本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

天気の子

2019-07-27 06:53:30 | Weblog
■本
66 そのうちなんとかなるだろう/内田 樹
67 右脳思考/内田 和成
68 武器輸出と日本企業/望月 衣塑子

66 内田樹さんの自伝的な語り下ろしの本です。これまであまり語られることのなかった、前の奥さんや離婚の経緯などについても詳細に語られていて、ファンとしては興味深い内容です。団塊の世代で東大に合格するほどの知能がある人たちが、当時どのように考え、生活していたかが、よくわかります。今の学生と比べて、恵まれている面とそうでない面が当然あると思いますが、過去に対する美化も含めて、その自由奔放な生き方には少し憧れます。自分の才能一つで生きていく余地が大きく残っていた、大らかな時代だったと言うこともできると思います。自分でものを考えること、そして、それをアウトプットし続けることをやめなかったことが、今の内田さんの名声に繋がっていることもよくわかりました。一見するとなりゆき任せの人生にも見えますが、そこには強い美学や信念のようなものも感じられ、一層尊敬の気持ちが強まりました。

67 名著「仮説思考」、「論点思考」の内田和成さんによる「勘」や「感情」のビジネスでの活用を説かれた本です。ボストンコンサルティンググループ出身でロジカルシンキングの申し子のような、内田さんがこのような本を出されることに時代を感じます。山口周さんがおっしゃるように、ロジカルシンキングによる問題解決がコモディティ化しているのかもしれません。ただ、もともと「仮説思考」の重要性を訴えていた内田さんなので、話の展開に矛盾はなく、右脳で思いついた仮説やアイデアをロジカルシンキングでチェックし、さらに右脳で「ワクワク、どきどき」を加味するという考え方には説得力があります。結局、右脳、左脳の重要度は時代の状況によって左右に揺れ動いていくのでしょう。自分の得意な思考はどちらかを意識しながら、それぞれの局面に応じて、双方のバランスを取っていくことが重要なのだと思います。

68 菅官房長官の定例記者会見での厳しい質問や、同名の著書が映画「新聞記者」の原案であることでも有名になった、東京新聞望月記者による、日本企業の武器輸出に関する取り組みを調査された本です。調査報道なので当たり前ですが、映画「新聞記者」のようなドラマティックな展開は一切なく、淡々と日本政府や企業が武器製造やその輸出に力を入れ始めている様子が描かれています。内田樹さんがよくおっしゃる通り、紛争さえあれば武器は市場が無限に広がっていく商品なので、儲けることだけを考えるのであれば魅力的な市場なのだと思います。国や企業の成長戦略を描くことは大切だと思いますが、どの分野で成長させていくのか、についての議論はもう少し開かれた場で必要だと思いました。この本でも取り上げられていますが、そのあたりの倫理意識を個々の研究者や技術者に委ねるのは酷ですし、リスクが高いと感じました。また、言うまでもなく国家がその倫理的判断を権力でねじ曲げるようなことがあってはいけないと思います。
 

■CD
12 When We All Fall Asleep, Where Do We Go?/Billie Eilish

 個人的に来年のグラミー賞で多部門でノミネートされるのでは、と予想しているビリー・アイリッシュのデビュー作。ラジオでシングル曲を聴いて、以前から気になっていたのですが、アルバムがチャートでも1位になっていたので購入しました。とにかく、世界観が独特。暗いけど、どこかポップで、自由奔放なメロディ展開が印象に残ります。これまで聴いたことのない、強烈な個性に圧倒されます。セクシャリティを前面に出していないところも新鮮です。最新の音楽がここにあります。


■映画 
67 父親たちの星条旗/監督 クリント・イーストウッド
68 硫黄島からの手紙/監督 クリント・イーストウッド
69 ペレ 伝説の誕生/監督 ジェフリー・ジンバリスト 、マイケル・ジンバリスト
70 星を追う子ども/監督 新海 誠
71 天気の子/監督 新海 誠

