本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

不死身の特攻兵

2018-08-31 19:35:39 | Weblog
■本
69 絶滅の人類史/更科 功
70 不死身の特攻兵/鴻上 尚史

69 今週は話題となっている新書を2冊読みました。こちらは、生物学上「人類」と分類される種の中で、なぜ、ホモ・サピエンスだけが生き残ったのか、という謎について考察された本です。乾燥化などの環境変化に二足歩行で集団行動をしたホモ・サピエンスがたまたまうまく適合でき、死ぬ数よりも多くの子孫を残すことができたことが主な理由と理解しました。この分野の知識がほとんどなかったので、人類の祖先がチンパンジーではないことや「仮説はスジが通っているだけではダメ」と徹底的に証拠を積み重ねる推理小説の謎解きのような研究方法が刺激的でした。何万年単位で考えるとに普通に歩いても人類全体ではかなりの距離を移動することができるということから「地球は意外と狭い」と言い切る思考法など、短期的な思考に慣れきった身としては、癒される思いさえします。種全体で時間軸を長く取ってみると、生き残ることも逆に絶滅することも当然あり得ることで、日々の些細なことに一喜一憂することが馬鹿馬鹿しく感じます。脳の大きさとそのメリットデメリットについての考え方を、スマホ有料アプリ使用料とそこから得られる費用対効果という例を用いるなど、比喩の使い方が巧みでわかりやすく、楽しく読むことができました。

70 鴻上尚史さんの小説の題材にもなった、9回出撃して9回生還した特攻兵、佐々木友次さんへの聞き取り取材を中心に、究極的に同調圧力が高まっている状況下で、当時佐々木さんは何を考えて、なぜ、自分の信念を貫くことができたか、について書かれています。飛行機で空を飛ぶことが本当に好きで、かつ、自分の腕にも自信を持っていたので、成功確率の低い特攻よりも、爆弾を切り離す急降下爆撃を生きて帰って複数回行う方が国のためにもなる、という、自分の命が惜しいためではない、極めて合理的な判断からの行動であることがわかります。その一方で、爆撃の成否よりも天皇陛下のために「死ぬ」という手段の目的化が進展し、佐々木さんを激しく非難する上官達の思考停止に背筋が寒くなります。鴻上さんらしく、「命令した側」の責任を強く追及されていますし、それは全くその通りなのですが、そういう人間を「命令する側」に選んでしまった、日本人の国民性についても、改めて省みる必要があるかも、と最近の日本の政治情勢を踏まえると考えさせられました。当時の状況を淡々と語られる佐々木さんのお人柄もあり、感情的になり過ぎず、特攻やそれを許した日本人について一歩引いた眼で考えることのできるよい本です。


■映画 
66 ニンゲン合格/監督 黒沢 清

 黒沢清監督作品をあまり観たことがないので、少しずつ観ていきたいと思います。10年間の昏睡状態から目覚めた主人公の話ということで、なんとなく結末が予想されますが、各登場人物がかなり衝動的に行動するので、そこに至るまでのストーリー展開は全く予想できず、観ていてスリリングですし、時折挟み込まれる奇妙なカットと相まって、かなり難解な印象の作品です。それでいて後味は不思議と悪くなく、家族についていろいろと考えさせられます。役所広司さんが抜群の存在感で、ダークでかつどこか心優しい役を見事に演じられていて、黒沢清監督との相性の良さを感じます。主役の西島秀俊さんも若くて格好いいです。監督が放つ強い個性が必ずしも作品の魅力につながっていない面もありますが、オリジナリティー溢れる作品で、黒沢清監督が海外で高く評価されている理由がわかった気がします。
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Future Pop

2018-08-25 10:59:14 | Weblog
■本
68 テレビ最終戦争/大原 通郎

 最近の潮流でタイトルがやたらと刺激的ですが、内容はサブタイトルの「世界のメディア界で何が起こっているか」の通り、テレビに変わって台頭しつつある、ネットフリックスやアマゾンプライム・ビデオといったOTT(オーバー・ザ・トップ/高速通信網で配信する有料映像コンテンツサービス)プレイヤーや、ユーチューブ、フェイスブック、アップルといったプラットフォーマー、DAZNで日本進出も果たした新進のスポーツコンテンツ配信会社のパフォーム、さらには、ディズニーなどの老舗メディア・コングロマリットも含めて、世界の映像メディアの力関係がどうなっているか、についての最新情報を俯瞰的に把握できる興味深い内容となっています。例によって日本の存在感がソニー以外ほとんどないのが不安ですが、訪日観光客向けコンテンツの充実など、国内メディアの生き残り策についての筆者の意見も書かれていてとても参考になる本です。


