■本
42 街場の文体論/内田 樹
43 縁の切り方/中川 淳一郎
44 断片的なものの社会学/岸 政彦
42 内田教授の定年前の最後の講義が完全収録された本ということで興味深く読みました。「読み手に届く言葉」とはどういうものか、について現代思想などの豊富な知識と巧みな話術で横道に逸れながら手を変え品を変え語ってくれて、内田さんの著書の中でも最も面白い作品の一つだと思います。講義というライブ感が巧みに再現されています。結論は「魂から出る言葉」、「生身から生まれる言葉」という、内田さんらしい熱いものとなっていますが、そのような言葉を生み出すためにはどのように生きるべきか、という人生論にもなっているところが素晴らしいです。あとがきで内田さんご本人もおっしゃっている通り、これまでの著書の内容も含めて同じ趣旨の「くりかえし」が多いですが、それも含めて、内田さんの「伝えたい」という気持ちが強く伝わってきます。内田さんの「伝えたいこと」を復習する上でもお勧めの本です。
43 先週読んだ「『意識高い系』という病」の常見陽平さんと一緒に楠木健さんと対談されていたので、続いてこの本も読んでみました。「ウェブはバカと暇人のもの」という著書で、「WEB2.0」以降のネット社会へのポジティブな期待感に冷や水を浴びせかけた中川さんらしく、非常にシニカルにかつ露悪的にSNSを中心とした「絆」を重視する風潮に一石を投じられています。ネットニュースの編集で名を上げた人らしく、センセーショナルな言葉使いが多いので、若干割り引いて筆者の真意を読み取る必要のある本だと思いますが、書かれている内容は人間関係のある側面を忠実に表していると思います。一方で、ソーシャルメディアなどの人間関係で救われている人がいることも事実で(そのまた一方で「ソーシャルメディア疲れ」になっている人が多数存在するのも事実ではあるのですが)、盲目的に人間関係を重視しすぎることなく、そのネガティブな側面もあることを知るための、バランスをとるための本として読むのがよいと思います。あと、中川さんご自身の壮絶な過去には驚かされました。
44 書評や一部の本好きの方の評判がとてもよかったので読んでみました。社会学部卒の私としてはタイトルにもかなり惹かれました。著者の岸さんが生活史の聞き取りを通じて知り合った方々や岸さん自身のエピソードをもとに、赴くままに人生について考察されたことが書かれています。読んでいると、雪山での夜のようなシンとした静かな気持ちになっていきます。生きることの厳しさ、寂しさ、などについて語られているのですが、そのことを再認識することにより途方にくれるというよりも、腹をくくって対峙していくしかないという、あきらめにも似た静かな覚悟が湧いてきます。村上春樹さんの小説にも通じるところがあり、特に「アフターダーク」のコオロギというキャラクターが好きな方にはお勧めです。(そういえば、「アフターダーク」の主人公の眠りに落ちたままの、お姉さんも社会学を専攻していような気がします。社会学を勉強するということは、そういう静けさに耐えつつ物事を考えることなのかもしれません)
■映画
40 クライマーズ・ハイ/監督 原田 眞人
41 スリーデイズ/監督 ポール・ハギス
40 新聞記者の大部屋での臨場感あるカメラワーク、その新聞記者役の堤真一さん、堺雅人さん、遠藤憲一さんらの熱過ぎる演技、谷川岳や日航機事故現場の迫力ある映像、など、画面全体から気合が充満している意欲作です。にもかかわらず、その気合が空回りして、焦点が少しぼやけた印象です。事故の悲劇、社内の勢力争い、友人の突然死、主人公の生い立ちのトラウマと子どもとの関係、職業人としての誇り、などなど、いろんなテーマがてんこ盛りですが、そのそれぞれが有機的に組み合わさっておらず、有効に機能していない気がします。ベテラン記者がさかんに口にする「大久保・連赤」(「大久保清」事件、「連合赤軍」事件のことです)という言葉の説明も不親切で、映画を観終わって調べてみるまで、ベテラン社員と主人公たちの確執の背景が今ひとつ理解できませんでした。原作を読んでいないのでなんとも言えませんが、原作に忠実にあろうとし過ぎて、詰込み過ぎた印象が残るのが少し残念です。山崎努さんやでんでんさんなどの、脇役の方も含め、役者さんの存在感は素晴らしいです。
41 クリント・イーストウッドが監督してアカデミー作品賞を受賞した「ミリオンダラー・ベイビー」の脚本家であり、同じくアカデミー作品賞の「クラッシュ」の落ち着いた演技で好演しています。中盤までは、妻を救出するための計画立案やその準備でいろいろと失敗するシーンがダラダラと描かれ少し退屈します。しかし、いざ救出が実行に移されると怒涛のスリリングな展開の連続で、途中に張られた様々な伏線も見事に回収され、ポール・ハギス監督の手腕が光ります。こういう映画にありがちな、超人的な協力者が表れず、基本主人公一人の知恵と度胸で乗り切るところも共感できます。基本はハッピーエンディングですが、冤罪が晴らされないまま残り、一筋縄でいかない引っかかりも残ります。全体的には優れた映画だと思いますが、登場人物もそう多くはないので、もう少し中盤をシンプルにして全体的にコンパクトにした方が作品の面白さがより伝わった気がします。
