温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯河原温泉 源泉上野屋(日帰り入浴)

2019年07月31日 | 神奈川県

前回に引き続き神奈川県湯河原温泉を巡ります。
今度は千歳川を遡って温泉街へと入り、特に温泉街の中でも老舗が集まる細い路地へ入り込んでみました。今回お邪魔したのは、その路地の最奥にある「源泉上野屋」です。今回は日帰り入浴で利用しました。




創業300年以上という湯河原きっての老舗旅館。なんと徳川光圀も訪れたことがあるんだそうです。
まず訪問者を出迎える昭和11年建築の玄関棟が実に美しく、私はこの唐破風の前で、まるで黄門さまの印籠を見せつけられた悪人の如く、しばし立ち尽くして見惚れてしまいました。なお、この玄関棟につながる本館は昭和5年築。傾斜地形に合わせる感じで建てられた4階層の建築なんだとか。



この他大正12年築の別館と合わせて、大正から昭和にかけて建てられたこれらの総木造の建物は、国に有形文化財に登録されています。



さて、こちらのお宿には貸切露天風呂など複数のお風呂があるのですが、日帰り入浴で利用できるのは1階の内湯のみ。受付開始の午後2時に合わせて日帰り入浴をお願いしますと、快く受け入れてくださいました。帳場の斜め前に暖簾が下げられています。内湯は「六瓢の湯」と名付けられており、「檜風呂」と「御影石風呂」の2室があります。訪問時は「檜風呂」に男湯の暖簾が掛かっていましたので、ここから先は「檜風呂」に関して述べてまいります。なお男女入れ替え制ですから、宿泊すれば両方に入れますよ。



和室然とした脱衣室はコンパクトですが、綺麗にお手入れされており、ドライヤーやアメニティなども備え付けられているので、大人数で押し寄せなければ気持ち良く使えるはず。また扇風機も取り付けられていますから、湯上がり後にはクールダウンも可能です。



内湯もあまり風呂敷を拡げることなく、温泉浴場の要素を凝縮したようなコンパクトな造りです。後述するように自家源泉を完全掛け流しで浴槽へ供給しているため、そのお湯の良さが損なわれないサイズとしてこの浴室の大きさが考えられたのではないかと思われます。



洗い場にはシャワー付きカランが3つあり、アメニティもそろっています。



内湯の浴槽は1つのみ。浴槽の大きさは(目測で)1.8m×3.6mでしょうか。「檜風呂」という名前の通り、縁には檜材が用いられている一方、浴槽内部は丸い豆タイルが用いられています。余計な装置や装飾など一切設けられていませんから、シンプルながら重厚感と温かみを兼ね備えた四角形の浴槽で、湯あみ客は自家源泉100%掛け流しのお湯と正面からじっくり対峙するわけです。
上画像を見るとわかりますが、浴槽向かって左側には湯口が2つあり・・・



窓側は「源泉 冷し湯」。その名の通り、40℃前半まで冷まされた源泉が石の樋を流れて出てきます。コップが置かれていたので飲泉してみますと、まず石膏臭と芒硝臭がコップの中でふんわり香り、その後甘い塩味と石膏味、そして芒硝味がしっかり合わさって舌に伝わってきました。



一方、手前側は源泉そのままのお湯が、石の瓢箪から注がれています。分析表によれば源泉の湧出温度は80℃以上もありますから、そのお湯がストレートに出ているこの湯口のお湯は激熱。直に触ると火傷するかも。なお湯口の形状に関しては上述のように内湯は「六瓢(むびょう)の湯」と称されていますから、その瓢箪を湯口に採用したのでしょう。なぜ六瓢なのかといえば、瓢箪は縁起物であり、かつ「六瓢」と書けば無病に通じるからなんだそうです。

