温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

山口県の目次

2017年07月08日 | 山口県
2017.7.8作成

当ブログで記事にしてきた山口県の温泉を一覧にしました。
【路線名・駅名】:駅から徒歩圏内の温泉とその路線名・駅名


●山口市
湯田温泉 亀乃湯および温泉舎  【山口線・湯田温泉駅】
湯田温泉 西村屋(2016年9月宿泊)  【山口線・湯田温泉駅】
柚木慈生温泉

●長門市
俵山温泉 町の湯
俵山温泉 白猿の湯
湯免温泉 湯免観光ホテル 公衆浴場うさぎの湯
長門湯本温泉 旅館一福  【美祢線・長門湯本駅】
長門湯本温泉 恩湯  【美祢線・長門湯本駅】
長門湯本温泉 礼湯や足湯など  【美祢線・長門湯本駅】

●萩市
阿武川温泉

●下関市
川棚温泉 玉椿旅館
川棚温泉 小天狗
 前編(客室・奥の浴室)
 後編(手前の浴室)
川棚温泉 ぴーすふる青竜泉

●宇部市
持世寺温泉 杉野湯
持世寺温泉 上の湯(温泉センター) 【山陽本線・厚東駅】

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阿武川温泉

2017年07月06日 | 山口県
 
毛利の城下町である萩から山へ入った旧川上村に掛け流しの温泉施設「阿武川温泉」があると知ったので、どんなお湯に巡り会えるのか確かめるべく、実際に行ってみることにしました。場所は阿武川ダムの下流にあり、ダムに向かう一本道を車で走ってダムの手前で看板に従い左手に逸れると、容易にたどり着きことができました。


 
施設前のロータリーの真ん中に泉源があり、石碑の裏に小さな屋根がかけられたポンプがお湯を汲み上げられています。ダム工事の際、このあたりだけ雪が積もらなかったので、試掘したら温泉が見つかったんだとか。つまりダム工事の副産物と言えそうですね。


 
施設の裏手には阿武川が流れており、山の緑を川面に写した静かな川では、太公望たちが釣竿を垂らしていました。山の空気も川の水も綺麗で清々しい環境です。


 
玄関を入って左手にある受付で料金を支払い、湯銭と引き換えに脱衣室のロッカーキーを受け取ります。
館内には大・中・小という3つの浴場があり、「小浴場」は貸切専用ですが、「大浴場」と「中浴場」は曜日によって男女が入れ替わり、私が訪れた日は「中浴場」が男湯になっていました。このため、今回の記事では「中浴場」のみのレポートとなりますので、あしからず。


 
「中浴場」という名称なので、それなりの狭さを覚悟していましたが、決して中規模ではなく、むしろ一般的な大浴場と比べても遜色ないほど、広くて立派なお風呂でした。お風呂は内湯と露天に分かれており、内湯にはL字を逆さにしたような形状の浴槽がひとつ据えられ、その反対側に洗い場が配置されていました。洗い場にはシャワー付きカランが計5基並んでいます。浴槽は壁側および窓側の最長辺で5m弱ある大きなもので、赤系の御影石で縁取られ、槽内は水色のタイル張り。壁側にはゴツゴツとした岩が積み上げられており、川の上流にある長門峡をイメージしていると思われます。浴槽のお湯は40〜41℃という長湯仕様。窓に面した浴槽側面からはジェットバスがブクブク噴射されており、ちょっとぬるめの湯加減とジェットバスの気持ち良さが相まっているためか、内湯ではお爺さんたちが「あれ?昇天なさった?」と周囲を勘違いさせてしまうほど時間を忘れて延々と長湯していました。



浴槽のお湯は無色透明で、加温循環消毒の各処理が実施されており、浴槽内でしっかり吸引され、また一定時間毎に浴槽内から加温されたお湯が投入されています。この影響を受け、湯船のお湯からは特にこれといった特徴を得ることができませんでした。
しかし、これのみならず、非加温の生源泉も同時に投入されているのが素晴らしいところ。壁側に積み上げられている岩の間から石樋が突き出ており、そこからほんのりヒヤッとする源泉が注がれていました。この源泉からはゆで卵の卵黄を思わせる匂いと味が感じられ、ツルスベの滑らかなフィーリングも伝わってきました。繊細なお湯なので何らかの手を加えてしまうと途端に個性が失われてしまうのでしょうけど、生のままですとアルカリ性単純泉らしい個性がはっきりと確認できるのですね。


