本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

共喰い

2014-11-30 07:58:48 | Weblog
■本
105 共喰い/田中 慎弥
106 無気力なのにはワケがある/大芦 治

105 芥川賞の挑発的なインタビューと引きこもりという経歴、そして女性に暴力を振るう性癖の遺伝といった表題作のモチーフが印象的で、西村賢太さんのような癖の強い私小説的なものかと読む前に勝手に思っていましたが、予想に反して極めてオーソドックスな完成度の高いフィクションなので少し驚きました。巻末の対談で瀬戸内寂聴さんが言われている通り、女性の描き方が(ある種男性に都合のよいように描かれている危険性はあるものの)とても魅力的で、男性の登場人物がひ弱い印象が残る反面、どの女性も一本筋の通った強さを感じます。表題作の他にもう一つ収録されている「第三紀層の魚」という小説も少年の心理描写がとても丁寧に描かれた秀作で、その母親や祖母の腹の据わり方と人生に対する真摯な立ち向かい方が格好いいです。

106 さまざまな心理学実験の詳細な記述が最初若干とっつきにくいですが、それに慣れてくると、「学習性無力感」(平たく言うと経験から「やっても無駄」ということを学ぶこと)など、無気力につながる心理的な構造が理解できて、結構いろんな気づきが得られます。個人的には「幼少期に自分でコントロールできたという経験」があれば学習的無力感になりにくい、という仮説が印象的で、子どもを育てる上では、いきなり競争の厳しい環境に置くよりは、コントロール可能な領域が多い環境に最初は置いておき、段階を踏んで難解な課題や競争環境へとステップアップしていくのがよいと思いました。また、「学習目標」(自分の知識を増やすことそのものを目標にすること)と「遂行目標」(学習に伴う成果や社会的な評価を目標とすること)の違いを言語化して説明して下さったことも有益で、「遂行目標」への過度の偏りが「うつ病」や「ストレス過多」の原因の一つであるということが自分なりに整理できました。結局は「学習目標」と「遂行目標」のバランスが大事で、結果を求めることは大切であるものの、運悪く結果がでなくても学習目標の達成度合いをある程度評価できる仕組みは、会社の評価システムの中にも必要だと思いました。


■CD
60 Every Good Boy Deserves Favour/Moody Blues

 1960年代中盤から活躍する歴史の長いプログレッシブ・ロック・バンドということでバンド名だけはよく知っていたのですが、実際には「Your Wildest Dreams」とか「Nights in White Satin」といったシングルヒット曲しか聴いたことがなかったので、今回ジャケットが印象的で代表作の一つとしての評判の高い本作を聴きました。少年の顔が印象的なジャケットの印象そのままに、ベッドにいる子どもを寝かしつけるかのような非常にやさしい楽曲が続きます。技巧に富んだ演奏はもちろんのこと、バックコーラスとのハーモニーがすばらしく、プログレにありがちなリスナーに緊張を強いることもなく、リラックスとした穏やかな気分で楽曲を楽しめる作品です。


■映画
79 あなたへ/監督 降旗 康男
80 庭から昇ったロケット雲/監督 マイケル・ポーリッシュ

79 高倉健さんの追悼番組として放送されていたので観ました。高倉健さんの抑えた感じの演技がとてもよくじわっときます。個人的にロード・ムービーが大好きなので、死んだ妻の残した謎を軸に、(若干ご都合主義ではあるものの)偶然の出会いで細かいストーリーが展開していく構成が楽しめました。ビートだけしさんや草剛さんとの共演も新鮮で、それぞれの持ち味を活かしつつも抑制の効いた演出でとても上品です。このお二人と異なり、佐藤浩市さんのようなビッグネームが終盤までほとんど見せ場がないことが不自然で、最後のオチがかなり早めに読めたのが少し残念でしたが、経験のある監督やスタッフさんなのでそれも織り込み済みだったのだと思います。高倉健さんは決してわかりやすい演技をしているわけでもないのに、その魅力や凄みが十分に伝わってきて役者の持つ存在感の大きさを感じさせる映画になっています。ご冥福をお祈り申し上げます。

