本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

大人のためのメディア論講義

2019-03-30 09:41:24 | Weblog
■本
29 大人のためのメディア論講義/石田 英敬
30 ケンブリッジ・サーカス/柴田 元幸

29 インターネット、スマホ、ソーシャルメディア普及後のメディアの状況や課題を、学術的な観点からわかりやすく解説してくれる良い本です。「記号論」をベースに、デジタル・メディアと人間の関係について、独自の視点から深く考察されているので、通り一辺倒な状況整理を超えた、知的好奇心が満たされる内容です。個人的には、「注意力の経済」(情報提供者側にとって、受け手の注意力は奪い合うべき資源であるという考え方)を、「精神のエコロジー」(情報が氾濫する世界で、自らの精神をいかに自律的に制御していくか、という考え方)という視点と結び付けて論じられている点が興味深かったです。「メディア・リテラシー」と言ってしまうと、バズワードっぽくなりますが、氾濫する情報に流されず、自分とメディアとの関係を俯瞰的な視点でときには見直すことが、主体的に自分の人生を生きていくうえで、重要なのだと思います。

30 ポール・オースターなどの現代アメリカ文学の翻訳家として有名な柴田元幸さんの著作集です。そのポール・オースターとの対談目当てで読みましたが、東京都大田区で育った柴田さんの幼少時代や東大での大学院生時代などを描いたエッセイで、普段はあまり意識することがない、翻訳者のひととなりを知ることができて面白かったです。少年時代の自分と対話するというモチーフが多い、自作短編小説は、少し難解で私にはあまり合いませんでした。翻訳作品は大好きでも、自作小説は好みに合わないこともあるということが発見できたことも興味深かったです。アメリカに住んでいるお兄さんに会いに行かれた紀行文を読むと、私より少し上の世代のアメリカに対するスタンスを理解することができ、自信に満ち満ちたアメリカと主体的に関われた世代が少しうらやましくもあります。


■映画 
26 ブリッジ・オブ・スパイ/監督 スティーヴン・スピルバーグ

 ストーリー展開的には、それほど大きな盛り上がりはないですが、スティーヴン・スピルバーグが監督し、コーエン兄弟が脚本に参加しているだけあって、手堅くじわじわと心に染み入るものがある作品です。主演のトム・ハンクスもさすがの安定感ですが、アカデミー助演男優賞も獲得した、ソ連のスパイ役のマーク・ライランスの演技が素晴らしいです。職務や国家に対する独特の責任感を、シニカルかつユーモラスに演じていて、圧倒的な存在感です。トム・ハンクスのタフネゴシエーターぶりや、制作スタッフ側の職人芸とも相まって、「仕事」についていろいろと考えさせられました。さりげなく、ポピュリズムの恐ろしさや利害関係を超えた友情も描かれていて、今の国際状況に対する示唆にも満ちています。
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カゲロボ

2019-03-23 09:52:05 | Weblog
■本
27 残酷すぎる成功法則/エリック・バーカー
28 カゲロボ/木皿 泉

27 監訳者の橘玲さんもおっしゃっているように、成功者の個人的な経験則ではなく、論文などの科学的なエビデンスに基づき人生で成功するための方法を考察した画期的な自己啓発書です。「エビデンス」というと難解に感じますが、文章はわかりやすく、取り上げられている事例もとても面白いです(若干冗長ではありますが)。基本的には、自分の強みを活かせて長時間の努力に耐えられる好きな領域に集中して取り組むことや、他人や自分に寛容な姿勢を持つこと、など、日本人にとって受け入れやすいアドバイスが多く、腹落ちしやすいです。個人的には、最後のワーク・ライフ・バランスについての筆者の熱いメッセージが印象に残りました。アメリカのビジネス界で成功者として見られがちな人たちの人生に対する満足度が、必ずしも高くないという指摘が逆に信用できます。限られた自分の時間を、周囲に流されることなく、本当に自分のしたいことに費やすこと(その本当にしたいことが見つからない場合は、それが見つかりやすい環境に身を置くべく努力すること)の大切さを再認識できました。

