本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

The Getaway

2016-06-25 06:27:03 | Weblog
■本
49 忘れられたワルツ/絲山 秋子
50 小松とうさちゃん/絲山 秋子

49 絲山 秋子さんの久しぶりの短編集です。阪神大震災の影響を受けた村上春樹さんの「神の子どもたちはみな踊る」のように、直接震災について触れられることはないものの、東日本大震災の影響が色濃く出ている作品が多いです。私は人生の秘密をずばっと切り取るような絲山さんの登場人物のモノローグが大好きなのですが、この作品集にも「少なくとも種の保存のためには生きていない」、「しかし勝ち負けを放棄して内向きになったとき、自分のための努力は実るんじゃないか」など、魅力的な言葉が満載です。後半の作品になるにつれて、これまた絲山さんの特徴であるシュールな世界観の作品が続き、絲山さんの引き出しの多さが堪能できるよい作品です。

50 勢いついて引き続き絲山秋子さんの作品です。こちらは、タイトル作の中編小説と、シュールな短編、そしてタイトル作の元になった超短編といった構成です。タイトル作は、アラフィフ男女の恋愛物語と、そのイケてないおじさんを支える飲み友達との友情を描いた作品です。親と一緒に自宅に住む50過ぎの非正規大学講師が、魅力的な同世代の女性と新幹線で偶然に隣の席になってから恋愛に発展するという、おじさんにとっては夢のような話ですが、その女性の仕事も含めて結構ありえない話なのに、妙にリアルに感じます。世間的にはイケてない人でも、それなりに幸せに生きていくことができるという優しい眼差しに満ちた作品です。元ネタの超短編で書かれていたように、最悪を想定していた未来よりも「不思議とちょっとだけマシだよな」と言えるような、控えめでポジティブな希望を与えてくれます。


■CD
30 A Moon Shaped Pool/Radiohead
31 The Getaway/Red Hot Chili Peppers

30 5年ぶりのRadioheadの新作です。今回もRadioheadサウンドとしか言いようのない独自の世界観ですが、ストリングスやアコースティックギターといったオーガニックな音をより一層重視しているところが、新機軸だと思います。一つ一つの音に対するこだわりが強く感じられ、全編緊張感たっぷりで思わず背筋を伸ばして聴きたくなります。「Hail To The Thief」以降の3作品は、その名声に見合うようなスケール感を感じる作品でしたが、この作品では少し、「Kid A」や「Amnesiac」といった問題作当時の、パーソナルな作風の方に少し揺り戻されたような印象も持ちました。いずれにせよ、Radioheadの新作をこうして聴けるだけでも幸せなことだと思います。

31 こちらも5年ぶりのレッチリの新作。全編を通して温かく優しい雰囲気が漂う、円熟味のある作品となっています。ゴリゴリとした攻撃的なロック・チューンが少ないので初期のファンには不満を感じる人がいるかもしれませんが、ヒップホップとR&Bしかヒットしない昨今の音楽シーンの中で、久しぶりに真っ当なロックアルバムを聴けたという充実感を感じる傑作です。仕事に疲れた夜道で歩きながら聴くと本当に癒されます(これがこのバンドにとっての褒め言葉になるのかはよくわかりませんが)。


■映画
48 エンド・オブ・ザ・ワールド/監督 ローリーン・スカファリア

 地球への小惑星の衝突による人類滅亡前数か月間を描いた作品です。あらすじだけを聞くと、暗い雰囲気の作品をイメージしますが、主演のスティーヴ・カレルのとぼけた演技もあり、意外とコミカルでゆるい感じで物語が進みます。同じ題材の、ラース・フォン・トリアー監督の「メランコリア」(タイトルからして「憂鬱」ですから)が、全編暗い雰囲気(あまりに陰鬱過ぎて逆にコミカルな場面もありますが)だったのと比べると対象的です。ヒロインのキーラ・ナイトレイも自由奔放なチャーミングな演技をしていて、これも「メランコリア」で放尿シーンまで撮影されていたキルスティン・ダンストの鬼気迫る演技とは対象的です。このようにいろんな意味で衝撃的な「メランコリア」と比べられる不幸な作品ではありますが(エンディングも、「メランコリア」の身も蓋もない終わり方に比べると、この作品の方がハートウォーミングでよく考えられていると思うのですが、どちらが印象に残るかというと「メランコリア」の方になってしまいます)、愚直に各エピソードやキャラクターが丁寧に描かれていて、隠れた秀作と呼べる作品だと思います。
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サイロ・エフェクト

