■本
75 ワンクリック―ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛/リチャード ブラント
76 不格好経営―チームDeNAの挑戦/南場智子
75 世界最大のネット通販サイト「Amazon」の歴史を、創業者ジェフ・ベゾス氏に焦点を当てて書かれた本です。癖の強い個性を持つベゾス氏に対してはシニカルな視点での記述が目立つ一方で、その成し遂げた業績については素直に賞賛されていて、著者のバランス感覚が光ります。Amazon成功の背景に、ベゾス氏の明晰な頭脳とバイタリティ溢れる行動力があることはもちろんですが、インターネット黎明期にサービスをいち早く立ち上げたタイミングの良さと、「ワンクリック特許」に代表されるグレーな特許が認められたという幸運さも起因していることがよくわかりました。企業戦略上「どこで、いつ戦うか」が大切、ということを最もよく体現している会社であるとも言えます。「初めは信頼性が低く簡素なシステムから」始めるというスピード重視の意思決定も、今から考えると先行優位を築く上では常套手段であると理解できますが、当初はかなりの勇気が必要だった気がします。積極的な価格戦略や利益よりも拡大を優先する当初の姿勢など、意思決定の大胆さにも感心しました。別会社での宇宙事業の進出など、その発想のスケールの大きさにも圧倒されます。頭では理解できますが、とても行動として真似できないことばかりで、ベゾス氏もやはり、スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツと並ぶ天才なのだと思います。
76 「モバゲー」で有名な「DeNA」創業者である南場智子さん自身が、会社の発展について書き下ろした本です。南場さんはベゾス氏とは異なり、「秀才型」の経営者だと勝手に理解して読んだので、そのロジカルな意思決定の考え方は参考になるところが多いですが、ベゾス氏を上回る会社や社員への愛情の大きさは、やはり常人には真似のできないところです。サイバーエージェント社長の藤田さんの本では、ベンチャー立ち上げ時の営業現場のハッタリや勢いがとてもよく伝わってきましたが、こちらの本では立ち上げ時のシステム構築の混乱とその対応方法がそれぞれの担当者の奮闘の様子とともに生々しく伝わってきて興味深いです。システム立ち上げ後数時間でユーザーがつきサービスの成否の兆しがわかる、B to Cネット企業のスピード感にも圧倒されます。南場さんの考えや各社員の方々の奮闘ぶりが丁寧に書かれていて読み物としてとても興味深いのですが、それでも「DeNA」という会社が提供するサービスがあまり見えなくて、その不気味さがあまり払拭されていないところが少し残念でした。いわゆる「出会い」防止の細やかな対応など、企業としての真摯な姿勢は伝わってくるのですが、サービス利用者側にどんな問題が起こっていて、「DeNA」の営業現場としてはどのように対応されているのか、というユーザー接点の記述がもう少しあってもよかったのではと思いました。
■CD
70 Paradise Valley/John Mayer
71 Where You Stand/Travis
70 喉の手術からの復帰作ということで、初期の作品のような瑞々しい爽快感は影を潜めていますが、それを補って余りある訥々と丁寧に曲を伝えようとする気概が伝わってきて、好感の持てる作品です。Katy Perryや Frank Oceanといった旬のアーチストとのコラボも効果的で作品全体のアクセントとなっています。John Mayerのギターテクニックも存分に味わえ、長く繰り返し楽しめそうな作品です。
71 こちらも円熟味がさらに増し、安定した渋い作品となっています。コーラス、演奏ともバンドとしてのまとまりが感じられます。抑揚の効いたドラマティックな展開にもかかわらず、シンプルな印象が残る楽曲構成も巧みです。Fran Hearyの伸びやかなヴォーカルも顕在で、秋の野外フェスなんかで夕暮れとともに聴くとグッと来るようなサウンド満載です。
■映画
55 父と暮せば/監督 黒木和雄
毎年夏になると原作戯曲を読みたくなるのですが、今年は映画で観ました。なんとなく暑さを感じながら観るのがよいような気がして、エアコンを切って正座してみました。原作の持つ二人芝居的な要素は残しながら、原爆投下直後の街並みや原爆ドームの映像など、映画的要素も控えめながらも巧みに盛り込み、監督のメッセージもよく伝わってきます。宮沢りえさん、原田芳雄さんとも凄まじく素晴らしい演技をなされていますが、演技合戦というよりも、ともに作品のクオリティを上げるためにギリギリの切磋琢磨をしている感じで、ストーリーのよさもさることながらお二人の演技力にも心を揺さぶられ、終盤は泣き通しでした。最後の宮沢りえさんの決めセリフも見事に決まり、エンドロールでは鳥肌が立ちました。想像を絶するような被害を受けたにも関わらず、その被害者意識に溺れることなく、死者という不在なものを登場させることにより生き残ったものの罪悪感を表現し、その死者との交流によりその罪悪感が昇華されていく、という物語上の構造も見事過ぎます。歴史に残る傑作だと思います。