28 大好きな木皿泉さんの短編小説集です。発売日に買って一気に読みました。「昨日のカレー、明日のパン」や「さざなみのよる」などの、最近の短編集と比べると、より曖昧で読む人によって捉え方が異なるところも多いと思いますが、木皿泉さん独特の、「ダメな自分を許す」優しい視線に満ちた包容力溢れる作品です。冒頭ニ作が少年期のいじめを題材にした話だったので、その方向性で話が進むかと思ったら、突然老女が主人公の幻想的な話が挟みこまれ、また、いじめが題材の話に戻るなど、なかなか掴みどころがありません。それでいて、各短編が微妙につながっていて、最初の方の作品でいじめの加害者側だった登場人物たちが、別作品ではその成人した様子が描かれています。全体を通して朧げに浮かび上がるテーマも印象的です。私はそのテーマは「生きにくさに対する共感」だと感じました。いじめの被害者と同様に加害者側も、さまざまな屈託を抱えていること、そしてそれを不器用にしか表現できないダメな私たちに、それでも「大丈夫」と太鼓判を押してくれる、とても温かい作品です。


■映画 
24 ラストミッション/監督 マックG
25 ノルウェイの森/監督 トラン・アン・ユン

24 「レオン」などのリュック・ベッソンの脚本を、「チャーリーズ・エンジェル」シリーズのマックGが監督した、ケビン・コスナー主演のアクション作品ということで、なんとなく内容が想像できますが、怖いもの見たさもあり観てみました。良くも悪くももリュック・ベッソン色が濃く出ていて、フランスを舞台にしたスタイリッシュな雰囲気に、予定調和の家族愛と過激な暴力シーンが、不自然に絡み合い、そこにセンスのないコメディ要素も加わります。それでも、ケビン・コスナーは枯れた感じのベテランCIAエージェントをいい感じに演じていますし、私生活でジョニー・デップともめている、アンバー・ハードはドSな上司役を雰囲気たっぷりに演じていて、悪役も含めた癖のあるキャラクター設定は、さすがリュック・ベッソンです。コーエン兄弟監督作の「トゥルー・グリット」での演技を絶賛されたヘイリー・スタインフェルドが、ただのよくある思春期のわがまま娘役だったのは、少し残念でした。主人公の不治の病が治る新薬が都合よく登場するなど、ご都合主義的な設定を気にせず期待値を下げて観れば、それなりに楽しめる作品だと思います。私は、割と気に入りました。

25 言わずと知れた村上春樹さんの大ベストセラー小説の映画化作品です。まず、ここまで原作ファンの思い入れが強い作品を映画化した勇気に敬意を表します。女性キャストが発表されたときは、直子と緑の役が逆の方がよかったのでは、と思いましたが、菊地凛子さんは直子の儚さを、水原希子さんは緑の快活さを見事に演じられていたと思います。松山ケンイチさんも、私のイメージする主人公ワタナベ像にかなり近くて共感できました。60年代の大学キャンパスや主人公が旅をする日本の風景が情感たっぷりにゆったりと美しく描かれていますし、レディオ・ヘッドのジョニー・グリーンウッドによる緊張感のある音楽もいいアクセントになっていて、芸術的に優れた作品だと思います。しかし、村上春樹さん作品のファンとしてはその「芸術性」の敷居の高さに少し違和感を感じました。村上春樹さんの作品は、一見ポップで読みやすい文体で間口は広く取っているにもかかわらず、読み進めるにつれてその深さに圧倒される、というところが最大の魅力だと思っていますので、この取っつきにくさは致命的だと思いました。頻出する性的シーンも、登場人物のさまざまな葛藤が「性」の問題に矮小化されるのではという心配もあります。なにより、私が一番好きな、病床の緑のお父さんとワタナベ君がきゅうりを一緒に食べるシーンがなかったところが残念でした。
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ファクトフルネス

2019-03-16 10:50:32 | Weblog
■本
25 一切なりゆき/樹木 希林
26 FACTFULNESS(ファクトフルネス)/ハンス・ロスリング

