温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

石部温泉 いでゆ荘

2016年10月31日 | 静岡県
西伊豆の松崎町には、岩地・石部・雲見という3つの漁村兼温泉地が海岸に沿って並んでいますが、地元ではこの3地区をまとめて三浦(さんぽ)地区と呼んでおり、三浦の各地区で営業する温泉宿や入浴施設などでは、松崎三浦温泉株式会社によって集中管理された、しょっぱくて土類感の強い混合泉の供給を受けています。しかしながら、一部の温泉旅館ではこの集中管理された源泉の供給を受けずに、独自の源泉を使っているところがあります。今回はそんなお宿のひとつである石部の「いでゆ荘」へ行ってみることにしました。


 
石部で海沿いの国道136号から離れ、山間へ伸びる集落の道へ入って行きます。狭い谷間で甍を競うように民家が櫛比しており、細い沢に沿って車一台がようやく通れる狭隘な道が伸びているので、車を擦らないよう慎重に集落の道を進んでいきます。


 
途中で右折し、ギリギリ通れる細い道へ入って…


 
今回の目的地である「いでゆ荘」に到着しました。幅がちょっと広めな私の愛車(マツダのCX-5)でも無事に通れましたので、一般車でしたらおそらく問題なく通行できるでしょう。
こちらのお宿は数年にわたって閉館していたのですが、最近復活を遂げ、素泊まり宿泊と日帰り入浴の営業を再開させました。


 
駐車場に車をとめ、谷間の細い川を渡って玄関へ。


 
玄関で声をかけると、団塊ジュニア世代の私とほぼ同じくらいと思しき物腰の柔らかい女性が対応してくださいました。ちなみに今回は訪問する数時間前に予め電話連絡しておいたので、スムーズに入浴利用することができました。
飾りの多い玄関を上がって左手に休み処が、そして右手に帳場があります。


 
帳場の前ではニャンコがお出迎え。というか、ジッと寡黙にこちらを凝視していました。ニャンコの目に私が怪しい人物として映ったのでしょうか。帳場から伸びる廊下を進んでゆくと、突き当りが浴室出入口。男湯は右側です。


 
棚とカゴがあるだけの狭い脱衣室を抜けて内湯浴室へ。こぢんまりしながらも明るい内湯には、窓側に浴槽がひとつ据えられ、反対側にはシャワーなどの水栓類が並んでいます。浴室に入った瞬間、ほんのりとしたタマゴ臭が香ってきました。お湯への期待が膨らみます。


 
内湯の湯船は所謂岩風呂で、2人サイズ。石の並ぶ縁からお湯がしっかりとオーバーフローしており、湯船は41.5℃という絶妙な湯加減に保たれていました。


 
内湯の湯口における吐出温度は43.5℃。湯口からはふんわりとタマゴ臭が放たれており、石膏由来の甘い香りも漂っていました。お湯を口に含むと、薄い塩味と甘味を伴う石膏味、少々の芒硝味が感じられ、弱いながらも塩化土類泉を思わせるような風味が喉から鼻へと抜けていきます。松崎三浦温泉から供給されるお湯は、しょっぱくて土類感の濃く強烈に火照るタイプですから、系統としてはここのお湯と同じライン上にあるのかもしれませんが、味の濃さ、タマゴ感の有無、土類感の強弱など、明らかに両者は異なる温泉であると断言できるでしょう。



内湯から屋外に出ると、何とも爽快な露天風呂が広がっていました。伊豆といえば海を思い浮かべる方が多いかと思いますが、海から近い場所とはいえ、この露天風呂は深い緑に覆われており、山奥の秘湯みたいな雰囲気です。なおこの露天風呂は出入口こそ仕切りがあるものの混浴です。


 
露天は集落を流れる沢に沿って設けられており、春の花々を眺めつつ、せせらぎを聞きながらのんびり湯浴みすることができました。実に麗しい環境です。


 
露天風呂は崖の下に設けられているのですが、崖の壁面は一部が掘られて、神様を祀るような空間になっていました。また奥の方では石膏の人魚像が立っているのですが、この人魚さん、なぜか左手に刃物のようなものを握っています。悪い男に騙されて復讐しに行く途中のかな。