2016-06-19 12:09:26 | Weblog
■本
48 サイロ・エフェクト/ジリアン テット

 複雑化・高度化した社会に対応するために、組織が専門知識を持った集団へと細分化され、縄張り意識や日常業務の忙しさによる変化への拒否感のためにそれぞれの組織の情報共有や協力関係が薄れる現象(サイロ・エフェクト-日本では蛸壺化と言われることが多い-)が生じ、結果として避けられたはずのリスクや変化への対応が遅れ、大きな損害を生じてしまう(あるいは、逆に競合大企業のこのようなサイロ・エフェクトを逆手に取って、ベンチャー企業が成功をおさめる)事例について書かれた本です。筆者が大学時代に文化人類学を専攻していたこともあり(これほど、ピエール・ブルデューという名前が頻出するビジネス書は他にはないと思います)、フィールドワーク的な視点から、Walkmanがipodに市場を奪われたソニーやサブプライム危機を避けられなかった金融関係者、逆にサイロ・エフェクトを避ける仕組みを企業文化として埋め込むことに成功しているフェイスブックなど、各事例で主要人物が取った行動が詳細に記述されています。少し前に業務改善の取り組みではやった「エスノグラフィ」の経営論、組織論版といった感じかもしれません。そいうった性格の本のために、かなり冗長な感じがしますが、そこから導かれる結論(特に組織が当たり前と思っている分類法を疑う、と、語られていないものにこそ注目する、という視点は個人的に非常に参考になりました)は示唆に富んでいます。結局、専門化と統合化のバランスをどうとるかという話だと思うのですが、その難しさについてあらためて考えさせられます。


■映画
46 海街diary/監督 是枝裕和
47 野獣死すべし/監督 村川透

46 原作漫画をすでに読んでいる家族はキャスティングが変だと酷評していましたが、過度にドラマチックに陥らない地に足の着いた演出で、個人的には好感が持てました。強力な4人の女優をキャスティングした作品で、ここまで落ち着いた作品(例えばもっと、喜怒哀楽を強調した演技が頻出する映画になる可能性も高かったと思います)にするのは、製作者側にかなり勇気が必要だったと思います。吉田秋生さんの原作がそうなのかもしえませんが、わかりやすい悪人が登場せず、安易な二元論に陥っていない点も味わい深いです。三女の恋人役でレキシの池田貴史さんが出ているところもファンとしてはうれしかったです(うちの家族もこのキャスティングだけは絶賛していました)。原作がもうすぐ完結するそうなので、完結したら一気に読みたいと思います。

47 監督も主演の松田優作さんも観客を無視して、自分たちのやりたいようにストーリーや演技を作り上げていて、とても尖った作品です。終盤に向けてテンションがどんどんと高まるのに反比例して、ストーリー展開は破綻していくので(あまりにも都合よく主要人物が偶然に出会いすぎますし、終盤は観客に理解してもらおうという意思すら放棄しているような気がします)、万人受けする作品ではないですが、とにかく鬼気迫るパワーは伝わってきます。松田優作さんの違和感タップリ(あんなに存在感のある無表情はありえません)の不気味な演技はいろんな意味で歴史に残ると思います。個人的には終盤のハイテンションな演技よりも、中盤までのひたすら押さえた(その一方で溢れだす存在感は過剰な)演技の独自性は凄いと思いました。ハイテンショングランプリのココリコ田中さんは間違いなく、この作品の影響を受けていると思います。
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戦後政治を終わらせる