瓢箪のまわりには硫酸塩の白い析出がビッシリ且つコンモリとこびりついており、温泉マニアとしてはその様子を目にするだけでも興奮間違いなし。お湯の見た目は無色透明で一見クセが無さそうですが、この迫力ある析出がすべてを物語っています。すなわち硫酸塩泉ならではのパワーがすごいのです。肩まで湯船に浸かると、ツルツルにトロトロが混在したような滑らか系が優勢な浴感が肌に伝わり、その後に硫酸塩泉的なキシキシ浴感も遅れて感じられるのですが、基本的にはツルツルが優勢。これはpH8.5というアルカリ性に傾いている特徴がもたらす感覚でしょう。滑らかな浴感だからといって迂闊に長湯すると、硫酸塩泉ならではの温浴効果がいかんなく発揮され、体が十分すぎるほど良く温まり、そしてポカポカ火照ります。こちらのお宿の隣にある「ままねの湯」は熱い湯船だから強烈に火照るのですが、こちらは適温にもかかわらず火照るわけですから、これぞ温泉の力以外何ものでもありません。大変パワフルなお湯です。

なお湯使いに関しては既に申し上げているように自家源泉の掛け流しであり、湧出温度がとても高い為、お湯張り時のみ最低限の加水をしているほかは、循環消毒など一切なし。私の入浴時、湯口から落とされるお湯の量は一定せずに増減を繰り返していたのですが、もしかしたら浴槽の水位によって供給量を調整しているのかもしれません。もちろん湯温の調整が目的かと思われますが、湧出量が毎分64リットルと限られているため、その範囲内で掛け流しを実践するための工夫なのかもしれません。

趣きあるお風呂で、鮮度抜群の極上なお湯に浸かれる幸せ。日帰り入浴だけでは却って欲求不満になってしまうかも。一度宿泊してじっくりと堪能したい、実に素晴らしいお湯でした。


台帳番号 湯河原第22号
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 81.5℃ pH8.5 64L/min(動力揚湯・掘削深度363m) 溶存物質1.832g/kg 成分総計1.832g/kg
Na+:425mg(69.54mval%), Ca++:148mg(27.78mval%),
Cl-:582mg(60.34mval%), Br-:1.74mg, SO4--:458mg(35.06mval%), HCO3-:61.6mg,
H2SiO3:114mg, HBO2:9.54mg,  
(平成30年11月13日)
加水あり(湯温調整の為、湯張り時のみ最低限の加水)
加温・循環・消毒なし

神奈川県足柄下郡湯河原町宮上61
0465-62-2155
ホームページ

日帰り入浴1000円
14:00~
ロッカー見当たらず(貴重品帳場預かり?)、シャンプー類。ドライヤーあり

私の好み:★★★


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湯河原温泉 みやかみの湯

2019年07月24日 | 神奈川県
拙ブログでは約10年ぶりに神奈川県湯河原温泉を取り上げます。
今年の春の某日、私は電車に乗って久しぶりに湯河原へ向かいました。というのも、当地に今年(2019年)1月に新しい温泉入浴施設がオープンしたらしく、しかも源泉かけ流しを謳っているので、是非とも行ってみたかったのです。
駅構内にある観光案内所で自転車を借り、温泉街へ向かって漕ぎ出すこと数分で現地に到着しました。



場所は湯河原温泉街よりかなり手前の駅寄りで、千歳川に面しており、西村京太郎記念館が隣接しています。駅前から温泉街へ伸びるバス通りからアクセスする場合は、まずコンビニ(ミニストップ)の駐車場を通り抜けてマンションの裏手に出ることになるので、ちょっとわかりにくいかもしれません。また、上述のように私はレンタサイクルで行きましたが、車の場合はコンビニと共用の駐車場を利用することになり、台数も決して多くないので、そのあたりも少々注意を要するかもしれません。

平屋の黒くてシックなファサードはいかにも当世風。コンパクトながらバリアフリーにも配慮された玄関を入ると、右前方に受付が設けられています。こちらの施設では大浴場のほか、個室の貸切風呂や泥パックサウナやハーブテントなどを利用できるため、入館時に利用したいサービスを選択するのですが、初めての私はよくわからなかったため、スタッフの方にお風呂だけ入りたい旨を告げたところ、LINEで友達登録すると料金がかなり割り引かれると教えてくれました。そこでバッグからスマホを取り出し、受付の前でLINEを起動して実際に友達登録したところ、通常でしたら1500円+税金などで1700円近くになる入浴料が、なんと500円も引かれて1200円になったではありませんか。従いまして、本施設をご利用の際は、是非スマホをご持参くださいね。

