本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

自由になるための技術 リベラルアーツ

2021-03-27 07:13:08 | Weblog
■本
25 自由になるための技術 リベラルアーツ/山口 周
26 木皿食堂(4)-毎日がこれっきり/木皿 泉

25 タイトル通りリベラルアーツの重要性について、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の山口周さんと有識者との対談がまとめられた本です。複雑さの増す現代社会では、論理に基づく正しい意思決定が、差別化や倫理の問題上限界にきており、リベラルアーツを背景とした個人の美意識に基づく判断が重要である、という山口さんのこれまでの主張が繰り返されています。著書を読んだことがある、出口治明さん(歴史)、橋爪大三郎さん(宗教)、矢野和男さん(データに基づく幸福の計測)、ヤマザキマリさん(ダイバーシティ)といった方々と山口さんとの議論が興味深く、楽しく読みました。特に印象に残ったのは、菊澤研宗さん(組織論)の「取引コスト理論」に基づく日本型組織の問題点に対する指摘でした。頭の良い人ほど、人間関係上の無駄な駆け引きも「取引コスト」として含めて計算するので、忖度が働きやすい(つまり、構成員が無能なために組織的な不正がなされるのではなく、有能であるが故の合理的な判断により不正がなされる)という分析は、自分自身も人間関係上の面倒くささ故に、発言や行動を控えることが多いので、いろいろと考えさせられました。このあたりの自分の思考の癖を理解した上で、行動を変えていくことも教養の効用だと思いました。菊澤研宗さんの書籍も読んでみたいでと思います。

26 大好きな木皿泉さんが、神戸新聞で連載されているエッセイを中心にまとめられた本です。昨年、短編ドラマとして放送され、とても感銘を受けた、コロナ禍で甲子園大会に出場できなくなった高校球児が主人公の「これっきりサマー」の脚本も収録されていてうれしかったです。幼少時の体験をテーマにしたエッセイが多く収録されていて、私の10歳以上年上の筆者の記憶力のよさに驚きました。逆にこの記憶力のよさが、過去に人から受けた仕打ちなどについても強い印象が残っていて、生きにくさに繋がっているのかもしれません。ただ、この良い思い出、悪い思い出に対する強い記憶が、「人の居場所」をテーマにした優しいドラマを生み出す原動力になっているのは間違いないと思います。前作のタイトルがなぜ「ぱくりぱくられし」だったかという理由もよくわかりました。デビュー作であるラジオドラマの脚本が盗作されたそうですが、前作では曖昧に表現されていたそのトラブルについてもこの本の中に詳細に書かれています。木皿さんのクリエーターとしての強い矜持と読者に対する責任感が伝わってくる本です。


■CD
1 2+0+2+1+3+1+1= 10 years 10 songs/RADWIMPS

 東日本大震災発生からほぼ毎年10年にわたって3月11日に、RADWIMPSが発表された楽曲を集めた作品です。テーマがテーマなのでメロウな楽曲が多く、その切ない歌詞とともに心に染み入ります。一方、その祈りにも似た静かな思いに励まされるような気持にもなります。野田洋次郎さんの言葉の力にあらためて驚かされます。「君の名は。」以来のRADWIMPSファンの次男が自分でお金を出すというので、ネットで注文したのですが、東日本大震災発生当時小学校の入学準備をしていた彼が、高校生になってCDを自分で買うまでに成長した月日を思いながら聴くと、より一層いろいろな感情が湧いてきました。


■映画
25 Fukushima 50/監督 若松 節朗

 東日本大震災の巨大津波に襲われた福島第一原子力発電所の危機と、それに対処する人々を描いた作品です。当時テレビで報道された3号機や2号機からの煙を見て感じた、絶望的な気持ちを思い出しました。そのときによく使われていた「ベント」(手動による圧抜き)という作業が、いかに過酷であったかを理解することができ戦慄しました。生命の危機を感じながらも、職務を果たそうとする現場の方々の姿に感動しました。当時の背景を知る上でとても興味深い作品だと思います。ただ、ストーリーをわかりやすくするために必要だったのかもしれませんが、あまりにも現場が優秀で、東電本店や官邸が無能であるという二元論に陥り過ぎている気がしました。また、私はパトリオットではあってもナショナリストではないと思っているのですが、それにしても、日本の官邸の無能振りをこれでもかと描く一方で、アメリカの政治家や在日米軍が慈悲深く有能であるように持ち上げて描くのは、あまりにも属国根性が染みつき過ぎているのではと思いました。日本の政治家や東電本店にも必死に事態を改善しようと取り組まれた方がいらっしゃったでしょうし(少なくともそうであったと信じたいです)、アメリカ側にも当然打算があったはずです。こういう過度にわかりやすい構造で安心しない態度こそ、再発防止のために必要なのだと思いました。あと、豪華キャストなので仕方がないのだとは思いますが、主要キャラクターのプライベートな話は不要だったと思います。そういった要素を排した「シン・ゴジラ」の素晴らしさを再認識しました。
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シン・エヴァンゲリオン劇場版

2021-03-20 06:26:11 | Weblog
■本
23 最後に手にしたいもの/吉田 修一
24 まほろ駅前多田便利軒/三浦 しをん

23 先日読んだ「泣きたくなるような青空」に続く、吉田修一さんがANAの機内誌に連載されているエッセイ集の5作目です。琴平に行った帰りの電車でこの本を読んでいたら、偶然、金刀比羅宮のエピソードが出てきてびっくりしました。伊勢神宮や竹富島など行ったことのある地域の話も面白いですが、行ったことのない対馬などの記述に旅情をそそられました。プノンペンやツェルマットといった海外の描写は、今となってはなかなか手の届かない叶わぬ夢のような憧れを持って読みました。早く自由に旅行に行けるようになることを祈るばかりです。

24 三浦しをんさんの直木賞受賞作です。大根仁さん監督のテレビ版は観たことがあるので、瑛太さん、松田龍平さんが演じたキャラクターを思い浮かべながら楽しく読みました。構造としては、大人の「池袋ウエストゲートパーク」(IWGP)といった印象です(明言されていないですが、「まほろ市」は明らかに「町田市」ですし)。IWGPのキングのようなチートな存在は登場しませんが、街の描写、地元住民や警察との距離感が非常に似ていると思います。逆に主要登場人物が苦い過去を持っている点が、IWGPにはない深みを醸し出していて(逆にIWGPは旬の時事ネタを取り上げる瞬発力に魅力があるのですが)、池袋と町田の違いを象徴しているようで興味深いです。少し時間を置いて続編も読んでみたいと思います。


■映画
22 ダンディー少佐/監督 サム・ペキンパー
23 羊と鋼の森/監督 橋本 光二郎
24 シン・エヴァンゲリオン劇場版/総監督 庵野 秀明

22 先月観た「昼下りの決斗」に引き続きサム・ペキンパー監督作品を。主人公ダンディー少佐を筆頭にキャラクターの不可解な行動に共感しにくく(この点は確信犯的にやっているのだと思いますが)、エピソード集のようなストーリー展開がわかりにくかったです。南北戦争当時の肉弾戦がリアルに描かれていて、人間の身体的な躍動感や痛みが伝わってきます。この点は後のサム・ペキンパー監督作品にも共通している特徴です。個性的ではあるものの、実験的な段階の作品だと思います。

23 本屋大賞に輝いた小説の映画化作品です。調律師という仕事に対する静かだが熱い主人公の思いを描いた、原作の世界観をうまく反映していると思うのですが、個人的には原作ほどの感動は得られませんでした。原作が長いので、ある程度のエピソードの省略は致し方ないのですが、その取捨選択が私の優先順位とは異なりました。このエピソードを残すのであれば、あちらを描いてくれればよかったのに、と思うことが多かったです。とはいえ、個人的な好みの問題ですので、特に原作を読んでいない方にとっては楽しめる、高クオリティの作品だと思います。

24 やりたい放題だな、というのが観終わった後の率直な感想です。うまく言語化できませんが、凄いものを観たという満足感はあります。冒頭の問答無用のハイテンションなバトルシーンは、クリストファー・ノーラン監督の「テネット」を連想しました。ただ、新劇場版のこれまでの3作全て観ているはずなのに、前作から時間が経っているためかほとんど記憶になく、多くの人がおっしゃっている広げに広げた伏線回収の快感はあまり得られませんでした。機会があれば4作続けて観てみたいと思います。序盤の第3村のシーンは宮崎駿監督作品の影響(オマージュ、パロディ?)が感じられますし、エンディングは、「君の名は。」など新海誠監督の影響(オマージュ、パロディ?)を感じました。テレビアニメ、コミックス、新旧映画版と長年に渡って楽しませて頂いた、このコンテンツに敬意を表したいと思います。
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クララとお日さま

2021-03-13 05:40:37 | Weblog
■本
21 クララとお日さま/カズオ・イシグロ
22 夏井いつきの世界一わかりやすい俳句の授業/夏井 いつき

21 カズオ・イシグロさんのノーベル文学賞受賞後第一作です。前作「忘れられた巨人」が結構難解だった印象があるのですが、本作は読みやすく一気に読み終えました。読者に様々な伏線を投げかけ、その回収により物語を駆動する手腕は見事としか言いようがないです。カズオ・イシグロさん全作品に共通のテーマ「記憶」に加え、本作は「格差」、「選択」についても考えさせられます。「AI」や「環境破壊」についても正面から取り上げられていて、まさに、今読まれるべき作品だと思います。近未来SFテイストなので、代表作「わたしを離さないで」と比べてしまいますが、本作は切なさよりも、子育てを終えた親のようなしみじみとした達成感のようなものが印象的です。スパッと割り切れないいろいろな感情が湧いてくる点も特徴的です。イノセンスを描くために、人間ではなくAIを用いる逆説も筆者の企みを感じます。しばらく心地よい読書体験の余韻に浸れそうです。

22 「プレバト!!」での、ロジカルかつエンターテイメント性抜群の、切れ味鋭い俳句解説が印象的な、夏井いつき先生の本です。私の母がずっと俳句をやっていて、機会があれば私も勉強してみたいと思っていたので、この入門書を読みました。俳句初心者の編集者との掛け合いで進む、タイトル通りとてもわかりやすい内容ですが、それでも「一物仕立て」(季語のことだけで俳句を作ること)と「取り合わせ」(季語以外の要素も入れて作ること)や「切れ字」の種類など、これまで知らなかった知識も得られてとても勉強になりました。句の良し悪しを判断する3つのチェックポイント(「季語の『本意』をつかむ」、「意味の重複を確認する」、「五感を複数入れる」)の納得感も極めて高いです。「プレバト!!」では、字余りや句またがりの句を夏井先生が評価しがちなところに私は批判的だったのですが、この本は極めて基本に忠実で、とても好感が持てました。テレビではエンターテイメント性も考慮し、上級者向けの視点を強調されているのかもしれません。夏井先生の中上級者向けの本も読んでみたいです。


■映画
20 ウエストワールド/監督  マイケル・クライトン
21 ヲタクに恋は難しい/監督 福田 雄一

20 「ジュラシック・パーク」の原作者でもある、マイケル・クライトンが1973年に初監督した作品です。アメリカ西部開拓時代、中世ヨーロッパ、帝政ローマの3つの時代をリアルに体験できる、近未来のテーマパークが舞台です。1973年の作品なので、ロボットやコンピュータの描写がかなり古臭いですが、今となってはその違和感が絶妙の味付けになっています。主演でクレジットされているユル・ブリンナーが、なかなか登場しない点もユニークです。「ジュラシック・パーク」と「ターミネーター」を合体させて、初代「ターミネーター」の予算で制作したような作品ですが、CGに頼らない創意工夫に満ちた映像と過度な説明を排したストーリー展開がクールです。「ターミネーター」がお好きな方にはお勧めです。

21 銀魂シリーズの福田監督による、高畑充希さん主演のコメディということで期待して観ました。正直、もう少し面白くできたのではという印象です。高畑充希さんだけでなく、山﨑賢人さん、斎藤工さん、菜々緒さんの怪演も観ていて楽しいのですが、ミュージカルシーンがどうしても流れをぶった切ってしまいます。そのミュージカルシーンもコメディに徹していれば、そういうものだと割り切って観るのですが、時折、高畑さんや山﨑さんがガチで熱唱されているので(しかもそこそこ高いクオリティ)、オタク演技とのギャップに戸惑ってしまいます。映画「モテキ」のミュージカル・ダンスシーンを素敵に演出された、大根仁監督の凄さを再認識しました。
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アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル

2021-03-06 07:16:22 | Weblog
■本
19 人生の教養が身につく名言集/出口 治明
20 イン・ザ・プール/奥田 英朗

19 出口治明さんが古今東西の書物等から集められた名言集です。出口さんの豊富な知識に基づく解説の方が面白くて、名言があまり印象に残らないという問題がありますが、さすが安定のクオリティで勉強になります。基本的には、出口さんが他の本でも述べられていること(「数字、ファクト、ロジックで考える」、「歴史軸と世界軸で考える」、「人間はしょせんチョボチョボ」、「知識を得るには、人、本、旅の3つ」など)と同じですが、何度でも繰り返し学びたくなる深みがあります。人間に対する諦念と、歴史を経て残った「伝統」や「経験」というものへの信頼感のバランスが絶妙です。出口さんの話を伺って「保守」という考え方の認識(一人の人間の思い付きよりも歴史の評価にさらされたものを評価するという姿勢、ただし、ファクトやロジックに反するものについては躊躇なくそれらも捨て去る)を新たにしました。こういう立派な大人になるために精進を続けなければと思える本です。

20 先日、松尾スズキさん主演の映画版を観たので、その原作もと思い手に取りました。最初は、独特のフォントや鍵括弧の使い方、そして、松尾さんの演技の方がまともだったと思わせるほど破天荒な、主人公の精神科医伊良部のキャラクターに嫌悪感さえ感じましたが、エピソードを読み進むにつれて、がぜん面白くなってきました。それぞれ偏執的なこだわりを持つ患者が、なんのこだわりもなく本能のままに行動する伊良部に翻弄され、さらなる混沌へと巻き込まれるうちに、不思議と癒され自分を取り戻すという構成は同じですが、その寛解に至るプロセスを辿ることが不思議な癖になります。出口治明さんのおっしゃる「人間はしょせんチョボチョボ」にも通じる、そんなに大した存在じゃないんだからもっと気楽に欠点を晒して生きていいのでは、という気にさせてくれる本です。


■映画
18 リオ・ブラボー/監督 ハワード・ホークス
19 アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル/監督 クレイグ・ガレスピー

18 タフで心優しい主人公、ツンデレで愛情深いヒロイン、アル中だが凄腕の助手、合理的だが情にも厚い若手ガンマン、束の間の休息に奏でられる素敵な音楽、仲間の協力により傲慢な悪者に逆転勝利、など映画のお手本のようなキャラクター設定とストーリ展開です。シンプルにエンターテイメント作品として、とてもよくできています。1959年の西部劇ですが、後の多くの映画に影響を与えている気がします。逆に、最近のどんでん返しが盛り込まれたストーリーに慣れた身としては、展開の意外性がほとんどない点が若干物足りなく感じるかもしれません。とはいえ、王道の楽しさ、偉大さを感じさせてくれる名作です。

19 一方こちらは「ナンシー・ケリガン襲撃事件」の加害者側、トーニャ・ハーディングの話という題材も含めてなかなか邪道な作品ですが、抜群に面白かったです。まず、トーニャ・ハーディングの母親の毒親ぶりが、えげつないです。この救いのないキャラクターを演じたアリソン・ジャネイが、アカデミー助演女優賞も納得の圧倒的な存在感を見せています。主人公トーニャ・ハーディングを演じる、マーゴット・ロビーも粗雑さと可愛げとのバランスが絶妙の見事な演技です。マーゴット・ロビーはとても美しい俳優だと思いますが、この作品も含めて役の選び方のセンスも抜群だと思います。「ウルフ・オブ・ウォールストリート」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」といった癖強めの監督のヒロインや「スーサイド・スクワッド」などのシリーズのハーレイ・クインなど、一筋縄ではいかない役を見事に演じ分けている点が凄いです。ただの実力派俳優を超えたポジショニングに成功していると感じます。ただただ残念なスキャンダルを悪ふざけではないコメディタッチにし、さらにポジティブな印象の後味のよいものにしている監督の手腕も秀逸です。間違った方向に行ってばかりいる、トーニャ・ハーディングの強いバイタリティが魅力的にすら感じます。
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