 
人魚の石膏像と共にこの露天風呂で目立っているのは、露天の中央で噴き上がる温泉の湯口。ボコボコと絶え間なく滔々とお湯が噴き上がっており、その温度は43.0℃でした。



露天風呂では中央の噴き上がりのほか、小さなお地蔵さんの下から落とされてコンクリの擁壁を這うように供給されるお湯もあります。2ヶ所から供給されているお湯は完全掛け流し。湯船のお湯は大変フレッシュで、間断なく縁からザコザコと溢れ出ていました。
 

 
露天の温度はいつまでも長湯したくなる39.0℃というぬるめの湯加減。実際に時間を忘れてじっくりのんびり湯浴みさせていただきました(時折内湯に入って体を温めました)。
こんなに広くて静かな環境のもと、新鮮で澄んだ完全掛け流しのお湯を、良心的な料金で堪能できるのですから、実に素晴らしい。文句のつけようがありません。温泉ファンが敬遠しがちな伊豆にも、こんなブリリアントなお風呂があったのですね。今度宿泊でゆっくり過ごしたいなぁ。おすすめです。


カルシウム・ナトリウム-塩化物温泉 47.1℃ pH7.8 480L/min(動力揚湯) 溶存物質2926mg/kg 成分総計2927mg/kg
Na+:501.9mg(45.38mval%), Ca++:519.9mg(53.95mval%),
Cl-:1591mg(89.06mval%), SO4--:243.0mg(10.04mval%), Br-:19.32mg,
H2SiO3:24.90mg,
(昭和47年11月22日)

静岡県賀茂郡松崎町石部1059-2  地図
0558-45-0161

日帰り入浴10:00〜20:00(事前連絡をおすすめします)
500円
シャンプー類あり

私の好み:★★★
コメント (4)
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大沢里温泉(祢宜畑温泉) 西伊豆町営やまびこ荘 2016年4月再訪

2016年10月29日 | 静岡県
秋も深まりはじめてきたというのに、毎度のように季節感のない記事で恐縮です。今回からしばらくは今年(2016年)春に訪問した伊豆の温泉を連続して取り上げます。まずは西伊豆町の「やまびこ荘」から。

 
昭和48年に廃校になった小学校の校舎を宿泊施設に改装した「やまびこ荘」には温泉が引かれており、日帰り入浴利用も可能です。拙ブログでは2009年に一度取り上げていますので、6年ぶりの再訪です(以前の記事はこちら)。前回記事の画像に写っている外観と現在の姿を比べると、以前は白っぽい塗装であったのに対し、今は焦げ茶色のシックな装いに変わっています。スタッフの方に伺ったところ、2010年頃に耐震補強工事が実施され、その際に外観のみならず館内など全面的なリニューアルが行われたんだそうです。


 
集落の方から階段であがってくると、かつて登下校する生徒たちを見守り続けていた校門の門柱が立っています。私が訪れた時には旧校庭の外縁部でツツジが綺麗に咲いていました。



学校には欠かせないプール。こちらのプールに張られているのは、水ではなく温泉です。湯量が豊富なんですね。私が訪れたのは4月でしたが、普通でしたら屋外プールの利用には寒すぎるにもかかわらず、ここは温泉で温かいため、この時もプールで悠然と泳ぐお客さんがいらっしゃいました。


 
昭和の学校に必須アイテムである二宮金次郎像。台座の文字は「以徳報徳」。玄関の庇には鐘が吊り下げられていました。


 
館内は昭和の木造校舎らしい雰囲気を残しつつも、使い勝手を向上させたモダンでレトロなインテリアにリニューアルされており、廊下はフローリングに変わり、各室のドアも引き戸でありながら、滑りが良い現代的なスライドドアに取り替えられていました。


 
学級文庫や黒板など、学校らしいアイテムもたくさんありますよ。


 
かつての教室は客室として使われています。スタッフの方が客室を見せてくださいました。
上述の工事に伴い、教室も綺麗な和室に改装されました。なお部屋に暖房は備え付けられていますが、冷房はありません。


