本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

アーモンド

2021-01-30 07:17:34 | Weblog
■本
9 アーモンド/ソン・ウォンピョン
10 いま生きる階級論/佐藤 優

9 2020年の本屋大賞翻訳小説部門で1位に選ばれるなど、書評等の評判も良い作品なので読みました。生まれつき怒りや恐怖などの感情を感じることのできない少年と、その家族や友人との波乱に満ちた心の交流が描かれた作品です。若干ウエルメイド過ぎるかなという気がしなくもないですが、偏見を排して他人と付き合うことの難しさと大切さを教えてくれる感動的な作品です。主人公の友人「ゴニ」の境遇など、あまりにも悲惨な出来事が主人公の周囲に起こり過ぎるので、一種のファンタジーとして読んだ方がよいのかもしれません。日本と同様に韓国社会(そして学校生活)の閉塞感が痛いほど伝わってきます。私は小説を読んでもその情景が自然に頭に浮かぶタイプではないのですが、作者のソン・ウォンピョンさんが映画に関する仕事をされていることもあってか、この作品は簡単に映像化してイメージすることができました。ほぼ間違いなく映画化されると思いますが、その際にはそちらも観てみたいと思います。

10 引き続き「資本論」に関する本を。佐藤優さんの解説や雑談は抜群に面白いのですが、引用される宇野弘蔵さんの「経済学方法論」の文章が難解で途中で挫折していました。先週「武器としての『資本論』」を読んだ勢いに乗って読了しました。先週読んだ白井さん以上に、「資本主義」が偶然生まれたものであり、従って変革が可能である(しかし人類はまだその具体的な方法を見つけていない)ということが強調されています。具体的な解決策はないまでも、そこに内在する論理を把握することにより、したたかにサバイブしていこうという視点も全体に貫かれています。逆に言うと、最近「資本論」に対する注目が高まっているのは、「資本主義」がいよいよ我々の生存を脅かすほどの限界にきているのだと思います(先日読んだ山口周さんの「ビジネスの未来」という本の中でも「資本主義をハックする」という表現が繰り返されていました)。佐藤優さんは「急ぎながら待つ」(今の世の中はひどい状況で早急に変革が必要だが、その制度の中からは変わらないので、労働者を商品化する資本主義がエンクロージャーから偶然発展したように、偶然による外からのきっかけを待たないといけない、という趣旨だと私は理解しました)という態度を強調されていますが、その外からのきっかけが今回のコロナ禍なのかもしれません。そういった点も「資本主義」や「民主主義」に対する議論が活発化している理由だと思います。あと、トマ・ピケティに対して批判的な点も印象的でした(ピケティの処方箋は国家の権限の強化による富の再分配の促進だが、企業のグローバル展開の進展により国家の力の及ぶ範囲は限定的だし、それに対抗し得る権力を国家が握るとファシズムに繋がりかねない、というのが批判の趣旨だ私は理解しました)。ピケティの「21世紀の資本」も途中で挫折しているので、いつか再挑戦しようと思います。


■映画
8 追憶/監督 シドニー・ポラック
9 スパイダーマン: スパイダーバース/監督 ボブ・ペルシケッティ、ピーター・ラムジー、ロドニー・ロスマン

8 バーブラ・ストライサンドとロバート・レッドフォードが主演の大人のラブ・ストーリーです。主題歌「The Way We Were 」(1973年のアカデミー主題歌賞を獲得し、ビルボード誌の1974年シングル年間ランキング第1位の名曲です)の長いプロモーション・ビデオのような印象の作品です。「好きだけど別れてしまう」男女が切なくも後味よく描かれています。当時30歳を過ぎていたお二人が、大学生時代も演じているのはさすがに無理がありますが、力業でねじ伏せてきます。ロバート・レッドフォードは良くも悪くも、毒にも薬にもならない美青年を好感度たっぷりに演じているので、バーブラ・ストライサンド演じる、若干戦闘的な社会活動家に共感できるかどうかが、この作品の評価の分かれ目になると思います。身も蓋もない意見になりますが、バーブラ・ストライサンドの濃い見た目とこのキャラクターは、個人的には少し胃もたれがしました。その胃もたれを和らげている主題歌が見事だとも言えます。

