本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

きみはいい子

2018-07-28 06:38:31 | Weblog
■本
60 かかわると面倒くさい人/榎本 博明
61 いっぴき/高橋 久美子

60 タイトル通り前半は「かかわると面倒くさい人」に対する事例が次々に描かれ、「あるある」的に読み進めることができとても楽しいです。中盤はその「面倒くさい人」の類型やその背景にある心理構造の分析に費やされて、少し冗長気味で読み辛くなりますが、終盤はそれらの人々との付き合い方や逆に自分自身がそうならないための方策を説明して下さり参考になります。結局は自分の行動に対する相手の反応を正確に見極め、問題があればその行動を是正していくセンサー的機能と自己補正能力が問われます。「人の振り見て我が振り直せ」的な本ですが、コミュニケーション能力とは何かについても考えされます。「面倒くさい行動」にそれなりのメリットがあるからその人はあえて取っている、なので他人の行動を変えるのは非常に厳しい、という視点は、忘れられがちですが非常に重要だと思いました。

61 チャットモンチーの元ドラマーであり、現在は作家・作詞家・ラジオパーソナリティなど枠にとらわれないクリエーターとして活動されている高橋久美子さんのエッセイ集です。先日のチャットモンチーの「完結」を機に読みました。四国の田舎で生まれ育った女性が、音楽に魅了されいろいろな偶然でドラムという楽器やメンバーと出会って教職を諦めロックスターとなり、さらには言葉を武器に世界に問いかける一人のクリエーターとして成長する物語、としても読めとても面白かったです。結局、人は好きなことを自分のスタンスでやるのが一番という、いつもの結論になるのですが、やはり、人の胸を打つ音楽や言葉を生み出せる人はその熱量が半端ないということなのだと思います(高橋さんが作詞された「ハナノユメ」という歌詞は今聴いても凄いと思います)。バックパッカーとしての旅行記やフリーランスとして生きるノウハウとしても参考になります。


■映画 
56 PAN/監督 ジョー・ライト
57 きみはいい子/監督 呉 美保

56 ピーター・パンの前日譚的位置づけの作品なので、その斬新な解釈(「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのようでした)に「ピーター・パン」という作品に思い入れのある人にとっては不満があるかもしれませんが、この作品にそれほどなじみのない私にとっては、あまり抵抗感はありませんでした。「プライドと偏見」や「つぐない」のジョー・ライト監督作品だけあって、映像は気品に溢れそれでいて躍動感もあり素晴らしいと思いました。一方、キャラクター造形とストーリー展開の方は、B級アクション映画(B級テイストは嫌いではないのですが、お金のかかった高品質な映像とはちぐはぐな印象が残りました)のような紋切型な点が少し残念でした。それでも、普通に面白いファミリー向けファンタジーだと思います。

57 ずいぶん前に映画館の予告編を観て印象に残っていた作品です。期待以上の素晴らしい作品でした。「そこのみにて光輝く」という作品でもそうでしたが、登場人物の「満たされない思い」への共感に満ちた、呉美保監督の演出がとても印象的です。児童虐待、いじめ、モンスターペアレント、学級崩壊、認知症など、描かれているエピソードは結構ヘヴィーで、かつそう簡単に解決しない問題ばかりですが、それに真摯に立ち向かう登場人物からかすかな希望を感じ、後味は悪くないです。高良健吾さんは大好きな役者さんで、この作品でも線の細さはあるものの善良な若手小学校教師役を好演されています。しかし、圧巻は池脇千鶴さんの明るい主婦役の演技です。「そこのみにて光輝く」で高い評価を受けた身体を張ったダークな演技とは異なりますが、明るさに隠れた過去の心の傷と、同じ傷を持つ登場人物に対する圧倒的な包容力を見事に表現されています。原作小説があり、本屋大賞に入賞するなど高く評価されているようなので、そちらも読んでみたいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

もう「はい」としか言えない

2018-07-21 10:40:17 | Weblog
■本
58 もう「はい」としか言えない/松尾 スズキ
59 マクルーハンはメッセージ/服部 桂

58 松尾スズキさんの芥川賞候補作。結果が出る前に読もうと手に取りました。神経症的でエキセントリックなキャラクターが織りなすグロテスクなドタバタ劇はいつも通りですが、移民問題や尊厳死といったグローバル規模の現代的なテーマがよりダイレクトに取り上げられていて、新しい試みもなされています。破天荒なストーリー展開の割りには、取っ散らかった感じはせず、きちんと作品世界として成立しています。芥川賞の結果は残念ながら落選でしたが、読後感もよく、これまでの松尾さんの小説の中で最も完成度が高いと思いました。表題作の他に、「神様ノイローゼ」という作品も収録されていますが、こちらは西村賢太さんを思わせるような私小説的テイストの作品です。主人公がトラウマになった「水死体事件」の謎を解くという趣向も凝らされていて、松尾さんの少年時代を想像させながら最後まで一気に読ませる技法は見事です。

