■本
23 「物語」の見つけ方/たちばなやすひと
24 エヴリシング・フロウズ /津村 記久子
25 ニュースの未来/石戸 諭
23 Netflixで大ヒットした「全裸監督」のプロデューサーによる、自分の歩むべき生き方を、ヒットストーリーを作る方法論を参考に見出していこうという趣旨の本です。最近、「物語」に興味があるので読みました。トランプやプーチンの支持者は、彼らなりにある「物語」に従って、思考し行動しているのだと思うのですが、その構造をもっと知りたいと思っています。劇場版「鬼滅の刃」などの大ヒット映画を例に、緊張から解決に至るプロセスが重要であるなど、魅力的なストーリーの構造を丁寧に解説してくれるので、とてもわかりやすいです。少し前に読んだ「プロセスエコノミー」という本でも主張されていた、現代社会は結果(完成品)だけに必ずしも満足するものではないと強調されている点も今風です。これらのストーリー作りのノウハウを、人生設計に活かそうと著者自身の人生経験も踏まえて説明されているところで、若干自己啓発セミナー的な危うさを感じなくもないですが、この視点はなかなか斬新で、その発想力には感心しました。ストーリーの構造を学ぶ上ではとても良い本です。それを自分の人生設計に活かすかどうかは、個々人のご判断だと思います。
24 Teenage Fanclubのデビューアルバムに収録されている楽曲をタイトルにした、大阪市大正区を舞台にした青春小説です。Teenage Fanclubだけでなく、My Bloody ValentineやAimee Mannといった、マニアックなアーチスト名が頻出するので、洋楽ファンとしても楽しめます(現実の大正区の中学三年生がこういう音楽を聴いているのかは、よくわかりませんが)。津村さんの作品にしては、いじめや幼児虐待といった激しめの事件が頻出しますが、スクールカーストでは中の下くらいに位置してそうな主人公のくすんだ受験生活に、時折差し込むこの時期特有の眩いばかりに輝く他人との交流のエピソードに切なくも懐かしい気持ちになりました。振り返ってみるととても大切ですが、決してもう一度戻りたくないなんとも形容しがたい時期をとても丁寧に描かれていて、どの登場人物も応援したくなりました。面倒くさいけど、人との関わりの中でしか得られないものがあることに気づかせてくれる素敵な作品です。タイトルに収束するエンディングもクールです。
25 新聞記者からネットニュース運営会社に転職し、さらにフリーのノンフィクションライターになられたという、石戸さんの経歴に惹かれて読みましたが、期せずして、「物語」をテーマにした考察もあり興味深い内容でした。ニュースの作り手側も、読者を惹きつけ気付きを与えるために、「驚き」や細部の描写などの「物語」の要素を入れたニュー・ジャーナリズムの手法を取り入れるなど、様々な工夫をされてきたことがよくわかります。また、PVなどの量的指標に収れんしがちなネットメディアの、定型のタイトル設定や、効率重視の安易なインタビュー記事の濫作などの限界についても適切に指摘されていました。石戸さんのプロとしての基礎を重視する考えや、意見の対立よりも包摂を目指すニュースを生み出そうとする姿勢にも共感しました。フェイクニュースに影響されがちな人たちは、リテラシーが低いわけではなく、むしろメディアを批判的に読み解いている人たちであると見抜かれ、メディアリテラシーを受け手側よりも、発信者側に求める指摘は、目から鱗が落ちる思いでした。確かに全国民のメディアリテラシーを高めるに越したことはないですが、その実現は難しそうです。インターネット時代にニュースが置かれている苦境と、その可能性について考えさせられる本です。ここでも、対立ではなく共感を生む「物語」が重要なキーワードになりそうです。それはそれで、危うい面もあると思いますが。
■映画
18 劇場版 奥様は、取り扱い注意/監督 佐藤 東弥
ドラマ版は観たことがなかったのですが、金城一紀さんの原案ということもあってか、アクションの描き方が洗練されていて、二転三転四転するストーリー展開で最後まで飽きずに楽しめました。綾瀬はるかさんが主演なので、どんなハードな展開になっても、ほんわかとした安心感があります。今話題の「ドライブ・マイ・カー」主演の西島秀俊さんが、相手役として、生真面目かつ、どこかコミカルな演技を見せてくれているのも興味深いです。主人公が覚醒するまでの、前半の淡々とした日常の描写が少し冗長に感じましたが(しかも今時記憶喪失の設定で)、綾瀬はるかさんの魅力を描くためには必要だったのでしょう。外国人俳優の演技がイマイチなど、予算の制約が垣間見られるところもありましたが、優れたアクション・コメディだと思います。
23 「物語」の見つけ方/たちばなやすひと
24 エヴリシング・フロウズ /津村 記久子
25 ニュースの未来/石戸 諭
23 Netflixで大ヒットした「全裸監督」のプロデューサーによる、自分の歩むべき生き方を、ヒットストーリーを作る方法論を参考に見出していこうという趣旨の本です。最近、「物語」に興味があるので読みました。トランプやプーチンの支持者は、彼らなりにある「物語」に従って、思考し行動しているのだと思うのですが、その構造をもっと知りたいと思っています。劇場版「鬼滅の刃」などの大ヒット映画を例に、緊張から解決に至るプロセスが重要であるなど、魅力的なストーリーの構造を丁寧に解説してくれるので、とてもわかりやすいです。少し前に読んだ「プロセスエコノミー」という本でも主張されていた、現代社会は結果(完成品)だけに必ずしも満足するものではないと強調されている点も今風です。これらのストーリー作りのノウハウを、人生設計に活かそうと著者自身の人生経験も踏まえて説明されているところで、若干自己啓発セミナー的な危うさを感じなくもないですが、この視点はなかなか斬新で、その発想力には感心しました。ストーリーの構造を学ぶ上ではとても良い本です。それを自分の人生設計に活かすかどうかは、個々人のご判断だと思います。
24 Teenage Fanclubのデビューアルバムに収録されている楽曲をタイトルにした、大阪市大正区を舞台にした青春小説です。Teenage Fanclubだけでなく、My Bloody ValentineやAimee Mannといった、マニアックなアーチスト名が頻出するので、洋楽ファンとしても楽しめます(現実の大正区の中学三年生がこういう音楽を聴いているのかは、よくわかりませんが)。津村さんの作品にしては、いじめや幼児虐待といった激しめの事件が頻出しますが、スクールカーストでは中の下くらいに位置してそうな主人公のくすんだ受験生活に、時折差し込むこの時期特有の眩いばかりに輝く他人との交流のエピソードに切なくも懐かしい気持ちになりました。振り返ってみるととても大切ですが、決してもう一度戻りたくないなんとも形容しがたい時期をとても丁寧に描かれていて、どの登場人物も応援したくなりました。面倒くさいけど、人との関わりの中でしか得られないものがあることに気づかせてくれる素敵な作品です。タイトルに収束するエンディングもクールです。
25 新聞記者からネットニュース運営会社に転職し、さらにフリーのノンフィクションライターになられたという、石戸さんの経歴に惹かれて読みましたが、期せずして、「物語」をテーマにした考察もあり興味深い内容でした。ニュースの作り手側も、読者を惹きつけ気付きを与えるために、「驚き」や細部の描写などの「物語」の要素を入れたニュー・ジャーナリズムの手法を取り入れるなど、様々な工夫をされてきたことがよくわかります。また、PVなどの量的指標に収れんしがちなネットメディアの、定型のタイトル設定や、効率重視の安易なインタビュー記事の濫作などの限界についても適切に指摘されていました。石戸さんのプロとしての基礎を重視する考えや、意見の対立よりも包摂を目指すニュースを生み出そうとする姿勢にも共感しました。フェイクニュースに影響されがちな人たちは、リテラシーが低いわけではなく、むしろメディアを批判的に読み解いている人たちであると見抜かれ、メディアリテラシーを受け手側よりも、発信者側に求める指摘は、目から鱗が落ちる思いでした。確かに全国民のメディアリテラシーを高めるに越したことはないですが、その実現は難しそうです。インターネット時代にニュースが置かれている苦境と、その可能性について考えさせられる本です。ここでも、対立ではなく共感を生む「物語」が重要なキーワードになりそうです。それはそれで、危うい面もあると思いますが。
■映画
18 劇場版 奥様は、取り扱い注意/監督 佐藤 東弥
ドラマ版は観たことがなかったのですが、金城一紀さんの原案ということもあってか、アクションの描き方が洗練されていて、二転三転四転するストーリー展開で最後まで飽きずに楽しめました。綾瀬はるかさんが主演なので、どんなハードな展開になっても、ほんわかとした安心感があります。今話題の「ドライブ・マイ・カー」主演の西島秀俊さんが、相手役として、生真面目かつ、どこかコミカルな演技を見せてくれているのも興味深いです。主人公が覚醒するまでの、前半の淡々とした日常の描写が少し冗長に感じましたが(しかも今時記憶喪失の設定で)、綾瀬はるかさんの魅力を描くためには必要だったのでしょう。外国人俳優の演技がイマイチなど、予算の制約が垣間見られるところもありましたが、優れたアクション・コメディだと思います。