本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

嫉妬論

2024-08-04 09:58:35 | Weblog
■本
67 嫉妬論/山本 圭
68 掃除婦のための手引き書/ルシア・ベルリン

67 私も人並みに嫉妬深い性格なので読みました。よくある自己啓発本のように「嫉妬から自由になる」方法ではなく、嫉妬を「民主主義」の社会に構造的に生じるものとして、一定の存在意義を認めつつ論じられている点が興味深かったです。嫉妬の完全に禁止された社会は、少し前の時代の共産主義国家のように、どんな差異も許されない息苦しい社会になる可能性が高いので、多様な評価軸が認められる社会にするなど、嫉妬をある程度コントロールできる(嫉妬したりされたりしながら、嫉妬心が暴走しないようにして生きていける)社会が望ましいという結論だと私は理解しました。結局は、自分の好きなこと、得意なこと(少なくとも嫌で苦手ではないこと)をやって、それなりに自尊心を満たしながら楽しく生きていくことが重要という、私の中でのいつもの結論を補強できた内容でした。また、格差が問題なのではなく(なぜなら少しの格差も許さない社会は、足の引っ張り合いの息苦しい社会になりがちだし、そもそも、社会全体の進歩に繋がらない)、「過度な」格差が問題であるということもよく理解できました。どの範囲以上が「過度な」ものであるということを社会的に合意するには粘り強い対話努力が必要だと思いますが、何が何でも「平等」という頑なな姿勢が、昨今リベラルの評判が悪い理由でもありそうです。私は基本的にはリベラルな人間でありたいと思っていますが、嫉妬に対してのスタンスと同様に、ある程度の寛容さ、ユルさ、可愛げが必要なのだと思います。トランプは大嫌いですが、彼の「可愛げ」から学ぶところもあると最近考えています。

68 少し前からいろいろな書評で絶賛されていて、気になっていたので読みました。長い間「知る人ぞ知る」的存在であった、アメリカ女性作家の短編集です。最初は翻訳もの特有の読みにくさがありましたが、読み進むにつれて、大半の小説が彼女自身の体験に基づいている私小説であるということがわかり、俄然引き込まれました。解説や書評で語られているような言葉遣いの美しさ、ユニークさはさほど感じなかったので、その点を味わいたい場合は原文で読むべきなのかもしれません。私は、それよりも、西村賢太さんの小説を読んでいるかのような、自分の不幸さや同じ失敗を繰り返すどうしようもない性格さえも俯瞰的にとらえる、半ば自虐的な視点に魅力を感じました。不幸話でお涙頂戴的に終わる予定調和を一切排して、後味悪く終わる点もクールです。人生の目的が幸せの追求ではないという、諦念を超えた生に対する肯定感のようなものに心を打たれました。決して幸福ではない波乱万丈の人生の濃さを味わい尽くせます。こういう決して自分では送りたくない人生を追体験できる点も小説の良さなのだと思います。


■映画 
64 怪盗グルーのミニオン超変身/監督 クリス・ルノー、パトリック・デラージ
65 ココ・アヴァン・シャネル/監督 アンヌ・フォンテーヌ

64 「怪盗グルー」シリーズの最新作です。大好きなミニオンを愛でるために観に行きました。魔改造されて特殊能力を身につけたミニオンなど、今回もミニオンの魅力が全開です。一方で、グルー等人間のキャラクターの印象は薄めです。4作目ともなると、キャラクターが渋滞し過ぎるので、わかりやすくするために人気の高いミニオンにより焦点を当てた印象です。そのため、ストーリー的な深みは減り、ドタバタ劇の即興的なギャグが増えています。その点が評価が分かれるところで、アメリカでの興行成績にも影響しているような気がします(それなりにヒットしていますが、現時点でピクサーの「インサイド・ヘッド2」にダブルスコア以上の差をつけられています)。とはいえ、ミニオンを愛でるという目的から言うと、私は大満足でした。適度な毒のあるキャラクター(一方で、グルーがかなり真人間になったところは物足りないですが)が最高です。

65 シャネルブランド創設者のココ・シャネルの生涯を描いた作品です。美しいが身体を拘束するかのような当時のドレスを批判し、快適さとファッション性を両立させたデザインで、女性の社会進出にも貢献した彼女のことを知りたくて観ました。期待に反して恋愛的側面が中心で、もう少し彼女がファッションデザイナーとして認められる過程を丁寧に描いて欲しかったという思いも残りますが、それはそれで興味深かったです。ココ・シャネルを演じた、オドレイ・トトゥの可愛げと気だるさと強さを併せ持つ演技が、大きく貢献しています。当時の女性が成り上がっていくためには、やはり、自分の「性」をある程度武器にしていく必要があったことがうかがい知れます。そんな状況下で、彼女は自分が美しいと思うものを、周囲にどう言われても信じ抜く強さがあった点も、もちろん彼女の成功の背景にはあったと思います。自立するために「働く」ことの重要さを強調されている点にも共感しました。男の登場人物が、「女性の敵」といった、紋切り型の悪人として描かれていない点も好ましかったです。
コメント
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