■CD
13 Future Pop/Perfume

 タイアップ曲、ヒット曲が満載ですが、かなりコンセプチュアルでアーティスティックな作品という印象です。ブリッジとなるインスト曲を収録するなど、決してとっつきやすい構成ではないですが、聴くたびに味わいが増してきます。何と言っても収録されている楽曲が優れたものばかり。特に「無限未来」はここ数年で最もオリジナリティーのある曲だと思います。完全に独特の地位を築きましたね。ポジショニングとしても素晴らしいです。


■映画 
64 銀魂/監督 福田 雄一
65 バリー・シール/監督 ダグ・リーマン

64 豪華俳優陣によるコント集のような作品です。笑いどころがたくさんあり観ていて楽しいです。鼻をほじる橋本環奈さん、全裸の中村勘九郎さんをはじめとして、これまでのイメージを壊すようなリスキーな役柄をみなさん楽しそうに演じられていて好感が持てます。開始数分で世界観を端的に示す手際も見事。原作漫画のギャク側面が強調され過ぎて、もう一つの特徴のシリアスなセリフの掘り下げが若干浅い気がしますが、原作漫画映画化作品としては、よくできた作品です。原作者、役者、ファンの誰にとっても特にならない原作漫画映画化作品が多い中で、ウインウインウインの関係が気づけているのは、結構すごいことだと思います。

65 こちらもこれまでのイメージと異なるダーティーな役柄を楽しそうに熱演しているトム・クルーズが印象的な作品です。「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を観たときにも思ったのですが、ハリウッドってこういう、えげつなく人を騙して荒稼ぎする犯罪モノをテンション高く描くのが好きですね。直接ヒトの生き死にに関わる犯罪じゃない(といっても武器の横流しとかやってますが)ってこともあるのでしょうが、犯罪行為であっても金を多く稼ぐ人に対しての憧れのようなものさえ感じられ、文化の違いを感じます。「オール・ユー・ニード・イズ・キル」のダグ・リーマン監督なので、飛行シーンや銃撃シーンの描き方も手馴れていて、トム・クルーズとの相性もよさそうです。ただ、やはり主人公が美形過ぎますね。汚くメイクした、レオナルド・ディカプリオあたりが怪演したら、もっと引き込まれたと思います。
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カメラを止めるな!

2018-08-18 11:42:07 | Weblog
■本
66 「リベラル」がうさんくさいのには理由がある/橘 玲
67 天才はあきらめた/山里 亮太

66 橘玲さんによる「理由がある」シリーズの3作目ですが、どちらかと言えば先月読んだ「朝日ぎらい」と連なる本だと思います。どちらも日本の「リベラル」の主張の矛盾について書かれた本ですが、それをグローバルな基準から見れば「リベラル」な立場である橘さんが批判しているところが新しいです。本作では「沖縄『集団自決』裁判」についてのかなり突っ込んだ取材に基づく考察もなされていて、読みごたえもあります。まずます過激さを増すトランプ大統領の発言が、ある層からは底堅い支持を受けていることからも明らかなように、知的産業優勢の現代社会で、取り残されたと感じている層に響く上から目線ではない言葉を、「リベラル」が見つけ、この分断を解消することが世界的な課題なのだと感じました。

67 南海キャンディーズの「山ちゃん」の自虐的な自伝本です。歴代の相方に対するえげつないダメ出しや相方「しずちゃん」の活躍を妬む姿など、思わず引くほどのクズっぷりを余すことなく書かれているので、一周まわって爽快感さえ感じます。「パラノイヤだけが生き残る」を地で行くような本ですが、そんなパラノイヤぶりを俯瞰して見ることができるだけの客観性を持ち合わせているので、成功した経営者の自慢話だけが書かれたビジネス本よりは、はるかに共感して読むことができました。何より、お笑いで生きていくという(屈折しながらも)強い覚悟に胸を打たれます。M-1グランプリに特化して2本のネタだけを磨き切った戦略など、天才でない我々が自分の好きな領域で生き残っていくために参考となる知恵も満載です。2004年M-1グランプリの準優勝から、2005年の最下位への急降下の背景(多忙のためのネタの練り上げと稽古不足)も知ることができ、M-1ファンにとっても興味深いです。この本を読んで山里さんを好きになることはないですが、千鳥の大悟さんやオードリーの若林さんのことが好きになると思います。


