本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

ケイン号の叛乱

2024-07-14 07:24:58 | Weblog
■本
61 できるCopilot in Windows/清水理史、 できるシリーズ編集部
62 子は親を救うために「心の病」になる/高橋 和巳

61 会社でCopilot が使えるので勉強のために読みました。機能やAIへの質問の仕方など網羅的にかつ具体的に説明してくれます。有料版のCopilot Proで、Microsoft office製品との連携で何ができるのか(そして、できないことも現時点の日本版では意外と多い)も知ることができて参考になりました。あまりやりたくない文書作成の取っ掛かりのたたき台を作ってもらうことや、ラフで考えた文章の精緻化を行う上で有益だということが改めて理解できました。まずは使ってみることが大切ですね。

62 メンタルが不安定な息子の親として、タイトルに惹かれて読みました。途中までは、「そうなんでもかんでも親の責任にされてもこちらも完全な人間じゃないしなあ」という思いで読み進めましたが、終盤にかけて、親の影響を超えて自分の人生を歩んでいくことのできる可能性についても触れられていて参考になりました。子どもにとって最初に社会的な関わりを持つ親はやはり大切ですが、親の発達障害などで適切な関係をたとえ築くことができなくても、その「普通」ではない関係を理解すること、そして、ありのままの自分の存在を肯定すること(自分の能力や社会的な地位などの根拠に基づくのではなく)により、気持ちが楽になれる可能性があるということは一種の救いだと思います。「存在自体を肯定する」ということは、人権を重視するということにもつながると思いますので、さまざまな精神疾患の背景には人権教育の不足が影響しているのでは、という仮説を最近私は持ち始めています。もちろん人間は社会的な生物ですので、周囲とうまくやっていく能力も必要ですが、その前提として、「自分の存在自体を認めてもらいたい」という主張はもっと行ってもよいと思いました(それが、全て認められるかどうかはまた別の話だと思いますが)。自分の成長段階に応じて、社会とのかかわりと自分らしさを尊重する度合いを変えてもよいという気づきも得られました。歳を取るにつれてどうしても社会に貢献できることは減ってくると思いますが、それでも自分の存在を(他者に過度の負担を負わせることなく)肯定することにより、機嫌よく生きていくことができるという希望も持てました。


■映画 
59 ケイン号の叛乱/監督 エドワード・ドミトリク
60 ビリーブ 未来への大逆転/監督 ミミ・レダー

59 第二次世界大戦中のアメリカ海軍で、艦長に反旗を翻した乗組員たちの軍法会議の様子とその背景を描いた作品です。艦長は偏執症気味で、やたら規律に細かく、かつ自らの判断ミスの責任を乗組員に押し付ける傾向にある人物です。この好ましくない人物を、あの名優ハンフリー・ボガートが、実に見事に魅力なく演じています。こういった上司はどの会社にもいると思いますし、私もダメ上司が部下から見放される話だと思って、日頃の憂さを晴らしながら途中まで観ていました。ところが、この作品の素晴らしいところは、人の上に立つものの心構えを逆説的に説いているだけではなく、部下の側のフォロワーシップについても批判的な視線を注いでいるところです。無罪判決を勝ち取って喜んでいる乗組員達の宴会の場で、弁護人となった法務将校が放った辛辣な言葉に私も身につまされました。この作品の状況下では、艦長の不適切な指示で乗組員全員が命を失いかねなかったこと、反旗を翻した副長の罰が絞首刑だったということを考えると、無罪判決は妥当だったと思います。しかし、そういった重大な局面でない場合は、現在の行いに若干心許ない点があっても、ある程度その人の過去の業績等にも敬意を持って接するべきだと思いました(もちろん過去の業績があればですが)。一方で、管理監督者を選ぶということはそれだけ重みのあることですので、人事権のある人はその権限を適切に行使していただきたいとも思いました。このように、俯瞰的な視点から観る側に反省も含めたいろいろな感情を喚起する、素晴らしい作品です。分断が進む今の時代にこそ観られるべき作品です。

60 アメリカ社会における性差別の撤廃に貢献し、連邦最高裁判事も長年務めたルース・ベイダー・ギンズバーグの生涯を描いた作品です。尊敬する彼女について知りたかったので観ました。子育てをしながら、ハーバード大学のロースクールに通いつつ、さらに癌になった夫の分の勉強のサポートまで行って、なお、トップクラスの成績を収めた彼女の凄まじい頭の良さとバイタリティに圧倒されました。にもかかわらず、女性という理由で彼女が希望する弁護士という仕事を与えない、当時のアメリカ社会の性差別の根の深さも知ることができました。そういった不遇にもめげず、大学教員として着実にキャリアを積む姿勢にも感銘を受けました。圧巻なのは、女性差別の解消を問題意識として長く持ちながら、それを実現するために、まずは男性に対する差別的な規定を定めている法律の是正を訴えるという発想の転換を行ったところです。夫のサポートもあったようですが、男性中心の当時の法曹界で共感の得やすい裁判をきっかけに、本来の目的である女性差別の撤廃につなげたブレイクスルーは、様々な課題解決のヒントになると思います。映画としては、彼女の生涯のダイジェスト的な内容で、深みが若干欠ける点が残念でした。あと、邦題はあまりにも安っぽす過ぎますね。いくつかの欠点はありますが、主演のフェリシティ・ジョーンズの演技は完璧ですし、裁判シーンの迫力も満点で、痛快な作品に仕上がっています。
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こちらあみ子

2024-07-07 07:07:11 | Weblog
■本
59 今も未来も変わらない /長嶋 有
60 動物化するポストモダン/東 浩紀

59 2020年に発表された長嶋有さんの長編小説です。東日本大震災後の長嶋さんの作品は、どちらかと言えばシリアスな印象の作品が多かったのですが、本作は、登場人物それぞれに問題を抱えているものの、全体的にはコミカルな印象です。もちろん、長嶋作品に特徴的な、固有名詞が飛び交いまくるサブカルのトリビア、一定のルールに基づくオリジナルなゲーム(本作では、歌詞に「あぁ」が含まれる曲限定のカラオケ、が何度も繰り返されます)、ソーシャルメディアでのウイットに富んだやり取り、ささいな心の動きを描写する芯を食った表現、が満載で、これらの細部の仕掛けが全体の雰囲気に見事にマッチしています。長嶋さんの魅力全開でファンとしては大いに楽しめました。一方、ストーリーの方は「婦人公論」に連載されていた影響なのか、バツイチ中年女性作家が若い美形大学院生に好かれるという、男女を問わず中年の夢を叶える展開で、少し捻りが足りないかなとも思いました。その分、主人公の作家による作品内作品として、タイトルにも通じる、タイムトリップもののSF小説を展開して、一見複合的な試みもなされていますが、それも必ずしも成功していないと思います。楽しく、かつ、読みやすく、敷居が低いので、長嶋さん作品の入門書としては最適だと思いますが、ブルボン小林名義のエッセイも含めて、長年フォローしている身としては、まだまだこんなものじゃない、という若干の物足りなさも感じる作品でした。

