本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

格差という虚構

2024-09-29 06:52:41 | Weblog
■本
83 ビニール傘/岸 政彦
84 格差という虚構/小坂井 敏晶

83 「断片的なものの社会学」の社会学者、岸政彦さんのデビュー小説集です。合間に挿入される大阪の風景の写真と相まって、大阪に住む男女のまさに「断片的」な生活の描写の積み重ねで話が進んでいきます。岸さんが生活史研究のなかで聞き取った数々の話のエッセンスを抽象化して小説として再構成された印象です。読後感としては、西原理恵子さんの「ゆんぼくん」や「ぼくんち」に近いものを感じました。生きることのしみじみとした悲しさと滑稽さが伝わってきます。個人的には好きなタイプの作品ですが、このオムニバス的な圧縮されたエピソードの積み重ねが、小説かというと評価が分かれるかもしれません。

84 社会心理学者小坂井敏晶さんの格差論です。出口治明さんが小坂井さんの書籍を紹介されていた記憶があったのと、タイトルに惹かれて読みました。「格差」が「虚構」であるという内容ではなく、「格差」が「能力」や「自由意志」などといった「虚構」により正当化されているという事実を明らかにしようとする本です。社会学や心理学だけでなく、行動遺伝学や哲学の知見を用いて議論が展開される読み応えのある内容でした。完全に理解できた自信はありませんが、小坂井さんが終盤でまとめて下さっているように「能力は遺伝・環境・偶然という外因が作る」ので「能力に自己責任はなく、格差は正当化されない」ということと、「人間が互いに比較する存在である以上」、「格差はなくならないし、減っても人間を幸せにしない」というのが結論だと理解しています。その上で、「偶然」を前向きにとらえ、「自己責任」という「虚構」(なぜなら能力は外因的な要因で決まるので)の呪縛から人々を解き放ち、「偶然」やそれを生み出す「多様性」が、社会システムや人々の思考の枠組みを変革する可能性に期待する姿勢は共感するところが多かったです。私は、人間は自分が思っている以上に運に左右されることが多いが、運を良くする確率を上げることはできると思っています。全てを偶然に委ねて無気力になるわけではなく、偶然を楽しみながら、それを味方にするべく生きたいです。また、偶然に愛されなかった場合にも、その自分自身や他者に対して謙虚に接することができるようになりたいとも思いました。

■映画
80 イングランド・イズ・マイン モリッシー, はじまりの物語/監督 マーク・ギル
81 バズ・ライトイヤー/監督 アンガス・マクレーン

80 ザ・スミスのボーカリスト、モリッシーのバンド結成前の悶々とした日々を描いた作品です。「はじまりの物語」という副題がついていますが、はじまってさえいない、肥大する一方の自意識と現実との差に苦悶する鬱々とした日々が描かれます。音楽に対する熱い思いがありながら、バンド結成に至るあと一歩が踏み出せない姿がもどかしいです。そういった煮え切らない人物の割には、不思議とモテて、いろいろな女性が世話を焼いてくれます。この点は事実に基づいているのか少し疑問です。結成前の話なので仕方がないのですが、ザ・スミスの楽曲は一切かかりませんし、バンドが成長していく姿も描かれていないので、こういう作品にありがちな高揚感は一切ありません。これでもかというくらい、若きモリッシーのダメな姿を描き続け、最後にやっと一歩を踏み出す姿が描かれて作品は終わります。というわけなので、モリッシーの熱心なファン以外はあまり楽しめないと思います。私はある程度は興味深く観ましたが、それでも、モリッシーの詩人としての才能をもっと強調するとか、もう少し描くことがあったのでは、という思いの方が強いです。楽曲や詩については、本人の許諾を得られなかったのかもしれませんが、もし、そうであればそもそも映画化するべきではなかったと思います。

81 「トイ・ストーリー」シリーズに登場する人形「バズ・ライトイヤー」が主役のスピンオフ作品です。「トイ・ストーリー」主人公の少年アンディがお気に入りの映画という説明から作品が始まります。意外と骨太のSF作品でとても面白かったです。超高速航行実験のために自分だけが時間の経過が遅い「ウラシマ効果」をストーリーに効果的に用い、主人公が失われた時間を振り返る姿が切なくも感動的です。自分の失敗と向き合うことや、仲間と協力することの大切さが強調されていて、メッセージ性も豊かです。自分たちのミスにより危機に陥る「自作自演」的なピンチが多いのが少し気になりましたが、アクションシーンのスピーディーな映像は迫力満点です。とぼけたようで実はかなり優秀な、おともだちネコ型ロボット「ソックス」の毒の効いたキャラクターも最高です。ラスボスの意外さも含め、大人も楽しめるかなり奥の深い作品で個人的にはかなり評価が高いです。一方で、この複雑な作品の主人公を、少年が気に入るかという点が少し引っ掛かりました。この点がセールス的に伸び悩んだ理由かもしれません(コロナ禍や同性愛描写の影響もあったということですが)。「トイ・ストーリー」と完全に切り離した単独の作品として観たかった気もします。
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GO AHEAD!

