本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

ケーキの切れない非行少年たち

2022-07-30 05:57:46 | Weblog
■本
60 ケーキの切れない非行少年たち/宮口 幸治
61 なまけもの時間術/ひろゆき

60 少し前に話題になっていたので読みました。非行少年など、不適切な行動を行う人に対しては、思い込みなど「認知の歪み」を正す、認知行動療法が有効とされているが、そもそも、丸いケーキを五等分できないなど、「認知能力」自体が劣っている非行少年がかなりの数いるので、その「認知能力」の不足をきちんと見極め、強化していく取り組みも必要である、という趣旨の本だと私は理解しました。「認知の歪み」についての問題は最近よく議論されていますが、「認知能力」自体の不足に焦点を当て、それを強化するための具体的な方法を提示されている点がこの本のポイントだと思います。この視点のずらし方はとても素晴らしく、ベストセラーとなったのも納得の気づきの多い本でした。人間誰しも、得意不得意があると思いますが、それが「生きにくさ」に繋がらないだけの寛容さが社会に必要ですし、その不足する能力によるハンデをハックするような、方法論やしたたかさの取得が個人には求められているのだと思います。宮口さんの少年院などでの高い志を持った取り組みにも敬意を表したいと思います。

61 たまに、いろんなしがらみを感じたときに、ひろゆきさんの本を読みたくなります。この本は、少し前に読んだ「映画を早送りで観る人たち」で取り上げられていた「タイパ(タイムパフォーマンス)」至上主義と言ってもよい内容です。時間当たりの自分の快楽を最大化しようという思想に満ちています。あえて、「なまけものになる」という極論に振ることにより、「常識」とされていることの不合理さを明らかにして、ひろゆきさんの極論と「常識」との間の、個々人にとっての心地のよい、時間との付き合い方を教えてくれる本です。その一方で、「時間をかけること」よりも「成果を出すこと」を重視する、ある種シビアな内容でもあります。好きなことに没頭することの大切さや、体験を重んじる姿勢など、意外と最近ビジネス界などで重視されている主張と重なる点も多いです。繰り返しになりますが、「常識」とされていることや自分の「思い込み」から、いったん自由になって、個々人の時間との快適な関わり方を考えるためのツールとして使うのが、この本との正しい向かい合い方だと思います。そんな堅苦しいことを考えなくても、「ひろゆき節」を堪能できるという意味だけでも、読み物として面白いですが。


■映画
43 リベンジ・マッチ/監督 ピーター・シーガル

 公開当時既に70歳間近だった、シルヴェスター・スタローンとロバート・デ・ニーロがW主演のボクシング映画です。しかも、この二人が指導者役ではなく、実際に戦うのですから驚きです。デ・ニーロは、例によって役に応じて、不摂生続きで腹が出た姿からボクシングの試合に耐えうる状態まで、見事にダイエットしています。さすがに往年の絞った身体に戻るのは無理でしたが、この年齢で急激に体重を落として、健康上大丈夫かと心配になるほどです。それぞれがボクサーを演じた、「ロッキー」シリーズや「レイジング・ブル」といった名作を彷彿とさせるシーンも多く、ふたりの古くからのファンは楽しめる内容です(若干悪ノリし過ぎな面もありますが)。ストーリーの方は、ひたすら予定調和で、スタローンはともかく、名優としての評価が高いデ・ニーロがこんな作品に出て、晩節を汚さないか心配になるほどです。それでも、ふたりの身体を張った演技はそれなりに見る側の心を打ちますし、安易に引き分けとしなかった結末も評価したいと思います。いろいろ言いましたが、結構好きな作品です。
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ビジョンとともに働くということ

