本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

グランド・ブダペスト・ホテル

2023-11-26 07:27:58 | Weblog
■本
94 湖の女たち/吉田 修一
95 素晴らしき世界/吉田 修一
96 運は遺伝する/橘 玲、 安藤 寿康

94 毎度書いてますが、都会的でスタイリッシュな作風と、地方の土着的なドロドロとした作風の両方が得意な吉田修一さんの、後者の作風の作品です。本作は琵琶湖周辺を舞台に老人介護施設で起こった連続殺人事件に関わる人々が描かれています。丁寧な人物描写が見事な吉田修一さんの作品にしては珍しく、各登場人物の行動の動機がわかりにくく、それが、この小説全体に不気味なトーンを醸し出しています。特に、主要登場人物の特殊な性癖に基づく関係に至った背景がよくわからず、困惑してしまいました。少し前に読んだ朝井リョウ さんの「正欲」でも特殊な性癖が描かれていたように、多様性が重視される現代社会を描く上では必須の要素なのかもしれませんが、「正欲」ほどにはその試みが成功しているとは思えませんでした。吉田修一さんの作品は「悪人」「怒り」といった作品に象徴的なように、一見共感しにくい行動の背景を丁寧に描くことにより、その登場人物固有の行動原理を明らかにし、読者を引き込んでいく点が最大の魅力だと個人的には思っているので、その点は少し物足りませんでした。とはいえ、ストーリーテラーとしての力量は抜群で、そのショッキングな結末も含めて優れた読み物だと思います。

95 吉田修一さんがANAの機内誌に連載されているエッセイがまとめられたシリーズの最終作です。コロナ禍の制限が徐々に緩和されていく様子が描かれていて、徐々に旅を題材にしたエッセイも増えています。コロナ禍の不自由な生活を経験したからこそ気づけた新たな視点を大切にする姿勢が印象的です。私も初めての海外旅行が大学生時代のロサンゼルスだったので、その真っ青な空や高い椰子の木に感動したエッセイには大いに共感しました。吉田修一さんのようにメリハリがついたお金の使い方ができる大人になりたいものです。パークハイアット東京と台湾に行きたくなりました。

96 「言ってはいけない」など、遺伝をテーマにしたベストセラー本を近年に立て続けに発表されている橘玲さんと、行動遺伝学を専門に研究されている安藤寿康さんとの対談本です。安藤さんが「偽悪的」とおっしゃる、橘玲さんのセンセーショナルな語り口を、安藤さんが専門家としての立場から科学的に適切な知見を補足されたり、行き過ぎた主張を補正されたりしながら、議論が進みます。基本的には橘玲さんのこれまでの本と同様に、人間の能力や性格(そして容姿も)に対する遺伝の影響が我々の想像よりも大きいこと(そして、教育や躾などの影響が想像よりも小さいこと)が科学的にも証明されていることが明らかにされていきます。危険な場所にいたり、不用意に目立つ行動をすることにより、不運な出来事に遭遇した場合、そのような行動自体が遺伝の影響を受けているので、「運は遺伝する」というショッキングなタイトルになっているのですが、遺伝も結局はどのような精子と卵子が出会うかという運によるものなので、我々にできるのはその確率を上げる(もしくは下げる)ことだけだと、割り切ることにより、人生が楽になる側面は確かにあると思います。個人的には、自分の遺伝的特性に基づく他人との差異をポジティブに捉え、圧倒的に得意なことではなくとも、少しでも得意なことを見つけ取り組んでいくことにより、「そこそこ」充実した人生が歩めるのではという安藤さんの主張に励まされました。努力を過大評価することも過小評価することもなく、自分にとって快適な人生を過ごせる確率を上げるための決断をしていくしかないのだと思います。


■CD
6 replica/Vaundy

 約3年半ぶりのVaundyさんの2作目のアルバムです。新作が収録されたDISC1と、ここ数年に配信リリースされた楽曲が集められたDISC2からなる大作です。コロナ禍の当時「世界の秘密」や「踊り子」といった名曲に随分救われたので購入しました。とにかく作曲家、そしてシンガーとしての引き出しの多さに圧倒されます。藤井風さんがその個性的な人物像とともにトータルの世界観で圧倒的な才能を示しているのに対し、Vaundyさんはそれぞれの楽曲単体で迸る才気を示している印象です。ライブも拝見したことがあるのですが、ただただ音楽の素晴らしさで楽しい気分になりました。当分聴き込むことになりそうです。楽しみなあまり完全生産限定盤のスペシャルブリスターパックパッケージを購入したのですが、不器用な私は毎度収納に戸惑っています。