42 街場の文体論/内田 樹
43 縁の切り方/中川 淳一郎
44 断片的なものの社会学/岸 政彦
42 内田教授の定年前の最後の講義が完全収録された本ということで興味深く読みました。「読み手に届く言葉」とはどういうものか、について現代思想などの豊富な知識と巧みな話術で横道に逸れながら手を変え品を変え語ってくれて、内田さんの著書の中でも最も面白い作品の一つだと思います。講義というライブ感が巧みに再現されています。結論は「魂から出る言葉」、「生身から生まれる言葉」という、内田さんらしい熱いものとなっていますが、そのような言葉を生み出すためにはどのように生きるべきか、という人生論にもなっているところが素晴らしいです。あとがきで内田さんご本人もおっしゃっている通り、これまでの著書の内容も含めて同じ趣旨の「くりかえし」が多いですが、それも含めて、内田さんの「伝えたい」という気持ちが強く伝わってきます。内田さんの「伝えたいこと」を復習する上でもお勧めの本です。
43 先週読んだ「『意識高い系』という病」の常見陽平さんと一緒に楠木健さんと対談されていたので、続いてこの本も読んでみました。「ウェブはバカと暇人のもの」という著書で、「WEB2.0」以降のネット社会へのポジティブな期待感に冷や水を浴びせかけた中川さんらしく、非常にシニカルにかつ露悪的にSNSを中心とした「絆」を重視する風潮に一石を投じられています。ネットニュースの編集で名を上げた人らしく、センセーショナルな言葉使いが多いので、若干割り引いて筆者の真意を読み取る必要のある本だと思いますが、書かれている内容は人間関係のある側面を忠実に表していると思います。一方で、ソーシャルメディアなどの人間関係で救われている人がいることも事実で(そのまた一方で「ソーシャルメディア疲れ」になっている人が多数存在するのも事実ではあるのですが)、盲目的に人間関係を重視しすぎることなく、そのネガティブな側面もあることを知るための、バランスをとるための本として読むのがよいと思います。あと、中川さんご自身の壮絶な過去には驚かされました。
44 書評や一部の本好きの方の評判がとてもよかったので読んでみました。社会学部卒の私としてはタイトルにもかなり惹かれました。著者の岸さんが生活史の聞き取りを通じて知り合った方々や岸さん自身のエピソードをもとに、赴くままに人生について考察されたことが書かれています。読んでいると、雪山での夜のようなシンとした静かな気持ちになっていきます。生きることの厳しさ、寂しさ、などについて語られているのですが、そのことを再認識することにより途方にくれるというよりも、腹をくくって対峙していくしかないという、あきらめにも似た静かな覚悟が湧いてきます。村上春樹さんの小説にも通じるところがあり、特に「アフターダーク」のコオロギというキャラクターが好きな方にはお勧めです。(そういえば、「アフターダーク」の主人公の眠りに落ちたままの、お姉さんも社会学を専攻していような気がします。社会学を勉強するということは、そういう静けさに耐えつつ物事を考えることなのかもしれません)
■映画
40 クライマーズ・ハイ/監督 原田 眞人
41 スリーデイズ/監督 ポール・ハギス
40 新聞記者の大部屋での臨場感あるカメラワーク、その新聞記者役の堤真一さん、堺雅人さん、遠藤憲一さんらの熱過ぎる演技、谷川岳や日航機事故現場の迫力ある映像、など、画面全体から気合が充満している意欲作です。にもかかわらず、その気合が空回りして、焦点が少しぼやけた印象です。事故の悲劇、社内の勢力争い、友人の突然死、主人公の生い立ちのトラウマと子どもとの関係、職業人としての誇り、などなど、いろんなテーマがてんこ盛りですが、そのそれぞれが有機的に組み合わさっておらず、有効に機能していない気がします。ベテラン記者がさかんに口にする「大久保・連赤」(「大久保清」事件、「連合赤軍」事件のことです)という言葉の説明も不親切で、映画を観終わって調べてみるまで、ベテラン社員と主人公たちの確執の背景が今ひとつ理解できませんでした。原作を読んでいないのでなんとも言えませんが、原作に忠実にあろうとし過ぎて、詰込み過ぎた印象が残るのが少し残念です。山崎努さんやでんでんさんなどの、脇役の方も含め、役者さんの存在感は素晴らしいです。
41 クリント・イーストウッドが監督してアカデミー作品賞を受賞した「ミリオンダラー・ベイビー」の脚本家であり、同じくアカデミー作品賞の「クラッシュ」の落ち着いた演技で好演しています。中盤までは、妻を救出するための計画立案やその準備でいろいろと失敗するシーンがダラダラと描かれ少し退屈します。しかし、いざ救出が実行に移されると怒涛のスリリングな展開の連続で、途中に張られた様々な伏線も見事に回収され、ポール・ハギス監督の手腕が光ります。こういう映画にありがちな、超人的な協力者が表れず、基本主人公一人の知恵と度胸で乗り切るところも共感できます。基本はハッピーエンディングですが、冤罪が晴らされないまま残り、一筋縄でいかない引っかかりも残ります。全体的には優れた映画だと思いますが、登場人物もそう多くはないので、もう少し中盤をシンプルにして全体的にコンパクトにした方が作品の面白さがより伝わった気がします。