本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

ヘイトフル・エイト

2019-04-28 10:32:52 | Weblog
■本
37 平成批評 日本人はなぜ目覚めなかったのか/福田 和也
38 実践! 50歳からのライフシフト術/ライフシフト・ジャパン

37 福田さんご自身のお仕事も踏まえながら、平成を振り返る評論集です。福田さんの著書である「作家の値打ち」や「悪の対話術」を、社会人になった当初に愛読していたので懐かしく読みました。サブタイトルの「日本人はなぜ目覚めなかったのか」という問いに対する福田さんの答えの一つは、「国」という存在をかけがえのない大切なものとして日本人が真剣に向き合わなかったため、と私は読みました。その背景には命がけで守る「誇り」の欠如を嘆く気持ちがあると理解したのですが、その「誇り」の源泉は、もちろん「国」でもよいとは思いますが、「宗教」や「家族」または自分独自の「信念」でもよいわけで、「国家」にこだわり過ぎているところに少し違和感を感じました。また、個々人が命がけで守る「誇り」の衝突が、現在のグローバル化の混沌の背景にあると思いますので、相手の「誇り」に対する相互理解に向けた努力も必要だと思いました。挑発的な文体で読者に思考を促すスタイルはどこか心地よく、令和以降も福田さんの評論は読んでいきたいと思います。

38 私自身50歳まであと数年となり、いろいろと今の仕事を辞めた以降の人生について考えることが増えてきましたので読みました。さまざまな手段で、ライフシフトに成功した22人の詳細なケーススタディを学ぶことができるので、とても参考になります。各人がある種の葛藤を過去に抱えていて、それを乗り越えた上でライフシフトを実現しているので読み物としても興味深いです。また、そのケースを「人を育てる」や「好きを仕事に」など、8つの価値軸に分類してくれているので、自分に合った価値観を確認する上でも役立ちます。22人とも、「財力」、「経験」、「スキル」、「家族」、「友人」、「健康」のいずれか、もしくは複数に恵まれた方々ばかりなので、なかなか万人がこの通りのサクセスストーリーを描くのは難しいとは思います。逆に言えば、これらの要素を備えるための努力がライフシフト前に必要ということなので、日々少しでも意識して過ごしていければと思いました。


■映画 
35 奥田民生になりたいボーイ出会う男すべて狂わせるガール/監督 大根 仁
36 ヘイトフル・エイト/監督 クエンティン・タランティーノ
37 しゃべれども しゃべれども/監督 平山 秀幸

35 大根仁監督らしい、サブカルチャーやそれに囚われた人々に対する愛情がたっぷりと詰まった作品です。なんといっても奥田民生さんの音楽の使い方が素晴らしい。妻夫木聡さんはこういうコメディ作品が本当に似合いますし、水原希子さんもこれまでのクールなイメージを覆す身体を張った演技をされています。新井浩文さん、安藤サクラさん、リリー・フランキーさん、松尾スズキさんという、いかにもなキャストの怪演も印象的で、抜群の安定感と面白さです。豪華キャストの割には、良くも悪くも大作っぽくないところが、大根さんの前作「SCOOP!」よりも個人的には好きです。最後にファンタジーホラーっぽい展開になって、ちょっとモヤッとした後味が残りますが、それも含めて引っ掛かりのある作家性の強い作品だと思います。

36 こちらも作家性全開の作品です。南北戦争の因縁がある8人の癖の強い人々が、猛吹雪のために閉じ込められた一軒家で繰り広げられる密室劇です。終盤に向かって、とにかく人があっけなく豪快に死んでいきます。冗長すぎる展開(2時間半以上かける内容ではないです)、ダラダラとした会話、突然挿入される説明的な天の声、下品すぎる回想シーンなど、突っ込みどころは満載なのですが、それでも観客をグイグイと引き込むタランティーノ監督の力技はますます冴えわたっています。ポリティカルコレクトネスなんてくそくらえ!、の過激なセリフが連発されているのに、その行動はどこか倫理的で一貫性があり、どの登場人物もゲスで共感できないのに、なぜか後味がよく、このあたりもこの監督独自の魔法だと思います。決して完成度は高くないですし、観ていて辛い時間帯もありますが、グルーブ感重視のパワフルな作品です。

