本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

底抜け大学教授

2023-02-25 06:32:37 | Weblog
■本
15 33地域の暮らしと文化が丸わかり! 中国大陸大全/ヤンチャン
16 猫組長と西原理恵子のネコノミクス宣言 コロナ後の幸福論/猫組長、 西原 理恵子

15 在日中国人のユーチューバー(私は動画を見たことはありませんが)が、中国の省や自治区などの33の地域の特徴、名所、名物料理などを解説してくれる本です。日本でさえ、各都道府県で個性が異なるのに、より広大な中国だと各地域ごとに、まるで別の国であるかのような大きな違いがあるという、当たり前の事実に気づかせてくれます。「中国」や「中国人」と一括りで議論することの乱暴さを感じました。その一方で、中国という国家自体が、これだけの広大な領土の住民に対して、「中国人」というアイデンティティを植え付けることに、ある一定の成果(それも外から見ているほどは単純ではないでしょうが)を上げているという事実が、まさにヤンチャンさんの語り口から垣間見える点も興味深かったです。もう少し詳細な地図をつけて紹介してくれたらよかったと思いましたが、Google Mapで各地域を検索しながら楽しく読むことができました。私は海南省に行ってみたくなりました(このエリアも複雑な事情を抱えているでしょうが)。

16 元経済ヤクザの猫組長の経済をテーマにしたエッセイと、それとあんまり関係のない西原理恵子さんのイラストが掲載された、雑誌連載の書籍化シリーズ続編です。本作はコロナ禍当時の考察がたくさん収録されていますが、とくに目新しい視点はなかった気がします。一方、カルロス・ゴーン事件の解説はユニークで、この問題をマネーロンダリングの視点から触れられた考察はあまりなかったと思いますので、経済ヤクザならではのブラックなノウハウも含めてとても興味深かったです。教養と現場のたたき上げの知識が融合することで、オリジナルな価値が出ることに、あらためて気づかせてくれました。


■映画
11 底抜け大学教授/監督 ジェリー・ルイス
12 ジェシー・ジェームズの暗殺/監督 アンドリュー・ドミニク

11 エディ・マーフィがリメイクした「ナッティ・プロフェッサー」の元ネタ(原題も”The Nutty Professo”です)となった作品です。虚弱体質の冴えない大学教授が、自ら発明した薬を飲んで、魅力的で強引な才気に満ちた男性に変身します。1963年の作品なので、今となってはいろいろとコンプライアンス的に問題がありますが、終始ドタバタコメディながら、最後の最後で「自分自身を愛する」というメッセージを打ち出し、美女までゲットして、後味よく終わらせる力技が見事です。日本のコメディアンもかなり影響を受けたであろう、細部に至るまで小ネタで満たしたボケの多さも印象的です。吉本新喜劇がお好きな方にはお勧めです。

12 ブラッド・ピット主演の西部劇大作です。私はよく知らなかったのですが、ジェシー・ジェームズというアメリカで人気のある強盗団の首謀者の生涯を、その暗殺者との交流を交えつつ描いた作品です。レオナルド・ディカプリオの「レヴェナント」のように、あえて汚れ役を重々しく演じて、賞レースを狙う気満々だった作品だという気がします。ブラッド・ピットは好きな俳優ですし、この作品の演技も悪くはないと思いますが、単なる感情の起伏の激しいサイコパスにしか見えず、このダーティー・ヒーローが、なぜアメリカで人気があるのかの説得力はあまり感じませんでした(労働者と女性からは金品を奪わなかったそうですが、そのような描写はありませんでした)。暗殺者役のケイシー・アフレックも、可愛げとウザさが絶妙に入り混じった名演でしたが、それでも作品の格を上げるまでには至っていません。批判されるべきはやはり監督で、ジェシー・ジェームズの魅力が描き足りない一方で、暗殺者側の描写は妙に冗長で、これなら主役を暗殺者側にして、ブラッド・ピットを脇に配置した方が、作品の奥行きが広がった気がします。暗殺者の兄役のサム・ロックウェルも、小心かつ狡猾なとても印象的な演技をしていて、名作になる要素はたくさんあっただけに残念でした。
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君たちのための自由論