■映画
83 グランド・ブダペスト・ホテル/監督 ウェス・アンダーソン
84 弾丸を噛め/監督 リチャード・ブルックス

83 2015年のアカデミー賞で作曲、美術部門を中心に4部門で受賞した作品です。第二次世界大戦前夜の架空の中欧の国を舞台に、ある富豪の遺産相続をめぐるドタバタ劇を中心に話が展開されます。全編を通して、コミカルさと、もの悲しさが漂う、独特のテイストが印象的でした。計算され尽くしたであろう、少しチープで箱庭的な映像も新鮮です。スノッブでありながらも職業人としての矜持を感じさせる、ホテルのコンシェルジュ役をレイフ・ファインズが好演しています。善悪を超えた、人としての一貫性の大切さを教えてくれます。たとえ、バッドエンドに終わったとしても、個々人が持つ固有の美学が人生を豊かにするのだと思います。戦争や差別の悲劇を茶化しながらも、メッセージ性強く打ち出している点と、人種を超えた師弟愛が描かれている点に好感が持てました。何より、ストーリーを含む映画全体のオリジナリティが素晴らしかったです。最後まで観ていた全く飽きませんでした。ちょっと類似作品が思い浮かばない素敵な作品です。お勧めです。

84 700マイルを馬で踏破するレースを描いたジーン・ハックマン主演の1975年公開作品です。レース前の描写がくどく、なかなか始まらない割には、登場人物の背景説明が乏しく、総勢何名のレースかすらわかりません。レース前の描写に時間を割きすぎたためか、レースシーンはダイジェスト的で、最大の見せ場である抜きつ抜かれつの攻防も最終盤に少しあるのみです。クライマックスのゴールシーンもゆとり世代の小学校の運動会を連想させるほどのユルさでした。おまけにタイトルの「弾丸を噛め」は、一見クールですが、歯痛に悩む登場人物に主人公が薬莢をかぶせてあげたことから来たもので、拍子抜けしてしまいます。にもかかわらず、映画トータルとしては、なんだか面白い不思議な作品でした。背景説明の少なさをジーン・ハックマンとジェームズ・コバーンが、俳優としての個人の魅力と演技力で見事に補っています。この登場人物の情報量の少なさとダイジェスト的なレース描写は、展開が予想できないという副作用をもたらしています。なにより、移り行くアメリカ西部の自然の美しさは、観ていてワクワクしました。こういう映画にありがちなレース自体に対する不正もなく、正々堂々と競っていた点もよかったです。最後まで我慢して観続けると、一定の満足が得られると思います。
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言語の本質

2023-11-19 06:04:56 | Weblog
■本
93 言語の本質/今井 むつみ、秋田 喜美

 以前に今井むつみさんの著書を読んで面白かったのと、この本がとても売れているという評判を聞いて読みました。音から意味を想像しやすく、肌感覚で理解しやすいオノマトペの分析から始まり、幼児の言い間違いが持つ推測、拡張する力を経由し、さらに言語習得の過程や、言語を持つに至った人間だけが持つ学ぶ力についてまで考察を深められた興味深い内容でした。幼児が言い間違いによる仮説検証の繰り返しで、経験に即した少ない語彙から、より抽象的で幅広い言葉を習得していく過程が、さまざまな学問の発展過程と似ていて、多くの仮説を生み出し得る多様性の重要さにも気づきました。この本が話題になった理由として、AIの限界として取り上げられることの多い、「記号接地問題」(『身体感覚や経験につなげられていない記号同士を操作して言語の本当の「意味」が学習できるのか』という問題)の考察と結びついている点も大きいのだと思います。個人的にはこの問題は、肉体や感覚を持つ人間だけが理解できるものがあるような気もしますし、AIも基本的に人間以上に膨大に仮説検証(ただ、その仮説のヒントの多くは、まだ人間が与えないといけないというのが私の現時点での理解です)を統計的にする中で、より正確な知識を習得しているので、人間を超える存在になる可能性も残されているとも感じました。などなど、「言語」という長い歴史を持ち我々に身近なテーマを通じて、AIという最先端技術を考察するヒントも与えてくれる奥行きの深さが、この本の魅力なのだと思います。実験結果などを詳細に説明しつつ、丁寧に論理が展開されていく点もわかりやすくて素晴らしいと思いました。知的好奇心が満たされる素敵な本です。


