■本
49 忘れられたワルツ/絲山 秋子
50 小松とうさちゃん/絲山 秋子
49 絲山 秋子さんの久しぶりの短編集です。阪神大震災の影響を受けた村上春樹さんの「神の子どもたちはみな踊る」のように、直接震災について触れられることはないものの、東日本大震災の影響が色濃く出ている作品が多いです。私は人生の秘密をずばっと切り取るような絲山さんの登場人物のモノローグが大好きなのですが、この作品集にも「少なくとも種の保存のためには生きていない」、「しかし勝ち負けを放棄して内向きになったとき、自分のための努力は実るんじゃないか」など、魅力的な言葉が満載です。後半の作品になるにつれて、これまた絲山さんの特徴であるシュールな世界観の作品が続き、絲山さんの引き出しの多さが堪能できるよい作品です。
50 勢いついて引き続き絲山秋子さんの作品です。こちらは、タイトル作の中編小説と、シュールな短編、そしてタイトル作の元になった超短編といった構成です。タイトル作は、アラフィフ男女の恋愛物語と、そのイケてないおじさんを支える飲み友達との友情を描いた作品です。親と一緒に自宅に住む50過ぎの非正規大学講師が、魅力的な同世代の女性と新幹線で偶然に隣の席になってから恋愛に発展するという、おじさんにとっては夢のような話ですが、その女性の仕事も含めて結構ありえない話なのに、妙にリアルに感じます。世間的にはイケてない人でも、それなりに幸せに生きていくことができるという優しい眼差しに満ちた作品です。元ネタの超短編で書かれていたように、最悪を想定していた未来よりも「不思議とちょっとだけマシだよな」と言えるような、控えめでポジティブな希望を与えてくれます。
■CD
30 A Moon Shaped Pool/Radiohead
31 The Getaway/Red Hot Chili Peppers
30 5年ぶりのRadioheadの新作です。今回もRadioheadサウンドとしか言いようのない独自の世界観ですが、ストリングスやアコースティックギターといったオーガニックな音をより一層重視しているところが、新機軸だと思います。一つ一つの音に対するこだわりが強く感じられ、全編緊張感たっぷりで思わず背筋を伸ばして聴きたくなります。「Hail To The Thief」以降の3作品は、その名声に見合うようなスケール感を感じる作品でしたが、この作品では少し、「Kid A」や「Amnesiac」といった問題作当時の、パーソナルな作風の方に少し揺り戻されたような印象も持ちました。いずれにせよ、Radioheadの新作をこうして聴けるだけでも幸せなことだと思います。
31 こちらも5年ぶりのレッチリの新作。全編を通して温かく優しい雰囲気が漂う、円熟味のある作品となっています。ゴリゴリとした攻撃的なロック・チューンが少ないので初期のファンには不満を感じる人がいるかもしれませんが、ヒップホップとR&Bしかヒットしない昨今の音楽シーンの中で、久しぶりに真っ当なロックアルバムを聴けたという充実感を感じる傑作です。仕事に疲れた夜道で歩きながら聴くと本当に癒されます(これがこのバンドにとっての褒め言葉になるのかはよくわかりませんが)。
■映画
48 エンド・オブ・ザ・ワールド/監督 ローリーン・スカファリア
地球への小惑星の衝突による人類滅亡前数か月間を描いた作品です。あらすじだけを聞くと、暗い雰囲気の作品をイメージしますが、主演のスティーヴ・カレルのとぼけた演技もあり、意外とコミカルでゆるい感じで物語が進みます。同じ題材の、ラース・フォン・トリアー監督の「メランコリア」(タイトルからして「憂鬱」ですから)が、全編暗い雰囲気(あまりに陰鬱過ぎて逆にコミカルな場面もありますが)だったのと比べると対象的です。ヒロインのキーラ・ナイトレイも自由奔放なチャーミングな演技をしていて、これも「メランコリア」で放尿シーンまで撮影されていたキルスティン・ダンストの鬼気迫る演技とは対象的です。このようにいろんな意味で衝撃的な「メランコリア」と比べられる不幸な作品ではありますが(エンディングも、「メランコリア」の身も蓋もない終わり方に比べると、この作品の方がハートウォーミングでよく考えられていると思うのですが、どちらが印象に残るかというと「メランコリア」の方になってしまいます)、愚直に各エピソードやキャラクターが丁寧に描かれていて、隠れた秀作と呼べる作品だと思います。
49 忘れられたワルツ/絲山 秋子
50 小松とうさちゃん/絲山 秋子
49 絲山 秋子さんの久しぶりの短編集です。阪神大震災の影響を受けた村上春樹さんの「神の子どもたちはみな踊る」のように、直接震災について触れられることはないものの、東日本大震災の影響が色濃く出ている作品が多いです。私は人生の秘密をずばっと切り取るような絲山さんの登場人物のモノローグが大好きなのですが、この作品集にも「少なくとも種の保存のためには生きていない」、「しかし勝ち負けを放棄して内向きになったとき、自分のための努力は実るんじゃないか」など、魅力的な言葉が満載です。後半の作品になるにつれて、これまた絲山さんの特徴であるシュールな世界観の作品が続き、絲山さんの引き出しの多さが堪能できるよい作品です。
50 勢いついて引き続き絲山秋子さんの作品です。こちらは、タイトル作の中編小説と、シュールな短編、そしてタイトル作の元になった超短編といった構成です。タイトル作は、アラフィフ男女の恋愛物語と、そのイケてないおじさんを支える飲み友達との友情を描いた作品です。親と一緒に自宅に住む50過ぎの非正規大学講師が、魅力的な同世代の女性と新幹線で偶然に隣の席になってから恋愛に発展するという、おじさんにとっては夢のような話ですが、その女性の仕事も含めて結構ありえない話なのに、妙にリアルに感じます。世間的にはイケてない人でも、それなりに幸せに生きていくことができるという優しい眼差しに満ちた作品です。元ネタの超短編で書かれていたように、最悪を想定していた未来よりも「不思議とちょっとだけマシだよな」と言えるような、控えめでポジティブな希望を与えてくれます。
■CD
30 A Moon Shaped Pool/Radiohead
31 The Getaway/Red Hot Chili Peppers
30 5年ぶりのRadioheadの新作です。今回もRadioheadサウンドとしか言いようのない独自の世界観ですが、ストリングスやアコースティックギターといったオーガニックな音をより一層重視しているところが、新機軸だと思います。一つ一つの音に対するこだわりが強く感じられ、全編緊張感たっぷりで思わず背筋を伸ばして聴きたくなります。「Hail To The Thief」以降の3作品は、その名声に見合うようなスケール感を感じる作品でしたが、この作品では少し、「Kid A」や「Amnesiac」といった問題作当時の、パーソナルな作風の方に少し揺り戻されたような印象も持ちました。いずれにせよ、Radioheadの新作をこうして聴けるだけでも幸せなことだと思います。
31 こちらも5年ぶりのレッチリの新作。全編を通して温かく優しい雰囲気が漂う、円熟味のある作品となっています。ゴリゴリとした攻撃的なロック・チューンが少ないので初期のファンには不満を感じる人がいるかもしれませんが、ヒップホップとR&Bしかヒットしない昨今の音楽シーンの中で、久しぶりに真っ当なロックアルバムを聴けたという充実感を感じる傑作です。仕事に疲れた夜道で歩きながら聴くと本当に癒されます(これがこのバンドにとっての褒め言葉になるのかはよくわかりませんが)。
■映画
48 エンド・オブ・ザ・ワールド/監督 ローリーン・スカファリア
地球への小惑星の衝突による人類滅亡前数か月間を描いた作品です。あらすじだけを聞くと、暗い雰囲気の作品をイメージしますが、主演のスティーヴ・カレルのとぼけた演技もあり、意外とコミカルでゆるい感じで物語が進みます。同じ題材の、ラース・フォン・トリアー監督の「メランコリア」(タイトルからして「憂鬱」ですから)が、全編暗い雰囲気(あまりに陰鬱過ぎて逆にコミカルな場面もありますが)だったのと比べると対象的です。ヒロインのキーラ・ナイトレイも自由奔放なチャーミングな演技をしていて、これも「メランコリア」で放尿シーンまで撮影されていたキルスティン・ダンストの鬼気迫る演技とは対象的です。このようにいろんな意味で衝撃的な「メランコリア」と比べられる不幸な作品ではありますが(エンディングも、「メランコリア」の身も蓋もない終わり方に比べると、この作品の方がハートウォーミングでよく考えられていると思うのですが、どちらが印象に残るかというと「メランコリア」の方になってしまいます)、愚直に各エピソードやキャラクターが丁寧に描かれていて、隠れた秀作と呼べる作品だと思います。