 

つづいて露天風呂へ。
露天ゾーンも「中」とは思えないほど広く、石材が多用された日本庭園風の落ち着いた設えで、内湯側にサウナと水風呂、ゾーンの中央に加温浴槽、そして最奧に非加温浴槽といったように、複数の浴槽類が設けられています。加温・非加温両浴槽とも10人サイズの岩風呂ですが、単に岩で囲われた非加温浴槽に対して、加温浴槽の真ん中には島のような岩が置かれており、これを背もたれ代わりにして入ると、丁度良い姿勢で湯浴みすることができました。
加温浴槽は内湯と同じく加温循環消毒が行われているとともに非加温の生源泉も注がれており、お湯の状態も内湯とほぼ同様で、湯加減は良いのですが、浴感は正直なところ掴みどころに欠け、温泉マニア的にはあまり面白くありません。その一方、奥の非加温浴槽はまさに源泉のありのままの浴感を体感できる貴重な浴槽です。湯口の時点で30℃前後のぬるいお湯であり、しかも浴槽の表面積が広いため、湯船のお湯はすっかり熱を奪われて水風呂状態になっていましたが、実際に入ってみますとアルカリ性泉らしいツルスベ浴感がしっかりと肌に伝わり、湯口ではタマゴ感もはっきりと得られました。尤も、生源泉のありがたみが理解できないと、この非加温浴槽は単なる水風呂にすぎませんから、私が訪れた時でもこの非加温浴槽に入ろうとする人は私以外にいませんでしたが、浴感はこの非加温槽の方が良いので、マニア的には白眉の浴槽と言っても過言ではないかと思います。暑い日に入れば爽快なこと間違いなし。わざわざ手を加えない源泉の浴槽を用意してくれている施設側の姿勢に感謝です。


アルカリ性単純温泉 32.3℃ pH9.4 溶存物質0.6004g/kg 成分総計0.6004g/kg
Na+:208.4mg, Ca++:14.6mg,,
F-:8.5mg, Cl-:296.1mg, Br-:0.7mg, HS-:0.9mg, S2O3--:0.8mg, OH-:0.4mg, CO3--:12.1mg,
H2SiO3:40.4mg,
(平成26年9月29日)
加温あり(入浴に適した温度に保つため)
循環ろ過あり(衛生管理のため)
消毒あり(衛生管理のため、塩素系薬剤及び光触媒装置を併用)

萩バスセンターより防長バスの阿武川温泉行もしくは惣良台入口行の路線バスで「阿武川温泉」バス停下車すぐ
山口県萩市川上4892-1  地図
0838-54-2619

10:00~21:00(受付終了20:30) 火曜定休 (祝日の場合は営業)
410円(サウナ別料金)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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長門湯本温泉 礼湯や足湯など

2017年07月04日 | 山口県
長門湯本温泉の外湯には前回記事で取り上げた「恩湯」のほか、もうひとつ「礼湯」もありますので、そちらにも入ってみることにしました。

●礼湯
 
「恩湯」の左脇から伸びる狭い路地を入り、坂道を上がって数十メートル進んだ右手に建つ公民館のような佇まいの建物が「礼湯」。浴場そのものは古くからあるそうですが、現在の建物は平成14年に改築された比較的新しいもの。改築に際してはバリアフリー化を図ったそうですが、ここに来るまで急な坂を登らねばならないため、その設計がどれだけ役に立っているのかはよくわかりません。
限られた敷地内に建てられているため、全体的にコンパクト。玄関の券売機で湯銭を支払い、番台のおばちゃんに券を渡して脱衣室へ。