さて、受付で下駄箱のカギと引き換えに、ロッカーキーと大小のレンタルタオルを一枚ずつを受け取ります(タオルは専用のバッグに入っています)。なお歯ブラシやカミソリ、ブラシなどの各種アメニティは受付でもらえます。大浴場は1階受付のすぐ目の前。受付カウンターの右が女湯、左が男湯です。

オープンしてまだ間もない施設ですからどこもかしこもピッカピカ。脱衣室は黒基調でシック。洗面台は綺麗ですし、ドライヤーも複数台備え付けられ、コットンパフや綿棒など各種アメニティーもしっかり用意されています。ロッカーは正方形や長方形などいろんな形状があるのですが、それぞれ大きく使いやすいので、ストレスを感じません。総じて清潔感があり、使い勝手も良好です。



外観が決して大きくないことからも想像がつきますが、浴場はあまり大きくありません。限られたスペースの中に複数の浴槽をギュッと凝縮して設えた感じがします。
浴室に入ってまず目に入ってくるのが、上画像のかけ湯と立って使うシャワーです。かけ湯の桝には温泉が張られており、湯口から温泉がチョロチョロと滴り落とされているのですが、本記事の結論から先に申し上げてしまうと、このかけ湯のお湯は、他の浴槽と比べると、温泉としての状態が最も良かったかもしれません。



洗い場にはシャワー付きカランが4基設置されており、各ブースが袖板でセパレートされています。カランはデザイン性の高いものが採用されており、アメニティーもそこそこ高そうな品が用意されていて、そこはかとなくラグジュアリ感を醸し出しています。なおカランから出てくるお湯は真湯です。



内湯にはふたつの浴槽があり、手前の小さな槽は水風呂、奥は循環している温泉に炭酸ガスを溶かした炭酸風呂です。両浴槽とも伊豆青石でつくられており、肌に触れた時の滑らかな感触が寛ぎに一役買っています。
館内の説明によればこの炭酸風呂は湯河原で初めて導入されたものなんだとか。せっかく歴史ある温泉地なのに、お湯の質ではなく炭酸を売りにするのはいかがなものかと首を傾げてしまいましたが、何はともあれ35~6℃というぬるいこのお風呂に入ると、体の副交感神経が優位になり、また炭酸の気泡のよる効果も相俟って、自分の屁理屈など忘れてしまうほどリラックスできました。



内湯からガラスの戸を出ると半露天状態の休憩スペースが設けられ、ベンチがたくさん並べられていました。一般論として、温泉の湯船に浸かっていると体がよく温まって火照るため、湯船から上がってちょっとクールダウンしたくなりますよね。施設によっては休憩できるスペースが全くないお風呂もありますが、こちらの施設は上述のように大浴場のスペースは限られているものの、きちんと休憩用の空間を確保しようと頑張っていらっしゃるので、その発想は立派だと思います。



半露天の休憩スペースを抜けると露天風呂です。
千歳川沿いの道路に面しているため、四方を塀や壁に囲まれており開放感に乏しいのですが、塀越しに川向こうの山の緑を眺められ、空も仰げますから、風と四季を感じながら湯あみを楽しむことができるでしょう。また完全に塀で囲わず、その一部に曇りガラスをはめ込むことにより、閉塞感を払拭しながら明かり採りも兼ねているようでした。



浴槽はL字型。手前側(建物側)の長辺は約4メートル。一方、建物と直角を為す辺の奥行は約3メートル。いずれの辺も幅は1.5mほどです。内湯と同じく浴槽は伊豆青石でつくられています。



