本、CD、映画日記

目標は年間読書100冊。その記録と目標管理をかねたブログです。

バカと無知

2022-10-29 07:48:42 | Weblog
■本
87 バカと無知―人間、この不都合な生きもの―/橘 玲
88 世間ってなんだ/鴻上 尚史

87 心理学、脳科学、進化論などの最新の研究成果から、なかなか受け入れ難い、人間の思考の癖や行動原理をあぶり出す、「言ってはいけない」シリーズの3作目です。人間の「きれいごと」をあざ笑うような、橘玲さんの本は大好きなのですが、最近の暗い世相を反映してか、本作もその毒を笑いながら楽しむ、というよりも、人間の悲しい性に暗い気持ちになる読後感です。「正義は最大の娯楽である」や「すべての記憶は『偽物』である」など、不都合な真実が次々と紹介されています。特に、「無意識の差別」を計測する実験から、「黒人自身も黒人を差別している」という結果が導かれているということは(そこまで単純化して受け止めてよいかは精査する必要があるとも思いますが)、衝撃的でした。暗い気持ちになる面も多いですが、自分の思考の癖や歪みを理解することからしか、人間社会の様々な不都合を解消することはできない、というメッセージと読むこともでき、自分を相対化してとらえる視点を養う上では有益な本だと思います。

88 「人間ってなんだ」、「人生ってなんだ」に続く、鴻上尚史さんの長期連載エッセイ「ドン・キホーテのピアス」からテーマ別に再編集された本の三作目です。よくよく考えると、楽なビジネスに加担しているだけだという気もしますが、ファンなので投げ銭替わりに本作も読みました。今回は、鴻上さんのライフワークでもある「世間」がテーマなので、これまで繰り返し主張されてきた、「社会」と「世間」の違いや「同調圧力」に関する、世相を切るエッセイが堪能できます。基本的には不合理な「謎ルール」を排して、日本の「生きづらさ」を解消していこう、という熱い思いが充満しています。いじめや未成年飲酒による被害者のご家族が、自分と同じような思いをして欲しくない、という思いから学校や自治体などの管理強化を要請し、そのことにより、社会全体の窮屈さが増しているという状況に、個人的にも切ない思いをしておりますが、この不幸な連鎖を断ち切るために、若干の「いい加減さ」を許す寛容さが社会に必要なのだと思います。そのためには、ルール自体の合理性やその決められたプロセスの透明性を高めることが、得体のしれない「空気」に対抗するために重要なのだとも思いました。


■映画
64 るろうに剣心 最終章 The Beginning/監督 大友 啓史

 それなりに面白かったのですが、前作で完結していたので、やはり蛇足な印象が拭えませんでした。シリーズ最終作で前日譚を描いて一作目につなげ、シリーズ全体の構造を円環状にしたかったのだと思います。しかし、基本的に主人公の喪失と再生の物語なので、この構造だとシリーズが「喪失」で終わってしまうのが、個人的には残念でした。あと、予想通り、前作で見せ場が少なかった有村架純さん(ちなみに有村さんは好きな女優さんです)への配慮が全開で、シリーズの番外編という印象が強かった点も少し違和感を感じました。評価していたシリーズだったので、大団円で終わって欲しかったです。とはいえ、漫画原作映画化作品としては、最高級の傑作だと思います。
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沈黙のパレード

2022-10-22 07:01:24 | Weblog
■本
85 そんなとき隣に詩がいます~鴻上尚史が選ぶ谷川俊太郎の詩/谷川 俊太郎、 鴻上 尚史
86 知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門/安藤 なつ、 太田 差惠子

