯は湯船では乳白色に濁っており、見た目から想像できる通り、硫黄の匂いが強く漂います。湯口に置かれたコップで飲んでみると、塩辛い茹で卵をスープにしたような味がはっきりと感じられ、これにホウ酸のような味が加わります。キシキシとした浴感。源泉のお湯は熱めなので、もし浴槽のお湯も熱ければ、沢から引かれたホースの水で適度にうすめて下さい。

山の緑に囲まれ、沢のせせらぎを耳にしながら、乳白色した濃い硫黄の露天風呂に浸かる幸せ。ここまで来てよかったとつくづく実感できることと思います。
この温泉を管理なさっている地元の方々に深く感謝します。

 
左:男湯の様子。画像奥に源泉地帯らしき場所が見えます
右:脱衣所内に掲示されている、手書きの成分表示


含ホウ酸-食塩・硫化水素泉 59.6℃ 

北海道標津郡標津町川北

24時間入浴可能(ただし11月頃から5月中旬まで冬季は道路が閉鎖)
無料
ヒグマ発生地帯につき、キャンプや煮炊きは禁止

私の好み:★★★
コメント (2)
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相泊温泉

2009年11月22日 | 北海道


今回から数回は、冬季には入れない温泉を続けて紹介させていただきます。これから寒さが一層厳しくなる時期だというのに、季節外れなトピック選択をどうかお許しください。

世界遺産・知床半島の東岸に沿って伸びる道道87号知床公園羅臼線の道が尽き果てるところに、漁業で生計を立てている相泊集落があります。これより先に車で進める道はありません。まさに最果ての地。この相泊の波打ち際に湧く温泉が相泊温泉です。一般人が入れる温泉としては日本で最も東に位置しているものと思われます。元々は漁師さんが疲れた体を癒したり冷えた体を温めたりするための温泉だったそうです。

ネット上の情報では簡易な脱衣小屋があるとのことでしたが、実際に行ってみたら礫とテトラポットが続く海岸に小さい生簀のようなコンクリート製の浴槽がポツンとあるだけで、小屋など人目を遮るようなものは何一つありませんでした。しかし、道路から海岸へ下りる梯子を伝って浜に下り立ってみると、高さの関係で道路からこちらはあまり見えにくく、また訪問した時は初夏にもかかわらず気温が5℃で肌寒くどんよりした天気で、ここを訪れる観光客の姿が皆無だったために、大海原を目の前にして寒さを堪えながらスッポンポンになって入浴してみました。
お湯は底からプクプクと大きな泡とともに湧出しているのですが、しばらく誰も入っていなかったのでしょう、湯温がちょっと熱めでじっくり浸かれる状況ではなかったので、冷水の蛇口を全開にして適温まで薄めてから改めて入浴(浴槽までちゃんとした水の蛇口が引かれています)。礫の浜を掘って作られたコンクリ製長方形の浴槽は、厚めのベニヤ板によって半分に仕切られています。といっても完全に分かれているのではなく、下方20センチ程は貫通しており、お湯は底から湧いてくるので、何もしなければ仕切られた両方とも同じコンディションになり、水の蛇口を開ければ片方だけ温度が下がっていくようになっています。湧出元である底には玉砂利が敷きつめられ、その上にスノコが置かれ、更にスノコが浮かないように重石が載せられています。
お湯はほぼ無色透明で、ごく僅かに濁って見える程度。ほぼ無臭で、薄い塩味と重曹味らしきものが感じられます。波打ち際という環境ながら、そこから湧くお湯がしょっぱくなくて海水らしさが希薄であるというのも、なんだかとっても不思議です。

晴れていれば海原の彼方に国後島の山々が眺望できるそうですが、今にも泣き出しそうな空模様ではそんな眺めを望むこともできず、視界に入ってくるのは寄せては消える北海の白波だけでした。でも底のスノコに腰をつけてじっくり浸かると、まるで海に入っているような錯覚に陥り、浴槽は小さくとも気持ちは広々雄大になれました。余計なものが何一つ無く、ただポツンと浴槽のみあることが、かえってこの温泉の魅力を引き立てているように思います。
なお、上で小屋が無かったと書きましたが、これは私の訪れた時期が早すぎたためで、6月中旬~下旬になれば浴槽の上に小屋が架かり、しかも、ちゃんとお風呂が男女に分かれるそうです。これなら女性の方でも安心ですね。