9 実写化シリーズ作も多いスパイダーマンをあえて長編アニメーション映画にし、なおかつ高い評価も獲得しているので、以前から気になっていた作品でした。手書き風文字を活用したコミック的な表現など、アニメでしかできない演出を随所に盛り込んだ野心的な作品で、安易な便乗企画ではなく意図を持って制作されたことが伝わってきて好感が持てます。ヒップホップ文化やアメリカ都市部の現代高校生の生活が、リアルに描かれている点も興味深いです(どの国もスクールカーストの中で生活するのは大変です)。あえて雑に扱われているものもありますが、異次元からきたキャラクターはどれも特徴的で、メタ的な表現が今っぽいです。スパイダーマン特有の、糸を使って空中を自由に移動する爽快感も抜群です。少年の成長譚としても秀逸で、家族で安心して楽しめる作品だと思います。
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武器としての「資本論」

2021-01-23 07:01:17 | Weblog
■本
7 武器としての「資本論」/白井 聡
8 みうらじゅんと宮藤官九郎の世界全体会議/みうら じゅん 、 宮藤 官九郎

7 最近、「民主主義」とともに限界が問われることの多い「資本主義」について学びたくて読みました。タイトル通り、「資本論」の入門書というよりは、そのエッセンスやロジックを、閉塞感漂う社会でどのように武器化してサバイブしていくかについて書かれた本です。「永続敗戦論」の白井さんらしく、切れ味鋭く、新自由主義についてぶった切って下さっています。難解であると評される「資本論」ですが、この本では「商品」、「剰余価値」、「包摂」、「本質的蓄積」といった概念について、高度資本主義社会に生きる私たちの視点から、わかりやすく説明してくれています。現代社会の生きにくさの原因としては、増殖し続けることを目的とする資本によって「労働力という商品」の価値を上げるために、我々賃金労働者が常に世界レベルで競争させられていることに一因があることがよくわかります。冷戦が終了し共産主義化する危険性が減り、労働者を保護をする必要性が下がったことにより、資本家サイド(新自由主義者)が過去に与えた労働者の既得権益を剥奪しようとしているので、その流れを再び逆に戻すべく階級闘争を再開しよう、というのがこの本の大きなメッセージだと思います。そして、その階級闘争を再開するにあたり、暴力的手段に訴えかけるのではなく、まずは、資本主義は所与のものではなく起源があり、逆に言えば終わらせることができるものであるということと、我々は搾取され続ける存在ではなく、少なくとも健康的で美味しい食事をするだけの権利がある価値ある存在であるという認識を持つことから始めよう、と主張されていると私は理解しました。スキルや生産性に還元されない、自分自身の価値を認識することが重要であると気づかされました。

8 みうらじゅんさんと宮藤官九郎さんの対談本第二弾です。目玉である中二男子っぽいエロトークはとても面白いのですが、これだけまとめて読むとさすがに飽きてきます。逆に時折挟み込まれる、お二人の「人生論」、「日本人論」はさすがの視点のユニークさで、いろいろと気づかされることが多かったです。「コンプレックス」をテーマにした回の「”人それぞれ”の部分をどう活かすかっていうのを早い段階から知っとくのは意外と大事なことだと思います」など、人生の先輩として、上から目線ではなく若者にさりげなくエールを送る姿勢も共感できます。何より、アラカン、アラフィフのお二人がここまでくだらない話を楽しそうにしているのを読むだけで、不思議な勇気が湧いてきます。結局は、好きなことを楽しんでやっている人は幸せだし、魅力的であるという当たり前のことが再確認できます。

■映画
7 汚名/監督 アルフレッド・ヒッチコック

 父親がナチスのスパイであったという「汚名」を晴らすために、ナチス残党の幹部と偽装結婚し、潜入スパイとなった女性を描いた作品です。主人公は、母親や自分が生まれ育ったアメリカへの愛国心から危険な任務を引き受けるのですが、その動機の描き方が弱いので、いまひとつ共感できません。彼女をスパイとして勧誘するFBIのエージェントは、簡単に彼女と恋に落ちますし、その上司も彼女のリスク管理が全くできていない無能振りなのも、あまりにも不自然です。潜入されるナチスの残党側も脇が甘すぎます。このようにストーリー全体としては粗が目立ちますが、さすがヒッチコック監督だけあって、要所要所の緊迫感のあるカットは素晴らしいです。特に、主人公がスパイであることがばれたのではないかという疑念を募らせるシーンや、妻がスパイであると仲間にバレたナチス幹部のエンディングのヒリヒリとした心理描写が見事です。何よりも、主人公のイングリッド・バーグマンがとても美しく、それを観るだけでも価値がある作品です。
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かぐや様は告らせたい

2021-01-16 07:33:29 | Weblog
■本
5 SDGsが生み出す未来のビジネス/水野雅弘、 原裕
6 ジグソーパズル/バイきんぐ 西村 瑞樹