25 「万引き家族」での好演も記憶に新しい、昨年お亡くなりになられた樹木希林さんの発言集です。かなり売れているようなので読んでみました。内田裕也さんとの奇妙な夫婦関係に象徴されるように、凡人には理解できないような独特の感性を前面に出しつつ、不思議と万人に共感できるような普遍的な演技や発言を続けられているところに、まず驚かされます。タイトルにもあるように、人生の矛盾や不条理さをなりゆきまかせに受け入れるおおらかさが印象的です。その反面、内田家を残すために娘の結婚相手(本木雅弘さん)には婿養子となることを求めたり、自らがプロデュースされた、松田聖子さんとの破局後の郷ひろみさんのインタビュー記事では、タイトルが気に入らないと強引に差し替えさせたりするなど、強い信念を感じるところもあり、なかなか一筋縄ではいきません。自分の容姿や老いなど、普通の人ならネガティブにとらえがちなところを、全て自分の強みであり意味のあることとして考える、ポジティブさに圧倒されました。

26 こちらもベストセラーでかつ各書評の評判も極めてよいので、読んでみました。シンプルで劇的なものとして世界をとらえがちな、メディアや私たちの習性をきちんと把握した上で、正しく調査された統計データ等、事実を元に世界を正確に理解し、行動に移して行くことの大切さを教えてくれる本です。極度の貧困にある人の割合の過去20年の変化や、世界の平均寿命などの三択クイズの正答率(正解は地球の温暖化以外は、我々の想像以上にポジティブなものになっています-ちなみに少し自慢ですが、私の正答率はチンパンジーよりも上でした)を随所に挟みながら、世界は大きな視点で見れば徐々に良い方向に向かっていること、また、我々がニュースなどで目にする不幸の数々も想像以上に限定的なものであることを、様々なエピソードを挟みつつ非常にわかりやすく説明してくれます。単純な二元論による早急な結論が重視され、フェイク・ニュースに対する様々な議論が巻き起こっている、現在にまさに読まれるべき本だと思います。ただ、「誰の命を奪わなかった」と結論づけられている放射線被ばくの議論については、この本らしくない早急な結論だと思いました。確かに避難による慣れない生活で命を落とした人は多かったと思いますが、被ばく地域とされる場所に残る不安によるストレスや長期間の影響を加味すると、少なくとも結論はまだわからないという姿勢の方がよいと思います。というような、批判的な読み方ができるようになったのも、この本のおかげだと思います。


■CD
4 Weezer (Black Album)/Weezer

 先日リリースされたカバー作品「TEAL ALBUM」もとても楽しかった(「Everybody Wants to Rule the World 」や「Paranoid」といった選曲がツボでした)ウィーザーの新作です。この作品は、いつにも増して楽曲のクオリティが重視され、作りこまれた印象で、私が大好きな2作目「Pinkerton」を連想させます。どこか懐かしいですがウィーザーにしか作れない、オリジナリティ溢れる泣きのメロディが満載です。能天気なパワーロックのウィーザーもよいですが、知性溢れるウィーザーも素敵です。


■映画 
22 赤ひげ/監督 黒澤 明
23 運び屋/監督 クリント・イーストウッド

22 噂に違わぬ名作でした。江戸時代後期の養生所長の赤ひげと、患者など周囲の貧しい人々との様々な交流が、そこに配属された長崎帰りのエリート医師の成長を絡めつつ、感動的に描かれています。何より、清濁併せ飲みかつ、特に傲慢な赤ひげのキャラクター設定と、三船敏郎さんの演技が素晴らしいです。とかく上から目線になりがちな題材の作品を、社会の矛盾に対する強い怒りを込めつつ、どこか飄々と庶民目線で描かれているところに共感しました。瀕死の少年を救うために、井戸の中にその人の名を呼べば呼び戻せるという言い伝えを信じて叫び続ける少女のシーンが、特に印象に残りました。身体的な病気だけでなく、母から虐待を受けた少女の精神的な治療を行う描写もあり、現代社会に通じる問題を先取りして取り上げているところも驚きです。赤ひげが売春宿の用心棒達と戦うアクションシーンや、ある患者の悲恋の過去のドラマティックな演出など、観客を引き付ける要素も満載で、3時間を超える映画ですが全く飽きさせません。芸術性だけでなくエンターテイメント性も追求する、この時期の黒澤明監督の志の高さも感じます。