2024-09-22 07:02:01 | Weblog
■本
82 ラジオパーソナリティ佐久間の話したりない毎日/佐久間 宣行

 テレビ番組プロデューサーの佐久間さんが、「オールナイトニッポン0」のラジオパーソナリティーとして語られたフリートークが収録された本の3作目です。バカリズムさんやさらば青春の光の森田さんなど、人気芸人さんとの対談も収録されていて興味深いです。毎回周到な準備をされているので、フリートークが抜群に面白いです。「よく毎回こんなに面白い出来事に遭遇できるな」と感心します。どんなことでも楽しもうとする姿勢と鋭い観察眼の賜物だと思います。超多忙な中、家庭を大切にされている点も尊敬します。生活者として地に足がついている点が、ネットでの番組を含む、時代に合ったコンテンツを発信し続けられる理由なのかもしれません。楽しみつつも厳しく仕事に取り組む姿勢は見習いたいです(なかなか難しいですが)。


■CD
4 GO AHEAD!/山下達郎

 引き続き、ボチボチと山下達郎さんの作品を集めています。こちらは1978年発表の3作目です。1,2作目の張りつめるような緊迫感は薄れ、キャッチーなメロディが満載のカラフルな作品です。現在の山下さんにも通じる、ポップさと実験性とのバランスが絶妙です。ザ・ビーチ・ボーイズなど、山下さんが大好きな音楽に対する敬意を隠さず、リラックスした雰囲気さえ漂っています。この作品で試行錯誤の段階を終え、スタイルを確立されたのではないでしょうか? バラエティに富んだ楽曲と濃密な情報量で、聴くたびに新たな発見があります。


■映画
78 アリータ:バトル・エンジェル/監督 ロバート・ロドリゲス
79 今日から俺は!!劇場版/監督 福田 雄一

78 日本の原作漫画を元にジェームズ・キャメロンが共同で脚本を執筆したことと、主人公のサイボーグ「アリータ」をモーション・キャプチャー・アニメーションで制作したことで当時話題になった作品です。アリータの目が大き過ぎて「不気味の谷」を乗り越えられていない点が少し気になりましたが、その点も逆手に取ってサーバーパンク的な世界観は見事に表現できていると思います。アンドロイドと人間との恋愛というテーマも違和感を感じませんでした。ストーリーも中盤まではテンポがよく、作品世界に引き込まれました。テクノロジーとフィジカルが融合した架空のスポーツ、モーターボールのスピーディーな映像も観ていて楽しかったです。しかし、終盤にかけてのボスキャラとのバトルシーンはグダグダで、かなりの失速でした。おそらく、続編の可能性を残したかったのだと思いますが、エンディングもかなり不可解です(ボスキャラへの復讐心を持ちながら、その組織が主催するモーターボールの試合に出続ける意味がよくわかりません)。過去の記憶が影響しているのかもしれませんが、アリータのキャラクターに一貫性がない点も混乱しました。もう少し丁寧に説明して欲しかったです。途中まではかなり面白かっただけに、少し残念な作品です。

79 公開当時大ヒットしていた記憶があったので観ました。いかにも福田監督作品らしく、アドリブと脚本との境目があいまいな悪ふざけに徹したコメディ作品です。5歳のこどもでも楽しめるような、ベタな笑いが満載です。 賀来賢人さん、仲野太賀さんといった実力派俳優を多数起用しているため、やり過ぎな演技もギリギリの範囲で一定の規律を保っています(あえてのグダグダな演技も多いですが)。いつにも増して橋本環奈さんの変顔が強烈で、彼女の女優魂と福田監督作品への愛情を感じました(当時の橋本環奈さんは、おそらく、こんな演技をする必要がないくらいには業界内の地位を確立していたはずなのに)。こういう作品ばかりになっても困りますが、たまに観るには良いかなと思いました。
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Winny

