本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

断片的なものの社会学

2016-05-28 06:50:19 | Weblog
■本
42 街場の文体論/内田 樹
43 縁の切り方/中川 淳一郎
44 断片的なものの社会学/岸 政彦

42 内田教授の定年前の最後の講義が完全収録された本ということで興味深く読みました。「読み手に届く言葉」とはどういうものか、について現代思想などの豊富な知識と巧みな話術で横道に逸れながら手を変え品を変え語ってくれて、内田さんの著書の中でも最も面白い作品の一つだと思います。講義というライブ感が巧みに再現されています。結論は「魂から出る言葉」、「生身から生まれる言葉」という、内田さんらしい熱いものとなっていますが、そのような言葉を生み出すためにはどのように生きるべきか、という人生論にもなっているところが素晴らしいです。あとがきで内田さんご本人もおっしゃっている通り、これまでの著書の内容も含めて同じ趣旨の「くりかえし」が多いですが、それも含めて、内田さんの「伝えたい」という気持ちが強く伝わってきます。内田さんの「伝えたいこと」を復習する上でもお勧めの本です。

43 先週読んだ「『意識高い系』という病」の常見陽平さんと一緒に楠木健さんと対談されていたので、続いてこの本も読んでみました。「ウェブはバカと暇人のもの」という著書で、「WEB2.0」以降のネット社会へのポジティブな期待感に冷や水を浴びせかけた中川さんらしく、非常にシニカルにかつ露悪的にSNSを中心とした「絆」を重視する風潮に一石を投じられています。ネットニュースの編集で名を上げた人らしく、センセーショナルな言葉使いが多いので、若干割り引いて筆者の真意を読み取る必要のある本だと思いますが、書かれている内容は人間関係のある側面を忠実に表していると思います。一方で、ソーシャルメディアなどの人間関係で救われている人がいることも事実で(そのまた一方で「ソーシャルメディア疲れ」になっている人が多数存在するのも事実ではあるのですが)、盲目的に人間関係を重視しすぎることなく、そのネガティブな側面もあることを知るための、バランスをとるための本として読むのがよいと思います。あと、中川さんご自身の壮絶な過去には驚かされました。

44 書評や一部の本好きの方の評判がとてもよかったので読んでみました。社会学部卒の私としてはタイトルにもかなり惹かれました。著者の岸さんが生活史の聞き取りを通じて知り合った方々や岸さん自身のエピソードをもとに、赴くままに人生について考察されたことが書かれています。読んでいると、雪山での夜のようなシンとした静かな気持ちになっていきます。生きることの厳しさ、寂しさ、などについて語られているのですが、そのことを再認識することにより途方にくれるというよりも、腹をくくって対峙していくしかないという、あきらめにも似た静かな覚悟が湧いてきます。村上春樹さんの小説にも通じるところがあり、特に「アフターダーク」のコオロギというキャラクターが好きな方にはお勧めです。(そういえば、「アフターダーク」の主人公の眠りに落ちたままの、お姉さんも社会学を専攻していような気がします。社会学を勉強するということは、そういう静けさに耐えつつ物事を考えることなのかもしれません)


■映画
40 クライマーズ・ハイ/監督 原田 眞人
41 スリーデイズ/監督 ポール・ハギス

40 新聞記者の大部屋での臨場感あるカメラワーク、その新聞記者役の堤真一さん、堺雅人さん、遠藤憲一さんらの熱過ぎる演技、谷川岳や日航機事故現場の迫力ある映像、など、画面全体から気合が充満している意欲作です。にもかかわらず、その気合が空回りして、焦点が少しぼやけた印象です。事故の悲劇、社内の勢力争い、友人の突然死、主人公の生い立ちのトラウマと子どもとの関係、職業人としての誇り、などなど、いろんなテーマがてんこ盛りですが、そのそれぞれが有機的に組み合わさっておらず、有効に機能していない気がします。ベテラン記者がさかんに口にする「大久保・連赤」(「大久保清」事件、「連合赤軍」事件のことです)という言葉の説明も不親切で、映画を観終わって調べてみるまで、ベテラン社員と主人公たちの確執の背景が今ひとつ理解できませんでした。原作を読んでいないのでなんとも言えませんが、原作に忠実にあろうとし過ぎて、詰込み過ぎた印象が残るのが少し残念です。山崎努さんやでんでんさんなどの、脇役の方も含め、役者さんの存在感は素晴らしいです。