59 1960年代から70年代にかけて一世を風靡したメディア論の大御所、マーシャル・マクルーハンの解説書です。名前と「メディアはメッセージである」という発言は何度も目にしたことはあるのですが、原書(意外と手に入りにくいし高い)は読んだことがなかったので、入門書として読んでみました。著書や理論の紹介だけでなく、マクルーハンという人自体やその理論をインターネットが普及した現代に応用するとどう解釈できるのか、といった点まで解説されていて参考になります。マクルーハンがウディ・アレンの「アニー・ホール」に出演したことや、日本に紹介したのは竹村健一さんであることを初めて知りました。著書の服部さんが翻訳された「〈インターネット〉の次に来るもの」という本を以前に読んだのですが、その本がマクルーハンの文体にかなり影響を受けていることをこの本を読んで知り、その本の理解も深まった気がしました。


■映画 
55 殿、利息でござる!/監督 中村 義洋

 タイトルと主演が阿部サダヲさんということで、コメディ映画だと勝手に思っていましたが、意外と骨太の人情派時代劇でした。とにかくキャストが豪華で、妻夫木聡さん、竹内結子さん、松田龍平さんといった他の映画では主演級の俳優を惜しげもなく脇役で使っています。これだけ脇役が豪華なので、殿様役にフィギュアスケートの羽生結弦さんをキャスティングしたのも納得です。ストーリー的には「利息」を取って宿場町を復興させるという知恵よりも、町全体のために自己を犠牲にしてまでお金を集める人々を重点的に描いたものなので、先述した私の誤解も含め、タイトルはもっと他のものにした方がよかったと思います。キャッチーさを優先したのでしょうが、豪華俳優陣の見せ方も含めて、かなり本格派の作品なのにそれをうまく伝えきれていない点が少し残念に思いました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

誰も知らない

2018-07-14 06:31:39 | Weblog
■本
56 戦前の大金持ち/出口 治明、稲泉 連、山川 徹
57 国体論 菊と星条旗/白井 聡

56 ライフネット生命保険の創業者であり、現立命館アジア太平洋大学学長である出口治明さんによる、戦前の大金持ちのスケールの大きなエピソードから教訓を読み取ろうという本です。スティーブ・ジョブスやイーロン・マスクといったITベンチャーの伝記を読んでいるかのような、癖が強すぎるそれぞれの個性に接することができ、とても面白かったです。各人に共通するのは、世界を相手にすることの躊躇のなさと、常識に囚われず自分の信念や情熱に基づく一途な行動力(そして豪快なお金の使い方)です。そのような行動様式が、グローバル化が進展し不確実性が増す現在の日本人にも求められていて、とかく小さくまとまりがちと言われる日本人も、そのような特徴を持ったのは大量生産に最適化した戦後教育の影響によるだけで、本来は豪快に考えることのできるポテンシャルを持っていることがわかり、勇気づけられる本です。

57 「国体」という日本に独特な極めてあいまいな概念をテーマにしているため細部も含めて理解しようとすると非常に難解な本です。その一方でその幹となる論旨は明確で、戦前は「天皇」が、戦後は「アメリカ」が国体として機能し、戦前に国体としての「天皇」が、形成・発展・崩壊という過程を辿ったのと同じように、戦後の国体としての「アメリカ」も同じ過程を辿りつつあるのが、現在の日本の状況であるという議論が展開されます。第2次世界大戦末期と同じく、現在の日本は危機的状況であり、逆説的にその危機についての懸念をいち早く表明したのが、当事者として「国体」について最も考えられていた天皇による、生前退位を巡る「お言葉」であるという結論になっています。結局、従属する対象が「天皇」から「アメリカ」に変わっただけで、その恩寵にあずかることを期待して、我々国民が思考停止し続けていることが問題であり、自分の頭で考えることにより民主主義を鍛えていくことの大切さを訴えている本だと私は理解しました。


■映画 
53 誰も知らない/監督 是枝 裕和
54 そして父になる/監督 是枝 裕和

53 親に置き去りにされた子どもたちが必死にかつ、したたかに生きる姿をドキュメンタリータッチで描いた作品です。主人公の少年を演じた柳楽優弥さんの演技が完璧過ぎます。少年から青年に変わりつつある瞬間の、繊細さと傲慢さの危ういバランスが見事に表現されています。若くしてこんな大きな仕事を成し遂げたら、その後の人生がさぞや大変だっただろうなと想像できます。それだけに、最近、個性派俳優として活躍されている柳楽さんを見ると応援したくなります。結構悲惨な話の割には、観客を過度に感情的に煽るわけでもなく、どちらかと言えば、淡々とユーモアさえも交えながらストーリーが展開されます。子どもたちを悲惨な状況に追い込んだ理由を、頑ななまで個人に求めない姿勢から(置き去りにされた子どもの親たちは無責任ではあるものの、それなりに心優しく、魅力的にさえ思えます)、日本社会のシステム上の問題がくっきりと浮かび上がります。バッドでもハッピーでもないエンディングに、是枝監督の現実を単純化せず複雑なまま受け取ろうとする強い意図も感じます。「万引き家族」で評価された要素が、ほぼ全て含まれている極めて優れた作品だと思います。

