■本
95 日本の反知性主義/内田 樹 編
この本に収録されている内田さんの文章が、東大の現代文入試で出題されたという新聞記事を見て読みました。内田さんだけでなく、白井聡さん、高橋源一郎さん、鷲田清一さんといった、普段からその発言や論考に注目している方々の文章も収録されているので、興味深く読みました。「反知性主義」とは「知性」の欠如ではなく、複雑性を増す状況下で効率性を重んじるあまり、ものごとをシンプルに理解し素早く判断したいという、ある種「知的」な態度であるということがよく理解できました。本当に「知的」な態度とは、素早く判断することではなく、自分の知識の不足や判断の偏りの危険性を自覚しながら、ときには決断を先延ばしすることを含めて、熟慮することだと私は理解しました。ただ、この態度が、変化の激しい時代にそぐわないことも事実で、結局は時には素早く判断をしつつも、一度下した決定を絶対的なものとみなさず、常に検証し必要に応じて修正していく柔軟性も大切だと思いました。自分の限界を自覚しつつ、それでも判断を下す上では、過去の歴史や先人の知恵から学ぶことが重要であり、そういう意味でも最近、教養が再評価されているのだと思いました。
■CD
15 To Pimp A Butterfly/Kendrick Lamar
先日改訂発表された、ローリングストーン誌のTOP500アルバムで19位に位置づけられるなど(ちなみに、18位がボブ・ディランの「Highway 61 Revisited」で、20位がレディオヘッドの「Kid A 」です)、時代を超えた評価を確立しつつあるラッパー、ケンドリック・ラマーのサード・アルバムです。ソウルはもちろんのことジャズやロックの要素を取り入れたトラックはとても知的ですが、ア・トライブ・コールド・ウエストと比べると、肉体的で熱を感じます。それでいて、リズムの心地よさに身を委ねるだけではなく、左脳に訴えかけるメッセージ性も豊富です。カニエ・ウエストやフランク・オーシャンといったアイデアの豊富さで勝負するタイプでもない気がして、ジャンルの枠にはまらない総合力の高さが魅力的な作品です。
■映画
91 今日も嫌がらせ弁当/監督 塚本 連平
92 チェ 28歳の革命/監督 スティーブン・ソダーバーグ
91 キャラ弁をテーマにした人気ブログを原作とした映画です。反抗期の高校生の娘への嫌がらせとして、母親が3年間キャラ弁を作り続けたという事実が、まず面白いです。八丈島を舞台にした映画はそれほど多くないと思いますので、その映像も観ていて楽しいです。ストーリーは、思春期の子どもの反抗からの旅立ちといったありがちな内容で、クライマックスで泣かせようという意図が見え見えなところが少し興ざめです。それでも、キャラ弁の映像を軸に、スピーディーに展開していくので、観ていてダレることはありません。母親役の篠原涼子さんは抜群のコメディエンヌ振りでしたが、娘役の芳根京子さんは、持ち前の演技力を活かしきれていない気がしました。その分、姉役の松井玲奈さんの飄々とした演技が印象に残りました。思春期の子どもに対する接し方に悩んでいる人は、この作品を観ると少し気が楽になるかもしれません。
92 先週、オードリー若林さんの「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」を読んだので、キューバ革命のことをもっと知りたいと思い観ました。「オーシャンズ~」シリーズや、コロナ禍を予言したかのような内容で最近再注目されている「コンテイジョン」などを監督し、ストーリーテリングに定評のあるスティーブン・ソダーバーグ監督作品ですが、この作品はドラマティックな演出は控えめで、淡々とドキュメンタリータッチで描かれています。国連での演説シーンと過去の戦闘の回想シーンとが行ったり来たりしながら話が進むのですが、その難解な構成は必ずしも成功していない気がします。二部作の前編なので、続編への伏線を張っているのかもしれません。当時40歳を超えていたベニチオ・デル・トロが、28歳のチェ・ゲバラを演じるのはさすがに少し違和感がありましたが圧倒的な存在感でした。戦いに勝利した都市の資本家から奪った車で、首都ハバナに進軍しようとする部下に、その車を返してくるように厳しく指導するエンディングシーンなど、チェ・ゲバラのモラルを重視する姿勢と頭の良さが印象に残りました。
95 日本の反知性主義/内田 樹 編
この本に収録されている内田さんの文章が、東大の現代文入試で出題されたという新聞記事を見て読みました。内田さんだけでなく、白井聡さん、高橋源一郎さん、鷲田清一さんといった、普段からその発言や論考に注目している方々の文章も収録されているので、興味深く読みました。「反知性主義」とは「知性」の欠如ではなく、複雑性を増す状況下で効率性を重んじるあまり、ものごとをシンプルに理解し素早く判断したいという、ある種「知的」な態度であるということがよく理解できました。本当に「知的」な態度とは、素早く判断することではなく、自分の知識の不足や判断の偏りの危険性を自覚しながら、ときには決断を先延ばしすることを含めて、熟慮することだと私は理解しました。ただ、この態度が、変化の激しい時代にそぐわないことも事実で、結局は時には素早く判断をしつつも、一度下した決定を絶対的なものとみなさず、常に検証し必要に応じて修正していく柔軟性も大切だと思いました。自分の限界を自覚しつつ、それでも判断を下す上では、過去の歴史や先人の知恵から学ぶことが重要であり、そういう意味でも最近、教養が再評価されているのだと思いました。
■CD
15 To Pimp A Butterfly/Kendrick Lamar
先日改訂発表された、ローリングストーン誌のTOP500アルバムで19位に位置づけられるなど(ちなみに、18位がボブ・ディランの「Highway 61 Revisited」で、20位がレディオヘッドの「Kid A 」です)、時代を超えた評価を確立しつつあるラッパー、ケンドリック・ラマーのサード・アルバムです。ソウルはもちろんのことジャズやロックの要素を取り入れたトラックはとても知的ですが、ア・トライブ・コールド・ウエストと比べると、肉体的で熱を感じます。それでいて、リズムの心地よさに身を委ねるだけではなく、左脳に訴えかけるメッセージ性も豊富です。カニエ・ウエストやフランク・オーシャンといったアイデアの豊富さで勝負するタイプでもない気がして、ジャンルの枠にはまらない総合力の高さが魅力的な作品です。
■映画
91 今日も嫌がらせ弁当/監督 塚本 連平
92 チェ 28歳の革命/監督 スティーブン・ソダーバーグ
91 キャラ弁をテーマにした人気ブログを原作とした映画です。反抗期の高校生の娘への嫌がらせとして、母親が3年間キャラ弁を作り続けたという事実が、まず面白いです。八丈島を舞台にした映画はそれほど多くないと思いますので、その映像も観ていて楽しいです。ストーリーは、思春期の子どもの反抗からの旅立ちといったありがちな内容で、クライマックスで泣かせようという意図が見え見えなところが少し興ざめです。それでも、キャラ弁の映像を軸に、スピーディーに展開していくので、観ていてダレることはありません。母親役の篠原涼子さんは抜群のコメディエンヌ振りでしたが、娘役の芳根京子さんは、持ち前の演技力を活かしきれていない気がしました。その分、姉役の松井玲奈さんの飄々とした演技が印象に残りました。思春期の子どもに対する接し方に悩んでいる人は、この作品を観ると少し気が楽になるかもしれません。
92 先週、オードリー若林さんの「表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬」を読んだので、キューバ革命のことをもっと知りたいと思い観ました。「オーシャンズ~」シリーズや、コロナ禍を予言したかのような内容で最近再注目されている「コンテイジョン」などを監督し、ストーリーテリングに定評のあるスティーブン・ソダーバーグ監督作品ですが、この作品はドラマティックな演出は控えめで、淡々とドキュメンタリータッチで描かれています。国連での演説シーンと過去の戦闘の回想シーンとが行ったり来たりしながら話が進むのですが、その難解な構成は必ずしも成功していない気がします。二部作の前編なので、続編への伏線を張っているのかもしれません。当時40歳を超えていたベニチオ・デル・トロが、28歳のチェ・ゲバラを演じるのはさすがに少し違和感がありましたが圧倒的な存在感でした。戦いに勝利した都市の資本家から奪った車で、首都ハバナに進軍しようとする部下に、その車を返してくるように厳しく指導するエンディングシーンなど、チェ・ゲバラのモラルを重視する姿勢と頭の良さが印象に残りました。