2023-02-19 07:52:09 | Weblog
■本
13 聞く技術 聞いてもらう技術/東畑 開人
14 君たちのための自由論/内田樹、 ウスビ・サコ

13 朝日新聞で時評を書かれている臨床心理士の方が、タイトル通り、「聞く技術と聞いてもらう技術」について書かれている本です。東畑さん自身が、「小手先のテクニック」とおっしゃる、「7色の相槌」「奥義オウム返し」など、「聞く技術」については、カウンセラーに必要な基本的な技術が学べます(私自身は「沈黙に強くなろう」「返事は遅く」といったところに課題があることを再発見しました。一方、「聞いてもらう技術」の「小手先編」の方は、「ZOOMで最後まで残ろう」(会議が不完全燃焼で残った人たちが意外と本音で話し合うそうです)、「悪口を言ってみよう」(「賢い頭」同士の会話から「戸惑う心」同士の会話になるそうです)が参考になりました。(私は悪口の方は無意識に使いまくっていましたが)。一見、類似書で語り尽くされた技法を、切り口を変えて伝えられているだけにも思える本ですが(それはそれで素晴らしい才能だと思いますが)、この本の真骨頂は、終盤の「聞くためには聞いてもらわないといけない」(なぜなら人の悩みを聞き続けると聞く側が疲弊するから)し、「聞いてもらうためには聞かないといけない」(相手が人の話を聞こうと思えるぐらいの健康的な状況にいてもらうためには、まず聞いてあげないといけない)という循環構造の議論とし、そこから抜け出すためには、まず、一人一人が人の話を聞くという「おせっかい」から始めようと問題提起(それでもその「おせっかい」をできるだけの状態にいるためには聞いてもらうことも必要なのですが)されている点です。浅く読もうと思えばどこまでも浅く(かつわかりやすく)理解できますし、深く読もうと思えばどこまでも深く(かつ自分の内面との対話に繋がる)点が、売れている原因なのだと思います。

14 久しぶりに内田樹さんの本を。こちらは、京都精華大学の元学長であり、マリ共和国ご出身のウスビ・サコさんとの対談が中心の本です。主に大学生向けに「自由」をテーマに議論が展開されています。これまでの内田さんのどの本にも増して、日本の国力と教育機関の劣化について悲観的な意見が繰り返し語られていて、大学生を持つ親としてかなり悲観的な気持ちになりました。内田さんの『自由にはある種の「毒」がある」』という議論が印象的でした。「自由」は強者の思想であるが故にある種の毒性があり(なぜなら、自由を謳歌するためには競争に勝ち抜くというある種の強さが必要だから)、一方、「平等」にも公権力が平等の実現のために社会生活を全てを統制しよう(そして一部の権力者がその財貨を懐に入れるという誘惑に抗えない)というある種の毒性があり、そのために、フランス革命では「自由」「平等」に加えて、それらをバランスさせる「友愛」が標語として掲げられたという主張は納得感が高かったです。その上で、「自由」の毒を緩和するために「友愛」が後に来るべきところを、「友愛」が先にきて、「集団の和」や同調圧力が強調され過ぎる点が、日本の問題点であると指摘し、「友愛」を個人的な「親切」と読み替えるとよい、と主張されている点にも共感しました。「親切」は人に強制されるものではないので、「自由」との相性もよいですし、「自由」の毒も緩和できると思います。人口が減少し、日本を支える上では移民の助けを借りなければならない状況下で、「対人関係を理解と共感の上で基礎づけてはいけない」(なぜなら宗教や生活文化が違うから、ただし、ルールはルールとして守ってもらわないといけない)と「とにかく人には親切にする」(なぜならわざわざ日本を選んできてもらった異国の人に親切にできないようであれば、移民の助けなど得られないから)という主張もごもっともだと思います。ただ、この理想を実現するためには、ブレイディみかこさんがおっしゃる通り、「そろそろ左派は<経済>を語らなければならない」、とも思いました(なぜなら日々の生活に困窮する状況ではなかなか人に親切にできないので)。