80 宇宙飛行士になる夢をあきらめきれず、家族と一緒に自分でロケットを作って宇宙に飛び出す、というスケールの大きな夢をあきらめない主人公を描いた、アメリカ人好みの作品です。このあらすじと数年前に映画館で観た予告編のロケット発射シーンが印象に残っていて観たのですが、子ども達に学校を休ませたり、借りたお金(当然生活費などではなくロケットの制作費)の返済を迫る銀行に逆切れして石を投げつけてガラスを割ったり、借金の担保に差し押さえられて家の立ち退き期限までにロケットを飛ばしたいと無茶をして大怪我したり、夢の実現に向けての変質狂的な主人公の姿に、個人的には正直引いてしまって途中から主人公に全く共感が持てなくなりました。打ち上げ失敗後の再チャレンジまでの期間も異常に短いですし、現実感はなく、かといってファンタジックな描き方にも乏しく、中途半端な感じで残念でした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

悪と仮面のルール

2014-11-23 07:54:12 | Weblog
■本
103 静かなリーダーシップ/ジョセフ・L. バダラッコ
104 悪と仮面のルール/中村 文則

103 自らのリスクを省みず大胆な決断と行動を取る「ヒーロー型のリーダー像」とは違い、忍耐強く慎重に行動し、自身も含め周囲のリスクをできるだけ軽減しつつ、複雑に利害関係がからみあった問題を解決(時には解決自体を先送りしつつ自体の好転を見守る)タイプの「静かなリーダーシップ」について語られた本です。「ヒーロー型のリーダー」はハイリスク・ハイリターン型の行動様式なので、成功を収めた際には多大な賞賛を受け人々の印象に残りがちですが、その反面失敗に終わり多大なダメージを負い、人知れず去っていった元リーダーも多数存在するという当たり前の事実に気づかされます。結局好みの問題なのかもしれませんが、企業や社会の持続可能性を追求する上では、わかりやすいヒーロー型よりも、わかりにくくあいまいでかつほとんど賞賛されることのない、この種の「静かなリーダーシップ」が重要なのだと思います。日本人には親しみやすい考え方だと思いますので、アメリカ主導のグローバリズムに抵抗のある人にもお勧めの本です。

104 設定としては若干リアリティに欠けるのですが、中村さんの圧倒的な文章力でぐいぐい引き込まれ一気に読んでしまいました。人間の暗部を追求し続けた結果底を打って反転急上昇したような、終盤の生に対する肯定感が感動的です。どの登場人物も一筋縄ではいかず魅力的で、予想を微妙に裏切るストーリー展開と相まって、筆者のこれまでの作品では最もエンターテイメント性の高い作品です。恋愛小説として見るとかなりベタな純愛ものですが、これまでこの作者の作品を読んできた者としては、新しい側面が見られて興味深かったです。「殺人はなぜいけないのか」というテーマを一貫して考え続けた作者だからこそ到達しえる、あいまいなものを受け止めつつも一つの暫定解を提示している、勇気に満ちた作品だと思います。


■CD
59 Solo Hits/New Edition

 ボビー・ブラウン、ベル・ビヴ・デヴォー、ラルフ・トレスヴァントといったニュー・エディションのメンバーのソロ作品を集めた作品です。ボビー・ブラウンの大ヒット曲「 Every Little Step」(この曲大好きです)、「 My Prerogative」やベル・ビヴ・デヴォーの「Poison」が一緒に聴けてお得です。素直にいい曲ばかりで楽しいです。


■映画
78 ブラッド・ダイヤモンド/監督 エドワード・ズウィック

 シエラレオネの内戦下でのダイヤモンドの不正取引を描いた社会派作品。善悪をはっきり分けずに、ダイヤモンドの利権にかかわるさまざまな人々の打算や愚行を冷静に描いていて好感が持てます。大迫力の戦闘シーンや壮大な自然など映像としても楽しめます。主演のレオナルド・ディカプリオは陰影のあるキャラクターを好演していて、終盤の見せ場も抜群の演技を見せてくれます。ジェニファー・コネリー演じる美人記者とのロマンスは不要な気がしましたが、監督の硬派なテーマにバランスよくエンターテイメント要素を融合させる手腕は見事だと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安全な妄想

