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感染症を防ぐ蚊、量産迫る

2024年05月25日 12時46分24秒 | 健康
  蚊はデング熱やマラリアといった感染症の病原体を媒介し、間接的に人を最も多く殺しているといわれている。
  こうした感染症を防ぐため、細菌に感染した蚊を使って、人への感染を防ぐ手法が国際的に注目を集める。
  2024年末には世界最大の「蚊工場」が稼働予定だという。 人類と蚊の戦いの決定打になるのだろうか。

 米ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団が出資するNP
 Oのワールド・モスキート・プログラム(WMP)は細菌
 の「ボルバキア」に感染したネッタイシマカをつくる世
 界最大の工場をブラジル南部パラナ州に建築する。費用
 は1900万㌦(約29億円)の見込みだ。WMPは「今後
 10年間で最大7000万人を守ることができる」と試
 算している。 感染症の広がる熱帯地域では殺虫剤への
 耐性を持つ蚊が増えて対策に苦慮している。その切り札
 と期待されるのがボルバキアだ。体長1㍃(100万分の1)
 ㍍前後の細菌で、自然界ではありふれており昆虫の半分
 以上が感染している。複数の系統があり宿主に与える影
 響が異なる。 オーストラリアのモナシュ大学などの研
 究チームは11年、感染症対策にうってつけの性質を持
 つボルバキアの系統を科学誌に報告した。ネッタイシマ
 カが感染すると、その体内でデング熱の原因となるデン
 グウイルスの増殖が抑えられた。さらに、親から子へ高
 頻度で感染が引き継がれた。この研究チームを率いた同
 大のスコット・オニール教授がWMPを創設した。 感
 染したメスからは一定の確率で感染した蚊が生まれる。
 人でもB型肝炎や梅毒のように母から子に病原体が伝わ
 ることはある。 感染した蚊を野外に放てば地域にいる
 蚊全体へと感染が広がり、人が刺されてもウイルスをう
 つされにくくなる。WMPは感染したオス・メスの両方
 や、メスだけを放出する取り組みをしている。11年の
 オーストラリアを皮切りに14カ国で実施している。
 新設する工場では年間約50億匹のボルバキア蚊をつく
 る予定だ。対策する場所に工場で産んだ卵を運んで羽化
 させる。多くの場合は4~6カ月かけて数百万匹放つ。
 「新たな地域の政府などと話し合いを進めている。根拠
 を示す段階から世界へ規模拡大を図る段階に来た」(オ
 ニール氏)。 先行例で効果はでている。インドネシア
 のジョクジャカルタ市での調査によると、ボルバキア蚊
 を放った地域では、放っていない地域に比べデング熱の
 発生率が77%減り、入院率は86%減った。デングウ
 イルスだけでなく、チクングニヤ熱やジカ熱の原因ウイ
 ルス、マラリアを起こす寄生虫などの増殖を防ぐ効果も
 あるとみられている。
  ただ感染症が発生しにくくなると聞いても、蚊に刺されること自体に抵抗を覚える人もいるだろう。 そこ
   で蚊の数に注目した戦略をとるのがシンガポールだ。 米アルファベット子会社のベリリー・ライフサイ
   エンスシズはシンガポール当局と協力し、感染したオスの蚊のみを放つ事業をしている。 2月から放出
   地域を広げ、同国の全世帯の3~4割をカバーする計画だ。

  感染したオスと非感染のメスが交尾すると「細胞質不和合」という現象が起きる。 詳しい仕組みは不明だ
   が卵がふ化できなくなり、次世代を減らせる。 先行して実施した地域では蚊の数が約9割減り、住民が
   デング熱にかかるリスクが最大約8割減った。 オスとメスの両方を放つ方式では蚊が減らないため、市
   民の理解を得にくい面があった。
  課題も見えてきた。 同国当局によると、同国のネッタイシマカにボルバキアを感染させても、蚊の数を減
   らさないとデング熱の感染を減らす効果は弱かったという。 同じネッタイシマカでも地域差があるよう
   だ。 長期的な効果の評価もこれからになる。

  生態系への影響はどうか。 東京慈恵会医科大学の“嘉糖教授”は「人の生活圏にいる蚊は人の血を吸って増
   える。 人と密接な関係があり生態系との関係は薄い。 数が減っても影響はほとんどないだろう」と言
   う。 愛媛大学の“渡辺教授”は「ボルバキアは蚊の放出地域には外来生物になる。 ただ人の健康を守る
   ことを差し置いて指摘するのはエゴでもある」と話している。