23 人間的にはあまり好きではないですが、作品に関しては私が絶大な信頼を置いているクリント・イーストウッド監督の新作です。2008年の「グラン・トリノ」以来の監督・主演作ということで、楽しみにしておりました。「グラン・トリノ」のときは、強面一辺倒のタフなじいさんでしたが、この作品では、より年老いて弱くなった分、タフさと茶目っ気が絶妙にバランスされていて、より魅力的になっています。ストーリーの方は、クリント・イーストウッド作品の多くにある、予想の斜め上を行くようなトリッキーな展開はあまりなく、その点はファンとしては少し物足りなかったです(そもそも90歳の麻薬運び屋というキャラクター設定の時点で、斜め上なのかもしれないですが)。しかし、その分、クリント・イーストウッドだけでなく、妻役のダイアン・ウィーストや、麻薬取締官役のブラッドリー・クーパーなどの個々のキャラクターに焦点が当てられていて、その見事な演技が印象に残ります。クリント・イーストウッドが、「家族の大切さ」についてここまでベタに真正面から描くことが少々意外でしたが、ありとあらゆる名声を獲得した巨匠が、88歳という年齢になってから語っていることに、人生で大切なものの優先順位を教えてもらった気がしました。
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蠕動で渉れ、汚泥の川を

2019-03-09 09:30:52 | Weblog
■本
23 富裕層のバレない脱税/佐藤 弘幸
24 蠕動で渉れ、汚泥の川を/西村 賢太

23 タイトルを見て脱税指南の本かと思いましたが、元国税局員の税理士さんによる、脱税の様々な手口とそれに国税局がどのように対応しているか、を解説して下さる本です。飲食店や風俗店、宗教法人の脱税の手口は、生々しくて読んでいて面白いですが、グローバル化の流れを受けて、富裕層はよりスケールの大きい、各国の制度の差や情報連携の薄さをついた脱税をしていることがわかります。富裕層の手口は、非常に難解で、私にとっては現実感にも乏しく、それだけにこの問題への対策が困難なことがわかりました。富裕層に脱税の手口を指南して稼ぐ人たちがいるということを知らなかったので、なかなか衝撃的でした。結局、一番(ずる)賢い人たちは、なんらかのかたちでコンサルタントっぽくなるのかもしれません。

24 仕事で嫌なことがあると不思議と西村賢太さんの本を読みたくなります。この作品は、いつもの肉体労働ではなく、飲食店で主人公の北町貫多が働いていたころのお話です。いつもの露悪的なまでの主人公の悪行・暴言の数々はそのままに、本作ではいつにも増して、情緒的な趣きあり、西村さんの作家としての成熟度が増している気がします。傍若無人な振る舞いの背後にある、貫多の小心さがくどいほどに繰り返される文体も、よくできた落語を聞いているかのようで、名人芸の域に達しています。いつもは口先だけの反省にとどまっている貫多が、かすかな良心の痛みを感じているエンディング(とはいえ、結局同じ過ちを繰り返すことは見え見えなのですが)の余韻も素晴らしく、西村賢太さんの最高傑作といってもよい作品だと思います。


■映画 
21 緑の光線/監督 エリック・ロメール

 巨匠と名高いエリック・ロメール監督作品を観たことがなかったので、観てみました。バカンスに異常なこだわりを持つ、情緒不安定気味な女性のお話です。ヌーヴェル・ヴァーグ後期の監督というだけあって、なかなか難解ですが、どこかコミカルな感じもして重くはないです。一緒にバカンスに行く約束をしていた友達からドタキャンされただけで、そんなにいつまでも泣かなくても、と思ってしまったので、主人公には共感できませんでした。フランスのリゾート地の風景は美しく、また、タイトルにもある、「緑の光線」の映像も、なかなから観られるものではないので印象に残ります。面白くはないのですが、「緑の光線」のエンディングに向かうまでの構成はなかなか巧みで、いろんなリゾート地に行ってはパリにすぐに戻ってくる主人公の行動もあって、不思議と退屈しませんでした。
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グリーンブック

2019-03-02 06:19:57 | Weblog
■本
20 チームの力/西條 剛央
21 除染と国家/日野 行介
22 マンガホニャララ ロワイヤル/ブルボン小林