2014-11-15 10:22:28 | Weblog
■本
100 安全な妄想/長嶋 有
101 メリットの法則 行動分析学・実践編/奥田 健次
102 世界の果て/中村 文則

100 長嶋有さんのエッセイ集です。相変わらずのトリビアルな視点満載です。出版社からの贈り物を口に合わないから送り返す話や餃子パーティーやサイン会が嫌いな話など、普段はゆるい感じの長嶋さんが、自分のこだわりに合わないものに対しては、思わぬ行動力や強い意志を示していて笑えます。ジャパネットの放送に対する詳細な考察はこの本のハイライトで、僕はネットで出演者を画像検索しながら楽しみました。東日本大震災をテーマにした短い文章など、さりげない中に独特の優しさとセンスが垣間見られて、小説家が物事を切り取る引き出しの多さに感心させられます。

101 いろんな問題行動を心の問題ではなく外部のインセンティブの問題として考える、行動分析学のエッセンスがとてもシンプルに理解できます。問題行動の背景はその行動をすることにより、「メリットがあるから」もしくは「デメリットが減るから」、逆にある望ましい行動をしないのは、「メリットが減るから」もしくは「デメリットが増えるから」という視点で分析し、それぞれのメリット、デメリットの出現(消失)を逆にすることにより、行動を変えていこうという理論とその実践例が書かれています。人間をメリット、デメリットのみで反応する反射的な存在ととらえている面もあり、人間は複雑な存在と考える心理学などからの抵抗は大きそうですが、使い方によっては効果を発揮するような気がします。ただ、この考え方を万能なものとしてとらえるのではなく、一手法としてケースバイケースで用いるのがよいという印象を受けました。

102 中村文則さんの短編集。いつもどおり、生や悪をテーマにしたテンション高く内的葛藤を描く作品が続きますが、珍しく、ナンセンスなユーモアが含まれている作品も収録されています。その試みは必ずしも成功しているとは言えないですが、この作品のあと「掏摸」や「悪と仮面のルール」といった文学性とエンターテイメント性が同居した、筆者独自のジャンルを切り開く作品を続々と生み出していることを考えると、以後の飛躍に備えた実験作的位置づけの作品と考えてもよいと思います。


■CD
57 25/電気グルーヴ
58 日出処/椎名 林檎

57 電気グルーヴの25周年ミニアルバムです。子どもと一緒に聴けないキワドクも馬鹿馬鹿しい歌詞がテクノの心地よいビートに乗って展開されます。円熟とは無縁のパチモン感がたまりません。特に新機軸はないですが、続けることの大切さ、強さを感じます。ミニアルバムだと少し物足りないので、次はフルアルバムを聴きたいです。

58 スタイリッシュな作品や猥雑な作品が入り混じりごった煮的な印象ですが、エンディングのキラーチューン「NIPPON」、「ありあまる富」へと盛り上げていく構成が素晴らしいです。和の歌謡曲的テイストと洋楽的なロック要素も絶妙なバランスで、いろんな意味でハイブリッドなサウンドが楽しめます。


■映画
76 エクスペンダブルズ2/監督 サイモン・ウェスト
77 STAND BY ME ドラえもん/監督 八木 竜一、山崎 貴

76 ストーリーはあまり考えずに各キャラをいかに立てて、アクションシーンを格好良く、爆破シーンを大迫力に描くことに特化した割り切りが心地よいです。もうちょっとヒロインが魅力的ならよかったのですが、ここまで大スターを集めたら予算がそこまで回らなかったんでしょうね。シルヴェスター・スタローン、ブルース・ウィリス、アーノルド・シュワルツェネッガーの3人が並ぶラストシーンを見るだけでも価値があります。チャック・ノリス演じるベテラン傭兵もいい味を出していました。