■映画
81 レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う/監督 アキ・カウリスマキ
82 ミラベルと魔法だらけの家/監督 ジャレド・ブッシュ、バイロン・ハワード

81 先週観た「レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ」の続編です。前回とは逆に、メキシコで燻っていたレニングラード・カウボーイズが、「モーゼに生まれ変わった」と言う、失踪していたマネージャーの導きで、シベリアへと帰るお話です。手作りのボートや飛行機にしがみついて、大西洋を渡るダイナミックなシーンもありますが、基本は前作と同様に、各都市(本作はヨーロッパの都市ですが)で演奏しながら、車(本作はバスですが)で気ままに移動していく姿が描かれています。土産に自由の女神の鼻を盗むなど、ゆるーい世界観はそのままで、楽しめました。ただ、演奏シーンが少なめで、楽曲のバリエーションの幅が狭い点が少し物足りませんでした。前作は成功への野心に満ちてアメリカを移動していたのに対し、本作は夢破れて故郷に帰るお話だったという点も、本作の魅力であるお気楽さを低減していたのかもしれません。モーゼにちなんだと思われるギャグも不発気味でしたが、私がキリスト教の知識をもう少し持っていれば、より理解できたような気もします。

82 2021年に公開されたディズニーのミュージカル・アニメーション作品です。恐ろしいほどマーケティングが行き届いた現代風の作品だと思いました。魔法が使える一族の中で、一人だけ使えない主人公は、自分の存在価値に悩んではいますが、それでもポジティブで、日本の漫画の「ブラッククローバー」や「僕のヒーローアカデミア」を彷彿とさせます。主人公以外の登場人物も、スペシャルな能力を持つが故の悩みをそれぞれに抱え葛藤しています。能力のない主人公が、能力がないからこそ巨悪に打ち勝つというストーリーを予想しましたが、そういう安易な展開にはならず、家族の愛の物語へと収束する点も見事です。個々人の内面を深く描いた作品であるにもかかわらず、全体的にコメディタッチである点も、配慮が行き届いています。一方で、とてもよく出来過ぎているが故に、作り手側の意図が垣間見える点に少し興ざめしました。最近のディズニー作品に共通の傾向ですが、最大公約数を狙い過ぎるが故に、個々の観客に刺さる深度が浅めになっているのかもしれません。ミュージカルではありますが、楽曲のクオリティは、ディズニー作品にしては低めな気もしました。とはいえ、幅広い年齢が楽しめるクオリティの高い作品だとは思います。
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サキの忘れ物

2023-11-12 06:14:24 | Weblog
■本
91 GAFAも学ぶ!最先端のテック企業はいま何をしているのか/成嶋 祐介
92 サキの忘れ物/津村 記久子

91 越境ECなどで中国との接点を持つ筆者が、中国で成功している最先端テック企業の事例を紹介しつつ、その変革ポイントについて解説してくれる本です。名著「アフターデジタル」と似たテイストの本ですが、そちらよりももう少し視野を広めに取っている分、いくぶん散漫ではありますが、その一方で幅広い知見が得られます。とにかく、中国テック企業のアプリ等から得られる顧客データを貪欲に活用する姿と、その前提としてサービスを使ってもらうためにユーザファーストを貫く姿勢が印象的です。個人的には筆者の「スイミー戦略」(童話のスイミーが小魚が集まって大きな魚に対抗したように、個人事業主や零細企業をプラットフォームで束ねて、共同購入やノウハウの共有などのソリューションを提供し大手資本に対抗する戦略)というワードセンスが好きです。ロイヤルカスタマーにあえて高い価格を提示し(もちろんサービスはそれに見合った手厚いものにしているのだと思いますが)、取れるところから収益をあげようという中国のダイナミックプライシングの考え方が興味深かったです。「自由主義国家のアメリカがよりメガテック主導型で、社会主義国家の中国がよりベンチャー主導型」という分析にも唸らされました。定期的にこういう最先端テック企業の事例を読むと刺激になってよいです。