54 続けて是枝監督作品の中でも評価が高いこの作品を観ました。新生児の取り違えに悩む二つの家族が描かれます。こちらも、責任を個人の登場人物に求めない優しさと、現実を単純化しない監督の意図を強く感じます。ただ、福山雅治さんというビッグスターが主演であるためか、ストーリーがよりドラマティックに展開され、主人公の見せ場に配慮されているような気がしました。リリー・フランキーさんは「万引き家族」でも見せた、飄々とした俗ではあるが悪ではない人物を好演されています。新生児取り違えの原因となった看護師の設定が秀逸で、この登場人物とその家族の存在により、物語がより重厚になり、良い意味で観客を混乱させることに成功しています。この作品もエンディングはバッドでもハッピーでもなく、もやもやとした気持ちが残りますが、それでも後味は悪くなく、監督の匠の技を感じます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

白い巨塔

2018-07-07 09:25:06 | Weblog
■本
54 朝日ぎらい/橘 玲
55 紀州のドン・ファン/野崎 幸助

54 タイトルは、ベストセラー「京都ぎらい」のパロディーで、あくまで読者の興味を引くためだけの意味しかなく、内容をよく表しているのはサブタイトルの「よりよい世界のためのリベラル進化論」の方だと思います。日本で議論されている「保守」と「リベラル」とグローバルスタンダードのそれらの概念との差異を、「アイデンティティ」という補助線を用いながら、橘さんお得意の遺伝学や行動経済学的視点も交えて丁寧に議論されています。日本の中高年者に多い「リベラル」支持者が、正規労働者という既得権益を守るために「保守」化する一方で、その既得権を破壊しないと希望が持てない非正規労働者の多い若年層が、「働き方改革」を推進する中でその既得権益を破壊しようとしているように見える自民党を「リベラル」として捉えている捻じれ現象がロジカルに説明されています。それに加えて、非正規労働者という弱い立場と地域コミュニティも崩壊した現代社会で、若年層が「日本人」であることだけが自身のアイデンティティのよりどころとなり、右傾化する自民党を支持するという構造も明らかにされています。橘さん自身が「リベラル」的立場であると明言しつつ、その「リベラル」が現状を変えることを否定していることや、成功したIT企業に見られるように、高い知能により富を独占し、結果として地道に努力する普通の人々から搾取している欺瞞性を指摘し、「よりより世界」を語るリベラルの本質に立ち返ることを指摘されている点に共感を覚えました。

55 先日お亡くなりになられた野崎さんの追悼の意味と、以前に「アメトーク」で紹介されていて興味を持っていたので読みました。「きれいな女性とエッチするためにお金を稼ぐ」という明確なモチベーションに基づき、成功を収めた野崎さんの一代記です。コンドームの訪問販売(時には購入者の奥様に対して実演もされたようです)や、美人女子大生をネットワーク化してティッシュ配りをさせた金融業のエピソードを読むと、結局人は自分の好きなことをやるのが一番だということに改めて気づかされます。その一方で、他社と差別化するために、金融業は霞が関一帯の顧客をターゲットにする(そもそも地位も高い高所得者なので、返済能力は高いし、職場に督促の電話がかかってくるのを嫌うために無担保でも回収率は高い)など、起業家としての才覚を発揮されている点も興味深いです。最近話題の野崎さんの最期も踏まえると、人生における「成功」と「幸せ」についていろいろと考えさせられますが、読みやすく、非常に面白い本です。


■映画 
52 白い巨塔/監督 山本 薩夫

 先週に引き続き山崎豊子さん原作の映画を観ました。こちらも最高に面白かったです。組織内での権力闘争をえげつないまでに生々しく描きつつ、大学病院の教授選挙や主人公が被告となる医療ミス裁判を通じて、閉鎖的な業界の腐敗と職業倫理について問いかけてきます。権力側が一瞬危機に陥りますが、結局は体制が維持され続ける虚しさを感じるのは「沈まぬ太陽」と同じ構造ですが、それでも、組織ではなく個人の信念や美学に基づき行動する人を丁寧に描くことで、人の人生は結果だけでなく、その過程でも評価されるべきという視点が提起されている気がします。高度経済成長期の大阪で、富裕層がどのような夜遊びをしていたかも生々しく描かれていて、大阪出身の私としては興味深かったです。テーマ設定だけでなく、ストーリー展開やキャラクターの造形だけでもシンプルに面白く、エンターテイメント作品としても一級の作品です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする