本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

エヴリシング・フロウズ

2022-03-26 06:55:12 | Weblog
■本
23 「物語」の見つけ方/たちばなやすひと
24 エヴリシング・フロウズ /津村 記久子
25 ニュースの未来/石戸 諭

23 Netflixで大ヒットした「全裸監督」のプロデューサーによる、自分の歩むべき生き方を、ヒットストーリーを作る方法論を参考に見出していこうという趣旨の本です。最近、「物語」に興味があるので読みました。トランプやプーチンの支持者は、彼らなりにある「物語」に従って、思考し行動しているのだと思うのですが、その構造をもっと知りたいと思っています。劇場版「鬼滅の刃」などの大ヒット映画を例に、緊張から解決に至るプロセスが重要であるなど、魅力的なストーリーの構造を丁寧に解説してくれるので、とてもわかりやすいです。少し前に読んだ「プロセスエコノミー」という本でも主張されていた、現代社会は結果(完成品)だけに必ずしも満足するものではないと強調されている点も今風です。これらのストーリー作りのノウハウを、人生設計に活かそうと著者自身の人生経験も踏まえて説明されているところで、若干自己啓発セミナー的な危うさを感じなくもないですが、この視点はなかなか斬新で、その発想力には感心しました。ストーリーの構造を学ぶ上ではとても良い本です。それを自分の人生設計に活かすかどうかは、個々人のご判断だと思います。

24 Teenage Fanclubのデビューアルバムに収録されている楽曲をタイトルにした、大阪市大正区を舞台にした青春小説です。Teenage Fanclubだけでなく、My Bloody ValentineやAimee Mannといった、マニアックなアーチスト名が頻出するので、洋楽ファンとしても楽しめます(現実の大正区の中学三年生がこういう音楽を聴いているのかは、よくわかりませんが)。津村さんの作品にしては、いじめや幼児虐待といった激しめの事件が頻出しますが、スクールカーストでは中の下くらいに位置してそうな主人公のくすんだ受験生活に、時折差し込むこの時期特有の眩いばかりに輝く他人との交流のエピソードに切なくも懐かしい気持ちになりました。振り返ってみるととても大切ですが、決してもう一度戻りたくないなんとも形容しがたい時期をとても丁寧に描かれていて、どの登場人物も応援したくなりました。面倒くさいけど、人との関わりの中でしか得られないものがあることに気づかせてくれる素敵な作品です。タイトルに収束するエンディングもクールです。

25 新聞記者からネットニュース運営会社に転職し、さらにフリーのノンフィクションライターになられたという、石戸さんの経歴に惹かれて読みましたが、期せずして、「物語」をテーマにした考察もあり興味深い内容でした。ニュースの作り手側も、読者を惹きつけ気付きを与えるために、「驚き」や細部の描写などの「物語」の要素を入れたニュー・ジャーナリズムの手法を取り入れるなど、様々な工夫をされてきたことがよくわかります。また、PVなどの量的指標に収れんしがちなネットメディアの、定型のタイトル設定や、効率重視の安易なインタビュー記事の濫作などの限界についても適切に指摘されていました。石戸さんのプロとしての基礎を重視する考えや、意見の対立よりも包摂を目指すニュースを生み出そうとする姿勢にも共感しました。フェイクニュースに影響されがちな人たちは、リテラシーが低いわけではなく、むしろメディアを批判的に読み解いている人たちであると見抜かれ、メディアリテラシーを受け手側よりも、発信者側に求める指摘は、目から鱗が落ちる思いでした。確かに全国民のメディアリテラシーを高めるに越したことはないですが、その実現は難しそうです。インターネット時代にニュースが置かれている苦境と、その可能性について考えさせられる本です。ここでも、対立ではなく共感を生む「物語」が重要なキーワードになりそうです。それはそれで、危うい面もあると思いますが。


■映画
18 劇場版 奥様は、取り扱い注意/監督 佐藤 東弥

 ドラマ版は観たことがなかったのですが、金城一紀さんの原案ということもあってか、アクションの描き方が洗練されていて、二転三転四転するストーリー展開で最後まで飽きずに楽しめました。綾瀬はるかさんが主演なので、どんなハードな展開になっても、ほんわかとした安心感があります。今話題の「ドライブ・マイ・カー」主演の西島秀俊さんが、相手役として、生真面目かつ、どこかコミカルな演技を見せてくれているのも興味深いです。主人公が覚醒するまでの、前半の淡々とした日常の描写が少し冗長に感じましたが(しかも今時記憶喪失の設定で)、綾瀬はるかさんの魅力を描くためには必要だったのでしょう。外国人俳優の演技がイマイチなど、予算の制約が垣間見られるところもありましたが、優れたアクション・コメディだと思います。
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JUNK HEAD

2022-03-19 12:29:15 | Weblog
■本
22 属国民主主義論 /内田 樹、白井 聡

 内田樹さんと白井聡さんによる「日本戦後史論」に続く、対談本です。凄いタイトルですが、基本的にはお二人のこれまでの主張(本来日本の自主独立を推進すべき保守層が、自らの権力維持のために対米従属路線を取っていることの矛盾)について語られている本です。相変わらずのお二人の舌鋒の鋭さは痛快ですし、その分析は勉強になりましたが、本作はこれまでの対談よりも極論が多く、コロナ禍の政府の対応への批判など(強硬な手段を取れなかったことが問題ではなく、科学的な根拠や現場のリソースを考慮しない場当たり的な意思決定が問題だったと私は考えています)、個人的には賛同できない面もありました。それでも、これだけ長い対談本を飽きさせずに読ませる、お二人の話芸と引き出しの多さは見事だと思いますし、基本的には共感できる内容が多かったです。文庫には、2021年の衆院選挙結果を踏まえた対談が収録されていて、最新の社会情勢についてのお二人の意見が聞けた点もよかったです。批判的に社会情勢を見る視点が養える本だと思います。


■映画
16 バトル・オブ・ザ・セクシーズ/監督 ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス
17 JUNK HEAD/監督 堀 貴秀

16 以前に映画館で予告編を観たときは、コメディ映画だと勝手に思っていたのですが、全編を観ると社会的メッセージに溢れたとても志の高い作品でした。なぜ当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったエマ・ストーンが主演したのかという疑問も解消しました。基本的にはタイトル通り、男女のテニス対決を通じて、その差別を描いた作品ですが、女性側だけでなく、男性側の視点や、性的マイノリティの立場も丁寧に描かれている点に共感しました。実在する年老いた男性テニスプレーヤーのエキセントリックなキャラクター設定(それが原因で最初はコメディ作品だと思っていました)と、それ以外のクールな視点の対比も印象的です。その俯瞰的な視点を意識してか、カメラワークもクライマックスのテニス対決シーンでさえも、アップを控えテレビ画面を通したかのような平板な映像が多用されるなど、セオリーに反したチャレンジングな点も個人的には評価したいと思います。逆に、そのあたりが興行的にも賞レース的にも中途半端になった原因なのかもしれませんが、多くの人に観られるべき作品だと思います。

17 テレビ番組の「激レアさんを連れてきた」で、堀監督のエピソードを知ってからずっと観たいと思っていた作品です。「たった一人で独学で作り始め、7年の歳月をかけ完成した奇跡のSFストップモーションアニメ」というコピー通りの、狂気すら感じる快作です。冒頭から30分くらいまでは、一人で作ったとは思えないストップモーションアニメのクオリティには感心しつつも、繰り返しのグロテスクなシーン(ギャグ?)が中心のストーリー展開が単調で少し飽き始めていたのですが、中盤以降は、監督の技術が向上したのか、カット割りもストーリーも斬新な要素が満載で、作品世界に完全に引き込まれました。続編が予感されるエンディングに到達したときは、すぐにでも続きが観たくなりました。なんといっても、似たような作品が全く浮かばない独特の世界観が素晴らしいです。粗削りなギャグのセンスも痛快でした。「オリジナリティ」とはこういうことである、という見本のような作品です。お金やスタッフが不足していても、アイデアと熱意と才能があれば、こんなにも素晴らしい作品が生まれるんですね。感動しました。
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ヨーロッパ近代史

2022-03-12 06:31:11 | Weblog
■本
20 ヨーロッパ近代史/君塚 直隆
21 道ひらく、海わたる 大谷翔平の素顔 /佐々木 亨

20 ウクライナ危機を受けて、ほとんど知識のないヨーロッパの歴史を学びたくて読みました。レオナルド・ダ・ヴィンチ、マルティン・ルター、ガリレオ・ガリレイといった、それぞれの時代を代表する人物に焦点を当てつつ、時間の流れに沿って語られる構成が、読み物としてとても面白くわかりやすいです。個人的には、当時の状況で、教会に反旗を翻したマルティン・ルターの勇気に感銘を受けました。それぞれの人物を語る流れを通じて、現代ヨーロッパを支える、神に対する人間の再評価、個人主義、科学に対する信頼、平等、等の価値観と、それが第一次世界大戦などの戦争の大規模化、総力戦化により、個よりも国家を重視する風潮に傾きつつある姿が巧みに描き出されています。最終章がレーニンに焦点が当てられ、「ヨーロッパの近代」の終わりと位置付けられている点も、昨今の状況を予言したかのような気がします。最後に筆者が提示する、「責任ある態度」に裏打ちされた「個人」という考えかたを再考すべし、というメッセージが身に染みます。

21 コロナ禍で沈む昨年の日本、いや世界中を勇気づけてくれた大谷翔平さんの生い立ちに迫った本です。もめていた今年の大リーグ開幕も、ようやく決まったので読みました。大リーグ移籍を決めた時期に出版された本なので、昨年の大活躍には触れられていませんが、そこに至る過程や、大谷選手のマインドセットを知る意味ではとても興味深い内容です。大谷選手の前例のないものに挑む姿勢と、それだけの大きな挑戦に自然体で挑む姿、そして、失敗を恐れず、それもプラスの経験と捉える器の大きさに圧倒されます。大リーグ挑戦という大きな目標をいったんは決断した高校3年生の大谷選手に、投打「二刀流」という新たな魅力あるチャレンジを提示した、日本ハムという球団の決断にも痺れます。高校を卒業してすぐに大リーグにチャレンジしていても、大谷選手は投手か打者のいずれかで大成功を収めていたと思いますが、日本ハム入団という決断をしていなければ、現在の「二刀流」の大谷選手が存在していないということもよくわかりました。それだけに、花巻東高校野球部佐々木監督や栗山監督との出会いなども含めて、大谷選手が様々な偶然の出会いに支えられて成長してきたことと、その出会いを引き寄せるだけの力を持っていたという事実に、いろいろと考えさせられました。やっぱりすごい選手です。今年の活躍も楽しみです。


■映画
15 スターリンの葬送狂騒曲/監督 アーマンド・イアヌッチ

 こちらもウクライナ危機を受けて、ロシアについて知りたくて観ました。スターリンが死んだあとの権力闘争を描いたブラック・コメディです。スターリンの独裁的スタイルが今のプーチンと重なりますし、その取り巻きのやるせなさ、えげつなさは、今のプーチンの周囲にいる政治家にも共通する点が多いであろうことが推測されます。傍から見ていると、横暴にしか見えないスターリンが、意外と国民から慕われているのも(その動機は恐怖心からなのかもしれませんが)、プーチンに共通している気がします。そのいびつな政治体制とその崩壊後の混乱の滑稽さが、今となってはシンプルに笑えないところが切ないです。この作品のように、永続する絶対権力は存在しないということを信じたいと思いますが、一方で、歴史が繰り返されている現実を思うと、人間の愚かさに少し絶望的な気にもなります。ロシアという国の特徴を、気楽に学ぶにはよい作品だと思います。
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恐れのない組織

