温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

吹上温泉 みどり荘 後編(露天風呂)

2016年01月31日 | 鹿児島県
前回記事の続編です。
私は内風呂で十分満足したのですが、自分の貪欲な性分がさらなる高みを求めたので、続いて露天風呂にも入ってみることにしました。


●露天風呂
 
男湯女湯ともに内風呂と露天風呂との間が離れているのですが、着替えて移動しなければならないほど隔たっている女湯とは対照的に、男湯は内風呂からすぐ目の前に露天風呂がありますので、タオルで前を隠し、下足場に用意されているツッカケを履いて、小走りで露天風呂へと向かいました。このため私の荷物や衣類は内湯の脱衣室に置きっ放しなのですが、もちろん露天風呂にも脱衣小屋はあり、東屋のような造りの脱衣小屋にはカゴや各種説明など簡単な備品が用意されていました。


 
池畔に設けられた露天風呂は、周囲の緑に囲まれてとっても麗しい雰囲気。足元は石材敷きで、浴槽も石造り。重厚感を帯びながら優しい表情も見せるこれらの石材からは、石工の職人気質が伝わってくるようです。浴槽は4m×2m弱の長方形でおおよそ6~7人サイズ。入浴すると目の前に広がるみどり池を一望することができました。


 

前回記事の内湯に関する記述で触れましたが、露天風呂では石鹸やシャンプー類の使用を控えてほしいとのこと。シャワーなどもありませんが、その代わり上画像の上がり湯がありますので、入浴前にこのお湯を浴びましょう。この上がり湯は、内湯のお湯と同じように淡い黒色を帯びていて、湯中では黒い湯の花がユラユラしており、槽の内部は漆塗りのような漆黒に染まっていました。


 
露天の主浴槽にお湯を注ぐ湯口の上では、親子と思しき大小のカエルが、ひょうきんな面持ちで横になっていました。浴槽の大きさに対して投入量がやや少ないような気もしますが、加水など無し湯加減を調整するにはむしろちょうど良い塩梅であり、特にこの時は一番風呂だったため、非常に鮮度感が高いクリアなお湯を楽しむことができました。湯使いは文句無しの完全掛け流しであり、浴槽縁の切り欠けから惜しげも無く排湯されていました。

内湯に引かれていたお湯は町から供給されるお湯と自家源泉のブレンドでしたが、露天風呂は100%自家源泉であり、淡い深緑色を帯びた内湯と異なり、この露天のお湯は淡い翠色を呈しながらも高い透明度を有していました。湯口のお湯を口に含んでみますと、はっきりとした硫黄感が伝わってきましたが、一方で苦味は抑えられており、硫黄感も内湯に比べればややマイルドだったように記憶しています。露天に引かれている自家源泉は、総じて優しい質感であり、内湯よりも上品な印象を受けました。もちろん内湯と同じくツルツルスベスベの非常に滑らかな浴感はこの露天でも堪能でき、庭木の緑と水辺の景色に包まれながら、この滑らかな極上湯に浸かっていると、本当にいつまでも湯浴みし続けていたくなります。退出の際に後ろ髪を強く惹かれる素晴らしいお風呂でした。今回は旅程の都合で立ち寄り入浴のみとなってしまいましたが、次回はちゃんと宿泊して、じっくりとこの名湯を堪能したいものです。再訪必至の素晴らしい温泉でした。


内湯
吹上21号
単純硫黄温泉 36.4℃ pH9.0 溶存物質318.3mg/kg 成分総計318.6mg/kg
Na+:68.5mg(77.81mval%), Ca++:7.1mg(9.14mval%), Fe++:5.9mg(5.48mval%),
Cl-:18.6mg(12.29mval%), OH-:0.2mg, HS-:12.1mg, S2O3--:1.4mg, SO4--:33.5mg(16.55mval%), HCO3-:103.7mg(40.19mval%), CO3--:15.0mg(11.82mval%),
H2SiO3:36.2mg, H2S:0.1mg,

露天風呂
吹上23号
単純硫黄温泉 59.8℃ pH9.0 溶存物質359.8mg/kg 成分総計360.3mg/kg
Na+:82.3mg(92.27mval%), Ca++:2.6mg,
F-:12.0mg, Cl-:30.7mg(16.83mval%), OH-:0.2mg, HS-:30.1mg, S2O3--:1.0mg, HCO3-:123.3mg(39.07mval%), CO3--:21.0mg(13.54mval%),
H2SiO3:45.3mg, H2S:0.3mg,

鹿児島県日置市吹上町湯之浦910  地図
099-296-2020
ホームページ

日帰り入浴10:00~19:30
600円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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吹上温泉 みどり荘 前編(内湯)

2016年01月30日 | 鹿児島県
 
今回から鹿児島県薩摩地方の温泉を巡ってまいります。まずは日置市吹上温泉の名湯であり、「日本秘湯を守る会」の会員宿でもある「みどり荘」から。石畳が敷かれた正面入口では、明治45年に創業した当時のままの姿を残す屋敷門がお出迎え。


 