20 東日本大震災の支援プロジェクトを立ち上げた、大学准教授の方が書かれた組織論です。その組織論の背景にある思想の「構造構成主義」という独特の考え方が少し難解ですが、実際にボランティア組織を有効に機能させた方による話だけあって、具体的で説得力があります。特に、支援が必要とされなくなる状態を目指し「なくなることが目的」という、とかく、その存続自体が目的となりがちな組織において、その存在を否定するような目的を設定し、実際に発展的に解体したところに共感しました。また、「対立の奥には"関心"の違いがある」という考え方はとても参考になりました。相手の"関心"を考えることにより、歩み寄る余地があるのか、それとも、そもそも相容れないのか、について冷静に考えられるような気がします。「昇進・昇給」などでモチベーションを高められないボランティア組織の方が「関心」を基点として運営する必要がある、という意見も含めて、結局、自分に「関心」のある仕事を行うことが重要ということに改めて気づかされる本です。

21 20の本で東日本大震災について触れられていたので、その事後処理である除染に関するこの本を読みました。まさに、ジャーナリスト魂というべき執念すら感じられる緻密な取材に基づき、除染にまつわる、政治家や官僚、お抱え学者などの、さまざまな欺瞞を暴いてくれます。つい先日「福島汚染土、県内で再利用計画 『99%可能』国が試算」という記事を読んで、とても違和感を感じていたのですが、その背景がよく理解できました。結局は、県外で最終処分をする汚染土の総量を減らすための結論ありきの、辻褄合わせに過ぎないのですが、その住民無視の政治家や官僚の傲慢さに恐怖すら感じました。実際、現在の人間の力では、打てる手は限られているのだと思いますが、それでも、被害にあった方々に誠実に寄り添う姿勢をもって対応いただきたいと強く思いました。また、そのためにも、私たちは少しでも事実を知る努力が必要なのだと思いました。

22 ブルボン小林こと芥川賞作家長嶋有さんによる、漫画に関する連載エッセイの2作目です。かなりマニアックな内容で、取り上げられている漫画も読んでいないものが大半なのですが、その視点や語り口の面白さにより、一気に読んでしまいました。読んだことのある漫画が取り上げられた回はやはり特に面白く、共感できるところやできないところも含めて、漫画の読み方の幅が広がった気がします。特に、吉田戦車さんに関する記述が多かったので(「愉快で笑えて、ちゃんと暗い」という「ぷりぷり県」評は言い得て妙だと思いました)最近読んでいない、「感染るんです」以降の作品も読んでみたくなりました。


■映画 
19 グリーンブック/監督 ピーター・ファレリー
20 ドラえもん のび太の宝島/監督 今井一暁

19 今年のアカデミー作品賞です。黒人差別をテーマにした作品で、その描き方について賛否が分かれていますが、互いの差異を理解した上で育まれる友情をコミカルな視点も交えつつ描いた、今の時代に非常に合ったよくできた作品だと私は思いました。確かに、黒人男性のキャラクターは特別な音楽の才能に恵まれたスーパー過ぎる存在ですし、その運転手役のイタリア人の描かれ方もかなり紋切り型です。しかし、差別する側の南部の人間は、わかりやすい悪意に満ちた警官から、過去の慣習に囚われて無自覚なままに差別を行う一見善良なレストランオーナーまで、様々なパターンが描かれていて、この問題の複雑さをうまく捉えていると思います。また、主要人物二人が、人種問題以外の様々な悩みや誇りを持っていることも丁寧に描かれていて、全ての人間が共通して持つ「生きにくさ」への優しい視線が注がれている点にも共感しました。丁寧に伏線が回収されていく心地よさもあり、観終わった後に、世界が少し美しく見えるような素敵な作品です。

20 昨年公開されたドラえもんの長編映画版です。最近のドラえもんの映画は脚本がよくできているものが多い印象ですが、この作品もテンポよく話が進んでいき、アクション描写もダイナミックで素直に楽しめました。CGのクオリティがかなり上がっていますし、しずかちゃんがガールズトークをするなど、妙に色っぽくなっているところも少しドキドキしました。「クイズ」というなぞなぞを随所にブッこんでくるロボットのキャラクターが登場し、子どもを飽きさせないという点でも、うまい設定だと思いました。「世界から猫が消えたなら」などの小説も書かれている川村元気さんが脚本を担当されているので若干説教臭いところや、親子や世界観の設定が「エヴァンゲリオン」に似ている点はご愛敬。子ども向けと侮ることなく、良質なものを創ろうという志に満ちた作品だと思います。
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