本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

農家はもっと減っていい

2023-06-25 06:49:45 | Weblog
■本
50 農家はもっと減っていい/久松 達央

 食料価格が高騰しているなか、農業について学んでみたくなり読みました。20代後半で脱サラして縁もゆかりもない農業の世界に飛び込み、自分の納得のいく野菜を直接消費者や飲食店に販売するスタイルで、補助金に頼らない持続可能な農園経営を実現されている方による本です。タイトルは挑発的ですが、著者の久松さんの農業生産者としてのご経験と、客観的事実に基づく優れた論理的思考能力、そして豊富な教養から導き出された文章は面白くかつ納得感が高く、知的好奇心を大いに刺激される内容でした。農業が技術の進化やそのモジュール化により、規模の大きさがものを言う、弱者にとっては差別化しにくい状況にあることがよくわかりました。また、久松さんご自身は有機農業をされていながら、「すべての農産物は安全である」と言い切り、農薬の危険性で消費者の不安を過度に煽ることなく、たださまざまな成約がある有機農業の方がやりがいがあるからやっているだけ、というクールな姿勢にも共感しました。農業を特殊な産業として過度に扱っていないので、起業や差別化戦略、そして人材育成についてのビジネス書としても読め、とても参考になりました。自分の内在的な熱い思いに従いつつも、無謀な戦いに挑むのではなく、客観的に自らが置かれている立場や周辺の状況を分析することの重要性に気づかせてくれるとても良い本です。久松農園の作物を食べてみたくなりました。


■映画
41 水は海に向かって流れる/監督 前田 哲
42 縛り首の木/監督 デルマー・デイヴィス

41 田島列島さんの原作漫画を、広瀬すずさん主演で映画化した作品です。原作が大好きなので観に行きました。広瀬すずさんをいかに美しく撮るかに特化して原作をいろいろと調整しており、睨みつけるような厳しい表情のすずさんが、次第に朗らかな表情に変わって行く様子など、その目的は達成されていると思います。映画全体のクオリティも決して低くはないです。それにもかかわらず、かつ、原作との違いを指摘して映画化作品を評価することはフェアではないとも思いつつですが、この作品に出てくる「ポトラッチ丼」(かなり上等な肉をフツーの玉ねぎと一緒にフツーのめんつゆで煮た料理)のような映画です。実力派俳優を多数揃え、作品としても美味しくいただけるのですが、この素材だともっとよい調理方法があったのでは、という感想を強く持ちました。そういう意味では、同じく田島列島さん原作の映画化作品「子供はわかってあげない」の方が完成度が高いです。原作と同様にコメディ要素をもっと強めつつ、主人公をツンデレではなく、ヤサグレのキャラクターとして描き、母に対する怒りよりも愛情の方を強調した方が、結局は広瀬すずさんにとっても作品全体にとっても得だったのではと思いました。あと、相手の少年役の俳優さんも上手なのですが、一人だけ子役の演技だったので、これだけの技巧派俳優揃いの中で見るとちょっと可愛そうでした。少年が泣くシーンで、一気に作品世界から現実世界へと引き戻されるような、スーッと冷めて引いていくような感覚になってしまいました。全ては原作と出演俳優の事前情報からの期待値が高すぎたことによる辛口評価ですので、平均点以上の作品であることは間違いないです。

42 ゲイリー・クーパー演じる開業医と、ゴールドラッシュに沸く開拓地の人々との関わりを描いた1959年公開の西部劇です。タイトルから受けるおどろおどろしい印象とは異なり、意外と正統派のヒューマンドラマでした。タイトルや冒頭で流れる同名主題歌の伏線回収も巧みです。人間の嫌らしさ、偏屈さをこれでもかと描きつつ、後味が良い点も好ましいです。この作品で描かれている人間のむき出しの欲望をある種清々しく感じるとともに、そこから生じる救いようのない悪意や悲劇から、人間の限界についても考えさせられます。苦味と甘さとのバランスが適度にとれた作品です。



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最高の離婚

2023-06-18 06:11:38 | Weblog
■本
47 PMBOK対応 童話でわかるプロジェクトマネジメント/飯田 剛弘
48 最高の離婚(上)/坂元 裕二 、百瀬 しのぶ
49 最高の離婚(下)/坂元 裕二 、百瀬 しのぶ

47 最近「プロジェクトマネジメント」に関心があるので読みました。「3匹の子ぶた」や「ウサギとカメ」などの童話を題材に、それらから得られるプロジェクトマネジメント上の教訓(スケジュールやタスク、リスクの管理や目標設定の大切さ)を教えてくれます。後半に進むにつれて、取り上げる童話と教訓(精神論が増えてきます)とのこじつけが強引になってきますが、プロジェクトマネジメントの入門書として、わかりやすく工夫されていると思います。つくづく「プロジェクトマネジメント」は、ステークホルダとの「コミュニケーションの技術」なのだと感じました。

48,49 坂元裕二さんがカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞されたので、観ていなかった過去のテレビドラマの脚本を読みました。脚本だと思ったのですが、ノベライズ版の方でした。傑作「カルテット」を思わせるような、男女4人の主要人物の恋愛模様が、ポップで印象的なセリフを通じて描かれています。主人公がネガティブで面倒くさい点が、個人的にはツボで、「飲み会に行くと死にたくなる」などの発言に共感しっぱなしでした。その他のキャラクターも、その欠落や不器用な優しさが愛おしく、ドラマで観ていたら演じる役者さんの好感度がかなり上がっていたと思います。毎回劇的な展開で話が終わるのに、次の回では意外とあっさりと日常生活に戻っている(だが、その微妙なしこりは残り続けている)、緩急のつけ方が絶妙です。確固とした方法論を持っている作家の凄みを感じます。シンプルに面白くて一気に読み終えました。


■映画
39 騙し絵の牙/監督 吉田 大八
40 戦争と平和/監督 キング・ヴィダー

39 市場が縮み続ける出版業界を舞台にした、作家やビジネスパーソンの権謀術数が描かれた作品です。大泉洋さんが、善悪を超越したつかみどころのないキャラクターを、巧みに演じられています。公開時のプロモーションでは、どんでん返しが続く展開が強調されていた記憶がありますが、それよりもクセのある出演者の演技合戦という趣の強い作品です。非道なキャラクターからも可愛げが感じられる点に好感が持てました。「結局仕事は好きなことを楽しんだもの勝ち」、というメッセージが、ドロドロとしたビジネス社会を描きつつも、爽やかな余韻を残してくれます。大傑作!と呼べるほどのインパクトはないですが、安易な企画ものが多い最近の日本映画の中では、安定した面白さを提供してくれる良質な作品だと思います。

40 先週読んだ「危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』」で、この作品が引用されていたので読みました。トルストイの長編作品の映画化作品なので、どうしてもダイジェスト的な展開になるのは避けられないのですが、わかりやすく(わかりやす過ぎる?)描かれていて、この作品のあらすじとエッセンスを知ることができてよかったです。名作と名高い原作だけあって、どのキャラクターも実に魅力的です。恋愛を描いたシーンの淡白さと比べると、戦闘シーンの迫力は抜群で、当時の戦争のかたちを垣間見ることができました。現在のウクライナとロシアの戦争と関連付けて、いろいろと考えさせられる点も多かったです。この作品では攻められる側だったロシアが、この作品で描かれているような歴史的背景が影響しているにしても、攻める側に転じていることを考えると皮肉です。この作品で描かれている信仰や人間の気高さについても、ついついその限界を考えてしまいます。人類が歴史から何を学んだか、を問い続けるような作品です。
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誰が音楽をタダにした?

2023-06-11 07:50:21 | Weblog
■本
45 危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』/ 朝日新聞社 編
46 誰が音楽をタダにした?/スティーヴン ウィット

45 宮﨑駿監督の「風の谷のナウシカ」の映画及び原作漫画について、コロナ禍の状況下も踏まえつつ、学者や作家などの著名人にインタビューした、朝日新聞デジタルの連載をまとめた本です。漫画版は20年以上読み直していませんが、各インタビューで引用される箇所は結構覚えていて、楽しく読めました。土鬼の皇弟ミラルパが「本物の慈悲深い名君」から、やがて「いつまでも愚かなままの土民」たちを憎むようになり、恐怖政治を敷くようになった箇所と、汚染された地球を浄化し人類を存続させる可能性があった「生命を操る技術」が保存されている「シュワの墓所」を、ナウシカが巨神兵に破壊させた箇所を、複数の人が引用し、権力の腐敗や人間の生の意味について考察されていた点が、特に印象に残りました。腐海の「瘴気」と新型コロナウイルスを関連付けて考えるのは、いささか短絡的な気もしますが、行動制限などによる不自由な環境になってはじめて、人生の意味について考える、人間の浅はかさと可能性を「ナウシカ」の原作は暗示していたのかもしれません。いずれにしても、漫画版の完結から30年近く経っても、多くの議論の対象となっている点が、この作品の偉大さを証明しているのだと思います。いろいろ講釈をたれなくてもシンプルに漫画として面白いんですけどね。とはいえ、この本を読んでいろいろな解釈の仕方があるということも学べたので、あらためて漫画版を読み直して味わってみたいと思います。

