本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

絶望の国の幸福な若者たち

2017-05-27 09:28:41 | Weblog
■本
40 絶望の国の幸福な若者たち/古市 憲寿
41 A/中村 文則

40 少子高齢化による国力の低下や財政破綻リスクが高まる未来に希望が持てない日本という国で、それでも、今(と言ってもこの本が書かれたのは東日本大震災直後の2011年だったりするのですが)の若者たちは、身近な友人たちとの繋がりを感じつつそれなりに幸福に暮らしている、という状況をさまざまなアンケート調査や著者のフィールドワークなどから明らかにした、タイトル通りの内容の本です。論理展開やタイトルに象徴的なキャッチーな言葉選びが非常に明快でわかりやすいですし、本文や脚注でのシニカルかつコミカルな語り口が読みやすく、古市さんの地頭のよさや、旺盛なサービス精神が感じられる本です。その一方で、年長者による「不幸な若者」という語り口が、ナショナリズムの強化や都合の良い労働力・消費者としての期待など、決して若者を慮っての発言ばかりではない、ということを敏感に感じ取り(そのため、この種の若者を慮ってない方々からはこの本の評価は極めて低いわけですが)、ささやかな幸せを感じながらしたたかに生活している若者にエールを送る優しい視線も持たれています。知的好奇心が満たされるよい本だと思います。

41 「教団X」で大ブレイクした中村文則さんがその直前に出版された短編集です。シュールなもの、官能的なもの、実験的なものなど、取っ付きにくい小説が多いので、必ずしも万人受けする作品ではないですが、中村さん独特の狂気を孕んだ不穏な雰囲気がどの作品にも充満しています。タイトル作「A」から続く最後の3作の出来が特に秀逸で、戦争や従軍慰安婦問題、友人の死」といったテーマを上から目線で語るのではなく、そこに巻き込まれた個々人の狂気にただひたすら寄り添って描かれているところに、中村さんの人間に対するクールな共感性を感じました。


■映画
30 THE LAST MESSAGE 海猿/監督 羽住 英一郎

 テレビドラマなどでヒットした「海猿」シリーズの映画版第3作目です。実は、「海猿」シリーズを初めて観たのですが、キャラクターと展開がわかりやすいので、事前知識がなくともすんなり作品世界に入れました。お涙頂戴の善人ばかりが出てくるストーリーがチープ過ぎるなどの、突っ込みどころがあるかもしれませんが、過度な社会的メッセージを控え、エンターテイメントに徹した潔さは評価されるべきだと思います。映像は迫力満点で、俳優陣も大御所俳優のカメオ出演等を排しつつ実力派を揃え、使うべきところにお金を使っている感じも好ましいです。個人的には必ずしも好きなタイプの映画ではないのですが、どこか好感が持てるところがあり、関連作品も観たくなりました。
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HUMANZ

2017-05-20 12:42:56 | Weblog
■本
39 サーチ・インサイド・ユアセルフ/チャディー・メン・タン

 元Googleのエンジニアによるマインドフルネス(瞑想のようなもの)の実践法が書かれた本です。副題の「仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法」の通り、Google社内でも研修プログラムとして提供された方法論が具体的に説明されています。Google社員らしく、このマインドフルネスにより「世界平和を実現したい」という「善」に対する疑いのない真っ向な取り組み姿勢が眩しいです。翻訳本にありがちな冗長な語り口により少し読みにくいですが、エンジニアらしく、ロジカルにかつビジネスにどのように活かせるか、についての視点で書かれているので参考になります。


■CD
22 HUMANZ/GORILLAZ

 ブラーのデーモン・アルバーンによるサイドプロジェクトの新作です。これまでは、どちらかと言えば実験的でゆるーい感じの楽曲が特徴的でしたが、この作品はゲストも豪華で完成度がかなり高いです。3分前後の短いバラエティに富んだ個性的な楽曲がたたみかけるように続き、ベンジャミン・クレモンタインが朗々と歌い上げる「Hallelujah Money」と非常にキャッチーでテンションが上がるキラーチューン「We Got The Power」という楽曲で締める構成もとても巧みです。バーチャルのキャラクターになっても、クリエーターとしてのデーモン・アルバーンの才気は迸りまくってます。今一番好きなアーチストかもしれません。


■映画
28 SING/監督 ガース・ジェニングス
29 駆込み女と駆出し男/監督 原田 眞人

28 動物の擬人化されたCGキャラクターが、オーディションで次々とヒット曲を歌うという予告編が印象的だったので観ました。日々の生活にそれぞれの葛藤を抱える歌好きの登場人物が、さまざまな困難を乗り越え歌のオーディション大会に出場し、新しい自分を発見する、という言葉にするとチープなあらすじですが、登場人物が歌う楽曲の選び方も含め、細部にわたる配慮が行き届いた作品です。ミニオンズのイルミネーション・エンターテインメントらしく、冒頭からのスピーディーな展開で各キャラクターの状況を手際よく説明し、一気に観客の心を掴む演出も巧みです。登場人物それぞれが、本番前にこれでもか!というほど困難な環境に置かれ(劇場が崩壊するシーンは圧倒されました)、そこから大逆転でハッピーエンドを迎えるエンディングも、予想通りとは言えかなりの爽快感です。日本語吹き替え版で観たのですが、スキマスイッチの大橋卓弥さんやMISIAさんといった主要キャラクターの歌唱力も素晴らしく、トータルとしての完成度が非常に高い作品です。