60 オタク文化の詳細な分析を通じて、日本社会やポストモダンの特徴について考えられた本です。オタク文化の特徴として、作品世界にある「大きな物語」(ガンダムでの連邦政府とジオン公国との戦争といった作品世界の基盤となる大きな枠組み)よりも、作品内の個々の設定の「データベース」(エヴァンゲリオンにおける、綾波レイのキャラクター設定やそのビジュアルなど、個々のキャラクターやその背後にある世界観)の方に関心がある、と述べられているのがこの本の趣旨であると私は理解しました。その上で、このオタク文化の特徴がポストモダンの特徴(宗教やイデオロギーなどの「大きな物語」の影響力が少なくなり、映画やアニメなどの虚構の「設定」の影響力が大きくなっている)と一致しているとも説明されている、と私は捉えております。この本は2001年に発表されましたが、この考えは現在のAIの影響力が増す社会でより説得力を持つと思いました(なぜなら、AIはネットなどから学習した膨大なデータベースを統計的に処理して、もっともらしい回答を導びくものだから)。タイトルにある「動物化」とは、他者からどう見えるかも意識する「欲望」とは異なり、単純に満たされるとなくなる空腹(オタク文化の文脈で行くと二次創作物などの収集欲かもしれません)などの「欲求」を重視する構造を指しています。このように私自身のこの本の理解もまだ浅いですが、デジタル化が進展する社会で、そこで生活する人間を理解する上では必要な教養であると感じました。


■映画 
57 こちらあみ子/監督 森井 勇佑
58 招かれざる客/監督 スタンリー・クレイマー

57 先々週に観た「星の子」に続き、今村夏子さん原作小説映画化作品を。病院に連れて行ったら自閉スペクトラム症(ASD)と診断されそうな、自由な少女あみ子と彼女に振り回される周囲を描いた作品です。前半は空気を読まない(読めない)あみ子に、いらいらとしますが、中盤以降は彼女を取り巻く環境が悪化する一方で、健気にあるがままに生きる姿に切なくも愛おしくなります。家族や友人も決して悪い人ではないのですが、それぞれに自分の問題を抱える中、あみ子からの心乱される言動を許容できずに、次第に家族が崩壊し、また、あみ子は学校のクラスから孤立していきます。そんな中、若干頭が悪そうな幼馴染が、これまたズケズケとしたもの言いであみ子に絡むシーンは、排除ではなく素朴な興味がベースにあるので、少し救われた気持ちになりました。あみ子はまだ可愛げな子どもだから、それでも一定のサポートは得られそうですが、これが、汗臭いおっさんの言動だったらと思うとゾッとします。最も助けが必要な人が、得てして最も助けたくないような人である、という事実について考えさせられました。このような、行き場のない感情が呼び起こされる映画ですが、あみ子演じる子役の名演と、淡々とした演出で不思議と後味は悪くないです。それにしても、こういう題材で第一作を書こうと思った今村夏子さんは凄いです。努力や経験だけでは身につかない天性のセンスが感じられ、こういう人を天才と呼ぶのだと思います。原作小説も読んでみます。

58 こちらも社会課題を巧みな脚本でエンターテインメントに仕立てた傑作です。白人女性が歳の離れた黒人男性との結婚意向を親に伝える場面を切り取り、親の混乱とその背景にある社会の差別意識を巧みにあぶり出します。多様性が議論されることの多い現代でも十分に通用する作品ですが、まだ、異人種間結婚が違法だった名残のある1967年に公開されたという事実に、アメリカ映画界の批評性と底力をあらためて感じました。かなりリベラルな両親が、それでも愛する娘の将来の苦労を思うと手放しで結婚を賛成できないという葛藤が、いくぶんコミカルに、スペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘプバーンという名優の重厚な演技で巧みに表現されています。相手の黒人男性が、社会奉仕の意識が高く実績も既に上げている医師という非の打ちどころのない人物である点と、リベラルな両親がその日中に結婚の承諾有無の結論を出さないといけない点(娘はその夜の便で相手の出張先について行ってそのまま結婚すると言い張っている)が設定として絶妙で、ありがちな「いったん保留」という妥協を許さない状況に追い込んで、混乱状況にある人間の本質をあぶり出そうとしている企みに感心しました。黒人家政婦が使用人の娘に対する愛情が故に、最も黒人男性に疑念を持っているという倒錯した構造も見事です。繰り返しになりますが、重いテーマをサラッと描かれている点にセンスを感じます。今のリベラルな人たちが取るべきスタンスかもしれません。喜劇テイストで観客側の負担がほとんどないのに、得られる気付きの多い感情的なコスパのよい作品とも言えます。細やかな気配りが行き届いた素晴らしい作品です。
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本屋、はじめました

2024-06-30 06:08:10 | Weblog
■本
57 本屋、はじめました 増補版/辻山 良雄
58 なぜ働いていると本が読めなくなるのか/三宅 香帆

57 定年後に本屋をするのもいいかな、といった軽い気持ちで読み始めましたが、そんな浅はかな考えが恥ずかしくなるほど、本気に本屋という職業について考え抜かれた素晴らしい本でした。「リブロ」で20年近く働いた生粋の書店員の方が、その事業計画から、立地、間取り、品ぞろえ、イベント企画、そしてその1年目の営業成績まで、隠すことなく細かく紹介してくれていて、とても興味深いです(しかし、今からのにわか勉強で、真似できるとはとても思えません)。自店の顧客のターゲットを明確にし、その顧客に喜んでもらうためには、どのような品揃えやイベントを考えるべきか、ということの整合性が取れていて、実に見事です。ウェブサイトや旧ツイッターの活用方法も適切で、デジタルマーケティング事例としても秀逸です。環境変化により衰退しつつある業界でも、知恵と情熱があればビジネスとして成立させることができるということがよくわかります。ただ、成長産業とは異なり、人と同じことをしていては、成功できないという厳しさも感じます。人口減少局面にある日本で働く我々も、今後ますます辻山さんのような心構えで、仕事に取り組まなければならないのだとも思いました。ある種のサクセスストーリーなので爽快感も感じますが、日本のビジネスパーソンが置かれている厳しい状況についても考えさせられる本です。

58 引き続き「本」に関する本を。最近売れているということで、タイトルのキャッチーさにも惹かれて読みました。働きながら本を読めるだけの心の余裕が持てるように、「全身全霊で働くことはやめよう(半身で働こう)」という結論は大いに共感できますし、「修養」と「教養」をキーワードに明治時代から現代に至るまでのベストセラーの変遷を振り返りながら、日本人と読書との関係を見ていく構成も興味深かったです。しかし、細部のロジックは個人的には甘さを感じました。働くとスマホゲームはできても読書ができなくなる理由として、新自由主義の競争社会で疲弊している労働者にとっては、ノイズ(未知の要素)が含まれる読書をする精神的な余裕がない、ということがこの本の大まかな趣旨だと私は理解しましたが、このような傾向は否定しないまでも、やはり、本という媒体がインターネットやソーシャルメディア、動画も含めた他の媒体との競争に負けているという面の方が大きいと思います。確かにネット社会にフィルターバブル的な傾向があるのは事実ですが、知的好奇心(必ずしも自分の既知の知識を強化する目的だけではない)からショート動画などを観る人も大勢いると感じますので、「ノイズ」の有無だけで労働者が接するメディアを選択することはそう多くはない気がします。この本がウェブでの連載を元にしているという事実も、ウェブを閲覧している人が「ノイズ」に耐えられることを証明しているのだと思います(筆者はウェブ連載は、本と同等と考えられているのかもしれませんが)。とはいえ、毒舌も交えつつも丁寧に議論を進める姿勢からは、筆者の教養の深さと読書に対する愛情を感じました。働いていてもゆっくり本を読める社会になって欲しいです。


■映画 
55 レッド・スパロー/監督 フランシス・ローレンス
56 オータム・イン・ニューヨーク/監督 ジョアン・チェン

55 ジェニファー・ローレンス出演作は、はずれがないという印象があります。こちらは彼女がロシアのスパイを演じた2018年公開の作品です。相変わらず芯の強い女性を巧みに演じています。フルヌードシーンも含めた身体を張った演技で、いろいろな意味で迫力満点です。ギリギリでエロティックな絡みに進まないこともあり、セクシーさよりも凛とした佇まいの方が印象に残ります。もちろん素晴らしい演技なのですが、従来の彼女の演技と比べると少しクドさを感じます。ストーリーの方は、若干冗長でご都合主義的ですが、二重三重に観客の予想を裏切る先の読めない展開で、最後まで飽きませんでした。残酷な拷問シーンが多い割には、後味もよく、ジェニファー・ローレンスの強かにサバイブしていくイメージによく合った作品だと思います。やはり男は美人に弱いということも思い知らされます。彼女の出演作の中ではベストなものではないですが、良質のサスペンス映画だと思います。

56 一見ウディ・アレン監督作かと思うタイトルの、リチャード・ギアとウィノナ・ライダーが、歳の離れた恋愛関係を演じた作品です。リチャード・ギアもウィノナ・ライダーも実に美しく、それだけでも一見の価値はあります。特に、中年のプレイボーイを演じたリチャード・ギアはセクシーで、この作品で初めて格好いいと思いました。ウィノナ・ライダーも2000年公開の作品なので、まだ、無垢な魅力に溢れています。一方、ストーリーの方は実に平板で、既視感のある展開が続き、先の展開が容易に予想出来て興ざめでした。その分「真実は悪臭を放つ」などの魅力的なセリフで雰囲気を出そうと健闘していますが、いかんせん、ストーリーが浅すぎて、ウディ・アレン監督作のスタイリッシュさには遠く及びません。何より、プレイボーイの過去のエピソードがクズ過ぎて、なぜ、彼がこんなに周囲の人間に恵まれているのかが疑問になるほどでした。モテない中年男の嫉妬も多分に含まれていますが、ニューヨークを舞台にした恋愛映画なら他にいくらでも観るべき映画はあると思います。
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君はどう生きるか

2024-06-23 07:38:56 | Weblog
■本
55 君はどう生きるか/鴻上 尚史
56 ネガティブクリエイティブ/藤井 亮

55 「シンパシー」と「エンパシー」の違いや「悩むこと」と「考えること」の違いなど、鴻上尚史さんが、これまでに様々な場所で発信されてきたメッセージを、10代の人たち向けにわかりやすくアドバイスされている本です。10代の人たちの多くが悩む、「コミュニケーション」についてのアドバイスが多いことが特徴的で、「もめること」や「迷惑をかけること」は悪いことではないとし、「対話すること」の重要性が強調されています。ベースにあるのは「自分の頭で考える」ことの大切さで、学ぶことの意味も、この点にあるということが繰り返し説明されています。結局は、自分の好きなことを追求して、自立できる人間になるという結論に集約されるのだと思います。スマホやAIとの付き合い方やルッキズムなど、最新の課題についてもアドバイスしてくれていて参考になります。個人的には、「よりよく生きるため」に「たくさんの言葉を手に入れる」というアドバイスが印象に残りました。大人にとっても、鴻上さんが発する「たくさんの言葉を手に入れる」ことができ、気持ちが軽くなる示唆に溢れた本です。

56 私もネガティブな人間なのでタイトルに魅かれて読みました。内容は、元電通のしかも亜流の関西で勤務されていた、クリエイターの方が書かれた発想術、仕事術です。ネガティブな人間が持つ、細かいことにくよくよとする性質や劣等感を創作活動のバネとしている点や、亜流であったが故に徹底的に差別化したアウトプットを追求されてきた筆者の姿勢に共感します。一方で、理想を高く持ち、リスクを取って活動し、様々な分野に自分で手を動かして取り組まれている、ネガティブ人間にまるまじき姿勢に憧れます。個人的には、私はネガティブ思考に加え、手先が不器用という欠点もあるので、物を生み出す技術を持つ筆者がうらやましいです。結局は、ネガティブな思考をどのようにポジティブな行動につなげるのかが重要なのだと気づきました。マイナスをプラスに転化する、クリエイティブな仕事以外でも役立つ思考法が満載です。個人的には「土台となる世界観をしっかりと決め込んで」「その世界観の枠組みの中で遊ぶ/ふざける」という考え方が印象に残りました。私が好きな映画や小説はこの世界観の完成度が高いのだと思います(ヨルゴス・ランティモス監督作品が好きな理由もこの点にあると気づきました)。ネガティブで不器用な私でも、なんとかサバイブしていくために、自分の強みや特徴は磨いていきたいと思いました。


■映画 
52 星の子/監督 大森 立嗣
53 死刑にいたる病/監督 白石 和彌
54 許されざる者/監督 ジョン・ヒューストン

52 少し前に読んだ「むらさきのスカートの女」がとても印象的だったので、同じく今村夏子さん原作のこの作品を観ました。新興宗教にはまった両親をその子どもの視点から描き、愛情と崩壊の予感に満ちた、ありそうでないタイプの作品で不思議な余韻が残っています。公開当時16歳の芦田愛菜さんが、まさにはまり役で、恋に恋する中三女子を見事に演じています。器の小さいイケメンを演じると天下一品の岡田将生さんが、この作品でも薄っぺらい教師を自然体で演じられていて魅力的です。その他にも技巧派俳優が効果的に配されて、作品に安定感をもたらせています。観ている間、もやもやとした感情がずっとついてまわりますが、その感情が不思議と不快ではないです。よかれと思ってとっている行動が、少しずつ不幸を増幅させていく過程が切ないです。せめて、宗教にはまる人たちが、誰かの悪意によって翻弄されていないことを祈るのみです。そういった複雑な宗教という問題に、ありのままの感情でタブーなく向き合っているこどもたちの姿が新鮮です。強烈なインパクトはないですが、引っ掛かりの多い作品です。