37 原作小説をずいぶん前に読んで結構おもしろかったので映画版も観ました。原作の感想でも書いたのですが、主演の国分太一さんは個人的にはイメージが合いませんでした。温厚な印象の国分さんが演じるけんかっ早いキャラクターは、違和感しか残りませんし、落語シーンも含め、その演技はお世辞にもうまいとは思いませんでした(ドラマ「タイガー&ドラゴン」での、長瀬智也さんの演技の方が格段によかったです)。ストーリー的にも、野球解説者のエピソードが弱かったり、恋愛要素が強かったりと、個人的には不満点が多い作品でした。その分、主人公の落語教室に通う少年が演じた、桂枝雀さん風の「まんじゅうこわい」の演技が圧巻で、いろいろな意味で大人の役者は食われていたと思います。この少年が成長して、映画版「ちはやふる」の机くんを演じていたと知って感慨深いものがありました。
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宗教国家アメリカのふしぎな論理

2019-04-21 16:31:06 | Weblog
■本
35 2週間で小説を書く!/清水 良典
36 宗教国家アメリカのふしぎな論理/森本 あんり

35 タイトル通り14日分の実践練習と、その解説を含んだ清水さんの小説についての考え方が示され、「小説」というものをいろんな視点から考えることができます。あとがきで筆者が書かれているように、柳美里さんや絲山秋子さんなど比較的新しい作品が実例として取り上げられている点が面白かったです。また、「会話のカギ括弧の最後には句点が必要なのですか?」や「原稿の依頼はどうやってくるんですか?」など、なかなか人には聞けない疑問に答えて下さっているところも新鮮でした。最終課題の「何事も起こらない普通の日」をいかに生き生きと書くかに、筆者の小説感が凝縮されているような気がして興味深かったです。なかなか全ての課題を実践するには覚悟が必要だと思いますが、いつか取り組んでみたいという気になりました。

36 トランプ現象など、現在アメリカに内在する論理を明快に説明してくれるとても良い本です。特に、「反・知性」主義ではなく、「反・知性主義」(知性そのものへの反発ではなく、 知性と権力との固定的な結びつきに対する反発)であるということは、私も誤解していたので目から鱗が落ちる思いでした。「正しい者ならば、神の祝福を受ける」が逆になり、「神の祝福を受けているならば、正しい者だ」というマックス・ヴェーバーの論理が逆展開しているという解釈もスリリングで、トランプ大統領の強引とも思える自己弁護の背景としての納得感が高かったです。「企業トップが学ぶリベラルアーツ」と銘打つだけあって、教養の重要さを再認識させられました。


■映画 
32 世界の中心で、愛をさけぶ/監督 行定 勲
33 夜明け告げるルーのうた/監督 湯浅 政明
34 ダンボ/監督 ティム・バートン

32 大ヒットした作品ですが、原作小説は読んでいたものの、なぜかこれまで縁がなかったので観てみました。行方不明になった恋人がテレビの台風中継に映っていたり、その恋人が台風時にふと立ち寄った写真館を主人公の知人が経営していたりと、都合のよい偶然が多くてあまりストーリーには入り込めませんでした。しかし、高校生の恋人同士をみずみずしく演じた森山未來さん、長澤まさみさんは素晴らしく、二人の演技を観るだけでも価値があります。この映画を観てからお二人が後日共演した、個人的に大好きな映画「モテキ」を観たら、もっと違った感慨を得られたのかと思うと少し残念でした。

33 海外のアニメーション映画祭で賞を取ったという記憶がありましたし、以前に観た「夜は短し歩けよ乙女」が面白かったので、期待して観ました。癖は強いものの、「新しいものを創ろう」という志の高さはビンビンと伝わってきて、海外で評価が高いのも納得です。ただ、人魚が登場するトリッキーなストーリー展開や独特の映像には違和感なく入り込めたものの、主要登場人物の設定がどこか甘い気がしました。特に主人公の少年の陰の理由がわからず、突然ハイテンションになるなど情緒不安定気味にしか見えない点が、あまり共感できませんでした。素晴らしい傑作を創る可能性が高い監督だと思いますので、次回作にも期待したいと思います。

