■本
9 アーモンド/ソン・ウォンピョン
10 いま生きる階級論/佐藤 優
9 2020年の本屋大賞翻訳小説部門で1位に選ばれるなど、書評等の評判も良い作品なので読みました。生まれつき怒りや恐怖などの感情を感じることのできない少年と、その家族や友人との波乱に満ちた心の交流が描かれた作品です。若干ウエルメイド過ぎるかなという気がしなくもないですが、偏見を排して他人と付き合うことの難しさと大切さを教えてくれる感動的な作品です。主人公の友人「ゴニ」の境遇など、あまりにも悲惨な出来事が主人公の周囲に起こり過ぎるので、一種のファンタジーとして読んだ方がよいのかもしれません。日本と同様に韓国社会(そして学校生活)の閉塞感が痛いほど伝わってきます。私は小説を読んでもその情景が自然に頭に浮かぶタイプではないのですが、作者のソン・ウォンピョンさんが映画に関する仕事をされていることもあってか、この作品は簡単に映像化してイメージすることができました。ほぼ間違いなく映画化されると思いますが、その際にはそちらも観てみたいと思います。
10 引き続き「資本論」に関する本を。佐藤優さんの解説や雑談は抜群に面白いのですが、引用される宇野弘蔵さんの「経済学方法論」の文章が難解で途中で挫折していました。先週「武器としての『資本論』」を読んだ勢いに乗って読了しました。先週読んだ白井さん以上に、「資本主義」が偶然生まれたものであり、従って変革が可能である(しかし人類はまだその具体的な方法を見つけていない)ということが強調されています。具体的な解決策はないまでも、そこに内在する論理を把握することにより、したたかにサバイブしていこうという視点も全体に貫かれています。逆に言うと、最近「資本論」に対する注目が高まっているのは、「資本主義」がいよいよ我々の生存を脅かすほどの限界にきているのだと思います(先日読んだ山口周さんの「ビジネスの未来」という本の中でも「資本主義をハックする」という表現が繰り返されていました)。佐藤優さんは「急ぎながら待つ」(今の世の中はひどい状況で早急に変革が必要だが、その制度の中からは変わらないので、労働者を商品化する資本主義がエンクロージャーから偶然発展したように、偶然による外からのきっかけを待たないといけない、という趣旨だと私は理解しました)という態度を強調されていますが、その外からのきっかけが今回のコロナ禍なのかもしれません。そういった点も「資本主義」や「民主主義」に対する議論が活発化している理由だと思います。あと、トマ・ピケティに対して批判的な点も印象的でした(ピケティの処方箋は国家の権限の強化による富の再分配の促進だが、企業のグローバル展開の進展により国家の力の及ぶ範囲は限定的だし、それに対抗し得る権力を国家が握るとファシズムに繋がりかねない、というのが批判の趣旨だ私は理解しました)。ピケティの「21世紀の資本」も途中で挫折しているので、いつか再挑戦しようと思います。
■映画
8 追憶/監督 シドニー・ポラック
9 スパイダーマン: スパイダーバース/監督 ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
8 バーブラ・ストライサンドとロバート・レッドフォードが主演の大人のラブ・ストーリーです。主題歌「The Way We Were 」(1973年のアカデミー主題歌賞を獲得し、ビルボード誌の1974年シングル年間ランキング第1位の名曲です)の長いプロモーション・ビデオのような印象の作品です。「好きだけど別れてしまう」男女が切なくも後味よく描かれています。当時30歳を過ぎていたお二人が、大学生時代も演じているのはさすがに無理がありますが、力業でねじ伏せてきます。ロバート・レッドフォードは良くも悪くも、毒にも薬にもならない美青年を好感度たっぷりに演じているので、バーブラ・ストライサンド演じる、若干戦闘的な社会活動家に共感できるかどうかが、この作品の評価の分かれ目になると思います。身も蓋もない意見になりますが、バーブラ・ストライサンドの濃い見た目とこのキャラクターは、個人的には少し胃もたれがしました。その胃もたれを和らげている主題歌が見事だとも言えます。
9 実写化シリーズ作も多いスパイダーマンをあえて長編アニメーション映画にし、なおかつ高い評価も獲得しているので、以前から気になっていた作品でした。手書き風文字を活用したコミック的な表現など、アニメでしかできない演出を随所に盛り込んだ野心的な作品で、安易な便乗企画ではなく意図を持って制作されたことが伝わってきて好感が持てます。ヒップホップ文化やアメリカ都市部の現代高校生の生活が、リアルに描かれている点も興味深いです(どの国もスクールカーストの中で生活するのは大変です)。あえて雑に扱われているものもありますが、異次元からきたキャラクターはどれも特徴的で、メタ的な表現が今っぽいです。スパイダーマン特有の、糸を使って空中を自由に移動する爽快感も抜群です。少年の成長譚としても秀逸で、家族で安心して楽しめる作品だと思います。
