■本
7 世界を変えた31人の人生の講義/デイヴィッド M. ルーベンシュタイン
ホワイトハウスで働いたこともあり、慈善活動にも熱心な民間投資会社の会長が、主にアメリカで活躍する、さまざまな分野の31人のリーダーに対するインタビュー内容が収録された本です。特に、ナンシー・ペロシやルース・ベイダー・ギンズバーグといった、熱狂的な信奉者が多い(その反面敵も多い)女性リーダーについて知りたくて読みました。筆者の人脈のためか、金融や政府関係者が少し多い気もしますが、どの方々も素晴らしい実績に裏打ちされた信念について語られています。コリン・パウエルなど軍関係者のインタビューからは、彼らがとても抑制的に軍事力を捉えていて、秩序の維持が政治では担保できない場合のみに、その使用を考えているということがよくわかりました。一方で、政治の方が劣化した場合の危険性も感じました。ほぼ全ての方が教育の重要性を強調されている点も印象に残りました。根強い差別はあるものの、米国では教育機会が開かれており、それにより多様な背景を持つ人々がリーダーになり得ているということがよくわかります。このインタビューで取り上げられている人々は、才能と運に恵まれて成功を収めていますが、その成功に対して謙虚で、かつその得た富を慈善活動などで社会に還元されているのも素晴らしいと思いました。にもかかわらず、ここまでキラキラとした経歴と境遇を見せつけられると、アメリカでメリトクラシーが行き過ぎているのでは、という印象も持ちました。成功者に責任はないですし、彼らはその義務を十二分に果たしているとも思いますが、アメリカでトランプ支持者が根強い理由も少し理解できた気がします。彼ら彼女らが求めているのは、才能や運に十分に恵まれた人々のサクセスストーリーではなく、運や才能が人並みでもコツコツと努力を重ねた末にささやかな尊敬と富が得られるというストーリーなのかもしれません。この二つのストーリーをつなぐ要素や語り口をリーダー側が見つけることができなければ、結局はエリートの空論と片付けられ、社会の分断が進むのではとも思いました。ちょっと長いですし、筆者のエリート丸出しの語り口が鼻につきますが、優れた人々の考えを(いい意味でも悪い意味でも)知ることのできる有益な本だと思います。
■映画
7 キングスマン:ゴールデン・サークル/監督 マシュー・ヴォーン
8 燃える平原児/監督 ドン・シーゲル
7 前作が好評だった、イギリス風味たっぷりのスパイ映画の2作目です。前作がこれまでにない世界観のスパイ映画を緻密に構成しようという野心に満ちていたのに対し、本作はそういった縛りを無視してでもエンターテインメントに徹しようという意図を感じました。ですので、取っ散らかった印象が残る反面、とてもパワフルな作品です。このあたりは評価が分かれそうですし、現に主要サイトのレビュー点数は前作を下回っているようですが、個人的にはとても楽しめました。相変わらず主要キャラを惜しみなく使い捨てる(次回作以降であっさり復活しているのかもしれませんが)ところや、エルトン・ジョン(ドラッグ中毒イジリやアクションシーンが痛快です)やジュリアン・ムーア(なぜこの役を引き受けたのかと思うほど好感度の低い役を、さほど見せ場もなく演じています)といったビックネームを雑に扱っているところが、忖度なくてシニカルな魅力に溢れています。プリンスやカメオのヒット曲に合わせて展開される(曲が終わるとバトルも決着します)、重力無視のアクションシーンもテンションが上がります。下品な性描写や残酷な殺戮シーンを織り込みつつも、スタイリッシュな世界観が維持されている点もオリジナリティが高いです。ミッション:インポッシブルシリーズのようなウエルメイドなスパイ映画に飽きた方には、破天荒なエネルギーに満ちたこの作品をお勧めしたいです。
8 エルヴィス・プレスリー主演の西部劇です。よくあるスター主演のお気楽な映画だと思っていましたが、白人とインディアンのハーフであるため、偏見やアイデンティティに悩む主人公を描いた重い内容でした。ドン・シーゲル監督らしく、淡々と暴力シーンが描かれるクールな作風です。予算が途中でなくなったのか、クライマックスの対決シーンが描かれていないところは拍子抜けしました。途中の小競り合いの描写を減らして、主人公一家の過去を丁寧に説明しつつ、クライマックスをきちんと描いた方が良かったと思います。主演は大スターですが、良くも悪くもB級テイストの作品です。
