本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

ブライアン・ウィルソン 約束の旅路

2023-08-27 07:09:21 | Weblog
■本
69 嘘みたいな本当の話みどり日本版ナショナル・ストーリー・プロジェクト/内田樹、高橋源一郎
70 ITナビゲーター2023年版/野村総合研究所 ICTメディアコンサルティング部

69 先週に引き続き「日本版ナショナル・ストーリー・プロジェクト」の続編を。前作よりもいっそう、話の内容よりも語り口が重視されていて、「予知した話」などのお題設定の影響もあってか、ショートショートを読んでいるかのような印象です。選者である内田さん、高橋さんの好みをうまく把握された方が採用されている点も、似たような作品が多い理由だと思います。あと、本家米国版がラジオで募集・朗読されていたのに対し、日本版がAmazonで読めるWebメディアで募集・掲載されていたことも影響している気がします。米国版がじっくりと余韻に浸れる話が多かったのに対し、日本版は刹那的にコンテンツを消費している感じで(それはそれで読んでいて楽しくはあるのですが)、記憶に残っている話もさほどありません。

70 野村総合研究所が、IT市場規模予測を行う本の最新版です。このブログを始めた転職直後はよく読んでいましたが、本作はマーケティング領域の記述も多そうだったので久しぶりに読みました。通信サービス、デバイス、メディア、マーケティング、データ流通、プライバシーとセキュリティ、HR Techの7つのテーマが取り上げられています。このあたりの旬のテーマ設定はさすがだと思います。マーケティングをテーマにした箇所では、メタバースやNFTといったWeb3文脈と、1st PartyデータやCDPといったクッキー規制文脈での記述が多く、そう目新しい視点はありませんでしたが、リーチよりもエンゲージメントを重視する観点から、広告費からコンテンツ制作費への転換を主張されている点は参考になりました。また、情報処理能力や電力消費効率を飛躍的に向上させる可能性のある、内部回路で電気信号だけでなく光信号でも情報処理を行う「光電融合技術」や、セキュリティをより強固にする(逆に攻撃側の計算能力の向上によるリスク増大の懸念もありますが)量子技術についての知識が私には欠けていたので、勉強になりました。今後のビジネス展開を考える上で、たまにこういう市場予測を読むと、よい刺激が得られると思いました。


■CD
4 The Ballads Of Darren/Blur 

 8年振り、通算9枚目のブラーの最新作です。先日のSUMMER SONICでのライブ(日本人向けのベストヒット・ライブといった趣で最高でした)でも本作から数曲演奏されていました。円熟味というか枯れた味わいというか、しっとりとした曲調が中心で、メロディの良さとデーモン・アルバーンの歌声が染みわたる作品です。ゴリラズでの前衛的な活動と、ブラーでの大御所感全開の安定感ある活動とのバランスが、デーモン・アルバーンの中でうまく取れていて、クリエーターとしての充実感も感じます。作品ごとに印象が変わり、マンネリに陥っていないにもかかわらず、しっかりとしたブラー節が感じられるところも素晴らしいです。信用できるアーチストの一生付き合っていける作品です。


■映画
57 ブライアン・ウィルソン 約束の旅路/監督 ブレント・ウィルソン
58 リトル・マーメイド/監督 ジョン・マスカー、ロン・クレメンツ

57 ザ・ビーチ・ボーイズの中心人物ブライアン・ウィルソンを取材した、2021年制作のドキュメンタリーです。2021年当時のリラックスした雰囲気での彼へのインタビューを中心に、1960年代中期の全盛期の映像や、近年のライブやスタジオでの演奏シーンなども挿入されていて見応えがあります。ブルース・スプリングスティーン(「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」のヨンドウにそっくりで笑ってしまいました)やエルトン・ジョンといった豪華アーティストたちが、彼や彼の音楽に対する賛辞を送っている点も見どころです。ブライアン・ウィルソンが、精神疾患に苦しみドラック中毒になっていたことや、伝説の未発表アルバム「Smile」制作時の苦悩のエピソードは知っていましたが、その治療の主治医から精神的に支配されていた時期が結構長くあったことは知らなかったので、大いに驚きました。なにより、本作のブライアン・ウィルソンの映像から、彼の過去の苦悩、音楽に対する愛情や溢れんばかりの才能、そして、それが故の壊れやすさが、ありありと伝わってきて、観ている側の感情が揺さぶられます。あまりにイノセントな作品を生み出し続けたが故に、作者自身が蝕まれていたという事実に、芸術作品の残酷さと尊さを感じます。それでも、2021年当時のブライアン・ウィルソンが、楽しそうに音楽制作や演奏に向かい合っている姿を見ることができたことは大いなる救いです。ザ・ビーチ・ボーイズやブライアン・ウィルソンの音楽を、よりいっそう愛おしく感じられるようになる、素敵な映画だと思います。

