本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

悩みどころと逃げどころ

2016-07-29 05:16:08 | Weblog
■本
58 すべての仕事はクリエイティブディレクションである。/古川 裕也
59 悩みどころと逃げどころ/ちきりん、 梅原 大吾

58 九州新幹線全線開通時の、沿線に集まった開通を祝う人たちの様子を映したCMなどで有名な、クリエイティブディレクターの古川さんによる「クリエイティブディレクション」という仕事の内容を体系的に説明されている本です。企業のコミュニケーション課題の解決から始まったこの仕事が、アイデアで社会のさまざまな問題を解決していくというところまで進化していることがよくわかります。また、先述した九州新幹線のキャンペーンなど、なじみのあるCMの制作秘話のようなものも惜しみなく教えてくれているので興味深いです。実際にこの本に書かれているような仕事を実現するには並々ならぬ努力が必要だと思いますが、この高い志は日々の仕事を行う上でも意識する必要があると思いました。

59 社会派ブロガーちきりんさんと世界一になったことのあるプロゲーマーの梅原さんとの、主に教育をテーマにした対談本です。基本的には、今の日本の学校教育に忠実に従っても幸せになれないので、自分が好きで頑張れる領域を見つけて、人と違っても楽しく生きる自分の居場所を見つけるべし、という本と私は理解しました。本人もおっしゃっている通り、ちきりんさんが煽り気味で語っているのに対し、梅原さんが自分が好きで頑張れる領域を見つけたとしても、その分野で必ずしも自分が成功できる保証はなく、その努力が無駄になるのでは、という不安が常に付きまとうのでそれはそれで結構つらい、という意見を述べられバランスを取られているところが興味深かったです。単に煽るだけでなく、それなりの代償を払わないと自分の欲しいものは得られないという、当たり前のことを若干トリッキーな表現ながらも誠実に伝えてくれる本だと思います。この対談のきっかけになった、ちきりんさんが絶賛した梅原さんの本も読んでみたいと思います。


■映画
55 アウトロー/監督 クリストファー・マッカリー

 トム・クルーズが元陸軍捜査官の流れ者の主人公を演じた推理サスペンスものです。トム・クルーズの演技はいつもの演技から甘さを抜いた感じで、シリーズもののベストセラー小説の映画化ということもあってキャラクターがしっかりしているので、シリーズ化もありそうです。ストーリーの方も、名作「ユージュアル・サスペクツ」でアカデミー賞脚本賞を受賞したクリストファー・マッカリーの監督作品ということで、序盤から巧みに伏線が張り巡らされ、観客の予想を裏切る展開で作品世界に引き込まれていきます。ただ、クライマックスのアクションシーンはかなり淡泊で、主人公ジャック・リーチャーの超人ぶりを表したかったのだと思いますが、黒幕との対決もあっけなく決着がつき、物足りなさが残ります。王道のサスペンス大作になり得るスタッフの作品だったので少し残念です。
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THERE'S ONE IN EVERY CROWD

2016-07-23 09:30:41 | Weblog
■本
57 夜を乗り越える/又吉 直樹

 芥川賞作家、ピース又吉さんによる読書論。又吉さんの読書体験や「火花」の執筆した背景が書かれているだけでなく、近代文学、現代文学の書評集としても楽しめます。本に対する又吉さんの思いが熱すぎるほど伝わってきて、その熱さのあまりギャグも滑りがちです。「10年くらい人生を棒に振ったら、『人生十年棒に振った』という武器を手にすることができます。」など又吉さんらしい、ドキッとする表現が随所にあり、彼の人生観も垣間見れて興味深いです。私は同じ本を繰り返し読むことはあまりしないのですが、この本を読んで同じ本を繰り返し読むことの意味(以前に理解できなかった箇所ができるようになり、自分の成長度合を測ることができる、など)に気づかされたので、好きな本をもう一度読んでみたいと思います。また、あまり本を読まない息子たちにもこの本を勧めようと思います。


■CD
36 ELTON JOHN/ELTON JOHN
37 PLANET WAVES/BOB DYLAN
38 Workingman's Dead/The Grateful Dead
39 Captain & Me/The Doobie Brothers
40 CHICAGO/CHICAGO VI
41 CHICAGO/CHICAGO VIII
42 CHICAGO/CHICAGO XI
43 BECK BOGERT APPICE/BECK BOGERT APPICE
44 ROXY MUSIC/STRANDED
45 ERIC CLAPTON/THERE'S ONE IN EVERY CROWD