2022-03-05 07:20:07 | Weblog
■本
18 恐れのない組織/エイミー・C・エドモンドソン 
19 コマースマーケティング/山川 茂孝

18 サブタイトル通り、近年ビジネス界で注目されている「心理的安全性」が、学習、イノベーション、成長をもたらす、という事実を、主に医療現場の調査などから学術的に証明した本です。要は各人が現場でした失敗を率直に共有できるだけの「心理的安全性」が担保されている組織の方が、その失敗を隠す組織よりも、集団的な学習、改善が進み、より高い能力を獲得できるという趣旨だと私は理解しました。「心理的安全性」という概念を冒頭で、「感じよく振る舞うこととは関係がない」や「目標達成水準を下げることではない」など誤解されやすい要素を否定することで、明確にされているのでわかりやすいです。同様に「失敗」にも「回避可能な失敗」(学習やプロセス改善により避けられるもの)、「複雑な失敗」(全体のシステム改善が必要なもの)、「賢い失敗」(未知の領域に仮説に基づき挑んだ結果生じたもの、仮説の検証に貢献したもの)があると定義し、「回避可能な失敗」を繰り返した場合や明らかなルール違反は制裁措置を取るべき、と「心理的安全性」が規律の低下を誘引するものではないことも明確にされています。失敗や無知を認める謙虚さ、率直さが推奨されている一方で、悪意や怠惰からの行為には厳しい対処を取ることが強調されていて、現時点の日本の会社組織を変えるには課題が山積な気もしますが、非常に共感できる内容です。失敗例としても成功例としても、福島原発の事例が取り上げられている点も切ないです。

19 オンライン、オフラインを問わず、売るためのマーケティング(コマースマーケティング)について書かれた本です。「コマース」という言葉を用いつつも、近年話題のNetflixなどの「サブスクリプション」やUberなどの「ギグワーカー」を活用したサービス、果てには「サーキュラー・エコノミー」(リユース、リサイクルも販売、消費に組み込んだ経済圏)にまで、議論が発展し、とても知的に刺激される内容です。細やかな注の付け方(Webからの引用には最終閲覧日まで付けられています)も含め、筆者の膨大な知識と精緻な議論の進め方が印象に残ります。一方で、ECモールやソーシャルメディアの活用方法など、実務に役立つ知識も多く参考になります。教養書と実務書を兼ね備えた内容で、すぐ実務に活かせる具体的なノウハウだけを学びたいという方にはもしかしたら即効性はないかもしれませんが、俯瞰的にマーケティング(コマースに限りません)の流れを把握し、今後を考える上では、とても有益な本だと思います。


■映画
14 わが母の記/監督 原田 眞人

 井上靖さんの自伝的小説を、「クライマーズ・ハイ」などを監督された原田眞人さんが映画化した作品です。樹木希林さん、役所広司さん、宮﨑あおいさんの三世代にわたる演技合戦が何と言っても見物です。認知症で情緒が不安定になった老人という、ともすれば後味が悪くなる役を、ギリギリのところでチャーミングに演じられた樹木希林さんは圧巻です。役所広司さんも、気難しい作家が歳を重ねるごとに丸みを帯びてくる姿を、安定感たっぷりに演じられています。宮﨑あおいさんは、高校生くらいから大人の女性となるまでの変化が激しい時期を、違和感なく見事に演じ分けています。「わが母」の解釈が二通りに取れるストーリーも深みがあります。ただ、構成上仕方がないのかもしれませんが、エピソードが断片的過ぎて、一本筋の通った流れというものが生まれていない点が少し残念でした。それでも、3人の名優と脇を固める実力者俳優が醸し出す空気感に、ただただ引き込まれます。伊豆を舞台にした風景も美しいです。
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