湯口からお湯が滔々と落されていましたが、そのお湯は適温より若干低かったように記憶しています。露天風呂の浴槽内には投入口と吸入口がそれぞれ2つずつあり、投入口からはちょっと熱めのお湯が投入されていましたから、湯面の上と下の両方から供給することで湯温を保っているのでしょう。なお吸入口からもお湯がしっかり吸い込まれていました。お湯の排出に関してはこの吸入口のほか、浴槽ステップ部の切り欠けからもオーバーフローがありますので、湯使いとしてはおそらく循環と放流式の併用ではないかと想像されます。なお湯加減は42℃前後でした。

こちらに引かれている温泉は、土肥地区に供給されている混合泉です。湯河原では貯湯および配湯施設をサービランスと称しており、土肥地区のサービランスは貯湯槽1基(300t)、土肥地区配湯設備(配湯先45件)、宮上第2地区配湯設備(配湯先62件)という構成になっているんだとか。詳しくは湯河原町公式サイト「温泉施設紹介」のページをご覧ください。つまり、この施設は土肥サービランスの配湯先の一つなんですね。

お湯の特徴としては無色透明無味無臭と言っても差し支えないほど掴みどころに乏しいのですが、上述のように掛け湯のお湯が最も感触が良く、石膏の感覚があり、また微かな塩味も得られます。いや、それどころか湯船に浸かっているうちにガツンと力強く火照り、いつの間にやら温泉パワーにすっかり逆上せそうになりました。薄くて特徴のないお湯かと思いきや、裡に秘めたる実力は相当なもの。なめてかかってはいけません。

なお館内表示によれば消毒処理を実施しているようですが、特に消毒臭は気になりませんでした。一方、露天風呂について、館内表示などでは掛け流しを謳っていますが、実際には放流式と循環式の併用かと思われ、純粋な掛け流しとは言い難いので、そのあたりの表記には少々戸惑いを覚えます。もしかしたら今回利用しなかった貸切風呂は完全掛け流しなのかな?

(本記事投稿後にコメント欄にて、このお風呂に入られた方から「完全掛け流しと思われた」との情報をいただきました。その時々によって湯使いを変えているのかもしれません)

料金設定が高いために週末でも混雑は起こりにくそうですし、何よりも館内が綺麗で使い勝手が良いので、湯河原でのんびり日帰り入浴して寛ぎたい方にはもってこいかもしれません。朝から深夜まで営業時間帯が長いものありがたいですね。今回の記事では取り上げなかった泥パックサウナやハーブテントなども面白そうです。


混合泉(土肥サービランス)
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 59.6℃ pH8.3 蒸発残留物1.591g/kg 成分総計1.596g/kg
Na+:388mg, Ca++:117mg,
Cl-:573mg, Br-:1.69mg, SO4--:332mg, HCO3-:42.9mg,
H2SiO3:99.0mg, HBO2:8.72mg,
(平成22年3月12日)
加水あり(入浴に適した湯温に調整するため)
加温あり(入浴に適した湯温を保つため)
循環あり
露天:消毒なし、内湯:消毒あり

JR東海道本線・湯河原駅より徒歩17分、もしくは不動滝・奥湯河原行バスで「小学校前」下車徒歩3~4分(路線バスは箱根登山バス伊豆箱根バスの共同運行)
神奈川県足柄下郡湯河原町宮上42-15

7:00~23:00(最終入館受付 22:00)
ホームページ
入浴1500円+消費税(レンタルタオル付)
その他の料金については公式サイトをご参照ください。

私の好み:★★
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馬槽温泉の源泉地帯を歩いていたら…

2019年07月19日 | 台湾
先々月から続けてまいりました台湾シリーズはひとまず今回で一区切りをつけます。ラストは私のちょっとした危ない体験(愚行)を告白し、以て皆様の安全な野湯めぐりにお役立ていただければと思います。
先日の記事で台北市陽明山の野湯「下七股温泉」を取り上げた際、陽明山国家公園エリアでは近年野湯がある場所に対する立ち入りが厳しく規制されるようになったとお伝えしました。現地メディアでも以下のようにニュースで八煙野渓温泉に入ろうとする人たちやそれを取り締まる関係省庁などを取材しています。