  
外観から受ける予想の通りに浴室もコンパクトで、床面積としては「恩湯」の半分もないかもしれませんが、グレーのタイルと木材を用いることによって、和の落ち着いた趣きを醸し出していました。また感覚的な狭さを払拭すべく大きな窓が用いられており、たしかにこの窓によって実際の床面積以上の広さを感じることができました。
室内には浴槽がひとつ設けられており、その左手に洗い場が配置されています。洗い場にはシャワー付きカランが計6基並んでいました。浴槽はグレーの御影石板張りで、大きさは(目測で)2m×3mの5~6人サイズ。「恩湯」ほどではありませんが、こちらも一般的なお風呂に比べて深い作りになっており、身長165cmの私が浴槽内で直立すると臍下まで浸かる水深があるので、もし底にお尻をついて入浴しようとすると頭まで潜ってしまいます。このため槽内のステップに腰掛けるか中腰で入浴することになります。


 
湯口から注がれるお湯は無色透明の適温湯で、長門湯本らしいトロミを伴うツルツルスベスベの滑らかな浴感が大変気持ち良いのですが、味や匂いは特に感じられず、「恩湯」に比べると物足りなさを覚えてしまいます。館内に掲示されている平成21年の分析書によれば市有3号泉という源泉らしいのですが、分析書と並んで掲示されている平成17年の書類には、源泉名として「礼湯泉・湯本温泉混合泉」と記されており、どちらが正しいのかよくわかりません。湯使いに関しては状況に応じて加温や加水を行なっており、また塩素系薬剤や光繊維モジュール装置による消毒も実施されているようです。しかし私が入浴した時には特に消毒臭などは気になりませんでしたし、お湯を循環させない放流式であるため、お湯の鮮度感はまずまずであり、浴槽縁の切り欠けからしっかりとオーバーフローしていました。

湯口の上には2つの注意書きが括り付けられており、ひとつは「温泉水は飲料用ではありませんので口に入れないでください」というもので、この手の注意なら他の浴場でもよく見られますが、もうひとつがちょっと普通ではないのです。「目を洗わないでください」と書かれているのですが、普通に考えたら公衆浴場のお湯で目を洗う人なんていませんよね。敢えてそのことを喚起するということは、かつてこの浴場では目を洗うことによって何らかの効能があったのかもしれず、その名残なのかもしれませんね。


長門市有3号泉
アルカリ性単純温泉 38.2℃ pH9.66 溶存物質0.179g/kg 成分総計0.179g/kg
Na+:46.88mg,
Cl-:12.22mg, SO4--:12.81mg, HS-:1.47mg, CO3--:36.37mg,
H2SiO3:58.11mg,
(平成21年1月26日)
加水あり(入浴に適した温度に保つため)
加温あり(入浴に適した温度とするため)
消毒あり(衛生管理のため塩素系薬剤や光繊維モジュール装置を使用)

JR美祢線・長門湯本駅より徒歩10分強
山口県長門市深川湯本2264  地図
0837-25-3041

9:00~21:00 第三火曜定休
200円

私の好み:★★


●足湯、温泉街

風呂上がりにクールダウンを兼ねて、音信川に沿って両岸に伸びる温泉街をぶらぶら散歩することにしました。


 
温泉街から川下へ進んだところに、大きな排気筒を擁する武骨な建物を発見。ドアの横には「湯本温泉配湯施設」と記されていました。複数の源泉から集めたお湯をここで加温し、各旅館へ配湯しているのでしょう。


 
配湯施設から「せせらぎ橋」という人道橋で対岸(左岸)へ渡ると広い公園があり、その一角には日本庭園風の池が設えられていました。温泉街という場所柄、露天風呂かと思いきや、なんと足湯でした。随分大きな足湯ですね。


 
池のような足湯がある河川公園から川を遡り、「恩湯」の前まで戻ってきました。「恩湯」の左脇には「礼湯」へつながる路地が伸びており、さらにその左手には公衆浴場利用客用の駐車場が用意されているのですが、駐車場の山側(東側)には雑草が生えるばかりで何もない空き地が広がっていました。おそらくここには廃業して解体された旅館の跡地なのでしょう。空き地のままにしておくのは景観上宜しくないと思ったのか、空き地の奥には巨大な絵馬の看板が立てられていたのですが、果たしてこの空き地に再び建物が建つ日はやってくるのでしょうか。