門を潜った先にある受付棟で日帰り入浴をお願いします。と言っても受付には券売機がありますので、この機械で料金を支払い、券をカウンターへ差し出すだけでOK。私のような一見はもちろん、回数券を発行しているほど日帰り入浴welcomeなんですね。みどり池を中心にして広がる園内にはいろんな棟が池畔に沿って点在しており、池を周回する遊歩道が各棟を結んでいます。


 
客の姿を見つけては餌をねだるアヒル達を横目にしながら、池畔の小径を歩いて浴場棟へと向かいました。


●内湯
 
お風呂は内湯と露天風呂(宿泊客は家族風呂も利用可)があるのですが、両者は離れていますので、拙ブログでも別々に取り上げさせていただきます。私がはじめに利用したのは内湯棟です。男女両内湯の入口にそれぞれ家族風呂の扉も並んでいました。つまり家族風呂は2室あるってことですね。


 
出入口の扉に手を掛けようとした時点で、辺りに漂う硫化水素臭に気づきました。浴室の外まではっきりと香ってくるんですから、浴室の中では余程強く嗅ぎ取れるのでしょう。期待に棟を膨らませながら脱衣室へお邪魔します。ウッディーな室内は綺麗に整頓されており、ロッカーや扇風機、ドライヤーなどひと通りの用具類もきちんと備わっていました。
この室内で目を引くのが、壁に掲示されているFAQ。入浴客がこの温泉に関して抱くであろう疑問に答えており、例えば「石鹸・シャンプーがないのはなぜ?」という問いに対して、「良質の天然温泉には垢を洗い落とす成分があり、湯につかるだけで洗浄できるほど」であるため、また「自然を守る為、良質の温泉をお肌で感じて頂くため」に、露天風呂では石鹸・シャンプーの利用を控えてほしい、と説明されていました。また「室内大浴場と露天風呂の泉質の違いは?」という湯めぐりを趣味とする私にとっての大きな関心事に対しては、室内大浴場(および家族風呂)は町から供給されるお湯と自家源泉のミックスであり、露天風呂は自家源泉のみである、おすすめは自家源泉のみの露天風呂である、という自信満々の返答が記されていました。それだけ自分の源泉に誇りを持っているのですね。ますます楽しみになってきましたので、一秒でも早くお湯とご挨拶するため、さっさと素早く脱衣して浴室へと向かいます。


 
大きな窓からみどり池を一望する開放的な浴室は、この景観を眺望しながら湯浴みするという一点に全神経が注がれているような造りでもあり、余計な飾りなどがないためか、明るく開放的でありながらも落ち着きを感じさせる空間です。もちろん室内にはイオウ由来のタマゴ臭が充満しており、温泉情緒をより高めてくれました。


 
大きな窓に面して据えられた横に長い浴槽は、目測でおよそ8m×3mの石板張り。ちょっと離れて浴槽を見ますと、まるで池と同化しているかのようです。槽内の石板の表面は、温泉に含まれる硫黄と鉄分が結合した硫化鉄が付着するためか、黒く染まっているように見えました。また浴槽のお湯は基本的に無色透明ですが、湯中では半透明の膜状のものや黒いものなど、数種類の形状をした湯の花が舞っており、これによってお湯自体も若干深緑色を帯びているように見えました。


 
 
池とは反対側に洗い場があり、お湯と水のカランのペアが計6組並んでいました。どのカランも硫化のため黒ずんでおり、硫黄泉であることをビジュアル的に実感させてくれます。お湯のカランを開栓すると、ほんのり黒くてぬるめのお湯が出てきました。このお湯からは硫化水素の匂いがはっきりと漂ってきましたから、カランのお湯も源泉使用なんですね。なお上述のようにお宿では石鹸類の使用をすすめていませんが、どうしても使いたいお客さん向けに、秘湯を守る会オリジナルの「秘湯くまざさ」アメニティシリーズが用意されていました。


 
浴槽へお湯を注ぐ湯口はふたつあり、いずれも白や黄色の結晶がビッシリとこびりついていました。この湯口や湯面から放たれる香りは上述のようなタマゴ臭なのですが、より細かく表現すれば、ちょっと焦げたような感じも混じっており、チオ硫酸インを多く含むアルカリ性泉にありがちな、深くて濃いタマゴ臭が存在感を主張しているように思われます。また味覚に関しては、はっきりとした苦味を伴うタマゴ味が得られました。湯船に浸かるとツルツルスベスベの非常になめらかな浴感が得られましたので、浴中は何度も自分の肌を摩ってその滑らかさを楽しみ、あまりに気持ち良い浴感と落ち着いた入浴環境、そして芳醇なタマゴ臭が相まって、湯船から上がるのがためらわれるほど、実に素晴らしい湯浴みを堪能できました。

内湯だけでも極上なのですが、つづく露天ではどのようなお風呂に出会えるのでしょうか…。

後編につづく
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2016年1月 台湾総統選を野次馬的に「観光」

