■本
25 自由になるための技術 リベラルアーツ/山口 周
26 木皿食堂(4)-毎日がこれっきり/木皿 泉
25 タイトル通りリベラルアーツの重要性について、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の山口周さんと有識者との対談がまとめられた本です。複雑さの増す現代社会では、論理に基づく正しい意思決定が、差別化や倫理の問題上限界にきており、リベラルアーツを背景とした個人の美意識に基づく判断が重要である、という山口さんのこれまでの主張が繰り返されています。著書を読んだことがある、出口治明さん(歴史)、橋爪大三郎さん(宗教)、矢野和男さん(データに基づく幸福の計測)、ヤマザキマリさん(ダイバーシティ)といった方々と山口さんとの議論が興味深く、楽しく読みました。特に印象に残ったのは、菊澤研宗さん(組織論)の「取引コスト理論」に基づく日本型組織の問題点に対する指摘でした。頭の良い人ほど、人間関係上の無駄な駆け引きも「取引コスト」として含めて計算するので、忖度が働きやすい(つまり、構成員が無能なために組織的な不正がなされるのではなく、有能であるが故の合理的な判断により不正がなされる)という分析は、自分自身も人間関係上の面倒くささ故に、発言や行動を控えることが多いので、いろいろと考えさせられました。このあたりの自分の思考の癖を理解した上で、行動を変えていくことも教養の効用だと思いました。菊澤研宗さんの書籍も読んでみたいでと思います。
26 大好きな木皿泉さんが、神戸新聞で連載されているエッセイを中心にまとめられた本です。昨年、短編ドラマとして放送され、とても感銘を受けた、コロナ禍で甲子園大会に出場できなくなった高校球児が主人公の「これっきりサマー」の脚本も収録されていてうれしかったです。幼少時の体験をテーマにしたエッセイが多く収録されていて、私の10歳以上年上の筆者の記憶力のよさに驚きました。逆にこの記憶力のよさが、過去に人から受けた仕打ちなどについても強い印象が残っていて、生きにくさに繋がっているのかもしれません。ただ、この良い思い出、悪い思い出に対する強い記憶が、「人の居場所」をテーマにした優しいドラマを生み出す原動力になっているのは間違いないと思います。前作のタイトルがなぜ「ぱくりぱくられし」だったかという理由もよくわかりました。デビュー作であるラジオドラマの脚本が盗作されたそうですが、前作では曖昧に表現されていたそのトラブルについてもこの本の中に詳細に書かれています。木皿さんのクリエーターとしての強い矜持と読者に対する責任感が伝わってくる本です。
■CD
1 2+0+2+1+3+1+1= 10 years 10 songs/RADWIMPS
東日本大震災発生からほぼ毎年10年にわたって3月11日に、RADWIMPSが発表された楽曲を集めた作品です。テーマがテーマなのでメロウな楽曲が多く、その切ない歌詞とともに心に染み入ります。一方、その祈りにも似た静かな思いに励まされるような気持にもなります。野田洋次郎さんの言葉の力にあらためて驚かされます。「君の名は。」以来のRADWIMPSファンの次男が自分でお金を出すというので、ネットで注文したのですが、東日本大震災発生当時小学校の入学準備をしていた彼が、高校生になってCDを自分で買うまでに成長した月日を思いながら聴くと、より一層いろいろな感情が湧いてきました。
■映画
25 Fukushima 50/監督 若松 節朗
東日本大震災の巨大津波に襲われた福島第一原子力発電所の危機と、それに対処する人々を描いた作品です。当時テレビで報道された3号機や2号機からの煙を見て感じた、絶望的な気持ちを思い出しました。そのときによく使われていた「ベント」(手動による圧抜き)という作業が、いかに過酷であったかを理解することができ戦慄しました。生命の危機を感じながらも、職務を果たそうとする現場の方々の姿に感動しました。当時の背景を知る上でとても興味深い作品だと思います。ただ、ストーリーをわかりやすくするために必要だったのかもしれませんが、あまりにも現場が優秀で、東電本店や官邸が無能であるという二元論に陥り過ぎている気がしました。また、私はパトリオットではあってもナショナリストではないと思っているのですが、それにしても、日本の官邸の無能振りをこれでもかと描く一方で、アメリカの政治家や在日米軍が慈悲深く有能であるように持ち上げて描くのは、あまりにも属国根性が染みつき過ぎているのではと思いました。日本の政治家や東電本店にも必死に事態を改善しようと取り組まれた方がいらっしゃったでしょうし(少なくともそうであったと信じたいです)、アメリカ側にも当然打算があったはずです。こういう過度にわかりやすい構造で安心しない態度こそ、再発防止のために必要なのだと思いました。あと、豪華キャストなので仕方がないのだとは思いますが、主要キャラクターのプライベートな話は不要だったと思います。そういった要素を排した「シン・ゴジラ」の素晴らしさを再認識しました。