2024-09-15 07:28:07 | Weblog
■本
80 とんこつQ&A/今村 夏子
81 歪んだ幸せを求める人たち/宮口 幸治

80 引き続き今村夏子さんの作品を読んでいます。本作は現時点での今村さんの最新作です。相変わらず「よくこういうことを思いつくな」といった小説が複数収録されています。表題作の「とんこつQ&A」(それにしてもこのワードセンスは抜群でそれだけで読みたくなりました)は、接客が苦手な町中華店員が、AIがさまざまな事柄を学習してくかのように、客との想定問答集をメモやノートに作成していく姿が描かれています。どの小説も淡々としたタッチで始まり、そこから少しずつ不穏な雰囲気を放ち始め、最後はその不穏さを抱えたまま、なんとなくのハッピーエンドやバッドエンドにたどり着きます。また、今村さんを反映したかのような、現実世界への適応能力にいささか欠ける女性が、周囲に流されたり、周囲を巻き込んだりしながら、一見奇妙な行いをする姿が描かれています。読後感としては、子どものころに読んだ星新一さんのショートショートのような感覚で、フィクションとわかっていながら、現実の見え方が少しだけ変わったかのような居心地の悪さを感じます(その感覚が快感でもあり、はまってしまうのですが)。個人的には最後に収録されている「冷たい大根の煮物」という作品に、今後の今村さんの可能性を強く感じました。よくある純文学短編小説の装いの中に、今村さんの楽観さと不穏さが入り混じった世界観が見事に表現されていて、ますます洗練された平明な言葉遣いと相まって、素晴らしい余韻を残してくれます。今後のご活躍が楽しみです。

81 ベストセラー「ケーキの切れない非行少年たち」シリーズの3作目です。シリーズを通して、私たちの想像を超えて「認知が歪んでいる」人たちが存在するということを紹介し続けて下さっていますが、本作ではタイトル通り、ずばり「歪んだ幸せを求める人たち」について語られています。「歪み」のタイプを「怒り」「嫉妬」「自己愛」「所有欲」「判断」の5つの要素に分解して説明して下さっています。自殺しようと思うが、自分が死ぬと祖母が悲しむので、「悲しまないで済むように祖母を先に死なせてあげよう」と考える少年など衝撃的な事例も豊富です。「歪んだ幸せを求める人たち」の背後にある歪んだストーリーを知ることの大切さが強調されています。個人的には、「いい人をやめよう」や「みんなと同じでなくてもよい」など、私もたまに使うストックフレーズを安易に用いることの危険性を指摘されている点が印象に残りました(額面通り捉えられて、悪い人になられても困りますし、極端に社会規範を逸脱する人になられても困ります。それよりも、宮口さんのおっしゃる通り、より負担なく適度に「いい人」や「みんなと同じ」になれる方法があれば、まずそれを試してみる方が先だと思いました)。自分自身が「歪みの壁を乗り越えるため」の方法についても教えて下さっていて、「合わない人とも付き合うことのメリット」など、視点を増やすことの必要性について繰り返し語られている点も参考になりました。想像を超える考え方をする人が現実には存在し、その考え方の背景にあるロジックを知ることの重要性(なぜならその分自分の視点も増えるから)を、現場目線から教えてくれる有益な本だと思います。


■映画
76 Winny/監督 松本 優作
77 ワールド・トレード・センター/監督 オリバー・ストーン

76 Winny事件については、当時私自身も、報道が進むにつれて被告人に対する印象が変化したので(「著作物を軽視するオタクのハッカー」から「純粋な知的好奇心に基づき開発した凄腕プログラマー」)、この事件の全貌を知りたいと思って観ました。あまり期待せずに観始めたのですが、かなり面白かったです。この事件に対する理解も深まりました。警察と検察側が悪役過ぎる点が若干気になりましたが、この視点に立つことにより、物語としての面白さが増したと思います。さらに、単なる法廷ものに留まらない、技術開発者の責任とイノベーションとのバランスの問題や、昨今も注目されている情報提供者保護に関する問題まで視野を広げている点も素晴らしいと思いました。Winny開発者の被告人を少しイラっとするチャーミングさで演じた東出昌大さんは、キャリア最高の名演だったと思います。内部告発した警官役の吉岡秀隆さんが、出番は少ないものの、その東出さんの名演をはるかに上回る圧巻の演技をされていた点も見応えがありました。弁護士役の三浦貴大さんも対照的な抑制された演技で安定感がありました。著作権者側の立場からは別の見え方もあるかと思いますが、Winny事件の詳細を丁寧に描きつつ、エンターテイメント作品としても成立させていて、かつ社会的な問題も提起されている優れた作品だと思います。