9 アーモンド/ソン・ウォンピョン
10 いま生きる階級論/佐藤 優
9 2020年の本屋大賞翻訳小説部門で1位に選ばれるなど、書評等の評判も良い作品なので読みました。生まれつき怒りや恐怖などの感情を感じることのできない少年と、その家族や友人との波乱に満ちた心の交流が描かれた作品です。若干ウエルメイド過ぎるかなという気がしなくもないですが、偏見を排して他人と付き合うことの難しさと大切さを教えてくれる感動的な作品です。主人公の友人「ゴニ」の境遇など、あまりにも悲惨な出来事が主人公の周囲に起こり過ぎるので、一種のファンタジーとして読んだ方がよいのかもしれません。日本と同様に韓国社会(そして学校生活)の閉塞感が痛いほど伝わってきます。私は小説を読んでもその情景が自然に頭に浮かぶタイプではないのですが、作者のソン・ウォンピョンさんが映画に関する仕事をされていることもあってか、この作品は簡単に映像化してイメージすることができました。ほぼ間違いなく映画化されると思いますが、その際にはそちらも観てみたいと思います。
10 引き続き「資本論」に関する本を。佐藤優さんの解説や雑談は抜群に面白いのですが、引用される宇野弘蔵さんの「経済学方法論」の文章が難解で途中で挫折していました。先週「武器としての『資本論』」を読んだ勢いに乗って読了しました。先週読んだ白井さん以上に、「資本主義」が偶然生まれたものであり、従って変革が可能である(しかし人類はまだその具体的な方法を見つけていない)ということが強調されています。具体的な解決策はないまでも、そこに内在する論理を把握することにより、したたかにサバイブしていこうという視点も全体に貫かれています。逆に言うと、最近「資本論」に対する注目が高まっているのは、「資本主義」がいよいよ我々の生存を脅かすほどの限界にきているのだと思います(先日読んだ山口周さんの「ビジネスの未来」という本の中でも「資本主義をハックする」という表現が繰り返されていました)。佐藤優さんは「急ぎながら待つ」(今の世の中はひどい状況で早急に変革が必要だが、その制度の中からは変わらないので、労働者を商品化する資本主義がエンクロージャーから偶然発展したように、偶然による外からのきっかけを待たないといけない、という趣旨だと私は理解しました)という態度を強調されていますが、その外からのきっかけが今回のコロナ禍なのかもしれません。そういった点も「資本主義」や「民主主義」に対する議論が活発化している理由だと思います。あと、トマ・ピケティに対して批判的な点も印象的でした(ピケティの処方箋は国家の権限の強化による富の再分配の促進だが、企業のグローバル展開の進展により国家の力の及ぶ範囲は限定的だし、それに対抗し得る権力を国家が握るとファシズムに繋がりかねない、というのが批判の趣旨だ私は理解しました)。ピケティの「21世紀の資本」も途中で挫折しているので、いつか再挑戦しようと思います。
■映画
8 追憶/監督 シドニー・ポラック
9 スパイダーマン: スパイダーバース/監督 ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン
8 バーブラ・ストライサンドとロバート・レッドフォードが主演の大人のラブ・ストーリーです。主題歌「The Way We Were 」(1973年のアカデミー主題歌賞を獲得し、ビルボード誌の1974年シングル年間ランキング第1位の名曲です)の長いプロモーション・ビデオのような印象の作品です。「好きだけど別れてしまう」男女が切なくも後味よく描かれています。当時30歳を過ぎていたお二人が、大学生時代も演じているのはさすがに無理がありますが、力業でねじ伏せてきます。ロバート・レッドフォードは良くも悪くも、毒にも薬にもならない美青年を好感度たっぷりに演じているので、バーブラ・ストライサンド演じる、若干戦闘的な社会活動家に共感できるかどうかが、この作品の評価の分かれ目になると思います。身も蓋もない意見になりますが、バーブラ・ストライサンドの濃い見た目とこのキャラクターは、個人的には少し胃もたれがしました。その胃もたれを和らげている主題歌が見事だとも言えます。
9 実写化シリーズ作も多いスパイダーマンをあえて長編アニメーション映画にし、なおかつ高い評価も獲得しているので、以前から気になっていた作品でした。手書き風文字を活用したコミック的な表現など、アニメでしかできない演出を随所に盛り込んだ野心的な作品で、安易な便乗企画ではなく意図を持って制作されたことが伝わってきて好感が持てます。ヒップホップ文化やアメリカ都市部の現代高校生の生活が、リアルに描かれている点も興味深いです(どの国もスクールカーストの中で生活するのは大変です)。あえて雑に扱われているものもありますが、異次元からきたキャラクターはどれも特徴的で、メタ的な表現が今っぽいです。スパイダーマン特有の、糸を使って空中を自由に移動する爽快感も抜群です。少年の成長譚としても秀逸で、家族で安心して楽しめる作品だと思います。