2022-07-23 07:12:18 | Weblog
■本
58 プーチンの野望/佐藤 優
59 ビジョンとともに働くということ/山口 周、 中川 淳

58 ロシアの専門家である佐藤優さんが、ウクライナ問題をどう考えられているのかを知りたくて読みました。表紙に書かれているように「残虐なロシア」、「悲劇のウクライナ」という単純な二元論では表せない、この問題の歴史的経緯を知ることができて参考になりました。これも表紙に書かれていて、佐藤さんもよく強調されている、相容れない価値観を持つ相手でも、その「内在論理」を理解することが、状況分析や問題解決に役立つスタンスであることも学べます。プーチンがウクライナの一部勢力を「ネオナチ」と決めつけている点にも、一定の歴史的整合性があることも理解できました。ただ、プーチンの「内在論理」が理解できても、それを容認することとは別です。ですので、その解決法について、佐藤さんの具体的なお考えをもう少しお聞きしたかったという不満も残りました。佐藤さんが今後ロシア関係で飯を食っていくために、ロシアの情報通との関係を悪化させたくないのか、若干ロシア寄りの分析が多い印象なのと、この本の出版元の潮出版社と関係が深い創価学会に対する忖度がひどいので(ウクライナ問題の解決に創価学会の教えが有効、という結論にはかなりがっかりしました)、それこそ佐藤さんの「内在論理」を理解した上で読むべき本だと思います。

59 大好きな山口周さんの本を久しぶりに。本作は、工芸品販売をチェーン展開されている、中川政七商店代表取締役会長の中川淳さんとの対談本です。山口さんが、同社の社外取締役をやられているという点は割り引かないといけないですが、タイトル通り、同社が「日本の工芸を元気にする!」というビジョンに基づき、素晴らしい経営をされていることがよくわかります。マーケティングから哲学まで、山口さんの知識の引き出しの多さも堪能できます。個人的には「ビジョンとミッションとパーパスの違いを一生懸命に理解しようとしている人もいるでしょうけど、そんなものは本質的な問題ではないので気にしないほうがいいですよ」とういう発言が、ビジョンを元に経営されている中川さんから出たということに共感しました。たまにこれらの言葉の差異を得意げに説明しマウントを取りにくる、自称マーケターの人がいらっしゃいますが、そういう「飛び道具トラップ」に陥らないようにしたいと思いました。結局は山口さんがこの本で述べられている「お金を儲ける以外にも、人々の共感を引き出せるような崇高な目的や理念」に基づき、行動できるような個人や組織がこれからの社会に求められているのだと思いました。


■映画
42 アラベスク/監督 スタンリー・ドーネン

 グレゴリー・ペックとソフィア・ローレン主演による、「シャレード 」のスタンリー・ドーネン監督のサスペンス映画です。一言で言えばいろいろと空回りした残念な作品です。謎解き要素はチープで、監督のセンスが見せつけられるトリッキーな映像は滑りまくっています。何より、脚本とメインキャストが合っていません。メインキャラクターが、衝動的に行動する軽い人間である一方で、グレゴリー・ペックやソフィア・ローレンの演技はかなり重厚です。「シャレード 」のオードリー・ヘプバーンのように、まだ、初々しいイメージが残っている俳優が演じていれば、もう少し違った印象になっていたのかもしれません。1966年公開作品なので、時代背景が異なることの違和感が影響している面も否定できませんが、主演二人の熱演が作品のクオリティに繋がっていない印象が強いです。
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リコリス・ピザ

2022-07-16 06:58:47 | Weblog
■本
56 あなたの中の異常心理/岡田 尊司
57 はじめての認知療法/大野 裕

56 タイトル通り、どんな人も持ち得る極端な完璧主義や嫉妬などの異常心理について解説された本です。基本的には、過去の強烈な体験からもたらされた「認知の歪み」が原因なのだということがよく理解できました。特に、ガンジーのエピソードはショッキングで、極端な潔癖主義が、自分が与えられた高等教育の機会を、自分の子どもたちには平等を重んじるあまり与えなかったり、自身も拒食症に近い状態になったりしていたということを知って、複雑な気持ちになりました。そのような極端さが、インド独立という歴史に残る偉業を成し遂げたとも言えるのですが、そのために自分自身や家族を不幸にしていたとしたら、手放しでガンジーという人物を賞賛できない気持ちになりました。かといって、こういった過剰さが、人類の進化の原動力であったことも間違いない事実ですし、そう簡単に割り切れるものではないのだとあらためて思いました。難しいことですが、膨大なエネルギーは尊重しつつ、その使いどころを考えることが大切なのだと思います。