2016年01月28日 | 台湾
※今回の記事に温泉は登場しません。あしからず。

既に各メディアで報道されているように、今年1月16日に行われた台湾の総統選挙では、民進党の蔡英文氏が国民党の朱立倫氏にダブルスコア近い大差をつけて勝利し、同時に行われた立法院(日本の国会)議員選挙でも民進党が単独過半数を獲って、8年ぶりの政権交代は、ねじれのない民進党の圧勝、国民党の惨敗で幕を下ろしました。

この選挙が行われた日の前後数日に私は台湾を訪れ、いつものような温泉巡り等の観光を楽しみつつ、そのついでに、毎度お祭り騒ぎのような盛り上がりを見せる台湾の選挙運動の様子を、野次馬根性で簡単にウォッチングしてみました。しかしながら結論から申し上げれば、選挙運動が禁止される投票当日はもちろんのこと、本来なら盛り上がってしかるべき投票前夜や前々夜でも、「本当に選挙やるの?」と首を傾げたくなるほど、街中でも地方でも盛り上がりに欠け、ごく普通の日常とあまり変わらないような光景が広がるばかりでした。いや、もちろん選挙事務所へ行けば、いつもようなどんちゃん騒ぎが繰り広げられ、まるでライブ会場のような熱狂が渦を巻いていたはずなのですが、普通に街を歩いているだけでは、その熱気がほとんど感じられませんでした。これは、台湾の民主主義が成熟して冷静な選挙を志向するようになってきた証なのかもしれませんが、結論が誰の目にも明らかで、活動するだけ無駄だったという、ある種の諦め(あるいは楽勝)ムードが台湾中を覆っていたからかもしれません。
選挙に関する分析や今後の政局など、詳しいことは専門家におまかせするとして、あくまで一介の外国人が適当にまわって見聞しただけの野次馬的「観光」としての選挙を、今回の記事で取り上げさせていただきます。もうニュースとしての旬は過ぎてしまいましたが、あくまで一個人の旅行記としてお付き合い下されば幸いです。


●台北の街 選挙2日前
 
 
私が台北の街に降り立ったのは、選挙が行われる2日前のこと。松山空港からMRTを乗り継ぎ、連日冴えない天気が続いて南国らしくない肌寒さが続く台北の中心部をウロウロしていたところ、台湾選挙ではおなじみの、大きな広告が随所で目につきました。例えば、通りを走る路線バスの車体には、候補者の名前と上半身をプリントしたラッピング広告がデカデカと貼られていましたし、交差点など目立つ場所では候補者の名前がまるで隙間を埋めるかのように貼り出されていました。上画像に写っているバスの中扉には、作り笑いを浮かべる国民党の総統および副総統候補である朱立倫と王如玄が大きく写っており、その左に今回の国民党のキャッチフレーズである"ONE TAIWAN"の文字が躍っていますね。
とにかく目立つことに命を懸けるのが台湾の選挙。台北アリーナ前の斜前に立つショッピングモール「微風南京」では、建物の交差点側をほぼ全て覆い尽くす形で、巨大な広告が掲示されていました(右下or最下の画像)。これは「選挙に行こう」キャンペーンではなく、親民党の広告です。どの陣営も広告に莫大な資金をつぎ込んでいるのですね。
このように広告自体は相変わらず派手でしたが、しかしながら、どの街を歩いても、肝心の街宣活動が繰り広げられていなかったのです。ま、事前にちゃんと調べて、しかるべきタイミングでしかるべき場所に行けば、テレビで報じられているような熱狂的なフィーバーを目にできたのかもしれませんが、台北の街はなかなか広く、そこまでのリサーチ力と行動力が無い私には無理な話でした…。


 
日が暮れて帰宅する通勤者が街に出てくるタイミングで、ようやく選挙運動をする辻立ちの姿がチラホラと現れ始めました。また、私が夕食を食べていた庶民的な食堂では、運動員が各テーブルを回ってチラシとポケットティッシュを配っており、一介の旅行者且つ外国人である私も調子に乗ってそれを貰ってしまいました。地元選挙区で団扇をあげた程度で公選法に抵触してしまう日本とは異なり、こちらはとにかく粗品(選挙事務所にいけば軽食)を配って、少しでも有権者の印象に残ろうと必死の攻勢をかけてくるのです。私の記憶が確かならば、台湾の選挙においては一品当たり30元(日本円で約120円)を超えない範囲内で、グッズの無料配布が許されているはずです。


●民進党・蔡英文の本部
 
台北駅から程近い、北平東路の通り沿いにある民進党・蔡英文陣営の選挙事務所(本部)へ行ってみることにしました。上述のように決戦直前である投票2日前に訪れたのですが、既に勝利を確信していたのか、早くも本部前の通りを車両通行止にして道路を封鎖し、大きな仮設テント及びステージの設営が行われている真っ最中でした。また通りを挟んだ反対側では報道クルーもカメラをセッティング中でした。でも決戦間近だというのに、本部の前にはひと気があまりなく、本当にここが優勢の伝えられている候補者の本部なのかと疑いたくなるほどでした(尤もこの時、蔡英文陣営はキャラバンを組んで、南から北へ台湾を縦断していたのですが・・・)。


