本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

表現の技術

2023-07-02 07:45:09 | Weblog
■本
51 オリンピックにふれる/吉田修一
52 住宅営業マンぺこぺこ日記/屋敷 康蔵
53 表現の技術/高崎卓馬

51 出場を目指したが叶わなかったアスリートなど、オリンピックに間接的に影響を受けたアジア各国の人々を描いた短編小説集です。オリンピックというアスリート最高峰のイベントの姿が垣間見れるため、どの小説も挫折と、それとともに過ごすその後の日常生活がテーマとなっているような気がします。寂しさと、人間の生命力がうっすらと感じられる文章で、読んでいて心の底が少し温かくなりました。このあたりは、吉田修一さんの技巧が冴えています。実際の東京オリンピックの高揚と、その後の後味の悪さを予言しているかのような作品です。

52 ハウスメーカーさんとお仕事をすることがたまにあるので、その営業実態を知りたくて読みました。ローコスト住宅営業の過酷さが、ユーモアを交えつつ語られています。成果報酬比率の多い給与体系や、キャンペーンの仕組みなどを知ることができて参考になりました。人生で最も高い買い物と言われる住宅という商品の性質上、顧客と営業の方の人間性丸出しの必死のやり取りが興味深いです。東日本大震災復興後のエリアが舞台なので、受注に苦しむ姿だけでなく、殺到する注文を処理する上での悩みも多く語られている点が印象的です。結局は人を使い捨てにすることによって成り立っているビジネスモデルだと思いますので、昨今の労働力不足を受けて、人を大切にする文化が企業に更に根付くことを祈るのみです。

53 カンヌ映画祭で役所広司さんが男優賞を獲得した、ヴィム・ヴェンダース監督の「Perfect Days」という映画に、電通のクリエイターの高崎卓馬さんが共同脚本など、深く関わってらっしゃることを知って読みました。この本は若手クリエイター向けに書かれた、高崎さんの主にCM企画上の方法論について書かれた本です。作品自身の面白さを追求する本質的な視点と、深く強く細かく多量に思考する姿勢に圧倒されます。方法論以上に、プロとして一流の仕事をする上では、ここまで徹底的に取り組まないといけないのだ、という心構えの方が参考になりました。映画「ダイ・ハード」の内容を細かく要素分解して、脚本の基本構造について分析され、時代劇や恋愛ものに再構成される部分は特に面白かったです。「変化が大きいときは、変えるべきではないものをまず見つめる。」とし、「それは人の心です。」と言い切られているところも痺れました。優秀なクリエイターはセンスや直感力に優れたところも当然あるのだと思いますが、それ以上に緻密に論理的に思考され尽くしているということがよくわかります。広告という仕事に対する熱い思いも伝わってきて、もっと若いときに読みたかったと思える本です。


■映画
43 引っ越し大名!/監督  犬童 一心

 星野源さん主演による時代劇です。国替えという大事業の担当を押し付けられた内気な武士が、周囲の助けを借りながら成長しつつやり遂げる姿を、コメディタッチで描いています。財政難やリストラ、無責任な上司など、現代社会にも通じる組織人の悩みが巧みに描かれています。子孫に負担を押し付ける過度な借金への慎み深い態度も、昨今の日本政治への批判として効いています。不器用ながらも担当者として、汚れ仕事も厭わず責任を果たそうとする主人公の姿勢が、多くの共感を呼ぶと思います。引越や農業への敬意も感じられ、働く人への目配りもできています。終盤が少し冗長だった点が少し残念でしたし、高橋一生さん演じる主人公の武闘派幼馴染は、もう少しマッチョな俳優さんの方が良かったと思いました。古き良き日本を感じさせるよくある人情時代劇ではありますが、現代的なマーケティングも行き届いている、完成度の高い作品です。
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