 
階段で2階へ上がってみました。廊下には共用洗面台が並んでいます。以前はステンレス板の大きな流し台でしたが、現在はデザイン性を高めたセラミック製の洗面台に取り替えられています。


 
素泊まりの宿ですので、宿泊する際、食事は自分たちで準備します。廊下にはポットや電子レンジ、冷蔵庫など、宿泊客が自由に使える備品が並んでいました。


 
さて、館内をひと通り見学したところで、本題のお風呂へと参りましょう。浴室出入口前には古いスチールロッカーが置かれており、扉には"5-8"や"5-9"などと書かれていたのですが、もしかしたら以前5年生が使っていたのかな。


 
脱衣室は簡素ながら綺麗。木製の棚にプラ籠が置かれており、2台並ぶ洗面台の脇にはドライヤーも用意されています。


 
レンガのようなタイルが貼られている浴室は以前とほとんど変わっておらず、記憶通りの姿を目にしてホッと安心しました。
お風呂は男女別の内湯のみで露天風呂はありません。でも大きな温泉プールが露天風呂の代わりになるかもしれませんね。
壁に沿って洗い場が配置されており、お湯と水の水栓ペアが計5組並んでいます。うち3組にはシャワーが取り付けられています。


 
窓側に大小2つの浴槽が並んでいます。いずれに対しても温泉が注がれているのですが、大小で加温の加減が異なっており、右側に配置されたタイル張りの小浴槽は1〜2人サイズで、しっかり加温されており、持参した温度計で測ってみたら42.8℃と表示されました。


 
お湯は浴槽内で熱交換により加温されています。その方法は後述しますが、お湯そのもののは壁に取り付けられた水栓より吐出されており、湯口では38.0℃という温度でした。湯口は硫酸塩の析出で真っ白く覆われていました。


 
一方、総木造の大きな浴槽は、1.8m×2.7mという寸法で、40.2℃という長湯仕様の湯加減になっていました。源泉温度は40℃未満ですから、多少加温されているものの、その程度が低く抑えられているため、お湯そのものの個性がしっかりと活きているように感じられます。


 
大きな浴槽にも温泉投入用の水栓があり、こちらの吐出温度は36.6℃でした。この水栓にも析出がこんもりと盛り上がってこびりついていますね。


 
館内表示によれば冬季は加温されているとのこと。私が訪問した春の某日も加温されていました。浴槽内にボイラーの沸し湯を流す配管を設置し、その熱で浴槽内のお湯を温める(熱交換をする)方法が採用されています。加温以外、温泉に影響を与えるようなことは行われておらず、れっきとした放流式であり、私が湯船に入ると、洗い場が洪水状態になるほどザバーッと豪快にお湯が溢れ出ていきました。

お湯は無色透明で、ほぼ無臭ですが、硫酸塩泉によくあるパラフィン系の風味があり、ほんのりとした塩味や少々の甘みを伴う石膏味も感じられます。まるで化粧水のようなトロミがあり、湯中ではスルスベとキシキシが拮抗する浴感が得られるのですが、まろやかでトロトロな滑らかさは肌への当たりが優しく、特にぬるめの大きな浴槽では体への負担も軽いため、湯浴みしながら思わず微睡んでしまいました。
湯中では優しいフィーリングでありながら、お風呂から上がるとパワフルに温まり、しばらく汗が引きません。優しさと力強さを兼ね備えたジェントルマンのような素晴らしいお湯です。


 
風呂上がりには、受付前の自販機で販売されていた伊豆産の牛乳「おおきモーモーみるく」を一気飲み。うん、うまい!

久しぶりの再訪でしたが、改めてこのお湯が西伊豆屈指の名湯であることを実感しました。昭和に戻ったような雰囲気や、周囲の緑豊かで静かな環境も実に素晴らしい。冬季以外は非加温なんだそうですから、ぬるめのお湯にじっくり浸かることができますね。一度宿泊して、子供の頃を思い出しながらのんびり過ごしてみたいなぁ。


大沢里3号
カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉 39.1℃ pH8.9 成分総計1.758g/kg
Na+:127.9mg, Ca++:387.6mg,
Cl-:43.1mg, OH-0.1mg, SO4--:1153mg, CO3--:7.5mg,
H2SiO3:31.9mg,
(平成24年5月28日)
加温あり(冬季のみ入浴に適した温度に保つため)
加水循環消毒なし