 
既に一部の仮設テントは組み上がっており、内部でさらなる準備が行われていました。そんな民進党一色に染まったエリアにもかかわらず、仮設テントの目の前の路地には、対抗する他政党の広告も堂々と掲示されているのですから、その意地らしさは微笑ましくもあります。


 
さてさて、実際に本部の中へと入ってみましょう。民進党のカラーである緑色を基調とした館内は、映像資料や印刷媒体などで公約をアピールする党のPRスペースになっており、私のような部外者を含め、誰でも自由に入場可能です。画像を見ますとテレビのカメラが写っていますが、実際に館内では若い有権者に対して取材が行われていました。上述にて、国民党のキャッチフレーズフレーズは"ONE TAIWAN"であることに触れましたが、対する民進党は"LIGHT UP TAIWAN"でした。何気ない文言ですが、国民党の方は、世論の対立を承知の上でそれでもひとつにまとめあげるべきだとする主張が伝わってくる一方、民進党は「台湾は台湾として輝くのよ」という主張がコピーの向こうに見え隠れしているようでした。



一人の日本人として見逃すことができなかったのが、この必勝ダルマです。日本の選挙事務所には欠かせないグッズですが、まさか台湾の地でこれを目にするとは思いませんでした。内側はもちろん外側からもよく目立つ、本部内の通り側に置かれていたのですが、これって日本に対する何らかのメッセージだったりするのかな?
説明によれば、これは蔡英文が昨年10月に東京を訪れた際、在日本の台湾人が主催した晩餐会で寄贈されたものなんだとか。この記事を書くにあたって調べたところ、10月6日に永田町・キャピトル東急の大宴会場「鳳凰」で在日台湾同郷会主催の「蔡英文氏を励ます会」(会費\30,000)が催されていますので、おそらくその会で手渡されたものなのでしょう。まだこの日は選挙前でしたので片目状態ですが、おそらく16日夜の勝利宣言後に右の目も黒く塗られたことと思います(説明にも勝利の暁には両目を黒く塗ると書かれていました)。
余談ですが、キャピトル東急が会場となった理由は、単に蔡英文の宿泊先が同ホテルであったからだと思われるのですが、この会の2日後である10月8日、まだ蔡英文が滞在していた同ホテルへ、実弟や山口県関係者との会食のためにやってきたのが安倍首相。おそらくこの際に両者は秘密会談を持ったと推測されていますが、会ったことを表立って公表してしまうと中国がうるさいので、一応表向きには、両者がたまたま同じタイミングで同じホテルに居合わせただけ、ということになっているそうです。このダルマの左目はそうした動向を見ていたのでしょうか。


 
ところで、私がこの本部へ行ってみようと思い立ったきっかけは、昨年大晦日に出た毎日新聞の「民進党・蔡主席グッズ人気 カップ、Tシャツ、枕…」という記事です。基本的に私はノンポリですし、他所の世界の政治に関してあーだこーだ言う筋合いもありませんので、別にどちらかの陣営を応援するつもりは無かったのですが、昨年の時点で既に蔡英文の勝利は誰の目にも明らかでしたから、私も勝ち馬に乗って物見遊山の気楽な気分で、今しか買えないグッズを入手してみようと思い立ったのです。
グッズ売り場は選対本部の奥にあり、その名も「小英商號」。日本語っぽく訳すと「英ちゃんショップ」になるのでしょうか。当たり前ですが、店内には蔡英文グッズが所狭しと陳列されており、ここだけは客もスタッフもたくさん集まってヒートアップしていました。


 
 
上画像が販売品であるグッズの数々。かつての原宿などで見られたタレントグッズのお店を彷彿とさせますが、下北沢か自由が丘あたりの雑貨屋さんみたいに小洒落ており、とてもここが選対本部だとは思えません。蔡英文は猫が好きとのことで、猫に絡めたグッズもたくさんありました。一部では、独立志向を表面化させたら選挙にも当選後の政権運営にも不利なので、その志向を隠している、猫を被っているその猫のことだ、などと揶揄する見解もあるそうですが、果たして実際はどうなのでしょうか。
文具から衣類・生活雑貨など実に多種多様のものがグッズ化されていたのですが、でも単なる物販ではなく、候補者や党に対する献金も含まれているのか、一つ一つの値段が高く設定されており、各グッズを複数買い込むことは躊躇われました。どれを買おうか迷っていたところ、蔡英文に猫耳をつけて萌えキャラ化した気持ち悪いちょっと変わったデザインのグッズ(ディスプレイ用のクリーニングクロス)を見つけたので、今回は敢えてその気味悪い風変わりなものを買ってみました(右or下画像)。どうやら民進党としては、萌えキャラを好むような一部の若者を取り込むべくこのようなキャラを作り出したらしいのですが、その効果はよくわからず、実際のところは空回りだったようです。盤石と思われていた民進党でも、細かいところをみていけば、いろいろと迷走していたようですね。そんなことをしなくても、台湾の若者は民主主義に対して誠実であり、みなさん期末試験を控えていながら、きちっと本籍地のある故郷に帰って一票を投じていたのでした。