25 自由になるための技術 リベラルアーツ/山口 周
26 木皿食堂(4)-毎日がこれっきり/木皿 泉
25 タイトル通りリベラルアーツの重要性について、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の山口周さんと有識者との対談がまとめられた本です。複雑さの増す現代社会では、論理に基づく正しい意思決定が、差別化や倫理の問題上限界にきており、リベラルアーツを背景とした個人の美意識に基づく判断が重要である、という山口さんのこれまでの主張が繰り返されています。著書を読んだことがある、出口治明さん(歴史)、橋爪大三郎さん(宗教)、矢野和男さん(データに基づく幸福の計測)、ヤマザキマリさん(ダイバーシティ)といった方々と山口さんとの議論が興味深く、楽しく読みました。特に印象に残ったのは、菊澤研宗さん(組織論)の「取引コスト理論」に基づく日本型組織の問題点に対する指摘でした。頭の良い人ほど、人間関係上の無駄な駆け引きも「取引コスト」として含めて計算するので、忖度が働きやすい(つまり、構成員が無能なために組織的な不正がなされるのではなく、有能であるが故の合理的な判断により不正がなされる)という分析は、自分自身も人間関係上の面倒くささ故に、発言や行動を控えることが多いので、いろいろと考えさせられました。このあたりの自分の思考の癖を理解した上で、行動を変えていくことも教養の効用だと思いました。菊澤研宗さんの書籍も読んでみたいでと思います。
26 大好きな木皿泉さんが、神戸新聞で連載されているエッセイを中心にまとめられた本です。昨年、短編ドラマとして放送され、とても感銘を受けた、コロナ禍で甲子園大会に出場できなくなった高校球児が主人公の「これっきりサマー」の脚本も収録されていてうれしかったです。幼少時の体験をテーマにしたエッセイが多く収録されていて、私の10歳以上年上の筆者の記憶力のよさに驚きました。逆にこの記憶力のよさが、過去に人から受けた仕打ちなどについても強い印象が残っていて、生きにくさに繋がっているのかもしれません。ただ、この良い思い出、悪い思い出に対する強い記憶が、「人の居場所」をテーマにした優しいドラマを生み出す原動力になっているのは間違いないと思います。前作のタイトルがなぜ「ぱくりぱくられし」だったかという理由もよくわかりました。デビュー作であるラジオドラマの脚本が盗作されたそうですが、前作では曖昧に表現されていたそのトラブルについてもこの本の中に詳細に書かれています。木皿さんのクリエーターとしての強い矜持と読者に対する責任感が伝わってくる本です。
■CD
1 2+0+2+1+3+1+1= 10 years 10 songs/RADWIMPS
東日本大震災発生からほぼ毎年10年にわたって3月11日に、RADWIMPSが発表された楽曲を集めた作品です。テーマがテーマなのでメロウな楽曲が多く、その切ない歌詞とともに心に染み入ります。一方、その祈りにも似た静かな思いに励まされるような気持にもなります。野田洋次郎さんの言葉の力にあらためて驚かされます。「君の名は。」以来のRADWIMPSファンの次男が自分でお金を出すというので、ネットで注文したのですが、東日本大震災発生当時小学校の入学準備をしていた彼が、高校生になってCDを自分で買うまでに成長した月日を思いながら聴くと、より一層いろいろな感情が湧いてきました。
■映画
25 Fukushima 50/監督 若松 節朗
東日本大震災の巨大津波に襲われた福島第一原子力発電所の危機と、それに対処する人々を描いた作品です。当時テレビで報道された3号機や2号機からの煙を見て感じた、絶望的な気持ちを思い出しました。そのときによく使われていた「ベント」(手動による圧抜き)という作業が、いかに過酷であったかを理解することができ戦慄しました。生命の危機を感じながらも、職務を果たそうとする現場の方々の姿に感動しました。当時の背景を知る上でとても興味深い作品だと思います。ただ、ストーリーをわかりやすくするために必要だったのかもしれませんが、あまりにも現場が優秀で、東電本店や官邸が無能であるという二元論に陥り過ぎている気がしました。また、私はパトリオットではあってもナショナリストではないと思っているのですが、それにしても、日本の官邸の無能振りをこれでもかと描く一方で、アメリカの政治家や在日米軍が慈悲深く有能であるように持ち上げて描くのは、あまりにも属国根性が染みつき過ぎているのではと思いました。日本の政治家や東電本店にも必死に事態を改善しようと取り組まれた方がいらっしゃったでしょうし(少なくともそうであったと信じたいです)、アメリカ側にも当然打算があったはずです。こういう過度にわかりやすい構造で安心しない態度こそ、再発防止のために必要なのだと思いました。あと、豪華キャストなので仕方がないのだとは思いますが、主要キャラクターのプライベートな話は不要だったと思います。そういった要素を排した「シン・ゴジラ」の素晴らしさを再認識しました。