85 タイトル通り、鴻上尚史さんが「さみしくてたまらなくなったら」など、読者の状況別に適した、谷川俊太郎さんの詩を紹介される本です。谷川俊太郎さんの詩も鴻上尚史さんのエッセイも好きなので読みました。意外と下ネタやエロティックな詩も多く、「かなしみ」など人生の秘密を教えてくれるような詩が多い印象だったので、新たな発見がありました(下ネタやエロも人生の秘密なのかもしれませんが)。お二人の交流のエピソードなど鴻上さんの解説ももちろん興味深く読みました。ただ、詩って自分のペースで繰り返し味合うように読むべきものですね。楽しい読書体験ではあったものの、鴻上さんのペースで詩を読んでいるような印象が残り、完全に谷川さんの詩を堪能したかというと、たぶん違うと思います(もちろん、鴻上さんはそれをわかった上で、あえて、谷川俊太郎さんの詩を多くの人に伝えたい、新たな魅力を伝えたい、という意図でこの本を編まれたのだと思いますが)。もう一度自分のペースで詩だけゆっくり味わいたいと思います。

86 幸いなことに母親や義理の両親は、まだ、介護の心配はありませんが、先々に備えて知識として知っておきたかったのと、メイプル超合金の安藤なつさんと介護という組み合わせが新鮮(中学生のときから親戚が運営されている介護施設でボランティアをされていたそうです)だったので読みました。具体的に各種制度の内容や申請書の書き方まで教えてくれるのでとても参考になりました。地域包括支援センターといった窓口や、ケアマネージャーという職種についても理解が進みました。親の介護を「マネジメント」するという考え方や、各家庭の事情に応じて「オーダーメイドで介護を作り上げていく」という視点も新鮮でした。まさに、知識は身を救うことを認識させられる本です。


■映画
61 るろうに剣心 最終章 The Final/監督 大友 啓史
62 沈黙のパレード/監督  西谷 弘
63 ボス・ベイビー ファミリー・ミッション/監督 トム・マクグラス

61 少年ジャンプ作品の実写映画化としては「るろうに剣心」シリーズはよくできていると思います。本作も原作をリスペクトしつつ、アクション、ストーリーとも映画向けに程よい味付けがなされていて面白かったです。また、シリーズ4作目にもかかわらず、本作だけを観ても楽しめる内容だったのも好感が持てました。ただ、豪華俳優陣への配慮のためか、それぞれのキャラクターの見せ場が妙に不自然で、てんこ盛り感は否めなかったです。それに、本作でほぼ完結しているので、2部作とされる次の作品の内容が少し不安です(本作で出番の少なかった有村架純さんへの配慮のような気もします)。とはいえ、限られた日本映画の予算の中で、ダイナミックな映像を実現した、良質のアクション映画だと思います。

62 あまり期待せず観に行ったのですが、面白かったです。冒頭からテンポよく話が進み、次々と伏線を回収しつつ、二転三転四転する推理が心地よかったです。さすが、東野圭吾さん原作作品の映画化です。福山雅治さんは有名になり過ぎたキャラクターを誇張し過ぎることなく、絶妙のさじ加減で演じられています。柴咲コウさんの40歳を過ぎての、この瑞々しさにも唸らされました。その他のキャラクターも実力派俳優陣の素晴らしい演技もあり、実に魅力的でした。悲劇であるにもかかわらず、後味が良い点も好ましいです。先の読めない、想像の斜め上を行く展開が存分に楽しめる作品でした。

63 前作が結構面白かったので観ましたが、こちらは失敗作とは言えないまでも、続編の罠にはまった印象の作品です。赤ちゃんが大人の見ていないところでは実は知能が発達していて会社を作っている、というシンプルな発想がこの作品のキモなのに、前作でこのアイデアに基づくエピソードをやりつくしてしまったためか、妙に複雑なこじつけが多く、なかなか素直に作品の世界観に入っていけませんでした。前作は主人公の空想とリアルとの線引きがあいまいだったところも巧みでしたが、本作は完全にリアルとして描かれている点(なので、突拍子もない世界観に違和感しかありません)も、評価できません。これなら続編ではなく、別作品とした方がよかったと思います。CGで描く赤ちゃんの可愛さや独特の世界観の描写は面白いので残念でした。制作側の混乱がそのまま観客にも伝わってきたかのような、もやもやとする作品です。
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この素晴らしき世界

2022-10-15 07:08:40 | Weblog
■本
83 この素晴らしき世界/東野 幸治
84 50歳で100km走る!/鏑木 毅

83 東野幸治さんが吉本興業の芸人さんとのエピソードについて書かれた本です。テレビなどでの東野さんのフリートークと同様に、淡々と愛情たっぷりに毒づく表現が面白いです。取り扱う芸人さんに応じて視点を変えているところも絶妙で、キングコング西野さんなど一定の成功をおさめている人に対しては褒め殺し、三浦マイルドさんなど努力はしているものの伸び悩んでいる人には笑いに対する滑稽な情熱を応援し、宮川大助・花子さんのように地位を築かれた大御所に対してはその芸に対する執念に尊敬の念を隠していません。基本的には人間の狂気やダメさ加減に対する敬意(それがタイトルの「この素晴らしき世界」にも表れています)が背景にありますので、辛辣過ぎるイジリも不思議と読んでいて嫌な気持ちになりません。各エピソードの冒頭にその芸人さんについての説明が簡潔かつ的確になされているので、お笑いに詳しくない人も楽しんで読めると思います(私はこの本に収録されている芸人さんは全員存じ上げていましたが)。自分も人間味を全開に出して生きていこう、という妙にポジティブな気分になる良い本です。

84 タイトル通り50歳を過ぎても100kmを走るプロトレイルランナーが書かれた本です。100kmは無理ですが、コロナ後久しぶりにフルマラソンを走るので読みました。50歳を過ぎて衰える筋肉(瞬間的に強い力を生み出す「速筋」が先に衰えるそうです)の強化方法が書かれていて参考になりました。やはり、私が苦手な、「坂道ダッシュ」などの高負荷運動やストレッチが必要だということがよくわかりました。練習時は走る距離よりも時間が大切という話は、なかなか想定タイムで走り切れず自信喪失気味な私に勇気を与えてくれました。とりあえず、歩いてもよいので、想定時間を止まらず進み続けることから始めようと思いました。筆者のトレイルランに対する熱い思いが全編から伝わってきます。フルマラソンも完走できるかどうかわからない状況ですので、すぐには無理ですが、そちらをクリアできれば、100kmを視野に入れた練習にも取り組んでみたいと思いました。


■映画
60 八日目の蟬/監督 成島 出

 不倫相手の子どもを誘拐した女性と、その誘拐された女の子の成長後の姿を描いた大ヒット小説の映画化作品です。いつか観ようと思いつつ、重そうなテーマなので、躊躇していたまま公開から10年以上経っていました。ヒリヒリするような痛みと緊張感が全編に漂っていますが、時折挿入される疑似親子の心の交流の場面が切なくも優しく、後味もよい好感の持てる力作です。誘拐犯を演じた永作博美さんの熱演と素朴な小豆島の風景が印象に残ります。同じく逃亡劇の、吉田修一さん原作の映画「悪人」(こちらも深津絵里さんの切ない演技が心に残ります)と似たようなテイストの作品だと思いました。個人的には、人間という存在の複雑さをさらに一捻りした「悪人」の方が好みですが、こちらは「悪」というよりも人間の「弱さ」とそこから反転した「強さ」が見事に描かれていると思いました。
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サッカー店長の戦術入門

