■本
32 広告の仕事/杉山 恒太郎
33 他者と働く/宇田川 元一
32 元電通の伝説的なクリエーターで、初期のインターネット広告ビジネスの立ち上げにも関わられ、現在は老舗デザインファームの社長を務められている筆者による、タイトル通り「広告の仕事」の可能性と希望について語られている本です。山口周さんとの対談が収録されていたので読みました。オリンピック関連の不祥事で地に落ちた感のある「広告ビジネス」のポジティブな面に焦点が当てられています。「広告ビジネス」の黄金期にいい思いをした人が、ノスタルジックに過去を振り返っているという側面を超えて、「公共広告」や「プロボノ」といった、広告、デザインが「ソーシャル・グッド」に貢献できる可能性について語られています。杉山さんの時代を見抜く力(そして、時代の転換期にその現場に立ち会える「運の強さ」)と教養の深さが印象的です。個人的には、どちらも「物語」と訳される「ストーリー」と「ナラティブ」の違いについて、わかりやすく説明頂けた点が参考になりました(「きちんと構成され、作り上げられたいわゆるストーリーと、個々人がフィジカルな実感に基づいて話すナラティブ(語り口)」という風に、この本では二つの「物語」について説明されています)。
33 最近続けてこの本についての好意的な評価を耳にしたので読みました。この本でも「ナラティヴ」(この本では「ヴ」表記でした)に注目し、相手のナラティヴを理解することにより、組織上の課題を乗り越えていくための方法論を教えてくれます。臨床心理学の「認知行動療法」や社会学の「社会構築主義」の知見を、組織論に応用されている点が新しいです。他者の「思考の歪み」を観察・解釈し、そのギャップを埋めるための働きかけを行うことにより、円滑な組織運営を実現していこう、という趣旨だと私は理解しました。組織の課題の大半は、「既存の方法で解決できる問題」である「技術的問題」ではなく、「既存の方法で一方的に解決できない複雑で困難な問題」である「適応課題」であるという説明はわかりやすかったです。要するに、個々に異なる背景を持つ組織上の問題に対応するには、課題の障壁となる相手のナラティヴを理解するための「対話」が必要であるという指摘で、「傾聴」の勉強を続けている私にとっても納得感のある内容でした。対話により相手のナラティヴを理解し、相手が受け入れやすい働きかけ(介入)を行うことにより、組織の問題は解決可能である、という信念に全編が貫かれていて、ポジティブな気持ちになります。「弱い立場ゆえの『正義のナラティヴ』に陥らない」(上司の立場や背景を理解しようとせず、一方的に悪者にする態度)や「権力の作用を自覚しないとよい観察はできない」(権力を持つが故に、部下が素直に意見をしてくれるとは限らない)など、組織人が陥りがちな罠をクールに指摘して下さっている点もいろいろと考えさせられました。個人的には、私も父の死後の負債処理に苦労した経験があるので、「おわりに」の宇田川さんのエピソードと、その経験から得られたマインドセットに共感しました。「弱さや過ちを抱える私たちが、対話を通じてよりよい未来を切り開く希望」を私も信じてみたいと思いました。
■映画
27 ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!/監督 ディーン・パリソット
28 名探偵コナン 漆黒の追跡者/監督 山本 泰一郎
27 「ビルとテッド」シリーズは、これまで観たことがなかったのですが、「音楽」がテーマということと、キアヌ・リーブスの出世作ということで観ました。約30年ぶりに制作されたシリーズ3作目ですが、過去2作を観ていなくても、世界観がすぐに理解できる、ゆるーい内容のコメディです。本作ではタイトル通り、時空崩壊から「世界を救う音楽」を創るために、タイムトラベルや地獄旅行など、過去作のフォーマットを借りながら、時空を超えたドタバタ劇が展開されます。理想のバンドを結成するために、ジミ・ヘンドリックス、ルイ・アームストロングや、原始時代の打楽器奏者などまでが集められる展開は、音楽好きとしてはとても楽しめました。自由にタイムトラベルができるのに、世界崩壊までのタイムリミットがあるなど、ご都合主義過ぎる設定が多いですが、ゆるーい世界観なので、許容すべきなのだと思います。90分程度の短い上映時間も、ボロが出るまでに終われたという面でよかったです。疲れたときに頭を空っぽにして観るには良い作品だと思います。
28 2009年に公開されたシリーズ13作目です。最近の劇場版は、アクションに重きが置かれることが多いですが、本作は謎解きに重点が置かれていて、面白かったです。また、劇場版でしか名探偵コナンシリーズに接しない私にとっては、主人公の最大の敵である「黒の組織」について細かく描写されていたので興味深かったです。それにしても、この作品世界の日本警察の劣化ぶりは凄まじいですね(容疑者確保に失敗してショッピングモールで簡単に人質は取られるし、警視が黒の組織に拉致されて別人に成りすまされているし)。その分コナンの優秀さが際立って、エンターテイメント性は増していますが、一番怖いのは、強力な敵ではなく無能な味方であることが再認識できる作品です。