 
「恩湯」と「礼湯」を結ぶ路地沿いに、昭和の香りを強く放つ看板を発見。小さな屋根がつけられた行灯のようなその看板には「やきとり 気はらし」「焼とり おけい」と書かれており、かつては赤提灯の類の店であったことが推測されます。ちょうど住吉神社の階段の真下に位置しているので、門前の茶屋みたいな感じだったのかもしれませんが、いまは固く戸を閉ざしていました。



「礼湯」の手前にある「利重旅館」は、昔ながらの佇まいと掛け流しのお風呂で温泉ファンから評価されているお宿です。この宿にも泊まってみたかったなぁ。


 
さらに川を遡ると、川岸にも足湯が設けられていました。でも使っている人はおらず、温泉がただただ垂れ流されているばかりでした。あぁ、もったいない。また、この足湯の対岸にも旅館跡地の空き地が広がっており、当地では大規模化した旅館が次々と廃業していったことが窺えました。全国津々浦々、どこの温泉街も斜陽ですが、長門湯本もその典型なんですね。



長門湯本の温泉街にコンビニはありません。公衆浴場の風呂上がりに飲む缶ビールを買うべく、「恩湯」の対岸にある酒屋さんを訪ねたら、驚くべきものと出会ったのです。



おじいさんが店番をしているその酒屋さんは、いかにも昭和の食料品店といった万屋的な品揃えで、お酒や食料品のみならず、ご当地の土産物なども陳列されていたのですが、そんな店内の片隅に、なんとプッチモニやタンポポといった懐かしいハロプロのうちわが立てられていたのです。しかもちゃんと値札がついているではありませんか。つまり、これらのうちわは、れっきとした商品なのです。彼女たちが脚光を浴びていたのは、ミレニアムという言葉が世間で聞かれた2000年頃ですから、少なくとも15年以上、お店の中で置かれ続けていたことになります。2016年だというのに、まさかそんな物が商品になっているとは想像だにしませんでした。ここだけ時間が止まっているようです。温泉街をひと通り歩いて、鄙びた寂しい空気をひしひしと体感してきた私にとって、この2枚のうちわは、そんな温泉街の現状を象徴するような光景に感じられました。

さて、このように時空の流れが遅れている長門湯本温泉ですが、いよいよ時計の針が大きく動き始めようとしています。その流れのひとつは、前回記事で触れた当地のシンボル「恩湯」のリニューアルですが、もうひとつは星野リゾートの参入です。旅館跡地に星野リゾートが運営する高級リゾートを新設し、それに合わせて温泉街全体も再生させるんだとか。2016年12月にこの長門湯本で開催された日露首脳会談では、気の毒なほどに地元の熱気が空まわりしていましたが、大きな資本の到来により大鉈がふるわれ、いまのような寂寥感の濃い街並みも過去の想い出となるのかもしれません。

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長門湯本温泉 恩湯

2017年07月02日 | 山口県
この記事は2016年9月に長門湯本温泉を訪れた時の様子を記録したものです。
恩湯は2017年5月17日より長期休業中。現在リニューアル工事中です。営業再開は2019年夏以降の予定。



長門湯本温泉のランドマークである公衆浴場「恩湯」。破風を頂く玄関、そして瓦屋根の上に載っかった昭和の香りを漂わせるネオンサインが実にフォトジェニックですね。そのネオンが点り始めた時に、音信川のほとりから撮影したのが上の画像です。



そして日がとっぷり暮れた夜に撮ったものがこちら。


 
恩湯直下の川岸には「公衆洗濯場跡」なるものがあり、私の他にも写真を撮っている観光客がいらっしゃいました。その名前の通り、かつてここには温泉のお湯が引かれており、近所の奥様方が洗濯板を手に集って、談笑しながらゴシゴシと衣類を洗っていたのでしょうね、説明板によると既に昭和45年頃から使われなくなり、長い間放置されつづけてきたそうですが、音信川の川岸を河川公園として改修した際に、この洗濯場の跡も整備されたんだとか。もちろん再び洗濯場にすることが目的ではなく、昔日の温泉街を思い起こさせるオブジェとしての整備ですから、槽の中は空っぽでした。


