本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

消費大陸アジア

2017-11-25 10:23:16 | Weblog
■本
93 消費大陸アジア/川端 基夫
94 サラバ! 上/西 加奈子
95 サラバ! 中/西 加奈子
96 サラバ! 下/西 加奈子

93 ポカリスエットがインドネシアで当初の販売低迷を脱して爆発的に売れた理由やアメリカやアジアで吉野家のカウンターでの食事がなぜ普及しなかったか、など、日本とは異なるアジアの市場環境での、それぞれの商材の受け止められ方が、緻密な現地調査や関係者への聞き取りを背景に、非常にロジカルに整理されていて、知的好奇心が大いに満たされる楽しい本です。個人的には、日本では成功しなかった大型ディスカウント店がアジアで成長している理由と、日本人には時に非衛生的に思える屋台での食事にアジアの人々が「安全安心」を感じているロジックに目から鱗が落ちる思いでした。楽しいだけでなく、提供者の押し付けではない、現地生活者が受け入れ可能なストーリーをどのように商材に付与するか、というマーケティングの本質についても学べる実務者にも有益な本です。アジア市場への進出を検討されている方だけでなく、全てのビジネスパーソンにお勧めできる素晴らしい本だと思います。

94~96 少しずるいですが、文庫本は3分冊ですので3冊分としてカウントさせていただきます。先が全く読めないストーリー展開で、どう話が転がっていくのかが気になって、一気に読み終えました。このあたりのストーリーテラーとしての西加奈子さんの力量はさずがだと思いました。ただ、「アメトーーク!」など各種メディアで絶賛され、私の中のハードルが上がり過ぎていたのか、楽しい読書体験ではあったものの、さほど心に響くものはなかった気がします。「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ。」という、この時代にマッチしたテーマ選定は素晴らしいと思いますが、「信じるもの」を見つけてもそう簡単に人は変われるのか、という点が少し疑問です。結局は、「信じるもの」も少しずつ変わりながら、その変遷の過程も踏まえてその人のスタイルなのだと思います。その辺りの「信じるもの」を見つけた後の揺らぎは、それぞれの読者が個々に想像すべきものなのかもしれませんが、登場人物のあまりの変わりように違和感が残りました。ただ、どんな欠点のある登場人物に対しても、常に優しい視線が注がれていて、承認欲求に溢れた現代社会での、この作品の癒し効果は絶大だと思います。


■CD
45 Strangers to Ourselves/Modest Mouse

 2007年に発表されて全米アルバムチャート1位に輝いた「We Were Dead Before the Ship Even Sank」から8年ぶりに発表された作品です。その間にメンバーチェンジ(元ザ・スミスのギタリストのジョニー・マーが脱退したりしています)が何度かあったようで、一時の勢いが欠けた印象です。それでも、優しくもどこか神経症的な独特のヴォーカルと、どう転ぶかわからないトリッキーなメロディ展開は健在です。今の時代にどれだけニーズがあるかはわかりませんが、聴き手を選ぶ知的なロックです。


■映画
68 デスノート Light up the NEW world/監督 佐藤 信介

 「デスノート」シリーズは、ルールの後付け感がどうしても気になってしまいますが、その瑕疵を補って余りある緻密な頭脳戦とそれを主導する強烈なキャラクターが魅力の作品だと思います。しかし、本作では、頭脳戦の詰めが甘いところとキャラクターが弱い点が少し残念でした。真犯人が明らかになる部分は、意外性のあるロジックで面白かったのですが、真犯人のとった狂気を孕んだ行動に見合うだけの毒が、そのキャラクターになかったところがインパクトに欠けたと思います。全体的に映像やセットもチープな感じがしてテレビドラマのような印象でした。逆に、映画ではなくテレビドラマの企画としてならもっと評価できたのかもしれません。
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ドリーム