58 先日公開された実写版ではなく、1989年にアメリカで公開されたアニメ版の方です。今の感覚から言うと、ルッキズム全開な点や男女の役割がステレオタイプなところが、少し気になりますが、映像はきらびやかで音楽も素晴らしく、ものがたりのツボも押さえられたディズニーらしい作品で、やはり観ていて楽しいです。一番驚いた点ですが、原作と違ってハッピーエンディングになっているのも、成功していると思います。ヒロインのアリエルは自分勝手、その父の王は威圧的、彼女を支える魚、蟹、カモメも力不足と、キャラクター自体はあまり共感できる要素がないのですが、そんな不完全な彼らがそれぞれの情に基づき、協力しあう姿は感動的ですらあります。極めてわかりやすい作品ではあるのですが、以外と奥が深いところも魅力的です。
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ベイビー・ブローカー

2023-08-20 06:26:47 | Weblog
■本
67 夢をかなえるゾウ4~ガネーシャと死神/水野 敬也
68 嘘みたいな本当の話 [日本版]ナショナル・ストーリー・プロジェクト/内田 樹、高橋 源一郎

67 先日「夢をかなえるゾウ0(ゼロ)」を読んだ勢いに乗って、シリーズで唯一未読の本作を手に取りました。本作は「夢をあきらめる」方法もテーマとなっています。毎度、新しい視点を与えて続けてくれる点に感心します。夢はよく生きるためにあるもので、夢のために生きづらくなるのであれば、あきらめるのも一つの方法である、という柔軟なアドバイスに救われます。「知ることよりも行動して経験することが大事」というこのシリーズ共通のメッセージも、あらためて印象に残りました。とりあえず「死ぬまでにやりたいことリスト」は作ってみたいと思いました。

68 こちらも先日、本家米国版の「ナショナル・ストーリー・プロジェクト」を読んだので、続けて読みました。内田樹さんの解説でも触れられていますが、「心に残る短い実話」という同じお題を募集しているにもかかわらず、日米版で読んだ印象がずいぶんと異なります。米国版が個性むき出しの唯一無二の経験が語られているのに対し、日本版はいわゆる「あるある」ネタが多い印象です。米国版がストーリー重視、日本版は文体重視と言えるかもしれません。同じ話を演者の語り口によって個性を見せつける、落語の影響もあるかもしれません。個人的には米国版の話の方が好みですが、それでも日本版の読みやすさは魅力的です。米国は「何を語るか」が重視されて、日本は「誰が語るか」が重視される社会なのかも、とか、徒然と考えてしまいました。


■映画
54 ベイビー・ブローカー/監督 是枝 裕和
55 ワーロック/監督 エドワード・ドミトリク
56 君たちはどう生きるか/監督 宮﨑 駿

54 ソン・ガンホさんが2022年のカンヌ映画祭で、最優秀男優賞に輝いたことでも話題になった是枝裕和監督作品です。多くの方がおっしゃっていますが、「家族」をテーマにしたお話です。私の浪人生時代に予備校の小論文の講師が、カフェに集まる他人を描いた「バクダット・カフェ」を「家族」がテーマの映画だと言っていたことを思い出しました。赤ちゃんを基点に、良くも悪くもいろいろな縁が繋がっていきます。我々は「何ができるか」ではなく、「生まれてきたこと」自体を尊重されるべきである、ということに気づかせてくれます。語り切らない展開にフラストレーションがたまる面もありますが、先が読めないストーリーはドキドキしますし、ソン・ガンホさんを筆頭に俳優陣の演技は素晴らしく(是枝監督作品らしく、子役の演技が瑞々しいです)、どのキャラクターも実に魅力的です。韓国と日本社会の相違点など、考えさせられる点も多いですが、是枝監督作品には珍しく、エンディングの後味もよいです。「よい映画を観た」という満足感の高い素敵な作品です。

55 1959年の西部劇です。よくある、流れついた敏腕保安官が、ならず者達から町を守る勧善懲悪の話だと思っていたら、意外と善悪の立場が微妙に入れ替わる「法と秩序」をテーマにした深い作品でした。力のない法は偽善に終わってしまいますし、法に従わない力は単なる暴力になってしまう、ということを考えさせられました。ただ、そのテーマがある分、エンターテイメント作品としての切れ味が鈍ってしまっている面も否めません。西部劇らしい、銃撃戦や決闘シーンも多いのですが、もやもやとした決着になっています。悪くはない作品ですが、観るべき西部劇は他にもっとある気がします。