5 SDGsで語られていることには全く異論はないのですが、その語られる文脈(この本もそうですが、ビジネスパーソンがマーケティング文脈で語り過ぎな気がします-先日読んだ山口周さんの「ビジネスの未来」でも書かれていましたが、経済合理性(ビジネス)で解決される社会課題はほぼ解決されつくした、と私も思います)や、なぜこの17のゴールなのか(そもそも17は多すぎますし、個人的にはメンタルヘルス的な観点が弱い気がします)など、どうしても胡散臭い印象を持ってしまうので、その私自身の偏りを是正するという意味でも、一度、網羅的に勉強しようと思い読みました。結論から申し上げると、読後もSDGsに対する胡散臭さを払拭することはできませんでしたが、ビジネス側がどのようなモチベーションでSDGsに取り組んでいるのかの理由はなんとなく理解できた気がします(もちろん理念に共感はされていると思いますが、やはり、差別化によるブランディング効果を狙っている気がします)。事例が豊富なのはとても参考になるのですが、正直玉石混交で、これらの取り組みがSDGsのゴール達成に向けてどれだけ貢献しているのかも疑問です。とはいえ、批判ばかりしていても仕方がないので、過度にSDGsについて声高に叫ぶことなく、共感できる理念や取り組みに協力していくことが大切なのだと感じました。

6 バイきんぐ西村さんによるエッセイ集です。昨年末から山田ルイ53世さんの書籍を続けて読むなど、芸人さん関連本に少しはまっています。髭男爵山田ルイ53世さんのような経験のユニークさも、ピース又吉さんのような文章の上手さも、オードリー若林さんのような思考の深さもないですが、西村さんの人間味溢れる文章と脱力系の写真で気楽に読めます。逆に言うと、西村さんに興味のない人が読めば、一般人のブログを読むレベルの満足度だと思います。派手さはないものの、バイきんぐのコントの背景に漂う狂気のようなものが、西村さんの文章からもうっすらと伝わってきて興味深いです。芸人という仕事やキャンプに対する深い愛情も伝わってきます。やはり、好きなことを仕事にできた人は強いですね。

■映画
5 記憶にございません!/監督 三谷 幸喜
6 かぐや様は告らせたい/監督 河合 勇人

5 三谷幸喜さん監督作品は個人的には当たり外れが大きいのですが、この作品は当たりでした。スピーディーな展開と比較的抑制が効いた演出で、とかくクドくなりがちな三谷作品のギャグのアクがいい具合に抜けていると思います。また、これも三谷作品に特徴的な、恥ずかしげもない正論の真っ向からの主張や、あり得ないほどのご都合主義な展開も、主演の中井貴一さんのキャラクターもあり、押しつけがましくなくちょうどよい濃さの味わいになっています。一番の貢献は、事務秘書官役の小池栄子さんで、シリアスとコメディとのメリハリの効いた演技で画面を見事に引き締めています。ディーン・フジオカの格好良さやたくさんの豪華ゲストなど、画面が華やかなところも観ていて楽しいです。

6 あまり期待せずに観たのですが、予想以上に面白かったです。きわどい下ネタもあるので若干やり過ぎではないかと心配になるほど、橋本環奈さんのコメディエンヌぶりが存分に発揮されています。サブタイトルの「天才たちの恋愛頭脳戦」とあるように主要キャラ二人の恋愛の駆け引きに焦点が絞られている点が、シンプルにわかりやすくてよかったです。生徒会室内のシチュエーションコントのようなシーンが多いので、制作費的にも随分お安く済んだのではないでしょうか?原作漫画の映画化作品は失望することが多いのですが、この作品はシンプルなエンターテイメントに徹した成功作と言えると思います。
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ベイビー・ドライバー

2021-01-09 07:37:03 | Weblog
■本
3 遅いインターネット/宇野 常寛
4 人類の選択/佐藤 優

3 現在の民主主義の課題とその処方箋について考察された本です。挑発的な文体とサブカルを交えたトリッキーな展開は読む人を選びそうですが、周到に準備された緻密な論理は知的好奇心を大いに刺激されます。「アラブの春」の失敗とトランプ大統領の誕生の、民主主義に与えたインパクトの大きさについて改めて考えさせられます。「遅いインターネット」とは、刹那的なアテンションやクリック、シェアを得ることのみに特化したインターネット(特にソーシャルメディア)上の情報から距離と時間を置き、読者に熟慮と成熟した情報発信を促すための場を作っていく運動だと私は理解しました。一種のオンラインサロン的な展開が想像され、宇野さんが敬意と共に批判されていた、糸井重里さんの「ほぼ日」による物販(価値はあるが割高に見える意識高い商品を購入できる層は結局限定される)と同じく、参加する人がかなり制約されそうですが、そのあたりは賛同者の支援を募ることにより、有料と無料のコンテンツ、サービスのメリハリをつけて補っていかれるのだと思います。このコミュニティー自体が、新たなフィルターバブルの源泉となりかねない気もするので、私自身はもう少し玉石混交する情報に身を置きながら、宇野さんのおっしゃるようにじっくりとものを考える訓練を行っていきたいと思います。論理とエンターテイメント性を兼ね備えた文章を書く上でも参考になる本だと思います。

4 佐藤優さんによる「ポスト・コロナ」について分析された本です。宗教、文学、哲学などの過去の書籍を引用しながら、歴史とのアナロジー(類比)によって、新型コロナウイルスなど現在の出来事の捉え方のヒントを教えてくれます。自粛生活が長引き人間の関心が内面に向かっていくようになると、心の豊かさを求めていく方に進む良い面もあると私も考えていましたが、その反面、内面性が暴走してしまう危険性があるという指摘は新鮮でした。確かに、自分自身と向かい合い過ぎると、昨今の国内外のソーシャルメディアの殺伐とした雰囲気のように、肥大化したナルシズムや暴力の源泉になるのかもしれません。また、スウェーデンの集団免疫を獲得しようとするコロナに対する戦略が、「ソフトな優生思想」(コロナの死亡リスクは高齢者の方が高いので、生産人口に与えるリスクは相対的に低いという割り切り)であるという指摘も印象に残りました。佐藤さんが、私が以前に読んで感銘を受けた、小川さやかさんの本(無理せずついでにできる範囲で他人に親切にするというタンザニア人の行動様式はとても参考になります)や逆に映画を観て共感しなかった「伊藤くん A to E」(肥大化した自己愛が破滅に導く様子が痛々しいです)を取り上げられている点も興味深かったです。アナロジー的思考を身につけるきっかけとして、この本でも参考図書として取り上げられていて、家に長らく積んだままになっている「銃・病原菌・鉄」を読んでみたいと思います。


■映画
3 灰とダイヤモンド/監督 アンジェイ・ワイダ
4 ベイビー・ドライバー/監督 エドガー・ライト

3 新年なので名作との誉れ高い作品を。第二次世界大戦でドイツが降伏した日のポーランドを描いた作品ということで、小難しくも暑苦しい政治的メッセージに溢れた作品かと思いましたが、美しい映像(死者を抱きかかえた瞬間に花火が打ち上がる演出は若干あざといですが)とアメリカン・ニューシネマを思わせる厭世的な苦みが印象的なクールな作品でした。寂しさを埋めるために刹那的な快楽を求める若い男女の描写などからは、人間の本質は万国共通な面が多いことに気づかされます。この青年を主人公としてとらえるとストーリーが若干弱い気がするので、ポーランドにとって重要な日の喧騒を切り取った群像劇として観るのが正しいと思います。党による検閲がされていた時代の作品ということもあるのだと思いますが、体制側、反体制側の善悪をあいまいにしたニュートラルな視点がこの作品の価値を高めている気がします。現在も強権的な政権が問題となるなど、常に政治に翻弄されているポーランドという国をもっと知りたくなりました。

4 まず、音楽のチョイスとスピード感溢れるカーアクションが最高です。冒頭のジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン の「ベルボトムズ 」がバックに流れるカーチェースシーンで一気に引き込まれました。また、トラウマを抱える青年と無垢なウェイトレスとのシンプルなボーイ・ミーツ・ガールものに、エキセントリックな犯罪者に巻き込まれた狂騒をからめた展開も懐かしいようで新しいです。去年観てよかった「ウォールフラワー」とリュック・ベッソン制作の「トランスポーター」とのいいとこ取りしたかのような作品です。登場人物の多様性も今っぽいです。終盤のたたみかけるような怒涛の展開と、少し苦くも後味のよい結末も好ましいです。耳、眼、頭、心の全てを楽しませてくれる傑作です。強くお勧めします。
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ビジネスの未来