77 先週9.11に関する報道がいくつかあったので、ふと思いついて観ました。こういう大事件を、しかもそれほど時間が経っていないタイミング(2001年に発生した「アメリカ同時多発テロ事件」を2006年に公開した作品です)で映画化するのは、かなり難しいと思いますが、この作品からも現実の報道を上回るほどのインパクトは感じられませんでした。報道との差別化を図るために、この災害に直面した個人とその家族に焦点を当てて描かれているのですが、それが映像として描く必要があったのかというと疑問に感じました(当事者の手記の方が伝え方としては適切だったと思います)。ビルの瓦礫の下で救助を待つ二人の警察官の苦しみが中心に描かれていますが、その動きの少ない映像にはあまり心が動かされませんでした。二人の友情や家族との絆の描かれ方も紋切り型で、二人を救出しようとボランティアで参加した元海兵隊員なども含め、せっかく個人に焦点を当てているのであれば、その過去などももっと掘り下げて描いた方が、それぞれの献身的な行動の尊さがよりリアルに伝わったと思います。ドキュメンタリー映像を超えることができなかった点で少し残念な作品でした。
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DOGMAN ドッグマン

2024-09-08 16:08:17 | Weblog
■本
78 あひる/今村 夏子
79 ゲーム的リアリズムの誕生/ 東 浩紀

78 引き続き今村夏子さんの作品を。すっと読めるのに、独特の引っ掛かりのある3つの短編に魅了されます。表題作は、「のりたま」という名前のあひるに纏わるエピソードが、一見ほのぼのと描かれるのですが、背後に「死」や「暴力」の不穏さが漂います。「おばあちゃんの家」と「森の兄弟」は、2つの短編が、視点を変えて微妙に交差し合う、構造に工夫がみられる作品で、こちらも、一見愛情あふれる平凡な家族を描きつつも、「病」や「貧困」の影がつき纏います。人生のささやかな光と影を描くのが、今村さんは本当に上手です。「あひる」はデビュー作後5年近くのブランクを経て発表された作品とのことで、つくづく天才だと思いました。

79 少し前に読んだ「動物化するポストモダン」の続編ということで読みました。前作よりも、引用される作品に個人的になじみが薄く(「All You Need Is Kill」以外は全く知りませんでした)、論理展開も緻密で、正直ついていくのに苦労しました。「動物化するポストモダン」で論じられた、オリジナルの作品を超えて二次制作などで流通する「キャラクター」という視点に加えて、ゲームでその「キャラクター」を操作する「プレイヤー」の視点も意識しながら、現代文学は発展しているというのが、大まかな主張であると私は理解しました。私もゲームをするときによく行いますが、キャラクターが死ぬ度に、リセットとロードを繰り返す構造からは、本当の死を描くことはできないが、そこに、「プレーヤー」の視点を導入することで、逆説的に読者に「自分ごと」としてとらえられるメッセージが届く可能性について語られているとも感じました。このような、「虚構」と「現実」のメタ的な視点を含む展開が、村上春樹さんの「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の「影」と「僕」の対立と関連付けられている点も、村上春樹さんファンとしては興味深かったです。後に村上春樹さんが、「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」の続編的位置づけの「街とその不確かな壁」を発表されたことも、 東浩紀さんが論じられているポストモダン後の文学の流れと呼応しているのかもと思いました。


■映画
74 エクスペンダブルズ ニューブラッド/監督 スコット・ウォー
75 DOGMAN ドッグマン/監督 リュック・ベッソン

74 シルベスター・スタローン率いる老兵アクション映画、「エクスペンダブルズ」シリーズの4作目です。シリーズのどの作品を観ても同じような展開(おじさんたちが銃を撃ちまくったり、爆破しまくったりします)なので、何作目まで観たかがわかりません(このブログで検索したら3作目だけまだ観ていませんでした)。少し疲れていたので、頭を使わなくてもよい映画をということで観ました。ネタバレしても支障がないと思いますので書きますが、シルベスター・スタローン演じる隊長がまあまあ前半で爆死しますが、最終盤に復活し大ボスをやっつけます。大ボスの正体も含めて序盤で結末が容易に予想できる安定感が凄いです。作品の大半に登場しないので、いくら歳を取ったとはいえ、スタローンは楽をし過ぎだと思って調べたら、シリーズ2作目からは主演扱いはジェイソン・ステイサムになっていたんですね。彼だけがまともな演技をしていたのでそれも納得です。ドルフ・ラングレンに至っては、もともと上手い役者ではないのに、本作では過去最悪の演技で逆に爆笑できました。一丁前に登場人物の多様性も意識されています(アジア系の俳優が結構活躍します)。まあ、たまにはこういう予定調和な作品を観て、不条理な世の中を忘れるのもよいと思います。

75 リュック・ベッソン監督はもはやオワコンだと思っていたのですが、予想に反して素晴らしかったです。監督作としての傑作「ニキータ」や「レオン」に匹敵するとは言いませんが、脚本や制作を担当した、「Taxi」シリーズや「トランスポーター」シリーズよりも面白かったです。後味のよい「ジョーカー」といった趣で、壮絶な過去を持つ主人公が、特殊能力を用い、犬達を率いて犯罪を行う姿がクールです。犬を巧みに使ったアクションシーンもユニークで見応えがありました。意味不明のエンディングを筆頭に、リュック・ベッソンらしい、癖の強いスタイリッシュさもたまりません。音楽の使い方も絶妙で、ありそうでなかった挿入歌の組み合わせが個人的にはツボでした。過去が明らかになるにつれて、冒頭の謎が明らかになる構成も巧みで、一気に作品世界に引き込まれました。久しぶりにフランス制作の上質なエンターテイメント作品を観ました。
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父と私の桜尾通り商店街

2024-09-01 08:04:45 | Weblog
■本
76 父と私の桜尾通り商店街/今村 夏子
77 人間中心設計入門/山崎 和彦/松原 幸行/竹内 公啓

76 引き続き今村夏子さんの作品を読んでいます。相変わらずぶっとんだ発想の短編小説が満載で、とても楽しめました。特に「せとのママの誕生日」という作品が秀逸で、寝ているスナックのママの身体の上に、元従業員が思い出話をしながら(しかし、その全員が一緒に働いた時期がないというトリッキーさ!)、レーズンの乳首や酢コンブの眉毛など、身体の各パーツに模した食材を置いていくというシュールな話が展開されます。各従業員がそれぞれ、かなりエグメのパワハラを過去にママから受けていて、その復讐のような、ママへの愛情表現ような、奇妙な儀式が繰り広げられる様子に、ダウンタウンさんの全盛期のコントのような印象を受けました。どの小説も、一見突き放しているようで最後で見捨てない、ほんのりとした優しさに貫かれた視線から、喪失感とこだわりの過剰さがもたらす滑稽さが描かれていて、いろいろな感情が入り混じった奇妙な感覚に陥りました。読み物としてもシンプルに面白く、あらためて今村夏子さんの溢れんばかりの才能を堪能できました。

77 UX検定の受験を検討しているので、学習推奨図書に指定されているこの本を読みました。まさに教科書といった趣で、広く浅く人間中心設計(HCD)に必要な知識を教えてくれます。ハードウェアに関する記述もありますが、どちらかと言えば、ソフトウェアやウェブサイトのUXについて検討する際に役にたちそうです。序盤はイラストも多くとっつきやすいのですが、中盤以降の専門的な章になると次第に難しくなっていきます。共著のためか、章ごとに難易度がずいぶんと異なる印象です。ひとつの節を見開きのページでまとめようとされているので、内容によってはかなり詰め込み過ぎで、図表等も小さく見にくいです。この本でHCDの全体像を概観したのちに、興味のある部分を掘り下げて学んでいくのが正しい使い方だと思いました。


■映画 
73 マーベリックの黄金/監督 サム・ワナメイカー

 ユル・ブリンナー主演の1971年製作の西部劇です。南北戦争の戦友でもある、窃盗団のリーダーと保安官との奇妙な友情をベースにした、クライム・コメディです。持ち主不明の黄金争奪戦が描かれています。保安官のユルさとお色気シーンがあることから、アニメの「ルパン三世」と少し似ていると思いました。内容の方はストーリー間のつながりの描き方が稚拙で、テレビアニメシリーズの総集編を観ているかのような印象を受けました。ユル・ブリンナー演じる、どんな危機でも終始にこやかな窃盗団のリーダーを筆頭に、キャラクターは魅力的だったので残念です。
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