■本
40 絶望の国の幸福な若者たち/古市 憲寿
41 A/中村 文則
40 少子高齢化による国力の低下や財政破綻リスクが高まる未来に希望が持てない日本という国で、それでも、今(と言ってもこの本が書かれたのは東日本大震災直後の2011年だったりするのですが)の若者たちは、身近な友人たちとの繋がりを感じつつそれなりに幸福に暮らしている、という状況をさまざまなアンケート調査や著者のフィールドワークなどから明らかにした、タイトル通りの内容の本です。論理展開やタイトルに象徴的なキャッチーな言葉選びが非常に明快でわかりやすいですし、本文や脚注でのシニカルかつコミカルな語り口が読みやすく、古市さんの地頭のよさや、旺盛なサービス精神が感じられる本です。その一方で、年長者による「不幸な若者」という語り口が、ナショナリズムの強化や都合の良い労働力・消費者としての期待など、決して若者を慮っての発言ばかりではない、ということを敏感に感じ取り(そのため、この種の若者を慮ってない方々からはこの本の評価は極めて低いわけですが)、ささやかな幸せを感じながらしたたかに生活している若者にエールを送る優しい視線も持たれています。知的好奇心が満たされるよい本だと思います。
41 「教団X」で大ブレイクした中村文則さんがその直前に出版された短編集です。シュールなもの、官能的なもの、実験的なものなど、取っ付きにくい小説が多いので、必ずしも万人受けする作品ではないですが、中村さん独特の狂気を孕んだ不穏な雰囲気がどの作品にも充満しています。タイトル作「A」から続く最後の3作の出来が特に秀逸で、戦争や従軍慰安婦問題、友人の死」といったテーマを上から目線で語るのではなく、そこに巻き込まれた個々人の狂気にただひたすら寄り添って描かれているところに、中村さんの人間に対するクールな共感性を感じました。
■映画
30 THE LAST MESSAGE 海猿/監督 羽住 英一郎
テレビドラマなどでヒットした「海猿」シリーズの映画版第3作目です。実は、「海猿」シリーズを初めて観たのですが、キャラクターと展開がわかりやすいので、事前知識がなくともすんなり作品世界に入れました。お涙頂戴の善人ばかりが出てくるストーリーがチープ過ぎるなどの、突っ込みどころがあるかもしれませんが、過度な社会的メッセージを控え、エンターテイメントに徹した潔さは評価されるべきだと思います。映像は迫力満点で、俳優陣も大御所俳優のカメオ出演等を排しつつ実力派を揃え、使うべきところにお金を使っている感じも好ましいです。個人的には必ずしも好きなタイプの映画ではないのですが、どこか好感が持てるところがあり、関連作品も観たくなりました。
40 絶望の国の幸福な若者たち/古市 憲寿
41 A/中村 文則
40 少子高齢化による国力の低下や財政破綻リスクが高まる未来に希望が持てない日本という国で、それでも、今(と言ってもこの本が書かれたのは東日本大震災直後の2011年だったりするのですが)の若者たちは、身近な友人たちとの繋がりを感じつつそれなりに幸福に暮らしている、という状況をさまざまなアンケート調査や著者のフィールドワークなどから明らかにした、タイトル通りの内容の本です。論理展開やタイトルに象徴的なキャッチーな言葉選びが非常に明快でわかりやすいですし、本文や脚注でのシニカルかつコミカルな語り口が読みやすく、古市さんの地頭のよさや、旺盛なサービス精神が感じられる本です。その一方で、年長者による「不幸な若者」という語り口が、ナショナリズムの強化や都合の良い労働力・消費者としての期待など、決して若者を慮っての発言ばかりではない、ということを敏感に感じ取り(そのため、この種の若者を慮ってない方々からはこの本の評価は極めて低いわけですが)、ささやかな幸せを感じながらしたたかに生活している若者にエールを送る優しい視線も持たれています。知的好奇心が満たされるよい本だと思います。
41 「教団X」で大ブレイクした中村文則さんがその直前に出版された短編集です。シュールなもの、官能的なもの、実験的なものなど、取っ付きにくい小説が多いので、必ずしも万人受けする作品ではないですが、中村さん独特の狂気を孕んだ不穏な雰囲気がどの作品にも充満しています。タイトル作「A」から続く最後の3作の出来が特に秀逸で、戦争や従軍慰安婦問題、友人の死」といったテーマを上から目線で語るのではなく、そこに巻き込まれた個々人の狂気にただひたすら寄り添って描かれているところに、中村さんの人間に対するクールな共感性を感じました。
■映画
30 THE LAST MESSAGE 海猿/監督 羽住 英一郎
テレビドラマなどでヒットした「海猿」シリーズの映画版第3作目です。実は、「海猿」シリーズを初めて観たのですが、キャラクターと展開がわかりやすいので、事前知識がなくともすんなり作品世界に入れました。お涙頂戴の善人ばかりが出てくるストーリーがチープ過ぎるなどの、突っ込みどころがあるかもしれませんが、過度な社会的メッセージを控え、エンターテイメントに徹した潔さは評価されるべきだと思います。映像は迫力満点で、俳優陣も大御所俳優のカメオ出演等を排しつつ実力派を揃え、使うべきところにお金を使っている感じも好ましいです。個人的には必ずしも好きなタイプの映画ではないのですが、どこか好感が持てるところがあり、関連作品も観たくなりました。