53 「羊たちの沈黙」のレクター博士のように、阿部サダヲさん演じる連続殺人犯が、獄中からいろいろな登場人物に影響を与えるサイコ・スリラーです。ストーリーは、よく練られていて、随所に張られた伏線が、終盤にかけて怒涛のように回収されていきます。殺人シーンは、思わず声が出そうになるほど残酷で迫力があります。エンディングも違った角度からの恐ろしさを提示してきて印象的です。阿部サダヲさんは、こういった作品で重要な、凶暴さと狂気と可愛げとを兼ね備えた人物を見事に演じています。にもかかわらず、私個人としてのこの作品の評価は低めです。マインドコントロールと言ってしまえばそれまでですが、主人公に操られる人々の行動原理の説得力が弱いと感じました。また、これだけ狭いエリアでの連続殺人で、犯人がなかなか捕まらなかったということも考えられません。異常な世界を描くにしても、その世界の中での説得力は必要だと思います。いっときの刺激は得られますが、「羊たちの沈黙」のように長く語り継がれる作品にはならない気がします。

54 クリント・イーストウッド監督主演でアカデミー作品賞を取った「許されざる者」ではなく、オードリー・ヘプバーン主演の1960年公開の方です。オードリー・ヘプバーンがこういう西部劇に出ていたことを知らなかったので興味深かったです。埃っぽい西部においても、オードリー・ヘプバーンはとても魅力的でした。ストーリーの方はネタバレになるので詳しく書きませんが、少し前に観たエルヴィス・プレスリー主演の「燃える平原児」と構造が全く同じものでした。ハリウッドは、ネイティブ・アメリカン迫害の贖罪意識もあってか、大スター主演で同じ構造の作品を好むのかもしれません。ストーリーはダラダラとした展開で、クライマックスのカイオワ族との戦闘シーンに入ったのが最終盤で、無事エンディングにたどり着くかという点でハラハラとしました。予想通り中途半端で力技の結末で、美しい風景を描けば、オチがつくという安直な発想にガッカリしました。一方、恋愛映画としてはベタながらも、オードリー・ヘプバーンの美しさと相まって、それなりに萌えました。やはり、オードリー・ヘプバーンを愛でるための作品だと思います。
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季節のない街

2024-06-16 06:26:21 | Weblog
■本
53 人生・キャリアのモヤモヤから自由になれる 大人の「非認知能力」を鍛える25の質問/ボーク 重子
54 季節のない街/山本 周五郎

53 この本の筆者の言う「非認知能力」は一般的な定義とは少し異なるような気もしますが、自己肯定感、自分軸、成功体質、主体性、オープンマインド、共感力といった「非認知能力」を鍛えて、人生やキャリアを切り開いていこうというコーチング本です。認知行動療法的な手法も用いたワークシートを使って、これらの能力を鍛えるための具体的な方法を教えてくれます。以前に流行った「EQ」を焼き直しているだけなような気もして、さほど目新しい発見はなかったのですが、筆者も仰っている通り「プランド・ハップンスタンス(計画された偶然性理論)」を重視している点は、今風でユニークだと思いました。要するに不確実性の高い世界では、事前に綿密に計画を立てるのではなく、鍛えた「非認知能力」を元にまずは行動してみて、その結果に応じて素早く改善していくことの大切さが強調されています。書かれている内容は賛成できることも多いのですが、アメリカの競争社会を勝ち抜いてきた人特有の、ハイテンションで過度の自己肯定感ときれいごとにまみれた文体が、個人的にはあまり合いませんでした。「何を語るかよりも誰が語るか」を重視する私の偏った視点からすると、実践する気があまり起こらない、行動に繋がらない読書でした。

54 宮藤官九郎さん脚本のテレビドラマを観て興味を持ったので、その原作を読みました。テレビドラマとの違いを確認しつつの楽しい読書体験でした。どぶ川と崖で区切られた貧しい街に住む人々の生活を描いた短編集です。人間の欲と弱さ、そして、ささやかな気高さが、存分に描かれています。落語的な教訓話もありますが、よくわからないまま終わる話や共感できない話も多く、人間の複雑さを複雑なまま提示する姿勢がとても印象的です。1962年に新聞に連載された小説なので、まだ戦争の影響が残り、生活レベルはかなり低いですが、切羽詰まると気軽に逃げ出せるフットワークの軽さが少しうらやましくもあります。個人的には、たんば老人が発した「男というものには、女房子にも云えないような悩みにぶっつかることもあるもんだよ、女房子を抱えて、こんな荒い世間の波風を乗り切ってゆくのはたいへんなことだからね、本当にたいへんなことなんだよ」と言う言葉に励まされました(今の価値観から言うと偏った発言ではあるのですが、それでも)。日々サバイブすることの大変さと、それが故の尊さを教えてくれるやさしい本です。この本が原作の黒澤明監督の「どですかでん」も観てみたいと思いました。


■映画 
51 地獄の7人/監督 テッド・コッチェフ

 ベトナム戦争で捕虜となった息子を助けるために、ラオスの捕虜収容所を襲撃する父親をジーン・ハックマンが演じた1983年の作品です。息子の戦友や、同じく戦闘中に行方不明となった父親を持つ若手軍人などを仲間に加え、米国政府の妨害を受けつつも、7人+現地の中国人支援者のみで作戦を実行します。ベトナム戦争の戦後処理についての米国政府に対する批判的な視点が印象的です。内容はかなり主人公の視点に偏っていますが(身内の命は尊重するのに、ラオス兵の命はとても軽く扱われています、そして、現地の支援者は1名しか生き残りません)、アクションシーンの描き方は普通に優れていると思います。救出には成功しつつも、苦みの残るエンディングは戦争の悲劇を伝える上で効果的です。アジア人としては素直に楽しめませんでしたが、努力、友情、勝利といった少年ジャンプ的要素が備わった王道の作品だと思います。
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ボルサリーノ

2024-06-09 07:34:56 | Weblog
■本
51 たった一人の分析から事業は成長する/西口 一希
52 イルカも泳ぐわい。/加納 愛子

51 P&G、ロート製薬、ロクシタン、スマートニュースとキャリアを進め、「顧客ピラミッド」や「9セグマップ」といったフレームワークを開発されたことでも有名なマーケッターの方による本です。とかく「コミュニケーションアイデア」に偏りがちな類似書と比較して、「プロダクトアイデア」を重視されている点は、広告代理店ではなく、事業会社で数字を背負ってきた人ならではの説得力があります。内容的には、定量調査結果を顧客をセグメント化するフレームワークに落とし込み、その中で強化したい領域の対象者にN=1のデプスインタビューを行い、そこから、さまざまな「アイデア」の仮説を立て、実行・検証を行っていくというものです。分析の元となる定量調査項目のシンプルさと、実経験からの具体的な数字に基づく説明とが相まって、とてもわかりやすく実務に活かしやすい内容です。わかったつもりに留まらない、実践につながる素晴らしい本だと思います。