46 タイトル通り、音楽の違法コピーがどのように普及し、音楽業界や警察がどのようにその流れに対抗したか、について描かれたノンフィクションです。違法コピーにのめり込む側と、それから損害を受けた音楽業界の重鎮の立場だけでなく、違法コピーを支える音声データ圧縮技術(MP3)の開発者側も加えた、3つの視点から語られている構成がユニークで、このテーマを立体的にとらえることに成功しています。高度なマーケティングに支えられた音楽業界(資本主義)側の思惑を、承認欲求に支えられた違法コピーコミュニティー(ある種の原始的な交換経済)側が軽々と超えていく点が痛快ですらあります。ただ、音楽業界側もただ指を加えて負け続けているわけではなく、試行錯誤しつつ、時に最新テクノロジーを取り込みながら、したたかに生き延びていこうとしていく姿も興味深かったです。加えて、純粋な技術の向上を目的としていた研究者が、それだけでは研究に必要な資金を集められないことに気づき、標準化に向けた政治力や、いくつかの偶然に翻弄されつつもマーケティング的な視点を身に着けていく流れも、実ビジネスに役立ついろいろな知見が得られました。違法コピーされたアーチスト作品それぞれに対する、筆者の毒の効いたコメントも音楽ファンとしては楽しめました。この違法コピーが活発であった期間と、過去のアーチストの音源のサンプリングをベースとしたラップという音楽の全盛期が重なっている点も、皮肉な示唆を与えてくれている気がします。違法コピーの大きな流れのベースに、一般市民のささやかな欲望が強く絡んでいたという点も、世の中の仕組みをわかりやすく示してくれていると思います。各登場人物のキャラクターも立っていて、抜群に面白い読み物です。


■映画
38 友だちのうちはどこ?/監督 アッバス・キアロスタミ

 イランの巨匠アッバス・キアロスタミ監督による1987年の作品です。次に忘れると退学だと先生から注意を受けていた友だちの宿題ノートを、間違えて持って帰ってきた小学校低学年の少年が、それを返すために友だちの家を探し回るというお話です。少年の健気な表情と、彼に非協力的な周囲の大人との対比を、ハラハラしながら観ていました。小津安二郎監督の影響を受けているとよく言われますが、確かに固定カメラによる登場人物の表情をとらえるショットも印象的ですが、それ以上に少年が必死に(かつどこかコミカルに)駆け回る動的なシーンの方が特徴的だと思いました。大人になると些細なことでも、子ども時代はとても深刻に受け止めていたことを思い出しました。宗教や文化の違いがあっても、人間に普遍的な感情のようなものが伝わってきて、なんとも言えない豊かな気持ちになりました。個人的には唯一少年に協力的ですが、一方的に自分の職業観を話し続けるだけで、さほど少年の助けにならない老人のキャラクターが好きです。その老人からのささやかなプレゼントを、さりげなく映し出すエンディングも心憎いです。ハリウッドやヨーロッパの映画にはない、地に足の着いた生活に根差した魅力が溢れる素敵な作品です。

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遠きにありて

2023-06-04 06:45:09 | Weblog
■本
42 遠きにありて/西川 美和
43 世界の「頭のいい人」がやっていることを1冊にまとめてみた/中野 信子
44 マンガでわかる 休職サバイバル術/加藤 高裕

42 私が大好きな「ゆれる」などの作品を創られた映画監督である、西川美和さんによるスポーツを題材にしたエッセイ集です。2015~2018年に書かれたものが収録されていて、広島のご出身ということもあり、2016~18年に3連覇した広島カープに関するものが多いです。黒田選手や新井選手のストーリー性のある、当時のカープの快進撃を懐かしく振り返りました。バレーボール部でずっと控えに甘んじていたことや、体育会的体質が残る映画業界で働かれてきた西川さんご自身のスポーツに対する愛憎入り混じる思いと、実際のアスリートの光と影の描写が絶妙に合わさって、どのエッセイもささやかな「人生の秘密」のようなものを感じさせてくれて、素敵な読書体験でした。プロアスリートも映画監督も、私のような普通のビジネスパーソンからすると、とても煌びやかな一方で想像を絶するプレッシャーにさらされ努力をされているのだと思いますが、それでも同じ職業人として共通する悩みや喜びがある点が、救いにも感じました。伊達公子さんが二度目の引退をされるまで自分で用具等を運ばれていた、というエピソードを題材にしたエッセイの最後に書かれた「ちゃんと自分で生きている人を私たちは見た」という一節が特に印象に残りました。

43 人を煙に巻くために「脳科学」や「量子力学」を用いる知識人が、最近多いような気が個人的にしておりまして、「敵の手口」を学ぶという意味も兼ねて読みました。タイトルから、ノーベル賞等をとった過去の偉人のエピソードを元にした本だと読む前は勝手に思っていましたが、実際は著者の中野信子さんが、東大、フランスの研究所やMENSA(世界の全人口で上位2%の知能指数に入る人のみが入会を許される団体、だそうです。ディストピアの匂いが少ししますね 笑)で、出会った人々のエピソードから、その行動の特徴を抽出した内容となっています。書かれていることは、多くの自己啓発本とほぼ同じで、「空気は読まない」とか、「嫌いな仕事は他人に振る」といった、それこそ「頭の悪い人」でも実行可能ですが、実際に本質を理解せずにやってみるとしっぺ返しを食らいそうな、シンプルで人によっては有益なアドバイスが満載です。冒頭で述べられている「逆境も味方にして、したたかに生き抜いていく」というメッセージのみは共感できるものでした。こういう知識人のわかりやすいメッセージを丸ごと受け止めるのではなく、自分に都合のよいところだけしたたかにつまみ食いして、日々を生き抜いていくために参考にしていくことが大事なのだということを学びました。皮肉な表現になりましたが、時代のニーズを読み取り、ベストセラーを連発されている中野さんの嗅覚は、ビジネスパーソンとしてはやはり見習うべきだと思います。

44 身近に休職をする人が最近増えてきたので、アドバイスをする際の役に立てばと思い読みました。メンタル不調の原因から、主治医と産業医の違いや休職・復職に至る制度やステップに至るまで、コンパクトにわかりやすくまとめられていて、とても実用的です。休職する当事者としても、その方を支える周囲の人にとっても、参考になる本だと思います。休職、復職を円滑に進めることが、社員にとっては個人のキャリア形成上重要であるというだけでなく、会社側の人的資源管理の側面からも有益であるという点が強調されている点もユニークだと感じました。タイトルに「マンガでわかる」とありますが、解説が充実していて結構読み応えがあります。この本の内容を基礎知識として持っておけば、メンタルダウンした際の選択肢が増えて有益だと思います。


■CD
2 ひみつスタジオ/スピッツ

 本作はタイアップ曲にキャッチーなキラーチューン(「美しい鰭」のサビはついつい口ずさんでしまいます)が多く、その一方で、実験的な楽曲(「未来未来」の民謡調の声がインパクトがあります)もあってアルバム全体のバランスもよく、かつ、メンバー全員でボーカルを取る曲(「オバケのロックバンド」)に象徴されるようにバンドとしての関係性の良さも感じられ、近年で最も充実した印象の作品です。野心をあまり見せないバンドが、久しぶりに本気を出した快作です。売れて欲しいです。


■映画
37 キネマの神様/監督 山田 洋次

 志村けんさんが主演予定でしたが、新型コロナウイルスの感染、死亡により沢田研二さんが代役となったことでも話題になった作品です。その他にも、RADWIMPSの野田洋次郎さんが出演されていて、菅田将暉さんと主題歌を共演されているなど、とにかく話題が豊富だったのでいつか観たいと思っていました。山田洋次監督作品らしく、人間愛に溢れたやさしい作品でした。永野芽郁さん、北川景子さんは実に魅力的ですし、リリー・フランキーさん、宮本信子さん、寺島しのぶさんの演技は存在感抜群です。とにかく出演者が豪華で、観ていて楽しいです。一方で、ストーリーの方は、私が親の借金に悩まされた過去を持つこともあってか、主人公の無責任さにあまり共感できませんでした。妻や娘に対する感謝の念は、さすが山田監督だけあって巧みに表現されていて、それはそれで感動的ではあるのですが、エンディングも含めて、他人に迷惑をかけ続ける姿は、好きにはなれませんでした。主人公に共感できるかどうかで、映画の評価が決まるわけではないですが、主人公の行動をツッコミ出すと、その他の細かなリアリティのなさも気になってしまいました。小津安二郎さんの作品などへの敬意は強く感じましたが、映画愛の描き方はもう少し工夫の余地があったのではと、最近観たデイミアン・チャゼル監督の「バビロン」と比較すると少し思いました。それでも、山田洋次監督の匠の技でトータルでは良い映画を観たという満足感が得られました。ウディ・アレン監督の「カイロの紫のバラ」を久しぶりに観たくなりました。
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