本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

コロナ後の世界

2021-11-27 04:29:47 | Weblog
■本
94 コロナ後の世界/内田 樹
95 55歳からの時間管理術/齋藤 孝

94 引き続き内田樹さんの作品を。本作はコロナ後に書かれた文章が中心に収録されています。日本のコロナ対策やアメリカ大統領選挙など、直近のトピックスについての内田さんの考えを知ることができ、参考になりました。個人的には「ポストモダン」という言葉の定義が人によって言うことが違って、学生時代からいまひとつ腹落ちしていなかったのですが、本書に書かれている「われわれの眼に客観的現実として見えている世界は、実は主観的バイアスで歪められた世界像に過ぎないというポストモダンの知見」という説明の納得感が高かったです。さらに、その「自分が見ているものの真正性を懐疑せよ」という知的緊張に長期間耐えられなくなった人々が、自分の見たいものだけを見る「反知性主義者」へと転じた(従って「反知性主義者」は知性を否定している人というよりも、知的緊張に耐えられなくなり自分好みの物語にしがみつく人たち)というアクロバティックなロジックに痺れました。個人的にも、これだけ価値観が激変する時代には、適切な物語の再設定が求められていると思っているので、今後どのような物語が語られるのかに注目していきたいです。

95 55歳にまだなっていませんが、予習も兼ねて読みました。「50歳からの〇〇」という本は多いと思うのですが、「55歳から」というタイトルのものは珍しく、このあたりにも斎藤さんのマーケティングセンスを感じます(そして私はその戦略にまんまとはまったわけです)。書かれている内容は「50歳から」や「60歳から」のものとさほど大差なく、一定の社会とのかかわりを持つこと、自分の好きなことに没頭すること、適度な社交を楽しむこと、などの重要性が強調されています。自分にあったペースで行うことが強調されているのも類書と同じですが、その中で、ある程度自分に負荷をかけ充実感を得ることの大切さが強調されている点は、高学歴の斎藤さんらしいと思いました。また、50過ぎの男性は周囲から煙たい存在であることを自覚して、頑迷になることを避けるよう促す指摘には共感しました。日々機嫌よく過ごすための心身ともの体調管理に励みたいと思います。


■映画
84 土竜の唄 香港狂騒曲/監督 三池 崇史

 「土竜の唄」シリーズの2作目です。今回も主演の生田斗真さんの身体を張った演技が印象的です。冒頭からほぼ全裸でヘリから吊り下げられていて、ツカミもばっちりです。宮藤官九郎さんのスピーディーな脚本と、三池監督のカラッとした暴力表現の相性も抜群で、そこに堤真一さんのアクの強い演技も相まって、狂気とコミカルさとの絶妙なバランスを生み出しています。テンション高めに悪役を演じる瑛太さんも新鮮です。キャラクター説明が不要な2作目ということもあってか、1作目よりも内容が濃く、素晴らしいエンターテイメント作品に仕上がっています。
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嫌われた監督

2021-11-20 07:09:31 | Weblog
■本
93 嫌われた監督/鈴木 忠平

 落合監督時代の中日ドラゴンズを描いたノンフィクションです。特に熱心な野球ファンではありませんが、抜群に面白かったです。特に、日本シリーズで完全試合を続けていた山井投手から岩瀬投手に継投した場面と、その伏線となったとある出来事の描写は圧巻で鳥肌が立ちました。「決断」することとその決断を託された側の責任の重さが痛いほど伝わってきました。その重く孤独な「決断」を日々行う上で、無条件で受け入れてくれる家族の存在(奥様の信子さんの描写も実に魅力的です)が重要であることもよくわかりました。また、当時のチームスポーツでは現代よりもさらに重要視されていただあろう連帯感よりも、個の自立を重んじていながら最終的には、個の自立の果てにチームとしての連帯感の熟成も達成していた、ということを象徴する最終年のリーグ優勝時の描写も圧巻でした。結果的には、野球界の常識にことごとく逆らったことにより、リーグ優勝をしたにもかかわらず、実質解任に近い扱いを受けるわけですが、8年間の監督生活で一度もBクラスに転落することなく、リーグ優勝4回、日本一1回という素晴らしい結果を残したことは素直に評価されるべきだと思います。落合監督後の中日ドラゴンズの低迷を見ると、良くも悪くも落合監督が劇薬であったことがよくわかりますが、個として自立した職業人として生きる上で、参考になること間違いなしです。こういうノンフィクションもので、作者の個人的な話が挿入されることはあまり好きではないのですが、この本ではなぜかその点が全く苦にならず、落合監督という人間を理解する上でとてもよく機能している点にも感心しました。素材とその料理人の双方が優れていて、はじめて生み出される素晴らしい本だと思います。


