温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

磺渓温泉

2014年09月14日 | 台湾
陽明山国家公園内の、台北市と新北市の境界付近には大油坑という火山活動が活発なエリアがあるのですが、この大油坑付近には磺溪温泉と称する美しい野湯があるという情報を仕入れたので、どんなところか探索してみることにしました。


 
陽明山の山域を貫いて台北市街と北海岸地区を結ぶ幹線道路の台2甲線。
皇家客運の上磺渓橋バス停からちょっと台北側へ戻ると、上画像のようにカーブしながら小さな橋を渡る箇所があります。ここが磺溪温泉へ向かう道のスタート地点。沿道に立つ104番の街路灯が目印です。


 
小さな橋の袂には赤い看板が立っており(看板が意味する内容は言わずもがな)、申し訳程度の有刺鉄線が張られているのですが、このヨレヨレの鉄線を潜って先に入ると、足元に「台北市温泉監測井」と記されたトラ模様の施設が埋め込まれていました。ほほぉ、ここからして既に温泉の存在が臭ってきますね。


 
「台北市温泉監測井」の先には一本道が伸びていますので、道なりに進んでゆきます。途中岩盤の上を通る箇所があるのですが、湿っていると滑りやすいので注意です。かく言う私はサンダル履きでしたけどね。


 
スタートから約3~4分で沢にぶつかり、左手の川原には大きなヒューム管が横たわっていました(左(上)画像の箇所)。ここは土管の手前を渡渉して対岸へ渡ります。気象状況などにもよるのでしょうけど、私が行った時には岩の上を飛んでゆけば、足元を濡らすこと無く難なく渡れました。対岸へ渡ると、今度は同じようなヒューム管が3つバラバラに転がっているのですが、今度はこれらの右手に回る感じで岸の上へとよじ登ります。


 
すると左(上)画像のような広場に出て、更に奥へと道が続いていますので、道なりにどんどん進んでゆき、沢に沿って坂道を登ってゆけばOKです。全行程で迷いやすい箇所はこの渡渉ポイントのみでして、他は殆ど一本道ですから、余程のことが無い限り、遭難することはないでしょう。


 
真夏の台湾で登山をする人は少ないのか、はたまた通過する人の絶対数が少ないのか、この杣道は両側から丈の高い藪が茂っており、多くの区間で藪こぎを強いられました。しかもひたすら登り坂ですので、炎天下での山登りは体に堪えます。でも途中で来た道を振り返ると、麓の丘の向こうに紺碧の大海原が広がっていました(右(下)画像)。見晴らし良好です!


 
スタート地点から歩くこと約10分で勾配が緩やかになり、やがてフラットになりました。ここを含む大油坑一帯ではかつて硫黄鉱山が操業していたそうですが、かなり前に閉山されており、当時を面影はほとんど姿を消しています。でもこのフラットな草っ原には、当時のものと思しき、錆びて朽ちた架空索道のゴンドラと思しき残骸が転がっていました。


 
大規模な噴気帯が広がる大油坑は、ここより若干東へ移動した場所にあるのですが、その地熱エネルギーのおこぼれが当地でも露れており、岩肌が剥き出しになっている崖の一部には、硫黄を含む温泉の湧出によって白く染まっていました。



このフラットな草っ原に立っていると、右側からせせらぎの音が耳に入ってきたので、その方向へ近づいてみますと、青白い水が落ちる滝壺に、まるで牛乳のように真っ白なものが注ぎこんでいるではありませんか。沢や滝が青白いということは、おそらく水に硫黄を含む温泉が混入しているのでしょうけど、そこへ流入する濃厚なミルキーホワイトの流れは一体何なのでしょうか。


 
崖を下りてその牛乳みたいな流れへ接近してみました。地面にあいた穴から自噴の温泉が湧出しており、そこから流れ落ちる過程で硫黄やカルシウムなどが付着し、まるで瓶から牛乳をこぼしたかのような光景を造り出していたのでした。


 
規模はあまりに違いすぎますが、その純白さや石灰華の美しさは、台湾版パムッカレと称しても良さそうです。


 
自噴している湧出口でデータを計測しますと、湧出温度は41.8℃で、水素イオン濃度はpH2.9でした。湧出口から刺激を伴うイオウ臭がプンプン漂ってきますので、所謂酸性硫化水素泉であることは明白なのですが、それにしてもこの濃厚な乳白色は只者ではありません。そこで試しにお湯を口に含んでみますと、非常に強い苦味と渋味があり、唇や口腔内などの粘膜がビリビリ痺れてしまいました。美しいものには刺があると言いますが、汚れのない真っ白な見た目とは裏腹に、とんでもなく攻撃的な味覚を有していたのでした。この手のお湯には何が含まれているかわかりませんから、口に含んだ温泉は一切喉の奥に流し込まず、持参していたミネラルウォーターでしっかり口の中を濯ぎました。


 

上流から流れてくる温泉が溶け込んだ青白い滝に、牛乳のような真っ白い濃厚硫黄泉が交じり合う滝壺。
草の緑、岩肌のグレー、そして滝坪の青白色というトリコロールが実に美しいのですが、この滝壺の温度を測ってみますと24.3℃であり、露天風呂とは言えないまでも、一般的な水風呂より遥かに入りやすく、しかもその水はイオウ感を有しています。傍らに止まったトンボが「You 入っちゃいなよ」とつぶやいているように思えたので…



その場で服を脱いで滝壺に入ってみました。藪こぎをしながら坂道を登ってきたので、全身汗だくだったのですが、この硫黄感を有する滝壺に入ったらメチャクチャ爽快なのです!! 深さもちょうどよく、絶えず新鮮な水が流れ込んでくるので、体が受ける感覚がとてもフレッシュ。一度入ると出たくありません。しかも不快な虫(ブヨ等)が全くいないのも嬉しいところ。景観は美しいし、浴感は爽快。こんな極上な野湯はなかなかお目にかかれません。台湾の野湯の中で最も気に入ったかも。



いつまでも入っていたかったのですが、この日は他にも巡りたいところがあったので、1時間ほど浸かり続けた後、後ろ髪を引かれる思いで滝壺から上がり、滝を落ちる水が既に青白かったことが気になったので、更に上流へ遡ってみました。


 

滝壺から数十メートル上流に、上画像のように岩で堰き止められているプール状の淀みがあり、この淀みの底からはプクプクと絶え間なく気泡が上がっていました。おそらくこのプールの底で温泉が自噴しているのでしょう。でも温泉湧出量と比べて沢の水量の方が遥かに多いため、プールでの温度は20℃を少々上回る程度であり、先ほど入った滝壺よりも若干低い感じでした。大きさとしてはここでも水浴びできそうです。



このプールより上流側の沢水は完全に澄み切っています。ということは、あのプールで自噴の硫黄泉が混じることにより、沢水が青白色を呈し始めるわけですね。この一帯は温泉の湧出量が少ないため、熱い湯船での湯浴みはできそうにありませんが、それでもあの滝壺はこの上なく爽快。南国の暑さを忘れて極楽気分のひと時が過ごせました。夏におすすめです。


台北市士林区大油坑  地図

野湯につき無料

私の好み:★★★

コメント (2)
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