29 劇場公開時にかなり評判が高かった記憶があったの観ました。大泉洋さんのキャラクターは大好きだがトゥ―マッチな演技はちょっと、という評価だったのですが、この作品での抑制が効きつつメリハリのある演技はとても素晴らしいです。夫との離縁を求めて縁切り寺に駆け込む女性それぞれの事情が、サスペンスタッチで徐々に明らかにされ、しかもそれぞれの事情がとても切なく、作品世界にぐいぐいと引き込まれます。原作が井上ひさしさんの短編だけあって、ストーリー展開が非常に魅力的です。おそらくその短編のエピソードをできるだけ盛り込みたかったのだと思いますが、若干詰込み過ぎなところがあり、わかりにくくなっている点が残念でした。逆に言えば、見るたびに発見がありそうな繰り返し観たい作品であるとも言えます。
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みみずくは黄昏に飛びたつ

2017-05-13 11:05:23 | Weblog
■本
36 キラーストレス 心と体をどう守るか/NHKスペシャル取材班
37 みみずくは黄昏に飛びたつ/川上 未映子、村上 春樹
38 すべてはあの謎にむかって/川上 未映子

36 死の原因にもなり得るストレス、という意味の造語であるタイトル(「キラーストレス」)のテレビ番組(NHKスペシャル)の取材過程で得られた知識がまとめられた本です。最先端の研究の取材を通じて、ストレスが脳やホルモンなどに影響を与える(正確にはストレスが脳を反応させ、各臓器に影響を与えるホルモンを分泌し、その分泌が過度になると各臓器に悪影響が生じる)メカニズムをわかりやすく解説してくれます。最近はやりの「マインドフルネス」(「瞑想」のようなもの)や「コーピング」(「気晴らし」のようなもの)など、ストレスへの対処方法についても、研究成果に基づきその成果を科学的に説明されているので、安心して気軽に試してみたくなります。時には専門家に相談することの重要性にも触れられていて、意識や行動の変化につながるよい本だと思います。

37 村上春樹さんのファンでもあり、自身が芥川賞作家でもある川上未映子さんと村上春樹さんの4回にもわたる対談集です。1回目は村上さんが自身の小説家としての考え方を語った、「職業としての小説家」出版直後の対談なので、「創作」についての話題が、2回目以降は「騎士団長殺し」完成後の対談なので、この小説についての具体的な話題が中心となっています。と言っても、話題はいろんな方向に展開し、村上さん、川上さんの小説を読んでいるだけではわからないキャラクターが垣間見えてファンとしてはとても楽しめました。川上さんが、村上さんのインタビューなどの過去の発言を事細かに記憶されている一方で、村上さんは「騎士団長殺し」のキャラクターの名前を含め、過去の作品についてほとんど覚えてらっしゃらないところが面白かったです。それでも、村上さんはそれぞれの作品の核となる部分はきちんと記憶し、かつわかりやすく言語化されていて、プロの小説家としての凄みを感じました。

38 その川上未映子さんのエッセイ集です。東日本大震災直後に書かれたものが多く収録されていて、その影響が随所に見られますが、基本的には関西人らしくサービス精神旺盛な(自虐的な失敗談に思わず笑ってしまいます)楽しい本です。川上さんが妊娠されていた時期にも重なるので、出産や女性という性をテーマにしたものも多いです。村上春樹さんとの対談でも垣間見られたように、基本的には「死」を常に意識されている方だと思うのですが、その理解不能な「死」という現象への戸惑いや恐怖を、隠すことなく素直に語られているところに共感します。


■CD
21 達磨林檎/ゲスの極み乙女。

 もろもろの騒動により活動が休止されていた、「ゲスの極み乙女。」の最新作です。突如差し込まれる「ポエトリーリーディング」のような青臭い独白など、やりたい放題の内容で、楽曲に騒動の影響が受けていないところが頼もしいです。癖の強い歌詞以上に、メロディはどれも印象的で心地よく耳に残り、川谷絵音さんの迸りまくる才気が堪能できます。


■映画
27 みなさん、さようなら/監督 ドゥニ・アルカン

 「たそがれ清兵衛」がノミネートされた2003年のアカデミー外国語映画賞を取った作品です。「おくりびと」のような人の死を真っ向から取り上げた感動作かと思っていたのですが、意外と風刺の効いたコメディ作品でした。いかにもフランス人(実際には、カナダ、フランスの合作映画)らしい、どこか斜に構えた下ネタ満載のセリフまわしは観る人を選ぶと思いますが、子どもや友人に囲まれてこういう風に人生を終えられたらよいな、と思わせる作品です。個人的にはどのキャラクターにも今ひとつ共感できませんでしたが、その人を好きか嫌いかは別として、一人の人間の人生が終わるということが周囲にどのような影響を与えるか、ということが巧みに描かれていると思います。
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この世界の片隅に