32 広告の仕事/杉山 恒太郎
33 他者と働く/宇田川 元一
32 元電通の伝説的なクリエーターで、初期のインターネット広告ビジネスの立ち上げにも関わられ、現在は老舗デザインファームの社長を務められている筆者による、タイトル通り「広告の仕事」の可能性と希望について語られている本です。山口周さんとの対談が収録されていたので読みました。オリンピック関連の不祥事で地に落ちた感のある「広告ビジネス」のポジティブな面に焦点が当てられています。「広告ビジネス」の黄金期にいい思いをした人が、ノスタルジックに過去を振り返っているという側面を超えて、「公共広告」や「プロボノ」といった、広告、デザインが「ソーシャル・グッド」に貢献できる可能性について語られています。杉山さんの時代を見抜く力(そして、時代の転換期にその現場に立ち会える「運の強さ」)と教養の深さが印象的です。個人的には、どちらも「物語」と訳される「ストーリー」と「ナラティブ」の違いについて、わかりやすく説明頂けた点が参考になりました(「きちんと構成され、作り上げられたいわゆるストーリーと、個々人がフィジカルな実感に基づいて話すナラティブ(語り口)」という風に、この本では二つの「物語」について説明されています)。
33 最近続けてこの本についての好意的な評価を耳にしたので読みました。この本でも「ナラティヴ」(この本では「ヴ」表記でした)に注目し、相手のナラティヴを理解することにより、組織上の課題を乗り越えていくための方法論を教えてくれます。臨床心理学の「認知行動療法」や社会学の「社会構築主義」の知見を、組織論に応用されている点が新しいです。他者の「思考の歪み」を観察・解釈し、そのギャップを埋めるための働きかけを行うことにより、円滑な組織運営を実現していこう、という趣旨だと私は理解しました。組織の課題の大半は、「既存の方法で解決できる問題」である「技術的問題」ではなく、「既存の方法で一方的に解決できない複雑で困難な問題」である「適応課題」であるという説明はわかりやすかったです。要するに、個々に異なる背景を持つ組織上の問題に対応するには、課題の障壁となる相手のナラティヴを理解するための「対話」が必要であるという指摘で、「傾聴」の勉強を続けている私にとっても納得感のある内容でした。対話により相手のナラティヴを理解し、相手が受け入れやすい働きかけ(介入)を行うことにより、組織の問題は解決可能である、という信念に全編が貫かれていて、ポジティブな気持ちになります。「弱い立場ゆえの『正義のナラティヴ』に陥らない」(上司の立場や背景を理解しようとせず、一方的に悪者にする態度)や「権力の作用を自覚しないとよい観察はできない」(権力を持つが故に、部下が素直に意見をしてくれるとは限らない)など、組織人が陥りがちな罠をクールに指摘して下さっている点もいろいろと考えさせられました。個人的には、私も父の死後の負債処理に苦労した経験があるので、「おわりに」の宇田川さんのエピソードと、その経験から得られたマインドセットに共感しました。「弱さや過ちを抱える私たちが、対話を通じてよりよい未来を切り開く希望」を私も信じてみたいと思いました。
■映画
27 ビルとテッドの時空旅行 音楽で世界を救え!/監督 ディーン・パリソット
28 名探偵コナン 漆黒の追跡者/監督 山本 泰一郎
27 「ビルとテッド」シリーズは、これまで観たことがなかったのですが、「音楽」がテーマということと、キアヌ・リーブスの出世作ということで観ました。約30年ぶりに制作されたシリーズ3作目ですが、過去2作を観ていなくても、世界観がすぐに理解できる、ゆるーい内容のコメディです。本作ではタイトル通り、時空崩壊から「世界を救う音楽」を創るために、タイムトラベルや地獄旅行など、過去作のフォーマットを借りながら、時空を超えたドタバタ劇が展開されます。理想のバンドを結成するために、ジミ・ヘンドリックス、ルイ・アームストロングや、原始時代の打楽器奏者などまでが集められる展開は、音楽好きとしてはとても楽しめました。自由にタイムトラベルができるのに、世界崩壊までのタイムリミットがあるなど、ご都合主義過ぎる設定が多いですが、ゆるーい世界観なので、許容すべきなのだと思います。90分程度の短い上映時間も、ボロが出るまでに終われたという面でよかったです。疲れたときに頭を空っぽにして観るには良い作品だと思います。
28 2009年に公開されたシリーズ13作目です。最近の劇場版は、アクションに重きが置かれることが多いですが、本作は謎解きに重点が置かれていて、面白かったです。また、劇場版でしか名探偵コナンシリーズに接しない私にとっては、主人公の最大の敵である「黒の組織」について細かく描写されていたので興味深かったです。それにしても、この作品世界の日本警察の劣化ぶりは凄まじいですね(容疑者確保に失敗してショッピングモールで簡単に人質は取られるし、警視が黒の組織に拉致されて別人に成りすまされているし)。その分コナンの優秀さが際立って、エンターテイメント性は増していますが、一番怖いのは、強力な敵ではなく無能な味方であることが再認識できる作品です。