またまた、ディスクユニオンの中古盤100円セールでまとめ買いです。

36 言わずとしれたエルトン・ジョンの出世作。冒頭の「Your Song」から佳曲揃いです。シンプルな構成の楽曲と、エルトン・ジョンの若々しい声が見事に調和しています。2作目にしてすでに、その後数十年通用する自分のスタイルのコアを完成させているところが凄いです。間違いなく天才です。

37 引き続きボブ・ディラン作品全制覇を目指して聴いております。この作品はディランにとって初の全米ナンバーワンアルバムとなった作品で「Blood on the Tracks」、「Desire」と並ぶ70年代の代表作だと思います。ザ・バンドをバックに従え、1曲目からまさに、ディランといった独特の歌唱法(長渕剛さんがこの歌い方に影響を受けていることがよくわかります)が印象的です。ヒリヒリとした緊迫感はありませんが、リラックスしたバンドアンサンブルが楽しめる作品です。

38 ボブ・ディランと並ぶアメリカンロック大御所のグレイトフル・デッドの作品も、図書館で借りたり、サブスクリプション系のサービスを利用したりしながら、全作品を追っかけようと思っています。ここ数年、録音自由、ファンコミュニティへの手厚いおもてなし、など、その独自のプロモーション手法にマーケティング業界も注目していますし。この作品はグレイトフル・デッドの代表作として挙げられることの多い「Live/Dead 」の次に1970年に発表されたスタジオアルバムです。こちらもリラックスした雰囲気で、ヴォーカルとバックヴォーカルとの美しいハーモニーが魅力的です。

39 ドゥービー・ブラザーズ初期の代表作です。マイケル・マクドナルド加入後はドラマティックな構成の洗練されたバンドへと変貌しますが、この作品は軽快なギターとグルーヴ感たっぷりのリズムセクション、そして力強く野性味あふれるヴォーカルが魅力的です。ヒット曲「Long Train Runnin」から「China Grove」へと流れる展開は、「ザ・アメリカン・ミュージック」という感じで、聴いていてテンションが上がります。

40~42 ブラス・ロックの名作との評判の高い5作目までと、デイヴィッド・フォスターのプロデュ―スによりバラードヒットを連発した16作目以降の作品との間の作品で、シカゴの長いキャリアの中でもあまり注目されない作品群です。とはいえ、本格的な低迷期は12作目以降なので、6作目では「Just You 'n' Me」、「Feelin' Stronger Every Day」、8作目では「Old Days」、11作目では「Baby, What a Big Surprise」といった印象的なTOP10シングルをコンスタントに連発しています。ただ、この4つのシングルが全て、ピーター・セテラの手による甘いラブソングで、ロバート・ラムやテリー・キャスといった初期の骨太のロックチューンを生み出した2人の存在感が薄くなってきた時期とも言えます。時系列で聴くと紆余曲折はあるものの、ブラス・ロックからAORバンドへと変わっていく過程が垣間見れて興味深いです。アルバム全体としてのクオリティは差がありますが、どの作品にもキラー・チューンが一定数収録されているところにこのバンドの底力を感じます。

43 こちらも名盤と名高い作品です。ジェフ・ベックとバニラ・ファッジのメンバーが作った3ピースバンド。この1作だけで解散したということもあって、伝説的な位置づけになってますが、内容は至ってシンプルかつオーソドックスなロックサウンドです。ジェフ・ベックの奔放なギターと、力強くも堅実なドラムとベース、それに伸びやかなヴォーカルの組み合わせが絶妙です。

44 ロキシー・ミュージックの3作目。ブライアン・イーノ脱退直後の作品ということで、ブライアン・フェリーの美意識が全開の作品です。個人的には、洗練の極みに達した後期の「Avalon」がこのバンドの最高傑作だと思いますが、ブライアン・フェリーの美意識がまだ、青臭い部分がある分、不思議なパワーが漲っていて、このバンドの一番活力があった時期の作品だと思います。

45 リラックスした雰囲気の中にも確かな技術の裏付けがあり、海辺のレストランでライブ演奏を聴いているかのような、贅沢な気分になります。1曲目のゴスペル風の曲から一気に持っていかれます。「I Shot The Sheriff」のようなキラー・チューンがないので、このひとつ前の作品である「461 Ocean Boulevard」ほどは注目されることはありませんが、全体の完成度としてはこの作品の方が上だと思います。


■映画
53 インサイド・マン/監督 スパイク・リー
54 ホットロード/監督 三木 孝浩

53 知的な強盗犯が銀行に籠城し、警察との心理戦を繰り広げる、というよくある設定なのですが、事件後の人質(や犯人)との取り調べ状況が時折挟み込まれ、時系列が入り組んだ複雑な作品となっています。また、銃撃戦がほとんどなく、人質(犯人も)が突然解放されて事件が解決し、犯人が何を盗んだかもわからない、という点がユニークです。犯人と警察との心理戦に、ジョディ―・フォスター演じる敏腕弁護士がからむ展開もスリリングです。交渉人役のデンゼル・ワシントンは抜群の安定感ですが、現場指揮官のウィレム・デフォーが意外と普通の演技だったのが、ファンとしては物足りませんでした。伏線が巧みに張られ過ぎていて、どこで回収されたのかがわからず、消化不良感が残る点が少し残念ですが、最後までストーリー展開が読めず緊迫感があり、ありきたりな題材でオリジナリティーを随所に見せてくれる優れた作品だと思います。

54 私の妹もこの漫画を持っていたので、ストーリーはある程度記憶に残っていました。ストーリーの方は、原作にかなり忠実な印象で、80年代が舞台なので少し古臭い印象が残ります。現代風にリメイクしてもよかったのかもしれません。キャスティングの方は、14歳のヒロインを「あまちゃん」後の能年玲奈さんが、そのまま演じるにはかなり無理があった気がします。こちらも、キャラクター設定を大胆に変更してもよかった気がします。原作に忠実にあろうとし過ぎるあまり、原作が当時伝えたかったことが、かえって伝わりにくくなったのでは、と個人的には思いました。
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Cheetah EP

2016-07-16 10:17:41 | Weblog
■本
54 The Customer Journey/加藤 希尊
55 VRビジネスの衝撃/新 清士
56 天才/石原 慎太郎

54 セールスフォース・ドットコムさんがマーケティング・クラウドというソリューションを売るための本、という先入観があったのですが、意外とプロダクトのPR色は薄い本でした(宣伝会議さんと立ち上げられた「JAPAN CMO CLUB」という団体のPR色は強いですが)。実際のマーケッターが、自社ブランドのカスタマージャーニーをどのように考えているか、の事例が豊富にあり、当然、重要な部分は極めて簡略化されてぼかされていますが、「カスタマージャーニー」とはどのようなものか、を肌感覚で知るには参考になる本だと思います。序盤の「スマート化」、「コモディティ化」、「少子高齢化」といった環境変化の解説は蛇足なような気もするので、後半だけ読めばよいと思います。

55 VR(仮想現実-この本では誤訳という見解も紹介されていますが-Virtual Reality)がなぜ盛り上がっているのか、を国内外の主要プレイヤーの紹介と合わせて解説してくれ、とてもわかりやすく参考になる本です。VRからAR(拡張現実 Augmented Reality)、MR(複合現実 Mixed Reality)へと将来的には発展するというロードマップもわかりやすく、Google Glassなどのウェアラブルコンピュータにも、なぜ注目が集まっているか、も理解できます。一方、MRまで発展するには(現実をリアルタイムで解釈して、仮想世界と関連付けないといけないので)、めがねのような小さな端末にかなりのマシンスペックが要求され、実現までまだ、たくさんの課題があることもわかります。とりあえずはゲームや医療の世界から発展していきそうな気がしますが、注視すべき分野だと思いました。

56 内容よりも、政治に対する失望や無力感が高まっているこのタイミングで、敵対していると思われていた石原慎太郎さんが田中角栄さんを主人公にした小説を書いた、という事実が注目を集めているのだと思います。内容自体は、角栄さんが一人称で自分の人生を語るという形式で、読みやすいのですが文体は単調ですし、これと言って新しい事実が書かれているわけではなさそうです。そういう意味では石原慎太郎さんの時代を読む能力と、自己プロデュ―ス力の高さに改めて感嘆させられる作品です。石原慎太郎さんのあとがきや、お二人のこれまでの生きざまも含めての作品なのだと思います。


■CD
35 Cheetah EP/Aphex Twin

 プログラミングが困難なレア機材を用いての作品だそうです。AFX名義の前作「ORPHANED DEEJAY SELEK 2006-2008」がゴリゴリっとしたアッパーなテクノサウンドだったのと比較すると、Aphex Twin名義での前作「Computer Controlled Acoustic Instruments pt2 EP」から、アコースティックな要素をそぎ落としたような、ダウナーで情緒的な楽曲が多いです。最近、寝苦しい日が続いてますが、この作品を聴きながら眠るとよく眠れます。EPとありますが、長めの曲が多いので(極端に短いトラックも2つ収録されていますが)ボリューム感もあります。