2021-01-02 07:21:10 | Weblog
■本
1 一発屋芸人列伝/山田ルイ53世
2 ビジネスの未来/山口 周

1 先週読んだ「ヒキコモリ漂流記」に続き、山田ルイ53世さんの本を。タイトル通り「一発屋芸人」(中には、レイザーラモンHGさんや、テツ and トモさんのように、現在でもメジャー感のある方もいらっしゃいますが)に、ご本人も「一発屋芸人」と言われることの多い山田ルイ53世さんが、一発を当てた当時とその後についてインタビューをされた内容がまとめられています。「ヒキコモリ漂流記」以上に、山田ルイ53世さんの地頭の良さが堪能できる内容で、「一発屋芸人」に対する厳しくも優しいツッコミと、相手の癖の強さを表現するワードセンスが抜群です。キンタローさんのように、比較的早く売れた人もいらっしゃいますが、「一発屋芸人」の多くが売れる前や売れた後に、とても長い不遇の時期を過ごされていて、それが、山田ルイ53世さんの長いヒキコモリの時期ともシンクロし、人生における一見無駄とも思える時期の意味(当事者にとってはそのような時期は望ましいものではないとは思いますが)についてもいろいろと考えさせられます。人の個性(芸人さんの場合芸風も)をかたち作る上での、時間の与える影響についての興味深い考察にもなっている気がします。

2 ビジネス書でヒットを連発されていて、私もどの作品を読んでも感銘を受けることの多い山口周さんの新作です。新年の勉強と思い読みました。本作は単なるビジネス書という枠を超えて、思想書としてとらえてもよい、社会全体の変革について考察された壮大な内容です。これまでどちらかと言えば、ノウハウの提示やフレームワークの整理が得意だったという印象が強い山口さんが、リスクを取って資本主義に対する立場を明確にされていて(「資本主義をハックする」という言葉が印象的です)、日本の取るべき方向性についても賛否が分かれそうな提言を具体的にされている点が新鮮です。その分、読者にも社会に対する単なる批判者ではなく、改革者として自らも行動することを要求する厳しい本でもあります。基本的には、経済合理性(ビジネス)で解決される社会課題はほぼ解決されつくしたので、その外側にある課題を、各個人が充実感を感じられる本当に好きなことに取り組むことにより解決できるような環境を整えるべし(その一案としてのベーシックインカムによる社会保障や増税)という内容が提言されているものと私は理解しました。個人的には、企業がSDGsについて声高に叫ぶ現状に対する違和感の理由が分かった点も有益でした。若干性善説すぎる点があると思いますが(現状のコロナの状況を見ていると多くの人が、「衣食足りて礼節を知る」というわけにはいかない気がします)、自分の消費の仕方や仕事に対する取り組み姿勢について改めて考える上で、とても刺激になりました。自分の考えや行動について、新年に省みる機会を与えてくれるとても良い本です。


■映画
1 スカイスクレイパー/監督 ローソン・マーシャル・サーバー
2 ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章/監督 三池 崇史

1 たった一人で高層ビルへ家族の救出に向かうという設定が、「ダイハード」に似すぎているという批判もありますが、さすが、ドウェイン・ジョンソン主演作品。安定のアクション・エンターテイメントに仕上がっています。強くなり過ぎたドウェイン・ジョンソンに義足というハンデを与えてスリルを追加したアイデアも、若干あざとくはありますが成功しています。制作に中国資本が入っている影響が随所に見られますが、その点が良くも悪くも「ダイハード」との差別化要因になっています。頭を空っぽにしてシンプルに楽しめる、豪華で大味なB級作品です。

2 年末にNHKで放送されていたスピンアウト作の「岸辺露伴は動かない」が話題だったので、まずはこちらを観ました。予定されていた続編がまだ制作されていないなど(空条承太郎役の伊勢谷友介さんの事件もあるので今後も難しいかもしれません)、あまり評判がよくなさそうですが、私は結構好きです。ずいぶん前に、少年ジャンプ連載の原作を読んだ記憶も蘇ってきました。舞台となっている杜王町の街並みがとても美しかったのでロケ地を調べてみたら、スペインの街でびっくりしました。予算に限りがある中で、よいメリハリのつけ方だと思います。その分、CGで描かれたであろうスタンドの描写が若干安っぽい気もしますが、それでも及第点です。神木隆之介さん、小松菜奈さんの演技は抜群の安定感ですし、その他のメインキャラクターも、原作の設定からかなりデフォルメされていて実写化するとどうしても過度にコミカルに映って難しい面があったと思いますが、こちらも及第点だと思います。漫画原作の実写映画化作品に酷いものが多いので、私の評価のハードルが下がっているのかもしれませんが、観ても損はない作品です。
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