67、68 クリント・イーストウッド監督作品は、全部観るつもりなのですが、硫黄島での地上戦という重いテーマのため、ずっと避けていました。終戦記念日も近いので、意を決して、この戦いを米国側、日本側からそれぞれ描いた二作品を続けて観ました。「父親たちの星条旗」は、意に添わぬかたちで、戦争の英雄に仕立て上げられた米国兵の話です。ネイティブ・アメリカンの兵士を登場させるなど、米国に対して批判的な視点が時折見られるところは、クリント・イーストウッド監督の真骨頂です。我々が思う以上に、第二次世界大戦は、米国側の財政を危機的状況に追い込んでいたことは意外でした。「硫黄島からの手紙」は、主に二宮和也さん演じる、厭戦気分たっぷりの最前線の兵士の視点から見た、戦争の悲惨さ、硬直した権力の理不尽さが丁寧に描かれています。日本人監督が描いたかと思うほどの、登場人物設定の違和感のなさには、こちらもクリント・イーストウッド監督の技術の高さが、いかんなく発揮されています。知米派兵士と米軍捕虜とのささやかな心の交流を描く一方で、捕虜に優しいとされている米国兵士による日本兵士の虐殺を描くなど、ステレオタイプな描写に陥っていないところも、クリント・イーストウッド監督のバランス感覚の良さを感じます。日本人監督作品では感じることのできない、戦争では、被害者、加害者双方の立場になり得るという当たり前の悲惨さを考えさせられます。地味ですが、地に足のついた素晴らしい作品だと思います。

69 ブラジルサッカー界の英雄、ペレの幼少期から17歳でのW杯デビュー、そして優勝までを描いた作品です。貧しい生活から、さまざまな挫折や両親のサポートを交えながら、駆け上がっていくという定番のストーリーを、衒いもなく真っ向から描いています。ペレのプレーの描写が凄すぎて、ファンターという感じさえします。そのプレーシーンを観るだけで楽しくなります。気楽に素直な気持ちで観ることのできるエンターテイメント作品です。

70 「天気の子」を観に行く前に、まだ、観ていなかった新海誠監督長編作を予習も兼ねて。ジブリの「天空の城ラピュタ」を思わせるような、異世界ファンタジー作品です。独特の固有名詞や精緻な風景描写など、細部に至るまでの世界観のこだわりが凄いです。緊密な人間関係の切なさを描くことの多かった新海監督が、少し開かれた多人数の人間関係を描いている点が印象的です。主人公の行動の動機が若干わかりにくいなど、必ずしも成功していないところがありますが、正統派ファンタジーにがっぷりと取り組んでいて、「君の名は。」や「天気の子」の大成功につながる、布石的な作品だと思います。

71 「君の名は。」の大成功のあとで、これほどのチャレンジングな作品を、興行的にもクオリティ的にも成功させているところが、とにかく素晴らしいと思います。新海監督の勇気に、まず敬意を表します。少年の成長を描く、ビルドゥングスロマーンのフォーマットに添いながら、軽妙な会話でテンポよく進んでいくストーリー展開に一気に作品世界に引き込まれます。その一方で、胡散臭い新宿と陰鬱な天候が背景として描写されていて、その不穏な組み合わせで、観る側に違和感を常に抱かせる構成も印象的です。賛否が分かれる結末も実に現代的で、今の時代をうまく表していると思います。ネガティブな状況下での希望や、逆にポジティブな状況下での犠牲、など、単純な二元論に陥らないところも作品の深みとしては申し分ないと思います。個人的には、大ヒット作の「次回作」としては理想的な作品です。細部の引っ掛かりや瑕疵も含めて、その志の高さを高く評価します。
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ニュータイプの時代

2019-07-20 09:35:50 | Weblog
■本
64 BORDER/古川 春秋
65 ニュータイプの時代/山口 周

64 久しぶりに金城一紀さんの本を読みたくて、金城さん原案テレビドラマのノベライズ版を読みました。「死者と会話ができる」刑事が主人公という現実離れした設定ですが、金城さんらしいリアリティのある会話と奥行きのあるキャラクター造形で、違和感なく作品世界に入っていけました。悪役の存在感も大きく、主人公との対決シーンは緊迫感があって、一級のエンターテイメント作品となっています。ドラマ版の方も機会があれば観てみようと思います。