52 最近出版物を目にすることが増えた、Aマッソのツッコミかつネタ担当の加納さんによる、エッセイ、短編小説集です。奇抜な視点のシュールな文章が多く、加納さんの個性的なセンスが楽しめます。一方、オードリー若林さんやピース又吉さんの文章と比較すると、人間味があまり感じられません。そういった面が、初々しくもあり物足りなさも少し感じてしまいます。興味関心が自分よりも外部に向かうタイプなのかもしれません。また、シニカルなクールさよりも、好きなものに対する熱量を文書から感じた点も少し意外でした。お笑いに対する執念とも言える愛情と、細部にまで至る言葉選びのこだわりが印象的でした。爆笑エッセイというよりも、少しずつ角度の違う発想を味わうタイプの作品だと思います。「チョロギ」が食べたくなりました。


■映画 
49 聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア/監督 ヨルゴス・ランティモス
50 ボルサリーノ/監督 ジャック・ドレー

49 引き続き、ヨルゴス・ランティモス監督作品を。「ロブスター」と「女王陛下のお気に入り」の間の2017年公開の作品です。人間の悪意と愚かさをより強調した、身も蓋もない「ソフィーの選択」といった趣の作品で、観ていてなかなか辛い作品ですが、テンション高く先の見えない展開が続き、最後まで目が離せません。「ロブスター」や「哀れなるものたち」と同様に、ちょっとあり得ない設定なのですが、不思議とリアルに感じさせる点がこの監督の魅力のひとつだと思います。そして、何と言ってもその想像力のユニークさ。よくこんな話を(しかも露悪的に)描けるな、とどの作品を観ても感心します。この監督のもうひとつの特徴でもある、「狂気のなかに潜むチャーミングさ」は今回は控えめで、ホラー色が強いのですが、それでも、手淫で重大な秘密をばらす主人公の友人など、バカバカしくも切ない人間の欲を滑稽に描いています。話が進むにつれて、各登場人物の印象が当初から少しずつ変わっていき、人間の先入観の怖さにも気づかされます。コリン・ファレルは「ロブスター」と同様に、一見魅力的ではない人物をセクシーに演じていますし、ニコール・キッドマンは、一癖ありそうで実は凡庸なその妻を、ミステリアスに演じています。恐怖と毒と救いのなさが強すぎて、ヨルゴス・ランティモス監督作品にしては私の評価は低めですが、今これだけのインパクトを観客に与えられる監督はそうはいないと思いますので、今後も注目していきたいです。

50 ジャン=ポール・ベルモンドとアラン・ドロン、二大スターが共演した、1970年公開の作品。古き良き男の美学を描いたクライム・ムービーです。女性を取り合って殴り合った末に友情が芽生えるなど、今の価値観から見るとベタなシーンが多いですが、二人のカリスマ性もあり不思議な安定感があります。二人が成り上がっていく姿が、印象的なアクションシーンを軸に、時系列にテンポよく描かれているので、とてもわかりやすいです。最近の映画は複雑なストーリー展開のものが多いので、このシンプルさはかえって新鮮でした。苦みを残したハッピーエンドかと思いきや、最後は伏線をきれいに回収したバッドエンドとなっている点は、いかにもフランス映画(正確にはフランス=イタリア合作映画)です。しっかりした映画を観たな、という満足感が得られる作品です。
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ワイルドサイドをほっつき歩け

2024-06-02 07:24:06 | Weblog
■本
49 ワイルドサイドをほっつき歩け/ブレイディみかこ
50 Coaching A to Z 未来を変えるコーチング/ヘスン・ムーン

49 「ハマータウンのおっさんたち」というサブタイトルがついている通り、「ハマータウンの野郎ども」というエスノグラフィーの名著に影響を受けて、イギリスのアラフィフ、アラ還世代の切なくも微笑ましいエピソードを描いたエッセイ集です。と言ってもブレイディみかこさんとその連れ合いの友人と言うごく狭い範囲での人物描写で、それぞれの人物に対する愛情あふれる視線が印象的です。普通の「おっさん」「おばはん」の日常を描いているにもかかわらず、非常に面白い読み物になっていて、ブレイディみかこさんの書き手としての力量の高さを思い知らされました。「おっさん」の生きにくさが世界共通だと知って、アラフィフの私も読んでいて少し楽になりました。特に、NHS(国民保健サービス)が単なる制度を超えて、左派の心の支えのイデオロギーになっているという記述が興味深かったです。そのため、緊縮財政でいかにNHSが使いにくい制度(無料ではあるものの医者に診てもらうための予約を取るために行列待ちしなければならず、さらに数か月も診察までに待たされることさえあるそうです)になっていても、日本のような〇割負担の保険制度にしようという議論にならないのは、このような背景があるそうです。さらに、EU離脱により浮いたEUへの拠出金がNHSの資金に使えるという離脱派の訴え(のちにその訴えに根拠が全くないことが判明するのですが)がブレグジットの決定的な要因の一つになったらしいです。このような事実を知ると、ブレグジットの背景に、反移民を超えた、古き良きイギリスを維持したいというおっさんたちの熱い思いがあったことがよくわかります。アメリカのトランプ大統領支持者の背景にも、我々日本人のが思っているようなシンプルな構造を超えた、個々人の思いがありそうです。つくづく、世界情勢を正確に理解するのは難しいと思いました。だからこそブレイディみかこさんのような異国の地べたで生活している人の文章に価値があるのだと思います。

50 タイトル通りコーチングの対話技法を教えてくれる本です。心理学の翻訳本にありがちな自分語りから各項目の議論が始まりますが、そのエピソードが、そこそこ面白い(「ミナリ」ばりの韓国人移民ストーリーが垣間見られます)のとギリギリ耐えられる分量なので、類似書程の嫌悪感は感じませんでした。対話技法の内容も一見類似書と同じようなことを言っているのです、ところどころに予想の斜め上を行く解釈や技法の紹介があり、発見の多い読書でした。基本的には相手のロジックを尊重しつつ、これまでに積み上げてきた成果に焦点を当てつつ、進みたい方向への気づきを与えるための質問方法を教えてくれます。語源からいろいろな気付きを与えるアプローチが多用されていて、個人的には、コーチングの定義を「目的・可能性・前進のストーリーをキュレートすること」とし、「curate」の語源として、ラテン語で「大切に扱う、気遣う」といった名詞の「cura」を紹介し、さらに英語の「cure(癒す)」も同じ語源から発生したと説明する手際は見事だと思いました。「happy」の語源である名詞「hap」が好機や幸運を意味し、「happening(突発的な出来事)」などに連なるとし、私たちがコントロールできない事象という説明も印象的です。そこから「幸福」よりも私たちがコントロール可能な「希望」の言語化に焦点を当てるコーチングを重視している点は、個人的にも納得感が高かったです。コーチングの基礎知識を一通り持たれている方にお勧めの本だと思います。


■CD
1 CIRCUS TOWN/山下達郎

 最近めっきりCDを買わなくなりましたが(年間100枚以上買った年もあったのに、こちらが今年に入って初めて購入したCDです)、サブスクでは聴けない山下達郎さんの作品を少しずつ集めていこうと思っています。こちらは1976年発表のソロ一作目です。二作目の「SPACY」を聴いたときにも思いましたが、さまざまな音楽を消化した上で、日本仕様に食べやすく料理した手腕が印象的です。各楽器の音もとてもよく、聴いていてひたすら心地よいです。「SPACY」と比較すると山下さん独自の個性はまだ発揮しきれていない印象ですが、それでも、ファーストアルバムでこのクオリティは驚異的です。聴いていてずっと飽きない点も素晴らしいです。背景にある膨大なインプットが、情報量のとても多い(それでいて疲れない)アウトプットに繋がっている歴史的名盤です。


■映画 
48 ジュラシック・ワールド/新たなる支配者/監督 コリン・トレヴォロウ

 「ジュラシック・パーク」シリーズの6作目にして、現時点での最新作です。6作目ともなると、もうどれを観たのかわからなくなりますね。あらすじを読んで観たことがないことに気づき慌てて観ました。過去作とストーリー上は繋がっているようですが、1作目以外の内容は、もうほとんど覚えていませんでした。それでも、本作だけ観ても十分に楽しめる内容でした。やはり、恐竜に人間が食べられるシーンや恐竜同士の激しいバトルは興奮しますね。夜間だけではなく日中でも恐竜が躍動している映像は、CG技術の発達を感じました。その一方での人間側のダメダメぶりも際立っていて、悪徳社長の最期はすっきりしました。映画内は人間社会に恐竜が解き放たれた混沌とした世界が描かれていますが、メタ的な視点に立つと主要人物は絶対に死なないという安心感が露骨に透けて見えるストーリー展開で、テーマパークのアトラクションのような安心感もありました。随所に現代社会批判のメッセージが込められているのですが、それがほとんど伝わらないほど、映像の力が強いです(恐竜だけでなく人間のアクションシーンも見応え十分です)。良くも悪くも頭を空っぽにして映像を楽しむタイプのシリーズになったと思います。その映像のクオリティがとてつもなく高い点は感嘆するばかりです。
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生成AIで世界はこう変わる

2024-05-26 07:26:36 | Weblog
■本
46 クリティカル・ビジネス・パラダイム/山口 周
47 なぜ教科書通りのマーケティングはうまくいかないのか/北村 陽一郎
48 生成AIで世界はこう変わる/今井 翔太

46 ずっとフォローしている山口周さんの最新作です。本作は、「クリティカル・ビジネス・パラダイム」(社会運動・社会批評としての側面を強く持つビジネス)が「経済・社会・環境のトリレンマを解決する」、という仮説について語られています。私はシンプルに社会運動の持続可能性を確保するには、活動資金を生み出すビジネスの力が必要だと思っているので(活動資金を自治体や一部の篤志家の支援に依存していたら、方針の転換により支援が急に打ち切られかねない)、筆者の主張に同意できる点が多かったです。「クリティカル・ビジネス」の「ソーシャル・ビジネス」との違いを「多数派のコンセンサスが取れていないアジェンダに取り組む」としている点がキモで、「そのアジェンダが少数派のものであったときには静観していたくせに、多数派のコンセンサスが取れた途端に後乗りするようにして声高に主張するなどというのは、実にダサい振る舞いだと思います。」という挑発的なメッセージに痺れました。少数派のアジェンダに取り組むと言うことは、開始当初は理解されないことが多いかもしれないが、その難しい課題に取り組むことこそがやりがいがあり、かつ、成功すれば得られる利益も大きいと言うことだと思います。背景には山口周さんがよくおっしゃる、ビジネスとして成立するような、解決が比較的可能な課題が社会から少なくなっているという面があります。だからこそ、やりがいを求める優秀な人々は「クリティカル・ビジネス」に取り組むべし、ということになりそうです。結局、自分が取り組む課題は人から与えてもらうのでなく、自分で考え抜かなければ、やりがいも得られないということなのかもしれません。前半の刺激的な考察パートと比較して、後半の実例や具体的なアクションについての記述は、先日読んだ「ブルネロ・クチネリ」など既知のものが多く、それほど新たな気づきは得られませんでした。とはいえ、壮大な理想について語られた、刺激に満ちた本だと思います。刺激を受けているだけではだめで、実際に行動に移さないといけないのだとは思いますが。

47 電通の戦略プランナーの方が実務者視点でマーケティングについて教えてくれる本です。「教科書通りのマーケティング」と言われると、学問としてのマーケティングを学んだことのない私にとっては「4P」がすぐに連想されますが、製品、価格、流通についての記述はほとんどなく、「教科書通りの広告コミュニケーション」という題の方が相応しいかもと思いました。書かれている内容は、かなり具体的でかつわかりやすく、広告コミュニケーションに関わる人にとって有益な知見が得られると思います。随所に筆者の教養の深さも感じられて、「こういう考え方もあるんだ」という気づきも多く、読み物としても面白かったです。

48 「東大で1番読まれた本」という帯と、日本を代表するAI研究者である松尾豊さんのお弟子さんが書かれた本ということで読みました。これまで読んだAIの本の中で一番わかりやすかったです。特に、今主流のトランスフォーマーと呼ばれるニューラルネットワークを使った言語モデルの性能は、「モデルサイズ(パラメータ数)、学習に使用するデータセットの量、学習に使う計算量」で決まるという「スケーリング則」の説明が秀逸で、人工知能研究の最前線が、「いかに賢いアルゴリズムを設計するか」という問題から、「いかにお金をかけられるか」という問題に変わってしまった、ということがよく理解できました。潤沢な研究資金を持つ、巨大プラットフォーマーが有利な状況は、今後様々な弊害を生みそうです。AIに取って代わられる仕事が、「単純作業」から、「ホワイトカラーの職種」へと短期間のうちに予想が変わったという事実は、AIの進化の速さとその社会的な影響の予測がかなり難しいことを物語っていて、少し怖くなりました。AIと創作の関係の解説も興味深かったです。個人的にはプロンプトエンジニアリングの解説が有益で、「少数例プロンプティング(出力の例をプロンプトに入れる)」や「思考の連鎖プロンプティング(段階的に出力を考えるようなプロンプトを与える)」は仕事で使ってみようと思いました。進化の激しいAIの現在地(と言っても既に古くなっている点があるかもしれませんが)を知る上でとても有意義な本だと思います。


■映画 
47 KUBO/クボ 二本の弦の秘密/監督 トラヴィス・ナイト

 日本を舞台にした米国の3Dストップモーション・アニメーション作品です。この種の作品にありがちな日本文化に対する誤解が少なく、違和感なく楽しめました。王道のアドベンチャー作品的展開を見せながら、単純な勧善懲悪ものに終わらない点も素晴らしかったです。日本的なあいまいさや余白が随所にある点も印象的でした。それでいて、ストーリーは極めてシンプルで、適度なユーモアもあり、子どもから大人まで楽しめます。折り紙が次々と変化して、生き生きと動く映像も独特で目を引かれます。あまり期待していなかったのですが、ピクサーやイルミネーションの作品に匹敵するクオリティを持つ傑作だと思います。
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ロブスター