 
さて、お風呂に入りましょう。建物に入ってすぐ右手にある券売機で湯銭を支払い、番台へ券を差し出します。定期利用する場合は定期券代わりの木札が発行されるようですが、番台の周りには使用済みの木札がたくさんぶら下がっていました。
また番台の前には長門湯本温泉の由来が記されていました。これによれば、当地のお寺の住職である禅師が散歩をしていた時、白髪一衣の老人が大きな岩の上で座禅しいているところに遭遇。その老人は「私は長門一の宮の住吉明神である。禅師の説教を聞きたい」と求めたので、禅師はその求道に感動して老人(つまり住吉明神)に大戒を授けて師弟の法縁を結んだところ、明神はその教えにいたく感銘を受け、そのお礼としてお寺の東に温泉を湧出させ「信者や病気の人のためにお湯を使ってほしい」と言って去っていったんだとか。一般的に温泉の開湯伝説には動物が登場することが多く、歴史上の人物だと弘法大師がしばしば登場しますが、この長門湯本のように住吉明神と地元のお寺の禅師が登場する例は珍しいかもしれません。明治以前の神仏習合の文化がよく表れている興味深い伝説です。

恩湯は、番台の左手にある1階の浴場が男湯で、番台の右手から通路を進み階段を上がった2階の浴場が女湯というように、男女が上下に分かれているのですが、ここでは1階にある男湯の方がお湯が良いらしいのです。その理由は後ほど。


 
浴場内は、一見すると実用的で渋いお風呂なのですが、一つ一つを細かく見てゆくと、なかなか味わい深く、歴史ある温泉のランドマークとして相応しい風格を有していることがわかります。浴槽は重厚感のある御影石で、2m×3mの槽が左右に2つ並んでいます。私が入った時には、左右の浴槽でお湯の温度や浴槽の造りなどに違いは見られなかったのですが、普段はお湯の温度などに相違があるのでしょうか。両浴槽とも槽内にはステップが2段あり(底を含めると浴槽は3段構造)、一般的なお風呂よりも深く、下のステップに腰掛けるとちょうど良い具合に肩まで浸かることができました。深いお風呂ですので、入り応えがあります。
公衆浴場に欠かせない洗い場は室内の左右に分かれて配置されており、計5基のカランが取り付けられていました。


 
お風呂の上に祀られている石像は住吉明神。上述のように、この温泉は老人の姿をした住吉明神がお礼として禅師に提供したものなので、温泉を湧出させた明神の石像が祀られているのでしょう。
その明神様に由来するお湯は、壁から突き出た短い樋の湯口より滔々と注がれており、浴槽縁よりふんだんにオーバーフローしていました。温泉街の各旅館に引かれているお湯は集中管理されている混合泉ですが、この恩湯はその名も「恩湯泉」と称する自家源泉であり、しかも加温加水循環消毒の無い源泉100%の完全放流式です。お湯はこの湯口のみならず、浴槽の底からも湧出しているらしく、この足元湧出のお湯を楽しめるのは、地面に接した1階にお風呂がある男湯だけ。それゆえこの浴場では男湯の方がお湯が良いと言われているのですね。分析書によれば湧出温度は38.8℃とのことですが、実際の湯船もその数値とほぼ同じであり、湧出温度と使用温度が同じという実に素晴らしい状態なのであります。

お湯は無色透明で、芳醇なタマゴ味とタマゴ臭(ゆで卵の卵黄的な風味)、そして少々の甘みが感じられました。私が感動したのはお湯の浴感。トロミがある湯船に入ると、全身にヌルヌルを伴うツルツルスベスベ感が伝わり、お湯の中を動くだけでもその水流でトロトロしているのがわかっちゃいます。そして、右手で自分の左腕をさすると、あまりにツルツルしているものですから、さすった勢いで右手がつるんと飛んでいってしまいそうになりました。これぞまさに天然のローション。しかも39℃前後という絶好の長湯仕様の湯加減。湯上がり後も肌のスベスベは残り、しかも大変爽快で、サラサラさっぱりとしたフィーリングがいつまでも続きました。
滑らかで且つぬるゆという、私が大好きな条件を2つも兼ね備えているお湯であるため、当地で宿泊した今回の旅では、夜と翌朝の計2回入ってしまいました。歴史ある銘温泉地に銘泉あり。恐れ入りました。

さて、この「恩湯」ですが、2017年5月17日から長期休業に入り、現在は改修工事中です。いまのところ、営業再開は平成31年夏以降を予定しているそうです。おそらくその年は新しい元号の元年でしょうから、由緒ある「恩湯」は新しい元号と一緒に新たな姿で時を再び刻み始めるのでしょうね。レトロな姿が失われることに一抹の寂しさを覚えますが、その一方で、どんな姿に生まれ変わるのか今から楽しみでなりません。リニューアル後もお湯の良さが活きるような施設であってほしいものです。


恩湯泉
アルカリ性単純温泉 38.8℃ pH9.9 溶存物質0.1712g/kg 成分総計0.1712g/kg
Na+:41.7mg,
Cl-:11.3mg, OH-:1.4mg, HS-:1.0mg, S2O3--:0.3mg, SO4--:12.8mg, CO3--:33.8mg,
H2SiO3:57.9mg,
(平成26年3月28日)
加水加温循環消毒なし

※2017年5月17日より長期休業中。現在リニューアル工事中です。再開は平成31年夏以降の予定。
夏季6:00~23:00、冬季6:30~23:00 第1火曜定休
200円
ドライヤー(有料100円)・ロッカー(有料100円)あり

JR美祢線・長門湯本駅より徒歩10分
山口県長門市深川湯本2265
施設紹介ページ(湯本温泉旅館協同組合公式サイト内)

私の好み:★★★
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長門湯本温泉 旅館一福

2017年06月30日 | 山口県
 
山口県でも屈指の古い歴史を有する温泉と言われている長門湯本温泉は、音信川の両岸に比較的規模の大きな旅館が立ち並んでいますが、同じ山口県の湯田温泉とは対照的に歓楽的な雰囲気は薄く、むしろ静かでゆったりと時間が流れており、最近では廃業する旅館も相次いでいるため、鄙びて寂しい感すら覚えます。
さて、この長門湯本温泉では限られた温泉資源をしっかり護りながら有効に活用するべく、お湯を集中管理して各旅館に配湯しているのですが、そのためか、お風呂でお湯を掛け流している宿が少なく、湯使いに拘って宿選びをすると選択肢が限られてしまいます。2016年の初秋に巡った山口県温泉紀行において長門湯本温泉で宿泊した際には、当地で掛け流しを実践している数少ない宿のひとつである「旅館一福」でお世話になりました。当地のランドマークである公衆浴場「恩湯」の川を挟んだ斜め前に位置しており、旅館「六角堂」の真向かいです。上述のように規模の大きな宿が多い当地にあって、こちらのお宿は旅館と名乗っているものの比較的小規模であり、実質的には民宿に近く、特に玄関へ入った時には「あれ? 間違って民家にお邪魔しちゃったか?」と勘違いしてしまうほど、ある意味でアットホームな雰囲気でした。


 
建物は3階建。今回通されたお部屋は3階の角部屋でした。6畳の和室で、テレビやエアコンなど家電関係はひと通り揃っており、洗面台やトイレも客室に付帯していました。


 
客室の窓から外を眺めると、真正面に朱塗りの欄干の橋が音信川に架かり、対岸の真向かいに旅館「六角堂」のビルディングがそびえ立っていました。
客室から廊下に出ると、共用の冷蔵庫が置かれていました。共用ですから宿泊客はもちろん自由に使えます。なお、旅館のすぐ裏には美祢線の線路が敷かれているため、列車が通過するたびにディーゼルカー(キハ120)のエンジンのエグゾーストが館内まで響いてきました。


 
腹が減っては戦も湯浴みもできません。私は2食付きでお願いしましたので、夕食・朝食ともにお宿でいただきました。なお私が宿泊した時の料金は1泊2食付きで7,000円プラス消費税および入湯税です。上画像は夕食です。お値段控えめだったにもかかわらず、品数が多くてびっくり。温泉街そのものは山の中ですが、仙崎など日本海の漁港から近いため、お膳の上にはたくさんの海の幸が躍っていました。