7 世界を変えた31人の人生の講義/デイヴィッド M. ルーベンシュタイン
ホワイトハウスで働いたこともあり、慈善活動にも熱心な民間投資会社の会長が、主にアメリカで活躍する、さまざまな分野の31人のリーダーに対するインタビュー内容が収録された本です。特に、ナンシー・ペロシやルース・ベイダー・ギンズバーグといった、熱狂的な信奉者が多い(その反面敵も多い)女性リーダーについて知りたくて読みました。筆者の人脈のためか、金融や政府関係者が少し多い気もしますが、どの方々も素晴らしい実績に裏打ちされた信念について語られています。コリン・パウエルなど軍関係者のインタビューからは、彼らがとても抑制的に軍事力を捉えていて、秩序の維持が政治では担保できない場合のみに、その使用を考えているということがよくわかりました。一方で、政治の方が劣化した場合の危険性も感じました。ほぼ全ての方が教育の重要性を強調されている点も印象に残りました。根強い差別はあるものの、米国では教育機会が開かれており、それにより多様な背景を持つ人々がリーダーになり得ているということがよくわかります。このインタビューで取り上げられている人々は、才能と運に恵まれて成功を収めていますが、その成功に対して謙虚で、かつその得た富を慈善活動などで社会に還元されているのも素晴らしいと思いました。にもかかわらず、ここまでキラキラとした経歴と境遇を見せつけられると、アメリカでメリトクラシーが行き過ぎているのでは、という印象も持ちました。成功者に責任はないですし、彼らはその義務を十二分に果たしているとも思いますが、アメリカでトランプ支持者が根強い理由も少し理解できた気がします。彼ら彼女らが求めているのは、才能や運に十分に恵まれた人々のサクセスストーリーではなく、運や才能が人並みでもコツコツと努力を重ねた末にささやかな尊敬と富が得られるというストーリーなのかもしれません。この二つのストーリーをつなぐ要素や語り口をリーダー側が見つけることができなければ、結局はエリートの空論と片付けられ、社会の分断が進むのではとも思いました。ちょっと長いですし、筆者のエリート丸出しの語り口が鼻につきますが、優れた人々の考えを(いい意味でも悪い意味でも)知ることのできる有益な本だと思います。
■映画
7 キングスマン:ゴールデン・サークル/監督 マシュー・ヴォーン
8 燃える平原児/監督 ドン・シーゲル
7 前作が好評だった、イギリス風味たっぷりのスパイ映画の2作目です。前作がこれまでにない世界観のスパイ映画を緻密に構成しようという野心に満ちていたのに対し、本作はそういった縛りを無視してでもエンターテインメントに徹しようという意図を感じました。ですので、取っ散らかった印象が残る反面、とてもパワフルな作品です。このあたりは評価が分かれそうですし、現に主要サイトのレビュー点数は前作を下回っているようですが、個人的にはとても楽しめました。相変わらず主要キャラを惜しみなく使い捨てる(次回作以降であっさり復活しているのかもしれませんが)ところや、エルトン・ジョン(ドラッグ中毒イジリやアクションシーンが痛快です)やジュリアン・ムーア(なぜこの役を引き受けたのかと思うほど好感度の低い役を、さほど見せ場もなく演じています)といったビックネームを雑に扱っているところが、忖度なくてシニカルな魅力に溢れています。プリンスやカメオのヒット曲に合わせて展開される(曲が終わるとバトルも決着します)、重力無視のアクションシーンもテンションが上がります。下品な性描写や残酷な殺戮シーンを織り込みつつも、スタイリッシュな世界観が維持されている点もオリジナリティが高いです。ミッション:インポッシブルシリーズのようなウエルメイドなスパイ映画に飽きた方には、破天荒なエネルギーに満ちたこの作品をお勧めしたいです。
8 エルヴィス・プレスリー主演の西部劇です。よくあるスター主演のお気楽な映画だと思っていましたが、白人とインディアンのハーフであるため、偏見やアイデンティティに悩む主人公を描いた重い内容でした。ドン・シーゲル監督らしく、淡々と暴力シーンが描かれるクールな作風です。予算が途中でなくなったのか、クライマックスの対決シーンが描かれていないところは拍子抜けしました。途中の小競り合いの描写を減らして、主人公一家の過去を丁寧に説明しつつ、クライマックスをきちんと描いた方が良かったと思います。主演は大スターですが、良くも悪くもB級テイストの作品です。