■映画
10 トムとジェリー/監督 ティム・ストーリー

 有名なアニメを実写と組み合わせた映画化作品と言うことで観ました。観始めて5分くらいして、子どものころからこのアニメが嫌いだったことを思い出しました。ジェリーのいたずらがひどすぎて、トムが可哀そう過ぎるからです。この作品も、序盤からジェリーがひたすら酷い仕打ちを受けまくります。CGアニメなので許容できますが、この部分も実写で再現していたら、大炎上ものです。人間の登場人物も、わがまま、嘘つき、権威主義者と共感できる要素があまりないです。それでも、終盤にかけては、思ったよりハートウォーミングな展開になりそれなりに楽しめました。ダイバーシティに配慮しているところもよかったです。欠点だらけのねこやねずみや人間が、それでもうまくやっていけるということが、この作品のメッセージだとしたら意外と深いかもしれません。一番褒めるべきポイントは、ア・トライブ・コールド・クエストの楽曲を挿入歌として効果的に使っているところでしょうか。この楽曲が流れる冒頭シーンは素晴らしく、ジェリーが嫌いだったことを思い出すのに少し時間がかかりました。
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アバター:ウェイ・オブ・ウォーター

2023-02-12 07:47:16 | Weblog
■本
11 コンテンツ・ボーダーレス/カン・ハンナ
12 会社で「生きづらい」と思ったら読む本/岩谷 泰志

11 BTS、「イカゲーム」などの成功事例を元に韓国のコンテンツがどのような戦略を元に世界中に展開されていったのかを解説してくれる本です。それだけではなく、日本の有識者との対談を通じて、韓国の成功例を日本にどのように応用していくべきかについても考察されていて参考になりました。韓国がコンテンツの世界での流通を意識して、早い段階から権利処理を再利用しやすいようにシンプルにしていたことと、政府がクリエイターに口を出すのではなく、各国のトレンド情報の提供や資金援助といったサポートに徹していた、という点が印象に残りました。少しの援助でも下手に口を出して成果が出ていない(ように見える)「クールジャパン戦略」も学ぶところが多いです。また「海外から見た日本の良さを踏まえたコンテンツ作り」という視点も納得感が高かったです。「他者から見た自分の個性、強みの把握」、「時代の流れを読む力」、その一方での「人類に普遍的な共感要素」、の3つのバランスをうまく取ることが重要なのだと感じました(それが簡単にできれば、苦労はしないという話でしょうが)。

12 産業医経験が長い、心療内科・精神科の先生による、会社で心の問題を抱える人の背景にある症例について解説された本です。厳しさが増す一方の会社生活で、とにかくサバイブしていくためにどうすべきか、という視点が貫かれている点が特徴的で共感が持てます。また、さまざまな問題を抱える人のケースが充実している点も参考になります。ただ、タイトルにある『会社で「生きづらい」と思った』人よりも、そのような人々から相談を受ける人向けの内容です。自分を客観視できるに越したことはないですが、問題を抱える当事者はここまで自分を客観視できないと思います。どちらかと言えば「生きづらい」と思う前に読むべき、ワクチンのような本です。


■映画
8 幸せへのまわり道/監督 マリエル・ヘラー
9 アバター:ウェイ・オブ・ウォーター/監督 ジェームズ・キャメロン

8 トム・ハンクス演じる米国子ども向け番組の国民的司会者と、父親との葛藤を抱える雑誌記者との交流を描いた実話に基づくヒューマンストーリーです。私も父親に対していろいろと思うところがあったので、とても共感できる内容でした。その一方で、子ども向け番組の構成を応用したウエルメイド過ぎる展開と、トム・ハンクスの憑依系の上手過ぎる演技といった情報量が多く、どうしても俯瞰的な目線で見てしまいました。とはいえ、国民的司会者の聖人的キャラクターも含め、本当に感動的な内容です。もう少し若い時に出会っておきたかったと思える作品です。

9 世界歴代興行収入トップをキープし続ける「アバター」の続編です。3時間超という時間の長さと、日本ではさほど盛り上がってない気がしていて、なかなか映画館に足が向きませんでしたが、それでも、米国では大ヒットしているということで観に行きました。3Dで観たかったのですが、時間が合わず2Dでの鑑賞です。「エイリアン2」「ターミネーター」のジェームズ・キャメロン監督作品だけあって、終盤の「これでもか!」というほどの怒涛のアクションシーンは見応え十分で、それだけでも大満足です。それだけなら、2時間超で収まった尺を3時間超までにしたのは、アバターの世界感を丹念に描こうとする執念を感じました。結局、ジェームズ・キャメロン監督は単なるアクション映画ではなく、テーマパーク的な体験を観客に提供したかったのだと思います。それだけに3Dで鑑賞しなかったことが悔やまれますが、この上映時間の長さも含めての情報量の多さが、今のスマホ視聴が普及した時代と、少なくとも日本では少し合わなかった(3D上映が結構終了していました)のかもしれません。個人的には、やはりここまで素晴らしい体験ができたことに素直に感動しました。前作の密林から舞台を変え、本作では海中のCG映像の可能性にチャレンジされている点も見事です。これだけの緻密な世界観と映像の手間を思うと、スタッフの努力にただただ敬意を表するのみです。ハリウッドの潤沢な予算に裏打ちされた圧倒的なパワープレイを見せつける、歴史に残る傑作だと思います。
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ヨーロッパ・コーリング・リターンズ