朝食はオーソドックス。どちからといえばライトであり、二日酔いの方でも食べられそうな感じです。


 
さて旅の目当てのお風呂へと参りましょう。3階の客室から階段で2階へ下り、案内に従って廊下を進むと、突き当たりにお風呂の暖簾がかかっていました。入浴時間は決められており、夜は22:30まで、朝は6:00から8:50までです(つまり夜通しの入浴は不可)。脱衣室はバックヤードや機械室を改装したんじゃないかと思うほど天井が低くて薄暗いのですが、エアコンが設置されているおかげで、湯上がりには爽快にクールダウンすることができました。


  
まるで昭和にタイムスリップしたかのようなレトロ感たっぷりの浴室。その雰囲気をもたらしているのは、天井の低さと年季の入った窓サッシ、そして浴槽全面に貼られている昔懐かしい豆タイルでしょう。



洗い場にはシャワー付きカランが計7基取り付けられています。この洗い場と出入口の間に、風呂桶を置くための棚が据え付けられているのですが、組み立て式である上に、ちょっと草臥れているのか、棚が全体的に傾いているのはご愛嬌。


 
浴槽は縦長のいびつな台形で、左右の長さ(最長辺)は約3.5m。窄まっている湯口側(上底)の幅は約1.5mで、反対側の広い方(下底)は約2.5mかと思われます。浴槽内は濃淡青系の豆タイルが敷き詰められ、側面は淡い水色、縁上は小豆色のタイルが用いられていました。青系のタイルによってお湯の清らかさが映えていたほか、ブルーとレッドのコントラストが際立ち、クリアに澄んだお湯がなお一層綺麗に見えました。
そのお湯に関しては、岩の湯口からぬるめのお湯が落とされているほか、その直下にある槽内の穴からも熱いお湯が供給されていましたので、おそらく岩の湯口は源泉(というか引湯されてきたお湯)そのままかあるいは多少の加温、そして穴からは入浴に適した温度までしっかりと加温されたお湯が出ていたのでしょう。なお画像を見ると水位が低いように見えますが、これは浴槽の作りのためにそう見えるのであり、実際には入浴に十分な嵩までお湯が張られていました。



浴槽縁の上からお湯がしっかりと溢れ出ており、循環など行われているような様子も見られませんでしたから、放流式の湯使いで間違いないでしょう。こちらのお風呂では温泉街で集中管理している混合泉を引いていますが、見た目は無色透明で湯の花などは見られず、また口に含んでもほぼ無味無臭で、本来感じられて然るべき硫化水素感はほとんど確認できませんでした。貯湯槽でのストックや加温などの過程で、源泉本来の個性が飛んでしまったのかもしれません。しかしながら、トロミのあるお湯に浸かると、ヌルヌル感を伴うツルスベ浴感がはっきりと肌に伝わり、右手で自分の左腕をさすると、その勢いで右手がどこかへ飛んでいってしまいそうになるほど、ツルッツルでした。ローションのようなフィーリングはまさに美人の湯。そのツルスベ感をもたらしている炭酸イオン36.0mgは伊達じゃありません。さすが歴史ある名湯は素晴らしいですね。

限られた温泉資源を各旅館で分け合っている当地にあって、大規模な旅館ではお風呂も大きくせざるをえず、それゆえどうしてもお湯を循環しなくてはなりません。その一方で、こちらのお宿は他の旅館に比べれば小規模ですが、コンパクトだからこそお湯の掛け流しを実現することができるのでしょう。家庭的なお宿ですからサービス面など諸々でハイレベルなものは望めませんが、お湯の良さだけなら大規模旅館を凌駕していること間違いなし。温泉ファン向けの穴場的なお宿でした。


湯本温泉混合泉(市有1号・2号・3号泉、低温泉)
アルカリ性単純温泉 33.0℃ pH9.90 溶存物質0.174g/kg 成分総計0.174g/kg
Na+:35.00mg,
Cl-:12.07mg, SO4--:15.17mg, HS-:0.30mg, CO3--:36.00mg,
H2SiO3:60.84mg,  
(昭和63年12月23日)

JR美祢線・長門湯本駅より徒歩10分(750m)
山口県長門市深川湯本1277-1  地図
0837-25-3914

日帰り入浴については不明
シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
コメント (2)
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