2016-06-11 09:31:46 | Weblog
■本
47 戦後政治を終わらせる/白井 聡

 前半は白井さんを有名にした「永続敗戦論」(敗戦をしっかりと認めないことにより、いつまでも米国との従属関係から脱却できない日本の課題が示されています)の復習ですが、中盤以降は「新自由主義」と絡めた分析で、「右傾化」、「反知性主義」、「排外主義」といった問題が、安倍政権下の日本だけでなく、「トランプ現象」に象徴的なように、近代資本主義の行き詰まりによる全世界的な課題であることが示されていて、新しい展開を見せてくれます。その非常に知性的でシニカルな物言いのために、これまではどこか傍観者的な目線を感じることが多かった白井さんが、この本では「革命」という過激な言葉を用いてまで、我々の自己変革を促そうという当事者意識を見せていて、これからの日本に対する強い危機意識を感じます。アメリカへの従属を続けるのか否かという争点が健在化している、「沖縄から考える」という主張も含め、どこか他人任せで他人事な沖縄以外の日本国民への苛立ちも強く感じ、次の選挙での投票からでも、より深く今後の日本について考えねばならない、という気持ちにさせてくれる力強い本です。


■CD
29 藍色ミュージック/indigo la End

 聴いている方が恥ずかしくなるような、ド直球のラブソングが満載です。キャッチーだけど、どこかプログレッシブ・ロックっぽい凝った曲が多く、川谷絵音さんの才気が迸りまくっています。ただの流行りではすまされない、引っかかりのある曲ばかりで、繰り返し聴きたくなります。突然入る「ベタな語り」も含めて、照れずにやり抜くってことも一つの才能であることに改めて気づかされる作品です。


■映画
44 ソロモンの偽証 前篇・事件/監督 成島 出
45 ソロモンの偽証 後篇・裁判/監督 成島 出

44、45 原作者の宮部みゆきさんのストーリー展開が巧みなために、結論はあらかじめある程度提示されているにもかかわらず、グイグイと引き込まれます。特に後篇の裁判シーンは有名なTVゲームの「逆転裁判」のように次々と新事実が明らかにされ、検事側、弁護士側の優位性が次々と入れ替わり手に汗を握ります。被害者の少年以外は、登場人物の行動の動機が丁寧過ぎるほど丁寧に描かれているので、それぞれに共感でき、悲劇にもかかわらず後味は悪くないです。それだけに、被害者の少年のモンスターぶりが印象的で、原作ではもう少し丁寧に描かれているのかもしれませんが、彼の行動や発言に対する違和感が強く残ります。オーディションで選ばれた、主要登場人物の学生も、その脇を支える松重豊さん、小日向文世さん、黒木華さんといった先生役の役者さんの演技も素晴らしく、現実離れした設定にもかかわらず、とてもリアルです。主題歌がU2の「ウィズ・オア・ウィズアウト・ユー」だったのは、バブル期が舞台だからでしょうか?
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人工知能は人間を超えるか

2016-06-04 12:00:21 | Weblog
■本
45 人工知能は人間を超えるか/松尾 豊
46 プリンス論/西寺 郷太

45 人工知能がどこまで進化しているのかについて、私のような素人にもわかるように教えてくれるよい本です。人工知能が自分自身でものごとの特徴となる表現を学習し、そのものごとの概念について理解できるようになった点がブレークスルーであるということがよくわかりました。「ディープ・ラーニング」、「オントロジー」、「ニューラルネットワーク」といった、最近よく聞く概念についての理解も深まります。人工知能研究のこれまでの歴史と到達点(何ができて、何ができないか)、そして、今後私たちの生活や仕事にどのような影響がどのタイミングで生じ得るのか、についても解説してくれていて、自分ごととして考えることができます。何より、松尾さんが人工知能研究が本当に好きなことと、その技術で日本の競争力を高めようという強い意気込みをお持ちなことが伝わってきて、ネガティブな未来予想をされることもある人工知能ですが、その未来についてポジティブな期待を持ってしまいます。高い志をもった頭のよい人が書いた本は、なじみの薄い分野でも楽しく読める、ということに改めて気づかされます。

46 プリンスが残念ながら急死してしまったので、その追悼の意も込めて読みました。プリンスのオリジナル作品を全て持っている私としては、時系列で作品を解説しつつ、彼の生い立ちやエピソードについても書かれているで、各作品の音を思い出しながら楽しく読むことができました。プリンスが「ウィ・アー・ザ・ワールド」のレコーディングになぜ参加しなかったのかや、来日公演時のエピソードなど、コアな話題にも触れてくれている点もよいです。プリンス入門者から熱烈なファンまで幅広い層が楽しめる本だと思います。プリンスの各作品について、一般的な評価だけでなく、著者である西寺さんご自身の受け止め方が書かれている点も興味深いです。西寺さんのバンド「ノーナ・リーヴス」についてはよく知らないのですが、このバンドの作品も聴いてみたくなりました(西寺さんは、岡村靖幸さんのシングル曲「ビバナミダ」の詞を共作されているようです)。


■CD
28 Time Out of Mind/Bob Dylan

 引き続きボブ・ディランの作品にはまっています。この作品は、グラミー賞で最優秀アルバム賞も獲得し、90年代の彼の最高傑作と言われる傑作です。ダニエル・レノアがプロデューサーとして参加していますが、以前に組んだ「Oh Mercy」という作品が、レノアの影響が強かった印象だったのと比べると、ボブ・ディランの色がより強く出ている気がします。リラックスした演奏に乗せて、だみ声で訥々と語りかけるように歌ってくれて胸にしみます。特に、アデルもカバーした「Make You Feel My Love」が印象的で、これだけの名曲を勿体つけずさらっと歌っているところが格好いいです。


■映画
42 マージン・コール/監督 J・C・チャンダー
43 デット・プール 監督 ティム・ミラー

42 リーマン・ショックとは明言されていませんが、金融危機の予兆を知った投資銀行社員達がどのような行動を取ったか、を描いた映画です。今年のアカデミー作品賞にノミネートされた「マネー・ショート」では、醜悪に描かれていた投資銀行社員の中にも、自分の会社を守ろうとする矜持を持った人や、自分のキャリアに不安を感じて悩む人など、必ずしも強欲一辺倒の人ばかりでなかったことが(もちろんお金大好きな人がたくさん登場しますが)わかります。そのような、エリート特有の傲慢さと良心との間で悩むマネージャー役をケヴィン・スペイシーが哀愁を漂わせながら存在感タップリに演じています。日本では劇場未公開だったことからもわかるように、決して派手な見せ場のある映画ではありませんが、丁寧に修羅場での人間のあり方を演じた秀作だと思います。

43 ヒーロー側のえぐい殺戮シーン、卑猥な下ネタ満載のセリフ、突然観客に話かける主人公、といったルール無用の痛快な作品です。最近のヒーローものの主人公は、葛藤やトラウマだらけですが、この作品は一応は自分の醜くなった姿を恋人に見せたくないという葛藤はあるものの、それ以外の他人に対しては一切遠慮なくひたすら自分勝手にふるまいます。ストーリーだけを追いかけると、ダークな要素が満載ですが、この自由な主人公の破天荒さに、清く正しいヒーローよりもかえって突き抜けた明るさを感じてしまいます。ストーリー展開も自分を騙した悪人への復讐という極めてニューラルシンプルなもので、頭をほとんど使わずスピーディーな作品世界に心地よく身を委ねられます。冒頭に流れるキュートな曲をバックにした出血だらけの戦闘シーンやクライマックスでシカゴのバラードが突然早回しされるなど、毒の効いた音楽の使い方も印象的です(ワム!の楽曲の使い方もかなり笑えます)。ありきたりなヒーローものは作りたくない、という製作者側の強い思いが伝わってくる、非常にパワフルな作品です。何も考えずに笑って映画館から帰ることのできる、最近珍しいひたすら楽しい作品です。
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