●桃園市街
 
翌日予定していた秘湯巡りに備えて、その日の晩に桃園市へと移動しました。ちなみにその秘湯については、またいずれこのブログにて紹介させていただきます。
橋上駅舎化されたばかりの台鉄桃園駅前では、帰宅する通勤者に対して、各党の運動員が粗品のプレゼント攻勢を繰り広げていました。


 
交差点など目立つ場所は立候補者の幟、看板、横断幕などで埋め尽くされていました。このような光景は桃園だけでなく、台湾全土でも同様です。でも、こうした静的且つ物質的な盛り上がりこそ見られるものの、台湾の選挙名物であるお祭り騒ぎは、どこへ行っても全く見られませんでした。どんちゃん騒ぎを期待していた私としては、かなり拍子抜け・・・。


●山間部や農村部
 
秘湯を目指すついでに、都市部から離れた田舎の様子もちょっと見てみましょう。翌朝、私は桃園市街でレンタカーを借り、桃園と宜蘭の境界付近にある山奥の秘湯を目指していたのですが、その道中の山間部でも、路傍には広告がデカデカと掲出されていました。左(上)画像は台7線(北横公路)の桃園市復興区界隈。市街地からはかなり離れた山間部なのですが、にもかかわらず沿道にはデカイ広告が連続して立てられていました。山の美観も景観もあったもんじゃありません。ちなみに右(下)画像に写っている10番の女性は、原住民枠で立候補しているタイヤル族出身の高金素梅候補。彼女の言動については毀誉褒貶があり、どんな言動をしているかはここでは触れませんが、ま、台湾にもいろんな人がいるんだと思い知らされる人物であります。


 
さらに山道を車で進んで行くと、山しかない場所なのになぜか渋滞中。この渋滞の先頭では、当地の立法院議員立候補者やその支持者達が車列を組んで大行列をなしていたのでした。追い越しができないほど長蛇の列を組み、しかも見通しの悪いワインディングをチンタラ走るものだから、いくら交通量が少ないとはいえ、後続が次々に詰まっていってしまうのです。
いつまでもこの車列に付き合っていられないので、先が見通せるところでアクセルを踏み込みこの車列を追い抜かしたところ、私の車のすぐ後方でバンバンと爆竹が爆ぜる音が響きました。図らずもこんな山奥で台湾選挙の洗礼を受けてしまったわけですが、この爆竹も台湾の選挙には欠かせないアイテムですから、選挙の盛り上がりを期待していた私にとっては、寧ろ願ったり適ったりの出来事でした。


 
ところかわって、こちらは台湾中部の南投県埔里近郊に広がるマコモダケ水田です。南投県は伝統的に国民党が強い地域であり、今回の選挙でも国民党が優勢を保った数少ない選挙区となりましたが、水田の畦道や電柱などあちこちに国民党や同党の立法院議員候補である馬文君氏の横断幕・広告等が掲示されていました。でも面白いのが、必ずと言って良いほど、その近くに国民党批判の広告も張り出されているところ。右(下)画像の幕には青天白日ロゴがプリントされているので、一見すると国民党の広告に見えますが、文章をよく読めば「(南投県選挙区の国民党立候補者である)馬文君と、(支持率が低い)馬英九は同じ一族だぞ。馬文君を支持することは、すなわち馬英九をも肯定することになるんだぞ(それでもいいのか)」という脅し文句が書かれているように、この幕は民進党陣営が掲出したものでした。日本でこんなストレートな表現をしたら問題になっちゃいますよね。こうして張り合っちゃうところが実に面白い。


●選挙翌日の新聞
台湾では本籍地のあるところで投票することになっています。このため選挙前日は、投票の帰省をするため、各交通機関が大混雑。バスや鉄道などの座席はほぼ満席状態となり、各高速道路や主要幹線道でも渋滞が発生していました。それだけ台湾のみなさんは老若男女を問わず選挙に対して真面目なのですね。どこかの国の国民のように、行政サイドがどれだけ譲歩しようとも、いろんな言い訳を口にしてちっとも投票にいかず、そのくせ上から目線で文句ばかり垂れ続けるような、民主主義を愚弄する態度はとらないのです。

投票当日は朝からテレビ各局が出口調査の結果などを元に開票速報を伝えており、私もテレビやネット中継などで注視していました。日本ではアナウンス効果を避けるために、投票締切(午後8時)を待ってから各社一斉に予想を出しますが、台湾では投票真っ最中の朝から予想をバンバン出していました。特に予想公表による世論誘導などは考慮されていないようです。
午前中は予測が拮抗している選挙区もあったものの、投票の締切時間(即日開票)である午後4時を回る頃には既に大勢が判明し、昨年の時点から蔡英文の優勢が伝えられていた総統選はおろか、情勢がどうなるかわからなかった立法院議員選挙ですら民進党が単独過半数の議席を獲得。高雄や台南では国民党が議席を失う事態となり、既に報じられているような民進党の快勝、国民党の歴史的な惨敗となったのでした。

なお選挙当日、私は台湾中部の中規模都市にいたのですが、国民党の力が強い地方だからか、選挙が行われているような雰囲気が全く感じられず、むしろ標高3000mを超す合歓山の上の方で積雪があったからそれを見に行こうとする観光客が騒いでいるような状況で、テレビで報じられているような台北の熱狂は、少なくともこの地方の街には全く届いていませんでした。選挙の盛り上がりを期待していた私としては、ちょっとガッカリ…。


 
選挙翌日の17日に、コンビニで台湾4大紙のうちシェア上位2紙を購入しました。左(上)画像は「自由時報」、右(下)は「アップルデイリー(蘋果日報)」です。笑顔で手を振る蔡英文が、両紙の一面でドデカく躍っています。各紙とも選挙報道に多くのページを割いており、台湾初の女性総統の誕生、そして民進党の躍進を大々的に伝えていました。「蘋果日報」の「狂勝」という表現はなかなかキャッチーですね。


 
一方、左(上)画像は「蘋果日報」2面に掲載されていた国民党のゴメンナサイ広告。しょんぼりしている国民党候補の朱立倫の横顔とともに「私の努力が足らず皆さんを失望させてしまった」という言葉で始まる反省コメントが記されていました。ものすごく切ない構図ですけど、でも翌朝の新聞に掲載されたということは、この新聞の締め切りに間に合うよう、敗戦の広告原稿が事前に用意されていたということでしょうか?

この反省広告で寂しい表情を浮かべている朱立倫ですが、彼はちょっと貧乏くじを引いちゃった部分があり、且つ、昨年春の立候補者選定時点でグズグズしたツケが回って、なるべくしてなったような気もします。というのも今回の総統選において、国民党は当初、女性の洪秀柱を公認候補にしていましたから、蔡英文との女性対決になると目されていたのですが、この洪おばちゃんは中国との統一志向が強く、いずれ台湾は中国と一緒になるのよ、という類の発言を繰り返したため、このままだと選挙に勝てないと判断した国民党は、昨年10月に土壇場のところで、洪おばちゃんを無理やり公認候補から引きずりおろしました。でも国民党にとって負け戦になるのが明白なこの総統選で、好き好んで敗戦処理を名乗り出るような立候補者が現れず、党内の有力者が「お前がやれよ」「お前こそやれよ」と牽制し合っている中、仕方なく手を挙げたのが国民党主席であり新北市長も務めていた朱立倫でした。主席という立場だとはいえ、これってほとんどダチョウ倶楽部の上島竜兵状態です(右or下画像)。ギリギリのタイミングで止むを得ず代替候補者となったこの朱立倫も、以前「新北市長の職を辞してまでして、総統選には立候補しない」と発言した経緯があるため、世論は朱氏の言行不一致を見逃さず、足並みをそろえて再出発しようという朱氏の掛け声も虚しく響くばかりで、情勢を挽回することなんてできず、予想通りに国民党の敗戦となったわけです。私は特定の政治思想を持たない野次馬の外国人と言いつつ、どちらかといえば泛緑の方に肩入れしたいような考えを持っているのですが、今回ばかりは朱立倫にちょっぴり惻隠の情を抱いてしまいました。


●選挙4日後
 
選挙の4日後、台湾各地を巡っていた私は、帰国のため再び台北の地に戻ってまいりました。帰国前に私の好きな水餃子の店に立ち寄るべく、林森北路を歩いていたのですが、道中からちょっと寄り道すれば民進党本部なので、熱狂の後はどうなっているのか、その様子を確かめに行ったのです。熱しやすく冷めやすい台湾人気質だからか、あるいは肌寒く冷たい雨が降っていた平日の昼下がりだったためか、圧勝の熱狂が過ぎ去ってからまだ間もないのに、民進党本部前は至って静かで、不気味なほど平穏でした。
この本部前には中央芸文公園の大きな広場が広がっており、選挙当日はここに万単位の支持者が集まったわけですが、私が再び訪れた時、広場はガランとしており、宴の後と言うべき静寂に包まれていて、本部の表通り側もシャッターが閉められていました。ということは、もう本部で蔡英文グッズは買えないのかな?


 
本部の前ではテレビ局の中継車が待機中でしたが、特に蔡英文が出てくるような気配は無かったので、さくっと見学した後、私はさっさと水餃子屋さんへ向かいました。

私が「観光」として見てきた台湾の総統選は以上のような感じです。一言でいえば、総じて意外にもおとなしい選挙でした。しかしながら、台湾の方々の選挙に対する熱い思いは各所で現れており、それが時として派手なパフォーマンスにつながってゆくのでしょう。日本と違って台湾は選挙の争点がはっきりしており、その結果が生活や経済へダイレクトに影響するからこそ、有権者の皆さんは真剣且つ情熱的に一票を投じるわけですが、とはいえ、民主主義のありがたさを忘れかけている日本で暮らす私の目に、この地の光景は実に羨ましく映りました。
まだ蔡英文が実際に政権を握るまで時間がありますが、新しい政権はどのような舵取りをして、台湾をいかなる方向へ導いてゆくのでしょうか。早くも大陸からは「台湾総統選を受け中国が「観光客激減」の報復措置、倒産ラッシュは不可避か」などという流言蜚語に近いレベルの噂が放たれており、今後も同様の牽制球がどんどん投げつけられるでしょう。こうした大陸からの嫌がらせにうろたえることなく、尚且つ上手い具合に大陸との距離感や関係を保ちつつ、毅然とした台湾らしさを貫いていただきたいものです。

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日奈久温泉 しのはらホテル浜膳

2016年01月26日 | 熊本県
 
「しのはらホテル浜膳」は、その名前からわかるように前回記事で取り上げた「浜膳旅館」の姉妹館であり、「浜膳旅館」に宿泊するとこちらのお宿でも入浴できるので、夕食後に一息ついたところで、伺ってみることにしました。単に姉妹館だから利用できるという理由の他、「浜膳旅館」には大浴場やサウナがありませんので、これらの設備を希望するお客さんのための、補完施設としての役割も果たしているのでしょう。こちらは「浜膳旅館」よりもリーズナブルに宿泊でき、外観はどちらかといえば古くて地味な感じですが…


 
夜になればそれなりの雰囲気が醸し出されていました。リーズナブルなお宿とはいえ、スタッフの方の対応はとて丁寧であり、入浴したい旨を申し上げますと、笑顔で親切に案内してくださいました。


 
エレベーターで大浴場がある5階へ上がり、貴重品をロッカーに預けて、男女別の浴室へ。


 
脱衣室はコンパクトですが綺麗にされており、湯上り後のクールダウンに役立つ扇風機の他、水分補給のため冷水サーバも用意されていました。こうした細かな配慮が嬉しいですね。


 
 
浴室は海側を向いており、しかも5階ですから、見晴らし良好…と言いたいところですが、私が利用したのは夜でしたから、海が望めるはずもなく、ささやかに輝く温泉街の夜景を見下ろすばかりでした。でもガラス窓が手前側へ傾斜しているため、夜間でも室内の照明の反射に邪魔されることなく夜景を楽しむことができました。もちろん昼間はさそがし気持ちの良い眺望が楽しめることでしょう。

浴室の右側に主浴槽が据えられ、左右両側に洗い場(シャワー付きカラン計5基)が配置されています。また主浴槽や洗い場がある一角の左隣には、サウナと水風呂が設けられている区画もあり、主浴槽の区画とサウナの区画の間を隔てるように機械室のような扉があったので、その構造から推測するに、両区画は元々別の浴室だったのかもしれません。


 
主浴槽は目測で3.5m×1.8m。槽内には肌触りの良い緑色凝灰岩質の石材が用いられています。そして石積みの壁に設けられた湯口からお湯が滝のようにドボドボと音を響かせながら落とされており、浴槽の縁から惜しげなく溢れ出ていました。掛け流しの湯使いであり、投入量が多いために、お湯の鮮度感は良好です。温泉分析表は見当たらなかったのですが、スタッフの方に伺ったところ協同組合管理の混合泉を引いているとのこと。お湯は無色透明でほぼ無味無臭、くせのないサラスベの柔らかい浴感でした。
「浜膳旅館」の各客室に付設されているプライベート感の強い小さいお風呂も良いのですが、こうした大きなお風呂でザコザコ大量掛け流しのお湯を楽しむこともやっぱり良いですね。姉妹館である2施設を利用することで、いろんなニーズに対応できる日奈久温泉の懐の深さを実感しました。


分析表見当たらず

肥薩オレンジ鉄道・日奈久温泉駅より徒歩10分(約800m)
熊本県八代市日奈久上西町335  地図
0965-38-0010
日奈久温泉旅館組合公式サイト内の紹介ページ

日帰り入浴時間要問い合わせ
500円
ロッカー(100円リターン式)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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日奈久温泉 浜膳旅館

2016年01月24日 | 熊本県
 
日奈久温泉では「浜膳旅館」で一晩お世話になりました。先日拙ブログで取り上げました「松の湯」の前にあり、規模の大きなお宿ですから、温泉街の中でも比較的目立っています。傾斜地の地形に沿って建てられているため、ちょっと変則的な構造になっており、ロビーはエレベーターで3階へ上がります。


 
お宿の方の対応はとっても丁寧。チャックイン時にはロビーにてウェルカムドリンクのお茶をいただきました。



こちらのお宿は一般的な旅館と異なり大浴場が無く、その代わり各客室に温泉のお風呂が備え付けられています。このため、日帰り入浴は可能ですが、貸切利用のみ受け付けているようです。つまり空いている(あるいは日帰り用として確保している)客室のお風呂を使うことになるのでしょうね。フロント前には券売機も設置されていました。


 
今回は某大手宿泊予約サイトを通じて、一人旅専用2食付きの得割プランで予約したため、通されたお部屋は1~2名様向けと思しき6畳の小さな和室でしたが、綺麗なお部屋にはひと通りの備品が揃っており、居心地良好で快適です。


 
腹が減っては戦どころか湯浴みもできません。花より団子を人生の信条とする大食漢の私は、実は温泉よりもお食事が楽しみだったりします。通常よりも安い設定のプランでしたが、夕食はお部屋出しであり、しかも「安いのにこんな充実させて大丈夫なの?」と驚いてしまうような品数とボリュームに、思わず欣喜雀躍してしまいました。上画像は黒豚の豆乳しゃぶしゃぶ、お造り、前菜3点、そして茶碗蒸しです。これだけではなく…