57 というわけで、「認知の歪み」の正し方について書かれている、この本を読みました。「活動記録表」や「非機能的思考記録表」など、具体的なツールを用いつつ、自分の思考のクセ(スキーマ)を自覚し、問題解決につなげる手法についてわかりやすく教えてくれます。「ポジティブ思考万能説のワナ」(悪い面ばかりを見るのもよくないが、良い面ばかりを見るのも、物事をありのままに見られなくなる)など、私が、日々感じていることも指摘して下さっていて共感しました。やはり、極端な完璧主義を排し、曖昧さや不完全さを許容する姿勢が必要なのだと思います。自分を変えることはなかなか難しいですが、少なくとも、メールの返事が遅くても、自分が軽く扱われているのではなく、相手が忙しいのだと思うようにしたいと思います。


■映画
40 ホット・ロック/監督 ピーター・イェーツ
41 リコリス・ピザ/監督  ポール・トーマス・アンダーソン

40 ロバート・レッドフォード主演のクライム・ムービーです。切れ者の泥棒であるはずが、義理の弟と組むなど、情に流されて選んだ仲間の能力が不足しているのか、なぜか物事がうまく運びません。あまりに失敗続きなので、コメディかと思うほどですが、そこまでは振り切っておらず若干中途半端です。仲間の父親の弁護士の裏切りに対しても、さほど強く出ず、意外な人の良さが随所に見られます。そのあたりが、ロバート・レッドフォードの品格なのかもしれません。クライマックスの作戦も、使いつくされた内容で、痛快感があまりありませんでした。ロバート・レッドフォードの苦悩する表情は堪能できますが、なんだかつかみどころのない不思議な作品でした。

41 大好きなポール・トーマス・アンダーソン監督の作品。残念ながら受賞は逃しましたが、今年のアカデミー賞にもいくつかの部門でノミネートされていました。この監督の作品の特徴は、過剰さなのだと再認識しました。登場人物の癖の強さや、その行動力に圧倒されます。その過剰さが、神経症の野心家を主役にすると、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド 」や「ザ・マスター」といった緊迫感のある作品になるのですが、本作は、高校生の青年と10歳程度年上の女性との恋愛ストーリーなので、爽やかな疾走感につながっています。恋人役のロックバンド「ハイム」のアラナ・ハイムが、ちょうど良い感じの容姿で、なんだかとてもリアルです。主演の青年役のクーパー・ホフマン(フィリップ・シーモア・ホフマンの息子さんだそうです)も、ちょうど良い感じのぽっちゃりさんで、これまたリアルです。バックに流れる音楽も最高で(ポール・マッカートニー&ウイングスの「Let Me Roll It 」やデヴィッド・ボウイの「Life On Mars?」の使われ方が印象的です)、70年代前半の西海岸の雰囲気を追体験できます。先ほど引用した、この監督の過去作品ほどは強烈なインパクトはないものの(逆に言うと観終わったあとどっと疲れます)、随所に独特のセンスが感じられる、リラックスしてこの監督の作家性が楽しめる作品だと思います。
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クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園