2022-10-08 07:03:10 | Weblog
■本
81 サッカー店長の戦術入門/龍岡 歩
82 海獣学者、クジラを解剖する。/田島 木綿子

81 もうすぐ始まるサッカーW杯の予習も兼ねて読みましたが、読み物として抜群に面白いです。ビジネスにも応用できそうな、戦略論、戦術論が満載で、あっという間に読み終わりました。著者の瀧岡さんは、サッカーのプレイ経験ゼロですが、海外も含めたサッカー観戦にはまり詳しくなったため、そのブログが評価され、Jリーグのサッカー分析官になった、という経歴の持ち主で、テレビ番組「激レアさんを連れてきた」でもその存在が紹介されていて、関心を持っていました。副題の『「ポジショナル」vs「ストーミング」の未来』の通り、ペップ・グアルディオラが考案した「ポジショナル」(ボールを支配下に置くことで相手を支配し、ひいては試合そのものを支配しようという考え方)とその対抗として、ユルゲン・クロップが編み出した「ストーミング」(前線からのプレスにより混沌を生み出し、フィジカルの優位性で試合そのものを支配しようという考え方)とを対比させることにより、それぞれの戦術に対する対策や融合を踏まえつつ、その発展の流れを熱くかつわかりやすく説明してくれています。個人的には、岡崎慎司選手も在籍して奇跡のプレミア・リーグ優勝を果たした当時のレスター・シティの「弱者の兵法」にしびれました。当時流行していた「ポジショナル」戦術に適した選手は移籍市場で高価だったため、あえて逆張りで足元の技術は劣るが屈強で無骨なGK、DFによるローラインのディフェンスを採用し、運動量に特化した選手と、逆に技術は優れているが、規律的なプレーを求める強豪では嫌われるエゴイスティックなテクニシャンを中盤に配し、さらに点取り屋のFWを競合しようがない6部リーグから獲得し、その相棒に献身的な岡崎を起用するという、戦略・戦術と各選手の個性との適応度に感心しました。サッカーが高度に知的なスポーツであることが再認識できたので、今からW杯で最新の戦術を観るのが楽しみです。

82 たまにはなじみのない分野の本を読もうと思い手に取りました。「ストランディング」(クジラなどの海洋生物が、浅瀬で座礁したり、海岸に打ち上げられる現象)の経緯を、その死体を解剖することにより究明しようとされている海獣学者さんが、自らの研究生活について書かれた本です。巨大なクジラなどを解剖する際の苦労や、各種自治体や水族館、博物館などの関係者との交流の描写が興味深いです。もちろん、イルカやアザラシといった、水族館でおなじみの海の哺乳類の生態についての解説も充実しています。海洋プラスティックがストランディングに影響を与えている可能性など、人間が原因による海の汚染の様々な悪影響についての説明も、考えさせられることが多いです。何より田島さんが、海の哺乳類と解剖学者という仕事が大好きなことが伝わってきて好感が持てます。結局、自分の好きなことに取り組むのが一番幸せ、といういつもの結論に至りました。


■映画
59 北北西に進路を取れ/監督 アルフレッド・ヒッチコック

 ヒッチコック監督の代表作の一つとされる作品です。有名なタイトルになじみがあったので、既に観たと思っていましたが、意外にも観ていませんでした(もしくは観たことを忘れているか)。ヒッチコック監督らしい、不条理な災難に巻き込まれる主人公を描いた作品ですが、ケーリー・グラントのキャラクターもあってか意外とコミカルで悲壮感もありません。おまけに、若い魅力的な謎の美女に好意を持たれるという、中年男性の妄想を絵にかいたような展開となります。このような安心感がベースにあるので、次々と主人公に起こる事件についても、客観的にその成り行きを楽しむことができます。サスペンスのさじ加減も絶妙で、テーマパークの人気アトラクションを楽しんでいるかのような、安全な環境下で疑似的なスリルを体験することができます。ヒッチコック監督作品の中でも、万人受けするエンターテイメント性の高い作品だと思います。
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3時10分、決断のとき

2022-10-01 07:08:52 | Weblog
■本
78 オードリー・タン 自由への手紙/クーリエ・ジャポン編集チーム
79 人生ってなんだ /鴻上 尚史
80 元サラリーマンの精神科医が教える 働く人のためのメンタルヘルス術/尾林 誉史

78 コロナ禍でのデジタル技術を活用したスムーズなマスクの配布などで有名になった、台湾のデジタル担当大臣、オードリー・タンさんへのインタビューを書籍にしたものです。メディアなどでの彼女の発言の深い考察と射程の広さに感心していたので読みました。タイトル通り、格差、ジェンダーなど、さまざまな固定観念や権威から自由になり、個々人が自分らしく生きていくことの大切さと、その方法論について語られています。天才ってこういう人のことを言うのですね。しかも、その溢れんばかりの才能を自分のためにではなく、社会に還元するために用いられているところが素晴らしいと思います。さまざまな意思決定に至る過程の「透明性」を強く意識されている点も印象に残りました。そして、その自由に対する障壁となる制約に対して、制度改革や技術革新により、改善策を迅速に社会実装にまで落とし込まれている点が凄いと思います。さらに、その急激な変化を受け入れる台湾という国家(とあえて言います)の柔軟さ、したたかさにも感心しました。日本人として、いろいろと見習うべき点の多い良い本です。