■映画
82 武士の家計簿/監督 森田 芳光
83 バーニング 劇場版/監督 イ・チャンドン

82 勝手に藩の大胆な財政改革の話かと思っていましたが、タイトル通り、幕末で家計が悪化した武士家族の節約に関するお話でした。歴史教養の新書を元にした映画ということで、エピソードの羅列になっている点が少し気になりましたが、普遍的な家族の愛情を描いた心温まる作品です。主人公の息子が、武芸ではなく簿記技術を認められ出世していく姿と、武士から官僚へと国家運営の主役が変わりつつある幕末から明治初期の流れを連動させて、社会の変化(とその一方で家族愛や忠誠心といった日本人好みの変化しないもの)が巧みに描かれています。森田芳光監督作品にしては、オーソドックスな歴史人情もので、良く言えば安定感抜群、悪く言えば置きにいった印象です。

83 村上春樹さんの短編小説「納屋を焼く」の映画化作品です。NHKで放映された放映時間の短いテレビドラマ版は、映像的には印象的なものの、ストーリー的には正直よくわからない作品でしたが、劇場版は一つの作品として、しっかりと筋の通った興味深い内容でした。名作「パラサイト」と共通する、韓国社会の格差をテーマにしつつ、オフビートながらもサスペンス要素を随所に持ち込み、最後まで観客を飽きさせない構成は見事です。主人公の実家の田園地帯の夕焼けや、それとは対照的に洗練された江南エリアの街並みなど、ドラマ版とも共通する印象的な映像も魅力的です。この作品を観終わってから、原作小説を読みなおしたのですが、実はテレビドラマ版の方が原作に忠実で、劇場版はより、イ・チャンドン監督の作家性が前面に出ていたことが確認できて興味深かったです。原作小説と共通の得体の知れなさを保ちつつも、原作からは感じられない熱い怒りのようなものが感じられ、映画版の方が時代の空気をうまく反映していて、ただ美しいだけの映画にはない毒がいい具合に効いています。
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枕元の本棚

2021-11-13 06:19:23 | Weblog
■本
91 戦後民主主義に僕から一票/内田 樹
92 枕元の本棚/津村 記久子

91 そろそろ内田樹さんの成分が切れてきたので読みました。タイトル通り、「民主主義」と「政治」、「憲法」、「教育」について、近年内田さんが書かれた文章をまとめた本です。内田さんがおっしゃる通り、他人があまり言わないような話をトリッキーなロジックで語ってくれます。ユニークな考えというのはこういうものなのかと、膝を打ちたくなります。自分の考え方の引き出しが増えたような感覚も得られます。それでいて、内田さんもご指摘の通り、とても読みやすいです。いつにも増して、自分の考えに共感してもらえるよう説得しようという姿勢が垣間見られる点が印象的です。それだけ、内田さんが日本の現状の「民主主義」に危機感を抱いてらっしゃるのだと思います。個人的には『現実を変えることを目指さない生き方を「リアリズム」と呼ぶのは言葉の定義として間違っていると思う』という指摘に、反省しきりです。

92 津村記久子さんの書評エッセイ集です。今週は小説を読む気分ではなかったのでこちらを手に取りました。序盤の児童書や生活に関する本の解説はあまりピンとこなかったのですが、後半の社会やスポーツ(特に自転車競技について私があまり知らなかったので興味を持ちました)に関する本の紹介部分は抜群に面白かったです。「大きな傷一つで人間は倒れるけれども、浅いたくさんの傷もいずれ人を病ませる」など、津村さんの小説に出てきそうな、ハッとさせられる表現も続出し、考えさせられる点も多かったです。この中で紹介された本はもちろんのこと、時折固有名詞が挿入される、アーチスト(ロベール・クートラス、広重、エリオット・スミス、ジュディ・シルなど)の絵や楽曲にも触れてみたくなりました。津村さんの小説と同様に、「生きにくさ」を抱える人々への共感と、仕事に対する矜持に満ちた内容です。