2024-05-19 07:39:14 | Weblog
■本
44 うどん陣営の受難/津村 記久子
45 人間主義的経営/ブルネロ・クチネリ

44 引き続き津村記久子さんの作品を。こちらは津村さんの原点とも言える、職場でのゴタゴタが舞台の小品です。いまどきそんな会社があるのかよくわかりませんが、会社の代表選挙の決選投票を控え、キャスティングボードを握る三位候補の陣営(陣営の会合でうどんが出されることから「うどん陣営」と表現されています)が、一位二位陣営の双方から切り崩しを受ける受難が描かれています。派閥争い、パワハラ、無意味な社内手続き、煩わしい人間関係、などなど、職場の嫌な面がこれでもかと登場する一方で、それでも、同僚のささやかな優しさ、打ちひしがれた人が振り絞る勇気、普段は頼りない上司のさりげない気配りなど、組織で働くことでしか見出せない、かすかな美徳が語られていて、やるせない私たちの会社生活も、まんざら捨てたものではない、という気持ちにさせてくれます。日々の食事やそのための買い物など、「生活」について丁寧に描かれている点も、安定の津村さん節です。ワークライフバランスのような高尚なものではないかもしれませんが、日々サバイブしていくための生活と仕事について、そっと応援してくれているような優しさを感じる作品です。

45 ここ数年いろいろな人が、理想的な企業として紹介することの多い、イタリアの高級アパレルブランド、ブルネロ・クチネリの創業者が書かれた本です。回想録と筆者の思想啓蒙を兼ねたような内容なので、引用されることの多いソロメオ村の再生や、そこでの教育や働き方、また、具体的な経営戦略などを知りたい人(私もそうでした)にとっては、少し拍子抜けする内容かもしれません。個別具体的な施策説明よりもさらに高度に位置する、資本主義の欠点を補うための持続可能な「人間主義的経営」の理念と、その考えに至った、クチネリ氏の境遇や親しんだ宗教、哲学について詳細に語られています。語られている内容は、まさに理想的で、誰もがそのような企業を目指したいと思っているはずなのですが、なぜ、ブルネロ・クチネリにできたことが、他の企業にはできないのかの明快な解は得られません。一方で、その必要条件としての、壮大な理想や人間的魅力の重要性については学ぶことができます。その理想を実際の計画に落とし込んで、持続可能な仕組みを作り、どのように実行していくかについては、それぞれが苦しんで考え抜くしかないのかもしれません。理想と現実のギャップとそのギャップを埋めるための自分の力のなさを痛感させられる本でもあります。


■映画 
44 快盗ルビイ/監督 和田 誠
45 シャイロックの子供たち/監督 本木 克英
46 ロブスター/監督 ヨルゴス・ランティモス

44 小泉今日子さん主演の1988年公開の作品です。いかにも昭和のアイドル映画という感じのボーイ・ミーツ・ガールもので、ただただ小泉今日子さんを魅力的に描くことに力点が置かれています。一方、共演の真田広之さんが誠実なだけのチープな青年役で、怪盗なのにその身体能力を活かしたシーンもなく、なんだかもったいないです。監督が著名なイラストレーターの和田誠さんということもあって、カット割りや音楽(主題歌は大瀧詠一さんの作曲です)も含めスタイリッシュな雰囲気が漂っていますが、今となっては、シチュエーションコントのような印象を受けます。豪華俳優陣がカメオ出演的に作品に色を添えています。小悪魔的な役柄の小泉今日子さんを愛でるための作品です。

45 「半沢直樹シリーズ」の池井戸潤さん原作小説の映画化作品です。いくらなんでもここまでモラルの低い社員の多い銀行は、とっくに破綻していると思いますが、銀行を舞台にした欲望渦巻く複数の事件が巧みに描かれていて面白かったです。銀行という組織の様々な理不尽な側面も取り上げられていて、銀行業務の勉強にもなりましたし、働く人々を応援する作品にもなっています。佐々木蔵之介さん、柳葉敏郎さん、 佐藤隆太さんといった大物俳優を差し置いて、阿部サダヲさんが主演を張っている点に時代を感じます。 上戸彩さんが、明るくも芯の強い女性を魅力的に演じられていた点が印象的でした。予定調和的な展開ではありますが、それが安心感につながっている、万人受けするエンターテインメント作品だと思います。

46 ヨルゴス・ランティモス監督の初の英語作品でもある2015年公開作品です。同監督作品の「哀れなるものたち」「女王陛下のお気に入り」が面白かったので観ました。45日以内に自分の配偶者となる相手を見つけなければ、ロブスターにされる中年男性を巡る冒険が描かれています。よくこんな突拍子もないストーリーが思いつくな、という点にまず感動しました。人間の想像力の豊かさに慄きます。このぶっ飛んだ世界観を破綻させずに一貫性を持って描いていて、ヨルゴス・ランティモス監督の迸る才気を感じます。いわゆるディストピアもので、目を背けたくなるような描写も多いのですが、それでもストーリーの先を期待せずにはいられない、人を引き込む魅力に溢れています。登場人物の悪意が満載で、この作品もシニカルな作風が、ラース・フォン・トリアー監督作品に近いと感じましたが、あそこまで神経症的な緊迫感がなく、どこか抜けたチャーミングさがある点がこの監督の個性だと思います。「恋愛は相手との共通点に固執し過ぎない方がよい」というメッセージを、私は謎めいたエンディングから受け止めました。主演のコリン・ファレルはこの役を演じるために20kg近く太ったらしく、そのオーラのなさのため、観終わるまで彼とは気づきませんでした。非現実と現実、上品さと下品さが入り混じったクセのある映像も含め、「可愛げのある狂気」に満ちたオリジナリティの高い作品です。ヨルゴス・ランティモス監督の次回作も楽しみです。
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つまらない住宅地のすべての家

2024-05-12 08:27:11 | Weblog
■本
41 なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない/東畑 開人
42 つまらない住宅地のすべての家/津村 記久子
43 むかしむかし あるところにウェルビーイングがありました/石川 善樹 、 吉田 尚記

41 著名な臨床心理士である東畑さんによる、「カウンセリングルームでの実施内容の再現」をテーマにした、エッセイとも小説とも自己啓発書とも読める不思議な感覚の本です。臨床心理士らしく、全編を通して優しいトーンが流れていて読んでいて癒された気分になります。複雑な心をシンプルなかたちに分割する「心の補助線」、私は「本能」と「理性」と理解しましたが、心の二つの側面である「馬とジョッキー」、私は「doing」と「being」と理解しましたが、「働くことと愛すること」、「共同性」と「親密性」を表した「シェアとナイショ」、傷つきを外側へと排泄するか内側で消化するかを表した「スッキリとモヤモヤ」、ものごとを単純化し過ぎる危険性のある「ポジティブとネガティブ」など、「いかに生きるか」を考える上で参考になる視点を教えてくれます。「心の補助線」が強調されていることから一見分析的な本のようにも思えますが、心のいろいろな側面をいったん整理した上で、その様々な側面に優劣をつけることなく、複雑なものを複雑なままに理解しようという姿勢が貫かれています。個人的には「ポジティブな不幸せ」と「ネガティブな幸せ」という視点が、常々「ポジティブさ」を重んじ過ぎる昨今の風潮に違和感を感じていたネガティブな私にとってはとても参考になりました。「過ぎたるは猶及ばざるが如し」ではないですが、「極端なポジティブ」「極端なネガティブ」が問題なのであって、「ポジティブ」と「ネガティブ」にさほど優劣はないのだと思います。決めつけの多い自己啓発書やアドバイス(この本では「処方箋」という言葉が用いられています)とは一線を画す、そっと寄り添うような優しい本です。

42 引き続き津村記久子さんの作品を読みました。こちらは先週読んだ「水車小屋のネネ」の一つ前の作品です。ある住宅地の一区画に住む複数の家族による群像劇です。「ささやかな善意」に溢れていた「水車小屋のネネ」とは異なり、どちらと言えば、各家庭は「悪意」と「わだかまり」(それも「ささやか」で済まされない程度の)を抱えています。その各家庭が、ある逃走犯の騒動に巻き込まれて「ささやかな」交流を持つことにより、それぞれ「ささやかな」解決法や希望を見出す姿が描かれています。人と関わることで嫌な思いをすることは多いですが、それでも「関わる」ことでしか解決できない問題があることを優しく教えてくれる作品です。津村さんの作品なのでそこまでテンションは高くないですが、各登場人物の不満や悩みがある出来事で浄化される構造が、映画の「マグノリア」と似たような印象を持ちました。テレビドラマにしたら面白いかもと思っていたら、すでに2年前に制作されていたんですね。伊坂幸太郎さんの小説を思わせる伏線回収のエンターテイメント性にも溢れていて、津村記久子さんの作家としての引き出しの多さを堪能できる作品です。

43 ウェルビーイング研究の第一人者である石川善樹さんとニッポン放送のアナウンサーである吉田尚記さんのポッドキャスト番組を書籍化されたものだそうです。日本の古典や昔ばなし、そして、落語などを引用しながら日本的ウェルビーイングを考察されていて興味深いです。上昇志向の話(シンデレラのように不遇から抜け出してハッピーエンドに終わる)が多い西洋と比較して、日本はぐるっと回ってきて元の位置に戻ってくる話(浦島太郎のように竜宮城に行って戻ってきて歳を取っただけ)が多いことから、現状維持であっても存在すること(being)の大切さを尊重する日本文化の優しさを指摘しています。何かをしてくれる(doing)という理由ではなく、存在(being)自体を尊いと思う、アイドルなどの「推し」を「今の時代に最適化されたウェルビーイングのかたち」と考えることもできるという指摘と、「推し」の概念を天皇への敬意にまで拡張されている点が、個人的には興味深かったです。また、理系の知を「再現可能な知」、文系の知を「一回限りの知」と表現し、それぞれにメリットデメリットがあるという指摘も文系の私としては励まされました。存在(being)だけで満足していたら社会の進歩がないような気もしますが、これも程度問題で、現在の何をするか(doing)を重視し過ぎる傾向とバランスを取る意味でも、この本で主張されているように存在(being)自体を尊重し寿ぐ姿勢が、それこそよりよく生きる上では大切なのだと思います。


■映画 
41 生きる LIVING/監督 オリヴァー・ハーマナス
42 グロリア /監督 ジョン・カサヴェテス
43 地下室のメロディー/監督  アンリ・ヴェルヌイユ

41 黒澤明監督の名作「生きる」をカズオ・イシグロさんの脚本によりリメイクしたイギリスの作品です。イギリスのスタイリッシュな雰囲気を随所に感じますが、基本的には原作に忠実で、カズオ・イシグロさんの作家性は極めて抑制的な印象です。俳優陣も主演のビル・ナイ以外は知名度が低めで、地味な印象です。それだけに、元々のストーリーの良さを実感することができました。個人的にも定年が見えてきた年齢になったので、主人公が末期がんを宣告された後に、これまでの行動を改めて必死に何かを残そうとする姿に考えさせられるところが多かったです。主人公の死の直後には無気力なお役所仕事を批判していた同僚たちが、しばらくすると以前の事なかれ主義に戻っている描写は、強烈な皮肉を込めつつ人間の本質を描いていて改めて感心しました。カズオ・イシグロさんは大好きな作家なので、もう少し彼独自の解釈での作品を観たかった気もしますが、作品のテーマにマッチした慎ましくも誠実なリメイク作品だと思います。ただ、日本人は原作の方を優先的に観て欲しいとも思いました。

42 先週読んだ「水車小屋のネネ」の中で重要な役割を果たしている作品です。観たことがなかったので、慌てて観ました。若干ベタですが、「水車小屋のネネ」で8歳の妹を連れて家を出た18歳の姉が、自分の境遇とこの作品の主人公の姿とを重ね合わせていることがよくわかりました。ギャングに殺されたアパートの隣人から6歳の少年を預かった中年女性が、少年の気まぐれな行動やその子を狙うギャングに翻弄されつつ、必死に守り抜こうとする姿が描かれています。そのやさぐれた主人公をジーナ・ローランズが実にクールにかつ魅力的に演じています。ストーリー的には粗が多く、こういったひょんなことから他人の子どもを預かり、いやいや世話をしつつ困難を乗り切る間に双方の間に愛情が生まれる、というパターンの映画としては、「レオン」や「セントラル・ステーション」の方が上だと思います。にもかかわらず、津村さんがこの映画を引用したのは、主人公が少年を連れてニューヨーク周辺を逃げ惑う姿をくどいほどに繰り返し描かれている点が、「水車小屋のネネ」の姉の心境に合っているとともに、子育て全般に通じる不安のメタファーとして秀逸だからだと思います。個人的には「セントラル・ステーション」を先に観ていただきたいですが、独特の存在感を放つ作品だとは思います。

43 若い美形の実行犯を演じるアラン・ドロンと経験豊富な首謀者を演じるジャン・ギャバンが共演した1963年公開のフランス映画です。いかにもフランス映画といった、センス溢れるクライムムービーです。楽して儲けたいというこの二人と、その二人に協力しつつも楽して儲けると欲望に制御が効かなくなるので報酬は受け取らないという実行犯の義兄との対比もフランス映画っぽいです。ストーリー的には、カジノの金庫に侵入し現金を強奪する泥棒という「ルパン三世」でおなじみの展開ですが、実行に至るまでの準備の丁寧な描写と侵入シーンの緊迫感により、観ていて飽きさせません。逃亡に失敗してプール一面に現金が浮かぶラストシーンもいかにもフランス映画です。派手さはないですが、アクションシーンよりも人物に焦点を当てた古き良き作品だと思います。ハリウッド映画に少し飽きている方にお勧めです。
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