79 少し前に読んだ「人間ってなんだ」に続く、鴻上尚史さんの長期連載エッセイ「ドン・キホーテのピアス」からテーマ別に再編集された本の二作目です。前作と比べると、読んだことのあるものが多かったですし、人間のダメな部分、俗な部分に焦点を当てたエッセイが多い気がしました。1990年代後半の比較的古いエッセイが多く取り上げられていたからかもしれません(そのころは私も鴻上さんのエッセイをリアルタイムでフォローしていましたし、日本はバルブは崩壊していましたが、まだ、明るい雰囲気が残っていたので、鴻上さんのエッセイのタッチもよりコミカルだった記憶があります)。逆に言うと、失敗を笑い飛ばせるだけの余裕が日本社会になくなりつつあるのかもしれません。

80 東大卒でリクルートに就職後、産業医の対応への疑問から、一念発起して自ら精神科医になられた筆者が書かれた、メンタルヘルス術です。筆者の経歴だけを見てもおもしろそうです。類似書と書かれている内容に大きな違いはありませんが、精神科医、産業医との接し方について紙面が多く割かれている点と、自らのサラリーマン経験から、働く人に対して寄り添う姿勢が印象的です。メンタルダウンしている時に、病院の先生にいろいろと意見するのは難しいとは思いますが、医師側もたくさんの患者を抱えて忙殺されている状況では、そのような医師側の状況も踏まえた、患者側の接し方も必要なのだと感じました。そういう意味では、比較的客観的に事態を捉えることができ、医師に意見できるだけのエネルギーもある、患者のご家族の方に多く読まれるべき本なのかもしれません。予防的に読むにも適した本だと思います。


■映画
57 3時10分、決断のとき/監督 ジェームズ・マンゴールド
58 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ/監督 木下 麦

57 先の読めない展開と数多くの魅力的なキャラクターで、抜群に面白い西部劇でした。西部劇といっても2007年に制作された作品ですので、マッチョなだけの世界観ではなく、家族を支える家長としての「男らしさ」についての悩みや、「生きる目的」などの現代的な葛藤も取り上げられていて深みがあります。個人的には、狂気的なまでに、主要キャラクターが「筋を通す」ことにこだわっている点に共感しました。西部の非道な無法者を演じる、主演のラッセル・クロウの存在感も素晴らしいですが、その片腕的存在役のベン・フォスターの鬼気迫る演技には圧倒されました。この無法者たちに立ち向かう、物静かな牧場主を演じたクリスチャン・ベールも、さすがの安定感です。西部劇という古いフォーマットでも、まだこれだけの新しいことができるのだ、ということを示した素晴らしい作品です。観客の期待を巧みに微妙にずらした脚本も、この作品の成功に大いに貢献しています。日本ではあまり知られていない作品ですが、お勧めです。

58 テレビアニメ版は、これまた、先の読めない展開と数多くの魅力的なキャラクター、そして、巧みな伏線回収と大どんでん返しの見事な着地で、大好きだった作品です。映画版は、テレビ版を異なる登場人物たち(このキャラクターの位置づけとその必然性が今ひとつよくわかりませんでした)の視点からとらえなおしたダイジェストと、テレビ版で少しだけ残された伏線の回収というもので、テレビ版を熱心に観た人にとっても、映画版で初めて観た人にとっても不親切な、少し残念な作品となっていました。youtubeで公開されていたオーディオドラマを聴くと、もう少し映画版の輪郭がくっきりするという話なので、そちらも聴いてみたいとは思いますが、お金を払って観に来る観客に対して、誠意に欠けると言わざるを得ません。作品群トータルとしては、オリジナリティー溢れる世界観やメディアミックス的な展開にチャレンジした志の高さは評価したいと思いますが、映画版単体では、評価が低くならざるを得ないと思います。
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