92 大好きな芥川賞作家、津村記久子さんの短編集です。お得意のお仕事小説から、シュールな味合いのものやゲームブック風のものまで、幅広いタイプの小説が楽しめます。特に表題作の「サキの忘れ物」が秀逸で、たとえ家族から興味を持たれず、友人もいなくても、たった一人の人や一冊の本との出会いから、人生は変わり得るという真実を、少し物悲し気かつ真摯なトーンで見事に描かれています。多くの思春期にいる人に読んでもらいたい作品です。いろいろな年齢や性別の主人公が登場するのですが、どの作品からもリアルな存在感が感じられ、津村さんの作家としての力量を感じます。ゲームブック風の小説は、ストーリー分岐をメモしながら全てのシナリオを制覇しました。雑多な印象の作品集ながら、冒頭と最後をお得意のお仕事小説でまとめているあたりが、大御所の落語家や漫才師の独演会を観ているかのような安心感があります。全体を通しては、抑圧されてきた人々(動物)が、ギリギリのところで自由を求めて飛躍する姿が印象に残りました。津村記久子さんの作家としての引き出しの多さと安定感が感じられる素敵な作品です。


■映画
79 レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ/監督 アキ・カウリスマキ
80 ミラクル・ニール!/監督  テリー・ジョーンズ

79 学生時代に話題になっていたのに、なぜか今まで観ていなかった作品です。30年以上経ってやっと観ることができました。リーゼント、黒スーツ、とんがりブーツがトレードマークのシベリア出身のバンドが、胡散臭いマネージャーの導きでニューヨークに進出し、そこからメキシコまで旅をするロードムービーです。特に大きな事件は起こらないのですが、とにかく、このバンドのとぼけた雰囲気が観ていてほっこりとした気分になります。当時のアメリカ地方都市のあか抜けない映像も、この雰囲気にとてもよくマッチしています。旅の過程で、観客のニーズに合わせてさまざまなジャンルの音楽を演奏していくのも楽しいです。人を食ったようなファンタジックなエンディングも、この映画にふさわしいと思いました。マーケティング的に洗練されていく一方の、最近の映画に対するある種のアンチテーゼとして、こういうヘタウマな味わいの作品を観るとどこか安心します。

80 モンティ・パイソンのテリー・ジョーンズが監督した、2015年公開のSFコメディです。地球の消滅を検討している宇宙人から、地球人の品格を調べるためにランダムに選ばれた主人公が、ほとんどなんでも実現できる能力を与えられ、その能力に振り回される姿が描かれています。その能力が初期のAIのように、ちゃんと前提条件を明らかにしないと、望み通りの結果にならない点が、今っぽいです。イギリスの作品だけあって、下ネタが結構多く、この万能な能力の副作用の描写がえげつないです。アメリカだと、ジム・キャリーあたりが、大げさな演技で楽しく仕上げてくれるところを、これまたイギリス作品らしく、必要以上に陰キャな主人公(演じるサイモン・ペッグは「ミッション:インポッシブル」シリーズでは、トム・クルーズをサポートする役を好演されているのですが)が陰鬱な感じにしてくれています。作品の世界観は独特で一定の評価はできると思うのですが、結局地球を救うのが犬というのも斬新ではあるものの納得感が低いです。全体的にイギリスのよくないところが出ている作品だと思いました(私の好みの問題かもしれませんが)。ヒロインを演じるケイト・ベッキンセイルはセクシーで魅力的でした。
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師匠はつらいよ

2023-11-05 06:23:06 | Weblog
■本
89 愛着アプローチ/岡田 尊司
90 師匠はつらいよ/杉本 昌隆

89 主に精神疾患において、薬などの医学的なアプローチの限界や問題点を踏まえ、患者個人の尊重や発症に至った過程に対する共感などの、愛着アプローチによる治療の可能性について解説された本です。クライエントの「安全基地」になるなど、基本的には多くのカウンセリング技法で重視されている要素と重なりますが、愛着アプローチにより、望ましい脳内物質の分泌が増える可能性など、医学モデルを参照しつつ展開されている点が新鮮でした。また、発症しているクライエントだけでなく、その原因となっている周囲の人に対しても愛着アプローチを実施することにより、関係者全体の関係性及び症状が改善される点に触れられているところも参考になりました。具体的なケースや改善プログラムについて、詳細に記述されている点もよかったです。あとは、この途方もなく労力のかかるアプローチをどのレベルまで実施できるかというアプローチする側の心身ともの容量の問題と、もっとも支援が必要な人が得てしてあまり支援したくないタイプの人である感情の問題をどのように乗り越えるかが、個人的な課題だと感じました。カウンセリング的なアプローチを精神科医の中でも重視されている人がいるということがわかり、より一層カウンセリングについて学びたいと思いました。