75 ワンクリック―ジェフ・ベゾス率いるAmazonの隆盛/リチャード ブラント
76 不格好経営―チームDeNAの挑戦/南場智子
75 世界最大のネット通販サイト「Amazon」の歴史を、創業者ジェフ・ベゾス氏に焦点を当てて書かれた本です。癖の強い個性を持つベゾス氏に対してはシニカルな視点での記述が目立つ一方で、その成し遂げた業績については素直に賞賛されていて、著者のバランス感覚が光ります。Amazon成功の背景に、ベゾス氏の明晰な頭脳とバイタリティ溢れる行動力があることはもちろんですが、インターネット黎明期にサービスをいち早く立ち上げたタイミングの良さと、「ワンクリック特許」に代表されるグレーな特許が認められたという幸運さも起因していることがよくわかりました。企業戦略上「どこで、いつ戦うか」が大切、ということを最もよく体現している会社であるとも言えます。「初めは信頼性が低く簡素なシステムから」始めるというスピード重視の意思決定も、今から考えると先行優位を築く上では常套手段であると理解できますが、当初はかなりの勇気が必要だった気がします。積極的な価格戦略や利益よりも拡大を優先する当初の姿勢など、意思決定の大胆さにも感心しました。別会社での宇宙事業の進出など、その発想のスケールの大きさにも圧倒されます。頭では理解できますが、とても行動として真似できないことばかりで、ベゾス氏もやはり、スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツと並ぶ天才なのだと思います。
76 「モバゲー」で有名な「DeNA」創業者である南場智子さん自身が、会社の発展について書き下ろした本です。南場さんはベゾス氏とは異なり、「秀才型」の経営者だと勝手に理解して読んだので、そのロジカルな意思決定の考え方は参考になるところが多いですが、ベゾス氏を上回る会社や社員への愛情の大きさは、やはり常人には真似のできないところです。サイバーエージェント社長の藤田さんの本では、ベンチャー立ち上げ時の営業現場のハッタリや勢いがとてもよく伝わってきましたが、こちらの本では立ち上げ時のシステム構築の混乱とその対応方法がそれぞれの担当者の奮闘の様子とともに生々しく伝わってきて興味深いです。システム立ち上げ後数時間でユーザーがつきサービスの成否の兆しがわかる、B to Cネット企業のスピード感にも圧倒されます。南場さんの考えや各社員の方々の奮闘ぶりが丁寧に書かれていて読み物としてとても興味深いのですが、それでも「DeNA」という会社が提供するサービスがあまり見えなくて、その不気味さがあまり払拭されていないところが少し残念でした。いわゆる「出会い」防止の細やかな対応など、企業としての真摯な姿勢は伝わってくるのですが、サービス利用者側にどんな問題が起こっていて、「DeNA」の営業現場としてはどのように対応されているのか、というユーザー接点の記述がもう少しあってもよかったのではと思いました。
■CD
70 Paradise Valley/John Mayer
71 Where You Stand/Travis
70 喉の手術からの復帰作ということで、初期の作品のような瑞々しい爽快感は影を潜めていますが、それを補って余りある訥々と丁寧に曲を伝えようとする気概が伝わってきて、好感の持てる作品です。Katy Perryや Frank Oceanといった旬のアーチストとのコラボも効果的で作品全体のアクセントとなっています。John Mayerのギターテクニックも存分に味わえ、長く繰り返し楽しめそうな作品です。
71 こちらも円熟味がさらに増し、安定した渋い作品となっています。コーラス、演奏ともバンドとしてのまとまりが感じられます。抑揚の効いたドラマティックな展開にもかかわらず、シンプルな印象が残る楽曲構成も巧みです。Fran Hearyの伸びやかなヴォーカルも顕在で、秋の野外フェスなんかで夕暮れとともに聴くとグッと来るようなサウンド満載です。
■映画
55 父と暮せば/監督 黒木和雄
毎年夏になると原作戯曲を読みたくなるのですが、今年は映画で観ました。なんとなく暑さを感じながら観るのがよいような気がして、エアコンを切って正座してみました。原作の持つ二人芝居的な要素は残しながら、原爆投下直後の街並みや原爆ドームの映像など、映画的要素も控えめながらも巧みに盛り込み、監督のメッセージもよく伝わってきます。宮沢りえさん、原田芳雄さんとも凄まじく素晴らしい演技をなされていますが、演技合戦というよりも、ともに作品のクオリティを上げるためにギリギリの切磋琢磨をしている感じで、ストーリーのよさもさることながらお二人の演技力にも心を揺さぶられ、終盤は泣き通しでした。最後の宮沢りえさんの決めセリフも見事に決まり、エンドロールでは鳥肌が立ちました。想像を絶するような被害を受けたにも関わらず、その被害者意識に溺れることなく、死者という不在なものを登場させることにより生き残ったものの罪悪感を表現し、その死者との交流によりその罪悪感が昇華されていく、という物語上の構造も見事過ぎます。歴史に残る傑作だと思います。