34 大好きなティム・バートン監督の最新作です。前作、「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」がちょっとマニアック過ぎる印象で観ていなかったので、久しぶりに劇場でティム・バートン監督作品を観ました。ダンボというキャラクターは当然知っていましたが、どんなストーリーかは全く知らなかったので、新鮮な気持ちで楽しめました。ストーリーは、この監督に共通のテーマ「異形のものに対する共感」を強く感じるものの、さほど癖は強くなく、細部までよく練りこまれています。ダンボが初めて空を飛ぶシーンやクライマックスの大混乱の場面など映像も大迫力で、決して子供だましではなく万人が楽しめる王道で良質のファンタジー作品です。

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すべては「好き嫌い」から始まる

2019-04-13 09:14:24 | Weblog
■本
33 すべては「好き嫌い」から始まる/楠木 建
34 ITシステムの罠31/安茂 義洋、栗谷 仁

33 いつもの楠木建さん節が炸裂していて楽しく読めました。「良し悪し」ではなく「好き嫌い」で物事を判断すべし、といういつもの主張ですが、論理的に整合が取れていて説得力がありますし、「好きにやっていいんだ」、という不思議な勇気が湧いてきます。「良し悪し」で判断することのメリットとしては、人間は結局好きなことしか頑張れないから、その頑張ることによってその分野の知識やスキルが高まりやすいということと、二元論になりがちな「良し悪し」と違って、「好き嫌い」は無限の評価軸があるので、差別化につながりやすいということだと私は理解しています。そこに、時系列での優位性構築の整合性が取れれば、楠木さんのおっしゃる、「ストーリーとしての競争戦略」が完成するのだと思いますが、その領域に至るにはまだまだ精進が必要そうです。仕事に行き詰まったときに読むと、いろいろなことが吹っ切れて、行動につながると思いますのでお勧めです。

34 タイトル通りITシステム構築時に陥りがちな罠について解説してくれている本です。この領域で仕事をしている人は、多かれ少なかれ肌感覚で感じていることがほとんどだと思いますが、それを網羅的に言語化してくれているので、日々の業務課題を明確化する意味では役に立つと思います。コンサルの方が書かれているので、経営側の立場でないと解決できない要素もたくさんありますが、そういう批判を想定してか、経営層、システム部門、ユーザー部門、それぞれの視点からそれぞれの罠についてどんな対策が取れるのかが書かれているのがユニークです。といっても、立場の異なるこの三者が整合性を持って対策にあたるには、経営層のコミットが必要なのだと思います。


■映画 
30 蜘蛛巣城/監督 黒澤 明
31 打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?/監督 武内 宣之

30 引き続き黒澤明監督の未視聴作品を観ています。本作はシェイクスピアの「マクベス」を日本の戦国時代に当てはめて描いた作品だそうです。今のスピード感なら30分程度で描ける内容を、多数のエキストラを用いた迫力ある映像と間をたっぷりと取った重厚な演出で、堂々と2時間弱の作品として仕上げている点はさすがです。物の怪っぽい謎の老婆の存在や能を思わせる主人公の妻の独特のメイク、そして古風な音楽など、東洋的な要素が満載で海外受けしそうです。俳優のセリフが聞き取りにくかったので、英語でもよいので字幕入りで観たかったです。左脳より右脳が勝った印象が強いですが、オリジナリティを追求しようとする鬼気迫る気迫が伝わってくる作品です。

31 こちらは名作と名高い1時間に満たない原作のテレビドラマを90分のアニメ映画にしたために、内容が薄くなったり、余分な要素が加わったりして失敗しています。「蜘蛛巣城」とは対照的です。原作テレビドラマは、大人になる前の不安定な美しさ、儚さ、無力感を描いた脚本と、奥菜恵さんを筆頭とする生身の俳優陣の存在感や演技とが見事に調和した奇跡のような作品でしたが、こちらはアニメにしたために、その美しくも幻想的な映像がかえって陳腐なものに感じられるという悪循環に陥っています。脚本の方も、異世界ものが流行っていることを意識したのかもしれないですが、マーケティングをし過ぎた故に本質を見失っている気がしました。エンドロールで流れる、大ヒット曲「打ち上げ花火」の印象が際立ちます。
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THE COLLECTORS~さらば青春の新宿JAM~

2019-04-06 08:18:54 | Weblog
■本
31 マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する/丸山 俊一
32 心の力/姜 尚中

31 哲学関連書籍としては珍しくかなり売れているということだったので読んでみました。NHKの番組の書籍化なので、マルクス・ガブリエルと日本各地を巡りながらのインタビュー(1章)やロボット工学で有名な石黒浩教授との対談(3章)など、映像も交えた方が理解しやすい内容が多いですが、2章の「戦後哲学史講座」はわかりやすく興味深かったです。マルクス・ガブリエルが取り上げる「新実在論」について、正確に理解したという自信はないですが、相対的な文化の違いでは片づけられない「子どもを拷問するべきではない」などの絶対的な道徳的真実への熱い思いは伝わってきました。先日読んだ「ファクトフルネス」にも通じる、事実を知る努力とその事実に基づく理解の大切さを力強く訴えている点が、「フェイクニュース」に溢れる現代社会でこの本や彼の思想が支持されつつある理由なのだと思いました。

32 夏目漱石の「こころ」とトーマス・マンの「魔の山」を題材に、「『心の力』をつけるとはどんなことなのか?」を姜尚中さんご自身の体験も踏まえつつ、考察された本です。「こころ」に登場する先生を慕う青年に河出育郎という名前を与え(ちなみにこの名前の由来がどこかで披露されるかと思っていたのですが、最後までその理由は明かされませんでした)、「こころ」の続編を姜さんが創作し、その小説を解説しつつ「心の力」について考察するという構成は、最初はトリッキーでなかなか読み進めるのに苦労しましたが、慣れると姜さんの主張が頭に入ってくるようになりました。かなり苦しい道のりになると思いますが、死や不幸を受け入れつつ、愚直に悩みながら踏ん張って生き続けることが「心の力」の源泉になるということだと私は理解しました。「魔の山」は読んだことがないので、読んでみたいと思います。


■映画 
27 ちはやふる-結び-/監督 小泉 徳宏
28 ブラック・クランズマン/監督 スパイク・リー
29 THE COLLECTORS~さらば青春の新宿JAM~/監督 川口 潤

27 映画版「ちはやふる」の完結版です。これまでの作品が結構面白かったので観ましたが、今回は少し尻つぼみな印象を持ちました。「3月のライオン」の映画版を観たときにも思いましたが、肝心のクライマックスを先んじて決められない、原作コミックが完結していない作品の宿命なのかもしれません。賀来賢人さん演じる名人など新キャラクターは、みんなどこかエキセントリックながらも魅力的でとても印象に残りました。後輩部員が先輩に何度も告白しては速攻で断られる、お約束のシーンなど会話も軽妙で楽しめました。

28 今年のアカデミー賞で脚色賞を受賞し、作品賞を取った「グリーンブック」に対する発言がいろいろと物議を醸したスパイク・リー監督の作品です。黒人刑事が白人に成りすまして、クー・クラックス・クラン(KKK)に潜入捜査するという設定や、予告編映像のタッチからコメディ要素の強い作品かと思ってましたが、ゴリゴリにメッセージ色の強い作品でした。気楽な気持ちで観に行くとしっぺ返しを食らいます。白人と黒人との対立だけでなく、ユダヤ人差別の要素も入れたことにより、「差別」についてのより根源的な問題提起をしていると思います。白人警官役のアダム・ドライバーが、その微妙な立場を飄々としつつも憂いのある素晴らしい演技で表現しています。トランプ政権に対する批判もかなり痛烈で、スパイク・リー監督の本領が発揮された作品です。

29 ザ・コレクターズは学生時代から30年近くのファンなので、劇場公開されているという情報を見つけて観に行ってきました。結成当初に出演していた、新宿JAMというライブハウスの取り壊しを受けてのライブ映像を交えながら、当時結成30周年を迎えたこのバンドの軌跡やモッズへの思いを描いたドキュメンタリー作品です。ファンとしては、普段あまりダイレクトには感じることのない、加藤ひさしさんと古市コータローさんの友情のようなものが強く伝わってきて感動しました。特に、加藤さんがパニック障害になっていたことは知らなかったので、それを長年支えた古市さんのさりげない優しさが印象に残りました。ファッションや生き方としてのモッズに対して、このバンドがここまでこだわっているということも詳しくは知らなかったので、一つのライフスタイルが人の人生に大きな影響を与えることが興味深かったです。ベスパとフレッドペリーのポロシャツが欲しくなりました。
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