静岡県賀茂郡西伊豆町大沢里150  地図
0558-58-7153
ホームページ

日帰り入浴12:00〜17:00(受付16:30まで。宿泊客がいない場合は16:30で閉館)
600円
貴重品受付預かり、シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
コメント (6)
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川渡温泉 川渡温泉浴場 2015年11月再訪

2016年10月27日 | 宮城県
 
前回記事の「久田旅館」を出た後はそのまま寄り道せずに帰ろうかと考えていたのですが、川渡温泉に差し掛かった時、無性に川渡の湯に浸かりたくなったので、久しぶりに当地の共同浴場へ立ち寄ってみました。拙ブログでは2009年以来、6年ぶりの再登場となりますが(以前の記事はこちら)、私個人ではその間にも何度か利用しております。こちらの温泉の素晴らしさは温泉ファンのみならず多くの方によって語り尽くされていますので、半可通な私が下手なことを申し上げて藪蛇にならないよう(半可通が露呈しないよう)、今回記事ではサクサクっと簡潔に述べてまいります。


 
駐車場は付近にある公民館のものを使えますので、くれぐれも路駐はしないようにお願いします。
こちらの共同浴場は無人ですので、脱衣室に括りつけられた料金箱へセルフで湯銭を納めます。湯気や湯浴み客の息吹が長年にわたって染み込んでいる総木造の湯屋からは、独特の風情が感じられます。脱衣室内にある備品といえば棚と時計ぐらいで、至って質素なのですが、扇風機がないかわりに手動扇風機こと団扇が用意されており、湯上がりにありがたく使わせていただきました。
脱衣室と浴室を仕切る壁にはガラス窓が嵌められており、双方を見通すことができるのですが、こうすることによって脱衣室の狭隘感を払拭すると同時に、防犯としての機能も期待されているのでしょう。


 
総木造の浴室には湯気とともに川渡温泉ならではの湯の香が漂っていました。総木造とはいえ、お湯がかかりやすい床や、床から立ち上がり1m強の壁はタイル貼りで、御影石で縁取られた浴槽もタイル張りです。水栓の類は壁に沿って水道の蛇口が2つあるばかりで、シャワーなんて贅沢なものはありません。浴槽上の壁にはルーバーが取り付けられていますが、これは硫化水素中毒を防ぐための換気口かと思われます。

浴槽は2.5m×3.5mで10人以上は入れそうな容量があり、角のRがビジュアル的に柔和な印象をもたらしています。このお風呂は浴槽にお湯を注ぐ湯口が特徴的で、パイプから吐出されたお湯は一旦木枡へ落とされ、水道で加水されてから、湯船へと流れ込んでいます。湯使いは加水した上での放流式であり加温循環消毒は行われていません。浴槽を満たしたお湯は間断なく縁の上を溢れ出ており、縁直下に刻まれた溝へ落ちて浴場外へ排出されていました。

綺麗な淡いウグイス色のお湯は底が見えないほど濁っているのですが、その濁りをもたらしているのは湯中で無数に舞う湯の花。溶き卵を細かくしたような白や黄色の湯の花がたくさん浮遊しているんですね。湯船に浸かるとツルスベの滑らかな浴感が大変気持ち良く、お湯を口に含むといかにも川渡温泉らしい焦げたような感覚やアブラ感を伴うタマゴ味とタマゴ臭が感じられました。また湯上がりには体からスッと粗熱が抜けて心身爽快になりました。硫黄泉でありながら、重曹泉的な知覚的感覚がはっきりと存在感を主張しているところが、川渡温泉を名湯たらしめている大きな特徴と言えるでしょう。
ところで、私の個人的感覚で申し訳ないのですが、川渡の共同浴場はピリッと熱くて体が赤くなるいう先入観があるんです。しかしながら、この時のお風呂はどちらかといえばぬるめであり、しかも加水も殆ど行われていませんでした。常連さんに声をかけてみましたが、異口同音に「今日はぬるいなぁ」とおっしゃっていました。温泉は自然の恵みですからコンディションは常に変化するものであり、この時はたまたまぬるめに湧出していたのでしょう。でもそのおかげでじっくり長湯でき、湯船から出ようと思っても後ろ髪を引かれて出るに出られず、かなり長湯してしまいました。硫化水素と重曹のハーモニーが絶妙な素晴らしい名湯であることを、改めて実感させていただきました。


川渡支所前源泉
含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩温泉 52.6℃ pH7.6 107.7L/min(掘削自噴) 溶存物質1128.3mg/kg 成分総計1155.8mg/kg
Na+:223.4mg(79.09mval%), Ca++:31.6mg(12.86mval%),
Cl-:31.8mg, HS-:8.5mg, S2O3--:8.5mg, SO4--:43.6mg, HCO3-:589.6mg(81.31mval%),
H2SiO3:166.4mg, H2S:2.7mg,
(平成20年12月5日)

JR陸羽東線・川渡温泉駅より徒歩16~7分
宮城県大崎市鳴子温泉字川渡  地図
鳴子温泉郷観光協会公式サイト

6:00〜22:00
200円(湯めぐりシール使用不可)
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (2)
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東鳴子温泉 久田旅館

2016年10月25日 | 宮城県
 
久しぶりに鳴子温泉郷を取り上げましょう。今回ピックアップするのは、東鳴子エリアの「久田(きゅうでん)旅館」です。鳴子御殿湯駅や国道47号線から行く場合、橋で川を渡って旅館「紅せん」前の丁字路を右折し、線路を潜った先の左側に位置しています。東鳴子エリアの他の宿とは離れているため、まるで一軒宿のようなロケーションです。



今回は日帰り入浴での利用です。玄関に置かれたイーゼルには、日帰り入浴に関する案内プレートが掲げられていました。これによれば内湯と露天で泉質が異なるようですね。詳しくは後ほど。帳場で直接湯銭を支払い、廊下を歩いて浴場へと向かいます。なおこちらでは鳴子温泉郷の各温泉で使える「湯めぐりチケット」の利用も可能ですよ(所要シールの枚数は2枚です)。


 
ファサードこそ渋くて素朴な、いかにも東北の湯治宿を思わせる佇まいですが、館内は部分的に修繕されており、特に浴場やその周辺は和の趣きをコンセプトにして綺麗に改装されていました。紅葉が美しい中庭を見ながら浴室の暖簾をくぐります。


 
脱衣室はややコンパクトなつくりですが、隅々まで綺麗にお手入れされており、またエアコンが設置されているので、四季を通じて快適に着替えられるかと思います。


 
日が傾きかけている時間に訪問したため、薄暗い画像になっちゃいましたが、浴室は2方向が大きなガラス窓になっているため、実際の床面積以上の広さや開放感を得ることができました。一方、室内の壁沿いには洗い場が配置され、シャワー付きカランが4基並んでいました。


 

内湯で使われている源泉は、分析書によれば「久田2号泉」と称し、泉質名としては純重曹泉と記されています。隅っこの湯口からドボドボと大量に供給されているこのお湯の特徴を大雑把に表現すると、東鳴子から川渡にかけての一帯で湧く温泉に共通して見られるモール泉的なタイプであり、湯船のお湯はコーヒーを薄めたような淡い琥珀色を帯びた透明で、少々の清涼感を伴うほろ苦味を有し、モール臭に少々の焦げ臭とアブラ臭的な匂いがミックスされて香っていました。そして湯中では重曹泉らしい大変滑らかなツルツルスベスベ浴感を楽しむことができました。

浴槽は(目測で)2.5m×3.5mの方形で、おおよそ10人サイズ。槽内はタイル貼りですが縁には御影石が採用されており、縁の切欠からお湯がしっかりと溢れ出ていました。湯温調整のため加水されているものの、贅沢に掛け流されている放流式の湯使いです。


 
ドアから屋外に出るとすぐ左手に露天風呂が設けられています。この露天風呂ゾーンは庇に覆われており、庇の先では目隠しの塀が立ちはだかっているため、庭園の木々が視界に入ってくるものの、露天風呂に期待したい開放感よりもむしろ閉塞感の方が強いのですが、温泉風情を醸し出すためか、浴槽の真上だけは東屋が設置されていました。ちなみにこの宿の真裏には陸羽東線の線路が敷かれており、私が入浴していると、タイミングよく仙台行の快速「リゾートみのり」がエグゾーストを響かせながら軽快に走り去っていきました(高い塀は線路に対する目隠しのため?)。


 
 
露天の浴槽は1.8m四方の石造り。こちらに引かれているお湯は「久田1号泉」と称し、泉質名は含食塩重曹-硫黄泉。モール泉系だった内湯とは全く異なるタイプのお湯で、湯船のお湯はわずかに青色を帯びているような灰白色にはっきりと濁っており、湯中では溶き卵のような白い湯の花がユラユラと舞っています。そして私が湯船に入ると沈殿していた湯の花が一斉に舞い上がり、濁り方がますます強くなりました。こちらのお湯も温度調整のために加水されているそうですが、私の訪問時における湯口の温度はかなり高く、その代わり湯量を絞ることによって湯加減を調整しているようであり、実際に湯船では微睡みを誘うような40℃前後の湯加減となっていました。内湯同様に放流式の湯使いであり、浴槽縁の切欠からしっかりと溢れ出ています。
お湯からはタマゴ臭と軟式テニスボール的なゴム臭がミックスされたような硫化水素臭が香り、テイスティングしてみますと塩味・卵黄味・苦味が文字通り三位(味)一体となって口の中に広がりました。私個人の感覚としては、純重曹泉の内湯よりもこの白濁露天風呂の方がツルスベ浴感を強く感じ、ヌルヌルに近いような感触も得られたように記憶しています。

タイプが異なる2つの源泉を一度に楽しめ、しかも両方のお湯ともに良質で掛け流しという、実にユニークで利用価値の高いお風呂でした。


久田1号泉
含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 68.6℃ pH7.4 蒸発残留物2666mg/kg 溶存物質3169.0mg/kg
Na+:914.3mg(96.72mval%),
Cl-:788.3mg(50.71mval%), HS-:2.3mg, S2O3--:0.5mg, SO4--:106.3mg, HCO3-:1164mg(43.50mval%),
H2SiO3:108.5mg, HBO2:46.3mg, CO2:315.3mg, H2S:1.1mg,
(平成20年10月23日)
加水あり(源泉温度が高いため)
加温循環消毒なし

久田2号泉
ナトリウム-炭酸水素塩温泉 57.5℃ pH7.2 蒸発残留物983.2mg/kg 溶存物質1284.5mg/kg
Na+:276.1mg(91.54mval%),
Cl-:88.5mg(18.74mval%), HS-:0.3mg, S2O3--:0.2mg, SO4--:30.2mg, HCO3-:614.0mg(75.41mval%),
H2SiO3:237.9mg, CO2:102.3mg, H2S:0.2mg,
(平成20年10月23日)
加水あり(源泉温度が高いため)
加温循環消毒なし

JR陸羽東線・鳴子御殿湯駅より徒歩10分(約900m)
宮城県大崎市鳴子温泉字久田67  地図
0229-84-7639
ホームページ

日帰り入浴11:00〜18:00
500円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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岩倉温泉

2016年10月23日 | 秋田県
 
前回記事に引き続き、昨年秋に湯巡りした記録をアップさせていただきます。この日は秋田県大仙市の名湯であり、秘湯を守る会の会員宿でもある「岩倉温泉」で日帰り入浴させていただきました。旧南外町の山中にある一軒宿で、温泉街が形成されているわけではありませんが、この辺りの地名はズバリ「湯元」。地名にするほど存在感がある地域の誇りなのでしょうね。


 
玄関で声をかけて入浴をお願いしますと、スタッフの方はとても丁寧に対応して下さいました。館内は和の趣きたっぷりの落ち着いた雰囲気です。


 
玄関からカーペット敷きの廊下を歩き、中庭の池をコの字形に迂回して浴場へと向かいます。訪問した日はあいにくの天気でしたが、深紅に染まった中庭の紅葉は、雨に濡れて一層色を濃くしていました。


 
浴場出入口の手前に洗面台が並んでおり、温泉の飲泉所も兼ねているようです。


 
暖簾をくぐって脱衣室へ。室内は至ってシンプルで実用的です。目を惹くのが壁に張り出された案内書き。浴室内のシャワーから出てくるお湯は温泉なのですが、温泉に含まれるカルシウムが多く石鹸が泡立たないため、石鹸やボディーソープの備え付けは無く、シャンプーのみ置いていると書かれていました。ヨーロッパなど海外で洗濯なさったことのある方ならご存知かと思いますが、海外で多い硬水の水道ですと、洗剤が泡立ちにくいんですよね。これと同じ理屈で、カルシウムやマグネシウムが多い温泉は石鹸類が泡立ちにくいわけです。詳しい説明は花王株式会社公式サイトの製品Q&Aなどをご覧ください。ということで、入浴前にはシャワーでしっかりと体を濯ぎましょう。


 
浴室も奇を衒わないタイル張りなのですが、男女両浴室の仕切りにはガラスブロックが用いられており、屋内に明るさと視界的な広さをもたらしています。浴室手前側に洗い場が設けられ、シャワー付きカラン1個とスパウトのみの水とお湯のセットが1組、計2基が並んでいます。先述のようにカランから出てくるお湯は温泉です。


 
男女両浴室の間に挟まれる形で石灯籠が立っており、その下で口を開ける龍から温泉が滔々と注がれていました。そして温泉成分の析出により龍の顔面は真っ白に覆われていました。湯口のそばに置かれたコップで飲泉してみますと、しっかりとした塩味と石膏味、ほろ苦味が感じられ、そしてふんわりとした石膏臭が喉から鼻へ抜けていきました。


 
浴槽は2.5m×2mのタイル張りで、縁には黒い御影石が採用されており、やや深い湯船はしっかりとした入り応えがあります。浴槽に張られたお湯は無色透明なのですが、タイルの色の影響を受けているのか、僅かに翠色を帯びているようにも見えました。
湯中ではトロミを伴う滑らかなフィーリングが得られるとともに、キシキシと引っかかる硫酸塩泉的な浴感もはっきりと存在感を主張しています。肩まで湯に浸かると思わず「ほっ」と息が出てしまうような、絶妙な湯加減がキープされているのですが、しばらく浸かり続けていると、まるで子泣き爺が載っかっているんじゃないかと勘違いしたくなるほど、体にズシリと重くのしかかるような感覚があり、熱くないのに長湯するのが躊躇われるほど、ヘビー級のパワーが全身に伝わってきました。そして湯上がりもしばらくは汗が引かず、いつまでもホコホコし続けました。落ち着いた雰囲気も相まって、一見すると大人しそうなお湯に見えますが、実はかなりの実力を持っている良質な温泉なのであります。今回は日帰りでの利用でしたが、宿泊してこのお湯に浸かったら、きっと深い眠りに就けそうです。いずれ泊まってみたいなぁ。

わずか400円の日帰り利用にもかかわらず、退館時はスタッフの方がわざわざ玄関まで見送ってくださいました。お湯も良ければホスピタリティもすばらしい。ブリリアントな名湯でした。


岩倉1号井
ナトリウム・カルシウム-塩化物・硫酸塩温泉 58.3℃ pH7.7 溶存物質4570mg/kg 成分総計4580mg/kg
Na+:1106mg(65.90mval%), Ca++:491.5mg(33.60mval%),
Cl-:1915mg(72.52mval%), Br-:6.7mg, I-:0.4mg, SO4--:958.5mg(26.80mval%),
H2SiO3:49.6mg, HBO2:15.3mg,
(平成22年3月12日)
加温加水循環消毒なし

JR大曲駅より大仙市コミュニティバス・南外線で「岩倉温泉」バス停下車すぐ(時刻などはバスを運行している羽後交通の公式サイトでご確認ください)
秋田県大仙市南外字湯元1   地図
0187-74-2345
ホームページ

日帰り入浴時間10:00〜19:00(時間内でも入浴不可な場合あり)
400円
ドライヤーあり、シャンプーのみ備え付けあり(理由は本文参照)

私の好み:★★★
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