 
ぶりの煮付け、伊勢エビの黄金焼き、揚げ物も出されました。いずれも厨房から出来立てが運ばれてくるので、熱々の状態でいただけました。


 
美味しいものが次から次に目の前に現れると、ついつい食い意地が張って、もっと美食を楽しみたくなってしまうのが、貪婪な人間の性というもの。おすすめメニューとしてリストアップされていた中から、紋甲イカのお造りを追加注文してしまいました(左or上画像)。言わずもがなですが、とっても美味い! もちろんご飯やお吸い物、そして食後のデザートもついてきます。


 
翌日の朝食は見晴らしの良いお座敷でいただきました。セルフで陶板で焼く目玉焼きの他に、ボリュームの大きなものは無く、その代わりに小鉢がたくさん並べられ、卓上は日本旅館らしい和の献立で彩られていました。


 
さてお食事を紹介した後は、お宿ご自慢であるお部屋のお風呂に入りましょう。上述したようにこちらのお宿は、大浴場が無い代わり、各客室に温泉のお風呂が備え付けられているのが大きな特徴です。もちろん今回利用した少人数向けの小さなお部屋にも、ちゃんと温泉が引かれたお風呂がありました。つまり宿泊中は好きな時に好きな分だけ、誰にも邪魔されることなく温泉に入れるのです。
私はちょっと早めにチェックインしてしまったため、入室時にはまだお湯が完全に溜まりきっていなかったのですが、見方を変えれば、お客さんが入れ替わる度にお湯もちゃんと張り替えられているということであり、溜めっぱなしではなく、誰の肌にも触れていないフレッシュな状態のお湯に入ることができるわけですね。


 
浴槽は四角形の石板張りで、2人同時に入っても寛げそうなサイズがあります。左側の縁には壺が2つ並んでいますが、これは湯口ではなく単なる飾りであり、お湯は2つの壺の間にあいた穴から、チョロチョロと音を響かせながら注がれていました。槽内でお湯の吸引や供給が行われているような形跡は見られず、お湯は全て縁の切り欠けから溢れ出ており、この状況から推測するに、完全掛け流しと判断して間違いないでしょう。

客室内には温泉分析書が掲示されており、湧出地として記されている所在地とお宿の所在地は同一でしたので、仲居さんにその辺りの事情を伺ってみますと、こちらのお宿では敷地内にある自家源泉を使っているとのこと。協同組合で管理している混合泉は無味無臭の単純泉ですが、こちらの源泉は食塩泉であり、見た目は無色透明ながら、弱いながらもはっきりとした塩味が感じられました。また浴感に関しても組合管理の単純泉で得られたようなサラッとした癖のないタイプとはちょっと毛色が異なる、ツルスベでありながらも少々のトロミと弱いグリップが効くような引っかかりを有しており、大袈裟な表現をすれば塩化土類泉を思わせるような重くて硬い感じすら帯びているように思われました。実際に浴槽をよく見ますと、湯面ライン上や湯口周りには塩化土類と思しきベージュ色の成分付着が確認できましたので、私が感じた土類的なフィーリングは決して誤認ではないはずです。見た目とは裏腹の複雑な知覚的特徴を有するこのお湯に浸かっていると、全身がしっとりとした優しさに包まれ、湯上りには汗が引かず、食塩泉らしい力強い温浴効果がいかんなく発揮されたのでした。


 
 
浴槽の傍では焼き物のウサギが私を見つめていました。お部屋は海側の小高い場所にあるため、浴室の窓からは温泉街、そして不知火海が見渡せます。窓を開けて開放的な半露天状態にし、自分の好きな時に好きな分だけ、誰にも邪魔されることなく、温泉街を見下ろしながら掛け流しの温泉で湯浴みを愉しむひと時は、まさに殿様気分。
日奈久で最もお洒落なお宿であるらしく、私が泊まった日は平日なのに多くのお客さんで賑わっていましたが、野暮な私ですらも人気を博するのが納得できる、実に素敵なお宿でした。


ナトリウム-塩化物温泉 43.9℃ pH7.72 溶存物質1718mg/kg 成分総計1722mg/kg
Na+:545.2mg(85.82mval%), Ca++:68.5mg(12.37mval%),
Cl-:870.7mg(89.28mval%), Br-:2.6mg, HS-:0.9mg, HCO3-:168mg(10.00mval%),
H2S:0.2mg,
(湧出地:八代市日奈久中西町字西町379-2-2)
(平成16年10月20日)

肥薩オレンジ鉄道・日奈久温泉駅より徒歩12分(約1km)
熊本県八代市日奈久中西町379  地図
0965-38-0103
ホームページ

日帰り入浴(貸切) 10:00~22:00
平日2000円/60分 or 2500円/90分、土日祝2300円/60分 or 3000円/90分
各種入浴用具販売あり

私の好み:★★★
コメント (2)
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