■映画
52 マレフィセント/監督 ロバート・ストロンバーグ

 王道のおとぎ話のようで毒気が含まれていて、それでいて予定調和な感じも残る不思議な感覚のダーク・ファンタジーです。ツンデレな妖精マレフィセントを演じるアンジェリーナ・ジョリーのドヤ顔がとにかく印象的です。マレフィセントの敵役でかつ、かつての恋人でもある王様の外道ぶりもなかなかなもので、その子どものオーロラの純粋さを観ていると、人間は遺伝よりも環境が人格に影響を与える、という説に肩入れしたくなります。総じて男性キャラクターに魅力が全くなく、女性優位の作品です。善悪を併せ持つマレフィセントというキャラクターは今の時代に合っていると思いますが、ストーリーの方は「眠れる森の美女」の知られざる真相という展開は見事にはまっているのですが、もう少し毒気のある捻りがあってもよかったと思います。
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日本の未来を考えよう

2016-07-09 10:40:54 | Weblog
■本
53 日本の未来を考えよう/出口 治明
 
 具体的な数字を用いて、世界の他の国や時系列で比較することにより、日本の現在の課題を考えようという本です。さまざまな著書で、ファクトと数字で考えることの重要性を主張されている出口さんらしい本です。数字の見せ方はシンプルですが実に考え抜かれていて、出口さんの語りかけるような文体と相まって非常にわかりやすいです。日本の優れている点、劣っている点、現在は優れているが頑張らないと世界から置いていかれかねない点が具体的にわかります。人口減の中で、生産性が向上していない点、国の借金が他国と比較しても膨大である点、が特に課題であると私は認識しました。明日の参議院選挙の投票先を考える上でも参考になりました。


■CD
33 Vキシ/レキシ
34 Hitnrun Phase Two/Prince

33 とにかく楽しい作品です。歴史ネタを強引にこじつけた歌詞の相変わらずの馬鹿馬鹿しさと相まって、聴いていて幸せな気分になります。キュウソネコカミ、アジカンの後藤さん、ハナレグミ、チャットモンチ―など、豪華ゲストの特徴とレキシワールドの融合が絶妙です。ロック、ファンク、歌謡曲、ソウルなど、池ちゃんの音楽の引き出しの多さに感心します。個人的には後藤さんが「パカラ、パカラ」と軽快に歌われているところがツボでした。

34 こちらも音楽の引き出しの多さが楽しめます。前作同様既発シングル曲が多く収録されているためか実験的な曲は少なく、ポップミュージシャンとしてのプリンスの能力の凄さを素直に堪能できる作品です。プリンスの死後、過去の作品を繰り返し聴いていますが、最後まで全く才能が衰えなかった素晴らしいアーチストだったと思います。本当に偉大な才能を失ったという途方もない喪失感を感じます。ご冥福をお祈りいたします。


■映画
51 スター・トレック/監督 J・J・エイブラムス

 敵役も含めて人物描写が丁寧な一方で、ストーリーの方は結構単調な印象が残りました。好みの問題だと思いますが、これだけ有名なシリーズ作品なので、キャラクター説明はそこそこに、もう少しストーリー展開に時間を割いた方がよかったような気がします。宇宙での戦闘シーンや惑星のシーンの描写は大迫力でかつ美しく、J・J・エイブラムス監督らしい安定感に満ちています。シリーズものの一作目ということもあり、よくも悪くも無難な映画です。次作はさらにヒットしたらしいので、ストーリー上の深みが増したと勝手に想像しています。観るのが楽しみです。
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Sometimes I Sit & Think & Sometimes I Just Sit

2016-07-02 10:39:22 | Weblog
■本
51 アマゾンにも負けない、本当に強い会社が続けていること。/権 成俊
52 世界「最終」戦争論 近代の終焉を超えて/内田 樹、 姜尚中

51 距離の制約がなくなり、店舗ごとの比較も容易になるECでは、同じ商品やサービスの提供では結局価格競争になり、大手ECとの競争に勝てないので、差別化が必要。ただ、その差別化も誰にでもできるものならば結局は模倣され、これまた体力のある大手には勝てない。なので、他人が真似しにくい差別化を行うためには、他人が面倒くさいと思っても自分はそれほど苦にならないポイントで差別化要素を見つけなければならない。このような差別化要素を見出すには、結局は自分は何がやりたいのか、何がむいているのか、というビジョンが必要、といった趣旨の本です。こう書くととてもシンプルですが、具体的な事例も豊富ですし、3Cなどのなじみのあるフレームを使いながらも、そのフレームワークを緻密に応用されているので、とてもに参考になります。決して大上段の議論にせず、地道にできるところから議論を積み重ねられている点も実用的です。ECに限らず、ものやサービスの提供で商いをしている人には有益な本だと思います。

52 衝撃的なタイトルですが、テロや難民問題、そして、それを受けての各国での極右勢力の拡大など、グローバル化の進展により、顕在化したさまざまな問題にどのように対処していくか、について議論された本です。経済成長を前提としない共同体づくりなどといった、いつもの内田さん、姜さん節が全開ですが、アメリカだけでなく、フランス(ナチスに協力した過去を否定している点など)やシンガポール(経済成長に最適化された独裁的で強権的な政治体制など)の問題点について指摘されているところが興味深かったです。また、イスラム教徒の難民問題は、そもそも厳しい環境下で自然災害等により放浪したり、その放浪してきた人をお互いに助け合ったりすることが前提となっている文化なので、見知らぬ地に移動することにそれほど抵抗がない、(日本人だとここまで見知らぬ土地の他人の援助を期待して、移動することはできない)という要素もあり得るという見解も新鮮でした。いずれにしても、我々が予測困難な時代に生きていて、自分たちの行いを反省しながら、他者を受容しつつ、柔軟にものごとを考えることの重要性が増していることを痛感します。


■CD
32 Sometimes I Sit & Think & Sometimes I Just Sit/Courtney Barnett

 今年のグラミー最優秀新人賞にノミネートされたことで注目し、サブスクリプション系のサービスで愛聴していましたが、CDとしても持っておきたくなったので購入しました。久しぶりに活きのいいロックアルバムを聴いた気がします。歪んだギターサウンドに乗っかるやさぐれたヴォーカルといったスタイルもかかわらず、陰鬱にならずにどこか突き抜けた明るさが漂っているのは、彼女がオーストラリア出身だからかもしれません。シンプルな楽曲ばかりなのに、スケールの大きな開放感がありとにかく格好良いです。今のところ、個人的には今年聴いた中ではベストの作品です。


■映画
49 野性の証明/監督 佐藤 純彌
50 教授のおかしな妄想殺人/監督 ウディ・アレン

49 一人で戦車に立ち向かうエンディングは全く救いがなく、また、脈絡なく薬師丸ひろ子さんのイメージショットが挿入されるなど、とにかくハチャメチャな印象が残る作品ですが、不思議なパワーを感じます。ストーリーや演出は無茶苦茶でも、有名俳優のキャスティングとインパクトのある映像と音楽、そして大量の宣伝を実施すれば映画はヒットするという、当時の角川映画の大らかな傲慢さが感じられて微笑ましいです。このような癖の強い映画ですが、主演の高倉健さんがいつも通りの愚直なキャラクターを演じられていて安定感があります。この作品がデビュー作である薬師丸ひろ子さんの演技は、決してうまいとは言えないですが、今に通じる独特の存在感があり、天性の才能を感じてしまいます。

50 まさにウディ・アレンといった作品です。人生に意味を見いだせない知的だが神経質な主人公が、若干自分勝手なモノローグを連発します。この主人公が偶然耳にした悪徳検事の所業に怒り、殺そうとすることから、人生の意味を再発見するというシニカルな展開もウディ・アレンらしいです。この主人公をホアキン・フェニックスが独特の崩れた色気(腹が出過ぎです)で好演しています。この主人公の陰に引かれる女子大生をエマ・ストーンが溌剌と演じています。「アメイジング・スパイダーマン」シリーズでは、あまり魅力的に感じなかったのですが、ウディ・アレンの演出がいいのか、「バード・マン」などの話題作の出演で自信をつけたのか、とても魅力的でした。これまでの、ウディ・アレンのイメージを上回るような驚きがないためか、あまり評判はよくないようですが、誰と組んでも安定したクオリティの作品を生み出せるこの監督の底力のようなものが感じられ、個人的にはかなり好きな作品です。年齢のことを考えるとウディ・アレンの新作は、今後そう多くは観れないと思いますので、こういったこれまでの作風を総括するような作品を観られることは喜ばしいことだと思います。
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