90 藤井聡太八冠の師匠である杉本昌隆八段のエッセイです。私が杉本八段とほぼ同世代であることもあり、自分より才能も地位も上になった弟子を持つ師匠の心情を知りたくて読みました。若干の自虐も含みながら、勝負師としての矜持と弟子に対する深い愛情を共存させつつ、自身や弟子の学びと技術の向上、そして、将棋界全体の発展に重きを置く姿勢に、教えられるところが多かったです。藤井八冠の場合、杉本八段がその幼少期から知っているため、自身の子どもに注ぐのと同じような感情になっていたという面があるのかもしれませんが、嫉妬のかけらも感じられない、杉本八段の人間としての器の大きさも印象に残りました。なにより、文章がとてもお上手で、将棋やそれに関わる人々の魅力が、とてもよく伝わってきます。藤井八冠が凄まじい勢いで、タイトルを獲得し続けている時期と連載が重なっているので、あらためて藤井八冠の成長の速さも追体験できて、その偉業の重さもよく理解できました。自分より若い世代を敵ではなく(棋士は文字通り敵となることもあると思いますが)、新しい視点を与えてくれ、自分の成長につながる存在であると、捉えることが重要だということにあらためて気づかせてくれました。杉本八段がこのような心情に至ったのは、自身の学びにAIをいち早く活用した将棋界に身を置かれているからかもしれません。AIに対しても、こういった開かれた態度で付き合っていくべきなのだとも思いました。


■映画
77 恋に落ちたら…/監督 ジョン・マクノートン
78 マトリックス レザレクションズ/監督 ラナ・ウォシャウスキー

77 ロバート・デ・ニーロが気弱な鑑識官、ビル・マーレイがトリッキーなマフィアのボスを演じています。大好きなロバート・デ・ニーロがこういう映画に出ていたんだ、と思って観ました。演技の上手な二人なので、配役が逆でも成立した気がします。この二人に、歪な美しさを持つ若き日のユマ・サーマンがからみます。バッドエンドの予感が随所に漂う展開ながら、ハッピーエンドに終わったので、違和感を感じてwikipediaで調べたところ、「ロマンティック・コメディ犯罪映画」と紹介されていて、そこで初めてコメディだということに気づきました。これで、ツッコミどころ満載のストーリーだったことに納得しました。この二人はシリアスな映画でも、いつもコミカルな狂気を醸し出しているので、気づかなかったのかもしれません。男の諍いは最後は拳を交えることで解決できる、という20世紀的な世界観も、コメディということで許せてしまいました。シリアスな映画として観ると欠点だらけなので、もう少しギャグの要素を入れて、はっきりとコメディということを示してもらえれば、なおよかったと思いました。

78 2年前に公開されたマトリックス3部作の18年振りの続編です。大好きなシリーズですが、コロナの制限が厳しい時期の公開でずっと観られずにいたので、やっとフォローできました。メタ的な展開(このシリーズの特徴である現実と仮想空間の境目があいまいな世界観に加え、「マトリックス」という作品自体が大ヒットゲームとして作中で描かれています)がしつこいくらいに繰り返されるので、前半は観ていてかなり辛いですが、そこを乗り越えると、いつもの哲学的ながらも痛快なストーリーを堪能できます。ですので、前半を許容できるかどうかで評価が分かれる作品だと思います。個人的には3部作の記憶がかなりなくなっていても楽しめる、後半の親切設計は好ましく思いましたし、何より、ハイテクと肉体の躍動を見事に融合させたアクションシーンは、シンプルに観ていて気持ちよかったです。結末はかなり早い段階で予想できてしまいますが、それもご愛敬。過去3部作の結末を損なうことなく、続編としても一定の納得感のあるエンディングへと導く力技も褒められるべきです。探せば瑕疵はいくらでも見つかりますが、低予算のある種B級的な作品から始まったこのシリーズが、ここまで大きな影響力を持ったのは素直に凄いことだと思います。
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