41 クリント・イーストウッドが監督してアカデミー作品賞を受賞した「ミリオンダラー・ベイビー」の脚本家であり、同じくアカデミー作品賞の「クラッシュ」の落ち着いた演技で好演しています。中盤までは、妻を救出するための計画立案やその準備でいろいろと失敗するシーンがダラダラと描かれ少し退屈します。しかし、いざ救出が実行に移されると怒涛のスリリングな展開の連続で、途中に張られた様々な伏線も見事に回収され、ポール・ハギス監督の手腕が光ります。こういう映画にありがちな、超人的な協力者が表れず、基本主人公一人の知恵と度胸で乗り切るところも共感できます。基本はハッピーエンディングですが、冤罪が晴らされないまま残り、一筋縄でいかない引っかかりも残ります。全体的には優れた映画だと思いますが、登場人物もそう多くはないので、もう少し中盤をシンプルにして全体的にコンパクトにした方が作品の面白さがより伝わった気がします。
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「ない仕事」の作り方

2016-05-21 10:22:13 | Weblog
■本
39 「ない仕事」の作り方/みうら じゅん
40 言ってはいけない/橘 玲
41 「意識高い系」という病/常見 陽平

39 「ゆるキャラ」の仕掛け人としても有名な、みうらじゅんさんの仕事上のノウハウを惜しげもなく教えてくださる本です。「ゆるキャラ」だけでなく、「マイブーム」、「見仏記」といった、これまでになかった概念を提示し、ビジネスにしていくためのノウハウが満載です。「らくがお」、「シベ超」といったこれまでにある事象を巧みなネーミングで広げていく手法も参考になります。ご自身が「一人電通」とおっしゃるように、企画、デザインから協力先への営業活動、さらにはその実施や社会への啓蒙活動まで、全て一人でやられているので、おっしゃっていることに説得力や凄みがあります。世の中にない事象を仕事にするので、成功する保証は全くないのですが、そのリスクを乗り越えてエネルギーを注ぎ込むには、その事象自体への愛情がやはり重要であると改めて気づかされます(みうらさんは、その事象が好きになるように「自己洗脳」するとおっしゃっています)。その一方である事象が「仕事」になるためには、一定の熟成期間が必要ともおっしゃっていて、どこか力の抜けたスタンスにも非常に共感できます。

40 進化生物学、進化心理学の研究成果をもとに、我々の想像以上に、遺伝や性別などの生物学的な資質によるよる違いが、人間の能力や行動に影響を与えているということを、挑発的な文体で書かれた本です。社会全体というマクロ的な視点にたてば、個人の努力や環境面の是正だけでは克服できない点があるということをロジカルに示されているので、筆者の橘さんがおっしゃる通り、確かに「不愉快な本」なのかもしれません。ただ、この主張をどこまで受け入れるかはともかく、このような考え方にも一定の根拠があるということは知っておいて損はないと思います。個人的には、子どもの成長に大きな影響を与えるのは、遺伝的性質と友人関係(子どもは進化適応上、「友だちとの世界」からほぼ全てのことを学ぶので、親による子育てによって子どもに影響を与える範囲は非常に限定的)という主張は、かなり説得力があると思いました。幼稚園から大学までの一貫教育校など、幼少期から均質的な友人関係で育つことには、個人的にはこれまで否定的でしたが、この本を読んで、そのような学校出身者で素晴らしい人格者が多数存在すること(一方で、鼻につく人も一定数存在しますが)の理由がわかった気がします。

41 先日読んだ楠木健さんの本でこの本の著者の常見さんが対談されていて面白かったので読みました。こちらも、ネットメディアで活躍されている人らしく、文体は非常に挑発的(サブタイトルが「ソーシャルメディアにはびこるバカヤロー」ですから・・・)ですが、書かれている内容は極めて常識的で、「自分探しや人脈形成など中途半端に意識を高く持って疲弊するよりも、現実を直視して、日々の小さな幸せを噛みしめながら、今を一生懸命生きなさい」というのが、主題であると私は読みました。まあ、同年代の私から見ると非常に共感できる内容ではありますが、筆者がこのメッセージを届けたい20代の人たちには、なかなか受け入れにくい面もあるかと思います。結局、恥ずかしい思いや失敗をしないと、生きていく上での知恵は身につかないと思いますので、迷惑をかけられない範囲なら、「意識高い系(笑)」の人たちの行動も、温かい目で見てあげるべきなような気がします(常見さんは「意識高い系(笑)」からかなり被害を被ってそうなので、そう悠長なことは言えないのかもしれませんが)。


■映画
38 ロング・グッドバイ/監督 ロバート・アルトマン
39 花とアリス/監督 岩井俊二

38 ストーリーよりも独特の世界観を楽しむタイプの映画です。冒頭の主人公のアパートのシーンから、ロバート・アルトマン監督らしい、雑然としたシニカルな雰囲気が充満しています。レイモンド・チャンドラーの有名な原作「長いお別れ」を、何度か挫折して読んでいないので間違っているかもしれませんが、映画の方はかなり独自の解釈をしているような気がします。エリオット・グールド演じるフィリップ・マーロウはもちろんのこと、アパート隣人の奇妙なヨガ集団やマーロウを脅すギャング、依頼人の夫の作家などエキセントリックなキャラクターが満載です。群像劇が得意なロバート・アルトマン監督らしく、このあたりのキャラクターの描き分けの手腕は見事です。衝動的に行動するキャラクターばかりなので、共感できないところも多いのですがその刹那的な行動がクールでもあります。