2022-07-09 07:13:56 | Weblog
■本
54 あるキング /伊坂 幸太郎
55 境界性パーソナリティ障害/岡田 尊司

54 シェイクスピアの「マクベス」をモチーフに、天才野球選手がその才能の大きさが故に、親の歪な期待や他人からの嫉妬により、数奇な運命をたどるお話です。推敲を重ねられた作品で、3つのバージョンが収録された「完全版」も出版されているようですが、私は文庫版で読みました。サスペンス色が薄めという点など、伊坂幸太郎さんの作品の中ではかなり異色です。章ごとに語り手が変わり、文体的にもかなりチャレンジングで、それが必ずしも成功していない点は少し残念ですが、伊坂さん以外の作者の作品でもちょっと読んだことがないような、もやもやとした独特の読後感が残る作品です。善悪などの二元論に容易に陥らない、伊坂さんの強い意志も感じます。どうしても、毒親に翻弄される天才少年という印象が強くなり、その点も残念ですが、天才主人公の好影響を受けて、途中入部の少年が頑張ることにより、中学時に全国大会一歩手前までいくエピソードなど、救いのある話もある点は好ましいです。伊坂さんの作品にしては、読者へのホスピタリティよりも、作家性を重視している気がしますが、ファンとしては押さえておくべき作品だと思います。逆に言えば、伊坂さんの作品で、一番最初に読むべき作品ではないと思います。

55 引き続き心理学の勉強を。タイトル通り「境界性パーソナリティ障害」(対人関係、自己像、感情の不安定および著しい衝動性の広範な様式、ということで、具体的な診断基準とともに本書では紹介されています)について解説された本です。たくさんのケース(ランボーやヘルマン・ヘッセといった評価の定まった過去の著名人のケースを紹介するのはわかりやすくてよいと思いますが、中森明菜さんや飯島愛さんのスキャンダラスなケースを持ち出すのは偏見を助長するだけでは、と個人的には少し疑問に感じましたが)が紹介されていて、この障害に対する理解が深まります。支援方法や回復過程も具体的に書かれているので、とても参考になります。特に「きっかけと本当の原因を区別する」という視点は多くの気づきが得られました。基本的には、個人の固定観念による認知の歪み(例えば、相手からのメールの返信が遅いのは相手が単に忙しいだけなのに、嫌われていると錯覚することなど)を粘り強く正すことが重要なのだと思いました。


■映画
38 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ/監督 キャリー・ジョージ・フクナガ
39 クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園/監督 髙橋 渉

38 昨年に公開された、ダニエル・クレイグが演じる「ジェームズ・ボンド」シリーズとしては最終作とされている作品です。アクションはキレがあって迫力満点ですし、ダニエル「ボンド」の引き際も美しいです。しかし、ここ数作の「スペクター」ものの結末としては、ストーリーが迷走している感が否めません。最終的な敵が、スペクターの首領の「ブロフェルド」ではなく、別のキャラクターであった点が象徴的です。また、毒薬が得意な敵が、ボンドに対してはその武器をさほど使わず、簡単に秘密基地の深部まで侵入を許している点も不自然です。結末の美しさにこだわるあまり、そこまでの過程が強引になってしまった印象です。とはいえ、北方領土っぽいところが最終決戦の舞台で、日本人にとっては自分ごと化して観ることができますし、コロナ禍で大作の公開が延期されていた状況下で、久しぶりに予算を十分にかけた映画を観たという満足感が得られる作品だと思います。

39 「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の数百分の一くらいの予算で制作された作品だと思いますが、面白さはそれ以上でした。「クレヨンしんちゃん」シリーズ映画版のクオリティはやはり高いです。本作は、謎解き要素でストーリーを引っ張っていく、シリーズの中では異色作です。「ドラえもん」シリーズ映画版で言うと、名作と評判の高い「のび太のひみつ道具博物館」のような位置づけの印象です。ミステリー的な手法を用いながらも、しんちゃんのおバカぶりはいつも通りですし、マサオくんやボーちゃんといった脇役のキャラクターも立ちまくっています。格差社会をコミカルに批評しつつ、思春期特有のこじらせ感も巧みに描き、クライマックスでは、ベタな友情の尊さが衒いもなく描かれていて、大人から子どもまで楽しめて素直に感動できる、間口の広さと深みが兼ね備えられています。冒頭からのテンポもよく、エンディングまで一気に楽しめました。素晴らしいエンターテイメント作品だと思います。
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絶対悲観主義