2023-02-05 06:44:45 | Weblog
■本
9 ヨーロッパ・コーリング・リターンズ/ブレイディ みかこ
10 まぬけなこよみ/津村 記久子

9 ブレイディみかこさんが2014年から2021年にかけて、さまざまなメディアで発表された、EU、英国に関する社会、政治時評が時系列で収録された本です。イギリスで生活する一労働者としての、まさに地べたの視点から、悪化する一方の格差、貧困などの問題や、かすかに感じられる社会の連帯の可能性などについて語られています。基本的には、反新自由主義、反緊縮の立場を取られていますが、右派、左派を問わず、ダメなものはダメと批判する姿勢が信用できます。ブレグジットに至る背景が(労働者側は小さくなる一方の職や福祉のパイを移民に奪われることを嫌悪して、一方、新自由主義者の方もEUという比較的小さい市場から、アメリカや中国といったより大きな市場で、もっと自由にビジネスをしたいという思いから)よく理解でき参考になりました。ブレイディさんがおっしゃるような財政支出の拡大で、社会がよくなるかは、コロナ禍の日本の状況などを見ているとよくわからない面もありますが、目の前で腹をすかして路上で生活している人がたくさんいるのに、それに対処しない政治とはなんなのか、という真っ当な怒りがとてもよく伝わってきます。コロナ禍初期に流行した、決まった時間にキーワーカー(日本ではエッセンシャルワーカーという表現の方がよく使われていたと思いますが)への感謝の拍手を贈る習慣が、コロナ禍が長引くにつれて衰退し、偽善的であるとか「拍手より資金を」といった、社会の分断の原因になりつつある、というやるせない事実なども、冷静に描写されている点もいろいろと考えさせられました。結局は、キーワーカーに適切な賃金を支払えるように、富を適切に分配する仕組みを整えるしか、社会を持続可能にする道はないのだと感じました。ダイナミックに変化が進む故に、顕在化しているイギリス社会の様々な問題に絶望的な気持ちになる一方で、そのような問題がさほど可視化されることもなく、着々と進展している日本の方がより絶望的なのかもという気持ちにもなりました。

10 津村記久子さんの、ダラダラと日々の厄介ごとを嘆いているようで、ときに人生の秘密を射抜くような鋭い視点が挿入される文章が大好きです。本作はタイトル通り、「初詣」「かるた」など、その時々の季節の言葉をテーマにした連載エッセイをまとめた本です。小学校低学年のエピソードが多く、その解像度の高い描写も含めて、津村さんの記憶力のよさに感心しました。確かに、季節を感じる思い出は、成長して行動範囲が広がってからよりも、こども時代の身近な風景と結びつくことが多い気がします。同じ大阪で育った身としては、「十日戎」や阪南市の田園風景の描写などに共感しました。私も藤が好きなので、この本で紹介されている、鳥羽水環境センターや和泉砂川の藤棚を今年は見に行きたいと思いました。


■映画
7 ブロンコ・ビリー/監督 クリント・イーストウッド

 クリント・イーストウッド監督・主演の1980年の作品。旅回りのウエスタンテイストのサーカス団が描かれています。彼の作品にありがちですが、女性の扱いが今となってはコンプライアンス的に大問題ですし、その描かれ方も紋切り型です。また、彼が演じるサーカス団のリーダーは、そのリーダーシップや射撃の腕前を背景に、強い男性像を体現していますが、やはりキャラクターとしては平板です。にもかかわらず、不思議と魅力的に感じるのは、強さの裏側にある弱さややさしさが垣間見れる、天性のルックスにあるのだと思います。彼の最近の作品にあるような、人生の苦みを湛えた深みのようなものはまだありませんが、幻想としての古き良きアメリカの共同体がポジティブに描かれていて、クリント・イーストウッドの作家性がよく表れていると思います。
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