39 こちらも世界観を楽しむ映画です。一応のストーリーはあるものの、二人の主人公の心の通い合いやすれ違いを描いたささやかなエピソードの積み重ねで引っ張っていきます。独特のぶれたカメラワークや細かいカット割り、そして光の使い方がとてもユニークです。また、岩井俊二監督が自らが作曲された音楽も、その映像にとてもよくマッチして印象的です。しかし、この映画のクオリティで決定的な役割を果たしているのは、アリス役の蒼井優さんの圧巻の演技です。鈴木杏さんも演技力の高い女優さんだと思うのですが、彼女の存在感が霞むほどです。終盤のオーディションでのバレーダンスシーンを見るだけでも、この映画を観る価値があると思います。平泉成さん、阿部寛さん、広末涼子さん、といった強い個性を持った役者さんをふんだんに端役として使っているところも贅沢です。監督の作家性が前面に出た映画なので観る人を選ぶと思いますが、アンチの人もねじ伏せる(私もどちらかと言えば岩井監督によい印象は持っていませんでした)だけの力を持った作品だと思います。
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下り坂をそろそろと下る

2016-05-14 09:21:32 | Weblog
■本
38 下り坂をそろそろと下る/平田 オリザ

 本の帯の二人の推薦者である、内田樹さんの著書でもある「沈む日本を愛せますか?」という問いに、「里山資本主義」の藻谷浩介さんが実践された考え方を応用し、各地域で特色ある「コミュニケーション教育」を施すことによる地方文化振興を通じて、人口減少局面で国力現象が避けられない日本の痛みに耐えていこうという趣旨の本です。ネット上での文化の影響力を若干軽視している感じがしますが、リアルでの集客力に比べるとネット上での集客の経済効果はまだまだ低いので、特色ある魅力的な文化環境を整備することにより、その地域との関係を持つ人を増やし、活性化していこうという平田さんの主張は説得力があります。結局はどうあがいても相対的に今後力が落ちていく「経済力」に変わる価値観を持つ必要がある、ということだと思いますが、成功体験が大きいだけに、この価値観の転換は難しく、時間のかかることだと思います。ただ、これも平田さんがおっしゃる通り、この痛みに耐えられないと、日本は(特に若い世代で)もっと悲惨なことになると思いますので、耳を傾けるべき主張だと思います。教育に関わられている方だけに、グローバル競争により代替可能となった勤勉な生産労働者の育成から、サービス業やマネジメント層で必要なコミュニケーション能力の高い人材育成への転換、いう視点からも語られていて、ただの夢物語ではない説得力があります。


■映画
37 永遠の僕たち/監督 ガス・ヴァン・サント

 他人の告別式で両親を亡くした主人公と死期が近いヒロインが出会うという設定からちょっと甘すぎるような気もしますが、「マイ・プライベート・アイダホ」や「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」のガス・ヴァン・サント監督らしい、青少年の繊細な悩みや葛藤を丁寧にかつ独創的に描いた美しい作品です。主人公の空想上の友人である、特攻隊員の幽霊(この設定もベタ過ぎますが)を加瀬亮さんが好演されています(話は逸れますが、こんなに素晴らしい役者である加瀬亮さんに、ただ怒鳴るだけの演技をさせた「SPEC」はある意味すごいと思います)。トラウマを抱えた繊細な主人公はデニス・ホッパーの息子さんが演じられています。偉大な父を持つ子特有の危うさと傲慢さがこの作品によくマッチしています。この作品の他で名前を聞くことはあまりないので、評価が高くなかったのかもしれませんが、線が細い割には強い存在感を放っているところはさすがです。ヒロインは「アリス・イン・ワンダーランド」で大ブレイクした、ミア・ワシコウスカ。エキセントリックで芯の強い美しさが印象的です。こじんまりとした突っ込みどころの多い作品ですが、久しぶりに正統派の青春映画を観たような気がして、後味は非常に良い作品です。
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ルーム

2016-05-07 10:52:40 | Weblog
■本
37 CMを科学する/横山 隆治

 ネットにつながったテレビからの「視聴ログ測定サービス」や脳波や表情からどのような感情や集中度合でテレビを観ているかという「視聴質」の測定など、主に動画CM分野での科学的にその効果を分析する手法について解説してくれています。まだ実用途上の技術を過大に評価している傾向はありますが、アメリカの最新事例レポートも収録されていて、この分野の最先端の知識を得るにはよい本です。アンルーリー社やViibar社といった、これから旬を迎えそうな企業関係者へのインタビューが掲載されているところも、横山さんらしい目利きの鋭さが感じられます。