2022-07-01 05:52:32 | Weblog
■本
52 絶対悲観主義/楠木 建
53 中高年ひきこもり/斎藤 環

52 大好きな楠木健さんによる連載エッセイをまとめた本です。タイトルからして私のツボに入りまくりです。仕事に取り組むマインドセットとして「うまくいくことなんてひとつもない」という絶対悲観主義というポジションを取ることを推奨されています。自分の期待値を極めて低めに設定することにより、予想通りうまくいかなかったときのダメージコントロールと、予想に反してうまくいったときの喜びを最大化するという狙いです。ネガティブに極端に振ることによりかえって、失敗を恐れず何度もチャレンジできるポジティブさへと転化する見事な発想の転換です。この考え方に象徴的なように、全体を通じて、ポジティブさなど世間一般的に良いものとされている考え方に逆張りしつつ、そのユニークな考え方に論理的な整合性を与える緻密な思考と熟練の話芸を堪能できます。結局、思考の差別化について書かれた本なのだと思います。凝り固まった頭に、異なる視点の刺激を与えてくれるとても良い本です。

53 引き続き心理学の勉強をしています。タイトル通り「中高年のひきこもり」の実態とその対応について書かれた本です。私の周囲にも少なからず、同じ悩みを抱えている人が存在するので、読んでいて胸が締め付けられる思いでした。一方で、具体的な対応方法についても丁寧に解説してくれていて、希望が持てる内容でもあります。「安心」や「承認欲求」を満たすことの重要性は認識していたつもりでしたが、社内参加するためにはある程度の「欲望」が必要で、一定の小遣いを与えることが望ましいという視点は私にはなかったのでとても参考になりました。とかく、ひきこもり問題は「心」の問題であるととらえがちですが、経済的な問題でもあることに気づかされました。ひきこもりは「反」社会ではなく、「非」社会的な行為であるという視点も新鮮でした。現代の様々な社会課題と共通の「社会的包摂」の問題なのだと思います。


■映画
36 間違えられた男/監督 アルフレッド・ヒッチコック
37 シン・ウルトラマン/監督 樋口 真嗣

36 強盗犯と間違えられた主人公とその家族の心理的ダメージを描いた作品です。事実をベースにしているため、ヒッチコック監督独特のたたみかけるような演出や劇的な展開は少ないものの、濡れ衣を着せられ追い込まれる主人公の淡々とした描写が、静かな恐怖を呼び起こします。アリバイを証明してくれるはずの人たちが、偶然にもことごとく死んでいる点などは、フィクションにありがちな陰謀論ではないだけに、かえって恐ろしいです。冤罪に対する怒りよりも、理不尽な状況に置かれた戸惑いを強調されている点も、静かな恐怖を描く上で効果的です。派手さはないですが、個人的にヒッチコック監督の新しい凄みに気づかせてくれた興味深い作品でした。

37 子どものころはウルトラマンよりも仮面ライダー派でしたが、話題になっているので観に行きました。冒頭でテンポよく背景説明をし、一気に怪獣(作品中では「禍威獣」)と戦う対策本部(作品中では「禍特対」)の描写に移り、そこからウルトラマン登場へと進む怒涛の展開のスピーディーさが何と言っても見事です。レトロ感溢れる映像と現代社会への風刺のバランスも絶妙で、ノスタルジックさと、まさに今の社会状況に感じる戸惑いとが入り混じった不思議な気持ちになりました。ジェンダー的な視点からは長澤まさみさん演じる女性隊員の描かれ方は賛否が分かれると思いますが(それこそ、レトロなセクハラ的な描写と、社会進出が進んだ女性活躍の描写がいびつな感じで混在しています)、その他の隊員のキャラクターは、若干誇張はされているものの、現実の様々な組織にも実際にいそうで親しみが持てました。ウルトラマンがなぜ地球(というか日本)のために戦うのか、という疑問にも明確に答えてくれ、超次元的な存在の不自然さも極力抑えて、破天荒なストーリーにもかかわらず、印象的なラストシーンの効果もあって、鑑賞後の納得感はとても高かったです。庵野秀明さんが関わっているだけあって、クセの強さとポピュラリティーを見事に兼ね備えた、素晴らしいエンターテイメント作品だと思います。
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