■映画 
61 ハッピーウエディング/監督 片島 章三
62 カメラを止めるな!/監督 上田 慎一郎
63 百円の恋/監督 武正 晴

61 今をときめく吉岡里帆さんがブレイク前に主演した作品です。新米ウエディングプランナーを演じる吉岡里帆さんの初々しいかわいさとコメディエンヌとしての魅力を堪能するための作品です。ウエディング業界の宣伝目的の映画ですが、それを隠そうとしていないところも好感が持てます。脚本はよくあるお仕事奮闘ものですが、気楽に安心して観ることができます。各キャラクターもいかにもな感じで、いい意味でも悪い意味でも予想を裏切りません。仕事に疲れたときに観て、吉岡さんの笑顔に癒されるのがよいと思います。

62 とっても面白かったです。早朝の会で観たのですが満員でした。上映後拍手が起こったのは、「この世界の片隅に」を観て以来でした。メタな映画ですね。ネタバレしないようにこの作品のチラシの範囲で感想を言うと、「長回しワンカットのホラー映画」と「2度始まる構造」の2つのビッグアイデアがとても効果的です。このどちらかを思いつくだけでも凄いのに、2つを惜しみなく一つの作品に注ぎ込んだことが勝因だと思います。有名俳優が出ない低予算の作品でも、アイデア次第では面白い映画を創れるという希望に溢れた素晴らしい作品です。すでにネットなどでかなり話題になってますが、細かいものも含めたアイデアの妙を味わうことが肝な作品なので、情報を遮断して早めに観ることをお勧めします。

63 オリジナリティーはあるものの非常に地味で陰鬱な脚本を、安藤サクラさんの個人技により、カタルシスのある作品へと昇華させた、演技の力をまざまざと見せつけられるような作品です。地方都市に住む半引きこもりのアラサー女性の鬱屈とした生活を描いた前半から、その鬱屈を打ち破るかのようにボクシングに打ち込んでからの疾走感溢れる終盤の展開への転調も非常に巧みです。構造的には「ロッキー」とよく似た作品ですが、ハッピーエンドとはならない苦みと甘さが微妙に入り混じったエンディングも日本的だと思いました。小粒ながらもキラリと輝く素敵な作品ですが、タイトルはちょっと違和感が残りました。確かにラブ・ストーリーではありますが、それがメインテーマではないと思います。
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スーパー・チューズデー

2018-08-11 07:01:55 | Weblog
■本
64 ビジネススクールで教えている武器としてのITスキル/グロービス経営大学院
65 きみはいい子/中脇 初枝

64 技術者ではないビジネスパーソンにとって最低限必要なITの知識と、どのような視点でそのスキルを身につけるべきかについてをコンパクトに教えてくれるよい本です。特にアルゴリズム、統計学、AIについての本質をついた指摘は非常に参考になります。ITスキルだけではページ数を稼げなかったのか、中盤以降はITをマーケティングや経営戦略立案にどのように活かすか?、や、技術進化の激しい時代に必要なリーダーシップや組織とは何か?、といった話へと変わったのが(それはそれで重要な視点ではありますが)少し残念でした。前半だけでも読んでおくと、最新バズワードに振り回されがちなこの領域で、どのようなスタンスで個別の知識を学ぶかについてのイメージが持てると思います。

65 先々週観た映画がとてもよかったので原作も読みました。映画の方は原作に忠実でありつつ、要素を巧みに絞りこむことで各エピソードの関連性をより明確にしていた、ということがよくわかりました。原作の方は、もっと各エピソードが独立して存在しているものの、テーマが共通しているので、「きみはいい子」というタイトルの持つ意味がより重く心に迫ります。伊坂幸太郎さんを思わせるような軽妙な文体が、重くなりがちな「阻害されている人々」というテーマとのバランスをうまく取っていると思います。説教臭くならず、安易なハッピーエンドとしていない点も好感が持てます。漢字の使用を抑えた文章は読みやすく、子どもにも読ませたい作品です。