65 「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?」で大ブレークした山口さんの新作です。山口さんがこれまで書かれた本の集大成的内容で、「新時代を生き抜く24の思考・行動様式」という副題の通り、山口さんがこれまで主張されてきた内容のエッセンスを「問題を解くより『発見』して提案する」など、20世紀に優秀とされた人々(オールドタイプ)の思考・行動様式から、新時代で必要とされる人材(ニュータイプ)の思考・行動様式への変化の必要性をいろいろな視点から提示してくれます。前例のない出来事が次々と生じる状況下で、論理+直観を駆使して、自分の倫理観に従い、自ら未来を構想して行動していくことの重要性が説かれています。本の内容を理解することと、実際に行動を変えることとの間に大きな溝があるタイプの本ですが、「おわりに」に書かれている「20世紀的な価値観や労働観に縛られない、しなやかで自由な、新しい人生のあり方」を少しでも実践できればと思います。読書などのインプットをどのようにアウトプットしていけばということの参考にもなります。とても良い本だと思います。


■CD
11 Lotta Sea Lice/Courtney Barnett & Kurt Vile

 この何年か繰り返しサブスクリプションサービスで聴いている作品です。CDとして手元に置いておきたくなったので、購入しました。大好きなコートニー・バーネットと、男性シンガーのカート・ヴァイル(この作品まで私は彼のことをよく知らなかったですが)、のコラボレーション作品です。グランジっぽいギター全開のコートニー・バーネットの作品と違って、フォークっぽい佇まいのリラックスした楽曲が続きます。派手な曲はないのですが、疲れたときに聴くと妙に癒されます。何度聴いても飽きない、不思議な味わいに満ちた作品です。お勧め。


■映画 
65 ナミヤ雑貨店の奇蹟/監督 廣木 隆一
66 トイ・ストーリー4/監督 ジョシュ・クーリー

65 近所の住人の悩み相談に答える雑貨店の店主と、その相談主との時空を超えた交流を描く感動作です。「3丁目の夕日」を思わせる高度成長期の活気のある日本のセットや、西田敏行さん出演のヒューマンファンタジーという既視感たっぷりの作品ですが、よくできています。そのウエルメイド過ぎるところが、個人的にはあまり相性がよくありませんでした。どうしても創り手側の「感動させよう」という思惑が見え過ぎて興ざめしてしまいます。素直な心で観れば、シンプルに感動できる作品だと思います。「加賀恭一郎シリーズ」など、東野圭吾さん原作の映画化作品は好きなので、逆に原作小説の方を読んでみたいと思います。

66 予告編で散々煽られていた「予想外の結末」を知りたくて観に行きました。結末自体は納得感のあるものでした。前作「トイ・ストーリー3」が、「少年時代の終わり」をテーマにしたシリーズ最高傑作の素晴らしい内容だったので、続編を創るとなると、特定の子供との密度の濃い関係よりも、こういう、より広い世界で多くのキャラクターと交流する展開になると思います。また、次回以降の作品を創る上での自由度を得たという意味でも戦略的です。ただ、今作は「自立することの苦み」が描かれているので、子どもにはちょっと分かりにくい面があるかもしれません。前作以上に大人向けの作品だと思います。とはいえ、おもちゃのキャラクターは引き続き愛らしく非常に魅力的で、子どもたちの人気も高そうです。ゴミのフォークから作られた新キャラクター、フォーキーのネガティブさや、これまた新キャラクターのダッキーとバニーの邪悪な妄想世界も、個人的にはツボで大笑いしました。キャラクターや小ネタは子ども向け、大きなテーマは大人向けに作られた重層的な作品です。

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アフターデジタル

2019-07-14 10:42:57 | Weblog
■本
62 アフターデジタル/藤井 保文、尾原 和啓
63 資本主義と民主主義の終焉/水野和夫、 山口二郎

62 デジタルをリアルの付加価値的な存在として捉える「ビフォアデジタル」の考え方から、リアル世界がデジタル世界に包含される「アフターデジタル」という現象の捉え方への転換が、デジタルトランスフォーメーションを推進する上では重要、という趣旨の本です。主に中国企業の事例を元に、リアル、デジタルを問わず顧客と高頻度の接点を持ち、そこから取得した膨大なデータを使って顧客体験を改善していくというループを、高速で回すことがこれからのビジネスで成功する上で必要だということが繰り返し説かれています。私が漠然と感じていた、なぜ最近のIT企業が「エクスペリエンス」という言葉を多用しているのかという疑問を、明確にわかりやすく説明してくれていて非常に参考になりました。最近読んだ本で一番です。デジタルとの付き合い方に悩んでいるビジネスパーソンに、お勧めの本です。

63 タイトルはかなり挑発的ですが、内容は、「資本主義の終焉」をテーマにされている経済学者の水野さん、と行政学を専門にされている山口さんが、平成時代を振り返って、日本の経済と政治がどのように変化してきたかについて対談された本です。経済面では、バブルの熱狂と崩壊、その後の新自由主義の高まりと格差の拡大が、政治面では政権交代への期待と失望、その後の安倍長期政権と右傾化が主なテーマとして語られています。経済、政治とも期待の高まりとその反動の失望、そして、そこから脱しきれずに低落傾向に陥ったのが平成時代の日本の状況だと思います。これからの10年の展望とその対策にも触れられており、粗っぽくまとめると「資本主義は終焉しても、民主主義は終わらせてはいけない」というのがその結論なのだと思いますが、資本主義終焉後の具体的な姿が見えてこないので、どうしても不安が高まります。平成時代を振り返り、課題だらけのこれからをどのように生きていくかを個々人が考える上ではいろいろな材料を与えてくれる本です。


■CD
10 aurora arc/BUMP OF CHICKEN

 どこかで耳にしたヒット曲満載の楽しい作品です。前作「Butterflies」が、どちらかと言えば、緊迫感のある重厚な作品だったのに対して、今作は明るく解放感のある楽曲が多い印象です。先輩が後輩に自分の人生経験を伝えるかのような優しさに満ちています。通勤列車で聴いていると励まされた気分になり、一日頑張れます。


■映画 
63 スパイダーマン:ホームカミング/監督 ジョン・ワッツ
64 空気人形/監督 是枝 裕和

63 個人的には、サム・ライミ監督版の内省的なスパイダーマンが大好きだったので、マーベル・シネマティック・ユニバースに参加してからの、幼くて陽気なスパイダーマンは、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」で乱戦に参加していたときから、今一つ共感できませんでした。スパイダーマンがメインの本作でも、その無軌道な未熟さが中盤までは鼻についていましたが、終盤に主人公のピーター・パーカーがある選択をしてからは、一気に面白くなりました。少年が成長する瞬間を描くための、それまでの破天荒さだったのかと思えるほどの展開の巧みさで、一気に好感度が上昇しました。アイアンマンことトニー・スタークが父性に目覚める過程も描かれていて、後のアベンジャーズシリーズの伏線としてもうまく機能しています。壮大な世界観の背景を持つ、シリーズの一部としてのメリットをフルに活用した作品だと思います。舐めてましたけど、人種の多様性にも配慮が行き届いたキャラクター設定も巧みで、よくできています。

64 コミカルさと切なさを併せ持つ、シュールかつ哲学的な業田良家さん原作の漫画が大好きだったので、それを是枝監督がどう料理したのかがずっと楽しみでした。予告編を観た感じでは、ミニシアターっぽい実験的な作品という印象を持っていましたがその通りで、わかりやすさを配した挑戦的な映画です。ドキュメンタリー制作で培った市井の人々を描くリアルさが、是枝監督の魅力の一つだと思いますが、本作は空気人形のファンタジー的存在とそれぞれの孤独を抱える他の登場人物のリアルさが、奇妙な融合を見せて不思議な世界観を醸し出しています。少し登場人物が多すぎてそれぞれの孤独でお腹いっぱいになったので、もう少し空気人形と数人のキャラクターとのやり取りに絞った方がよかったのではと、個人的には思いました。主演のペ・ドゥナさんは文字通り身体を張った熱演です。あと、出演時間は短いですがオダギリジョーさんは抜群の存在感で、改めていい役者さんだと惚れ惚れとしました。
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新聞記者

2019-07-06 10:05:36 | Weblog
■本
59 新聞記者/望月 衣塑子
60 キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇/石田 衣良
61 デジタル資本主義/森 健、日戸 浩之

59 菅官房長官の定例記者会見での厳しい質問で有名になった、東京新聞望月記者の自伝的な本です。下記の通り映画の方の「新聞記者」を観てからこちらを読みました。望月さんが新聞記者になった背景や下積み時代、そして、映画のプロットの元になった、伊藤詩織さんのレイプ告発や森友・加計問題などの取材経緯が書かれています。よく言われる記者クラブの問題点についても触れられていて、言葉は悪いですが、東京新聞というある種ニッチな新聞社に所属されていたからこそ、さほど既得権に縛られず、ここまで政権に真正面から厳しい質問をし続けられたのだということが理解できました。政権寄りの人々からの各種批判に晒されつつも、使命感に基づくバイタリティ溢れる活動に頭が下がります。男性中心の新聞や政治の世界への女性進出の重要性についても考えさせられる本です。

60 引き続き池袋ウエストゲートパーク関連の作品を。こちらは、キングと呼ばれる池袋の若者のリーダータカシと、主人公のマコトの高校生時代のエピソードを中心に、なぜ学校でも知る人ぞ知る存在だったタカシがキングにまで上り詰めたかというお話です。郊外だけでなく、大都会の若者も自分の将来に強い閉塞感を感じているところが少し切ないですが、それでも、したたかに彼らなりの美学に則って暮らしているところに共感します。ストーリーは完全に予定調和ですが、IWGPシリーズファンは押さえておくべき作品です。

61 デジタル化が進む中で、資本主義がどのような状態になっているのか、という論点について、「消費者余剰」(消費者が最大支払ってもよいと考える価格と実際の取引価格との差分-グーグルの検索やソーシャルメディアに代表されるように、無料で提供されているサービスでも消費者がお金を払っても提供を受けたいと思わせるサービスが、デジタル化により増加していることがその背景にあります-)という概念を補助線として解説されています。この「消費者余剰」があるので、GDPや労働生産性という、これまでの経済指標がピンボケを起こしているという主張なのですが、個人的には「消費者余剰」とよりも、デジタルのサービスが国境を越えて提供されているため、その経済的な影響を国単位で測ることができなくなっている、「グローバル化」の方が、経済のピンボケ現象の影響としては大きいと思いました。「交換様式」(平等さと自由度の軸で交換について4つに類型化したもの)や「技術文化」(道具と人間の関係性を類型化したもの)といったフレームワークは参考になりますが、人間の主観世界に重きをおき、「どのような未来を作り出すかは人間次第」という結論は、ややピンボケしている印象を受けました。三部作の第一弾ということなので、続編を待ちたいと思います。


■CD
9 "Let's Rock"/Black Keys

 シンプルで潔いロック作品です。3分に満たない楽曲も多く、アルバム全体でも40分ありません。ギターリフがどにかく格好いいです。キラーチューンはないものの、ライブで聴きたいグルーブ感たっぷりの楽曲が続きます。複雑になる一方の現代の音楽シーンで、このシンプルさは尊重すべき美徳だと思います。多くの若い人に聴いてもらって、ギターを始めてもらいたいです。


■映画 
61 秋日和/監督 小津 安二郎
62 新聞記者/監督 藤井 道人

61 引き続き小津安二郎監督の作品を。これまでの作品では娘側の役をすることが多かった原節子さんが、本作では母親役になっていますが、基本は小津監督が何度も描いてきた、結婚適齢後期の娘を嫁にやる親の話です。娘の親友の現代っ子ぶり(といっても1960年の作品なので、私の親の世代なのですが)や、娘の結婚を心配しつつ物事をややこしくする、死んだ父親の3人の友人など、コメディ色が少し強めな印象です。死んだ父への思いや戦争の爪痕を巧みに織り込みつつ、母親と娘、そして死んだ父親との絆の強さを、しみじみと巧みに描かれています。小津作品全てに共通しますが、このあたりの細やかな感情の交流の描かれ方が本当に見事です。

62 上述した望月記者の本をモチーフにした映画です。望月さんがモデルと思われる女性新聞記者と、出向先の内閣情報調査室で政権に不都合なニュースの火消しに関わるエリート外務官僚が、主人公のサスペンス作品です。主演のシム・ウンギョンさん、松坂桃李さん、そして内閣情報調査室の不気味な上司役の田中哲司さんの緊迫感のある演技と、スリリングなストーリー展開でエンターテイメント作品としても優れています。ただ、ドラマティック過ぎる展開と救いのない結末には賛否が分かれると思います。現実の事象を連想させる問題が随所に盛り込まれた、安倍政権に批判的なメッセージに溢れた作品で、本作品にかかわる全てのスタッフの勇気にまず敬意を表します。言論の自由が保障されているとされているこの国で、本作に関わった人々が今後どのような扱いをされていくかも含めて、日本という国のいろんな面が問われている作品だと思います。
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