波打ち際という立地上、海が時化ている場合や、大潮で満潮の時などはお風呂に潮が被るので入浴できません。また入浴可能時であっても随時清掃を行うので、その際は入浴不可となります。高波によって礫が打ち寄せられ、浴槽が石で埋まることもあり、この場合も入浴はできません。詳しくは下でリンクを張っている「今日の相泊温泉」をご覧下さい。この温泉は地域の方の善意によって維持・管理されています。くれぐれもマナーを守った上で、雄大な湯浴みを楽しんでください。


海岸線に沿って相泊の集落が見えます


雨が降ってきて見えにくいのですが、底にはスノコの重石が敷かれています。
石に腰掛けるとちょうどよい感じで湯浴みできます。


湯温は44℃ちょうどでした


北海道目梨郡羅臼町相泊 地図
道道87号線のロードサイドに駐車帯があり、公衆トイレとともに「相泊温泉」と書かれた看板が掲示されているので、迷うことはありません。

入浴可能:4月下旬~9月下旬(連休)
無料
24時間入浴可能と思われますが、常識の範囲内で

今日の相泊温泉
↑訪問の際はこのサイトで状況を確認してください

私の好み:★★★

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湯の川温泉 日乃出湯

2009年11月21日 | 北海道
※残念ながら2011年12月に廃業しました。


函館の温泉街といえば言わずと知れた湯の川でしょう。大小さまざまな旅館とともに数軒の温泉共同浴場が点在しています。今回取り上げる「日の出湯」もそのひとつで、市営植物園の目の前に立地しており、国道から1ブロック入った場所なので周囲は意外と静かです。「日の出湯」が面する路地には同じく温泉銭湯の「根崎湯」も軒を並べていますが、「日の出湯」の方が目立つ看板や屋根を出しているので、一見の客でも入りやすそうな雰囲気です。

しかし中に入るとそのファサードから受ける印象を見事に裏切り、まさに地元密着型とでもいうべき昔ながらの番台式銭湯の光景が待ち受けています。
浴室には二つの浴槽が手前と奥に分かれて配されています。単にふたつに分かれているだけでなく、手前側の浴槽のお湯は飛び上がるほど熱いのです。48℃もあるそうで、私は手を入れるだけでそれ以上は無理でした。一方、奥の方の浴槽は加水されているのでしょう、誰でも入れる温度に設定されていました。

お湯は無色透明ですが完全に澄み切っているわけではなく、細かい粒子状の湯の華が待っているので、かすかに霞がかって見えます。透明ながら溶けている成分が濃いのでしょう、浴槽の縁や床は温泉成分がコテコテと重層になって析出しており、まるで千枚田のような状態で、床の凸凹のために歩くのさえ痛さを感じるほどです。その濃さは味覚にも顕著に顕れ、湯口の湯を飲んでみると結構塩辛く、また苦汁のような味も明瞭に感じられます。

ここの熱いお湯に慣れない私は手前側の湯船に手を出すことができず、奥側の湯船に浸かって怖気づいていましたが、さすがに常連のお爺さんは平気のようで、澄ました顔をして熱い湯船に入り、お湯の熱がお爺さんの体の隅々まで届いたあたりで悠然と立ち上がり、ふたつの浴槽の間の床に腰を下ろして仰向けになり、そのまま瞑想に耽るかのように目を閉じてじっと横になっていました。これが常連お爺さんのいつもの入浴スタイルなのでしょう。恐れ入りました。

上述のように塩分が濃いので湯上がりは結構火照ります。まさに寒風吹きすさぶ函館の冬にはもってこいの温泉。温泉ファンならきっと心を引かれる渋い風情の温泉銭湯でした。


浴室全景(ガラス越しに撮ったので照明が反射しているのはご勘弁を)


奥側の適温浴槽


手前側の浴槽の縁は温泉成分の析出がコッテリ


目の前の熱帯植物園園内にも、このように温泉井がありました


含重炭酸土類石膏食塩泉
(昭和29年のデータ)65℃ pH6.8 自然湧出 蒸発残留8.7865g/kg 

函館市電 湯の川温泉電停より徒歩12分(1.1km)
あるいは函館バスで函館駅より6番(日吉営業所行)もしくは96番(函館空港行)のバス、熱帯植物園前停留所下車
函館バスのホームページ
北海道函館市湯川町3-2-17 地図
0138-57-8692

6:30~22:00 火曜定休 ※2011年12月に廃業しました。
420円
ドライヤー20円、ロッカーあり

私の好み:★★
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