■映画
81 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形/監督 藤田 春香

 京都アニメーション制作のテレビアニメの映画化作品です。浪人中の長男が感銘を受けたということで観てみました。既視感たっぷりのストーリーと絵ではあるものの、その圧倒的な技量に魅了されます。あえてベタな演出を採用していることも含めて、まるで、名人による古典落語を聞いているような感覚になりました。細部のこだわりと膨大な熱量が、作品の質を規定することがよくわかります。「喪失と再生」がテーマの作品だと思うのですが、引きこもり長男が感じているであろう喪失感を想像すると胸が痛くなるとともに、そこに希望がある点に安心もしました。
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リバティ・バランスを射った男

2021-11-06 07:39:29 | Weblog
■本
89 麹町中学校の型破り校長 非常識な教え/工藤 勇一
90 正義を振りかざす「極端な人」の正体/山口 真一

89 先週に読んだ鴻上尚史さんとの対談本に感銘を受けたので、引き続き、元麹町中学校長の工藤勇一さんの本を読みました。子どもの成長、学びにとって何が大切か?についての本質を徹底的に考え、実践されてきた姿勢に圧倒されました。「差別をしないとは知識と技能です。心の在り方ではありません」という「心の教育」を部分否定する言葉や、「みんなと合わせるか・合わせないかは自分で決めればいい。全然たいした問題ではないよ」と「協調性」について部分否定する言葉は、私も学生時代にかけてもらいたかったですし、今、組織で仕事をする中でも心に染みました。なにより、「夢はかなうとは限らないけど、夢に向かって走り出した人にしかチャンスはやってこない」という、大人は誰もが感じていてもなかなか声に出せない真実を、中学生に向かって話されている誠実な姿勢には共感しました。「手段と目的を混同しないこと」、「自分と他人との違いを認めること」、「自分を客観視して認識する力を持つこと」など、子育てに参考になることはもちろんのこと、現代社会をサバイブする上で必要な知識・ノウハウが得られるとても良い本です。

90 SNS等で不適切な発言・投稿をした人、不祥事を起こした人に対し、執拗に否定的なコメントを投げかける人や、リアル社会でいわゆるクレーマーと呼ばれる人たちの実態を解説してくれる本です。昨今ニュースなどでも伝えられるようになりましたが、これらの「極端な人」が、よく言われているような経済的にあまり恵まれていない暇な人ではなく、実は比較的年収が高く社会的地位もそこそこある人が、独自の「正義感」にかられて行動していることが多いという実態に、あらためて考えさせられることが多かったです。裏を返せば、この「極端な人」が特殊な人ではなく、自分を客観視できなくなれば誰にでも陥る状況であることを私も反省したいと思います。また、ネットの炎上に対し、テレビを筆頭としたマスメディアが、実は大きな役割を果たしているという指摘も納得感がありました。言論の自由や個人情報保護などとの兼ね合いでネット上の規制を強化することは難しいですし、拙速に取り組むべきではないと私も思いますが、少なくともマスメディアに対しては、安易に炎上に加担するような行為を避けるような仕組みを検討すべきタイミングに来ていると思います。実態解明だけでなく、その対策についても詳細に語られています。特に、言論の自由に与える影響や権力者側の過剰な適用など、法規制のメリット、デメリットについても詳細に考察されているところと、自らが「極端な人」にならないための心構えが書かれている点が参考になりました。ネットのいろいろな問題を指摘しつつも、その可能性に対する希望も感じられます。


■映画
80 リバティ・バランスを射った男/監督 ジョン・フォード

 引き続き、ジョン・フォード監督作品を。内田樹さんもおっしゃっていたような気がしますが、民主主義の成り立ちを実感する上で、とても参考になる作品です。西部開拓時代のアメリカで、先に入植した地主と後から移住してきた人々との対立が激化し、それを暴力ではなく(「暴力」の象徴がリバティ・バランスなわけですが)、様々な犠牲を経て、選挙など法と秩序により解決しようとされてきたことがよくわかります。「法と秩序」という言葉を、トランプ元大統領が自分の都合のよいように使い、それに従う人たちが多数いたことの皮肉や、先日の日本の選挙での投票率の低さについてもいろいろと考えさせられました。それでいて、ベタではありますが、切ないラブストーリーとしても見事に成立していて、これまでに観たジョン・フォード監督作品の中で、最も優れたものの一つだと思います。ジョン・ウェイン演じる粗野だが心優しいカウボーイが、実に渋くいい味を出しています。学びの大切さ、喜びについても訴えかけてきます。メッセージ性とエンターテイメント性を両立させた、味わい深い余韻の残る素晴らしい作品です。民主主義について問われることの多い、今こそ観られるべきだと思います。
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