揭秘八煙野溪溫泉直擊民眾違法泡湯


無視罰則!八煙野溪太美 民眾私闖挖溫泉



そんな中で台北市と新北市の境界に位置する「下七股温泉」はまだ規制の対象になっていないために、先日拙ブログでご紹介したのですが、単に規制の網から漏れているだけでしょうから、ここもいつ対象になるかわかりません。同じように規制の網から漏れている野湯エリアがもう一つありますので、行ってみることにしました。



その場所とは馬槽温泉の源泉地帯です。陽明山国家公園の真ん中を貫く幹線道路「台2甲線(陽金公路)」を車やバスで走っていると、大きな橋で谷を越える箇所があります。その橋は「馬槽大橋」と称し、橋の上から北側を臨むと彼方に紺碧の北海岸を眺めることができます。



一方、橋の上から南側の山を望むと、凹状に窪んだ谷地の内部にガレと藪がモザイク状に散らばり、あちこちから白い蒸気が上がっているのがわかります。陽明山エリアは全域で地熱活動が盛んですが、この谷もその地熱活動が目に見える形で表れている典型的な場所であり、ここで湧出する温泉は馬槽温泉として付近の温泉施設へ引かれています。
なお谷頭に聳える山を越えた向こう側は拙ブログでも取り上げたことのある冷水坑という場所であり、息を呑む絶景や温泉浴場などが訪れる観光客を楽しませています。



さて私はそんな谷の入口付近へとやってまいりました。立入を禁止する看板が立っていないので、自己責任で奥へ入り、野湯を探してみることにしたのです。谷を流れる川に沿って杣道が続いています。



ぬかるみが続く杣道を進んでゆくと、足元で白濁の温泉が湧出し、小さな湯溜まりを形成していました。こんな湯溜まりがいくつもあるのですが、そのほとんどが小さくてぬるいため、入浴には適していません。来た道を振り返ると「馬槽大橋」が全容を見せていました。



湯溜まり以上にたくさんあるのが火山性ガスの噴出口。噴出箇所の一つ一つにナンバリングされていますので、その全てを監督官庁がチェックしているのでしょう。それぞれの噴出口ではシューシュー音を立てながら、熱くて白い湯気と火山性ガスを噴き上げています。



上画像のように硫黄が黄色い結晶となってしっかりとこびりついている噴出口もあります。



本記事の各画像をご覧になってお気づきかと思いますが、この地熱地帯の谷ではパイプの残骸が無数に転がっており、せっかくの景観を損ねています。言わずもがな温泉を引くために設置され、その源泉が使い物にならなくなって放置されているのでしょうけど、大自然の中で人工物が散乱している光景は、決してほめられたものではありません。一般人の立入を規制するのは理解できますが、こうした一種の産廃の放置も取り締まるべきではないかと思います。

そんなことを考えながら、足元に気を付けつつ、どこか野湯を楽しめそうな場所はないかと谷の中をウロウロしていたら、急に吐き気を催し、気持ちが悪くなって、頭痛や目眩に襲われました。間違いなく硫化水素中毒です。谷に近づいた時には強い硫化水素臭、つまり卵が腐ったような臭いが鼻を突いていましたが、奥へ奥へと進んでゆき、野湯探しに夢中になっているうち、臭いを感じなくなっていました。これは野湯探しに気持ちが奪われていただけではなく、硫化水素濃度が上がって嗅覚脱出が起きていたものと推測されます(濃度が一定以上になると臭いを感じなくなります)。

ネット上で見つけた資料によれば、硫化水素濃度が0.05~0.1ppmで硫化水素独特の臭い(腐敗した卵の臭い)を感じ、50~150ppmまで上がると、今度は一転して嗅覚脱出が起こり、独特の臭気を感じなくなります。更に150~300ppmへ及ぶと流涙・結膜炎・角膜混濁・鼻炎・気管支炎・肺水腫といった中毒症状が発生し、500ppm以上で意識低下そして死亡してしまいます。800 ~1000ppmでしたら一呼吸で即死しちゃうんだとか。
私の場合は、既に嗅覚脱出のラインは超えており、300ppm以下の危険な環境に自ら足を踏み込んでいたものと思われます。症状を自覚した私は、自らの身の危険を感じ、野湯探しはあきらめて、慌ててこの場から脱出し、風通しの良い橋の上でしばらく休んでいました。立入禁止の看板が出ているかいないかではなく、自分の感覚をよく研ぎ澄まして、危険と判断したらその先には入らないという考え方を持つことが重要ですね。温泉マニアのみなさん、特に野湯マニアの皆様。くれぐれも硫化水素中毒には注意しましょう。

こんな自分の失敗談をお話ししたところで今回で台湾シリーズはおしまい。

明日から日本の温泉に戻ります。

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陽明山天籟温泉付近の民泊

2019年07月13日 | 台湾
※今回取り上げる施設は、場所や名称などを具体的に公表して良いか判断しかねるため、念のため、曖昧な表現とさせていただきます。もし詳細を知りたい場合は、本記事にコメントをお寄せいただくか、私個人あてにメールをお送りください。

このブログをご覧の方なら想像に難くないかもしれませんが、台湾にはたくさんの温泉宿があり、庶民派から高級リゾートまで、あらゆるニーズに応えてくれる施設が各地に点在しています。大都市台北の近郊にも多くの温泉ホテルがあり、特に北投温泉は台湾の温泉事情を知らない日本人旅行者の利用も多いようですが、北投の後背に位置する陽明山エリアにも温泉宿泊施設がたくさん営業しており、その一部は大手宿泊予約サイトからの予約も可能です。とはいえ、そのようなサイトからできる予約できる台北近郊の施設は、総じてお値段が高い傾向にあるため、個人旅行者はちょっと躊躇ってしまうかもしれません。かく言う私もその一人であり、いままで何度か台北近郊の温泉ホテルで宿泊を検討したのですが、コストパフォーマンスを考えて敬遠しておりました。

そんな私が2019年3月の旅で利用したのが民泊の"Airbnb"(エアビーアンドビー)。台北から近い場所で温泉に入れる施設を調べたら、大手予約サイトよりも高い料金設定の施設が表示されて驚いたのですが、台北からちょっと離れて金山方面で再検索すると、白濁のお湯に入れ、かつ比較的お手頃な価格で宿泊できる場所を見つけたので、どんなところか興味津々で泊まってみることにしました。

陽明山国家公園の中を貫く陽金公路を北東に向かってドライブ。陽明山の中心部から金山に向かって山を下り、八煙温泉付近で右手へ逸れる道に入り、坂道をちょっと上がると、有名な温泉リゾートホテル「陽明山天籟温泉」があります。アプリ内で施設のホストと連絡をかわした際、まずはこのホテルの前で待っていてほしいとメッセージを受け取ったので、その通りに待っていると、数分後にホスト(※)の女性が車でやってきて、私の車を誘導してくれました。
(※)ホストの女性という表現には不自然さを覚えますが、AirBnBでは物件所有者をホストと呼んでいるため、ここでの表現はホストで統一させていただきます。



「陽明山天籟温泉」の南側には、自然豊かな山の中の静かな環境とは不釣り合いなマンション群があるのですが、私の車はその中へと導かれました。おそらくここは別荘用に開発されたものと思われますが、その中の一室が今回の宿泊先のようです。なお具体的な場所については触れないでおきます。



マンションはメゾネットタイプで、外観から推測すると4~5階建のようですが、私は階段を上がった2階にある扉から入るよう案内されました。玄関から中に入ると、リビングルームが広がり、その先の障子のようなもので隔てられた奥の部屋がホストの方の生活スペースとなっているようです。
リビングルームは宿泊者共有のスペースとして開放されており、本棚には日本語の書籍もたくさん並んでいます。ホストの女性は日本語を学習なさっていたらしく、私とは日本語でお話ししてくださいました。海外旅行先で自分の母国語が使えると、とても安心しますね。



この日私が案内されたのは、2階のこのお部屋(上画像)。オーナーが女性だけあって、枕元にぬいぐるみが置かれていたり、ガラスのフィルムにメルヘンチックなイラストがプリントされていたり、備え付けのマグカップがスヌーピーだったりと、室内はとてもファンシーな雰囲気です。清掃も行き届いており、実に綺麗でした。



水回りも清潔感が漲っており、そんじょそこらのホテルは顔負け必至です。後述する温泉のお風呂のほか、お部屋に付帯しているシャワールームで汗を流すことも可能です。



上述のリビングルームがあるフロアから階段で1階層下った先にあるのが、上画像に写っている温泉露天風呂。当然私はこのお風呂に入りたくて、こちらの施設を予約したのでした。民泊なのに温泉露天風呂に入れるだなんて驚きです。露天といっても周囲は塀に囲まれているため開放感はありませんが、ゆとりのある空間で外気を感じながら温泉入浴できるのですから、それだけでも十分幸せです。



壁には温水シャワーも完備。



浴槽は2つあるのですが、今回使わせていただいたのは、そのうちの一つ。施設内を案内されるとき、このお風呂についても説明してくださいますが、基本的には自分でお湯を調整します。湯口の脇にあるコックを開けて一旦部屋に戻り、30分ほど待ってから再びお風呂へ下りると、いい塩梅で白濁のお湯が浴槽に張られていました。



いい湯だなぁ。
源泉から引いたお湯をそのまま浴槽へ注いでおり、かなり良いコンディションの白濁湯を堪能することができました。馬槽、八煙、焿子坪など、陽明山エリアの北東側には白濁湯の温泉が点在していますが、ここもその典型例であり、ややグレー色を帯びて濁るお湯はマイルドな酸味と砂消しゴムのような硫黄味を有しています。どの源泉からお湯を引いているのかわかりませんが、場所的には焿子坪に近いため、ここのお湯の特徴は焿子坪に似ているような気がします。湯加減を自分で調整できるため、私はちょっとぬるめにして、じっくりと長湯を愉しみました。

私は夜と朝、それぞれ一回ずつ白濁湯に入らせていただきました。良いお風呂に入れるひと時ほど、幸せを感じる瞬間はありません。ホストの方は笑顔が素敵な明るい方で、滞在中は不便が無いようにいろいろと配慮してくださいました。お部屋は綺麗、ホストの方は明るく親切、そして白濁の硫黄泉に入れちゃう…。とても満足度の高いお宿でした。


路線バスでアクセスする場合は皇家客運1717バスの「金山農場(天籟溫泉會館)」で下車することになるかと思いますが、具体的にはアプリで当施設を見つけ、ホストの方にお問い合わせください。

新北市金山區山城路

詳しくはAirBnBで「新北市金山」エリアの施設(天籟温泉付近)を検索してください。
なおこちらでの宿泊をご検討の場合、付近には商店が何も無い為、食事や宿泊中の軽食(飲料)などは事前に調達しておくことをお勧めします。

私の好み:★★★
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新北市金山区 磺港公共浴室

2019年07月07日 | 台湾

前回記事で取り上げた新北市金山区の漁港にある温泉共同浴場「南屏公共浴室」から数百メートル移動して、ちょっとだけ街の方へ戻ってまいりました。
上画像で路肩に駐車している白い車は私が借りていたレンタカー。道をまっすぐ奥の方へ進んで「磺港大橋」を渡ると金山の漁協や温泉リゾートホテルがあり、橋の手前の丁字路を右折すると、前回記事の「南屏公共浴室」がある漁村集落に向かいます。



その丁字路や「磺港大橋」の傍にある温泉共同浴場「磺港公共浴室」で入浴することにしました。「南屏公共浴室」と同様の意匠により制作された看板が通りに面して立っていますので、現地に来れば迷うことなくこの浴場を探し当てることができるでしょう。
私はこちらの浴場にいままで何度か足を運んでいるのですが(2010年に訪問した時の記事はこちら)、訪れる度に浴槽のお湯が抜かれた状態になっており、入浴することができなかったのです。そこで今回はしっかり下調べをし、お湯の張られている時間帯に訪問しました。



浴場のまわりは公園として整備されており、以前は足湯が設けられていたのですが、訪問時(2019年3月)は園内工事のため、足湯など公園の設備は撤去されていました。



園内の植え込みには源泉施設があり、小さな躯体でカバーされているのですが、工事のためか老朽劣化なのか、温泉の熱いお湯が施設の箱から植え込みの中に大量に漏れ、道路の方まで垂れ流されていました。上画像を見ますと、植え込みの土の上で白い湯気が濛々と上がっており、お湯が排水溝のグレーチングへ落ちている様子がおわかりになるかと思います。あぁ、もったいない。



園内には木造の小屋が2棟並行に建っているのですが、奥へ並列になっているため、正面から見ると1棟しか建っていないように勘違いしてしまいます。上画像をご覧ください。ここには1棟しか写っていませんが、この裏手にほぼ同じサイズの建物が隠れています。なお正面に建つこの建物はトイレです。



トイレの裏手の建物が湯屋。男女別に入口が分かれています。



金山エリアにある他の温泉共同浴場と同様にこちらも無料で利用できますが、利用時間は朝と夜の1日2回と決められており、昼間と真夜中はお湯が抜かれちゃいます。詳しくは上画像、もしくは本記事の下部にてご確認ください。



浴室は至ってシンプル、というか簡素。ドアの無い入口から中へお邪魔すると、いきなり浴槽が視界に飛び込んできます。そしてこの浴室の壁際に棚が括りつけられており、その場で着替えてすっぽんぽんになります。台湾の古い共同浴場にはありがちな構造なのですが、浴槽や洗い場と更衣ゾーンが接近しすぎており、また床も同じレベルでスノコすら敷かれていないため、足元がビチャビチャの中で着替えることになります。土足で入ったその場で着替え、その場で掛け湯をするといった感じですので、衛生面に神経質な方は眉を顰めてしまうかもしれません。



湯船は深い造りなのですが、訪問時は半分しかお湯が溜まっておらず、若干寝そべる形で湯浴みしました。また水道の蛇口以外にカランが無いため、綺麗なお湯で掛け湯したければ、奥にある湯口の傍まで移動し、湯口から直接お湯を汲まなければなりません。
前回記事でも述べましたが、金山エリアの温泉は、金気を含む黄土色の濁り湯か、しょっぱくて酸味も強い酸性泉のいずれかに分かれますが、こちらのお湯は前者に属し、浴槽のお湯は強く黄土色に濁っています。またお湯が流れる床や飛沫が着く壁などは赤茶色に濃く染まっていました。塩化土類泉系のお湯と思われ、金気と土気が強い湯中ではキシキシと引っかかる浴感が得られ、肌の皺の奥までお湯が入り込んでくるような感覚を覚えます。循環や消毒など無い放流式の湯使いですが、湧出温度が高い為、残念ながら湯口のお湯を出しっぱなしにすることができず、実質的には加水した上での溜め湯状態となっています。

訪問時はおじいちゃん2人が全身を石鹸の泡だらけにしながら垢を落としていましたが、その泡を湯船に入れちゃうは、室内の隅っこに痰を吐くは、挙句の果てには全裸のまま銜えタバコで佇むはで、正直良い気分で入浴することができませんでした。近年の台湾は公共マナーの意識が飛躍的に向上しており、感心させられることも多いのですが、昔からの住民が利用しているこの施設では、そんな時代の潮流なんてどこ吹く風で、いまだに蒋経国時代の感覚が残っているのかもしれません。
その一方で、おじいちゃんたちが去った後は、明らかに他所者と思しき風貌の若くて大人しそうな男性がやってきて、室内をキョロキョロしながら入浴にチャレンジし、公共浴場を楽しんでいました。
この温泉浴場は、いろんな時代の、いろんなお客さんを、懐広く受け入れているのですね。



新北市金山区磺港路208号

夏季(6月1日~10月末)→5:00~9:00、17:00~21:00
冬季(11月1日~5月末)→5:00~9:00、16:00~20:00
無料
備品類なし

私の好み:★★
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