56 事前にほとんど宣伝活動を行わなかったことでも話題になった宮﨑駿監督の最新作です。村上春樹さんの作品を思わせる、「あちら側」に行って戻ってくる話です。ただ、さすが宮崎駿監督作品だけあって、「あちら側」の美しくも毒々しい映像の存在感が独創的かつ圧倒的です。一方、ストーリーの方は、ありきたりで、「宮﨑駿監督がこんな平凡な話を語ったりするわけがない」という願望から、いろいろと補助線を引きたくなります。本作を宮崎駿監督の生い立ちや、スタジオジブリと絡めて語っている人たちの気持ちも理解できます。しかし、本作は、作り手側の想像力のカラフルさを、観客が自らの感覚に従って楽しむタイプの作品だと思います。ただ、「君たちはどう生きるか」という極めて左脳的なタイトルが、そういう楽しみ方を阻害している面もあり、なぜ宮崎駿監督はこのタイトルをつけたのだろう、という思考の迷路に再度はまってしまいます。本作が宮﨑駿監督の最終作となる可能性が極めて高いことも含めて、観終わってからも考え続けさせられる、あとを引く作品です。決して失敗作ではないのですが、傑作と断言することもできない、というのが現時点での感想です。
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遠い空の向こうに

2023-08-13 07:15:45 | Weblog
■本
65 世界はなぜ地獄になるのか/橘 玲
66 現場のプロから学ぶ SEO技術バイブル/西山 悠太朗、小林 睦

65 「リベラル」(橘さんの定義ですと「自分らしく生きたい」という価値観です)化が進む社会には良い面も当然あるが、「格差が拡大」(自由に自分の能力を活かせる社会になると遺伝による能力格差が広がるそうです)し、「社会が複雑」かつ「孤独」(共同体の制約から開放され個々人の利害調整となるとともに、共通の規範などもなくなり、自己責任の重圧が強くなる)になり、「自分らしさ(アイデンティティ)が衝突」(個々人が自由に自分らしさを追求できるので、対立も生じます)し、生きづらさも増大するという内容です。そこから、「キャンセルカルチャー」(社会的に重要な立場に就く人に対して、過去の不適切な言動などに基づき辞職を求める動き)や「ポリティカル・コレクトネス」(政治的な正しさ)の行き過ぎによる、生きづらさが増大する構造が例示されていきます。個人的には、小山田圭吾さんの古くからのファンなので、彼が過去のいじめ発言により、東京オリンピック開会式の作曲担当の辞任に至った経緯の説明は興味深かったです(国家的行事に携わる人間としては確かに不適切な過去ですが、問題となった記事やブログの引用のされ方や、そもそもの記事の取材のあり方を考えると、辞任後もそこまで叩かれなくても、という気がしました)。敬語に対する考察も興味深く、特に、多くの白人の中で黒人がひとりだけいる職場で、その黒人の社員にだけ敬語で呼ぶことは不適切である、という考察はいろいろと考えさせられました。このように最近の橘さんの著作と同様に絶望的な内容が続きますが、それでも本書は、とはいえ、このリベラルな社会は人類史的に見ればとてつもなく恵まれた社会なので、理想を求めすぎることなく、他社に対する一定の寛容さを持ち、現状への妥協を行いながら、社会の仕組みを理解しつつ適応していくべし、という初期の橘さんの書籍でよく示されていた、したたかなポジティブさも感じられ、ささやかな希望も感じました。

66 最近仕事でSEOの知識が必要なので読みました。タイトル通りSEOに必要な知識が網羅的に書かれているバイブル的な本です。技術的な内容から、コンテンツの作り方、さらには、PDCAのまわし方に至るまで、詳細に書かれているので、実務に役に立ちます。難解な箇所もありますが、きちんと「まとめ」で整理してくれているので、理解もしやすいです。モバイル機器への対応など、最新動向に配慮しつつも、「利用者に有益な情報を的確に伝える」という本質的な点にも重点が置かれていて、安易なTIPSの説明に走っていない点もよいです。チェックリストや索引も充実しているので、辞書的にも使えます。かなりのボリュームですので、ざっと流し読みして、知りたいところだけ掘り下げて読むのもよいと思います。


■映画
53 遠い空の向こうに/監督 ジョー・ジョンストン

 斜陽産業となりつつあった炭鉱の町に住む高校生4人が、ソ連が打ち上げた人類初の人工衛星を見てロケット作りに夢中になり、周囲の励ましを得ながらさまざまな苦労を乗り越え、その過程で得た知識により、人生を切り開いていくというお話です。アメフトや野球といったスポーツものや、株やベンチャー企業のビジネスものでの、こういう映画は結構あると思うのですが、科学技術によるサクセスストーリーは珍しいので新鮮でした。また、炭鉱の管理職を務める昔気質の父親と主人公との葛藤の描き方が秀逸で、子を持つ親としてはどちらの気持ちもよく理解できて、かなり共感できました。ロケット作りに取り組んでいる姿の描写が好ましく、シンプルに好きなことに取り組んでいることの尊さを感じました。ベタな展開の映画ではあるのですが、実話を元にしているだけあって、説得力があります。素直に感動しました。相手のスペックを見て言い寄って来る花形の美女よりも、自分のことを理解してくれる地味な女性を、主人公が選んだ点もよかったです。ただ、邦題はよくありがちで、類似タイトルに埋没しそうなので、原作と同じく「オクトーバー・スカイ」か「ロケット・ボーイズ」の方が良かったと思いました。隠れた秀作です。お勧めします。
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推し、燃ゆ

2023-08-06 10:21:21 | Weblog
■本
63 推し、燃ゆ/宇佐見りん
64 アナログレコードにまつわるエトセトラ/山中 明

63 2020年度下半期の芥川賞作品です。ずっと読みたかったのですが、文庫化に伴い手に取りました。ありきたりですが、時代の空気感を見事に切り取っている、というのがまず浮かんだ感想です。推す側、推される側の「生きにくさ」を、アイドル業界特有のコミニティを描きつつ、適応障害の問題とも絡めて、クールに表現されています。中年男性の読者としては、もう少し親側の視点の描写も読みたい気がしましたが、毒親とまではいかない存在でも、子どもを損ない得るし、逆にその子どもから傷つけられる(親としては若干の後悔の念も芽生えていそうです)という残酷な現実が突きつけられた気がします。人間は衣食住が足りるだけでは決して満足できず、それを埋めるために推すアイドルが存在し、その存在に救われるが、その関係性は全ての人間関係と同じように永遠には続かない、という構造が、生命のあり方の理不尽さにも繋がっているのかもしれません。鋭い感性を持つ人の表現に触れらたという満足感の高い読書体験でした。

64 最近CDよりも販売枚数が上回ったとされるアナログレコード、特に、希少盤を含む中古盤市場について書かれた本です。ディスクユニオンの店長さんが書かれた本だけあって、レコードに対する愛情がこもった、詳しすぎるくらい詳しい内容です。レコード盤の品質や市場に出回っている枚数だけでなく、プレスされた順番などまで考慮されて(原盤を物理的にコピーして制作されるアナログの性質上、プレスされる数が増えるにつれて溝などが摩耗し音質が劣化する、そしてその原盤自体もなぜか市場に流通している)、価格が決定されるという構造に驚きました。そういう点では初版本が重視される中古本市場と構造が似ているのかもしれません。個人的には雑な性格ですし、希少性よりも網羅性の方を重視するので、取り扱いに注意が必要で入手が困難なアナログ盤よりも、CDの方を今後も集めていきたいと思っていますが、マニアのこだわりポイントとその差別化への飽くなき探究心は、興味深かったです。要は、どの程度のこだわりが自分にとって心地よいか(こだわり過ぎると精神的にも財政面でも苦しくなりそうです)、を見極めるのが、コレクターとしての正しいあり方なのだと思いました。つくづく人間は衣食住が足りるだけでは決して満足できない、業が深い生き物だと思いますし、だからこそ、喜びも得られるのだと思いました。


■映画
52 パリで一緒に/監督 リチャード・クワイン

 執筆に苦しむ映画脚本家とオードリー・ヘプバーン演じるタイプライターが、脚本執筆場面とその脚本内世界の空想シーンを行ったり来たりしつつ、パリを舞台に愛を深めるラブ・コメディです。三谷幸喜監督が好みそうな設定ですが、三谷監督作品よりも流れが悪く、ギャグの切れ味も弱いです。一方で、無垢な表情から脚本内の悪女役まで、オードリー・ヘプバーンのいろいろな表情が存分に堪能できます。1964年公開の作品で、この時代のハリウッド映画を観るといつも思うのですが、中年男性に都合の良すぎる展開が笑えます。いくらなんでも、オードリー・ヘプバーンのような魅力的な女性(しかも全盛期)が、お金を持っているのかもしれませんが、こんなアル中の中年男性と数日一緒に過ごしただけで、恋に落ちるとはとても思えません。などと思わず嫉妬心も芽生えるほど、まさに彼女を観るためだけの作品で、その観点からは成功していると思います。
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