2017-05-07 07:46:10 | Weblog
■本
33 ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領/アンドレス・ダンサ、エルネスト・トゥルボヴィッツ
34 世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ/くさば よしみ、中川 学
35 謎の会社、世界を変える。―エニグモの挑戦/須田 将啓、 田中 禎人

33 元ウルグアイ大統領ホセ・ムヒカさんを長年取材したジャーナリストによる本です。昨年に来日された際にホセ・ムヒカさんがマスコミに多く取り上げられていたので、興味を持って読みました。リオ会議での経済成長の限界を指摘し持続可能な生活を提案したスピーチが有名ですが、そのイメージとは異なった破天荒な側面も描かれていておもしろかったです。ゲリラ活動や長期にわたる収監生活を送った過去、そして、大統領在職期間中のアルゼンチン大統領への失言や大麻を合法化した政策など、単なる清貧な人格者に留まらない、癖が強い現実的でしたたかな政治家という側面も浮かび上がってきます。名を上げたリオ会議でのスピーチを振り返って、危機感を煽っただけで何一つ具体的な提案はしていない、と自己分析する冷静さも持ち合わせていて、生きていく上で本当に有益な「知」とはなにか、を自省する上でもとても有益な本だと思います。

34 そのホセ・ムヒカさんのリオ会議でのスピーチを絵本にした本です。子ども向けにわかりやすく要約されていて、絵も考えさせられる表現になっています。世界的な危機の原因は水不足や環境ではなく、物質的な豊かさを求めた我々の幸せの中身であり、見直すべきなのは「わたしたちの生き方」という主張はシンプルながらも強い力を持っています。大人はムヒカさん自身のスピーチ動画そのものを見る方をお勧めしますが、こどもと一緒に話し合う材料となる点ではよい本だと思います。

35 ITベンチャー企業エニグモ社のファウンダー達による立ち上げ時から一定の成果を上げるまでの期間を描いた自伝的な本です。ブロガーに企業のプレスリリースに基づき記事を書いてもらう「プレスブログ」で、私はこの会社のことを知ったので、海外商品等日本で手に入りにくい商品を購買代行するソーシャルコマースサービス「BUYMA」の方が主力サービスであることをこの本を読んで初めて知りました。また、「BUYMA」を普及させるための利用者側の発想から(そして、「BUYMA」の会員数が損益分岐点に達するまでの収入源として)、「プレスブログ」というサービスが生まれたこともわかり、会社全体としての事業バランスがよく考えられている点と構想を事業としてきちんと成立させている点に感心しました。会社設立から数年で書かれた本なので、振り返るには少し早すぎる気もしますが、日本の起業物語として興味深く読みました。この本が出版された2008年からずいぶん時間が経ってますので、後日談も読んでみたい気がします。


■映画
25 この世界の片隅に/監督 片渕須直
26 ワイルド・スピード SKY MISSION/監督 ジェームズ・ワン

25 かなり評判がよかったのでずっと観たいと思っていたのですが、やっと観ることができました。期待にたがわず、素晴らしい作品でした。舞台となった呉市や第二次世界大戦中の日本の風俗の細かい描写が印象的です。悲劇的な時代にもかかわらず、過度に悲観的にならず、淡々と時にユーモアすら交えて描かれる登場人物から、人間が本来持つ強さと気高さが伝わってきます。戦争当時も、当然つらいことが続いたと思いますが、悲しみだけでなく、愛情や嬉しさ、怒り、狡さなどさまざまな感情を人々が有していたであろうという、当たり前の事実をあらためて真正面から伝えているところが何より感動的です。その一方で、演出はかなり挑戦的で、ファンタジー的要素とリアルな描写を行ったり来たりしながら、当時の不安定な心理状況を巧みに描き出しています。声高に叫ばなくても、志が高ければ、伝えたいメッセージが観客に伝わるというお手本のような作品だと思います。

26 タイトル通り空から車が降ってくるという突拍子もない発想を実際に映像化した、ハリウッドアクション大作らしい頭をからっぽにして楽しめる作品です。細かい設定上のベタさや不整合を(21世紀に恋人が記憶喪失になって、都合のよいタイミングで記憶が戻るという設定を臆面もなく使うところが凄いです)力技でねじ伏せる勢い至上主義が痛快です。家族愛をテーマにしているところもベタですが、ターゲットにいかにも受けそうな要素を盛り込むマーケティング力にも長けています。原作漫画の映画化が横行するハリウッドで、オリジナルの脚本で次々と続編が制作されるだけあって、とてもよく考えられた作品だと思います。
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