2017-11-18 09:31:23 | Weblog
■本
91 IoTとは何か 技術革新から社会革新へ/坂村 健
92 己を、奮い立たせる言葉。/岸 勇希

91 組込みシステムのOS「TRON」の生みの親である坂村さんによる本だけあって、最近バズワードとなっている「IoT」(Internet of Things)=「モノのインターネット」(センサーや通信デバイスの技術進歩や価格低下により、ものがそれぞれインターネットにつながりさまざまな情報をやりとりすることにより、新たなサービスやビジネスの可能性が生まれること、と私は理解しています)について、表面の流行を追うことなく、そもそもの本質的な意義や課題が提示されているよい本です。恥ずかしながら、パソコン等での情報処理系のOS(人間相手だと最悪待たせることができるのでタイムシェアリングしたタスク管理が中心)と組込み用のOS(機器相手だと待たせると必要な動作が止まってしまうので、緊急度の高いものから仕事をこなしていく優先順位付けが中心)ということを初めて知りました。「CRMからVRM」(サービス提供者が顧客を管理するのではなく、顧客が自分の個人情報を開示するサービス提供者を選ぶこと)など、IoT普及に向けた壮大な構想力や、技術と同時にガバナンス(「制度設計」という意味だと私は理解しました)も重要、といった技術第一主義ではない視点も迫力があります。

92 元電通のエグゼクティブクリエーティブディレクターの方が書かれた、タイトル通り「己を、奮い立たせる言葉」を集めた本です。水野敬也さんの名言集にも少し似たテイストですが、水野さんの本はエンタメ要素と読者へのある程度の逃げ道(とその逃げ道を先回りしての親切な回避策)が用意されているのに対して、岸さんのこの本は読者にも、そしてご本人自身にも逃げ場を与えない、凄まじい迫力が漲っています。岸さんほど真剣に仕事に向き合うことは、かなり大変だと思いますが、ここまで身を切る思いで仕事に取組み成果を上げている人がいる、ということを知っておくことは大切だと思います。


■CD
44 Red Pill Blues/Maroon 5

 最近の音楽シーンのツボを押さえつつも流され過ぎることなく、自分たちの良いと思う音楽を貫き通すという強い意志が感じられる好感の持てる作品です。「Moves Like Jagger」や「Payphone」のようなテンションの高いキラーチューンはないですが、本作でのリラックスした楽曲は、かえってヴォーカルのアダム・レヴィーンの伸びやかで艶のある声を際立てているような気がします。初期の名曲「Sunday Morning」を思わせるような雨の日の休日の朝に聴きたくなる作品です。もう少し聴いていたいと思わせる腹八分目の長さもいい感じです。


■映画
66 BALLAD 名もなき恋のうた/監督 山崎 貴
67 ドリーム/監督 セオドア・メルフィ

66 「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズの山崎貴監督による、評判のよかったクレヨンしんちゃん映画版の実写リメイクです。草彅剛さんと新垣結衣さんによる戦国時代を舞台にした身分違いの切ない恋物語に、タイムスリップしてきた少年の成長と家族愛をからめて、わかりやすく感動できる映画となっています。この「わかりやすい感動」をよりお手軽にするためにか、山崎監督作品にありがちな薄っぺらい人物描写がからみ、どこを切っても作品の性質を理解できる非常に親切な作品に仕上がっています。原作の脚本がとてもしっかりしている点と安易なハッピーエンドになっていない点はよかったと思います。「信長協奏曲」とよく似た構造の映画ですが、その映画での古田新太さんのようなアクセントのあるキャラクターがいてもよかったかもしれません。

67 今年度のアカデミー作品賞ノミネート作品だけあって、非常に優れたヒューマンドラマです。人種差別、女性差別の問題に真正面から取り組みながら声高に主張しすぎることなく、NASAの有人ロケット打ち上げ成功に密かに貢献した、実在の優秀な黒人女性3人の姿が描かれています。差別される側の女性たちが、さまざまな苦難を乗り越えながら、その自らの能力と努力で次第に差別する側の白人男性に認められ、共通の目標を達成するという姿が爽やかです。人力の計算からコンピューターの計算へと推移していく流れをいち早く予期し、部下(その時は管理職でもなんでもなかったのですが)の黒人女性たちにプログラミング言語のFORTRAN習得を促し、みんなの雇用を守った登場人物に、個人的には最も感銘を受けました。先読みして組織と部下を守る理想的な管理職だと思います。アメリカはいろいろと問題のある社会ですが、能力次第で閉塞された状況でも突破できるという可能性(それは本当に少ない可能性だとは思いますが)を素直に讃えられるところは素晴らしいと思います。タイトルは「ドリーム」ではなく、原作の「Hidden Figures」(「未知の数式」くらいの意味でしょうか?)の方がよかったと思いましたが、このタイトルになるまでに結構紆余曲折があったようですね。
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閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済

2017-11-11 09:34:29 | Weblog
■本
89 デジタルトランスフォーメーション/ベイカレント・コンサルティング
90 閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済/水野 和夫

89 ここ数年バズワードとなっている「デジタルトランスフォーメーション」(デジタル技術による変革)について書かれた本です。コンサルファームが書かれた本なので、企業経営者目線で書かれています。日々の生活や業務にどのような影響があるかという生活者/実務者の立場から言うと、少し読みにくいかもしれません。また、それぞれの要素技術や実例は若干古い気もします。しかし、俯瞰的に「デジタルトランスメーション」が企業経営にどのような影響を与え、どのように取り組んでいく必要があるかを知るには参考になります。「最新のITを活用し、顧客経験に訴求したサービスを提供すること」が重要、など、本質をシンプルな言葉で伝えてくれるので頭の整理にも役立ちます。

90 前作、「資本主義の終焉と歴史の危機」と同様に、「なぜ資本主義が終焉に向かっているのか」、や、「なぜ各国がグローバリズムに背を向けようとしているのか」、ということについてわかりやすく解説してくれます。前作は「金利」を軸に、低金利で資本が高い利潤を上げられなくなったことを示し、資本主義の終焉について解説されていましたが、今作では「蒐集」というキーワードを軸に、リアルの世界では未開地域がなくなり、無限と思われた「電子・金融空間」でもリーマンショック以降限界が見えてきたので、「より広い空間」を求め「蒐集」を続けていくのではなく、逆に経済圏を「閉じる」方向に向かう必要があると主張されています。前作と比べると、繰り返しが多く、議論も若干上滑りなところもありますが、経済学や歴史の豊富な知識に基づき、思いもよらぬ要素が関連付けられて話が展開されていくので、知的好奇心が大いに満たさる本です。


■CD
43 SHINJITERU/ハナレグミ

 前作と同様に、冒頭から優しさに溢れたシンプルでスローな楽曲が中心です。さりげない日常の中にある幸せを描いた歌詞同様、音の方も最低限ながらも心地よく胸に染みこみます。でも、この若さでここまで悟りきった境地に達するのも少し違和感が残ります。もちろん、ハナレグミの声や音楽は大好きなのですが、もう少し引き出しの多いアーチストだと思いますので、もっといろんな側面を見せて欲しいとも思いました。ライブとかで聴くと印象が違うのかもしれませんね。


■映画
65 ロンドン・ブルバード/監督 ウィリアム・モナハン

 主演が「フォーン・ブース」のコリン・ファレル、ヒロインが「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズのキーラ・ナイトレイということで、そう大外れはしないだろうと思ったのですが、なかなか残念な作品でした。コリン・ファレルは、荒々しくも心優しい前科者を渋く演じていますし、キーラ・ナイトレイも陰のある元女優というこれまでのイメージと違った役を野心的に熱演しています。いかにもイギリスっぽい、スタイリッシュな映像も悪くないです。おそらく、ガイ・リッチー監督作品のような、トリッキーながらもセンス溢れる作品を目指したのだと思いますが、肝心の脚本が尻つぼみで、苦みのある意外性のあるエンディングも拍子抜けの感覚しか残りませんでした。もっと面白い作品になり得たと思うので惜しいです。
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ブレードランナー 2049

2017-11-03 07:57:32 | Weblog
■本
85 バカになったか、日本人/橋本 治
86 「憲法改正」の真実/樋口陽一、 小林節
87 自分を変える読書術/堀 紘一
88 孤独のすすめ/五木 寛之

85 2011年から2014年にかけて「週刊プレイボーイ」などに書かれた橋本治さんの時事コラム集です。民主党政権から第2次安倍政権にかけての内容で、政治の混乱、東日本大震災、原発などについて語られています。東大法学部出身の方々を評して「『周りのことなんか眼中にない』分、愛想はいいんです」、と言って見たり、日本の議論の進め方を「初めに結論ありき」と喝破されたり、毒気タップリに本質を語られています。この本に書かれた時期から3年以上たって、日本の状況はさらに悪くなっている気がして、楽しく読みつつも焦燥感が募ります。

86 今回の選挙結果を受けて、「憲法改正」が現実味を帯びてきたので読みました。私個人的には、「憲法は変えてもいいが、今の政権が今よりいいものを作れるとは思えない」というスタンスなのですが、この本を読んでその思いを強くしました。護憲派、改憲派それぞれの立場を取ってこられた二人の憲法学者がそろって指摘されているので、少なくとも、安保関連法案と自民党憲法改正草案は問題だらけということがよく理解できました。いずれにしても、自分がきちんとした判断をできるように、憲法についてもっと勉強する必要があると思いました。

87 先週読んだ堀さんの「心を動かす話し方」が参考になったので、その姉妹編とも呼べるこの本を読みました。「学歴よりも、読書で『学習歴』を作れ」というメッセージが印象的に残ります。「読書により過去の失敗から学ぶ」など、出口治明さんも述べられている読書の効用について語られていて、こういった実績を残している方々のお言葉だけあって説得力があります。歴史だけでなく、堀さんが読むべきとおっしゃっている生物学、軍事学、哲学についての知識も乏しいので積極的に読んでいかねば、と思いました。その一方で、「ストーリー構築力」が高まるなど、小説を読む効用についても触れられているので、自分の読書経験が大外れしていないことに、少し自信も持てました。

88 最近のベストセラーということで読みました。最初の方はタイトル通り、人生後半は自分の人生を回想し、そのよい思い出を一人静かに味わうべし、といったようなことが書かれていますが、後半は、快適な補聴器や入歯の開発をするなど、高齢者主体で自分たちに合った商品を開発し、高齢化社会先進国としてグローバルに展開すべし、と一気に活動的な内容に変わってきます。このように、年金や社会に依存しない「自立のすすめ」と言った内容へと次第に変わってきますが、その主張を80歳を超えた五木寛之さんが語られてるところに意味があると思います。世代間の断絶を避けるために、「高齢者は自らに向けられる『嫌老意識』にまず『気づく』こと」が大切など、同世代でないと言えないことが語られていて、かつ、この本が売れているという事実に、進みつつある高齢化社会と私自身の老化にかすかな希望が見えた気がしました。


■CD
42 Pacific Daydream/Weezer

 Weezer史上最もわかりやすい作品ではないでしょうか? 若干屈折した泣きのメロディーが特徴的なバンドですが、この作品では、ひたすらド直球でキラキラときらめく美メロが満載です。ドラマティックな盛り上げ方は、「Foster The People」かと思うほどです。自分達らしさをある意味捨てて、キャッチーさに徹しているところが逆に少し不気味ですが、万人受けする親しみやすい傑作だと思います。Beckの新作のように、いろいろと実験した上でたどり着いたポップさとも言えます。


■映画
64 羅生門/監督 黒澤明
65 ブレードランナー 2049/監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ

64 言わずと知れた黒澤明監督の名作です。おそらく学生のころに観た気がするのですが、ほとんど記憶に残っていなかったので、デジタル完全版で改めて観ました。まず、これだけ奇妙で地味な作品を商業映画として公開した決断に敬意を表します。平安時代のある殺人事件の関係者が、その事件についてそれぞれ異なった供述をする様子を描くことにより、同じ事件でもそれぞれ自分の都合のよい解釈をする、人間の身勝手さ、弱さを描き切った作品です。被害者自身の供述を巫女が行うという発想が斬新で、平安時代という舞台設定が見事に活かされています。デジタル化によりモノクロ映像のコントラストがくっきりとして、壮大な羅生門のセットの存在感が圧倒的にせまってきます。最後にかすかな希望を感じさせるエンディングなど、観終わった後もじわじわと感情が揺さぶられる素晴らしい作品です。人間の心理描写だけでも、壮大で奥行き深いドラマとなり得ることを示すお手本のような作品です。

65 熱狂的なファンの多い伝説的な作品の続編としては、申し分のない内容だと思います。私自身もこの作品が大好きなので、前作に忠実な世界感、キャラクターの活かし方(アナ・デ・アルマス演じるホログラムの女性がとてもキュートです)など、「メッセージ」のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督らしい非常に考え抜かれた内容に感心しました。前作の「愛」から「性」へとテーマが進化していく流れも説得力があります。今作で新たに提示された謎や伏線も実に忠実に回収され、抑制の効いたエンディング(ダブル主演のライアン・ゴズリングとハリソン・フォードの最後の表情が秀逸です)も含め、観終わった後の満足感もかなり高いです。逆に謎がほとんど解消されてスッキリし過ぎる点が、引っかかりの多かった前作と比較すると評価が分かれるかもしれません。それでも、「デッカードが人間か否か」という最大の謎については観客の判断に委ねられたままで、そういう意味でも理想的な続編です。ただ、少し長すぎましたね。熱狂的なファンも25年ぶりの公開ということでお年を召されたのか、途中でトイレに立たれる方が続出で、映画館で集中力を保つのに少し苦労しました。あと、ネットで公開されている、前日譚の短編動画3篇を事前に観ていくことをお勧めします。
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