77 泣かせようと言うあざとさは随所に感じますし、しずかちゃんも男性観客に媚び過ぎな気がしますが、原作のよいところに独自のアレンジを加えつつ、CGや3Dの特徴も効果的に用い、非常に計算された作品だと思います。「三丁目の夕日」のスタッフが参加しているだけあって、バブル前の1970年代(だと思います)の町並みがとてもノスタルジックに描かれているところも、制作側の思惑に乗りたくないと思いつつも、その時期に子ども時代を過ごした人間としてはジーンときてしまいます。未来のシーンで「パナソニック」や「TOYOTA」の看板がやたらと出ていることも含め、商業主義が見え隠れしつつも、それを上回る企画力、演出力で力ずくで感動させられる作品です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ニンフォマニアック Vol.2

2014-11-08 08:22:44 | Weblog
■本
96 音楽配信はどこへ向かう?/小野島 大
97 クラウドからAIへ/小林 雅一
98 すべてがうまくいく8割行動術/米山 公啓
99 悪意の手記/中村 文則

96 「ミュージックマガジン」での連載内容を時系列で収録されているので、国内外の音楽配信ビジネスの進化(そして日本国内の停滞状況)について順序立てて理解することができます。Nine inch nailsやMercury Revといったなじみのアーチストが無料配信していたことやnyctaperというサイトでWilcoなどの大好きなアーチストがライブを無料配信していることが知れて有益でした。音楽業界に対する提言も実に的を射ていて共感しました。

97 小林さんの本は丁寧な取材に基づいたファクトが積み重ねられていてとても参考になります。難解になりがちな技術的用語をわかりやすく解説してくれているところも非常によいです。本作は、AI(artificial intelligence 人工知能)発展の紆余曲折にふれながら、アップル、グーグル、フェイスブックなどのプラットフォーマーがなぜ、クラウドやビッグデータに力を入れているのかの背景を説明してくれます。自動翻訳や自動運転など現在実用化されつつあるAI技術は統計的処理をベースにしていおり、その精度を高めるには分析対象のデータがあればあるほどよい、ということでその分析材料としてのデータを押さえるために、各社がフロントエンド(スマホのファーストチョイスのアプリやデフォルトのブラウザなど)を争い合っている背景がよくわかります。

98 仕事や自分の欲望の実現など、あらゆることを頑張り過ぎず8割くらいで満足するようにすればうまくいくという趣旨の本です。脳科学の視点から8割行動術の正当性を主張しているところは、素人目にも少し強引に感じますが、頑張ることに価値を置きすぎるあまり、息苦しくなりがちな現代社会において、オルタナティブな視点を与えてくれるという意味ではよい本だと思います。現在は作家として成功をおさめている筆者自らが、大学病院勤務時代に窓際に置かれた経験も書かれているので、一度や二度の挫折でも考え方次第では道は開ける、という勇気がもらえます。

99 善悪という二元論になりがちなテーマに対し、あえてあいまいな領域を描くことに挑戦した意欲作だと思いました。生に対する憎悪を感じ人を殺してしまった人間のその殺意や殺したと言う事実を受け入れていく論理、(他人の目から見たら極めて卑劣で自分勝手な論理ですが)を丁寧に描くことにより、逆説的に、命の大切さや殺人と言う罪の重さを描くことに成功していると思います。その罪からの再生の可能性についても描かれていて、極めて暗い作品ですが、かすかな希望も感じられ不思議と読後感は悪くないです。


■CD
54 魅力がすごいよ/ゲスの極み乙女。
55 So many tears/So many tears
56 Age Ain't Nothing But a Number/Aaliyah

54 ちょっと商業的過ぎると思うほど、とにかくキャッチーなメロディーに引き込まれます。あからさまなあざとささを力技で魅力的にしているところがこのバンドの才能だと思います。最近の新しいバンドでは最も印象に残っていて、アルバムを通して聴きたいと思い購入しました。1曲のなかにアイデアを出し惜しみせず、ふんだんに盛り込んでいるところが太っ腹です。