■映画 
60 スーパー・チューズデー/監督 ジョージ・クルーニー

 マッカーシズムを描いた「グッドナイト&グッドラック」など、政治的なテーマを好む監督ジョージ・クルーニーの作家性が前面に出た作品です。大統領予備選挙の相手陣営も含めた広報コンサルタントの神経戦がテンポよく描かれています。1人の人間の中に、高邁な理想主義者の面と下劣な自己保身の面が共存するというシニカルな視点が印象的です。主演のライアン・ゴズリングは、野心溢れる中堅コンサルタントをスタイリッシュに演じています。その師匠的役割のフィリップ・シーモア・ホフマンは、人間臭さ全開の圧巻の存在感。俳優ジョージ・クルーニーは、そんな二人を邪魔しないかのように抑制を効かせて大統領候補を演じています。大儀なき数合わせの政治や目先の利益よりも信頼を重んじる価値観など、日本人にも理解しやすい作品だと思います。ただ、登場人物の性欲が旺盛すぎるところがちょっと引きますが。後味はよくないですが、内容を詰込み過ぎず上映時間は適切で、知的な大人の映画としての完成度は高いと思います。
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薄情

2018-08-05 07:46:55 | Weblog
■本
62 薄情/絲山 秋子

 最近、ミステリーやコミカルな要素の作品も発表されていてどんどん作風の幅が広がっている印象を持っていましたが、この作品はオーソドックスな純文学で、古くからの絲山秋子さんのファンも安心して楽しめる作品だと思います。毎度毎度くどいほど述べていますが、簡潔で鋭い文体がとにかく格好良くてしびれます。主人公は仕事に対しても恋愛に対しても煮え切らない思いを持つ、結構面倒臭い人間ですが、それでもぶれない確固とした価値観を持っていて、どこか憧れてしまいます。この作品は地方における、地元民とよそ者との関係がテーマの一つですが、地方で生活する人間の葛藤を描きつつも、よく似たテーマの作品にありがちな、ベタっとした印象は全くなくとにかくクールです。優しくも清廉でも強くもなくとも、人はある程度の諦めを抱きつつ覚悟を持って生きていけるんだという不思議な希望が感じられる作品です。


■CD
11 Tomorrow's Modern Boxes/Thom Yorke

 2015年に発売されたトム・ヨークのソロ2作目です。CDでは手に入りにくかったり、高かったりしたのですが、ようやく輸入盤が手ごろな価格になってきたので購入しました。発表当初にストリーミングサービスで何度か聴いていましたが(それもいつのまにか聴けなくなっていましたが)まさにトム・ヨークワールドと言える作品です。ミニマムな音世界にどっぷりと浸れます。最近のレディオヘッド作品の、緊張感と開放感のバランスのとれたサウンドも好きですが、ソロ作品のトム・ヨークの声も含めて一つ一つの音が緻密に計算された神経症的な世界観も魅力的です。


■映画 
58 インサイダー/監督 マイケル・マン
59 未来のミライ/監督 細田 守

58 あまり期待していなかったのですが、ジャーナリズムの光と影をドラマティックに描いた骨太の作品で面白かったです。アル・パチーノが、清濁併せ吞みつつ筋を通す男気のある番組プロデューサー役をとにかく格好よく演じています。マッチョな役が多い印象のラッセル・クロウも、所属していたタバコ会社の不正を告発する元副社長の不安定な心境を繊細に演じていて好感が持てます。一方で魅力的な女性登場人物がほとんどおらず、男性が美化され過ぎている気がします。説教臭くなく職業倫理やそれ以前の個人的な仕事に対する美学について考えさせられる作品です。

59 先祖や家族と自分についての関わりについていろいろと考えさせられる悪くない作品ですが、細田守監督作品に求める観客の要望と微妙に合っていない気がしました。もちろん、観客の期待に迎合し続けることはクリエイターとしての成長を阻害することだとはある程度理解しつつも、その期待のすかし方がこれまでの作品と微妙に違った気がします。「サマーウォーズ」や「おおかみこどもの雨と雪」は、これまで観たこともない斬新な設定とストーリー展開にとにかく度肝を抜かれましたが、この作品は未来から妹が来るという設定自体である程度展開が予想でき、細部で独特のセンスが光る部分はあるものの、大枠のストーリーの部分で驚きがなかったところが、評価の分かれ目なような気がします。要するに細田守監督作品には、細部の巧みさではなく、大きな構造での驚きを私も含めた観客の多くは求めているのだと思います。映像の方は未来の東京駅の描写が独創的でとにかく格好良く、乗り鉄の私としては観ていてワクワクしました。
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