■映画
32 キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー/監督 ジョー・ジョンストン
33 キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー/監督 アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ
34 インヒアレント・ヴァイス/監督 ポール・トーマス・アンダーソン
35 スポットライト 世紀のスクープ/監督 トム・マッカーシー
36 ルーム/監督 レニー・アブラハムソン

32、33 先週に「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」を観たのですが、主人公とその友人であるバッキー・バーンズとの関係がよくわからなかったので、その前2作を続けて観ました。キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースが以前は虚弱な青年で、バッキー・バーンズにいろいろと助けてもらっていたこと、第二次世界大戦のナチスに対抗するために、科学技術によりスティーブ・ロジャースは超人となったが、ナチスの残党の組織ヒドラからアメリカを守るためにミサイルを積んだ飛行機とともに北極に沈み70年後に冷凍保存状態で発見されたこと、バッキー・バーンズがヒドラに洗脳と肉体改造を受けていたこと、などなどを知ることができ、全てのストーリーがつながりました。トミー・リー・ジョーンズやロバート・レッドフォードといった大御所を、さほどおいしくない役で使っていてとても贅沢です。「ウィンター・ソルジャー」では、スカーレット・ヨハンソン演じるナターシャ・ロマノフが、峰不二子ばりのトリックスターぶりで大活躍していて、「アベンジャーズ」シリーズを通じて一番の存在感を示しています。基本的には暗い話なのですが、キャプテン・アメリカの愚直なまでの正義感のためか、深みがありかつ後味のよいアクション大作となっていて好ましいです。

34 クリストファー・ノーラン監督と並び、私と同じ歳の天才監督として尊敬している、ポール・トーマス・アンダーソン監督の現時点での最新作です。大作「ザ・マスター 」の後なので、当分新作が出ないだろうと油断している間に公開されていて、観逃していたものをレンタルして観ました。奇抜な設定とハイセンスな映像の力技で若干冗長な作品を見せ切るという、もともとあまり観客に親切な作風の監督ではないですが、それでもこれまでの作品はストーリー展開的には追いやすいものが多かったです。しかし、本作では、そのストーリー展開も、難解で名高いトマス・ピンチョン原作のためか、わかりにくく、これまでにも増して観客を選ぶ作品だと思います。ホアキン・フェニックスの怪演と70年代のアメリカを忠実に再現した(と思われる)映像と音楽で、楽しく観ることができましたが、最後まで消化不良な印象が残る映画です。ポール・トーマス・アンダーソン監督の才気は画面から迸りまくっていますが、若干空回っている印象の作品です。でも、次作も必ず観ます。

35 特段真面目でも不真面目でもない普通の組織人が、上司の指示により取材をする中で、その取材対象の苦悩に共感し、次第に仕事にのめり込み大きな成果を得るという、とても真面目で地に足のついた作品です。大きな事件や陰謀で過度に脚色することなく、淡々した描写が続く点や超人的な登場人物がいないところも好感が持てます。「働く」ことに対する希望が得られてGW明けもなんとか頑張れそうです。個人的にはアカデミー賞の脚本賞は納得ですが、作品賞と監督賞は、「レヴェナント」と逆でもよかったと思います。この作品は脚本と監督の力が特に評価されるべきだと思いますし、「レヴェナント」は逆にアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督のディレクション、レオナルド・ディカプリオの演技、映像や音楽に関わった全ての人が総合的に評価されるべき作品だと思いました。作品賞は同じく圧倒的な総合力の「マッドマックス 怒りのデス・ロード」でもよかったかもしれませんが。あと、昨年のアカデミー賞でアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の「バードマン」で主演男優賞を逃し、本作でもアカデミー賞からは無視されているマイケル・キートンですが、地元愛に満ちたベテラン記者をとても味わい深く演じています。

36 こちらも今年のアカデミー賞で話題をさらった作品です。脚本・脚色も素晴らしいですが、やはり主演女優賞を取ったブリー・ラーソンとその息子役を演じた子役の演技力に圧倒されます。監禁生活とその脱出後という、大きく異なる二つの生活を描いています。こういうタイプの作品は、緊迫感のある前半を経ての後半はえてして平板になることが多いですが、観客受けしがちな芸達者な子役をメインにしたいという誘惑に耐えて、母親の方の心理状態に焦点を当てたところが勝因だと思います。主人公の失ったもの(7年間の両親や友人との時間)と得たもの(息子)のそれぞれの重みを丁寧に描き、さまざまな葛藤を経つつも、ささやかな再生の予感を感じさせるエンディングにつなげる手腕も見事です。テーマも含めて巧みに現代という時代を切り取った作品だと思います。
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