55 元FISHMANSと東京スカパラダイスオーケストラのメンバーによるバンドと言うことで期待していたのですが、FISHMANSとは全く別物の英語歌詞によるスタイリッシュなロックを奏でるバンドです。メンバー自身が楽しんでいるようなリラックスした雰囲気が好ましいですが、なんかアマチュアっぽいです。

56 典型的な早世の天才アーリヤのデビュー作。とにかくクールでスタイリッシュです。発表当時15歳にもかかわらず、幼さを武器にせず、大人の作品として真っ向勝負しているところが素晴らしいです。メアリー・J・ブライジのような鬼気迫る迫力はないものの、逆にしなやかさを武器に一つのヒップホップ・ソウルの完成形を示しています。「年齢なんてただの数字」というタイトルは、ロックやパンクのアルバムも含めて、最も尖がった格好いいものの一つだと思います。


■映画
72 半落ち/監督 佐々部清
73 GODZILLA/監督 ギャレス・エドワーズ
74 ニンフォマニアック Vol.2/監督 ラース・フォン・トリアー
75 カンパニー・メン/監督 ジョン・ウェルズ

72 各登場人物の心情が丁寧に描かれていて引き込まれました。主人公の心情が最大の謎なので仕方がないのですが、脇役を丁寧に描いている反面、主人公の存在感が気迫で、過去敏腕刑事だった面影もさほど感じられませんでした。原作は直木賞選考会で「落ちに欠陥がある」ということが問題になったそうですが、個人的には全く気になりませんでした。認知症、骨髄移植、警察の官僚化、新聞記者のスクープ主義など、紋切り型な各種問題をテーマにしつつも、ありきたりな結末となっていないところが原作の凄さだと思います。映画の方も演出が情緒的過ぎる面がありますが、実力派の俳優を配して手堅く仕上げていると思います。

73 ストーリーはご都合主義的ですし(主人公とその妻子は絶対死なないということが見え見えでした)、ゴジラの造形や行動原理に対する不満はありますが、潤沢な予算を元に怪獣に大都市が壊滅的被害を受ける様子を大迫力な映像と音声で描かれると思わず画面に引き込まれ、爽快感すら感じてしまいました。ヒューマンドラマはあくまでサイドストーリー的にして、ゴジラを主役として描いている点も好感が持てました。欠点は多々ありますが、単なるパニック映画として描いたローランド・エメリッヒ監督版と比べると元ネタへ敬意を感じ、ギリギリのところで怪獣映画ファンにも満足のいく作品となっていると思います。

74 Vol.2もあっという間に時間が過ぎ去りとても楽しく観ました。予想通りVol.1から性的描写はよりドロドロとしたものになり、複数人プレイ、放置プレイ、SM、同性愛、とマニアックな性的描写のフルコースです。「サイレント・ダック」のベタなギャクは、これまでのラース・フォン・トリアー作品にはないド直球のギャグで笑えました。落ちは読めましたが、この作品の唯一の救いのシーンをあえてぶち壊すこの監督の悪意にしびれました。間違いなく傑作です。

75 私自身構造変化にさらされる業界で仕事をしているので、突然リストラされる人々を描いたこの作品に身につまされました。大好きなベン・アフレックが、粗野で自信家なリストラ社員を好演していますし、ケビン・コスナーもいつものナルシスティックな演技を控えめに、皮肉で心優しい義兄を好演しています。何より、異星人や逃亡者を追いかけていない、トミー・リー・ジョーンズのまともな演技(私財を投げ打って、リストラ社員とともに新会社を設立する元副社長を好演しています)を観られたのがうれしかったです。非情なリストラを宣告する利己的な社長をあえて破滅させないところが、かえってリーマンショック後の金融機関のエクゼクティブを批判しているようで、その淡々としたエンディングに好感が持てました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする